少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
やらかしました。
いつもですか。
なら、安心です。
損耗度合いで考えれば、ジリ損といったところか。
大淀は冷静に戦況を分析していた。
進行速度に比べて、こちらの資材の消耗具合が高い。
艦娘の疲労度は高くはないが、消費される弾薬や燃料はかなりの量になっていた。
当初の予定では、敵中枢に接近してから消費さるべきものが、初戦から消費されているのだから、仕方がないことか。
「気になりますか?」
後ろから声をかけられ、振り返る。
定位置に座っている女性―ホシノ・ルリは、小さく苦笑していた。
「はい。このままでは、目標に到達したとしても、帰路には弾薬がなくなります」
きっぱりと言い切ると、相手は少しだけ首を傾げた。
「燃料の心配はしないんですか?」
「なくなったら、消費しない方法がありますから。違いますか、提督?」
「確かに。最初の攻撃手段に戻せばいいだけですから。それとは別に、やりようはありますよ」
他の方法とは。
少しだけ大淀は考え込む。
提督が今まで使っていたこと。あるいは、使っているはずの技術。
「無線送電システムですか?」
「正解です。燃料がなくなれば、『高天原』のエネルギーを艦娘へ送電すればいいんです。転送システムもあるので、直接に送ればいいんです」
怖いな、と思ってしまう。
最初から提督はここまで考えていたのだろうか。
明石に『サイレント騎士団』関係の技術に学ばせたこと。
『秋津洲』にあれだけの装備や機材を持ち込ませたこと。
他の鎮守府に『高天原』級やマクロス級を渡したこと。
恐らく、提督は最初の段階から予想して進み続けているのだろう。
「大淀・・・・・・それは買いかぶり過ぎですよ。私はテラさんの言葉に従っているだけです」
「それは、どういうものなんですか?」
「人は自らの意思で進んでいくもの。誰かの助けを得たとしても、自らの足で進んでいく。だから、私は・・・・・」
その時に語った言葉を、大淀は全員に伝えることになる。
『うみ』を行く全ての者に。
弾薬や燃料のことは、全員が解っていた。
膨大な量の資材を確保している『高天原』とはいえ、物には限度がある。
すでに日本の復興でかなりの資材を流出させており、その上で無補給での海外遠征。
バッタ達が艦娘達の休暇中に必死に集めたとしても、時間が少な過ぎた。
通常の『高天原』の備蓄が億単位。非常時用に予備などを含めれば十億を超えるほどだが、それには理由がある。
ルリ達が伝えた技術が、あまりに高価過ぎるためだ。
当時の零戦の価格に対して、現在のF―15などのジェット機のほうが価格が高いのは、使われている技術などによるところが大きい。
『高天原』の艤装一つで、通常の艦娘の一艦隊の備蓄が吹き飛ぶといえば、解り易いかもしれない。
使われている弾薬も、発見されたものを分解・整理、あるいは再生させた高価なものを使用している。
最近では、明石の技術レベルも上がったので、分子レベルでの分解・再構築をしているが。
しかし、解ってはいるが、時にそれでも退けない時もある。
「そりゃ、頑張ってますよ。修理や補給の合間に、弾薬の精製とかやっていますけど、無限とかじゃないですよ」
詰め寄られた明石はシドロモドロに語るのだが、詰め寄った相手は聞いてはいない。
「・・・・・・砲弾、ください。今度こそ、沈めてきます」
「いやいやだから! 五十二センチ砲弾とか四十六センチ砲弾とか、すぐにできるわけないじゃないですか!」
「撃ち放題が私達の取り柄じゃないですか!」
「大和さん! いくらなんでも怒りますよ!」
「だって! ル級ですよ! あいつらちょっと照準が甘い砲弾が逸れたからって『フ、余裕』って顔で笑うんですよ!」
「それ違うと思います!!」
非常に珍しいことに、大和が弾薬補給を欲しがっていた。
