艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

スランプですか、どうでしょう?

迷走中につき、散らかります。




矜持にかけて5

 

 衝撃が体を襲う。

 

 右手から伝わるものは、肉を裂く感触と命の残滓。

 

 相手は鋼鉄の装甲を持っていても、中はほぼ生物と変わらない構造をしているらしい。

 

 生物なのに重油を使い、火薬を使い、鉄を纏う。

 

 矛盾している存在なのに、この世界に存在している。

 

「哲学なんて柄じゃないな」

 

 剣を引き抜いて、振り払う。

 

 血か油か。刃についた液体を拭いながら、彼女は自分には似合わない問を打ち消す。

 

 まったくどうかしている、今の状況を考えれば、哲学的な問いなどしている場合じゃないだろうに。

 

 剣を構えようとして、彼女は動きを止める。

 

 亀裂が走り、刃も欠けている。もう使い物にならない武器を放り投げ、別の剣を引き抜く。

 

 自分の第零種兵装は、近接武器を搭載した武器庫艦。六つある内の四つが近接武器で、他の二つが遠距離武器。

 

 本当に嫌になる。従属艦はすべて自分の武器のみを搭載し、単体での攻撃力はほぼない。

 

 自衛用の近接武装があるのみだ。

 

 まさに自分らしい。すべて自分の手で戦い、自分の決断で死んでいく。

 

「本当、らしくないな」

 

 呟いて前を向く。

 

 目標はまだまだ多い。

 

 まるで湧いて出たような敵軍の群れに、嫌気がさしてくる。

 

 もう何本の剣を使いつぶしたか、解らない。

 

 もう何度の補給を受けたのかも、数えていない。

 

 最初は順調だった。散発的に襲ってくる敵に対処して、各自の燃料の消費も問題はなかった。

 

 だが、一定範囲を超えた途端に敵は波状攻撃を仕掛けてきた。

 

 一匹一匹ではない、千以上の敵が次々に襲ってくる。

 

 余裕はまだある。

 

 いくら波状攻撃を受けても、退けるだけの技量を全員が持っていた。

 

 けれど、無限ではない。

 

 攻撃の濃さが増していくたびに、消費される燃料と弾薬。

 

 そして、体力。

 

「本当にどうかしてるんじゃないか」

 

 両手に持った剣を振り、海上を走り抜ける。

 

 考えなんてなしの滅多切り、目の前の目標だけを撃破していく。

 

 何時間、こんなことをしているか解らない。

 

 それとも何分も経っていないのか。

 

「天龍ちゃん!」

 

「龍田か?! そっちはどうだ?!」

 

 敵陣を裂いて出てきた妹と、背中合わせになる。

 

「もう最悪よ~。何処を向いても敵ばっかり」

 

「こっちもだよ。吹雪さん達は?」

 

「かなり先まで食い込めたみたい」

 

 さすが、現在の最強艦娘。

 

 この物量の中でも物ともせずに侵攻していくか。

 

「追いつかないとな」

 

「そうね~~」

 

 両手の剣を握り直す。

 

 元八丈島鎮守府の艦娘として、『血の十字架』を掲げるものとしては、数の暴力程度には屈したくない。

 

「無茶するぜ、龍田。付き合えよ」

 

「もちろん、後ろは任せて、天龍ちゃん」

 

「ああ」

 

 走りだす。周りの深海棲艦を切り刻みながら、一歩でも遠くへ。

 

「邪魔だぁぁぁ!」

 

 オイルが舞い、血が飛び散る。

 

 砲弾を刃で弾き飛ばし、立ちふさがる敵を細切れにしながら、天龍は突き進む。

 

 味方はどうだと考えない。

 

 今の状況も思考せずに、ただ前へ、一歩でも先に。

 

 どうせ自分には戦略や戦術を考える頭はない。

 

 小難しいことを考えるくらいなら、戦場のど真ん中で大立ち回りしたほうが合っている。

 

 艦隊行動をしていたら、旗艦を務めていたなら、それは愚かなことだが、今は大艦隊での作戦行動中だ。

 

 背後には提督がいて、大淀もいる。

 

 ならば、自分がするのはただ敵を葬ることのみ。

 

「すぐに追いつくからな、吹雪さん」

 

 ニヤリと笑い、天龍はただ前へと突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の波状攻撃は、止まることを知らないように続く。

