誤字報告をうけとり、こんなものでも、しっかり読んでくれることを嬉しく思います。
バーに色がついたのも、驚きです。
頑張りますので、よろしくお願いします。
実は、最終話から、書き始めるスタイルですが、よろしくお願いします。
激戦、続く。
深海棲艦の猛攻は止むことなく、一日、二日と経過してもまだまだ海を埋め尽くすほど。
『敵の目的は『高天原』を欧州におびき寄せての撃破。太平洋と違って、ここならば周辺被害を考えて武装の制限が行えるからでしょうが』
提督の説明を聞き流しながら、手に持った握り飯を食べる。
『天城、葛城、航空機の補充は桜花―ワイバーンと、鳳凰―フォルケンのみで他は必要ない』
赤城からの命令に二人が艦載機の補充内容を変えていく。
『砲弾は炸裂徹甲弾を用意。焼夷弾は味方を巻き込むから外して』
別口では山城が補充される主砲弾について口を挟んでいるが、珍しいこともあるものだと思う。
彼女は与えられたもので、唯々諾々と結果を出すのに。
「北上、魚雷は侵食魚雷を半分に、通常の魚雷半分でいいの?」
「ん、問題ないよ。撃ち切ったらまた戻ってくるから」
最後の一個を食べえた後、ゆっくりと立ち上がる。
「じゃ、それで補充しておくから」
夕張がデータボードに指を走らせている。
便利になったものだ、と北上は昔を振り返る。
前は口頭で指示を出していたのだが、データボードが出回ってからはあれに指示を出せば大抵の補充や修理は行われていく。
『高天原』の第一ドックは、艤装の補充・修理を行う夕張と明石、それ以外に艦娘達が食事するための緊急テントが設置されていた。
海面に接した港みたいな作りのこの場所。普通なら空が見えるところにあるのは鋼鉄の天井。
音は内部のみで、外からは響いてこない。
完全に外と内を隔離したフィールドは、艦娘が出撃したときのみ開くもので、一種の次元断層並の強度を三重以上で展開しているらしい。
『敵の甘さは、こちらの武器が射程を制限できないと考えているところ、でしょうね』
モニターから流れる提督の嘲笑に、北上はそっと息を吐く。
誰だって、光学系や重力系の攻撃が、『範囲設定可能』なんて考えないだろう。
砲弾やミサイル、魚雷さえも一定範囲を進んだ後に自爆するようになっているなんて、普通の思考の持ち主なら考えない。
深海棲艦が普通の思考なのかは、さておいてだ。
周り中が味方、あるいは味方基地での戦闘は、提督たちに言わせれば普通のことらしい。
自分はまだ行ったことないが、宇宙空間で光学系や重力系の攻撃は衰退することなく、ただ突き進む。
範囲指定や威力調整しなければ、やがて味方基地へ直撃しての、『フレンドリーファイア』が起こるくらいに。
だから、『高天原』の火器で範囲指定できない武装はない。
その分、演算とか出力制御とかがとてもきついものになってしまったが、『できないはずがない』と提督は言ってくる。
確かにそんな訓練をやった。
地獄が見えるくらいに、訓練に行って、部屋に戻れずにバッタに運ばれたこともある。
けれど、と北上は思う。
自分達はまだ優しい世代だったのだろう。
『十二天』の頃は、もっと地獄だったとの話を聞いたことがある。
滅多に話さない彼女達。訓練がとか実戦がとか、そんな話を彼女達は言うことはない。
ただ、彼女達の次の世代が見たことがある話が、徐々に伝わっている。
テラ・エーテル。
名を浮かべて北上はゾクっと寒気がした。
自分達のトップ。提督なのに、誰もが提督と呼ばないのは、彼の強さが原因ではと考える艦娘は多い。
指揮官らしく能力を振ることは、滅多にない。
上から押さえつけることもない。
のんびりで明るく、辛いときや苦しい時にはスッと来てくれる、優しい人というのが艦娘達の印象。
だが同時に、抗えない恐怖という一面も持つ。
戦場で見かける彼は、まさに『死』そのものだと。
「あんな人がねぇ~~」
軽く背伸びした後に、歩き出す。
「補給完了。けど、もう日暮れになるけど、本当にもう一戦してくるの?」
「うん、まだまだスコアを伸ばしておかないとね」
「艦娘内のランキングなんてないわよ?」
「それでもさ」
強くなりたいって気持ちは、自分にもあるのだから。
あの提督の元にいるから。
何より、不甲斐ないままで、また『テラに助けられるのは我慢できない』。
