少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
遅くになりまして。
大変でした。
スランプですか、滑ります。
クリスマス。
世間一般では、サンタクロースがプレゼントを配るとか、キリストの生誕を祝うとか言われる日。
多くの日本人にとっては、恋人同士で出かけるとか、聖夜を祝うとか色々といわれているが。
艦娘にとっても同じようなこと。
船ではなく人の身となった艦娘達でも、こういった催しものは大好物。
戦時下だからと倹約していたとしても、この日ばかりは大いに騒いで楽しんで喜ぶべき。
特に、『貴方達らしく生きなさい』と普段から言っているここでは。
けれど、何事にも『ほどほど』が一番なのは、多くの人が知っていることでもある。
普段が抑え役に回っている人が、騒ぐ側に回った時の被害は、とても怖いものがあるが。
今回は、そういった時のこと。
話は、八丈島鎮守府時代にまで戻りまする。
「は? 馬鹿なことを言ってないで仕事に戻りなさい」
大淀は、一瞬、相手が誰か解らなかった。
冷たい顔をしていることもある。
怒った顔をしていることもある。
けれど、まるで『興味がない』といった顔をしたことは、一度もない。
少なくとも、ここ―八丈島鎮守府の艦娘に対して、向けたことはない。
提督代行ホシノ・ルリは、冷たいようでとても優しい人物だったはずだ。
なのに、だ。
彼女は今、人形のように感情のない顔で、大淀を見ていた。
どうしてこうなったのかを、彼女は思い出す。
十二月に差し掛かった頃、誰ともなくクリスマスの話題になった。
おいしい料理に綺麗な飾り、パーティにはお酒も出る。
豪華絢爛なお祭り騒ぎを、艦娘達は次第に思い浮かべていった。
それに、ここは八丈島鎮守府。
普段から小さなことでも豪華にしてしまうバッタ達や、楽しいこと大好きなテラの影響で、余計に期待は膨らんでいく。
しかし、ルリからはもちろん、テラからもそんな話は出てこなかった。
十二月に入り、一週目が過ぎたあたりから、艦娘達は騒ぎ始める。
話が出てこない。
企画書類もない。
どうしたのだろう、と。
二週目に突入したある日、大淀は執務の間に質問することにした。
「そういえば、提督。クリスマスはどうしますか?」
話を振られた彼女は、少しだけ止まった後、首を傾げる。
「どう、とは?」
「え? クリスマス・パーティのことですよ」
「はい? クリスマスにお祝い事ですか? パーティの予定なんて入れていませんよ」
スケジュールを表示させて答えるルリに、大淀は『え』と疑問を返す。
「提督、クリスマスに何もしないんですか?」
「しないと聞かれても。そもそも、私はクリスチャンではないので、キリストの生誕祭を祝うことはありませんよ」
「え? え? でも、クリスマスは皆でパーティするのではないのですか?」
困惑する大淀に、ルリは真顔で質問してきた。
「クリスチャンがいたとは初耳ですね、誰ですか? 予定を開けて置きませんと」
「いえいえ、普通にクリスマスはパーティをするのが一般的なので。ここでもするのではと考えていたのですが」
言いながら、大淀は違和感を覚えた。どこかおかしい、と感じる。
彼女は嘘をついている様子はない、騙しているわけでもない。
本気で、『クリスマスにパーティをするのはクリスチャンのみ』と考えている。
ひょっとして自分達の感覚がおかしいのだろうか。
世間で考えられているような、クリスマス・パーティなどは本当はないのだろうか。
米国の文化だから、日本では一般化していないのか。
いや、海軍でも企画されていることがあるから、間違いではない。
そもそも、英国海軍を模範とした日本帝国海軍だから、クリスマス・パーティは行っていたことがあった。
「はぁ、そうなんですか。けれど、ここは鎮守府なのでしませんよ。それより、大淀、一月一日からの勤務体制ですが・・・・・」
