艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

正月です、楽しいです。

スランプですか?





外伝2 正月 夢と願いと母?

 

 クリスマス、終わってすぐにお正月、忙し。

 

「今度はサプライズは止めてください」

 

「はい」

 

 泣いている大淀の説得により、お正月は見事に回避された、というわけではない。

 

 クリスマスの装飾が外され、お正月飾りが行われる。

 

 楽しそうに飾り付けするバッタや妖精たちに混ざり、艦娘達も思い思いの装飾を行っていくのだが。

 

「鬼の面は次の機会に、ですよ」

 

 丁度、廊下ですれ違った夕立に、ルリはそんなことを言っていた。

 

「ぽい?! ダメですか?」

 

「ダメかどうかより、鬼の面は節分の時じゃないですか。お正月の飾りに使うものではないです」

 

「ぽい~~~」

 

「代わりに吹雪の顔でも飾ってきなさい。下手な魔除けより、よっぽど効果がありますよ」

 

「はい!!」

 

 そうですよね、と夕立が言うのだが、彼女の背後に榛名と熊野の姿が。

 

「吹雪さんの顔があるのですか?」

 

「ぜひ、私たちにも」

 

「ぽい~~~~~!!!」

 

 悲鳴をあげて連れて行かれる夕立を見送り―いや、悪いことしたなと思うのだが、止めたくないので、面白そうだから―ルリは執務室へと戻ることにした。

 

 廊下もバッタと妖精たちにより清掃が行われ、同時進行で正月飾りが行われていくのだが。

 

「紅白の横断幕って、正月飾りだったかな?」

 

 全力で壁一面を飾っていく姿に、ちょっとだけ疑問が浮かぶ。

 

 まあ、いいか。正月だから。ルリは意味不明な理由をつけて忘れることにして、執務室へ入る。

 

「あ、提督」

 

「代行です、何ですか、間宮と大淀? そんなに険しい顔をして?」

 

 執務室に入ると、データ・ボードを持ったまま固まっている二人がいて。

 

「あのお正月の料理なのですが、予算が、その」

 

 言い難そうな間宮に、何のことかはすぐに解った。

 

 豪華に、と念を押していたのだが、予算が合わなくなったか。

 

「間宮、私は『豪華に』と言ったはずです。貴方に予算のことを考えろなんて言ってませんよ」

 

「けれど、提督、かなり金額が跳ね上がってしまいますよ?」

 

「別にかまいません」

 

 二人の脇を通り過ぎ、執務室のイスに座る。

 

 データを表示させ流し読みして、すぐに顔を向ける。

 

「十億までなら許してあげます。で?」

 

「・・・・・・・・失礼しました」

 

 何故か呆れた顔で退出する間宮に、ルリは首をかしげた。

 

「大淀、何ですか、その顔は?」

 

 同じように呆れた顔で自分の席に着く彼女に、ルリは半眼を向ける。

 

「いえ、提督だなぁって。やっぱり、提督はこうですよね」

 

「代行です。なんですか、まったく。ああ、そうそう、お正月の三が日までは出撃も訓練もなしで。秋津洲には適度に休息をとるように伝えてください」

 

「はい。後、料理も送っておきましょうか?」

 

「そうですね。後で秋津洲も、地上に降ろして休ませるべきでしょうが」

 

「はい、何時かはしないと、怒りそうですね」

 

 でしょうね、とルリは口の中で言葉を転がす。

 

 衛星軌道に上げてから、一度も地上に降ろしてない。

 

 人工重力があるから体型に変化はないだろうが、そろそろ地上が恋しくなる頃だろう。

 

「ああ、そうだ。大淀、貴方は振袖が一人で着れますか?」

 

「無理です」

 

 即答され、ルリは『私もですから大丈夫です』と答えた。

 

 何故か、必死な顔で言われたから。

 

「正月は全員に着用を命じましょう。作ったはいいけど、誰も着ないのはもったいないので」

 

「え? 提督にもったいないなんて感情があったんですか?」

 