ああ、そっか。と北上は艤装を纏いながら、思い至る。
自分達はルリを提督と呼びながらも、心のどこかではテラのことを提督と捉えていた。
あの人に負けたくない。あの人の元にいるならば弱くはいられない。
テラが見せる背中を追い続けた『十二天』がいるように、彼女達の背中を追って彼に追いつこうとする自分達がいるのだから。
「北上、出るよ」
『はい、どうぞ』
さて今度はどれだけ沈められるだろうか。
そして、どれだけ強くなれるだろうか。少しだけ楽しみだ。
死にたくない。
苦しいから助けて。
もう休んでいいよ。
逃げてもいいから。
あいつが憎い、全部あいつが悪い。
死んでしまえ、すべて消えてしまえばいい。
殺してやる、消してやる、世界中が憎い。
心の底で叫ぶ者達がいる。
何時からか聞こえてくるそれらは、とても暗くて深くて、汚れているような、清らかなようなもので。
「うるさいの、です」
絞り出すように、奮い立つように、足を進める。
砲弾が降り注ぐ中、漆黒の渦が周辺を埋め尽くす。
煙さえ残さずに飲み込まれた攻撃を見もせず、片腕を振るう。
瞬間、虚無が降り注ぐ。
攻撃をしかけてきた深海棲艦が、欠片も残さずに闇に沈む様を見つめながら、彼女はこうじゃないと自分を叱咤する。
自分がやりたかったことは、これではない。
相手も救うと誓った自分は、こういったやり方ではなかったはずだ。
「もう、止めてください。勝てないことは解っているはずです」
語りかけることが無意味に思えてくる。何度も言葉を発しても、答えてくれることはない。
もし、答えてくれたとしても、呪いのような雑音ばかり。
無駄だ、無意味だ。何処かでそんなことを言う自分を、握りつぶしたくなってくる。
こんな自分こそ、虚無に落とすべきではないか。
魚雷が迫る、自分の左右に展開している巨大な島のような船が動き、海面を叩き割る。
第零種兵装が、進化することはあるらしい。
最初はただの母艦だったのだが、今では重力フィールドさえ展開する強固は艤装になっている。
虚無と重力。どちらも漆黒の力を振るうそれらが、『おまえは闇だ』と言っているように錯覚してしまう。
電は、それでもいいと思った。
闇は悪いことだと誰が言う。闇は邪悪なものだと、誰かが忌避した。
でも、夜は闇だ。人が安心して眠れるように、光を遮り穏やかに休ませてくれるのは、夜の闇のおかげだ。
「眠りなさい。怒りが忘れられないというなら、恨みが晴れないというのならば、すべて私が受け止めてあげますから。私の腕の中で、眠りなさい」
ニヒトが浮かび上がる。
一機、二機、三機と数を増やしていくそれらは、合計で二十六機。
すべてが虚無と同化の力を使いながら、攻撃のすべてを受け止める。
相手の攻撃を受け止める度に、相手に対して同化を行う度に、自分の中に相手と同じ憎しみがたまっていくのが解る。
憎い、悪い、すべてが消えてしまえばいいと叫ぶ何かが、ドロドロと溜まりたまって自分を埋め尽くす。
いつか、彼女達と同じように自分も世界に憎しみを向けてしまうのかもしれない。
でも、それで彼女達を救えるならば、電はそれでいいと思えた。
命を救うために自分の命が必要ならば、差し出そうと。
「でも、ダメなのです」
グッと体に力を入れる。
相手を救って自分が死んだから、ダメだと諭される。
自己犠牲なんて、馬鹿なことを考えるなと、魂が叫び続けていた。
自分一人救えない者が、周り中の人たちを助けようなど、傲慢だ。
自分さえも支えられない愚か者が、誰かを助けることなどできない。
世界は自分から広がっていくのだから、まず自分を受けれることから始めなければ、世界はやがて自分の想いさえも消してしまう。
『よっし! 電、まず笑おう。笑って大丈夫って言ってみよう。で、後になって辛かったら、俺に泣きついてこよう。俺が笑い飛ばして上げるから』。
いつかのテラの言葉を思い出し、少しだけ笑えた。
「なのです!!」
笑えるうちは大丈夫。本当にダメな時は何を言っても笑えないのだから。
それに、自分は一人じゃない。孤独でないならば、これ以上の幸せはないだろうと、電は前へと進み続けた。
外での激戦は、そっくりそのまま内部での激戦に繋がる。
「すみません! すみません!」
「いいから! 春雨は食事してきて! 間宮さんのところにおにぎりがあるから!」