「え?! お正月もですか?!」
「は? 何を当たり前のことを言っているのですか? 私達は戦争をしているのですよ、戦争に正月もお盆も年末もありません」
はっきりと言い切るルリは、何処か不機嫌そうだった。
何かが違っていないか、それもと自分が間違っているのか。
葛藤し始めた大淀に、ルリは目線を投げた後、興味を無くしたようにスケジュールに顔をむけた。
しばらく空気が冷たく凍りついたような執務室に、時計の音だけが響いてくる。
二人は声を出さないまま時間だけが過ぎていき、やがて静寂を破るようにノックの音がした。
「どうぞ」
「失礼する、提督・・・・・・と、何かあったか?」
入ってきた長門は、すぐに執務室の空気が悪いことに気づく。
「特には。大淀がクリスマス・パーティについて話をしたくらいです」
「ああ、そうか。ちょうど良かった、提督、その話なのだが」
冷たい空気を気にしつつも、長門は話を続けた。
「駆逐艦達から言われたのだが、どのような規模でやるのだろうか?」
「は? やりませんよ。クリスチャンじゃないのですから」
「何? しかし、だ。楽しみにしているものもいるのだから、ここはパーティをやってもらえないだろうか?」
「何故ですか? 今は戦時中ですよ? 敵がいつ来るか解らないのに、パーティをしろ、と?」
少しだけ、ルリの眉が上がる。
明らかに不機嫌な彼女に、長門は疑問を顔に浮かべた。
おかしい、彼女はこんなに話が解らない人物だっただろうか。
普段なら、『仕方ありませんね。なら、少し様子を見ながらやってみましょうか』と乗り気になってくれるはずなのに。
今は、完全に拒否の姿勢しか見られない。
「だが、戦意高揚のためにも」
「・・・・・・・何か勘違いをしているようですね。貴方達は誰の艦娘であり、誰の駒ですか?」
一気に室温が下がった気がした。
目の前にいる人物が、何時ものホシノ・ルリだとは、長門も大淀も思えなかった。
冷たく感情のない、まるで人形のような氷の像。
そういった表現がピタリと当てはまるほど、今の提督代行は怖かった。
「だが、たまに騒いでもいいのではないか?」
しかし、だ。長門としても、皆が楽しみにしていることを止められない。
自分も楽しみたいし、これから先の苦難に対して、今は仲間と語り合いたいから。
「は? 馬鹿なことを言ってないで仕事に戻りなさい」
対してルリの返答は、一蹴。
一切の妥協もせずの拒否に、二人は一礼して退出した。
話は、鎮守府中に広まった。
普段から冷たい言動が多いルリだったが、本当は優しいことを知っていた艦娘達は、『そんなバカな』と耳を疑ったという。
「本当なんですか、長門?」
話を聞きつけてやってきた吹雪が、実際に相対した彼女に訊く。
「ああ」
力なく項垂れる彼女に、隣からさっと紅茶が差し出された。
「美味しいわよ。これでも飲んで落ち着いて。状況を最初から教えて」
「教えてといわれても」
紅茶のカップを持ち上げ、一口だけ飲む。
ほっと安心する味なのだが、今は長門の心を癒してくれない。
「話はすべてだ。他に何もない」
「怒っていた理由が、他になかったのね?」
暁の問いに、長門は小さく頷く。
紅茶に映った顔が今にも泣きそうなのは、きっと『裏切られた』という想いが強いためか。
彼女なら自分達のことを知っていてくれる。
彼女なら自分達のことを、いつも思ってくれる。
「無意識にそう信じてしまっていたのだろうか」
ポツリとこぼれた言葉に、長門の悲しみがこもっていた。
「あの提督代行が?」
「あまりにまわりが提督と呼ぶから、怒っていたとか?」
「まさか、そんな些細なことで怒る・・・・・・かもしれません」
吹雪と暁は、同時にゾッとした。
提督至上主義、とは艦娘を皮肉で言ったことだが、これが最もピタリと当てはまるのが、ホシノ・ルリだ。
