少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
日常が長く続かないです?
シリアスより、シリアルすきですか?
変化は常に戸惑いと混乱を呼ぶ。
しかし、人は変化していく。
昨日より今日を、今日より明日へ向かうために。
誰かが、そんなことを言っていたのを、ルリは不意に思い出した。
「軍令部総長のまま、ですか?」
「ああ、組織は国防軍となったが、軍令部の名称はそのままとのことだ」
「いきなりすべて変えても混乱するだけだから、でしょうか?」
「と、大高総理・・・・・・いいや、大統領も言っていたが」
「あちらの名称は変更したんですね」
「合衆国ならば大統領だろうと、誰かが言ったのを否定しきれなかったらしいが、いささか短絡的ではないかと思うが」
溜息交じりに話す高野は、少し痩せたように見える。
「短絡的なほうが物事はすっきりする。すっきりしていれば、容易に流れていくだろう、と言っていた人物がいましたよ」
「誰かな?」
「私に戦略のイロハを教えてくれた人物です」
懐かしい想いと共に、ルリは思い出していく。
希代の酒好き、チェスも将棋もできないのに、戦略に関しては不敗。
シンプルに単純に、たったそれだけで勝てる。簡単だろうとニヤリと笑った彼は、今も何処かで酒を愛しているのだろう。
「君の先生か、一度は会いたいものだな。君のような戦略家を生み出したのだから、さぞかし立派な人物なのだろう」
「ただの酒好きのじい様でしたよ。それで、今回のお話とは?」
休暇の最中に軍令部まで呼び出された件を問いかけると、高野は軽く苦笑して資料を渡してきた。
「君の戦略・戦術について、軍学校で講義をしてくれないか、と要望だ。提督たちからと、それと私からもお願いしたい」
「はあ、私ごときが教べんとか無理ですよ」
「謙遜だな。あれだけ見事な戦術を展開しておいて、ごときとは言いすぎではないか?」
過分な期待が込められた資料に、ルリは苦笑するしかない。
自分は戦略家ではない、戦術家でもない。
才能なんてあるわけがなくて、物事を深く洞察する術も持たない。
システムをうまく使って、情報を精査して予想して、後は相手を上手く乗せただけで、戦術なんて言えるものではない。
もし、自分が高野が言うとおりならば、テラが動く前にすべてを終わらせている。
ルルーシュのように。
ヤン・ウェンリーのように。
「ごときですよ。私のはシステムさえあれば、誰にでも真似ができますから」
「君は自己評価が低すぎないかね?」
「正当な評価ですよ。お話が以上なら、私は戻りたいのですが?」
できれば、早急に。戻って見張らないと、またあの人が勝手に動いてしまいそうで怖いので。
内心の不安は、彼女の表情からは見ては取れない。
けれど、高野には彼女が何を気にしているかがとても良く解る。
「テラがまた勝手に動きそうか」
「はい。確実に勝手に動きそうです」
「解ってはいたが、あいつはジッとしていることができないのか?」
「出来ませんね。テラさんは基本的に『アウトドア』派なので」
「あれがアウトドア派とは・・・認めたくないな」
深々と溜息をつく高野に、ルリは不本意ながら同意するしかなかった。
講義の件は保留という形となる。
断りたかったのだが、テラのことで迷惑を倍以上にかけているため、強く押しきれなかった。
代理人でも立てていいとも言われたが、どうしたものか。
「確か、シュナイゼルさんの仕事が空く・・・・・・あの人を呼んだら、色々と問題ありそうですね」
いっそのこと、孔明でもと考えて、ルリは首を振る。
ジョーカー帝国の関係者を呼ぶのは、この世界にとって不都合が多い。
別世界なら言い訳ができる。しかしこの世界は、同じ宇宙空間にある。
帝国軍が来たら、深海棲艦は根こそぎ消されるだろう。けれど、それでは意味がない。
もしそれで決着がつくなら、自分達がとっくに終わらせている。
この星の人たちが、その人達の手で勝ち取るからこそ、平和に意味が生まれてくる。
だから、帝国も自分も、『サイレント騎士団』もいらない。
最初にテラが言ったことを、ルリは否定できずにいた。
あの時も、今も。
「随分と優しくなりましたね。私も」
冷酷な巫女。
神帝の懐刀。
色々といわれていた頃の自分ならば、テラの意見を真っ先に否定して星ごと消している。