「・・・・・・・・一度、貴方とはじっくりと話し合う必要がありますね。私だって人間なんですから」

 

「ええええ?! 提督って人間だったんですか?!」

 

 ブチっと何かが切れる音がした。

 

「もう一回くらいサプライズしても怒りませんよね?」

 

 目が笑っていない笑顔で語るルリに、大淀はひたすら頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艶やかな姿というのは、時に男を鼓舞すると昔の人は語る。

 

 戦場においての華一輪。たったそれだけいれば、死地においても勇敢に戦える、と誰かが言っていた。

 

 たぶん、きっと、バッタ達が可愛いものに可愛いものを、とはそこから来ているのだろう。

 

『ピ? なんです、その哲学的理論?』

 

 純粋に好きだからやっているだけらしい。

 

 八丈島鎮守府において、艦娘一人一人に送られる振袖。

 

 一人一人に合わせるように、バッタ達には珍しく時間をかけて丁寧に作り上げた和服は、宝石のようにキラキラとしている。

 

 この世にある色で、異世界にある色で、再現できないものはない。

 

 バッタ達が作り上げたものはジョーカー帝国に出せば家が一軒は立つといわれるほど高価なもの。

 

 なのだが、八丈島鎮守府では普通に出回っている服装でしかないが。

 

 艦娘達はしまったまま出すことはなく、こうしてルリが命令しない限りは怖くて着ないまま。

 

 実際に買うとしたら、給金の半年分が飛ぶと知ったからかもしれない。

 

「そ、そんなものを着ろって言うんですか?」

 

 青い顔で言ってくる相手に、ルリは手に持った書類を思わず握りつぶしそうになった。

 

 これが衣笠や青葉なら解る。普段から活動的な二人だから、振袖のような動き難い恰好は嫌いだろうし、ものの値段がはっきりと解るから。

 

 逆にアークロイヤルやウォースパイトは、着たまま動かなくなるだろう。

 

 動かなければ汚れないと悟るため。

 

 しかし、だ。彼女は何時も、振袖のような服装をしているので。

 

「天城、貴方が言いますか?」

 

「私だって怖いものは怖いんです!」

 

「はぁ・・・・・・何故に?」

 

 貴方の艤装は、一応は振袖に分類されるはずでは。

 

 材質とか他の艦娘と変わらずだが、見た目は完全に振袖だ。

 

「ご一考ください」

 

「とはいっても、お正月は振袖なのが常識なのでは?」

 

 違うのではと話を聞いていた大淀は思ったのだが、ルリの次の声に否定の言葉は止められた。

 

「ちなみに、提督の母君は常に振袖の月下美人ですよ」

 

 瞬間、二人に衝撃が走った。

 

「あ、それとテラさんのことを提督ときちんと認識しなさい。この鎮守府の提督はテラさんです・・・・・って、天城? 大淀?」

 

 二人は呆けたまま、話を聞いていなかった。

 

「青葉、聞いちゃいました!!!」

 

「はい、お疲れ様」

 

「どうもです」

 

 特ダネ探して鎮守府を歩いていた青葉、唐突に入室。

 

 しかし彼女、今は鎮守府中の艦娘から『大丈夫』と質問されるくらいに、追い込まれていたらしい。

 

 先日のクリスマス、盛大に祝われた三日間の苦行パーティ。

 

 最後まで残っていた数少ない艦娘の中に、青葉はいた。

 

 その上で、睡眠とらずに記事にして僅か二時間後には一斉配信。

 

 で、倒れて入渠、と。

 

 『史上初、記事作成で大破した艦娘』とレッテルを貼られる事態となって、悔し涙に枕を濡らす。

 

 今、彼女はリベンジに燃えている。

 

 あんな醜態を二度と晒したくない、絶対に最後までやり通してみせる。

 

 決意を新たにした彼女は、実は周り中から心配されていることを知らないようだ。

 

「青葉、貴方も正月は振袖ですからね」

 

