死神狩猟生活日記〜日々是狩猟也〜   作:ゾディス

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ある日の鎌使いの日常

 ヒュンッという風切り音とともに、風が私の髪をわずかに揺らす。閉じていた目を開けると、そこに恐ろしいモンスターの姿はなく、1人の狩人の姿が映っていた。

 

 その人は振り向き、へたり込む私に手を差し出すと、「大丈夫?」と、声をかける。驚いたことに、かけられたのは女性の声で、目深に被ったフードの中からのぞくアメジスト色の瞳が特徴的だった。

 コクリと頷き、その手を取る。少しばかりひんやりとしたその手は、背中の得物()を握り続けてきたからか女の人の手にしては少しゴツゴツとしていて、それがかえって力強さを感じさせた。

 

 私を力強く引っ張って立たせると、さっと私の体を見て、大きな怪我がないことを確認し、BC(ベースキャンプ)のある方角を示して、彼女の知り合いへの言付けとともに私を送り出した。

 

 歩きだした直後、少しだけ気になって後ろを振り向く。しかし、すでにその狩人の姿はなく、次の獲物を仕留めるために走り出した影が見えた。

 

 

 私は前に向き直り、BCへの道を走り始めた。

 

 家に帰ったら、まずは筋トレでもしてみよう。木刀があるなら素振りをしてもいい。そんなことを考える。今この瞬間、私が初めて抱いた夢を大切にしたかった。

 いつか大きくなって、あの人くらい鎌を上手く扱えるようになったら、あの人に私の鎌さばきを見せたい。そして、胸を張ってこう言うのだ。

 

「あなたに憧れて、あなたにもう一度会いたくて、ここまでやってきました」と。

 

 私がこの世界に入ったきっかけ。

 今の武器を手に取ることになるきっかけになったあの日。

 その思い出は、いつまでも私の宝物だ。

 

 

 ◇◇◇

 

 大きな橙色の体。四肢をひくつかせ、()()()()()()()()()頭部からは血がドクドクと流れ出ている。少しして、体を支える力を完全に失ったドスイーオスの倒れた音が洞窟内に響き渡った。

 取り巻きのイーオスたちは、最初はボスを殺した私を激しく威嚇していたけれど、やがて蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 

「……ふぅ」

 

 その様子を見て、私は小さく溜息をついた。同時にやってくる、とてつもない疲労感。

 どさりとその場に腰を下ろす。張り詰めた気が一気に緩んだせいか膝が笑ってしまっているけれど、そのことが逆に今回も無事に目的を果たすことができたと実感させてくれた。

 

 最近、沼地を根城とする大型のモンスターが狩猟され、イーオスたちを脅かす存在がいなくなったことが、この依頼の発端だった。大型モンスターが不在になったことで、抑制されていたイーオスが一気に増えた。さらにはドスイーオスまでもが現れ、近隣の村や商人への被害が予想されたのだ。

 クエストを受注した私は、迷わずドスイーオスに狙いを定めた。

 

 

 ドスイーオスの統率力は近縁種のランポスやゲネポス種の首領(ボス)のそれを大きく上回る。優秀な指示役の元、彼らは的確に、狡猾に獲物を仕留めにかかる。

 しかしドスイーオスを多大に信頼するあまり、ボスを失った途端に彼らの統制は一瞬で崩壊、他の二種と比べて酷く臆病になる傾向にある。生まれてからドスイーオスに遭遇したことのない野良イーオスは別だろうが、一度群れに加われば必ずと言って良いほどその傾向が現れる。

 故に、イーオスの大きすぎる群れを駆除したいならば、まずはドスイーオスを狙うべし。

 

 

 と、いつぞやの『狩りに生きる』に書いてあったからそうしただけなのだけれど。

 あの記事を書いたのは高名な鳥竜種研究の学者サマだったはずだから、多分間違いはないだろう。事実、ドスイーオスを失ったイーオスたちはかなり混乱したようだったし。

 やがてあの群れは自然崩壊するだろう。そうなれば、沼地近くの人たちも沼地付近での活動を再開できるようになるはずだ。クエストの目的は十二分に達成されたとみて間違いないはず。

 

 そんなことを考えていた時、

 