「あ、提督!」
軍令部を出たところで、出迎えの女性と会う。
「千代田? バッタ達が出迎えなのでは?」
「無理いって変わってもらいました!」
笑顔でブイサインを出す彼女に、ルリは急速に嫌な予感がした。
「で、後ろにあるストームソーダーは何ですか?」
「このたび私こと千代田はパイロット免許を取得しました!」
「はぁ?」
「一応これで運転に関する免許は完全制覇です!」
「はぁ?」
艦娘って免許が取得できたのか、そもそも免許があるのか。いったい、何処の発行の免許なのか。
色々と疑問を感じたルリの前に、千代田が自分の写真が載っている免許を突き出してくる。
あ、バッタの印がある。彼らの許可証ですか。これ違法では。
疑問が解消されると、さらに疑問が浮かんでくる。
「じゃ、行きましょうか!」
「ええ、はい」
笑顔で告げる彼女に、ルリはどうでもいいかと忘れることにした。
いいや、正確にはその後の飛行があまりにも印象的すぎて、忘れてしまっただろうか。
「・・・・・・・千代田の運転するものに乗る時は、覚悟をしないと」
執務室に戻った彼女は、大淀にそう告げて倒れたという。
キンと、澄んだ音色が盤上を流れていく。
「珍しい手を使うわね」
「そうか? 先日、キリシマとやった時の彼女が使っていた手だ」
「キングが動く、ね」
なるほど、悪くない手だ。
最強のコマといえば、キングかクィーン。しかし、キングが討ち取られた終わってしまう。
そのキング自らが動く。
「悪くない手ね。本当にそう思うわ。キリシマも面白い手を考えつくのね」
「彼女も教わったらしいぞ。提督がチェスではよく使うらしい」
「提督が?」
意外だ、とウォースパイトは思う。
目の前のアークロイヤルが言ったことが正しいなら、彼女の手はまずキングを動かすことになる。
しかし、だ。彼女が関わった作戦ではキングが動いたことはない。
「本気ではなかった、ということかしら?」
「提督のことか?」
「ええ、彼女の戦術は、フブキさんやアカツキさんを投入することはあるけれど、一番の『キング』は動かさないから」
「ふむ、テラさんか」
小さく頷く。
鎮守府時代から、今現在も不敗。一度も倒れることもなく、一度も傷つくことはない。
戦ったことは、ある。訓練や模擬戦で挑んだことは、山ほどある。
触れたことは一度もない、絶対的な頂点の存在。
「それは違うわ、ウォースパイト」
「え?」
答えは横から。視線を向けた先には、ビスマルクが興味深そうに盤上を見つめていた。
「提督にとって、テラさんは『ジョーカー』なのよ」
「そう。なら彼女にとってのキングは何かしら?」
「以前、私もチェスで挑んだ時に聞いたことがある。『私にとってキングは、そうですね。提督代行としてなら貴方達艦娘。巫女としてならば、『アルカディア』でしょうか』と言われたわ」
少しだけ意外に思う。
それはつまり、常にキングを動かし続けていたということか。
「軍人、政治家、民間人、そういったものを含めてらしいけれどね」
軽くウィンクするビスマルクに、似合わないわと思わず告げてしまう。
「む、プリンツが最近はよくするからやってみたが」
「似合ってないぞ、ビスマルク。『鉄血』には特にな」
「そうかしら?」
「そうだ」
「ドレスに着替えたら似合いそうよ」
軽く忠告すると、ビスマルクは自分の体を見回した。
ジーパンにジャケットでは可愛いとは言えないか。
「着替えてくる。二人とも覚悟してなさいよ」
素早く動きだす彼女に、アークロイヤルと共に笑ってしまう。
「何を着てくると思う?」
「和服じゃないわね。ならば、真紅のドレスとか?」
「ふむ、私は青いドレスではないかと思うが」
「賭ける?」
「乗った」
では、お互いの『キング』をかけて勝負。
二人はそう笑い合った。
その後、十二単を纏ったビスマルクの出現に、二人して言葉を失うことになるのだが。
ギュッと抱きつかれることは、彼女にとって日常茶飯事。
昔から甘える時は抱きつかれるのだから、もう慣れてしまった。
しかしだ、今回はかなり長くはないだろうか。
「瑞鶴、もういいのではないの?」
「まだ」
溜息をつきそうになって、慌てて止める。
今は姉妹だけではなく、空母組全員がいる。
鳳翔もいるのに止めないから、これは必要なのことなのだろう。そんな場で長女として溜息をついては、加賀型の名が廃る。
