艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいていただければ、幸いです。

個人的見解が多く含まれており、不快に感じるかもしれません。

その時は、御容赦ください。




貴方の想いに 1

 

「そうか、彼女も逝ったか」

 

 深くため息と共に吐き出したのは、悲哀というよりは憧憬。

 

 仲間が消えたことを悲しむよりは、死に包まれたことへの妬みの方が大きい。

 

 いつか自分もと望みながら、長い時間を過ごしていた。

 

 旅立つ者達を見送り、海原へと進んでいく者達にエールを送りながら、心の何処かでは嫉妬していたのだろう。

 

「どうなさいますか?」

 

「決まっているだろう?」

 

 問いかける言葉に、答えの決まり切った問いを返す。

 

 やっと、辿り着いた。

 

 ようやく願いが叶う。

 

 深い海の底にありながら、太陽の光を願った愚か者が、ようやく願いを達成できるのだから。

 

 この機会を逃すことはしない。

 

「全軍、前へ」

 

 男の言葉に、多くの存在が叫びだす。

 

「さあ、断罪の時間だ。未来など、あるべきではない」

 

 軽く男は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振りおろした刃は、そのまま海面を斬る前に、突き上げる。

 

 返す刀は迫っていた砲弾を切り裂き、空を分かつ。

 

「攻撃の密度でいえば、過去最大ね」

 

 刀を振り、飛沫を祓う。

 

 敵の数はもう数えるほどしかないはずなのに、攻撃の密度が薄くなることはない。

 

 相手も必死。いや決死なのだろう。

 

 最後の砦、守るべき者が背後にあるのならば、心ある者は何処までも強くなれる。

 

「貴方達にもあるように、私たちにも退けない理由があるのよ」

 

 穏やかに語りかけるように告げながら、暁は刀を構える。

 

 上段に構えた刀を、一気に振り下ろす。

 

「月牙天衝」

 

 振りおろした刃の軌跡に沿うように、巨大な一撃が海面と空を斬った。

 

「暁さんだけにさせません」

 

 開いた隙間をつくように、金剛が突撃していく。

 

 後に続くのは比叡か。

 

 二隻の艦娘が突撃していった穴に、次々に艦娘が続く。

 

 密度が濃いならば、穴を開けて、それを広げていけばいい。

 

 攻撃が届かないならば、届く距離まで近づいて敵を討つ。

 

「いい連携ね」

 

 暁の言葉を肯定するように、轟音が周辺に響き渡る。

 

『援護射撃開始!』

 

 清霜の第零種の百センチ砲弾が、周囲の深海棲艦を薙ぎ払う。

 

 やっと糸口を掴めた。これで敵陣地へ斬りこんで、後は敵姫級を倒すのみ。

 

「・・・・・・そうね、貴方の相手をしてあげましょうか?」

 

 右側から迫る刃に刀を添わせ、流れるように位置を変える。

 

 迫っていたのはレ級。けれど、見慣れた艤装ではなく日本刀を構えている。

 

「おまえが、暁か?」

 

「あら、私の名前を知っているのね。そうよ、私が暁よ。貴方は?」

 

「レ級」

 

 短い言葉と同時に斬り込まれる。

 

 突きつけられた刃を交わし、下段から刀を振るう。

 

 金属音が響き、弾かれた。

 

 反応速度が速い。弾いた刃が再び迫るが、それをターンするように回避。

 

 回転の勢いのままに横薙ぎに振るった刀は、敵を倒すことなく虚空を斬る。

 

 強い、と暁は感じた。

 

 単純な身体能力ではない。動体視力でもない。相手がどう動くか、どう攻撃が来るか。

 

 先読みの速さ、体の動きの速さ、どれも今まで相手していた深海棲艦とはまったく違う。

 

 距離が少し開く。次はと考える間に、相手が迫る。

 

 右手に持った刀に手を添えて、下からの突き上げ。

 

 突きではなく刃すべてが迫ってくる攻撃を、一歩ほどズレて避ける。

 

 だが、次の瞬間には上から刃が迫ってきた。

 

 動いた体の勢いそのままに体を流しながら、反作用を利用して自分の刀を相手に刀に当てて反らす。

 

「今の・・・・・・」

 

 見覚えがある技だ。

 

 速さを生かして、相手の動きの先を読んで、あらゆる速さを磨き続けて繰り出される流儀。

 

「・・・・・剣は凶器、剣術は殺人術、どんな綺麗事やお題目を並べてもそれが真実。そう言えば、察しがつくか?」

 

「そう、貴方はそれが使えるの」

 

 自分は使えなかった。見様見真似はできた、技のいくつかは放つことができた。

 

 けれど、肝心の奥儀とその一つ前の技が出来なかった、古流剣術。

 

「我々深海棲艦は、人の怨念が形となった存在。ならば、その中には『奥儀の継承時に散った者』も含まれる」

 

「飛天御剣流は、時代の苦難から人々を救うのじゃなかったかしら?」

 