『ある分だけで何とかします。後は剣で斬ります』といって、颯爽と出撃していくのに。
今回は珍しく彼女の何かに触れたらしく、戻ってきて早々に弾薬補給を申請。
駆逐艦や巡洋艦達が使う砲弾は共有規格で固定されてはいるが、戦艦の砲弾となると数には限りがある。
第一、最大で六十一センチで、最少で三十六センチとか、二センチ刻みで砲身がある理由が、明石には解らない。
清霜の艤装の主砲が百センチ、あれは完全に固定生産なので問題なし。
いやかなり資材を使って精製してなので、手間はかかってはいるが。
彼女の場合はそれを使う状況がかなり特殊なため、大抵は二十発前後で終わるので弾薬を多く消費されることはない。
テラの艤装は、そもそもバッタ達が頑張っているので、弾薬の欠乏とかはない。
一分で三百発の砲弾生産なんて、明石には無理だ。
頑張っても三十発が限度。他の装備や砲弾の作成もあるのだから、一時間で五十発ができればいい方だろうに。
大和が使用した砲弾、二時間で三百発。
消費に生産が追い付かない状況をどういうのだろうか。
現実逃避する明石の前で、大和は顔を真っ赤にしていかにル級が頭にきたかを語り尽くす。
「もうよせ、大和。この武蔵の砲弾でよければやろう」
見かねたのか、それとも別の理由があるのか。
背後から近寄った彼女は、何を思ったか主砲の弾薬すべてを渡して去っていく。
「・・・・・妹から砲弾を奪う姉」
「違いますよ! 姉想いの妹がくれた・・・・って武蔵! 貴方はどうするの?!」
気が付いて呼び止める大和に、武蔵は振り返らずに拳を突き上げた。
「我こそは大和型戦艦二番艦『武蔵』!! 砲弾など頼らずとも、この拳があれば十分よ!!」
威勢のいい叫び声の後に、格納庫中に笑い声が響き渡る。
あらやだ、かっこいい。そんなことを思う艦娘は、この格納庫にいない。
「それもそうね、明石さん、ごめんなさい。私が間違っていました」
大和は砲弾を見つめた後、明石へと手渡す。
「え?」
「そうね。私達は『血の十字架』を掲げる者。砲に頼るなんて馬鹿げていたわね」
スラリと、大和は両手に巨大な剣を抜く。
「テラ・エーテルさんの配下にいるのならば、剣一つで事が足りる!! 忘れていたわ、私たちが『誰の艦娘であるか』を!!」
対艦刀と呼ばれる巨大な剣を二つも持った大和は、颯爽と歩きだしていた。
周囲を見れば、誰もが近接武器を手に持って、あるいは拳を握り締めて、出撃ゲートのほうへと進んでいく。
「え? え?」
戸惑う明石を置き去りにして、艦娘達が出撃していく。
誰も砲や魚雷を持たずに、ただ近接武器を持って。
そして、馬鹿達が行く。
ちなみにだが、この日のスコアは砲撃や雷撃を行った時よりも、高い数値を叩きだしたとか、ださなかったとか。
そして、その日の夜に明石と夕張の二人が、徹夜で近接武器のメンテナンスを行うことになったとか。
「あの馬鹿達」
「でも、嬉しい顔してるじゃない、明石」
「そりゃ私も、テラさんの艦娘ですから」
翌朝、屍のように倒れた二人は、何処か満ち足りた顔をしていたという。
一体を真っ正面から切り捨て、返す刀で足元のイ級を二つに切断。
続けて、後方に下がるように体を傾けて、振りかぶって背後のタ級を一刀両断。
「切れ味、いいですね」
比叡は海面さえも斬るように流れる刀身に、惚れ惚れとしてしまう。
さすが、明石。いい仕事をする。もうすでに十体以上は斬っているのに、切れ味が落ちた感覚はしない。
普通の日本刀ならば、もうすでに交換しないと鈍らになるところなのに。
「比叡、次に行きますよ」
「はいお姉様!」
うっとりしていた視界に、姉―金剛の姿が横切る。
右手に持った刀と、左手に持った逆さの短刀。
片逆手二刀流。
彼女が得意としている独特の剣術で、比叡も習ったことはあるが、とてもじゃないが扱いきれない。
暁から直々に学んだらしいが、暁自身もあまり上手く扱えないらしい流儀を、金剛は当然のように使っている。