「フェイー! 気付け薬ポーチに入れるのを忘れるんじゃないニャー!」

 

 洞窟の入り口の方からペタペタという音とともに私を呼ぶ高い声が聞こえてきた。その声を聞いて、私は無意識に苦笑を浮かべるのを感じ取った。彼に注意されるのはもう何回目だろうか。

 

「ごめんごめん。ありがと、シルヴィ」

「全く。何度言っても忘れるんだからニャ……はい、元気ドリンコ」

 

 白というよりは銀に近い毛が特徴のこの(アイルー)の名はシルヴィ。私の狩りを時に落とし罠や閃光爆弾でサポートしてくれる頼れる相棒だ。

 シルヴィは呆れ顔を隠そうともせず、私への小言を続けた。

 

「フェイの狩りは他のハンターさんの何倍も神経キリキリになるやり方なんだから、もっと気をつけなきゃダメって何回も言ってるニャ。フィールドには他にもモンスターがいるんだから……」

「分かってる分かってる。だけど、シルヴィがしっかりしてくれるから、こうやって忘れ物しちゃうんだよ」

「……フン」

 

 シルヴィの小言にちょっとだけ誇張した本音で返してやると、シルヴィは照れたのかそっぽを向いて黙ってしまう。してやったりとばかりにニヤニヤしながら元気ドリンコを一息に飲み干す。まぁ嘘はついてないし、本当に感謝してる。

 

 

 シルヴィの言った通り、私の狩りはちょっと普通じゃない。普通じゃないというのは密漁とかそういう意味ではなくて、その狩猟方法にある。

 

 一言で表すなら()()()()、あるいは()()。普通の狩りとは真反対の、まさしく異端。

 一瞬で仕留められるけれど、その代わりと言うべきか、緊張感は普通のそれとは比べ物にならない。何しろ、気配すら勘付かれてはいけないやり方なのだ。息を殺し、気配を消し、自分がいないかのような状態を仕留めるその時まで保たなくてはならない。仕留めた後は後で、張り詰めた気が一気に緩むせいで立つこともおぼつかないほど。

 

 故に、私は気付け薬代わりに元気ドリンコを携帯するようにしている……のだけれど、シルヴィがいるからついつい忘れてしまう、というのがどうも彼の機嫌を損ねているらしい、というか損ねている。

 

「神経キリキリ」になる理由はもう一つあるのだけれど、そっちは正直知られたくない。知り合いにつけられた異名(あだな)とあまりにも合わなくて、よくからかわれるのだ。

 

 ようやくちゃんと歩ける程度まで回復した私は、ドスイーオスの亡骸から何回か素材を剥ぎ取る。

 あとはギルドの人が処理をして、ある程度の素材が市場へと流通するだろう。素材は取り過ぎないようにし、自然へと還すのがモンスターへのせめてもの礼儀というもの。そして、剥ぎ取った素材を人のために役立たせるのが命を奪う仕事に関わる人の義務であるとも思う。

 最後にドスイーオスの亡骸にそっと手を合わせてから、私はやって来たギルドの迎えの方へと歩きだした。

 

 

 ◇◇◇

 

「今回のクエストの契約金300ゼニーの倍額 600ゼニーと、報酬の4800ゼニー、そして使用したネコタクの代金3200ゼニーを引いて、合計2200ゼニーになります。素材はいつも通り後ほど。……まぁたやっちゃったね、フェイ?」

「……うっさい」

 

 顔なじみで友達かつギルドガールのセラのニヤつく顔に、私は小さく言い返した。

 普段なら多くのハンターがクエストからギルドに帰ってきたり、逆にこれからクエストに出かけようとするハンターが賑わっているギルドだけど、今の時間はたまたま人がほとんどいなかった。少しやかましいくらいの方がクエストの失敗とかをすぐに忘れさせてくれるから今日とかはその方が良かったのだけど、私がクエストで何かしら失敗する日は大体人が少ない。もっとも、人が多い日でもシルヴィに水さされて気が沈むのが恒例。

