少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
一話、抜けてました。
これが本当の落とし弾。
迷走中ですよ?
その日、テラ・エーテルは何時も通りに外洋に出るつもりでいた。
最近、ルリの監視が厳しくなってきたなぁなどと思って部屋から出た彼は、一歩目で『異空間』に落ちた。
「ちょ?!」
落下する体、上も下もない空間の中に放り出された彼は、慌てて踏みとどまる。
薄い白い空間、まるで宇宙に光を満たしたような場所に、とても見覚えはあった。
『ヴァルハラ』のある異空間。まさか、あそこに入れるのは許可がある人物だけ。
葵やクルルが呼び込んだのか、それともエミリアが。
思案する彼の視界に、『女性』が入ってきた。
「久しぶりですね、愚息」
漆黒の布地に赤い睡蓮と百合、それに金色の三日月の刺繍。
帯は薄紅色に金糸を織り込んだものに、空色の紐を通した花魁スタイル。
夜の闇のような長い髪と、血のように赤い瞳。
見た目、どう上に見たとしても十八か二十歳くらい。
実際年齢は怖くて聞けない、テラの中でも上から数えた方が早い強者。
静華・朝宮・エーテル。
「は、母上?」
「ええ、どうしました、母の顔を見忘れましたか? それとも、予想外でしたか? 母が・・・・・・」
瞬きをしただけだった。自然と瞼を下ろした僅かコンマ以下の時間で、彼女は自分の懐にいた。
「ここにいるのが理解できない、と?」
衝撃が腹部から走る。
軽く手を添えた程度で、人体を吹き飛ばすのは彼女くらいだ。
胃の中が暴れる。
外部よりも内部へのダメージを優先した一撃だというのに、人体をまるでボールのように飛ばす。
「あらあら、優しいのですね、愚息。まさか、この母の一撃を受けてくれるなど。嬉しくて怒りを覚えますよ」
「言っている意味が、違うようですけど」
両足に力を込めて、虚空を踏みしめ止まる。
ダメージが大きい、対して力を込めていないのに、こんな一撃を入れてくるなんて。
さすが、『天魔の一族最後の純潔の姫』か。
で、自分の最も怖い母、と。
「そうでしょうか? そうなのでしょうね・・・・・ところで、テラ。貴方は自分がかなり馬鹿なことをしている自覚がありますか?」
「えっと、何の話なのやら、ですが」
「あら、貴方に自覚がないと。困りましたね」
軽やかに笑う女性は、少女のように見えなくもない。
しかし、だ。その瞳は決して笑っていない。
「自覚がないのでしたら、自覚するまで叩き伏せるのみです」
知覚できなかった。
気づいたら周り中に赤い槍が突き刺さっていた。
上から、それとも下から。まるで認識できない攻撃に、テラは絶叫と共に吐き出す。
「飲み干せ!!!
テラの左腕から血が霞のように吹き出し、双頭の蛇が踊る。
大きく開いた口で周りの空間を食い破る
「第四真祖の眷獣ですね。貴方はこの力を持ちながら、まったく使いこなせていないようですが」
右手の一閃で眷獣を倒す。
一撃ってなんですか、それは。テラは叫びたかったが、口を閉じる。
叫んでいる暇があるなら、次の攻撃を仕掛けないと。
瞬殺される。
「ああ、そうですか!!」
右手に雷光を集中。空間を巻き込むように生み出された雷光は、やがて一つの槍となる。
「巨神ころし、でしたか。確か、ネギ・スプリングフィールドが使っていた魔法ですね」
左手を迷いなく突っ込む静華。
たったそれだけで、魔法が霧散。
「冗談でしょう?」
「まったく愚息ですね、貴方は。本当に何をしていたのか」
呆れる静華は、右手をゆっくりと振り下ろした。
衝撃は、呆れるほど小さかったが、心にはとても響いた。
「いいですか、テラ。貴方が女性を何人囲おうと、私は口出しするつもりはありません。けれど、女性に対して好意も向けず、放置するのはいささかどころではなく、不義理です」
クドクドと説教を始める静華。
空中に正坐するテラ。
「アイリスから話を聞いた時は、思わず空間を裁断してしまいました。空間修復にバトラーやジャンヌが来るほどでしたよ」
「はぁ」
「貴方としては自由気ままに生きているつもりなのでしょうが、彼女達とっては苦痛でしかない。いいですね、テラ? はーれむを作るなとはいいませんが、囲った女性を幸せにできないのなら、今すぐに止めなさい」
「解りました」
「よろしい。母からの話は以上です。ああ、それとルリにも話がありますので」
「え?」
「ちょっと寝ていなさい」
次の一撃は、回避も防御もできず、テラの意識を刈り取った。
珍しい人からのいきなりの通信は、ルリにとって心臓に悪い。
『久しぶりですね、ルリ』
「静華さん?!」
思わずイスから飛び上がらんばかりに驚いた。
今、大淀が席を外していて、本当に良かった。こんな醜態を見せたら、どんな顔をされるか。
いや、そもそも、何故に彼女が通信してくるのか。それもテラ専用の通信ラインから。
『元気そうで何よりです。愚息が本当に迷惑をかけているでしょう。貴方の心労を私は何時も労っているのですが』
「は、はぁ、ありがとうございます」
『ええ、とても労っていて、とても良くやっていると思ったのですよ。ついさっきまでは』
話の流れが怪しい方向に行っていないか。
何が彼女を動かしたのか。
何時もなら父―リントと一緒に異世界放浪して好き勝手にしているのに。
「ついさっきまで?」
『ええ、ついさっきまでです。実はアイリスと久しぶりに会いましてね』
まずい。
ルリの全身が警鐘を鳴らす。絶対にまずい事態だ。彼女にあった、しばらく帰っていないのがバレた。
