少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
迷走中につき、回想にてまとめました。
暴走してます、何故でしょう?
ポツンと額に落ちた水滴で、彼女は瞳を開いた。
「ああ、久し振りの入渠中だぁ」
ズタボロのボロボロだ。航空機は全滅、新型の『鴉』まで持っていったのに、一機も残らない。
三千機全滅、流石に凄い。
「はぁ・・・・・・」
溜息をついて、再び瞳を閉じた。
あの時は本当に大変だった。
あいつ―敵の親玉に最初に接敵したのは、吹雪だった。
『目標視認!』
『装甲空母? 戦艦? いえ、ちょっと待って』
暁からの報告も明瞭ではないため、偵察機を向かわせる。
念のため電星にフォールド・ブースターつけたタイプ。
「発艦!」
自分の背後に控える第零種装備の空母型から、最大出力のリニア・カタパルトで出撃。
行きはワープ使用、目標地点は吹雪からの情報連結で把握済み。
偵察機が目標上空に到達、画像送信開始。
「ふぇ?」
「何何、瑞鳳さん、何が見えたの?!」
隣を進んでいた清霜に、反応もできない。
「電、先行します」
少し後ろを進んでいた彼女は、画像を見る前に増速。
彼女に従っている大型の二隻から、腕の長いロボットが浮かび上がり、飛翔していく。
「何これ?」
偵察機からの情報途絶。
落ちる瞬間、光が見えた。
「対空ビーム?」
「光学兵器搭載タイプ?! 座標地点確認、衝撃吸収機能最大設定。弾種炸裂徹甲弾!」
清霜が停止、続いて彼女の第零種に命令を下す。
百センチ連装砲。規格外の大きさを持つ巨砲が、静かに頭を上げる。
「装薬強! 撃て!」
五隻の船から放たれた百センチ砲弾は、轟音で周囲を揺らしながら相手に突き進む。
「瑞鳳さん! 弾着!!」
「今用意してる!」
偵察機は落とされたが、まだまだ数はある。今度はバリアー搭載型で行ってみるか。
一機ではなく十二機投入。
これで今度こそ、と考えているところに、清霜の一撃目が入った。
「弾着!」
まだ五千メートルはあるのに、衝撃波が響いてくる。
怖い威力だなぁと瑞鳳が思っていると、通信機が鳴った。
『清霜! 連射! 位置はあっているから連射して!』
珍しく、吹雪が悲鳴じみた声を出している。
「え?」
『相手は無傷です、信じられない』
今度の報告は、大和から。合流したらしい。
『瑞鳳は現在位置から動かないで! なんて防御力!』
「え、え?」
『清霜も近づかないのよ! かばって戦えないわ』
珍しい、暁が弱音を吐くなんて。
「了解! 瑞鳳と清霜は現在位置にて援護します!」
「行くよぉぉぉ!!」
轟音が、再び大気を揺らして、瑞鳳の体も震えた。
「はっくしょん!!」
「・・・・・・・浴槽で寝ないでください」
気がつくと入渠中。隣には呆れた大和がいた。
「は、ははは、ごめん」
「いいえ。今回は本当に、大変でしたから」
「うん、そうだね」
瑞鳳はそう呟き、天井へまた顔を向けた。
流れる景色を見ながら、電は膝を抱えていた。
今回の作戦では、第零種をもっとも多く使った。誰もが第零種を持ち出して、多くの深海棲艦を撃った。
けれど、自分は、撃つだけだった。
ギュッと唇をかみしめる電は、瞳を閉じた。
「電、先行します」
瑞鳳と清霜を置き去りにして先行。ニヒトが動き出し、敵の航空機や魚雷艇を闇に沈めていく。
「相手は誰なのです?」
突き進む先に見えた影は、まさに異形だった。
空母でも戦艦でも、陸上型でもない。初めての相手は、狂気に染まった顔を向けて笑っていた。
怖いと初めて思った。救えないと思ってしまった自分に、電は拳を振り上げる。
頬に一発入れる。
そんなこと考えていたら、敵を救うなんて言えない。
誰でもない自分でいいだしたことだ。他の誰かに押しつけられたことじゃないのに、自分から捨てるなんてできるない。
あの日に傷つけてしまった由良達のためにも。
特訓してくれた暁と吹雪の涙のためにも。
何より力をくれた人達のためにも。
「行ってニヒト!」
舞いあがった虚無の申し子は、鋭く飛ぶ。
砲火をかいくぐり、敵の攻撃を交わし、懐に入り込んだところで、バリアーに弾かれる。
「なら、足元です!」
