艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

48 / 52

少しでも楽しんでいていただければ、幸いです。

終わりが近いので、いつも以上にハッチャケました。

艦娘の影が薄くなる、これはまずい?




貴方の想いに 2

 

 戦場において、最も危惧すべきものは。

 

 戦略家に問いかければ、それぞれに答えは返ってくるだろうが、ルリはこう答える。

 

 『背後を突かれること』と。

 

 前線を押し上げることも支えることも、それほど難しいとは考えない。

 

 補給路を整えることなど、初歩の初歩だ。補給線を無視した展開など、軍人以前に人間としてどうかと辛辣に語る。

 

 味方の損害、敵の撃破数、気象条件など。色々と不確定要素がある中で、彼女は『すべてデータとして把握できる』と言い放つ。

 

 些細なこともすべてデータとして集めて、戦場すべてを見通すように戦力を配置していく。

 

 二手、三手どころではなく、年間通しての先を見通すほどの技能を見せる彼女でも、身落とすことはある。

 

 『ルリ君は、意外なものを見落とすよね』。

 

 『大戦力ばかりを扱っている弊害だろうが。ルリ、通った後に伏兵がいることも知った方がいい』。

 

 かつて、とある人物に言われたことが、脳裏をよぎる。

 

「戻った艦娘から補給と整備を。明石、夕張、まだまだ元気でしょうね?」

 

『はい! 二十四時間働けます!』

 

 元気よく答える明石の両手は、すでにスパナを持っていたりする。

 

『私達は大丈夫ですけど、物資の方は・・・』

 

「問題ありません。秋津洲に降ろさせます」

 

 夕張の心配を一蹴し、ルリは『高天原』のデータを表示させる。

 

 すでに全機関は最大稼働中。

 

 推進機もアイドリング正常、全力稼働発揮可能。

 

 フィールド出力も最大で固定。

 

 全武装の補給も完了。

 

「提督! 高野総長です!」

 

「繋いでください」

 

 大淀から回された通信には、苦渋の顔をした彼が映った。

 

『すまない、ルリ君。どうやら我々は、隙を突かれたらしい』

 

「いえ、私も迂闊でした。そちらの戦況は?」

 

『前線は後退させるしかないが、主要海域はマクロス級の鎮守府に抑えさせた。『高天原』級の四隻を戻して、敵本拠地を叩く』

 

「解りました。こちらも全員を収容次第、戻ります。時間的には二日ほどで、何とかします」

 

『頼む・・・・・こちらは、多くの軍人と艦娘が浮足立っている』

 

 無理もない、とルリは拳を握る。

 

 相手は、元軍神。もう亡くなっているとはいえ、今の軍人たちには憧れの存在でもある。

 

 多くを学び、多くを教えられた人物。

 

 それが今回の敵。

 

 自分だったら、真っ先に両手を上げるだろう。

 

 けれど、彼は揺るがない。

 

『民を国を護れ。そう教えられた。ならば、私はそれらを脅かすならば、例え親だろうと殺してみせる』

 

 怜悧な瞳を向ける男に対して、ルリは深々と頭を下げた。

 

 彼は軍人だ。

 

 人間である前に、国家と国民を守る矛であり、楯である軍人であった。

 

「高野総長、必ず間に合わせます」

 

『ありがとう、ルリ君。では、戦場で』

 

「はい、戦場で」

 

 通信が閉じた。

 

「全艦娘収容完了しました!」

 

「『高天原』回頭! 最大戦速にて戻ります! 目標! 敵深海棲艦本拠地!」

 

 二匹の巨竜が吠えながら、戦船が鳴動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度も願ったことがある、何度も祈ったことがある。

 

 どうか、健やかに育ってほしい。

 

 どうか、穏やかに進んで欲しい。

 

 何事もない世界で、退屈だと思いながらも、平穏無事に生きていくことが、最も幸せなのだろう。

 

「敵部隊接近。四つです」

 

「なるほどな」

 

 モニターに映された影は、反応の大きさからよほど巨大なもの。

 

 恐らく、『高天原』と同じ船。量産されていたとは驚きだが、所詮は大型の船舶程度。

 

 確かに対空火器などはあるだろうが、ハリボテに等しい。

 

 『高天原』が深海棲艦相手に有利に戦えているのは、バッタ達が高性能なためと疑似的に艦娘と同じ能力を持つが故。

 

 それが配備されているのは、一番艦のみ。

 

 後は人間が動かしているため、性能は五割がいいところだろう。

 

「やりようはある、か」

 

 当初は、あれのおかげで随分と混乱させられたものだが。

 

「敵部隊の足止めは良好です」

 

「御苦労」

 

 忠実な部下というのは、戦場においてはとても好ましく、頼もしく。

 

 同時に、厄介だ。

 

 指示を出せば確実に実行するのだが、指示を出さなければ動くことはない。

 

