少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
正月です、楽しいです。
スランプですか?
クリスマス、終わってすぐにお正月、忙し。
「今度はサプライズは止めてください」
「はい」
泣いている大淀の説得により、お正月は見事に回避された、というわけではない。
クリスマスの装飾が外され、お正月飾りが行われる。
楽しそうに飾り付けするバッタや妖精たちに混ざり、艦娘達も思い思いの装飾を行っていくのだが。
「鬼の面は次の機会に、ですよ」
丁度、廊下ですれ違った夕立に、ルリはそんなことを言っていた。
「ぽい?! ダメですか?」
「ダメかどうかより、鬼の面は節分の時じゃないですか。お正月の飾りに使うものではないです」
「ぽい~~~」
「代わりに吹雪の顔でも飾ってきなさい。下手な魔除けより、よっぽど効果がありますよ」
「はい!!」
そうですよね、と夕立が言うのだが、彼女の背後に榛名と熊野の姿が。
「吹雪さんの顔があるのですか?」
「ぜひ、私たちにも」
「ぽい~~~~~!!!」
悲鳴をあげて連れて行かれる夕立を見送り―いや、悪いことしたなと思うのだが、止めたくないので、面白そうだから―ルリは執務室へと戻ることにした。
廊下もバッタと妖精たちにより清掃が行われ、同時進行で正月飾りが行われていくのだが。
「紅白の横断幕って、正月飾りだったかな?」
全力で壁一面を飾っていく姿に、ちょっとだけ疑問が浮かぶ。
まあ、いいか。正月だから。ルリは意味不明な理由をつけて忘れることにして、執務室へ入る。
「あ、提督」
「代行です、何ですか、間宮と大淀? そんなに険しい顔をして?」
執務室に入ると、データ・ボードを持ったまま固まっている二人がいて。
「あのお正月の料理なのですが、予算が、その」
言い難そうな間宮に、何のことかはすぐに解った。
豪華に、と念を押していたのだが、予算が合わなくなったか。
「間宮、私は『豪華に』と言ったはずです。貴方に予算のことを考えろなんて言ってませんよ」
「けれど、提督、かなり金額が跳ね上がってしまいますよ?」
「別にかまいません」
二人の脇を通り過ぎ、執務室のイスに座る。
データを表示させ流し読みして、すぐに顔を向ける。
「十億までなら許してあげます。で?」
「・・・・・・・・失礼しました」
何故か呆れた顔で退出する間宮に、ルリは首をかしげた。
「大淀、何ですか、その顔は?」
同じように呆れた顔で自分の席に着く彼女に、ルリは半眼を向ける。
「いえ、提督だなぁって。やっぱり、提督はこうですよね」
「代行です。なんですか、まったく。ああ、そうそう、お正月の三が日までは出撃も訓練もなしで。秋津洲には適度に休息をとるように伝えてください」
「はい。後、料理も送っておきましょうか?」
「そうですね。後で秋津洲も、地上に降ろして休ませるべきでしょうが」
「はい、何時かはしないと、怒りそうですね」
でしょうね、とルリは口の中で言葉を転がす。
衛星軌道に上げてから、一度も地上に降ろしてない。
人工重力があるから体型に変化はないだろうが、そろそろ地上が恋しくなる頃だろう。
「ああ、そうだ。大淀、貴方は振袖が一人で着れますか?」
「無理です」
即答され、ルリは『私もですから大丈夫です』と答えた。
何故か、必死な顔で言われたから。
「正月は全員に着用を命じましょう。作ったはいいけど、誰も着ないのはもったいないので」
「え? 提督にもったいないなんて感情があったんですか?」
「・・・・・・・・一度、貴方とはじっくりと話し合う必要がありますね。私だって人間なんですから」
「ええええ?! 提督って人間だったんですか?!」
ブチっと何かが切れる音がした。
「もう一回くらいサプライズしても怒りませんよね?」
目が笑っていない笑顔で語るルリに、大淀はひたすら頭を下げた。
艶やかな姿というのは、時に男を鼓舞すると昔の人は語る。
戦場においての華一輪。たったそれだけいれば、死地においても勇敢に戦える、と誰かが言っていた。
たぶん、きっと、バッタ達が可愛いものに可愛いものを、とはそこから来ているのだろう。
『ピ? なんです、その哲学的理論?』
純粋に好きだからやっているだけらしい。
八丈島鎮守府において、艦娘一人一人に送られる振袖。
一人一人に合わせるように、バッタ達には珍しく時間をかけて丁寧に作り上げた和服は、宝石のようにキラキラとしている。
この世にある色で、異世界にある色で、再現できないものはない。
バッタ達が作り上げたものはジョーカー帝国に出せば家が一軒は立つといわれるほど高価なもの。
なのだが、八丈島鎮守府では普通に出回っている服装でしかないが。
艦娘達はしまったまま出すことはなく、こうしてルリが命令しない限りは怖くて着ないまま。
実際に買うとしたら、給金の半年分が飛ぶと知ったからかもしれない。
「そ、そんなものを着ろって言うんですか?」
青い顔で言ってくる相手に、ルリは手に持った書類を思わず握りつぶしそうになった。
これが衣笠や青葉なら解る。普段から活動的な二人だから、振袖のような動き難い恰好は嫌いだろうし、ものの値段がはっきりと解るから。