「でも、手伝います」
「私は補給と整備が仕事! 貴方は?」
手を出して告げると、春雨は渋々といった様子で引き下がってくれた。
「さっすが、古株」
「明石だって年数で言ったら、最初からいたじゃない」
「夕張ほどじゃないけどね。『十二天』の名は伊達じゃないわけだ」
何それと、彼女は唇を尖らせる。
「あれ、知らない? 最初のテラさんと組んでいた十二隻の艦娘の総称。え? 本当に知らないの?」
「そんな風に言われていたなんて思わなかったわよ。私は、ただの実験艦で工作艦のつもりだったから」
整備して、作って実験して、また整備して。
確かに地獄のような日々だったかもしれないが、好きなことは十分にさせてもらっていた。
明石と一緒に色々と作って、好きな技術に触れさせてもらって、不満なんてない充実な毎日だった。
確かに艦隊に組み込まれたら、色々と言ってやりたいこともあった。
吹雪や暁の背中を追い掛けて、戦場を駆け巡ったこともあった。
単艦で姫や鬼級に囲まれた時など、この世に生まれたことを呪ったこともあった。
けど、今になってみればいい思い出でもあるし、あれがあったからこそ今の状況でも冷静でいられる。
「うん、十二隻や二十四隻の艤装の同時修理なんて、まだまだ楽じゃない」
「夕張はそうやって楽観できるから、精神的に凄いよね」
「明石だって文句言いつつ手を動かしているじゃないの。お互いに、凄いってことでいいんじゃないの?」
「私はほら、元々が工作艦だから。でも、夕張は実験艦のほうが長いじゃないの」
「似たようなものじゃないの」
軽口をたたき合いながら、手は止まらない。
システム的な補助があったり、妖精やバッタ達が手伝ってくれているが、それ以上に体に慣れ親しんだ技術のためだろう。
一目見ただけで損傷個所が解る。修理の方法や道具選び、さらにいえば補充用の部品の在庫さえも、すらすらと出てくる。
普通、備品管理は大淀あたりの仕事なのだが。
『自分たちの仕事に関係しているものを、他人任せは駄目です』といった提督のおかげで、在庫管理は今では明石と夕張が行っている。
二人して在庫の状況が解るので、実際に整備や補修を行っていて、替えの部品がないといった状況にはなったことがない。
艦娘を待たせずに修理を終えることができる。二人のちょっとした自慢の一つだ。
「はい、終わり。次は?」
「伊勢と日向の艤装の最終調整。後は、砲身交換がズラリと」
本当に容赦なく使ってくれる。
けれど、無理に使った形跡がないのが、『高天原』の凄味か。
激戦になれば余裕がなくなれば、艤装はかなり損傷を受けて戻ってくる。
艦娘に余裕がないので、無茶苦茶な使われ方をした艤装は、整備していて可哀そうなほどなのだが。
誰の艤装も損傷を受けているが、歴戦の勇士のように堂々とした雰囲気を出している。
妖精達も傷を受けているはいるが、何処か誇らしげで悲壮感はない。
「みんな、技量が上がっているね」
「そりゃあの提督の元にいるんだから、上がって当然。できなければ・・」
「地獄のランナウェイ」
二人して同じ言葉を紡いで、顔を見合わせて笑い合う。
手を止めず冗談交じりに作業をしながらも、調整には一ミリの狂いなし。
「交換終了! 次、補充作業に移るから」
「じゃ、私は推進機の調整に入るね」
夕張と明石はそれぞれに分かれ、作業に入る。
ふと途中で夕張は立ち止まり、ドックから見える外へと視線を向けた。
昔、自分はあそこに立っていた。
吹雪や暁、川内や鳳翔、瑞鳳達に交じって。
今も負けているつもりはないが、自分の戦場はあそこではない。
ここで、皆の艤装をメンテナンスする。誰もが生きて帰って来られるように、艤装の不備で沈まないように。
「がんばれ、皆」
そして、もしもの時は自分が動くために。
止めていた手を再び動かしながら、夕張は『ま、そんなことはないか』と気楽に笑う。
誰も彼も命をかける戦場。
相手の命を奪うために自分の命を天秤にかけて、傾いたほうの命が消えていく場所。
けれど、それだけではないのが、彼女達の目を見れば解る。
絶望ではなく、希望に向かって。
過去の恨みではなく、明日の笑顔のために。
戦場を艦娘が駆ける。
やがて、終わりは来るのに。
私達は、知っていながら、目を背けてしまう。
どんなに否定しても、突きつけられるのに。