 元々が怨念の塊のようなもの。今のように組織だって動くことのほうが、稀有なものなのかもしれないが。

 

 戦略に従い領域を進み、戦術に従って敵を撃破していく。

 

 初期の作戦目的は完遂している。

 

 中期の目的は、ほぼ達成された。

 

 しかし、最終目的の時点で邪魔が入った。

 

 『高天原』、あるいは『サイレント騎士団』。

 

 血の十字架を掲げる、最狂にして最悪の戦闘集団。

 

 彼らが全力で介入したならば、目的の達成は難しい。

 

 いや、確実に達成することはできないだろう。

 

 けれど、彼らは何を思ったか、戦力を出してこなかった。

 

 艦娘を鍛え、軍人たちの裏側に暗躍して、そして今に至る。

 

「助かったというべきだろうか」

 

「何か?」

 

「いや、何でもない。戦力を出し惜しむなよ」

 

「はい」

 

 答える彼女に、小さく謝罪を口にしかけて、止める。

 

 最初から解っていたことだ。

 

 すべてを憎んで、過去の想いを踏みにじられた苦しみを吐きだし、世界すべての人類に復讐しようと動いた。

 

 かつて、自分が護ろうとしたものを、壊してしまうほどに。

 

 あるいは、かつての自分が護りたかったものを、これからも護るために。

 

「どう思う、『神帝』殿。いや銀河皇帝陛下と呼ぶべきかね?」

 

 自虐的な笑みを浮かべて男―東郷平八郎が問いかける。

 

「貴方はそれを選択して、どうするつもりなんだ?」

 

 彼は、そこにいた。

 

 全身を装備で固めるでもなく、巨大な剣一本だけを右手に持って、まるで散歩するような格好で。

 

「どうもせんな。私は私の目的のために戦うだけだ。君だってそうだろう?」

 

「俺は、そんな大層なことを考えているわけじゃない。世界なんて、救うつもりなんてないさ」

 

「言ってくれるな。『神帝』と呼ばれた君ならば、叶えられない願いはないのではないか?」

 

「俺にだってできないことはあるさ」

 

 そう答えた彼は、剣を左手に持ち替える。

 

「確か、『光滅』だったか? 斬ったものすべてを滅ぼす神剣。人も神も、運命さえ例外ではなく」

 

 男の言葉に、彼は左手に持った剣に右手を添える。

 

「ここで貴方を倒したほうが、世界のためにならない。解っているけど、倒しておくべきだって、思えるよ」

 

「正しい。どちらも、正解だ。けれどな、『神帝』。おまえは強すぎる。強すぎて、周り中が霞んで見える。立ち上がる気力さえ無くすほどにな」

 

 何処か嘲笑うように告げる男に、テラは剣に添えていた右手を離す。

 

「貴方を倒すのは、俺じゃないらしい。でも、それはとても辛い道だよ」

 

「解っているさ。だからこそ、俺たちはここにいる」

 

 苦笑する彼に対して、テラは静かに頭を下げて消える。

 

「人の願いを叶える神様か。あるいは、『トラブル・メーカー』。本当だったんだな」

 

 彼がいた場所を見つめながら、東郷平八郎は呟く。

 

 『神帝』の噂は、聞いていた。

 

 この世界に生まれ落ちた時に、多くの存在が知っていた話。

 

 初代の激情をそのまま子孫が受け継いで、様々な可能性を集めて怨念を晴らすために存在し続ける。

 

 まるで深海棲艦だな、と思った。

 

 すべてを憎み、世界を壊そうと考え、あらゆる者を殺し続ける。

 

 だというのに、彼らの一族は世界に対して何かをすることはない。

 

 世界の裏側で、何処かの街の片隅で、戦い以外は平穏な人生を送る彼らは、戦う術を磨きながらも、表に出ることはなかった。

 

 『神帝』が例外であり、他は今も平穏の中にいる。

 

 もし、彼らの大切なものに手を出したのならば、その圧倒的な力を持ってすべてを薙ぎ払うだろう。

 

 しかし、それではだめだ。

 

 個人がすべてを決める世界など、あってはならない。

 

 だからこそ、だ。

 

 彼はそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高野五十六にとって、東郷平八郎は憧れであり目標でもあった。

 

 言葉では言い尽くせない、軍人としての心構えを教えられた人物。

 

 それが敵とは。

 

 やりづらいというのが正直な感想だ。

 

 深海棲艦の親玉でなければ、絶対に敵対したくない相手。

 

 なのに、戦わなければならない。

 

 しかも勝利が最低条件。

 

 逃げだしたいと考える軍人は、多い。

 

 今も戦い続けているのは艦娘の誰もが逃げ出していないから。

 

 東郷元帥の名は、艦娘の中でも絶大な効果を発揮している。

 

 最初は、敵の親玉の名前が知れ渡ったときには、戦えないと言いだした艦娘は大多数だった。

 

