少しでも楽しんでいていただければ、幸いです。
個人的見解が多く含まれており、不快に感じるかもしれません。
その時は、御容赦ください。
「そうか、彼女も逝ったか」
深くため息と共に吐き出したのは、悲哀というよりは憧憬。
仲間が消えたことを悲しむよりは、死に包まれたことへの妬みの方が大きい。
いつか自分もと望みながら、長い時間を過ごしていた。
旅立つ者達を見送り、海原へと進んでいく者達にエールを送りながら、心の何処かでは嫉妬していたのだろう。
「どうなさいますか?」
「決まっているだろう?」
問いかける言葉に、答えの決まり切った問いを返す。
やっと、辿り着いた。
ようやく願いが叶う。
深い海の底にありながら、太陽の光を願った愚か者が、ようやく願いを達成できるのだから。
この機会を逃すことはしない。
「全軍、前へ」
男の言葉に、多くの存在が叫びだす。
「さあ、断罪の時間だ。未来など、あるべきではない」
軽く男は笑った。
振りおろした刃は、そのまま海面を斬る前に、突き上げる。
返す刀は迫っていた砲弾を切り裂き、空を分かつ。
「攻撃の密度でいえば、過去最大ね」
刀を振り、飛沫を祓う。
敵の数はもう数えるほどしかないはずなのに、攻撃の密度が薄くなることはない。
相手も必死。いや決死なのだろう。
最後の砦、守るべき者が背後にあるのならば、心ある者は何処までも強くなれる。
「貴方達にもあるように、私たちにも退けない理由があるのよ」
穏やかに語りかけるように告げながら、暁は刀を構える。
上段に構えた刀を、一気に振り下ろす。
「月牙天衝」
振りおろした刃の軌跡に沿うように、巨大な一撃が海面と空を斬った。
「暁さんだけにさせません」
開いた隙間をつくように、金剛が突撃していく。
後に続くのは比叡か。
二隻の艦娘が突撃していった穴に、次々に艦娘が続く。
密度が濃いならば、穴を開けて、それを広げていけばいい。
攻撃が届かないならば、届く距離まで近づいて敵を討つ。
「いい連携ね」
暁の言葉を肯定するように、轟音が周辺に響き渡る。
『援護射撃開始!』
清霜の第零種の百センチ砲弾が、周囲の深海棲艦を薙ぎ払う。
やっと糸口を掴めた。これで敵陣地へ斬りこんで、後は敵姫級を倒すのみ。
「・・・・・・そうね、貴方の相手をしてあげましょうか?」
右側から迫る刃に刀を添わせ、流れるように位置を変える。
迫っていたのはレ級。けれど、見慣れた艤装ではなく日本刀を構えている。
「おまえが、暁か?」
「あら、私の名前を知っているのね。そうよ、私が暁よ。貴方は?」
「レ級」
短い言葉と同時に斬り込まれる。
突きつけられた刃を交わし、下段から刀を振るう。
金属音が響き、弾かれた。
反応速度が速い。弾いた刃が再び迫るが、それをターンするように回避。
回転の勢いのままに横薙ぎに振るった刀は、敵を倒すことなく虚空を斬る。
強い、と暁は感じた。
単純な身体能力ではない。動体視力でもない。相手がどう動くか、どう攻撃が来るか。
先読みの速さ、体の動きの速さ、どれも今まで相手していた深海棲艦とはまったく違う。
距離が少し開く。次はと考える間に、相手が迫る。
右手に持った刀に手を添えて、下からの突き上げ。
突きではなく刃すべてが迫ってくる攻撃を、一歩ほどズレて避ける。
だが、次の瞬間には上から刃が迫ってきた。
動いた体の勢いそのままに体を流しながら、反作用を利用して自分の刀を相手に刀に当てて反らす。
「今の・・・・・・」
見覚えがある技だ。
速さを生かして、相手の動きの先を読んで、あらゆる速さを磨き続けて繰り出される流儀。
「・・・・・剣は凶器、剣術は殺人術、どんな綺麗事やお題目を並べてもそれが真実。そう言えば、察しがつくか?」
「そう、貴方はそれが使えるの」
自分は使えなかった。見様見真似はできた、技のいくつかは放つことができた。
けれど、肝心の奥儀とその一つ前の技が出来なかった、古流剣術。
「我々深海棲艦は、人の怨念が形となった存在。ならば、その中には『奥儀の継承時に散った者』も含まれる」
「飛天御剣流は、時代の苦難から人々を救うのじゃなかったかしら?」
「救っているだろう。きさまら艦娘という巨大な存在から、弱い深海棲艦達を」