 

 海を覆うほどの深海棲艦が押し寄せ、空には数万を超えるほどの航空機が舞い上がる。

 

 総力戦。

 

 日本側が全戦力を投入したように、深海棲艦側も総力を挙げて攻撃してきたのか。

 

 あるいは、別の目的があって接近させたくないのか。

 

 何人かの艦娘は考える。

 

 敵の目的、戦力、戦闘時間。

 

 あるいは自分達が後どれだけ『戦えるのか』を。

 

 眼前のレ級を彼女は叩き潰した。

 

 砲も魚雷も近過ぎたから、右手の砲塔をぶつけて潰す。

 

 オイルと肉片が飛び散り、レ級だったものが海に沈む。

 

 それを彼女は視界の隅で見送りながら、次の標的を定める。

 

 敵は望むだけ、視界すべてが敵の姿だけ。

 

 まるで狂戦士になったような気分だが、それでもいいかもしれない。

 

 血と狂乱の集団、それが『血の十字架』の元だった騎士団の性。

 

 ミラージュ騎士団とは、そういった連中だったと聞いたことがある。

 

「どけ」

 

 冷たい言葉と魚雷を放ち、タ級を沈める。

 

 轟音で弾け飛んだタ級は消えて欠片も残らない。

 

「どいて吹雪!」

 

 声に押されるように体を流す。

 

「卍解!!! 『雀蜂雷公鞭』!!」

 

 暁の叫び声と同時に飛び出した何かが、眼前すべての深海棲艦を吹き飛ばした。

 

「相変わらず威力が高いね」

 

「何言ってるのよ、貴方の『剣』ほどじゃないでしょう?」

 

 元の刀に戻った武器を振るい、暁が隣へと流れてくる。

 

「数は減った・・・・・・と思いたいわね」

 

「そうだね」

 

 海ごと蒸発したはずなのに、敵の数に変化は見られない。

 

「・・・・・いっそのこと、流刃若火の卍解を試してみようかしら?」

 

「制御不能で百海里を蒸発させたいんだ」

 

「それはレディーらしくないわね。なら、このままで行きましょうか」

 

 刀を納めて砲を持ち上げる暁に、『その方がいいよ』と吹雪は答える。

 

 確かに暁の刀は便利だが、制御できる能力とできない能力の差が大きい。

 

 それに、と吹雪は自分の後ろ腰にある剣に目線を向けた。

 

 これもそうだ。

 

 一度でも使えば無敵。けれど、限界時間が来たら周り中を消す。

 

 例外は一つもない凶悪な力は、まだ使い時ではない。

 

『二人とも出過ぎです。少しペースを落として合流を』

 

 提督から、ルリからの通信に動かしかけた足を止めた。

 

「あら、もう? 後ろはだらしないわね」

 

「帝国海軍も動きだしたから、合流して進撃再開ですか?」

 

『そのつもりではいますが、相手側のことも気になります。一度、補給に戻りなさい。敵の数、時間ごとではなく分単位で増えています』

 

 嘘でしょうと吹雪は言いかけた。

 

 今でも撃破数の新記録を更新中なのに、さらに増えるというのか。

 

『第零種装備も使いどころを間違えないように。それと、制空権なのですが、ちょっと事件がありまして』

 

「何かあったんですか?」

 

『ええ、妹の奮起が姉を高揚させたらしく・・・・・』

 

 提督の言葉が終わる前に、上空を閃光が走った。

 

 飛び去る姿が辛うじて見えたのは、偶然かも知れない。

 

 亜光速で敵機を撃破していく航空機には、見覚えのある印が。

 

「加賀の、所属機よね?」

 

「うん、そうだね・・・・・・・高揚?」

 

『はい。実は瑞鶴が『蒼の迷宮』を完成させました』

 

「はい?!」

 

「ええ?!」

 

 まさに寝耳に水。

 

 努力していたのは知っていたが、訓練では一度も成功していないのに、まさか実戦の中で、しかも初めての旗艦での作戦行動で成功させるなんて。

 

『それで長女が過去最高の気分だそうです』

 

『さすがに気分が高揚します』

 

 通信に割り込みが入り、加賀の声がした。

 

 はっとして振り返った二人の視界に、八枚の飛行甲板を背負った彼女が映る。

 

