少しでも楽しんでいていただければ、幸いです。
ラスト二話です。
最後までお付き合いしていただけますか?
「宇宙」と書いて何て読みますか?
かつて、その敵に対して、波状攻撃を仕掛けていた。
一隻に対して八隻以上での攻撃を仕掛けながら、中々に破れずに最後はゴリ押しになっていたことを、少しだけ思い出す。
今回、味方は三隻のみ。
相手は二隻。
単純に三対二の攻防は、以前のこと考えれば無謀に近い。
しかし、だ。
人は前に進んでいく存在であり、艦娘もまた進んでいく。
砲弾が弾かれ、空で破裂した。
流れる煙が地上に辿り着く前に、巨大な剣が天を裂く。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
気合一閃。
刃だけで五メートルを超える巨大な刃を、彼女は片手で振り抜く。
轟音と共に海面が跳ねるが、敵は僅かにそれて回避。
砲身が相手―大和へ向く途中で、横薙ぎの一撃が要塞棲姫を弾き飛ばす。
「相変わらず固い!」
横薙ぎに払った右手の斬艦刀を海面に叩きつけて止めて、その勢いのまま体を回転させ、左手の斬艦刀で斬りつけ。
要塞棲姫の艤装の一部、砲身が幾つか斬り落とされるが、本体までは届いていない。
彼女の表情が歪み、無事な砲身が向けられる前に、砲弾が弾き飛ばす。
「五十二センチ三連装砲でも、貴方を弾き飛ばすことはできます」
左右の艤装から連続で砲撃しながら、大和は加速した。
斬艦刀を振り回しながら、艤装で狙いを定めて弾き飛ばし、装甲を徐々に削っていく。
うん、本当に怖いと瑞鳳は思った。
上空に舞う偵察機から送られてくる画像には、まるで嵐のように斬撃と砲撃を繰り返す大和が映っていた。
巨大な砲身と巨大な刀を持って、すべてを薙ぎ払うような戦い方をする大和は、速度を落とすことなく突き進む。
相手に攻撃をさせない、相手の反撃を許さない。
前に戦った時は翻弄されていたが、今回は二つの斬艦刀がある。
二メートルの巨剣を予備で持ち、砲撃を主体に戦っていた彼女は、色々と吹っ切れたように斬艦刀を振り回す。
思い返せば、昔の大和は剣と刀を両手に持って戦っていたなと、瑞鳳は振り返っていた。
最初の頃、艤装の主砲を使わずに近接武器ばかり使っていて、命中率がゼロに近かった。
訓練の時にルリから指摘され、そこから砲撃を主体に切り替えての特訓。
いつの間にか砲撃で戦うことに固執していたらしい。
要塞棲姫との一閃の後、彼女は思い出したように剣を持ち出して、あまりに軽さに体のバランスを崩していた。
もっと重い武器を。
大和が望んだことに明石は一発で答えた。
『斬艦刀』。
文字通り、艦艇に対しての攻撃手段として作られた武器は、全体で六メートル以上の怪物。
初めて見たとき、誰もが『無理だ』と感じたそれを、大和は見詰めた後に予想外のことを言った。
『もう一本、ありませんか?』と。
そして、出来あがったのが、二刀流斬艦刀と砲撃による嵐のような大和の攻撃手段。
あれが見事にはまると、吹雪と暁でさえ抜け出すのに苦労するらしいが。
「おっと」
合間、離れた位置から魚雷を放とうとした要塞棲姫に対して、上空から重力爆雷を投下。
超重力の圧縮と炸裂により態勢を崩した敵に、大和が両手の斬艦刀を叩きつける。
嫌な音がして、要塞棲姫の艤装が砕けた。
「終わりです。波動カートリッジ弾装填! 撃て!!」
轟音が海面を揺らす、突き刺さった砲弾は内部で波動エネルギーを解放、内部から要塞棲姫を砕いた。
「瑞鳳さん、ありがとうございます」
「あ、ううん、いいよ。私は必要なかったかな」
「そんなことありません。暁さんの方は?」
「あっちはね・・・・」
言いながら瑞鳳が向けた先、暁は静か海面に立っていた。
「未熟ね、私はまだまだ」
「いやいや、一撃で沈めておいてそれ?」
偵察機から見ていたから、瑞鳳には暁の凄さが解る。