ということは、テラはもうすでに。
「ですから、少しだけ申したいことがありましてね」
声は背後から。
すぐ耳元でした声に、ルリは全身が固まってしまったように、動けなくなった。
「貴方とテラ、少々・・・・・いいえ、かなりやんちゃが過ぎませんか? 国を作っておいて、奥様方を放っておいて、異世界で何をしているのか?」
そっと、手が首筋に触れる。
暖かい手なのに、冷たく感じる。
「ルリ、返答次第では、その首を折りますが、いかが?」
「ごめんなさい!!!」
彼女は思わず叫び声をあげた。
その後、静華は執務室のソファーに座り、正面にルリを座らせて説明を聞いた。
ソファーの傍らに、ボロ雑巾のようになったテラがいるが、ルリは見ないようにした。
ごめんなさい、すみませんと内心で謝罪しながら。
「なるほど。深海棲艦と高野五十六と約束ですか。となると、帰って来れないのも道理。解りました、ならば許しましょう」
「ありがとうございます」
ほっと安堵する。
これで首の皮一枚が繋がったか。
「致し方ありませんね。そういう理由ならば、きちんと約束を果たすまでは戻ること許しません。相手の信頼に対して不義理を行うのは、最も忌避すべきことです」
「はい、そうですね」
「艦娘という少女達のことも考えて動いているようなので、なおのことよろしいと伝えましょう。愚息にしては気がきいているようですね」
考えていたかどうかは怪しいですが、と静華は口にした。
確か本能的にやっているような気がするが、答えることはない。
藪をつついて蛇を出したくない。
「話は解りました。それと・・・・」
「あの、静華さん、あまり時間をかけると、その」
「ああ、誰か入ってくるというなら心配ありませんよ。世界の時間は停止済みです」
「時間停止?!」
思わぬ単語に、ルリは頭痛がした。
テラ達でさえ大規模術式でようやく行えることを、彼女は呼吸するように実行してしまう。
さすが、天魔の一族、か。
「それと、です。ルリ、貴方、クリスマスにも戻らないつもりでしたか?」
「え、ええ。それは、テラさんだけは戻ってプレゼントを配るはずですが。私はここでクリスマスをします」
「ふむ、ならばテラと貴方に罰則を与えます」
話がまたおかしいことになった。
罰則、何が来るのだろうか。
身構えるルリに対して、静華は軽やかに笑った。
「特に難しい話ではありません。さぷらいず・ぱーてぃというものがあるので、それをしてあげたらいかがでしょう? もちろん、艦娘全員に参加してもらって」
「え? でも、その間の海域警備はどうするんですか?」
「そんなものは、この」
チラリと静華の目線がテラへと向けられた。
「愚息が近衛騎士を連れてやればいいだけです。まさか、深海棲艦ごときに後れはとりませんよね、愚息?」
「はい」
何とか声を絞り出すテラに、静華は大きく頷いた。
「では決まりです。ルリ、結果報告を楽しみにしていますよ」
言葉だけ残し、静華の姿は、まるで幻のように消えた。
「・・・・・・テラさん、本当にマジでたまには帰ってください」
「うん、俺も今回の件でかなり本気で考えるよ」
「そうしてください。また次に同じことがあったら、今度は・・・・・」
体が震える。
一瞬の殺気だけであれほどなのだから、本気で怒らせたらどうなることか、怖くなってきた。
こうして、八丈島鎮守府最大にして最悪のサプライズ・パーティは始まったのだった。
終始、周りにはルリは艦娘には教えなかったという。
バッタ達には秘密裏に通達。サプライズだから、絶対に艦娘に知られてはいけないと徹底。
妖精達も買収済み。
彼女達の驚く顔が見たくて、協力してほしいと伝えると、妖精たちは快諾してくれた。
料理、装飾、すべて準備完了。
クリスマス・ツリーは会場に転移させるため、他の場所で飾り付けて保管済み。
この際だから、特別に冷たい顔であしらって、冷たい非人間になって艦娘には対応。
「やるなら徹底的です」
やり過ぎではと言ってくるバッタと妖精たちには、そう答えてルリは邁進していく。
その時のバッタと妖精達の共通の見解は、たった一言。
『あ、これは暴走した』。
ついでに、雪も欲しいなと思ったルリは、テラを捕まえて頼み込む。
「テラさん、天候操作の魔法って使えましたよね?」
「うん、出来るよ。雪を降らせればいい? 寒くないやつ?」
「はい、それで」
寒くない雪ってなんだろう。魔力で結晶を構築させた、『光雪』だろうか。まあ、振ってくるものが雪に見えればいいか。
準備は順調。
後は、最も付き合いの長い二人の艦娘を捕縛すればいい。
どうするべきかと悩んでいたら、相手から来たからラッキー。
「というわけで、監禁します」
「ええ、提督。あの、それって後で絶対に泣かれますよ」
「止めておいた方がいいわよ」
「ダメです、ここまできたら後は実行あるのみ。で、二人にはオリョクルのスイート・ルームに入ってもらいます」
「サプライズ素敵です」
「ここは黙っているべきね」
すぐに手のひらを返す二人に、さすが付き合いが長いだけはあると、ルリは感心した。
こうして、彼女の暴走は止められる者がいないまま当日となり、多くの艦娘が泣いた、と。
後日、内容を知った静華からの一言は呆れたようなもの。
『何事もやり過ぎは良くありません。貴方が言っていたことでは?』
「はい、ごめんなさい」
軽くお説教を貰ったという。
暴走の原因話でした。
投稿、忘れすみません。
クリスマスと正月を忘れていたわけじゃないよ。
ただ、思い出せなかっただけ。