艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

書きたいこと多くて、纏まりありません。

再びの迷走中。

うん、終幕までには、戻ります。





心に信念を その背を追って

 

 『欧州電撃戦』開始。

 

 その日、国会議事堂は多くの国民に囲まれていた。

 

 『派遣反対!』、『日本を見捨てるのか?!』多くの怒りと悲しみに囲まれた場所で、そのトップは静かに周りに語っていた。

 

「見たまえ、凄い人だ。私の人気も、まだまだ捨てたものではないな」

 

 軽やかに笑う大高に、誰もが釣られるように笑った。

 

 これから先、今までよりも色々なことがあるだろう。

 

 けれど、きっと乗り越えられる。

 

 乗り越えてみせる。彼らの声があるならば、決して道を違えることなく進めそうだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 航路は遠く、遥かに続く。

 

 誰かが依然、歌っていたことを思い出す。

 

「日本領海を出ます」

 

 大淀の報告にルリは頷く。

 

「警戒中の艦娘達へお礼を。『我らが前のみに進めるは、貴方達がいるお陰です』と」

 

「はい・・・・・相手側より返信、『武運長久を』」 

 

 律儀ですね、とルリは口の中で言葉を転がす。

 

 護衛など必要ないのに、誰もが立候補してくる。

 

 そうして集まった艦娘だけで連合艦隊が組めるほどだ。

 

 優しい人ばかり。

 

 各鎮守府の提督達は何も言ってこない。艦娘が勝手に動いても、それを『認める』といえる優しい人たち。

 

 軍人には不向きかもしれないが、人間としては好感が持てる。

 

「さて、日本の領海を抜けます。各員は勤務スケジュールに従って配置に。『高天原』全兵装を起動。続いて、エクストラボックスを解放」

 

「解りました。総員へ、スケジュール開始。各艦娘は予定表に従って、『エクストラボックス』へ。総員、対空・対艦・対潜シフトに移行します」

 

 これで艦娘は燃料と弾薬を気にせずに、深海棲艦を撃破できる。

 

 『高天原』の各所に設置された兵装と同時に、装甲に展望デッキが張り出し、あるいは装甲板が開いて、内部からベルトで固定された艦娘が外へと身を乗り出す。

 

 古来から母艦の防御は、艦載機にとっての命題だった。

 

 航空機では相手をいち早く叩いて、母艦へ攻撃が向かわないことが必須だったが、やがて艦載機が人型になると別の手段が取られるようになる。

 

 即ち、現在の『高天原』のように、母艦に乗ったままの対空防御要因。

 

 この形式をとる理由は、色々と利点があるためだ。

 

 第一に燃料の問題が解決する。専用のケーブルなどで艦載機に供給することで、内蔵のタンクなどからエネルギーを消費せずとも行動できる。

 

 第二に弾薬などの問題。これもケーブルやベルトなどで火器に直接に供給することで、ほぼ無限に撃ち放題。

 

 そして今回の場合、艦娘がこういった方法をとることで、嬉しい誤算が発生していた。

 

「全員、『六十二センチ単装砲』の準備完了。続いて三十センチ八十八門噴進砲も準備できました」

 

「よろしい」

 

 うん、予想外でした。

 

 ルリは内心でそう思っていた。

 

 母艦に艦娘が固定されると、艦娘の『軍艦時代の排水量や艦種』ではなく、『母艦側の排水量による装備上限』になるなんて。

 

 いや確かに第零種とか、イカサマまがいの方法で巨大な装備を搭載させてはいるが、駆逐艦か海防艦が戦艦の主砲を超える砲を撃てるなんて、考えたこともない。

 

 しかも、六十二センチ速射砲なんて、何時の間に開発したのやら。

 

 バッタかあるいは妖精か。もしかして明石か夕張か。

 

 どちらにしても、人数分も開発終了しているのなら、報告くらいしてもいいのでは。

 

「敵集団確認しました」

 

「よろしい。では各員、『盛大に花火を上げなさい』」

 

「攻撃開始」

 

 静かな大淀の宣言の後、『高天原』は炎に包まれた。

 

 ジョークではない、本当に各所で上げられた火器の炎で、巨大な船体が炎に染まったように見えた。

 

