艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

遅くなりました、インフル発症しました。

熱でないなんて、詐欺や。

迷走して暴走して、まとまりました。




矜持にかけて6

 

 昔、誰かが言っていた。

 

 人の思いは無限大だと。可能性の獣がいると。

 

 確かに無限だと思う。

 

 この目の前一杯に広がる深海棲艦を見れば、人の『思い』は無限に膨れ上がって、やがて地球すべてを覆う。

 

 この世に悪があるとすれば、それは人の心だと誰かが言っていた。

 

 まさに今、それを実感している。

 

 倒しても倒しても湧き出る深海棲艦の群れ。

 

 終わりなどない戦いは続く。

 

「いっそのこと、薙ぎ払ったらすっきりするのかな?」

 

 テラ・エーテルは思う。

 

 白銀の女神の手のひらに乗りながら、水平線を眺めつつ。

 

 出番だろうか。

 

 いや、まだだ。彼は首を振って立ち上がり、声を出す。

 

「よし、じゃあ、ルリちゃんのお願いを叶えに行くかな」

 

『御意、我が君』

 

 幻が消えるように、空中にいた集団は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けられない。

 

 後退はない。

 

 一歩でも退いたら、また失ってしまうのだから。

 

「第六軍の損耗率四割を超えました!」

 

「第十二軍より戦力補充、その後に第六軍は後退」

 

「第一軍が敵に囲まれています!」

 

「そっちは第三軍がフォローに入る!」

 

 次々に塗り変わっていく戦力図。

 

 総軍司令本部と名付けられた、艦艇上の軍令部戦略室において、高野は目の前の海図を睨みつけている。

 

 指示を出しているのは、沖田、井沢、斎藤、矢車の四名。

 

 広大な海域を四つに分けて、艦艇も含めた全戦力の指揮権を与えられた提督たちが、それぞれの海域の制圧を行っている。

 

 その先には高天原の部隊が展開。

 

 全軍の先方、矢じりとなって敵の壁に穴を開けて、最優先目標撃破に突き進んでいく。

 

「さすがに、厳しい」

 

 ジワリと告げたのは、矢車だ。

 

 艦娘や艦艇の損耗、武器の消耗、弾薬の消費。

 

 何処からどうやって湧いて出てくるのか、深海棲艦に終わりは見えない。

 

「最初にやらかした奴にしては、弱気じゃねぇか? もっとやってやるとか言ってみろよ」

 

「斎藤さんほど剛毅にはできませんよ」

 

「へ、やってみなくちゃ解んないだろうが。けど、さすがに厳しくなってきたな」

 

 汗が噴き出る。

 

 彼も心のどこかでは、『不可能か』と思い始めているのか。

 

「いつものやんちゃは何処に行きました、斎藤? 反骨精神ならば、ここで発揮せずにいつ使うのです?」

 

「言ってくれるね、鬼婆」

 

「悪態付きだけならがきでもできます。今の貴方は軍人なのです。ならば、気骨を見せなさい。ここは砲弾も飛んでこない場所ですよ」

 

「ただし、情報は飛んでくるがな」

 

 軽やかに言ってのける井沢に、沖田が言葉をかぶせる。

 

「それこそが、私達の今の武器では?」

 

 ニヤリと笑う女性に、本当に『鬼か』と誰かが呟く。

 

「しかし、さすが『八丈島鎮守府の提督代行』か」

 

 斎藤の一言で、誰ともなく壁のモニターに表示された全体戦略図に目線が向けられる。

 

 自分達だけではない、高天原のも含めた海図は、赤い部分が次々に青へと変わっていく。

 

「この短期間で南と北を制覇。さらに中部太平洋を進軍。本当に人間じゃありませんね」

 

 矢車の畏怖がこもった言葉は、誰もが思うことでもあった。

 

 自分達は四つに分けた海域をやっているが、その周り中を攻略している部隊の指揮官は一人のみ。

 

 話によると提督のテラはそういった作業には向いていなく、実際に部隊を動かしているのは提督代行。

 

 ホシノ・ルリ。

 

 大淀を補佐に従えた彼女は、どうやってこの広大な海域で部隊を動かしているのか、少しだけ疑問に思う。

 