「救っているだろう。きさまら艦娘という巨大な存在から、弱い深海棲艦達を」

 

「あら、今はそうなの?」

 

「ガンダム、マクロス、ゾイド、斬魄刀、Fate、貴様らは何処まで技術を広げれば気が済む?」

 

 何の話か、暁には解らない。

 

 彼女が何を言っているかは解らないが、それが『高天原』の技術のことを言っているのは理解した。

 

 ならば、答える言葉を一つ。

 

「多くの人を救うためならば、いくらでも。百万の技術で一億の人が救えるなら、私達はどんな技術でも集めてみせるわ」

 

「節操なしが」

 

「節操を気にして、護るべきものを失うよりはいいわね」

 

「言うな・・・・・・・艦娘が!」

 

 九方向からの斬撃が迫る。

 

 飛天御剣流の奥儀、それを会得するために行われる師匠との一戦において、弟子の最大の壁となるもの。

 

 九頭龍閃。

 

 速さに特化した流儀における最大速度の技術に対して、暁は小さく頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

 

 キン、と澄んだ音が響いた。

 

 交差した二人は、そのまま海面を進んで。

 

 レ級のみが崩れ落ちた。

 

「本当にごめんなさい。本来なら、『天翔龍閃』で倒すべきなのでしょうけど、私はまだ未熟なの」

 

 艤装も体も、装束も刀も、すべてが漆黒に染まった暁が、振り返る。

 

「貴方に勝てるとしたら、まったく違う力を使うしかない。私の最大速力での一撃、これを手向けとしてくれるかしら?」

 

 答えは返ってこない。

 

 波間に消えゆくレ級に対して一礼して、暁は進み出した。

 

 『天鎖斬月』。彼女の知る中で、最大速度を発揮できる斬魄刀での、最高速度での斬り返し。

 

 提督ならば、テラならば、もっと別の手段で倒したのだろうか。

 

 『瞬帝』と言われた父を持つ彼ならば、きっと。

 

「未熟ね。本当に嫌になるくらい」

 

 小さく後悔を吐きだし、彼女は仲間達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 踊る踊る。まるで手のひらの上で操られるように、戦場のすべてが逆転していく。

 

 先ほどまで劣勢だったのは、気にせいなのだろうか。

 

「貴方が、欧州棲姫」

 

「そうだといえば、満足ですか?」

 

 目の前にいる深海棲艦は、穏やかに笑う。

 

 負の感情の塊。深海棲艦は人の恨みの結晶なのだと。

 

 なのに、彼女は穏やかで優しく微笑んでいる。

 

「私達の負けだな。もう私以外には誰もいなくなった。満足なのだろう?」

 

「満足って・・・・・」

 

 相手の言ったことの意味を、吹雪は計りかねていた。

 

 敵を倒したこと、危機を救ったこと。確かに、やり遂げた気持ちはあるのだが、これが満足かどうかは解らない。

 

「深海棲艦は人類の敵。ならば敵を倒せばすべてが終わる」

 

「それは・・・・・・・」

 

「敵とは何か、考えたことがあるのか?」

 

 不意な問いかけに、刃が震えてしまう。

 

 周りの仲間達も、武器を下ろすことはないが、攻撃の意思はもう消えていた。

 

 敵の意味。

 

 何を持って敵とするのかを、誰もが自然と考えてしまう。

 

「私達が何をした? 君たちに攻撃したのか?」 

 

「それは・・・・・」

 

「人類に攻撃したのか、それは誰が言った? 確かに攻撃したのか? 私たちから本当に?」

 

 次々に投げられる質問に、吹雪は一つも答えられずに固まる。

 

 この戦争の始まりを、吹雪は知らない。

 

 誰かが知っているのか、ルリならば知っているのか。

 

 軍令部ならば、日本の上層部ならば、いやアメリカならば。 

 

 疑問に答えるために知識を総動員して回して、それでも答えが出てこなくて次々に考えてしまう。

 

「答えは、是だ」

 

「え?」

 

「私たちから攻撃した。人類を憎んでいるから」

 

 穏やかに笑う彼女が、顔を歪ませて睨みつけてくる。

 

「滑稽だな、艦娘ども。私たちから攻撃したんだよ。おまえらが生まれる前から、人類に対して攻撃していたんだよ」

 

 ケタケタと笑う彼女に、吹雪は僅かに『怖い』と思ってしまった。

 

 まるで、自分の中の何かを言われたように。

 

「根絶やしにしてやれば良かった。人類など、消えてしまえばいい。だから攻撃してやった、駆逐してやった」

 

「何でそんなことを?」

 

 無意識に紡いだ質問に、相手はニヤリと笑って声高に告げた。

 

「決まっているだろう! 私達は憎しみの塊だ! 過去も現在も未来も関係ない! あいつらの裏切りの証明だ!」

 

 笑い声が響き渡る。

 

 狂気のように、狂おしいほどの憎悪に塗れた言葉が、海も空も染め上げる。

 