 けれど、深海棲艦が出てきたことにより、護るべき者を思い出して立ち上がった艦娘は、全員だった。

 

 誰一人かけていない艦娘達を前にして、『無理だ』と逃げ出せる軍人はいなかった。

 

 今までも矢面に立たせて戦っていたのに、相手が軍神と解った途端に逃げ出せるわけがない。

 

『逃げ出したいといったら、おまえは笑うか、高野』

 

 出撃前に沖田は、私的な通信でそう言っていた。

 

『あの馬鹿ものが、今度は何をやっているのか』

 

 モニターを睨みつける井沢は、東郷元帥を平然と殺せるだろう。

 

 さすが、かつての海軍の重鎮。

 

『伝説の軍人を倒した男か。憧れるね』

 

 斎藤は高笑いさえして出撃していったが、とても頼もしい。

 

『私は軍人です。命令さえあれば、例え相手が神でも倒して見せますが』

 

 最初の頼りなさは、綺麗さっぱり消え去った矢車に、心強さがうかがえる。

 

 状況はかなり不利。心理的圧迫もかなりある。

 

 けれど、誰も逃げ出さない。

 

 気合は十分、士気は徐々に上がりつつある。

 

 けれど、気持ちだけで何とかなるほど戦況は優しくはない。

 

 一進一退。前に進めば押し戻される。押し戻されたら、押し返す。

 

 敵の本拠地に対して、一定の距離までは進めるのだが、それ以上は進めずにいるのが現状だ。

 

 何か打開策は。

 

 高野が思考を巡らすが、そう簡単に打開策などあるわけがない。

 

 戦力は出し切った。

 

 予備戦力も使い続けている。

 

 武器も弾薬も出し惜しみしていない。

 

 残るは。

 

『かもです! ホシノ・ルリ提督代行の許可が下りたので、おろします!』

 

「は?」

 

 通信が繋がり、唐突に秋津洲が映った。

 

『戦闘海域にいる全艦娘へ! 戦略級兵器が下ります!』

 

「ちょっと待て!! まさかあれらを下ろすのか?! どれから下ろす?!」

 

『はい! 全部です』

 

 全部。

 

 高野の脳裏にその単語が駆け巡り、ルリから教えられた情報が次々に浮かんで行く。

 

 明石と夕張が頑張って作った兵器群。

 

 一つで小島くらいは消せると言っていた彼女に、何で作ったと言い放ったのはいい思い出だろうか。

 

『行きます! マジンカイザー! 真・ゲッター! ゼオライマー! ガンバスター! ネオ・グランゾン!』

 

「待て待て待て!! 地球を壊すつもりか!!」

 

『そして真打ち!!! イデオンゴー!!』

 

「おまえらは何をしていたんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 高野の叫びと同時に、海域に巨人が舞い降りた。

 

 その日、終焉が始まったと、多くの軍人が語ったという。

 

 深海棲艦の集団を薙ぎ払い、艦娘の前に立つ姿は確かに心強かったかもしれない。

 

 けれどだ。まるでアリを払うように、敵を撃破し続ける巨人に対して、味方は恐怖を抱いていた。

 

『でも、海域を支えるだけで、動かすなって命令されています』

 

 当然だと、高野は思った。

 

 あんな巨大戦力を自由に動かされたら、とてもじゃないが地球が持たない。

 

『オリジナルの一割でしかないって、明石が悲しんでいたけど』

 

「ああ、そう」

 

 もう何て言っていいか解らない。

 

 あんな強力な戦力が必要な、テラ達の世界とはどんな場所なのか。

 

 いや、待った。彼らは『宇宙人』と言っていなかったか。

 

 それは宇宙の何処かで、あんな戦力同士が戦っているということか。

 

 考えが至り、高野は強烈な寒気がしてきた。

 

 戦争が終わったら、テラには十分に言い含めようと。

 

 ルリにも懇願しておこう。

 

 決して、自分達の地球に攻めてこないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予備戦力投入。

 

 これで秋津洲に残されているのは、何もない。

 

 万が一の場合は、艤装本体を大気圏に突入させて、変形して巨大なロボットに、といった手段はない。

 

 明石と夕張が何やらやっていたが、計画を承認した覚えもなければ、やりなさいと命令した記憶もない。

 

「さて、これでこちらの手札はすべて晒しました。後は気持ちの問題ですので、やりますよ」

 

「はい!!!」

 

 全艦娘の気合を受け、ルリは微笑む。

 

「では、かつての軍神に見せてやりましょう。未来を願う者の力と希望を」

 

「応!!!!」

 

 気合も士気も十分。後は結果を持ってくるのみ。

 

 一方、それらを見た東郷平八郎はポツリとこぼした。

 

 『おまえら、やり過ぎって言葉を知っているか?』と。

 

 

 

 





決意を形に。想いを胸に。

魂を示すために。

ここにいる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。