 六十二センチ砲弾に三十センチの焼夷弾。

 

 次々に打ち込まれた攻撃は、例え相手がレ級でも戦艦棲姫であっても、一撃で粉砕していく。

 

「・・・・・・これ、いじめですよね」

 

「いいですか、大淀。私達は最初からいじめを受けているのです。これはいわば仕返し。そう、最初に虐めてきた相手を、強くなったいじめっ子が仕返しをしているようなものなので、大丈夫です」

 

「因果応報ですか? あれはこんなことを言うのではない、と思いますが」

 

 少し非難がましい目線にさらされ、ルリは少しだけ顔を背けた。

 

 やり過ぎた感が、半端ではない。

 

 いや戦争とは非情なもの。相手に情けをかけていたら、こちらの損害が跳ね上がる。

 

「・・・・・勤務スケジュールから電を外しておいて良かったとしましょう」

 

「これ見たら飛び出しそうですからね」

 

 優しいあの子にはちょっと見せられない光景が、『高天原』の周囲に漂っていた。

 

 かつて、一方的に人類を攻撃してきた深海棲艦が、今度は一方的に蹂躙されていく。

 

 因果応報か。そうなると、いずれは自分達も蹂躙されることがあるのだろうか。

 

「あったとしたら、面白いかもしれませんね」

 

 怖くて使えない兵器達も、大盤振る舞いで使えるということか。

 

「提督?」

 

「何でもありません。航路そのまま、全機関出力半分。推進機最大稼働、フィールド前方へ集中展開。加速します」

 

「解りました。全艦娘へ、これより『高天原』は加速します。全員、固定を確認してください」

 

 大淀の艦内放送を聴きながら、ルリはそっと指先を空中に走らせる。

 

 モニターが空中に展開、海図を表示、続いて航路図を展開。

 

 順調に行けば、四日で目標地点。

 

「長い四日、いえ二週間になりそうですね」

 

「『高天原』加速開始します!」

 

 彼女の言葉を置き去りにするように、巨竜は逝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 装甲から突き出すように設置されたハッチに体を固定し、さらに専用の器具に備えつけられた巨大な砲を構える狙う。

 

 六十二センチだろうが、五センチだろうが、砲は砲でしかない。

 

 元軍艦ならば、撃って当てられないわけがない。

 

 『できない者は、今すぐ『血の十字架』を捨てなさい』。

 

 作戦説明の時の提督の顔を思い出しつつ、引き金を引く。

 

「これ空母が撃つものじゃないと思います!」

 

「泣き言はいいから撃て! 普通は使えない巨砲が撃てるんだぞ!」

 

「使いたくないの間違いでは?!」

 

 四方八方から、あるいは通信機から、泣き言が聞こえてくる。

 

「バンバンバンバン!! 次!」

 

 一方で、一人で六つの砲を操る猛者もいるが。

 

「清霜!! 砲身が過熱しているから手加減しろ!!」

 

「解ってるよ! 二番と五番は交換! 一番と三番でフォロー!」

 

「ああもう! 巨砲を扱わせたら『高天原』一だよおまえは!!」

 

「『超戦艦』って名乗ってあげるよ!」

 

「それ違うから!!」

 

 全周囲と通信すべてが清霜のツッコミで埋まるなんて、意外に平和なのかもしれない。

 

『私達のこと、馬鹿にされている気がする』

 

『姉様、私達は『絶戦艦』級ですから。純粋な戦艦とはちょっと違うものでは?』

 

『超超弩級戦艦土佐型がベースだけど、馬鹿にされている気がする』

 

『ちょっと出しゃばってもいいでしょうか、バビロン様?』

 

『後で『焼かれて』もしらないよ』

 

 聞きなれない声がしたが、誰の声だろうか。

 

「清霜!! 次にそれを口にしたら『消す』から!」

 

「ひゃい!? ごめんなさい吹雪さん!!」

 

 珍しく焦った彼女の怒声で、ちょっとだけ静かになる清霜。

 

 少し可愛そうなのだが、自業自得だからと割り切る。

 

『つまんねぇ! なあ、提督突撃しちゃダメか?』

 