テラ・エーテル至上主義。彼さえよければ世界の一つや二つ、簡単に消してしまう。
大げさでもなければ、皮肉でさえもない。
本当にテラのためなら、国や大陸なんて片手間に消すだろう。
まるで道端に落ちていた石ころを蹴とばす気持ちで。
「怒っていたとしても、あそこまで冷たい態度をとるでしょうか?」
大淀の言葉に、吹雪と暁は『否』と答える。
八丈島鎮守府で、ルリと最も付き合いが古いのは吹雪と暁だ。
後から合流した大淀や間宮、明石などよりも最も古い。
八丈島に鎮守府を建設中から、施設が完成する前に配属になった二人にとって、ルリは年の離れた姉的存在だった。
冷たいことは言う、きついことも言う、理不尽だと思ったことも多々。
けれど、絶対にこちらを見捨てない。
何が何でも助ける、楽しませる、救いだす。
きつい言葉も冷たい言葉も、全部がこちらを思って言ってくれるのが、彼女という存在だ。
だからこそ、今の話はとても違和感を感じてしまう。
もし仮に、テラ関係で何かあったとしても、理由も説明せずに拒否することは、絶対にない。
「予想していても時間の無駄ですね、私が行ってきます」
「そうね、私も行くわ」
吹雪と暁はそのまま執務室へと向かったが、返答は変わらなかった。
「鎮守府最古参の二人が、何を血迷っているのですか? 私たちは最前線にいるのですよ? 敵がいつ来るか解らない状況で、パーティがしたい? 馬鹿なことを言っている暇があるなら、訓練してなさい」
ああ、ダメだ、これは。
二人はそう確信した。
「あの、提督?」
「代行です。まったく、貴方達は。そうやって間違えるから、誰に仕えているか見失うんです。吹雪、全員を地獄の特訓につき落としなさい。睡眠時間も削って結構」
「いくらなんでもそれは、レディーらしくないわ」
「だからなんです、暁? 口応えしていいと誰が許しました?」
バチリと、火花が散る。
室内の空気が険悪になる中、先に息を吐いたのはルリだった。
「いいでしょう。そんなに反抗したいなら、してなさい。二人に独房へ入るように命じます」
「提督代行?」
「本気なの?」
「ええ、従わない駒は必要ないので。見せしめにはいいでしょう?」
冷たく笑うルリに、二人は無言で両手を上げた。
吹雪と暁が営倉入りになったことは、全員に連絡された。
次に何かしたら、その者も同罪にする、といったメッセージ付きで。
横暴だ。これでは独裁ではないか、と大騒ぎする艦娘はいない。
良くも悪くも、艦娘は提督に従ってしまう。
いくらルリが代行とはいえ、普段から鎮守府の運営をしているのは彼女。
その上で、ルリのことを提督と思っている艦娘が多いため、命令に逆らうことはない。
けれど、不満はたまる。
一部の艦娘がテラに話をしに行ったのだが、彼は不在。
鎮守府の何処にいるか解らず、探しても見つからない。
悪いことに、その話はルリの耳に入り、探していた艦娘達も自室での謹慎処分が言い渡された。
不毛だ、理不尽だ、と次第に言いだす艦娘達。
しかし、ルリは取り合わない。
やがて、事態は最悪の状況に突入。
十二月二十三日のこと。
『最近、私の命令に不服な艦娘が多いので、全員を自室での謹慎とします。後で処分を言い渡します』
八丈島鎮守府でも初、全国の鎮守府でも初めての、艦娘全員の謹慎処分。
意見など言えず、連絡も取りえないまま、一夜がすぎていった。
十二月二十四日。
月の初めにはパーティはどうやってやるのだろう、と楽しみにしていた艦娘達は、最悪の気分でこの日を迎えることになった。
誰もが自室にいて、ただ時間を過ごしている。
窓もすべてが封鎖され、外の景色などが見えない中で、通信機が鳴る。
『全艦娘へ処分を言い渡します。全員、艤装及び制服を凍結。最後なのでドレスを着て集合しなさい』