左手で受け流し、右手で切り捨てる。
簡単に言えば、そういう流派らしいのだが、言うは簡単で行うは難しい。
相手の力量や動き、重心の位置などを正確に読んで、受け流すと同時に相手のバランスを崩して、右手の一撃を加える。
訓練では解っていても、金剛相手だと簡単にバランスを崩されて、あっさりと負けてしまったりする。
よほど、相手の呼吸を読むのが上手いのだろう、とテラは言っていたが。
その上で金剛は、格闘技もやるため、ほぼ予想がつかない。
両手ばかりに気を取られたレ級が、右足の一撃で吹き飛ばされた。
「浅い、ですね」
言うが早いか、それとも遅いか。海面を蹴とばした金剛のとび蹴りが、レ級を貫通して撃破した。
爆発の威力を利用して前へと飛び上がり、迂闊に接近していたイ級を斬った。
「姉は偉大なほうがいいといいますが、何と言いますか」
比叡が長女の活躍に困っていると、横を榛名が吶喊する。
あの妹も、色々と考えものだと思う。
彼女の両手が動く度に、何かしらの物体が粉砕されていく。
粉々、あるいは切断されて、時に吹き飛んでからの爆裂などもある。
「フ・・・・・・・我が拳に二度はない。次は北斗で行きましょうか」
「炸裂すんですね! ヒデブとか言って!」
「はい! 榛名は剣ですから!」
あれは違うのではないだろうか。格闘家ではなかったか。
嬉しそうに語る彼女は、そのまま両手を海面に叩きつけて、海を割る。
「秘儀、海割」
「いやそのままじゃないですか」
「連鎖爆裂」
そして、海面にいた潜水艦を爆裂させて、進撃。
ああ、姉も妹も怖いものになっている。
「どうしました、比叡お姉様?」
「・・・・・・霧島、貴方はそのままでいてくださいね」
「はい?」
唯一、剣を両手で扱い、基本に忠実に戦っている妹に向かって、比叡は切実な願いを口にしたのだった。
「あ、そういえば、波動が飛ばせるようになりました」
「霧島ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自分唯一のオアシスが、この日に消滅したことを知った比叡だった。
次々に出撃していく姿を見送るのは、何度目だろうか。
次こそは、この次こそはと勢いよく出撃していく仲間たちが、二度と帰ってくることはなかった。
何故と彼女は思う。
以前までは楽勝とはいえないが、勝てていた相手だ。
海を走り、海峡を越えて、何度も敵を撃破してきた味方は、あいつらの前に膝を折った。
多くの仲間が波間に消えていき、多数の味方が二度と戻っては来なかった。
最初の見通しが甘かったのか、それとも最初から決まっていたのか。
彼女にはそれが解らない。
沈めて見せると言って出撃したあいつは、ここには二度と戻ってこなかった。
仇を討ってやると、武装を高く掲げた彼女は、波間に漂い目の前で沈んでいった。
何故だ、そう感じる中で答えは出てこない。
勝っては負けて、負けては勝ってを繰り返してきた相手に、今は手も足も出ずに轟沈していく。
笑っていた仲間がいた。語り合った友がいた。そのすべてが今は消えていく。
「もう、いないのね」
悲しく語る声は虚しく響く。
過ちは何処からか、間違いは何から始まったのか。
もう彼女には答える術も考える理由もない。
「あいつらが来ました。艦娘どもです!」
朝焼けに照らされた水平線の彼方に、『それ』は姿を見せ始めた。
巨大な二匹の恐竜と、箱のような船。
『高天原』と呼ばれる敵の母港と、それらの前に展開する艦娘の集団を見据えながら、彼女―欧州棲姫は一言だけ告げる。
全軍、前へ。
もう数えるほどしかいなくなった仲間へ号令を放ち、彼女自身も進みだす。
決戦の火ぶたは、ここに落ちた。いやもうかなり前から落ちていたのだろう。
自分はそれにやっと気づいただけだから。
終わりは、何かの始まりだと、誰かが言っていた。
それを今、実感する。
さて、では語るとしよう。
この世界の行く末について。