「彼女は指示を出していない」

 

 四人の上から高野の放ったことに、全員が顔を上げた。

 

「最初の訓示、時々の味方への補給指示、たったそれだけだ」

 

「はぁ?! じゃ、艦娘達は何を基準に戦っているんですか?」

 

 斎藤の疑問は、誰もが感じるもの。

 

 いくら艦娘が優秀とはいえ、広大な海の中で相手の動きを把握し、的確に動くことなどできるわけがない。

 

 確か八丈島鎮守府の頃から、理解不能な戦い方をしていたとしても。

 

「艦娘達が考え、旗艦が情報を精査し判断する。彼女達はずっと、それをしてきた」

 

「冗談でしょう?」

 

「それと、だ。ルリ君は『戦術予報もありますので』と言っていたが」

 

 意味が解らない単語が出てきた。

 

 戦術とは確実に与えられるもので、『予報』するものではないのに。

 

「とにかく、後で講義でもしてもらえばいい。今は目の前のことに集中するしかない」

 

「確かに」

 

 沖田のため息混じりの声に、井沢が同意を示し目線を向ける。

 

「そりゃ、まあ」

 

「ですね」

 

 斎藤と矢車も、『後で絶対に教えてもらう』と言って、再び海図へと目を向けた。

 

 本当に彼女には何が見えているのか、または見通しているのか。

 

 こうして同じ戦場に立つと、自分達がアマチュアに見えてくる。

 

 作戦が終了したら、本気で軍学校で講義をしてもらうべきか、と高野は考え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が見えているかと問いかけられた時、ルリは戸惑ったような顔を返したという。

 

『と、言われても。私が見ているものは情報を集めて予想したものなので、それに敵が見事に乗っかっただけですよ』。

 

 高天原にて、ルリは海図を見つめていた。

 

 椅子に座り両手は膝の上。空中に展開したモニターに映された海図は、味方の勢力図を映したものだけ。

 

「吹雪さん達より伝達。補給作業終了、再出撃の許可を」

 

「解りました。では、出撃を。戦術予報は334へ移ったと伝言を」

 

「了解」

 

 大淀が伝達する背中を見つめた後、ルリは再び海図へ視線を戻す。

 

 情報を切り替え、高天原の部隊のみ表示。

 

 全員ペース配分は心得ているが、アメリカのことが頭に残っているため、少しだけ予報より弾薬・燃料の消費が速い。

 

 焦りではなく、怖さ。

 

 もし、間に合わなかったらと思う気持ちが、誰かが死ぬと連想して、前へ前へと体を進めてしまう。

 

「大淀、全員に・・・・・・・いいえ、なんでもありません」

 

「はい」

 

 振り返った彼女は、ルリの言葉がないと知ると、再び通信モニターへと体を戻した。

 

 言わなくてもいいか。

 

 吹雪と暁の先行し過ぎには釘を刺したが、あれで二人が気づいたはずだ。

 

 二人が気づいたなら、瑞鳳、大和、金剛、榛名あたりが気づく。

 

 六人が気づけば、全員へと話は伝わっていき、小まめに残弾や燃料の残量確認を行うはずだ。

 

 少なくとも、古参や中堅あたりは。そこまで気づいてくれれば、新人たちを引きつれて戻ってきてくれる。

 

『金剛です、補給に戻ります。イタリア、ローマ、戻りますよ。アイオワとビスマルクはまだ大丈夫ね?』

 

『任せて金剛さん!』

 

『OKヨ!』

 

『こちら衣笠、魚雷補充に戻ります。鳥海と那智が残って前線保持を』

 

『解りました』

 

『了解した』

 

 ほら、やってくれた。ちょっとだけ嬉しく微笑むルリ。

 

 彼女達にはしっかりと教え込んだ。

 

 補給の大切さを、情報の重要性を。悪夢にうなされるほど、徹底的に叩きこんだ。

 

 指示を受けて動くのは軍人。けれど、時に最前線まで命令を届ける間に戦況が変わることはよくある。

 

 命令がなければ動けないのが軍人だが、命令がなくとも最善のことを選択できるのが戦士。

 

