少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
「いつから、君が主人公だと、錯覚していた?」
「え? そんなわけないじゃん。馬鹿なこというなよ」
「ですよねー」
的な話。
この物語の主人公は、艦娘です!
あいつは狂っている。
昔、彼はそう言われていた。
彼が最初に兆しを見せたのは、五歳の頃。
自らの心臓をえぐり出し、握りつぶして見せた。
幸い、彼の両親の特殊性、特に母親から与えられた能力のおかげで、心臓は今も彼の中にあるのだが。
何故と問いかける親に対して、彼は狂ったように笑いながら答えた。
『強くなるため』、と。
それから、彼は人が変わったように戦い続けた。
魔獣がいると知れば、素手で戦いを挑んで血まみれになり。
艦隊がいると聞けば、剣一つで艦隊の中に飛び込んで弾け飛ばされる。
ただ、強者を求めて。自分が強くなるために、自分の体のすべてが必要ならば迷いなく差し出し、魂さえもいらないと叫ぶように。
毎日を戦い続け、血まみれになって戻る度に、彼は強くなっていった。
彼が強くなれたのも、今も生きていられるもの、一族のおかげ。
そして傷つくたびに、体が再生されるたびに強度が増していったのは、母親のおかげ。
天魔の一族。吸血鬼の真祖を生み出したとも、魔神の母親とも呼ばれる一族の最後の純潔の姫。
再生と強化と倍加。
血に刻まれた祝福は、彼を強くし続けた。
やがて、周りも気づく。
彼の狂乱をそのままにしたら、きっと世界さえも滅ぼしてしまう。
歯止めを、楔を打ち込むために与えられたのは小さな少女。
新しい世界において生まれた電子の女神の欠片と、天女の遺伝子から産み落とされた、マシン・クエスター。
ホシノ・ルリと名付けられた少女は、彼と最初に会った時に八つ裂きにされた。
けれど、彼女は笑っていた。
『主がそうと望むのならば、死さえも幸せである』と。
結局、一族が与えた楔は、止めることなどできずに、彼の狂気を加速させていく。
そんな生活を続け、十歳を超えた頃、彼は二人の幼馴染の涙と叫びと。
憧れていた『正義の味方』によって、ようやく人間に戻れた。
人を知り、優しさを知り、世界を知り、暖かさを得て、そして『神を殺せる能力』を持って。
それがテラ・エーテルという存在。
『神々さえ滅ぼせる』絶対者、『神帝』と名付けられた彼の過去。
『だから、俺は運命が嫌いだ。神様が嫌いだ』。
彼はいつか、そう言っていた。
世界のどこでもない場所。
輝くような雲が敷き詰められた場所で、絶世の美形が悪態をつく。
「ああ、くそ。今度こそ面白くなるって思ったんだけどな」
彼は深々と溜息をついて、右手を振るう。
一度目の奴は、たった一体の駆逐艦に倒れた。
二度目の奴は、惜しかったが、複数の艦娘に倒された。
ならば今度は行けるのでは。
「まったくつまらない。楽しくないじゃないか。人間が必死に抵抗するから、僕ら神が楽しめるのに」
空中に浮かぶ水晶には、地上の様子が映されている。
訓練する艦娘達。
議論する軍人たち。
どれもつまらない存在だ。普通すぎて、まったく予想通りにしか動かない連中。善意ばかりが多くて、楽しみも愉悦もない。
だから、転生者を送り込んだ。
世界をひっかきまわして、多くの喜怒哀楽を描き出し、神々の永遠を慰めるために。
「次はどれにするかな~~~。いい色の魂はたくさんあるけど、最後まで行けるかどうか」
楽しそうに選ぶ彼の顔は、心の底から笑っているように見えた。
世界を生み出し、人を生み出し、そして運命を生み出した。
そんな神がいたとしたら。
「神様! 大変です!」
「なんだい、騒々しい」
「侵入者・・・・・」
飛びこんできた天使は、言葉の途中で二つになって消えた。
「へ?」
天使を切ったのは、剣。白く曇り一つない剣は、そのまま床を切り裂いて、部屋中を切り刻む。
連結刃と呼ばれる刃が、縦横無尽に部屋を走り抜ける。
「な、なんだい?! ここを僕の! 神の居城だと知っての狼藉か?!」
「うん、知っている」
連結刃が止まる。まるで逆回しのように流れた刃は、二つの剣となって彼の手の中にあった。
漆黒の髪、紫色の瞳。
幼さなど残らない青年の姿をした彼は、ゆっくりと神を見つめる。
「・・・・・テラ・エーテル?」
「名前、知っているってことは、君が本当に彼女達を転生させた神様?」
「あ、ああ。そうだ。僕が神だ、だから君は・・・・・」
「消えろ」
「ひ?!」
一閃された刃が、空間を削る。
神の領域さえも消せる力。神殺しの御業。
「たかが人間が、こんな力なて持てるわけがない! おまえは何者だ!!」
「俺は俺だ。運命って言葉が嫌いで、先祖の呪じみた願望にさらされて、そして・・・・・・・おまえを殺すものだ」
「馬鹿な!! 僕が消えれば世界の法則が消えるんだぞ!!」
「消えないさ」
テラは一瞬だけ神を見つめ、左手を振るう。
剣の一撃は神の半分を消し飛ばし、さらに空間を崩壊させていく。