 そのシルヴィはといえば、今日は先に帰って寝ると言っていた。彼は健康優良児なので、夜遅くまで起きていることは少ない。

 彼の不在、すなわちブレーキ係も不在。ブレスワインでも黄金芋酒でも飲んで、食えるだけ食ってやる。なんて、そんなことを考えつつギルドの食事エリアへと向かうと、見覚えのある男がテーブルに突っ伏していた。

 

「何してるのよ、グレイ」

「ん……? あぁ、フェイか……いやさ、ギルドの事務処理きつくて……」

 

 赤い騎士風の服に身を包んだこの男はグレイ。最近まで同じ狩人仲間だったはずなんだけど、いつの間にかギルドの事務処理係になっていた。別に体力がないとか筋力が足りないとかではなかった、というか普通のハンターと比較しても腕は確かな方だと思っていたのだけど。本人曰く「狩りに縛られるのが嫌」なのだとか。つくづく変な男。

 当の変な男は、毎朝めちゃくちゃやる気を出して職務に励んでいるのだが、夜になると大概ギルドに併設された食堂で酔いつぶれている。マダオにしか見えない。

 

「昼間に妙な仕事が入っちゃったのよ。キングロブスタを大量に密輸したとか何とか」

 

 そんなマダオを見下ろしていると、仕事が終わったのか私服に着替えたセラもやってきた。状況が掴めないから、それっぽいことを聞いてみる。

 

 

「ガノトトスか何か釣ろうとしたの……?」

「さぁ? ま、そんなこんなで取り調べやら購入先の調査やら。余計な仕事やらされたんだから、こっちもたまったもんじゃなかったわよ」

 

 そう言いながら腰を下ろすと、セラはブレスワインをオーダーして頬杖をついてため息を吐き出した。

 何も頼んでいなかったことを思い出した私は、同じくブレスワインと、シナトビウオの落花生衣揚げをオーダー。食べるだけ食べるとは言ったけど、もう夜遅いし。私も女だし、当然カロリーは気にする。

 そもそも夜に食べなきゃいいってツッコミはご法度。

 

「まーまー。とりあえず飲もう? 飲んで忘れよ?」

「誰かさんのネコタク利用とかもこっちが処理してるんだからね?」

 

 労ったはずなのに嫌味が返ってきた。悲しい。

 運ばれてきたブレスワインと衣揚げに手を伸ばしながら、私は小さくため息をついた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 まさか2時間も愚痴に付き合わされるとか誰がわかるのだろう。

 目の前に広がる地獄絵図に、私はもう呆然とするしかなかった。

 

「だいたいさー、エビごときで釣られるとかガノトトスもラギアクルスもアホよねー! ガノトトスはエビとか食べそうだけど、ラギアクルスなんてあだ名に〈大海の王〉とかあるのに、あんなちっこいエビ食べるのよ? 大海の王とか、なにそれウケるんですけどアハハハハ!」

「ほら、ラギアクルスの食べた大型魚類のエサがキングロブスタだったのかもしれないし……」

「あ、そっかぁハハハハ!」

 

 ご覧の通り、セラは笑い上戸。昼間のキングロブスタ事件で愚痴を垂れ続けるとは思ってなかった。しかも同じ内容しか言わないし。途中から笑い上戸になったけど、相槌打ったりするのに飽きた私は悪くない。

 笑い続けるセラから目をそらしたと思えば今度は泣き上戸のグレイが目に入る。

 

「だからあの先輩は嫌いなんだ……、自分の面白そうな仕事しかしないくせに、いざめんどくさくなると全部俺に丸投げ。一回文句言ってみたけど『お前さんならできるできる!』とか言ってはぐらかして……。お偉いさんからもいい加減落ち着けって言われてるのに、あちこち遊びに行って……それに憧れたから先輩の言うことを信じてこの職場入ったのに、いざ入ってみれば全然自由なんてないし、先輩は仕事しないし……なぁ、聞いてる?」

「はいはい、聞いてる聞いてる……」

 

 彼をこの業界にスカウトした先輩は、何というか自由の象徴のような人だ。キャラバンを設立して各地を旅して回ると同時に、その他の環境調査をしているのだとか。まぁその仕事はもっぱら放り出しているようだけど。一度会ったことはあるけれど、気持ちのいい人だ。仕事はサボることを考えなければ。