 彼女達は、『血の十字架』を掲げる者なのだから、上の命令がなければ動けないなんて情けないことはない。

 

『こちら翔鶴、航空機用弾薬ゼロ。戻って補給します。蒼龍と飛龍が残弾危険ですが、抜け出せません。補給船の手配を』

 

「解りました。神威に補給物資搭載で向かわせます」

 

『択捉です、護衛につきます』

 

『国後、同じく護衛につきます』

 

『神威、補給物資の搭載完了。蒼龍と飛龍への補給作業へと向かいます』

 

『夕立です! 蒼龍さんと飛龍さんの周辺勢力を一時的に止めます!』

 

『春雨付き合います!』

 

『陽炎も参加できます』

 

『五分後に実行っぽい!』

 

『春雨了解!』

 

『陽炎了解!』

 

『こちら神威です、五分で到着させます』

 

 いいですね、本当にいい。

 

 各自がやるべきことを把握して、指示を待つことなく最善の行動を選択して実行する。

 

『こちら叢雲、これより旗風、弥生を連れて補給に戻ります』

 

『綾波です。主砲の砲身が気になります。予備を用意してください。戻ります』

 

『抜けた分は敷波が支えるよ!』

 

『朧も入ります!』

 

 通信で自分の名前を入れることで、誰が発言しているか速やかに相手に伝えることができる。

 

 これも教えておいて良かった。

 

 邪道といわれることもあるのだが、ルリは好んでこの方法を使っている。

 

「そろそろ、かな」

 

「提督?」

 

「いえ、そろそろ、敵のラスボスの登場じゃないかなぁ、と。後、代行ですよ、大淀」

 

「はい、でも、その提督はどちらに?」

 

「・・・・・・・ちょっと睨みつけに行ってもらっています。後、確認を」

 

 何のですか、と大淀が問いかけてきたので、ルリは小さく舌を出した。

 

「本当なら、艦娘達の手で終わらせたかったんですけどね」

 

 私もかなり心配症になってきたみたいですね、とルリは口の中で言葉を転がす。

 

 本来なら、出番など作らなかった。

 

 順調に行けば相手側が動く前に終わりに出来た。

 

 順調に行かなくても、秋津洲の持っていった装備を降下させれば、超重力砲や波動砲は防げた。

 

 けれど、彼は自分だけが動かないのを良しとしなかった。

 

 手を出すことはできないけれど、睨みつけるくらいはできる。

 

「まあ、予想できたことなので」

 

「はぁ・・・・・後で教えてください・・・・いいえ、やっぱりいいです」

 

「なんですか、大淀?」

 

「怖そうなので」

 

 たぶん、その予想は当たりですよ、とルリは言葉にせずに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それの名を、彼女は知らない。

 

「次だ、次こそは」

 

 焦る気持ちの中で空転する機関に、さらに憤りが募る。

 

「後一撃すればいい。後一撃すれば、米国が消せる!」

 

 あの大戦で、あの国は傲慢だった。

 

 ただ石油が欲しかった。他の国々のように、一つの国家として認めてほしかっただけなのに。

 

 あの国は卑怯にも、こちらの話を意図的に曲解にして、不当な要求を突きつけた。

 

 それだけではなく、宣戦布告日時をずらして、世界の悪者にした。

 

 許せるわけがない。

 

 許せない。

 

 かけらも残さずに、地上から消してやる。

 

「ねぇ、君が親玉?」

 

「は?」

 

 彼女は振り返る。

 

 水平線には何もなく、誰の気配もないはずだ。

 

 けれど、寒気は感じる。

 

 誰がいた。

 

 誰もいない、ここには自分と深海棲艦だけなのに。

 

「親玉だね、君がそうか」

 

 声は上から。

 

 はっとして見上げた視線の先、白銀の女神が浮かんでいた。

 

 白銀の鎧に金色の翼。まるで芸術品のような二十メートルの人型兵器。

 

 その手の上に乗った青年が、静かに見下ろしていた。

 

「君の恨みはよく解るけど、この世界のアメリカはまったく別の国だよ?」

 

「だ、だからなんだ! あいつらはどうせ同じだ! 他の国を足場としか考えていないんだ!」

 