「はい。テラさんの母君と同じなら光栄です」

 

「同じかどうかは」

 

 否定しながら、ルリは思う。

 

 『天魔の一族』と同じになるには、色々と制限が多いなぁと。

 

「それと、テラさんの母君についての追加情報はありませんか?」

 

「常に振袖か和服。太陽の下よりも月の光のほうが魅力的」

 

「ふむふむ」

 

「食事は和食が好み、ステーキ類は苦手、お酒は嗜む程度」

 

「ふむふむ」

 

「テラさんを片手で叩き伏せる猛者くらいですね」

 

「ふむふ・・・む?」

 

「青葉、そろそろ戻らないと記事に間に合わないのでは。それと天城も戻って準備を始めないと、演習に間に合いませんよ」

 

 今、意外な一言があった気がするが、追い立てられるように青葉と天城は執務室を後にした。

 

「提督、本当のことなんですか?」

 

「テラさんを片手で、ですか? ええ、特に酔っている時のあの人は、近寄らない方がいいですよ」

 

 見ただけで山脈を消しますから。

 

 最後の一言をとどめたのは、ルリなりの優しさだろう。

 

 こうして、八丈島鎮守府では振袖を着ることになり、それが日本中に広まって正月は艦娘が振袖を着る日、となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々とあった日々が過ぎ去り、ついにやってきた正月。

 

「では、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 

「お願いします!!」

 

 恒例の挨拶も終わり、会場には料理が振る舞われた。

 

 全員が振袖を纏った綺麗な女性たちばかりの中、一人だけ男がいる。

 

 もちろん、テラだ。

 

 袴を纏わず私服姿で会場にいる彼は、イスに座らずに壁に寄り添って周りを見回していた。

 

 最初は小さかった鎮守府も、今では大所帯。

 

 広過ぎた建物も、静かだった食堂も、今では大賑わい。

 

 最初は戸惑っていた艦娘達も、今では普通に楽しいことを、楽しいままに生活している。

 

 戦うために生まれた存在だから。

 

 人間と違うから。

 

 そんなことは関係ない、彼女達には心があるならば、生きることを楽しんで悪いことはない。

 

 年の初め、新しい年を迎えた今、テラは再び思う。

 

 彼女達がこのまま、笑顔で過ごせる毎日が来るように。

 

「お正月早々に黄昏ですか?」

 

 声をかけられ、テラは顔を向ける。

 

「ん、まあ、ね」

 

「新年に決意を新たに、ですね。私もこの景色は好きですよ」

 

 藤色の振袖を纏ったルリは、軽やかに微笑む。

 

 普段はツインテールの髪を後ろで纏め上げた姿は、少しだけ大人の色香が流れる。

 

「テラさん、静華さんが言っていたことが、よく解りますね」

 

「ああ、そうだね」

 

 母が言っていたこと。

 

 幼い頃に、ゲンコツと共に叩きこまれた言葉。

 

 『女の子は、生まれた時から幸せになる権利がある』と。

 

「みんなが幸せそうなら、それでいいよ」

 

「そうですね。後、そろそろ回らないと向こうから来ますよ」

 

 ルリが促す先、艦娘達が全員こちらを見ていた。

 

「よし、じゃあ騒ぎますか」

 

「はい」

 

 軽く背伸びして、テラは壁際から離れた。

 

「テラさんこっちこっち!」

 

「こっちが先だよ!!」

 

「こっちも美味しいよ!」

 

 次々に声がかかる中、テラは艦娘達に連れられて行ったり来たり。

 

 ルリは微笑みながら姿を見送った。

 

「ごめんなさい、テラさん。酒乱は私でも止められないんです」

 

 彼女は小さく謝罪した。

 

 その日、八丈島鎮守府は新年早々に改装工事となった。

 

「誰ですか、艤装を持ち出したのは?」

 

 一月四日の早朝、ルリは半眼で書類を持っていたという。

 

 

 

 





外伝です。

本編に戻ります。

うん、どうしょう?

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