いや、それはさておくとしまして、この度、本作「死神狩猟日記〜日々是狩猟也〜」に赤評価がつきました。変な声出ました(実話)。
私の作品の中でははじめての赤評価で、とても嬉しいです。
今後とも、拙作、死神狩猟日記をよろしくお願いいたします!
ドンドルマ。
左右を山に囲まれたその街は、古くから強大なモンスターに襲われることが多々あった。そんな過酷な地だったが故に、多くの依頼が出され、より優れたハンターが必要とされる。そして、集まったハンター達によって、その地には狩人の総本山が築かれ、この大陸における狩人たちを束ねるようになっていった。
それこそが大老殿、並み居るハンターの統括組織の総本部にして、G級ハンターの本拠地である。
その大老殿の最奥、山の頂に据えられた広間の中心で、狩人を率いる長である大長老は大きなため息をついた。
「……この報せは真か」
座してなお6メートルを超える巨体の主の声は、広間という大きな空間の声でもよく響く。
その声と広間に同席する大臣たちから発される雰囲気に気圧されながらも、報告者である古龍観測所の若き観測員は報告を続けた。
「は、はい。先日の渓流での一件と、その前に孤島付近の森で見つかった同様の現象、そして新大陸からの調査報告にあった痕跡から、おそらく間違いはないかと」
「……下がって良い」
「し、失礼します」
報告を聞き終え、男性が部屋を辞するのを見届けてから、大長老は再び、深々とため息をついた。
「カイル」
「はっ」
「此度の件、ヌシはどう見る」
カイルと呼ばれた大臣の一人である初老の竜人は、大長老から手渡された資料を見、その問いに答えることを少しばかり躊躇う。彼の中で結論は出たものの、それを認めてしまうことに抵抗があった。
おそらく、先に挙げられた全ての事案は同一のモンスターによる仕業だとカイルは断じている。
報告にあたり提出された書類の「焼け焦げたような跡」、「何者かの爪痕」という2つに関する記述と、現場資料として同じく提出された黒い鱗。前者2つは、せいぜいどのモンスターかを絞る程度にしかならないが、後者のそれは、調べれば調べるほどにかのモンスターの物としか考えられないものだった。
何より、
だが、それを告げることは、これより先のいつ何時であっても油断ならない状況になる。そう思ったが故に、断言することはためらわれた。
カイルのその躊躇いを察していたかのように、大長老が口を開く。
「ヌシも受け取ったかもしれぬが……ネルヴァからの手紙を受け取った。数日前、直接わし宛に、王国の権限を利用してわざわざ秘密裏にだ」
「……閣下にも送られていたと?」
「うむ。その言葉から察するに、受け取ったのだな。ネルヴァから、同じ文面のものを」
「……えぇ。ユクモ村と新大陸での情報はありませんでしたが、我々が掴めていない未知のものも含め、かなりの情報が記された書簡がネルヴァ──セルウィン殿より届きました」
かつて同じ大老殿の大臣として肩を並べていた同士の1人、ネルヴァ=セルウィン。重役たちの中でもとりわけ危険度の高い問題を取り扱っていた彼は、三年前の事件の責任を取る形でドンドルマを去った。
そんな彼が送りつけてきたのは、ギルド、ひいては大老殿直轄の情報員ですら掴めていなかった情報の数々。
それらは、彼の推測を確信たらしめるだけの正確さを持っていた。
一度小さく深呼吸をすると、カイルははっきりと、その忌み名を口にした。
「全ては
その名を告げた直後、広間にどよめきが起こる。古参の者からは困惑と恐怖に苛まれ、新参者は別の意味で困惑した。
冥雷。古龍種ではなかったにも関わらず、古龍種を大きく上回る危険性を誇った今代
あまりにも強大とされた
更に、逃げた先に偶然居合わせた二人のハンターのうち、一人を殺害するという甚大な被害をもたらした。
最終的には、その場に居合わせたもう一人でもあった