「あら、今はそうなの?」
「ガンダム、マクロス、ゾイド、斬魄刀、Fate、貴様らは何処まで技術を広げれば気が済む?」
何の話か、暁には解らない。
彼女が何を言っているかは解らないが、それが『高天原』の技術のことを言っているのは理解した。
ならば、答える言葉を一つ。
「多くの人を救うためならば、いくらでも。百万の技術で一億の人が救えるなら、私達はどんな技術でも集めてみせるわ」
「節操なしが」
「節操を気にして、護るべきものを失うよりはいいわね」
「言うな・・・・・・・艦娘が!」
九方向からの斬撃が迫る。
飛天御剣流の奥儀、それを会得するために行われる師匠との一戦において、弟子の最大の壁となるもの。
九頭龍閃。
速さに特化した流儀における最大速度の技術に対して、暁は小さく頭を下げた。
「ごめんなさい」
キン、と澄んだ音が響いた。
交差した二人は、そのまま海面を進んで。
レ級のみが崩れ落ちた。
「本当にごめんなさい。本来なら、『天翔龍閃』で倒すべきなのでしょうけど、私はまだ未熟なの」
艤装も体も、装束も刀も、すべてが漆黒に染まった暁が、振り返る。
「貴方に勝てるとしたら、まったく違う力を使うしかない。私の最大速力での一撃、これを手向けとしてくれるかしら?」
答えは返ってこない。
波間に消えゆくレ級に対して一礼して、暁は進み出した。
『天鎖斬月』。彼女の知る中で、最大速度を発揮できる斬魄刀での、最高速度での斬り返し。
提督ならば、テラならば、もっと別の手段で倒したのだろうか。
『瞬帝』と言われた父を持つ彼ならば、きっと。
「未熟ね。本当に嫌になるくらい」
小さく後悔を吐きだし、彼女は仲間達の後を追った。
踊る踊る。まるで手のひらの上で操られるように、戦場のすべてが逆転していく。
先ほどまで劣勢だったのは、気にせいなのだろうか。
「貴方が、欧州棲姫」
「そうだといえば、満足ですか?」
目の前にいる深海棲艦は、穏やかに笑う。
負の感情の塊。深海棲艦は人の恨みの結晶なのだと。
なのに、彼女は穏やかで優しく微笑んでいる。
「私達の負けだな。もう私以外には誰もいなくなった。満足なのだろう?」
「満足って・・・・・」
相手の言ったことの意味を、吹雪は計りかねていた。
敵を倒したこと、危機を救ったこと。確かに、やり遂げた気持ちはあるのだが、これが満足かどうかは解らない。
「深海棲艦は人類の敵。ならば敵を倒せばすべてが終わる」
「それは・・・・・・・」
「敵とは何か、考えたことがあるのか?」
不意な問いかけに、刃が震えてしまう。
周りの仲間達も、武器を下ろすことはないが、攻撃の意思はもう消えていた。
敵の意味。
何を持って敵とするのかを、誰もが自然と考えてしまう。
「私達が何をした? 君たちに攻撃したのか?」
「それは・・・・・」
「人類に攻撃したのか、それは誰が言った? 確かに攻撃したのか? 私たちから本当に?」
次々に投げられる質問に、吹雪は一つも答えられずに固まる。
この戦争の始まりを、吹雪は知らない。
誰かが知っているのか、ルリならば知っているのか。
軍令部ならば、日本の上層部ならば、いやアメリカならば。
疑問に答えるために知識を総動員して回して、それでも答えが出てこなくて次々に考えてしまう。
「答えは、是だ」
「え?」
「私たちから攻撃した。人類を憎んでいるから」
穏やかに笑う彼女が、顔を歪ませて睨みつけてくる。
「滑稽だな、艦娘ども。私たちから攻撃したんだよ。おまえらが生まれる前から、人類に対して攻撃していたんだよ」
ケタケタと笑う彼女に、吹雪は僅かに『怖い』と思ってしまった。
まるで、自分の中の何かを言われたように。
「根絶やしにしてやれば良かった。人類など、消えてしまえばいい。だから攻撃してやった、駆逐してやった」
「何でそんなことを?」
無意識に紡いだ質問に、相手はニヤリと笑って声高に告げた。
「決まっているだろう! 私達は憎しみの塊だ! 過去も現在も未来も関係ない! あいつらの裏切りの証明だ!」
笑い声が響き渡る。
狂気のように、狂おしいほどの憎悪に塗れた言葉が、海も空も染め上げる。
「自分達の都合で戦争を始めて! 自分達の都合が悪くなれば戦犯だと裁き! 正義なんて言葉で人を殺して! 平和のためだと保身に走る!」