 気圧された自分を恥じるように、叫び返す。

 

 あいつらは正義という都合のいい言葉を振り回し、自分達の都合のいいように世界をかき回す。

 

 歴史の闇を押しつけて、汚いものはすべて周り中だと勝手に言い放ち。

 

「私たちを助けてくれなかった・・・かな?」

 

 図星、だった。

 

 恨んでいた、憎んでいた。

 

 けれど、その中には正義のために動いていながら、自分達を救ってくれなかったあの国に対しての、絶望が確かにあった。

 

「正義のヒーローなんてさ、国家に求めるものじゃないよ。国家が護るのは国民なんだ。それ以外は理想や理念だって、捨てるものだ」

 

「だから、忘れろというのか? 私達の場合は仕方がなかったから、忘れろというのか、貴様は?!」

 

「違うよ」

 

「なら邪魔をするな! 私は私の恨みを晴らしてやる! 私達の悲しみをあいつらにも味あわせてやる!」

 

「それも違うよ。それは、君たちがやっていいことじゃない。悲しみを誰かに押しつけるのは、間違っている」

 

「だからなんだ?! 貴様はヒーローのつもりか?! 私たちを救わずにあいつらは救うのか?!」

 

「俺はヒーローじゃないさ。俺は・・・・・残虐な破壊神だよ」

 

 薄く笑う彼に、絶対的な恐怖がにじみ出ていた。

 

「俺みたいなやつがヒーローを語ることは許されない。彼らは何時だって誰かを助けるために戦う。でも、俺は俺のために戦う。自己のために戦うやつがヒーローを名乗れるわけがない」

 

「なら、邪魔を、するな」

 

 どうにか言葉を絞り出す。

 

 圧迫感はまだ続いているが、動けないほどじゃない。

 

 エネルギーは充填済み。後は引き金を引くだけ。

 

「でもね、だからといって悲劇を見逃せるわけがない。今の俺は、一応は軍人なんだ。知っている? 『命を奪う武器を持つ者は、命を守る、その一点においてのみ存在が許される』って、昔の人が言っていたこと」

 

「だからなんだ?」

 

「うん、だからね、その人が持っていた『矜持にかけて』、君にそれを撃たせるわけにいかない」

 

「は! 結局は私を止めるんじゃないか!」

 

「うん、止めるよ。俺じゃなく、彼女達が、ね」

 

 幻のように、彼はそこで姿を消す。

 

 何がと見つめる彼女の視界に、海をかき分け、深海棲艦を撃破しながら近づいてくる影が見えた。

 

「艦娘か・・・・・・・そうか」

 

 何がそうか、だったのか。彼女は、その答えを今も出せずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら吹雪、敵『姫級』の撃破を確認・・・・・・・・・全員が動けないので助けてください』

 

 吹雪、暁、大和、瑞鳳、清霜(テラの艤装全開使用)、電、加賀、翔鶴、蒼龍、金剛、榛名のごり押し。

 

 全員が第零種まで使った今回の作戦の最後は、ハワイ諸島を跡形もなく消し飛ばした。

 

 戦場をもっと選べなかったのか、それとも彼女が固執したのか。

 

 理由は今も解らない。

 

『追加情報は一点。『未確認艦娘を保護』以上です』

 

「お疲れ様。全員、その場で待機。高天原で迎えに行ってあげますから」

 

『はい、提督』

 

「代行ですよ」

 

 優しく答えたルリは、それでフっと息を吐いた。

 

「作戦終了。後は任せて私達は全艦娘を収容後に後退しましょう」

 

「解りました」

 

 大淀が通信を始めるのを横目に見ながら、ルリは思う。

 

 これで太平洋の半分は取り戻した。

 

 あの姫の勢力を考えれば、ほぼ太平洋を取り戻したといってもいい。

 

 となると、だ。

 

「ヨーロッパ、あるいはイギリスあたりが騒ぎそうですね」

 

 また遠いところを、とルリはため息をつくそうになったという。

 

 

 

 

 





一幕が終わり。

次の幕が上がる。

悲劇か、それとも喜劇かは、聞き手次第。

さて、次は誰が道化となる?


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