『天龍、何度も説明したはずですよ。今は初戦、これから長い戦いがあるのに今から貴方達の艤装を消耗してどうするんですか?』

 

『気合で乗り切る』

 

『誰か、あの馬鹿をたたっ斬りなさい』

 

『五十鈴にお任せ!』

 

『阿武隈立候補します!』

 

『衣笠さんがやったげるよ!』

 

「私もいいかしら?」

 

 ついでに名乗りを上げたら、天龍が盛大に慌てふためいた、と。

 

『ちょっと待てよ! なんでおまえら全員で乗り気なんだ!?』

 

「貴方がうるさいからじゃないの?」

 

『大井!』

 

 事実を突き付けても、彼女は叫ぶことを止めない。

 

 そもそも、気合で何とかなるレベルの話ならば、最初から提督が止めるはずがない。

 

 確かに気合を入れたら艤装の出力や第零種の性能は上がる。

 

 魂に繋がっているものだから、本人のやる気次第で性能や出力は上がっていくらしいが、それでも限界はある。

 

 特に自分達は艦娘だ。いくら燃料で艤装が動いているとはいえ、艦娘自身の体力は無限ではない。

 

 それに楽して勝てるならば、それでいいのではと思う。

 

 昔の自分は、魚雷ばかり積んでいるのが嫌になったことがあった。

 

 砲もある、航空機もある、それなのに自分は重雷装艦。

 

 魚雷のみで敵陣に突っ込むなんて、馬鹿じゃないのかと。

 

 確かに魚雷は強力な兵器だが、今は噴進弾もある、光学兵器もある。

 

 だというのに、魚雷とは。

 

 一発でも当たったら、轟沈するような危険物の塊で、敵陣に突っ込むなんて正気を疑う。

 

 他の鎮守府での大井は、よくそんな装備で平然としていられる。

 

「怖くて怖くて仕方がないのよ、本当に」

 

 次の目標へ砲身を向け、発砲。火薬だけではなく電磁力で加速された弾丸は、狙いを反らすことなくタ級を粉砕した。

 

 本当に怖い。

 

 だから、遠距離から安全に攻撃できる手段に憧れた。

 

 噴進弾を光学兵器を、だというのに自分の装備は相変わらず魚雷。

 

 確かに防御手段は増えたのだが、それでも不安はある。

 

 だから今の状況は自分にとって憧れていたはずなのに。

 

「魚雷が恋しくなるなんて、ね」

 

 馬鹿なのだろうか。

 

 今まで散々に怖いとか嫌だとか言っていたのに、いざ遠距離からの攻撃手段が手に入ったら、『これは違う』と思ってしまう。

 

 自分はやはり、艦娘で。昔の軍艦に乗っていた軍人たちの魂が、今の自分を作っているので。

 

「私は『重雷装艦』ってことね」

 

 小さく口に出し、引き金を引く。

 

 目標撃破。

 

 でもすっきりしない。天龍ではないが、突撃したくなってくる。

 

 先ほどまで通信がうるさかったのに、誰の声も聞こえてこない。

 

『はぁ・・・・・私は安全かつ楽に行くことを考えていたんですが』

 

 提督の溜息の後、後ろから肩を叩かれた。

 

 振り返ってみると、笑顔マークをつけたバッタが三匹。

 

『どうやら皆は、安全な位置からの攻撃ではなく、戦場に立っての攻撃が好みみたいですね』

 

『私たち艦娘は戦士です、提督。申し訳ないが』

 

 長門の言葉に全員が頷いた。自分も無意識に頷いて、笑ってしまう。

 

『はいはい、戦士の矜持に水を差すのは無粋というもの。いいでしょう、総員艤装装着。ローテーションは任せます、好きだなけ暴れてきなさい』

 

『了解!』

 

『ただし! 『高天原』との距離には十分に注意を! 遅れたら迎えを出しますからね・・・・・・・後、私は提督代行です。なので、責任はすべて提督にいくことになりますから』

 

 瞬間、気が引き締まった。

 

 『解っているとは思いますが、テラ提督に手伝わせたら、地獄が生ぬるく感じるほどの絶望を味あわせますよ?』。

 

 ニッコリ笑顔の後ろに、般若が浮かんだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進め、前へ。ただひたすらに前へ。