すれ違いの抜刀、赤化に染まった刃先が超高温を持って、要塞棲姫を溶かしつくす。
「卍解・残火の太刀・・・・・ようやく形になったわね」
フウっと息を吐く暁の刀は、まるで木炭のように黒くなっていた。
「うわぁ~~さすがにそれはやり過ぎじゃ」
「余波は出してないわよ」
確かに周りの被害はない、ように見えるだけ。
周囲の空気中の水分は蒸発、海面も僅かに下がっている。
暁には見えないのだろうか、と疑問を向けるのだが、彼女は周りを見回して小さくため息をついた。
「余波は出ていたのね」
初めて使う能力に、緊張していて周りが見えてなかっただけか。
「珍しいこともありますね。暁さんが周りを気にしてないなんて」
「ええ、ごめんなさいね、大和。どうやら私は気がかりがあったようよ」
心配する大和に小さく謝罪した暁は、元の刀に戻ったそれを空間に叩きつける。
「気がかりって?」
問いかける瑞鳳に、暁は空間に出来た裂け目に体を滑り込ませながら、答えた。
「新しい仲間に決まっているでしょう?」
「あ、そっか」
「では応援に行きますか?」
空間の裂け目に続く大和と瑞鳳に、暁はきっぱりと否定を向けた。
「いいえ、晴れ姿を見に行くのよ。あの子は、決して弱くはないわ。生まれたばかりでも、練度が低くてもね」
空間の裂け目。
暁の刀が空間と空間を裂いて、距離を斬り飛ばした先には、海面に立つ彼女の背中が映っていた。
「あの子も立派な『高天原』の一員ですから」
誇らしげに語る暁の声に、彼女が振り返って手を振った。
辛いと体中が叫ぶ。
『嬢ちゃん!!』
注意を向けるように諭す声に、意識を必死に繋ぎとめる。
なんだこれ、が最初の印象だった。
使っている艤装が、従っている艦艇が、周りの航空機が、すべての反応が過敏すぎる。
これを使っていた駆逐艦は、よくこんな異常な反応速度の艤装を扱っていたものだ。
足が滑る。
必死にこらえるが、艤装はその速力を落とさずに突き進む。
『お嬢さん、我々に振り回されないで。私達は貴方達の艤装妖精です』
「そうは言っても!」
近くで爆音、続いて水面が跳ねる。
敵の砲弾が水柱を上げていたのか、あのまま留まっていたら爆発で損傷していた。
『我々は常に貴方と共にあり! 大丈夫! ボスに比べたら貴方はまだまだ普通ですよ!』
元要塞棲姫、転生者、魂を融合させられた者。
そんなもの、何の意味ももたないことを叩きつけられる。
艤装が上手く使えない、両手も両足も自分の意思どおりに動かせるというのに、艤装だけが空回りする。
『嬢ちゃん! 主砲の連中が目標に困るから余計なことを考えるな!』
「解っているけど!」
敵は二隻、絶対に抑えると約束した。違えるつもりはないが、自信は少しずつ削れていく。
魚雷が外れた。敵の進路予想が甘いから、大きく外れた魚雷はやがて自爆して海面を揺らす。
「この!」
右手の艤装を持ち上げて撃つ。
光弾は要塞棲姫に掠ることもなく、虚空を貫いてしまう。
自分の両手も甘くなってきた。
『嬢ちゃん! 砲撃するなら狙え! 相手も自分も動いてるんだぞ!』
「解ってるけど! でも、こんな艤装なんて!」
両手の武器と背中に武器、それに八隻の従属艦艇。
異常だ。こんな武器でよく戦っていた。
両手にはGNソード、背中には波動砲と重力砲の複合砲塔。
足の推進機は電磁推進と水流噴進の加速重視、その上に魚雷発射管もある。
八隻の従属艦艇は二隻が空母型、六隻が戦艦型。けれど、これも普通の艦艇ではなく、霧の技術でも使っているのか船体が形を変えて砲撃やミサイルを放っている。
その上で、反応速度の異常さ。
細かい指示を出す前に動き、まるで針の穴を通すように正確さを示す。
前に纏っていたのは誰なのか。
駆逐艦のあの子が、こんな芸当をしていたのか。
『清霜の嬢ちゃんは、適応能力が高いからな』
「え?」