「自分達の都合で戦争を始めて! 自分達の都合が悪くなれば戦犯だと裁き! 正義なんて言葉で人を殺して! 平和のためだと保身に走る!」

 

 彼女は笑い続ける。

 

 世界が憎いと、まわりすべてが悪いと。

 

「過去のすべてが悪だと決めつけて蓋をして忘れる! 武器が悪いと言いながら、都合が悪くなればそれが必要だったと手のひらを返す! おまえらもいずれ解る! 人類など都合が悪くなれば、真っ先におまえらを『悪』だと断罪する身勝手な連中だ!」

 

 そうなのだろうか。

 

 彼女の中で、何かが肯定してくる。

 

 戦争の記憶を封印して、過去の軍人たちが悪いと切り捨て、そして免罪符にしてすべてを断行する。

 

「この世に人類がいる限り! 平和など訪れることはない。我々はそのための抑止力だった! 人類を駆逐して地球を守るためのな! それをお前らは!!」

 

「違う!!!!」

 

 瞬間、艦娘のすべてが叫んでいた。

 

「確かに身勝手かもしれない。確かに、都合の悪いことを忘れてしまうかもしれない。でも!! 私達は人が『他人のために戦う存在』だって知っています!」

 

 吹雪は思い出す。

 

 高野や大高のこと、多くの人達のこと。

 

 それほど接点がなくても、ルリから聞いた彼の人柄。

 

 世界の情勢や、各地の人達のこと。

 

 『高天原』に集められた情報は、人類が悪だとは言っていなかった。

 

 もしかしたら、隠されているのかもしれないが、でも違うといえる。

 

「少なくとも、私の『駆逐艦吹雪』に乗っていた人たちは、誰かのために戦っていました!」

 

「本気で言っているのか?! おまえらが一番よく解っているはずだ! 過去の大戦のことを忘れたのか?!」

 

「覚えてます! 戦犯も! 戦後も! その後の『平成のこと』も!!」

 

「なんだと?」

 

「でも! 私達は同じように知っています! 多くの人の笑顔のために毎日を頑張っている人たちを! 誰かを助けるために自分の命さえ賭ける人達のことを! 知っているからこそ戦っているんです!!」

 

 何故、知っているのか。この世界ではない記憶が、自分の中にあったのか、そんなことは今の吹雪には些細なことでしかない。

 

 大切なのは、彼らの願いと気持ち。

 

 誰かのために立ちあがる、その勇気のみ。

 

「本気なのか?」

 

「はい。この先もずっと、それを信じて私達は戦っていきます」

 

「は・・・・・・馬鹿がいるな」

 

「誰も信じられずに周り中を恨んで生きるくらいなら、人に裏切られても笑っていられる馬鹿でいいです」

 

 そうか、と彼女は告げて波間に消えていった。

 

 これで終わり、欧州電撃戦は作戦終了。

 

『ならば、その言葉を証明して見せろ』

 

 唐突に通信すべてに流れた言葉に、艦娘達は一斉に顔を上げた。

 

「え?」

 

 空一面に映った顔に、見覚えがある。

 

『初めましてになるか。いや、久し振りだなといった方がいいか』

 

 何処かとぼけたように告げる男を、知らない艦娘はいない。

 

 奇跡を起こした者。

 

 負けるはずだった海戦を勝利に導いた軍人。

 

 軍神とまで呼ばれた、日本海軍の英雄。

 

『私が深海棲艦達の指揮官だ。君たちが倒すべき、敵というわけだが』

 

「なんで、貴方が・・・・・何故ですか?!」

 

『今の世界に絶望したからだ。では、待っているぞ』

 

「東郷元帥!!!」

 

 虚しく吹雪の叫びが、空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バンっと、執務室に音が響いた。

 

 ビクッと震えた大淀が振り返る先、ホシノ・ルリ提督代行が両手を机に叩きつけていた。

 

「・・・・・・迂闊。この可能性に気づくべきだったのに。魂が艦娘を作るならば、軍人一人の魂が一つの存在を作るのは当たり前なのに」

 

「提督?」

 

「大淀、すぐに全員に帰還命令を。『高天原』全機関最大稼働へ。今すぐに戻ります」

 

「は、はい!」

 

 慌てた大淀が通信を始めようとしたとき、緊急通信が入ってきた。

 

 相手は高野。内容は。

 

「提督!!」

 

「代行です、なんですか、大淀」

 

「太平洋のマリアナ諸島に巨大な島が出現! 敵深海棲艦の大規模艦隊が出撃中!」

 

 伝えられた内容に、彼女は大きく目を見開いた後に、地図を表示させる。

 

「やられた!」

 

「え?」

 

「これを見越しての三段構えなんて! 大淀!! 全員の収容を急がせなさい!」

 

「は、はい!! でも、どうして?」

 

「敵の本当の狙いは、『日本』です!」

 

 彼女の発した言葉に、大淀は血の気を失った。

 

 

 





いつから、こんなことを考えるようになったのだろう。

思い返してみても、解らない。

だが、今はこれが総て。
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