 酒が入るとこの二人はめんどくさい。仕事帰りの疲労もあって、思わずため息が漏れた。

 

「そういや、フェイも昼間の忙しさに拍車かけてるのよねー」

「わ、私は悪気があったわけじゃ……それに、ネコタク使用料は一応契約金に含まれてるわけだし……」

 

 ため息を聞かれたのか、セラの愚痴の矛先がエビから私に変わる。というか、ネコタク云々を言っているのなら、そっちは仕事の内容なんだから文句は勘弁してほしい。私も悪いのは事実だけど。

 とか思っていたら、グレイの愚痴まで私に向き始めた。

 

「そうは言うけど、ネコタク使わせてもらうのも大変なんだぜ……わざわざフィールドまで行って、野良アイルーにわざわざ頼むんだから」

「そ、そうなの?」

「そーよー。しかも、モンスターのいるところに突っ込んで行くわけだから、保険料とかも意外とかかってます。契約金? 足りない足りない、もっと持ってこいっての、アッハハ!」

 

 思わぬ事実に動揺する私をセラが追い討ち。知らないところで妙に世話かけていたようで、どんどん私の立つ瀬がなくなってきた。

 そんな私を見て、セラがニヤリと笑うのが見える。嫌な予感しかしない。

 

「あー、こうなったらフェイにも働いてもらわないと気が済まないなー」

「……働くってなにを?」

「あんたはハンターなんだから、やることと言ったらクエストに決まってるじゃなーい。大丈夫? 酔っちゃった?」

「目の前で酔っ払ってるアンタよりは酔ってないわ。水ぶっかけてやろうか」

 

 ちょっとイラっとしてしまって暴言が出た。でも、私、頑張ったよね、よく耐えたよね……?

 もっとも、セラには全く効いてないらしく、足元のバックからゴソゴソと何かを取り出そうとしていた。

 

「めんどくさい依頼入っちゃってさー、でもフェイならできるでしょ?」

「依頼内容にもよるよ……てか、私受けるなんて言ってないんだけど」

「……ネコタク」

「分かったわよ、受ければいいんでしょ!?」

 

 グレイがボソッと呟いた一言に、私はヤケクソ気味に叫んだ。もう知ったこっちゃない。

 

「んじゃこれね。ヨロシク〜♪」

 

 差し出された依頼用紙を見て、頭を抱えることになったのだけれど。

 

 ◇◇◇

 

「朝帰りとは良い度胸だニャ」

「私のせいじゃない……」

 

 帰ってくるなりベッドに倒れこんだ私に、シルヴィから呆れた声がかけられた。

 

 結局受注させられた私は、知り合いの加工屋まで行って武具の整備を頼んできた。狩猟対象のモンスターは大したことないモンスターと言っても過言ではないのだけれど、私の場合、念には念を入れておかないといけない。

 

 うつ伏せになりながら、依頼書を差し出し、私はシルヴィに告げた。

 

「4日後、雪山に行きます」

「ニャ?」

「クエストです」

 

 その依頼主は──

 

「ニャ……あの第三王女……」

「とんでもないクエ受けちゃった……」

 

 無茶、横暴、ワガママの権化。それがこの国の第三王女だ。その依頼は大抵ロクなものじゃなく、受けたがる人もいない。

 

「フェイって定期的にバカになるニャ」

「私悪く無いもん……」

 

 なのに引き受けざるを得なかった理由はもう一つある。

 

「アガり症の『死神』ってバラすってセラが……!」

「あー……セラらしいニャ」

 

 実際の私は極度のあがり症で、クエストでネコタクにお世話になる理由はだいたいこれにある。

 そんなザマからセラがつけたあだ名こそ「あがり症の死神」。これが最近広まりつつあって、ギルドの中では度々笑い話に取り上げられているのだ。私だと知られた日には家に引きこもる自信がある。

 

「バレるわけにはいかないの……!」

「もうバレてるんじゃないかニャ」

 

 シルヴィの呆れたツッコミが家の中で反響した。




Twitterでやり取りをしているうちに「モンハンオンリーで書くことから始めるべきでは」と思い至り投稿するに至りました。後悔はしてないけどビビリまくってます。
先人達に負けないくらいに頑張って参ります。
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