 加賀の第零種装備。

 

 従属艦といっていいのか、それとも装甲板といえばいいのか。

 

 彼女の背に存在するものからは、航空機が発着艦を繰り返していた。

 

 弓で飛ばすだけではなく、飛行甲板からも航空機の展開が可能。

 

 それが加賀の第零種装備なのだが。

 

 あまりの数とあまりの展開速度に、『空母機動部隊』に見える。

 

「・・・・・戻りましょうか、吹雪。加賀があの状態なら、前線の固定は確実ね」

 

「ああ、うん、そうだね・・・・・・なんだろう、気負っていたのが馬鹿らしくなってきた」

 

「あら、偶然ね。私もよ。加賀、ここは任せたわね」

 

『鎧袖一触です』

 

 真っ赤な顔をした彼女の返答に、『周りに妹がいないからってはしゃいじゃって』と思った吹雪と暁だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加賀は、その展開速度があるためよく前線の制空権の確保を任されることが多い。

 

 一方で、同じ一航戦を担っていた赤城は、どのような状況でも対応できる柔軟性から、遊撃に配置される。

 

 そして、空母の母と呼ばれる彼女は、攻めより護りのほうが得意なため、最重要部隊の空を任される。

 

 空母『鳳翔』。

 

 全艦娘の中で唯一、『第零種艤装の適正がない』艦娘は、帝国海軍の艦艇や他の鎮守府の艦娘達の頭上を護っていた。

 

 ホークアイ十二機、電子戦略機『電星二型』三十八機を同時展開。

 

 戦場のあらゆるものを見渡しながら、他の空母艦娘の艦載機へ指示を出していた。

 

「天城さん、少し防空網が甘いようです。修正を」

 

『はい!』 

 

「雲龍さん、敵航空機が接近中、迎撃を」

 

『解りました。『閃電―F15Eストライク・イーグル』の三小隊を向かわせます』

 

「十分です。飛鷹さん、対艦兵装を搭載した『豪雷―F-18ホーネット』はどうなりました?」

 

『帰還済みです。補給と整備を急がせています』

 

「慌てずしっかりとお願いしますね。戦果は私と高天原への二重送信で」

 

『はい、解りました』

 

「龍驤さん、対潜哨戒機は?」

 

『ぼちぼちってところやな。本職―大鷹には負けるけどな』

 

「おおくは望みませんから、しっかりとお願いしますね」

 

『了解や!』

 

 一人一人に指示を出しながらも、任せる部分には口を挟まない。

 

 細かい部分まで口にだして伝えなければならないほど、彼女達の技量は低くはないから。

 

 それに、鳳翔の役割は空母艦娘だけではない。

 

「涼月さん、体の力を抜いて」

 

「は、はい」

 

 自分の前を進んでいる防空駆逐艦の彼女は、まだまだ技量が低い。

 

 元々、高天原設立後にドロップという形で入った彼女だから、低くて当たり前なのだが。

 

 何故か、自分が弱いことが気になってしまっているらしい。

 

「貴方はこれからなのですから、あまり気負ってけがをしないように」

 

「大丈夫です」

 

 しっかりと答えるのだが、答えている姿が震えているものだから、今にも倒れそうに見える。

 

 こういった艦娘のケアや、戦場での忠告も鳳翔の役割だ。

 

 普通だったら、出さない。もっと訓練を積んでからの実戦なのだが、今回ばかりは全力出撃するしかなかった。

 

 提督も、不確定要素ばかりが多くて悩みどころだったでしょう。鳳翔は内心で告げながら、空を見上げる。

 

 警戒網に今のところは、反応なし。

 

 後ろをついてくる艦隊に変化なし。

 

 何か壮絶な覚悟と気負いは見えるが、放置でもいいだろう。

 

 ともかく、だ。今の自分の役目は、この集団を無事に、傷一つつけずに目的地まで送り届けること。

 

「頼みましたよ、伊勢さん、日向さん」

 

『任された』

 

『ああ、大船に乗った気持でいてくれ。これでも、暁さんのしごきには耐えたからな』

 

『あれはつらかったなぁ』

 

 軽口を叩く二人に、鳳翔は微笑む。

 

 当初は新人部類だった二隻も、すっかりと貫録がついて頼もしくなった。

 

 やはり、叩いて潰して経験させると、いい艦娘になる。

 