『俺達のボスは、『神帝』テラ・エーテル提督だ』
嘘、と彼女の口から言葉が零れる。
絶対的な支配者、未だ不敗の伝説を製造する者。
神を殺し、神の能力を奪い続ける、現代の神殺し。
権能とやらを奪うカンピオーネではない、神そのものの力を奪って、世界を手に入れて、創造神でさえ屈伏させた狂乱の体現者。
噂は聞いたことがある。転生する時に神に、転生の間にいた誰かが話していたのを、覚えている。
あいつが使っていた艤装が、自分に仕えるわけがない。
『嬢ちゃん!!』
「あ・・・・・この!!」
波動砲が来る、直撃。
咄嗟に両手を回して、上方の砲身を前に。
即時充填、発砲。
波動砲同士がぶつかりあって、海面を吹き飛ばす。
「ええええい!!!」
右手のGNソードの刃を展開。刀身を巡るエネルギーが切れ味を増して、要塞棲姫の艤装の一部を切り落とす。
え、と疑問が流れた。
今の自分はどうやって、動いた。考える前に体を動かしていた気がするが、それが艤装を動かしたのか。
疑問を置き去りにするように、左右から航空機が挟み撃ち。
要塞棲姫のバリアーに対して波状攻撃を仕掛け、バリアーを粉砕。その後に砲弾が命中。
ボロボロになった要塞棲姫の一隻に、止めの一撃を叩きこむ。
『そうだ! それでいい!! 後ろなんて振り返らなくていい!!』
『我々はボスの艤装ではなく、貴方の艤装です!』
『振り返るな! 後ろには敵ではなく我らがいるのみ!』
『貴方が前に進む意思を持っているならば、我らはその背についていくだけです!』
『嬢ちゃん! 俺たちはあんたの背中だけを見て進む! 行先はあんたに任せる! だからな! どうしたいかじゃない『何処に行きたいか』を考えろ!』
『貴方が理想と思う自分を描いて進んでください!』
『どんな時も我々が貴方の背中にいます!』
『貴方の苦難に対して背中を押して上げます!』
次々に上がる妖精の声に、彼女は呆けた顔を振り払って、前を見据えた。
「行くよ! みんな!!」
『イエスマム! 我らが女帝! 『ロンド・ベル』!!』
スッと、体の中に何かが通った気がした。
動く、いくらでも思い通りに、正確に。
今までのことが嘘のように、艤装は素直に自分に従って能力を発揮していく。
流れるように止まることなく、攻撃をしてくる要塞棲姫に接近していく。
牽制のミサイルが相手の足を止め、囮の砲弾が相手の意識を反らしたところへ、ロンド・ベルの一撃が叩きこまれた。
「ごめん、貴方は私の残滓かもしれない。でも、私はもう過去に囚われたりしないから。ここで止まって」
ソードを振り抜き、ロンド・ベルはターンして流れていく。
さよなら、過去の私。復讐は果たせなかったし、無念は晴らせなかった。
けれど、私は前に進む。復讐も慟哭も無念も、後悔さえ引きつれて。
たくさんの強くて優しい仲間と共に。
「お見事よ、ロンド・ベル。ようこそ、『高天原』へ」
「ありがとうございます、暁さん」
一礼して彼女に答えると、相手はそっと手を差し出してきた。
「貴方にはこれから多くことを教えてあげる。そして今度は貴方がそれを世界中の人たちに教えるのよ」
「え、あの」
「そしていつか、貴方の無念が消える場所を見つけなさい。大丈夫よ、私達もそうやって強くなってきたの。貴方にもきっと見つかるわ」
穏やかに優しく微笑む小さな女の子に、ロンド・ベルは『はい』と答えた。
深海棲艦の本拠地は、名前の通りにまだまだ戦力に溢れていた。
けれど、彼女を止められるほどの実力者はいないようだ。
鳳翔は後ろから見つめていた。
砲も魚雷も使わない、陸上だから推進機もない。
でも決して彼女は止まらない。
両手で持った剣が、空間を埋め尽くす。
たった一本の剣なのに、砲撃も光弾も、敵の攻撃すべてを叩き落とす彼女の姿は、昔からかわらないほどに小さい。
八丈島鎮守府の初期艦。
テラが最初に出会った艦娘。