凛として背筋を伸ばし、誇りを持って前を向く。
今日も自分はきちんと長女として。
ならば他に不満はない。
「加賀姉さん、あれってかなり熱くないのかな?」
「瑞鶴も、暑くないのかしら?」
「末の妹ですが、日本語はまだまだ未熟ですが、御二人の言葉が違う意味を持つことは察せました」
「偉い、サラトガ」
飛龍に褒められ、彼女は『えへへ』と笑っているが、今の加賀は微笑むことはない。
はっきりいえば、暑い。いや、熱いになるか。
空母全員が集まった室内には、異常なほどの熱気が満ちている。
休暇中、休日中。しかし、その前にやらなければならないことがあった。
あの提督さえも折れるしかなかった案件。
「では、瑞鶴が『蒼の迷宮』を完成させたのは、偶然だった、と?」
「そうやな。見てみい、ここなんて綱渡りやないの」
赤城の再確認に対して、龍驤は大きく頷く。
「けれど、蒼の迷宮は綱渡りでは? そもそも、理論上は破綻していると結論が出ていませんでしたか?」
「理論的な問題では形成できない、が正しいのでしょう」
再度の赤城の言葉を、鳳翔が柔らかく修正した。
「そもそも、単艦で十六隻の編成を操り、その上で相手側の情報を的確に収集し精査して行動を先読みする」
「それでようやっと、第一歩。で、先読みした相手側の行動に対してのこちらの迎撃手段で、状況がどう変化するっちゅうのも考慮せなあかん」
「これでようやく半分。残りは味方の武装、弾薬、燃料。相手側の武装や装備の情報と正確な相手の技量」
「できる奴、いる?」
龍驤の視線に対して、真っ直ぐ見詰められた空母艦娘はいない。
あまりに膨大な情報処理と、全艦娘の艤装に対する知識の深さ、深海棲艦に対しての知識量の大きさ、それらが前提条件としてあるため、鳳翔や赤城は不可能と返答した。
なのに、だ。瑞鶴は諦めなかった。ずっと訓練して学んで、知識をため込んで、あの作戦での成功だ。
しかし、後で戦闘データを見直すと、よくぞ成功したといえる。
綱渡りに偶然、荒も目立つ艦隊運営等々。
「しかし、偶然でも完成させたのは、大きいですね。よく頑張りましたね、瑞鶴」
鳳翔からの褒め言葉に、彼女は一瞬だけ顔を上げ、『はい』と答えて、また加賀の背中に顔をうずめる。
「あれ、末期症状ってやないの?」
「加賀姉成分が足りないって、本気だったのね」
「愛されてますね、加賀さん」
龍驤の呆れ顔、鳳翔の微笑み、さらに赤城の褒め言葉に対して、加賀は小さく首をかしげた。
「愛情が重い時もあります」
彼女の顔には、『あつい』と張り付いていたが、誰も助けようとしない。
理由、何故か今の瑞鶴からは『魔王のような覇気』を感じるためだ。
今日の出来事を、彼女は見つめる。
『悲劇、提督代行、千代田の操縦で倒れる』。
『ビスマルク、十二単で廊下を疾走』。
『加賀、瑞鶴に撃墜される』。
「・・・・・・・うちの鎮守府って、夢がありますよね」
後ろで編集作業を手伝ってくれている秋雲が、とても疲れた顔で言った。
「はい、夢がありますね。でも、人が抱く夢って言うのは、ちょっと悲しいものがあります」
青葉は答えつつ、記事を書き直していく。
とてもじゃないが青葉通信に乗せられるものではない。
どれも、誰かの弱みになってしまい、傷つけてしまうから。
「ああ、そういえば、『人の夢って書いてはかない』って読むのよね」
「衣笠、何故こんな状況でそんなことを言うんですか?」
「え?」
きょとんとして顔を上げる彼女に、青葉は深くため息をつく。
「今、それを言ってしまったら、うちの鎮守府は物悲しいってなりますよ?」
「ならないよ。楽しいって意味になるじゃない」
「何処をどう見たら、この状況が楽しいと?」
「だって、毎日がお祭り騒ぎみたいに、色々あるから」
ああ、納得。
青葉は笑顔で告げる妹に、そう思ったという。
「それで、今回は何があったんですか?」
「バッタ達、給料日前に新製品を出すって言うんだから」
「ああ、給料が足りなくなった、と?」
「お願い青葉! 手伝うからバイト代!!」
両手で拝み倒す妹に、姉は仕方ないかと思ったのでした。
「ちなみに、鎮守府じゃないですよ」
「こっちの方が言いやすいから、つい」
朝、目が覚める。
気の知れた仲間がいる。
後は、楽しい会話と、少しのスリルがあれば、十分に毎日は楽しい。
だから、余計に増やさないで。