「おまえは世界を消すつもりか?!」
『そうはならないよ。テラ、イグドラシル・システムがこの世界の管理システムを掌握したよ』
「サンキュー、オラクル」
テラの背後に浮かび青年が、柔らかく微笑む。
「馬鹿な・・・・・・たかが人間が神のシステムを則ったというのか?!」
「馬鹿な? たかが神ふぜいが、人間を甘く見てんじゃない」
剣をテラは構えた。
二メートルを超える剣を両側へ。そのまま少し後ろへ向けて、体は前のめりに。
遠い昔、自分に人間としての戦い方を教えてくれた人のように。
「消えろ」
「ふざけるな! 我々を! 神々を排除してどうするつもりだ?! 奇跡もない! 祝福もない! ただの闇の中を進んでいくつもりか!!」
抵抗を続ける神に対して、テラは剣を振り抜く。
「奇跡も祝福も、きっとあるさ。人間は前に進むからこそ、人間なんだ。例え闇の中でも、人は光をきっと見つける。神なんて頼らなくても、歩いていけるさ。だから、おまえらは消えろ」
剣の一撃は、ゆっくりと、確実に神を滅ぼした。
昔々のホシノ・ルリは、とても容赦なかったという。
障害物があれば爆撃。
邪魔する者には砲撃。
異論ある者にはミサイルの雨を降らせる。
テラの道に一歩でも踏み込んだものは、決して許さずに、百億の地獄を味あわせる冷血の巫女。
冷酷、残忍、暴虐の三つの言葉は彼女のためにあるようなもの、と銀河中が震えあがったという。
けれど、彼―テラの昔を知っている者達は口を揃えて別の言葉を言う。
昔のテラにそっくりなのが、ルリだ、と。
「・・・・・・・・」
『神帝城』『翼燐宮』内のテラの自室のベッドで、彼は突っ伏したまま動こうとしない。
「で、オラクル。『いくつ手に入りました』か?」
『うん、合計で十二かな? 細かいのと、生まれたばかりのは抜かすけど』
「これで、手持ちの『世界』は六十二。ちょっとした神となら、睨みつけただけで退散できますね」
ベッドに背を預けながら、ルリは浮かび上がるデータを流し見る。
本当に自分の主は見境ないというか、節操がないというか。
楽しみのために転生させた神がいる。運命を押しつけた奴がいる、だから滅ぼしてきた、と。
テラ・エーテルは運命が嫌いだ。
決められたレールの上を走り、決められたように生きて、決められた終わりを迎えるのが、とても嫌いだ。
自由に生きて、迷いながらも決断して進み、やがて終わる。
納得も後悔も、苦悩も、挫折も。すべてが自分自身を強くすると信じているからこそ、テラ・エーテルは前に進んでいく。
だから、彼自身が『滅ぼすべき敵だ』と認識した相手には、こう言っている。
『おまえの運命を選べ』と。
嫌いな相手だからこそ、嫌いな言葉を叩きつける。
子供っぽい理屈でしかないが。
「イグドラシル・システムの稼働率は?」
『現在、三十二パーセント』
驚異の数字。
六十二もの世界を管理下においておきながら、この程度の稼働率で収まってしまうなんて。
さすが、一族最大の電子大樹。伊達に原初の神を四つも産み落としていない、というべきか。
「でも、テラさん、こんなに『世界』を手に入れて、創造神にでもなるつもりですか?」
「なったら、アラヤかガイアに怒られそう」
突っ伏したまま答えるテラに、ルリは思う。
その前に、バトラーかジャンヌにバレたら半殺しにされないだろうか。
いや待った、アイリスかアセイラムにお説教されるか。
「・・・・・・・ギルガメッシュを超えたとか、レディオス・ソープに勝ったとか、L様に張り合えるとか言わないんですか?」
「第四真祖だけでお腹一杯です」
世界中の財を集めた英雄王と対決したくて、『世界』を手に入れて武器を集め出したのが最初なんて、誰にも言えませんね。
ルリは深くため息をつく。
そもそも、テラの一族は『やってみようぜ』と始めては、『どうやって終わらせればいいの』で肥大していくことばかり。
もっと色々と考えましょうと伝えたくても、ほとんど脳筋ばかり。
「シュナイゼルさんやルルーシュの苦労が解りますね」
ブリタニア家。銀河に名高い格闘家の一族で、五歳児が岩を割るという。
拳は天を裂き、蹴りは大地を砕く。生粋の戦闘民族。
その中にポンっと湧いてしまった頭脳労働特化タイプ二人。
実家にいるだけで胃が痛いといっていたな、とルリは思い出す。
「さてさて、ではテラさん、これで他の転生者は出てきませんね?」
「ん~~~出てきたらまた行ってくる」
「はい、では不確定要素はなくなったというところで」
ルリはブレスレットを操作、ある情報を提示した。
「高野総長からです。次は『欧州電撃戦』らしいですよ」
「・・・・あ! 昔、映画で見たことがある!」
「はい、そこからですね・・・・・・これ本当に大丈夫なんですか?」
ちょっとだけ、最近の軍令部の頭の中が不安になったルリだった。
君にとって、大切なものがあるように。
私にとって、譲れないものもある。
故郷? 思い出? 信念?
違う、私にとって譲れないものは、戦友だ。
後は美味しい酒でもあれば、申し分ない。