昔からその背中を追ってきた小さな少女は、今では多くの艦娘が見つめる背中を持っていた。
「邪魔です」
戦艦棲姫二隻を一刀で切り捨て、崩れ落ちた敵に目線を向けることなく、通路を進んでいく。
圧倒的という言葉が霞むほどの彼女の雄姿に、同行者である高野は言葉を忘れたように見惚れていた。
けれど、思い出したように口を開く。
「さすがにあいつの初期艦だけはあるな」
「はい。私達の誇りの背中ですから」
「そうだな。君たちはずっと、あの背中を・・・・・・いいや、その先のテラの背中を追っていたのだったな」
「はい」
否定はしない。
吹雪を追い掛けながら、その先にいるテラをずっと追っていた。
辿り着けないことを知りながらも、諦めるということを選ばなかった者達。
それが、八丈島鎮守府であり、『高天原』でもある。
「私もあのような男になりたいと願っていたことがあったな」
「高野総長?」
歩きながら、彼は何処か自嘲気味に笑う。
「人を、国を護りたいと願って軍人となった。多くの者がそうであるのに、今は誰もが悔しさで一杯だろうな」
「それは・・・・・」
艦娘に押しつけて、自分達は後方にいるだけ。
いつか、軍令部である軍人が言ったことは、今の合衆国日本の全軍人に当てはまる。
いや、国防にかかわるもの全ての想いである。
確かに誰もが理解はしている。
外敵に対しての有効手段がないため、それを持っている艦娘のために後方にて援護することの重要性を。
けれど、悔しさが薄れることはない。
彼女達だけ戦わせて、自分達は安全な場所にいるなんて。
彼女達が傷ついて自分は何故、無傷でいるのだろう。
悔しさで一杯で、自分の無力さに何人が泣いただろうか。
戦場に向かう艦娘を見送りながら、自分への怒りで何人が狂いそうになったか。
答えは、全員だ。誰もがそれを日々に刻みながら、笑顔で心配ないと伝えながら、艦娘達を送りだす日々を過ごしていた。
けれど、これで終わりだ。
後は・・・・・・・・・・。
「つきました、高野総長」
「ああ」
吹雪の声に、大きく足を踏み出した。
「よう、軍令部総長」
男はいつかと同じように笑っていた。
「ええ、東郷元帥」
高野も答えながら、軍刀を引き抜く。
「馬鹿は多いか?」
「皆が大馬鹿ですよ。貴方に負けないくらいに」
「そうか」
振り上げられる軍刀を見つめながら、東郷は満足そうに頷く。
「英雄になりたかったか?」
「昔は憧れていました。けれど、なってみると案外につまらないものです」
「なるほどな」
振り上げた軍刀に、光が反射していた。
キラリと輝き光が東郷を照らし、男はそれを眩しそうに見つめた。
「おまえも英雄でいたいか?」
「いえ、私は日蔭者になりたいと思います。冷や飯ばかり食っている、無駄な者と」
「誰からも認められなくて、大丈夫か?」
「貴方達が認めてくれるのでしょう? 過去の英霊が認めてくれるならば、毎日を罵倒の中で過ごしても、笑っていられます」
「それでいいのか?」
「はい。私達は貴方達が掲げた理想を胸に抱き、日蔭者として過ごせることを願って軍人となります」
「馬鹿か、お前?」
「大馬鹿ですよ、貴方と一緒の、大馬鹿な軍人です」
次の言葉は、出てこなかった。
けれど、東郷は満足そうに頷いて、真っ直ぐに見詰めた。
後は任せた、どうか自分達を無駄死にさせないでくれ。
ええ、貴方達の意思と犠牲は、決して後世に無駄といわせません。
ならば安心だ。
では、さらばです、東郷元帥。
無言の間、二人の意思は静かに想いを繋いで、そして命が消えた。
「戻ろうか」
高野はゆっくりと軍刀を鞘に収め、二人にそう告げた。
戦争は終わり。その後、深海棲艦が海に生まれることはなかった。
そして、終戦が決まったこの日、テラ・エーテルとホシノ・ルリは地球から姿を消した。
様々な想いがあり。
色々な願いがある。
そして、舟は征く。