八丈島鎮守府では、私服はすべて個人の給金で買っているが、支給されるものが三つある。
一つ目が制服、艤装と一緒に渡されるもので、大抵の任務中はこれを着ている。
二つ目が、振袖。一人一人に対してバッタ達が真剣に作ったもので、艶やかな色合いの和服だ。
三つ目が、ドレス。パーティなどに参加できるように一人つき、必ず一着は支給される。
誰もが来たことがないこれを着てこいと言われ、全員が悲哀を浮かべたまま着替えて廊下に出ていく。
泣き声や絶望、あるいは怒りの声さえ上がる中、艦娘達は処刑場へとただ進んでいく。
辿り着いたのは、鎮守府の中央にある広間。
周り中を黒い幕が覆い、通路も黒い壁で閉鎖されたここで、ルリが壇上の上から見下ろしていた。
整列し顔を上げた艦娘達。
一人一人の顔を見回した後、ルリは小さく咳を一つ。
「では、処分を言い渡します。全員ここで、『パーティに殺されなさい』以上」
『ピ!!!! メリークリスマスです!!!』
怒号のようなバッタ達の号令を皮切りに、周りの黒い幕が取り払われ、鎮守府の光景が見えてきた。
クリスマス装飾がされた建物。
ルリの後ろには五メートルを超えるクリスマス・ツリー。
テーブルに山のように並べられた料理。
そして、空から降ってくる雪。
「メリークリスマス。ちなみに、私はサプライズが大好きです」
「提督!!!!!」
「いつも私が抑え役なんて、嫌です。たまにははっちゃけたいのです。さあ、今日から三日間・・・・・・・『誰一人として休ませないのでそのつもりで』」
二コリと笑うルリは、とても暖かい笑顔だったのだが、何故かとても怖いものに見えたのだった。
こうして、八丈島鎮守府の『三日間耐久クリスマス・パーティ』は幕を上げたという。
「本当に怖かったんですから!!」
「本当にだ!!」
「はいはい、ごめんなさい、大淀、長門。でも、サプライズはまず相手に知られないようにしないと」
「限度がありますよ!!」
泣いている大淀と、涙を我慢して震える長門。
「え? 吹雪さんと暁さんは解ったの?」
「もちろん」
「でも、私たちが戻ると話が広まるから営倉入りよ」
「なんて理不尽」
「オリョクルのスイート・ルームに」
「なんて理不尽?!」
驚愕の事実に艦娘から別の声が上がったり。
「でも、全員がパーティに参加して休んで大丈夫かな?」
誰かの疑問の声に、ルリは少し困った顔で答えた。
艦娘は全員いる。妖精達も全員いる。テラの艤装の妖精達もいる。
もし深海棲艦が攻め込んできたら、どうするのか、と。
「それは大丈夫です。ええ、本当に、大丈夫です」
「提督?」
「・・・・・・・はぁしばらく動かさないと錆びるなんて、誰が教えたのやら」
溜息をつくルリに、艦娘達は首をかしげたのだった。
同時刻、理不尽だと思っている集団がいた。
砲弾は通じない。
魚雷は直撃しても汚れもしない。
接近しても瞬殺。
海中を進もうと、斬り裂かれる。
本当に理不尽だと、深海棲艦達は思った。
「ん、そろそろパーティが始まった頃か」
白銀の鎧をまとったテラは、鎮守府の方を振り返る。
二メートルを超す巨大な剣を両手に持ち、鎧の背中からせり出した砲身を振り回す彼は、笑顔のままイ級を細切れにした。
『我が君、敵集団が撤退を開始しましたが、追撃は?』
「ん~~~止めておくか。領海に入った敵だけ排除で」
『御意』
答える影が、白い鎧を纏った騎士。
右手に光で編まれた剣を、左手に楯に『血の十字架』が描かれたものを。
「さあって、パーティが終わるまでここは通さないからな」
高らかに宣言するテラと、彼に従う近衛騎士達。
L.E.D・ミラージュを従えた彼は、不敵に笑っていた。
普段、冷静な子が騒ぎだすと、周り中が大変な目にあう、というお話。
蛇足。
クリスマス・プレゼントは、夜の間にテラがすべて枕もとに置きました。
外伝です。
本編とは関係ありません。
正月編もあります。