ニヒトの背から、ワイヤーが舞う。
突き刺さったそれらから結晶が生み出され、相手の艤装を支配する。
同化現象と呼ばれるそれが、ニヒト達ファフナーの特徴。
条件さえ合えば、相手の艤装さえも支配下における。
しかし同時に、それは諸刃の剣でも有る。
瞬間的に流れ込むイメージ。電の体中を駆け巡る、相手の憎悪。
アメリカに裏切られたこと。死んでいく仲間たち。どう足掻いても抜け出せない泥沼に落ちてく感覚に、電は足を止めてしまった。
「ファフナーなんて操るんじゃない!!!!」
目があった。相手の攻撃、光学系が迫る。
咄嗟にニヒトが楯になった。闇のようなスフィアを広げてビームを吸い込み、再び突撃していく。
姫が狂気に染まった顔を向ける。
でも、今度は電は下がらない。
色々な感情の中、狂気の底にあったものを見つけてしまったから。
『助けて』。
彼女は確かにそう言っていた。
「助けるのです。私の全部をかけて、助けますから!!」
叫びながら近づいた電は、僅かな振動に立ちあがる。
高天原が進路を変えたらしい。
結局、彼女を救ったのは吹雪。自分は途中で、精神力が尽きて後退。
「まだまだなのです」
もっと強くなりたい。強くなれば、救える命が増えるから。
決意を決めて、電は鎮守府の中へと戻っていった。
深くため息をつく。
鉄の焼ける匂いと、飛び散る火花。
「明石、どうですか?」
「まあ、根幹は無傷なのでパーツごと交換すれば」
目の前に置かれた艤装は、大部分が歪んでいたり、破損していたり。
「今回の作戦は全員の艤装が破損しているから、修理が完了するのにかなりかかりますよ」
「ごめんなさい。今回は、なりふり構っていられないから」
「金剛さんが気にすることじゃないですよ」
慰められ、彼女は小さく苦笑する。
大丈夫ですよと明石は告げて、再び作業に戻る。
舞い散る火花が、ゆっくりと金剛の視界を染めていく。
あの時、合流した時にはすでに吹雪と暁、それに大和が敵の周りを囲んでいた。
「追いついた!」
「お姉様! あれはどんな敵なのですか?!」
追従してきた榛名の質問に、金剛は答えられなかった。
長い白髪に赤い瞳。漆黒のドレスを纏った女性は、巨大な砲身を持つ武装を抱えていた。
それだけなら、姫級だろう。
彼女が立つ場所、その周囲からは腕のような主砲、飛行甲板のようなもの、あるいは単装の砲身、魚雷艇や戦車のような物体。
海面を埋めるほどの巨大な何かが、周りにひしめいていた。
「要塞・・・・・・・」
海軍基地を要塞化したら、恐らくこんな感じになるのでは。
不意に金剛はそう思った。
「金剛! 榛名! 攻撃には触れないで回避を!」
チラリとこちらを見た吹雪は、そう叫んだ後は目の前の『姫』級に顔を戻した。
あの彼女でさえ、集中しないと不味い敵か。
「行きます!」
砲撃開始。
従えた第零種艤装は、五十二センチガトリング砲を備えた、徹底的な数で押すタイプ。
一方、榛名は重力波砲と呼ばれる一撃必殺の主砲を備えたもの。
あるいは、突撃をするためのドリルを備えた艦艇。
そんなに接近戦を意識しなくても、と当初は思ったものだが。
攻撃を当てる。次々に当てたとしても、薄く光った幕のようなものに弾かれて反らされる。
それに、先ほどから清霜の攻撃も炸裂しているが、煙が流れるだけで本体にダメージを与えられていない。
「全員回避を!!」
吹雪からの警告に、全員が飛ぶ。
海面を薙ぎ払うようにのばされた光が、周辺海域を薙ぎ払う。
「波動砲を振り回すの?!」
「お前達は邪魔だぁぁぁぁ!!」
光はまるで、叫び声のように周辺海域だけではなく、遥か遠くまでも鳴り響いた。
『きゃ?!』
『清霜!! 全員! 援護射撃が止まるからよろしく!』
「あっちまで届くって無茶苦茶じゃない。瑞鳳、下がれる?」
『うん、大丈夫だと思うけど・・ははは、嫌になる。敵航空機、凄いね』
「知っているよ」
吹雪が答えるように上を見上げると、まるで雲のような影が一つ。
千機は下らない敵航空機の群れが、獲物を睨むように逆落とし。
「対空・・・・・はいいから突撃!」
吹雪は一瞬だけ迷いが、すぐに前を向く。
『追いつきました』