逆にアークロイヤルやウォースパイトは、着たまま動かなくなるだろう。
動かなければ汚れないと悟るため。
しかし、だ。彼女は何時も、振袖のような服装をしているので。
「天城、貴方が言いますか?」
「私だって怖いものは怖いんです!」
「はぁ・・・・・・何故に?」
貴方の艤装は、一応は振袖に分類されるはずでは。
材質とか他の艦娘と変わらずだが、見た目は完全に振袖だ。
「ご一考ください」
「とはいっても、お正月は振袖なのが常識なのでは?」
違うのではと話を聞いていた大淀は思ったのだが、ルリの次の声に否定の言葉は止められた。
「ちなみに、提督の母君は常に振袖の月下美人ですよ」
瞬間、二人に衝撃が走った。
「あ、それとテラさんのことを提督ときちんと認識しなさい。この鎮守府の提督はテラさんです・・・・・って、天城? 大淀?」
二人は呆けたまま、話を聞いていなかった。
「青葉、聞いちゃいました!!!」
「はい、お疲れ様」
「どうもです」
特ダネ探して鎮守府を歩いていた青葉、唐突に入室。
しかし彼女、今は鎮守府中の艦娘から『大丈夫』と質問されるくらいに、追い込まれていたらしい。
先日のクリスマス、盛大に祝われた三日間の苦行パーティ。
最後まで残っていた数少ない艦娘の中に、青葉はいた。
その上で、睡眠とらずに記事にして僅か二時間後には一斉配信。
で、倒れて入渠、と。
『史上初、記事作成で大破した艦娘』とレッテルを貼られる事態となって、悔し涙に枕を濡らす。
今、彼女はリベンジに燃えている。
あんな醜態を二度と晒したくない、絶対に最後までやり通してみせる。
決意を新たにした彼女は、実は周り中から心配されていることを知らないようだ。
「青葉、貴方も正月は振袖ですからね」
「はい。テラさんの母君と同じなら光栄です」
「同じかどうかは」
否定しながら、ルリは思う。
『天魔の一族』と同じになるには、色々と制限が多いなぁと。
「それと、テラさんの母君についての追加情報はありませんか?」
「常に振袖か和服。太陽の下よりも月の光のほうが魅力的」
「ふむふむ」
「食事は和食が好み、ステーキ類は苦手、お酒は嗜む程度」
「ふむふむ」
「テラさんを片手で叩き伏せる猛者くらいですね」
「ふむふ・・・む?」
「青葉、そろそろ戻らないと記事に間に合わないのでは。それと天城も戻って準備を始めないと、演習に間に合いませんよ」
今、意外な一言があった気がするが、追い立てられるように青葉と天城は執務室を後にした。
「提督、本当のことなんですか?」
「テラさんを片手で、ですか? ええ、特に酔っている時のあの人は、近寄らない方がいいですよ」
見ただけで山脈を消しますから。
最後の一言をとどめたのは、ルリなりの優しさだろう。
こうして、八丈島鎮守府では振袖を着ることになり、それが日本中に広まって正月は艦娘が振袖を着る日、となったのだった。
色々とあった日々が過ぎ去り、ついにやってきた正月。
「では、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「お願いします!!」
恒例の挨拶も終わり、会場には料理が振る舞われた。
全員が振袖を纏った綺麗な女性たちばかりの中、一人だけ男がいる。
もちろん、テラだ。
袴を纏わず私服姿で会場にいる彼は、イスに座らずに壁に寄り添って周りを見回していた。
最初は小さかった鎮守府も、今では大所帯。
広過ぎた建物も、静かだった食堂も、今では大賑わい。
最初は戸惑っていた艦娘達も、今では普通に楽しいことを、楽しいままに生活している。
戦うために生まれた存在だから。
人間と違うから。
そんなことは関係ない、彼女達には心があるならば、生きることを楽しんで悪いことはない。
年の初め、新しい年を迎えた今、テラは再び思う。
彼女達がこのまま、笑顔で過ごせる毎日が来るように。
「お正月早々に黄昏ですか?」
声をかけられ、テラは顔を向ける。
「ん、まあ、ね」
「新年に決意を新たに、ですね。私もこの景色は好きですよ」
藤色の振袖を纏ったルリは、軽やかに微笑む。
普段はツインテールの髪を後ろで纏め上げた姿は、少しだけ大人の色香が流れる。
「テラさん、静華さんが言っていたことが、よく解りますね」
「ああ、そうだね」
母が言っていたこと。
幼い頃に、ゲンコツと共に叩きこまれた言葉。
『女の子は、生まれた時から幸せになる権利がある』と。
「みんなが幸せそうなら、それでいいよ」
「そうですね。後、そろそろ回らないと向こうから来ますよ」
ルリが促す先、艦娘達が全員こちらを見ていた。
「よし、じゃあ騒ぎますか」
「はい」
軽く背伸びして、テラは壁際から離れた。
「テラさんこっちこっち!」
「こっちが先だよ!!」
「こっちも美味しいよ!」
次々に声がかかる中、テラは艦娘達に連れられて行ったり来たり。
ルリは微笑みながら姿を見送った。
「ごめんなさい、テラさん。酒乱は私でも止められないんです」
彼女は小さく謝罪した。
その日、八丈島鎮守府は新年早々に改装工事となった。
「誰ですか、艤装を持ち出したのは?」
一月四日の早朝、ルリは半眼で書類を持っていたという。
外伝です。
本編に戻ります。
うん、どうしょう?