「何事もなく進めれば最高なのだけれど」

 

 無理でしょうね、と鳳翔は空を見上げながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海上では敵との一進一退の攻防が続いているが、それはもちろん海中でも同じ。

 

 艦娘達が空と海上だけに集中できるのは、海中の脅威があまり高くないためだが。

 

 もちろん、念のために対潜哨戒は続けているが、念のためでしかない。

 

 理由はもちろん、こちら側の潜水艦が頑張っているからだ。

 

『一隻撃沈、ろーちゃん大勝利!』

 

「一隻くらいではしゃがない。次、行くわよ」

 

 水中でガッツポーズをするろーに、呆れながらも忠告をするイムヤ。

 

 確かに味方艦隊への敵潜水艦の雷撃を阻止したのだから、褒められることではあるのだが。

 

『やっと一隻なのね』

 

『おそいでち』

 

『あ、これは私もフォローできない』

 

『大丈夫、これからです』

 

 次々に報告が飛び交うのだが、ここは敵地だ。

 

「次もろーちゃんが撃沈して大勝利だね!」

 

「ああ、そうね」

 

『ろーの現在装備は、まるゆと同じ補給目的じゃなかったかな?』

 

『第零種が潜水艦用の補給船でち』

 

 これも意外だったな、とイムヤは思い返す。

 

 ろーの第零種は、補給船。それも海中での補給可能な優れものなのだが、自衛用の装備もないために常に後方待機になったしまう。

 

 当然、ろーも後方待機になるのだが、こうして撃ち漏らした敵潜水艦へ攻撃することもあるため、全員が『被弾しないか』と不安に駆られる。

 

「大丈夫、私はやる時はやる女です」

 

『ぺたんこなのに』

 

『ぺたんこでち』

 

『ぺったんこなのね』

 

「それは言っちゃダメ!!」

 

『まるゆは信じてますよ!』

 

 何をだろうか。

 

 相変わらず優しいのに、意味不明な励まし方しかしないまるゆだ。

 

 嫌味がないから、ある意味で最も性質が悪い気がするが、言われたほうとしては悪い気がしないから、大丈夫だろう。

 

 ろーも嬉しそうに『ありがとう』と言っているから。

 

「はい、全員、注目。お仕事の時間だから」

 

 ソナーに感あり。敵潜水艦のお出ましだ。

 

『次はイクがいくのね!』

 

『さあ、それはどうでしょう?』

 

『ここは任せるでち』

 

 ろーに触発されたのか、次々に敵潜水艦へ向かっていく味方潜水艦。

 

 あんな大きな音を出しながら接近すれば、相手側にすぐに察知されて返り討ちにあうのだが、気づいてやっているのだろうか。

 

 気づいてやっているとしたら、よほどの猛者だ。わざわざ敵に警戒させておいて、待ち構えている中へ飛び込むなんて。

 

『イムヤさん、なんだから味方潜水艦から悲鳴が聞こえるんだけど』

 

 少し遅れて合流したシオイの戸惑いに、イムヤはどうやって答えるか悩んでしまう。

 

 先輩艦娘が、新人に触発されて馬鹿なことをしていって、敵の罠に悲鳴をあげているなんて。

 

 だから、潜水艦は生ぬるいといわれるの。

 

 言われたことはないけど。

 

「ああ、うん、何とかなるんじゃないかな?」

 

『本当ですか?』

 

 疑っているようなシオイに、『大丈夫、ダイジョウブ』と言っておく。

 

 何度も繰り返すことで、自分を納得させようとしているわけではなく、呆れて他の言葉が出てこなかった、というわけじゃない。

 

『助けてイムヤ!!』

 

「・・・・・・・はぁ。まったくもう」

 

 せっかく、人が情けない姿にならないように格好をつけたのに、当人たちが台無しにしては意味がない。

 

「はい、助けに行くよ~」

 

『解りました』

 

「ろーちゃん、頑張ります」

 

「ほどほどにね」

 

 先輩より後輩の方が落ち着いているって、ある意味で終わってないだろうか。

 

 不意にイムヤはそんなことを思ったという。

 

 

 

 

 





いつだってこの世は、こんなはずじゃないことばかりだ。

誰かが昔、そう言っていた。

確かにそうかもしれない。

でも、諦めたわけじやない。

絶対に!


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