加賀の声と同時に、千機の航空機が突撃開始。
『遅れました』
『お待たせしました』
蒼龍と翔鶴の航空隊も合流。
千機対千機の壮絶な航空戦の下、吹雪達は再び突撃を開始。
敵バリアーを破らないとこちらの攻撃が届かない。
まだまだ損傷はないが、どうやって破るのか。
出来るのだろうか、迷いながら金剛は主砲を放った。
「金剛さん?」
「え? あ、はい」
火花が散る工廠の中、目の前で夕張が手を振っている。
「もう休んでください。後は私と明石の仕事ですから」
「そう、ですね。ならお願いします」
少しだけ迷い、金剛は一礼した。
本当に大変だった。今回ばかりは、もう沈むかと思った。
カチャンと食器同士が鳴った。
しまったと思いながら、暁は視線を上げた。
「暁が食器を鳴らすなんて、珍しいね」
「私も疲れているのね。本当に今回は轟沈が出るかと思ったわ」
目の前に座る吹雪は、『私もだよ』と言って紅茶を飲む。
「損傷の大きいのは、清霜らしいわね」
「テラさんの艤装を纏っていたから、轟沈しなかったからね」
「咄嗟に瑞鳳が庇ったらしいのよ。瑞鳳も瑞鳳で、第零種を楯代りに使ったらしいけど」
本当に、あの波動砲の直撃を受けて、二人が無事だったのが救いだ。
「今回の件、考えさせられたわね」
「まだまだ、私達は未熟だよ。だから、もっと強くなりたい」
「ええ、私もそうよ」
もっと強く。暁は強く思いながら、あの瞬間を思い返す。
『清霜、大丈夫?』
『うん、テラさんの艤装妖精さん達が・・・・・・』
『嬢ちゃんに心配されるほど軟弱な奴はいねぇよ! それより、飛行甲板がやられちまって航空機が出せないなんて、へたくそはいねぇからな!』
『なら出すよ! まだまだやれるから』
あっちはまだ元気らしい。
「空は気にしないで! バリアーを!」
暁の号令に、最初に動いたのは意外にも榛名だった。
「榛名、行きます! まだまだ未完成な技ですが、どうぞ!!」
接近。最大加速をかけて、彼女自身が接近していく。
その瞬間、残りの全員が攻撃を仕掛けた。
彼女が何かやろうとしているなら、相手の気を反らさないと。
砲撃に次ぐ砲撃。魚雷は相手の周りの艤装部分に止められ、本体まで届かない。
接近していた榛名が、右手を振り上げる。
「この身は剣なり、けれど今はこの右手に黄金の輝きを!」
相手が気づく。目線が向けられたが、すでに遅い。
「榛名行きます! 見よう見真似!!
振り降ろされた手は、半透明の光を切り裂いた。
「私の
「何時から訓練していたんですか?!」
大和の叫びに、暁は大いに同意を示す。前々から、剣だとは言っていたが、まさか山羊座の黄金聖闘士の技を使うなんて。
企画外が増える。
「でも突破口はできた!」
「後でとびきりの紅茶を御馳走するわ、榛名」
「感無量です!!!」
一人だけ感激する榛名が下がり、変わるように飛びこむ吹雪と暁。
「出し惜しみなしよ! 万象一切灰塵と為せ、『流刃若火』!!」
「貴方にならやれるはずです」
暁の焔を纏った刀が、吹雪の白い剣が、姫級に突き刺さる。
「おまえらぁぁぁぁ!!」
周りの艤装が蠢く。内側へと向かうそれらを、大和と金剛が叩き潰す。
「こっちにもいますから!」
「私達もいますよ!!」
「三番手!! 蒼龍突撃します!!」
弓を収め、ナックルガードを纏った彼女は、突撃してきた。
空母なんだから、下がりなさいとは言えずに、暁は姫級に刀を向ける。
「おまえらは! 何故そこまでできる! 何故そんな力が持てる?!」
叫び声が響き渡る。
怒りと憎しみに彩られた慟哭、最初はそう思っていた声が、徐々に泣き声に聞こえてくる。
「貴方は、苦しいのね・・・・・・・なら、救ってあげるわ」
刀を振りあげる。
この焔は、最古の死神のもの。
あの世界では死した者を見送る、厳しくも優しい好々爺の刀。
ならば、送ってあげよう。苦しいこの世界から、優しい世界へ。
「私の全身全霊をかけて、ね」
刀を振り回す。舞い踊る焔が世界を照らし、やがて胸の中に赤く燃える炎となった。
強くなりたいと今も、願っている。決して消えることなく。
「強くなりたいわね」
溜息交じりに告げる暁に、吹雪は頬笑みを向ける。
本当に今日は珍しいねと言葉を添えながら。