 

「夜じゃないのが、残念だねぇ~」

 

 気楽な声と同時に放たれた魚雷が、敵艦を次々に沈めていく。

 

 あれが、姉の姿。敵の攻撃を簡単に回避して、自分の攻撃を当てていく。

 

 昼間では実力の半分も出せないなんて、嘘じゃないだろうか。

 

「ほら神通! 遅れてるよ!」

 

「はい! 姉さん!」

 

 自分も決して劣ってはいない。

 

 研さんは積んできた。吹雪や暁の教導にも耐えてきた。他の鎮守府での教導でも、再び学んできた。

 

 それなのに、背中が遠い。

 

 今度こそ追いついたと思っていた。隣に立って戦えるものだと。

 

 思い違いだ。追いついてなどいない。相変わらず姉の背中は遠く、自分の実力はまだまだ足元にも及ばない。

 

「十二天はまだまだ遠い」

 

 小さく口に出してしまい、戦場の只中なのに集中していない自分を笑う。

 

 かつて、八丈島鎮守府がまだ設立されたばかりの頃、テラは艤装を纏って日常的に海域に出ていたらしい。

 

 提督も黙認するしかないほど、切羽詰まっていた頃の話。

 

 テラと艦隊を組み、海域に進出して敵を撃破し続けた艦娘達。

 

 吹雪、暁、それに瑞鳳、鳳翔、そして川内。

 

 ローテーションを組んで出撃した艦娘は、全部で十二名。

 

 何時からか、それが天に等しい実力を持ち、他の艦娘を寄せ付けないといわれてきたから、『十二人の天を狩る者-十二天』と呼ばれるようになった。

 

 『高天原』になって、誰も口にしなくなった。

 

 それは彼女達に追いついたからじゃない。

 

 追い越したわけでは絶対にない。

 

 『辿り着けないと悟ってしまったから』。

 

 彼女達はテラと同じ戦場に立った。彼は周りを気にしてはいるが、戦場に立てば雰囲気そのものが変わる。

 

 気にはするが、フォローはしない。注意しても、補佐は絶対にない。 

 

 自分の意思でそこに立つなら、自分の実力で何とかしろ。

 

 言葉にしないながら、彼はそういって背中を見せ続けた。

 

 ここが、お前達の辿り着く場所だ、と告げるように。

 

 だから十二人は必死に食らいついた。決死の覚悟でその背中を追って、隔絶した実力を身につけた。

 

 追いつけない、決して届かない姉の背中。

 

「諦めたくない」

 

 かみしめるよう告げて、足を前へと進める。

 

 敵の数など物ともしない、相手が誰でも突き抜ける。

 

 我は巡洋艦、水雷戦隊の旗艦。誰もよりも駆けて、誰よりも突き進む者なれば、足を止める暇などない。

 

 神通は進む。魚雷を砲を持って周りを撃破しながら、姉の背中をただ見つめ続けて。

 

「よっし! それでこそ我が妹! あの頃の私と同じ顔しているよ!」

 

「へ?」

 

「うんうん、いい実力だね! その調子で付いてきな!」

 

 振り返っていた姉の褒め言葉に、一瞬だけ呆けてしまう。

 

 その間に、川内は背中を見せた。

 

 テラがそうしてきたように、今度は自分が彼女達に『ここが辿り着く場所だ』と示すように。

 

「ああ、そうなんですね」

 

 不意に神通は悟った。

 

 追いつけなかった、辿り着けなかったと勝手に思い込んでいるだけで、自分達はそこに向かっていたのか、と。

 

 最初の頃の姉と同じ場所に立っていたのか、と。

 

 笑ってしまう。

 

 焦っていて解らなかっただけで、想いは叶っていたのだ。

 

「ほら神通! グズグズしていると置いていくよ!」

 

「はい! 姉さん!」

 

 振り返らずに走る川内を後を、神通は追いかける。

 

 まだまだ遠いけれど、決して届かないわけじゃない背中へと。

 

 

 




船は行く、たどり着く場所へと。

進む先に暗雲があろうとも、進み続けるのが、船なのだから。

人も同じ、だからこそ、私達は前へと進んでいく。



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