彼女は笑い続ける。
世界が憎いと、まわりすべてが悪いと。
「過去のすべてが悪だと決めつけて蓋をして忘れる! 武器が悪いと言いながら、都合が悪くなればそれが必要だったと手のひらを返す! おまえらもいずれ解る! 人類など都合が悪くなれば、真っ先におまえらを『悪』だと断罪する身勝手な連中だ!」
そうなのだろうか。
彼女の中で、何かが肯定してくる。
戦争の記憶を封印して、過去の軍人たちが悪いと切り捨て、そして免罪符にしてすべてを断行する。
「この世に人類がいる限り! 平和など訪れることはない。我々はそのための抑止力だった! 人類を駆逐して地球を守るためのな! それをお前らは!!」
「違う!!!!」
瞬間、艦娘のすべてが叫んでいた。
「確かに身勝手かもしれない。確かに、都合の悪いことを忘れてしまうかもしれない。でも!! 私達は人が『他人のために戦う存在』だって知っています!」
吹雪は思い出す。
高野や大高のこと、多くの人達のこと。
それほど接点がなくても、ルリから聞いた彼の人柄。
世界の情勢や、各地の人達のこと。
『高天原』に集められた情報は、人類が悪だとは言っていなかった。
もしかしたら、隠されているのかもしれないが、でも違うといえる。
「少なくとも、私の『駆逐艦吹雪』に乗っていた人たちは、誰かのために戦っていました!」
「本気で言っているのか?! おまえらが一番よく解っているはずだ! 過去の大戦のことを忘れたのか?!」
「覚えてます! 戦犯も! 戦後も! その後の『平成のこと』も!!」
「なんだと?」
「でも! 私達は同じように知っています! 多くの人の笑顔のために毎日を頑張っている人たちを! 誰かを助けるために自分の命さえ賭ける人達のことを! 知っているからこそ戦っているんです!!」
何故、知っているのか。この世界ではない記憶が、自分の中にあったのか、そんなことは今の吹雪には些細なことでしかない。
大切なのは、彼らの願いと気持ち。
誰かのために立ちあがる、その勇気のみ。
「本気なのか?」
「はい。この先もずっと、それを信じて私達は戦っていきます」
「は・・・・・・馬鹿がいるな」
「誰も信じられずに周り中を恨んで生きるくらいなら、人に裏切られても笑っていられる馬鹿でいいです」
そうか、と彼女は告げて波間に消えていった。
これで終わり、欧州電撃戦は作戦終了。
『ならば、その言葉を証明して見せろ』
唐突に通信すべてに流れた言葉に、艦娘達は一斉に顔を上げた。
「え?」
空一面に映った顔に、見覚えがある。
『初めましてになるか。いや、久し振りだなといった方がいいか』
何処かとぼけたように告げる男を、知らない艦娘はいない。
奇跡を起こした者。
負けるはずだった海戦を勝利に導いた軍人。
軍神とまで呼ばれた、日本海軍の英雄。
『私が深海棲艦達の指揮官だ。君たちが倒すべき、敵というわけだが』
「なんで、貴方が・・・・・何故ですか?!」
『今の世界に絶望したからだ。では、待っているぞ』
「東郷元帥!!!」
虚しく吹雪の叫びが、空に響いた。
バンっと、執務室に音が響いた。
ビクッと震えた大淀が振り返る先、ホシノ・ルリ提督代行が両手を机に叩きつけていた。
「・・・・・・迂闊。この可能性に気づくべきだったのに。魂が艦娘を作るならば、軍人一人の魂が一つの存在を作るのは当たり前なのに」
「提督?」
「大淀、すぐに全員に帰還命令を。『高天原』全機関最大稼働へ。今すぐに戻ります」
「は、はい!」
慌てた大淀が通信を始めようとしたとき、緊急通信が入ってきた。
相手は高野。内容は。
「提督!!」
「代行です、なんですか、大淀」
「太平洋のマリアナ諸島に巨大な島が出現! 敵深海棲艦の大規模艦隊が出撃中!」
伝えられた内容に、彼女は大きく目を見開いた後に、地図を表示させる。
「やられた!」
「え?」
「これを見越しての三段構えなんて! 大淀!! 全員の収容を急がせなさい!」
「は、はい!! でも、どうして?」
「敵の本当の狙いは、『日本』です!」
彼女の発した言葉に、大淀は血の気を失った。
いつから、こんなことを考えるようになったのだろう。
思い返してみても、解らない。
だが、今はこれが総て。