艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。


吹雪という剣1

 時々、不意に吹雪は思い出す。

 

 日常の中で、あるいは夢の中で。

 

 飛び散る飛沫と、舞い踊る白刃の中で、前を見据えたまま不敵に笑う彼を。

 

 敵が何万だろうと、相手が強くても。

 

 彼は常に、前を見続けていた。

 

「夢・・・・・・」

 

 呟いた言葉が空に溶ける前に、彼女は体を起こす。

 

 見なれた部屋、八丈島鎮守府では当たり前の個室の中で、彼女は視線を巡らせる。

 

 変わらない自室の中で、ふと視線を止めたのは机のところ。

 

 ベッドから起き上がり、机を通り越して、その先へ。

 

 壁と机の間に置いてある、立て懸けにおさめられた剣。

 

 白一色の鞘には銀色で翼と風の文様が刻印されており、柄には薄紅の布が巻いてある。

 

 吹雪は自然と剣を持ち上げ、鞘から少しだけ剣身を覗かせる。

 

 雪の結晶を模した飾りと、そこから伸びる刃は白。曇り一つない真白なそれを眺めながら、吹雪は無意識に口を動かした。

 

「私は、まだ・・・・・弱いです」

 

 言葉は剣身に吸い込まれる前に、鞘に遮られた。

 

 

 

 

 

 

 変わらぬ日常は、とても大切で愛おしいもの。

 

 例えそれが、殺伐とした兵器の調整で会っても。

 

「それじゃ始めま~~す!!」

 

 元気のいい明石の声が広がる格納庫の中で、吹雪は顔を上げる。

 

「今日は予定通り吹雪さんの『第零種艤装』の定期メンテナンスと接続テストを行いますね」

 

「はい、お願いします」

 

「了解です! それじゃ、いってみましょう!」

 

 明石が手元のコンソールを操作する。

 

 すでに艤装のメインは接続済み、後はサブ・ユニットとのリンクまで起動させれば終わる。

 

 何時もと変わらない。最初にこれを手に入れてから、ずっと同じ。

 

「メイン・ユニット起動確認。主動力炉、正常稼働中。副動力炉、問題なし。動力ケーブル、エネルギーの伝達ロスなし」

 

 チェック項目を読み上げる明石の声のみが、格納庫に流れる。

 

 第二種や第三種なら起動音がするのだが、第一や第零は起動音がしない、完全防音で作られているらしい。

 

「はい、完全起動確認! 続いて、サブ・ユニット。一号艇、起動確認。二号艇、起動確認。三号艇、起動確認。四号艇、起動確認」

 

 次々に動力炉に火を灯すサブ・ユニット。

 

 一目ではモーターボートの船体に、上部に主砲塔や対空火器、VLSなどをつけた形をしている。

 

 作戦や使用者の好みで武装を変えられる、便利なサブ・ユニットだ。

 

「五号艇、起動確認。六号艇・・・あれ? 六号艇、動力炉は起動終了。でも、接続と同調指数がゼロ?」

 

「え?」

 

 突然の話に、吹雪は振り返る。

 

 自分の後ろ、三連装の主砲塔二基搭載した六号艇は、その場で浮遊しているだけで、動くことはない。

 

「ちょっと待って! 吹雪さん、今から機械のチェックを行いますから、そのまま動かないで!」

 

「あ、はい」

 

「なんで?! どうして?! 回路は正常、動力炉問題なし、システムも問題なし、え・・・・ええ?! なんで他すべてが正常でその二つだけ数字が出てこないの?!」

 

 異常事態に明石が叫ぶが、それは吹雪のほうこそ聞きたい。

 

 今までこんなこと一度もなかったのに。

 

 無言のまま、手を伸ばす。

 

 傍にある六号艇へとそっと伸ばした手は、それに触れることはなかった。

 

 まるで逃げるように、六号艇は、吹雪の手からすり抜けたから。

 

「あ・・・・・・そうか。そうなんだ」

 

 たったそれだけで吹雪には原因が解った。

 

 自分が弱いから。

 

 まだ自分の力じゃ何もできないから。

 

 だから、これは自分の弱い心が招いた、当然のことなんだ、と。

 

 彼女は小さく、自分の心の中で、自分自身を責めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その話をルリが聞いたのは、午後の執務が始まったすぐだった。

 

「え? 吹雪が『第零種』の起動失敗?」

 

「はい」 

 

 報告書を持ってきた明石は、とても落ち込んだ顔をしていた。

 

「貴方のせいじゃありませんよ、明石。データは?」

 

「ここにあります。ですが、提督、艤装側の不備です。これは何時も整備している私のミスですから」

 

「別に艤装側の不備と決まったわけでは」

 

 なおも自分を責める明石を励ましつつ、ルリはデータを読み取る。

 

 艤装側に不備はない。ルリから見ても見事なほどしっかりと整備されている。

 

 念のためバッタ達にも確認してもらったが、『お見事』と返答が来た。

 

「不備はありません。艤装側の問題ではないようですね」

 

「けど、起動しなかったんですよ? 私、明日一日をかけて六号艇をオーバーホールします」

 

「必要ありません。やったところで原因は出てきませんよ」

 

「なら、どうしてですか?」

 

 他の原因なんてない、と顔で語る明石。

 

 しかし、ルリとしては別の原因はすぐに浮かんできた。

 

「吹雪側に問題があった、ということです」

 

「それこそありえません!! うちの最古参の吹雪さんですよ! あの人がミスをするなんて・・・・」

 

「しますよ」

 

 絶対の信頼を向ける明石をチラリとみてから、ルリははっきりと言い切る。

 

「ミスをするんです。最古参だろうと新人だろうと、するときはしますから。特に吹雪はメンタル面での弱さを克服しきれていない」

 

「まさか、姫級六匹に囲まれても平然としていた吹雪さんが、そんなこと」

 

「表に出さないだけで、内面では号泣していたはずです。あの子は、ちょっと情緒不安定なところがありますから」

 

 最初に会ったときから、そういった不安を押しこめるのが、吹雪という艦娘だったから。

 

 ルリは明石へと顔を向けて、続ける。

 

「第零種装備の再起動試験は、延期で。一朝一夕でどうにかなる問題ではないので」

 

「解りました。ここは提督の判断を信じます」

 

 少し不満はあるが、明石は引き下がる。

 

 自分ではどうにもできない問題だと、理解したのだろう。

 

「代行です。この一件は、専門家に任せることにします」

 

「専門家がいるんですか?」

 

「精神面ではなく、吹雪を奮い立たせる専門家、というべきでしょうが」

 

 誰だろうと疑問を浮かべる明石に対して、ルリは悪戯っ子のように笑う。

 

「まあ、うちの鎮守府の艦娘達にとっては、特効薬のようなものです」

 

 ますます、誰のことは解らずに疑問を浮かべる明石だった。

 




気づかれたくなかった。
気づいて欲しかった。
あの人にだけは、知られたくなかった

だから、私は・・・・・私を圧し殺す。

イ ツ マ デ ソ ノ マ マ?
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