時計の針が廻る。
ゆっくりと時刻を告げていた針が、十二時を指し示す。
普段なら聞こえない音、それを吹雪は聞いてしまった。
目を開けて体を起こす。
見なれた居室は、今は静かに闇の中にうかぶ。
きっと彼女もこんな闇の中にいたのだろうか。
小さく思い出し、彼女は『姫』が沈んだ時を思い出す。
焔が踊る。流刃若火の炎が周囲を照らし、大気中の水分を消し飛ばし、さらに海面も炙る。
「暁・・・・・・・」
「ええ、解っているわ、吹雪。私じゃ、もう限界みたいね」
赤い炎が徐々に小さくなっていき、やがて刀の形が見えてきた。
「まだ、落ちないのね」
艤装は隅のように焼け落ちた。
装甲も砲撃でボロボロになって砕け落ちる。
「こっちもボロボロだよ」
吹雪が軽く周りを見回せば、立っているのは吹雪と暁だけ。
全員が第零種まで損傷を受けて、海面に漂っている。
合流した加賀と翔鶴も、海面に腰を降ろしている。あの航空機戦は、二人にかなりの消耗を強いたか。
それより前に、無理やりに突破してきたからかもしれない。
「もう終わりにしようか」
剣を持った吹雪がゆっくりと近づいていく。
砲も魚雷も尽きた。後はこの剣だけだが、十分だろう。
手が震える。抜いてから、かなりの時間が過ぎている。そろそろ、自分も限界なのが解る。
周り中を消したい。周り中を食いつくしたい。そんな気持ちが湧きあがり、次第に自分を染め上げる。
「まだ、だ。まだ私はぁぁぁ!!」
「もう終わりだよ。あなたには何も残っていない。艤装はすべて破壊して、手持ちの武器もない。なら、もう終わり」
「まだだぁぁ」
彼女が何かを持ち上げた。薄い光を纏うもの。棒のような、何か。
「サイブレード?」
「あの神とやらがくれたものだよ!!」
刀身が伸びる。一見するとビームサーベルのようなものだが、発生させるものが違う。
相手の精神力を刃とするサイブレードは、その色を青く輝かせる。
まるで海のように、空のように雄々しく。
「そんなに憧れてたんだ」
「違う。私は違う。復讐したかった、あいつらに思い知らせたかった」
「うん、そっか。ならさ、私たちと一緒だよ」
吹雪は微笑む。
剣を真っ直ぐに構え、彼女に優しく語りかける。
「恨んでいるって言っても、憎んでいるって叫んでも、私達には聞こえたよ。『帰りたい、助けて』って」
「違う! チガウ! 私は・・・・ワタシタチハぁぁぁぁぁ!!!」
真っ直ぐ突っ込んでくる彼女に、吹雪は剣を振りかぶる。
「戻ろう。一緒に・・・・・・帰ろう」
一閃。白い刃は、青い刃を切り裂いて、彼女を。
チンと、剣が鳴る。
鞘に再び収めた剣は、あの時と変わらない。
薄闇の中、吹雪は剣を再び元の位置へと戻す。
思い出している最中に剣を抜いていたとは、自分はメンタル面でまだまだ未熟だ。
もっと強くなりたい。もっと高みに上がりたい。
色々と思うことはあるのに、まだまだ足りない毎日だ。
「寝よう・・・・・大丈夫だよ。もう、一人にしないから」
ベッドに入りながら、吹雪は壁のほうへ向けて告げた。
ホシノ・ルリは見下ろしていた。
治療用ポッドに入れられた女性は、今も目を覚まさずに眠り続ける。
「やはり、一致する艦娘はありません。未発見の誰かです」
「深海棲艦の可能性はゼロですね?」
「はい、反応はありません」
大淀からの報告に、ルリは頷く。
彼女はあの『姫』を倒した後に、浮かんできた艦娘だ。
敵である可能性はゼロでも、『敵対しない可能性』はゼロではない。
転生者。神か悪魔か、誰かに死んだ後に他の世界に生まれ変わることを示すが、こういった特殊なケースは初めてだ。
前世の恨みを持ったまま生まれ変わるのは、ルリにとっては初めてのこと。
「彼女が目覚めるまでは監視を続行。念のため、ここには私以外の入室を禁止します」
「はい」
大淀に念を押すルリだったが、杞憂だろうと思う。
「吹雪が連れてきたのなら、大丈夫でしょうが。目覚めるまでの監視は頼みましたよ、『イオナ』、『アリア』」
『了解』
『承りました』
室内に響いた声は、大淀には聞こえずに、返答は空に消えていった。
幕は上がった。
彼女たちは、それぞれの願いを抱え、次のステージへ。
そこどこ?