しかし、麻酔が解けた直後に、拘束を振り切って周囲の人間50人余りを殺害、再度逃亡。
その後の消息は不明とされたが、2年の捜索をもって死亡と断定。追跡は打ち切られ、幕は降ろされた。
──はずだったのだが。
「馬鹿な……気は確かかカイル殿! 奴は死んだ、生存はあり得ないと、昨年にそう断じたばかりではないか!」
「では資料とこの黒い鱗、そして私が持参しておいたネルヴァ殿の手紙を読んでみて頂けますか。その後でなお反論があるならば聞きましょう」
あくまで冷静にカイルは答える。それを聞いた大臣の1人が、ますます顔を青褪めさせる。
「本当に《冥雷》だと、奴は生きていたというのか……?」
それほどまでに危険極まりないモンスターがいまだに生きている。その実力を知る大臣たちは皆、頭を抱える他ない。
「だが、いくつか出現例のない場所もあるぞ。孤島付近や渓流地帯に現れたことはなかったではないか」
「今までの情報はもはやアテにはならん! 生息地域がアテにならん以上、観測員を増やさねば」
「使いを出して古龍観測所の長を集めよ! 一刻も早く足取りを掴むのだ!」
それを現実と認めたくない者はなんとか嘘であると示そうとし、少しでも冷静な者は早急に動き始める。
古参の大臣たちが慌てふためく様子を見て、カイルは密かにため息をついた。
(ネルヴァ。何故こうも突然、あなたは──)
カイルとネルヴァは昔からの馴染みであったが、知り合った当初からずっと、ネルヴァという男はどこか掴み所がなくて、何を考えているか分からなかった。
三年経った今もなお、それは変わらないのだと、カイルは思い知らされる。
◇◇◇
朝。ベッド脇の小窓から差し込む光は暖かく、小鳥の囀りが心地良い、1日の始まりを告げる時間。
私は今、何をしているかというと。
「んー……暇だ」
絶賛暇をしていた。
ユクモ村での騒動の後、あれよあれよという間に竜車に押し込まれた私は、そのままバルバレに直帰、セラによって自宅に軟禁(?)されていた。
いや、別に外に出たって構いやしないんだけど、家の鍵をセラに持っていかれちゃったから外出しようにも迂闊には出られないんだよね。買い出しとかはシルヴィがしてきてくれるから困ってはないんだけど、まぁやることがない。
どうしてこんなことをしているのか、理由を尋ねてもセラははぐらかして教えてくれないし、シルヴィは黙って大人しくしてろとしか言わない。
ただ、その目がやけに真剣だから反発する気にもならなくて、言われた通り大人しくしている。
「うーん、何して過ごそう……」
さりとて、やることがないというのも事実なのだ。
まず、普段から家で長期間過ごすことがないせいで、私の家には娯楽品だとかそういうものがない。
……本の一冊もないと知って流石に驚いた。今度何か買っておこう……。
ならばハンターらしいことをと思い、調合書を引っ張り出してきて元気ドリンコでも調合しようと素材箱を覗いてみれば、ハチミツはともかくニトロダケが1つも無い。はて、と首を傾げてから、普段からシルヴィがこまめに調合していたのを思い出す。
つくづく細かいところまで気が回る、よくできた相棒だなぁと感謝しつつ、暇を潰せなくなって肩を落とす。
それじゃあ、こういう時定番の部屋の片付けは? と思うかもしれない。
うちのシルヴィを侮るなかれ、いつの間にやら隅から隅まで綺麗にしているのだあのニャンコ。床はツヤツヤ、窓はピカピカ、玄関前も箒をかけるまでもなく綺麗にされている。
どうしよう、本当にやることないじゃん。
やることがないと気力もなくなるもので、そのままダラリとベッドに横たわっているのだけれど、いい加減外に出たい。なんなら採取ツアーでもいいから狩場に行きたい。こんな時だけ仕事が来ない。つらい。
……そういえば。
「……郵便見てないや」
滅多に覗かないのですっかり忘れていたけれど、我が家には一応ポストがある。もっとも、これまで送られてきたのはギルドからの家賃納金の催促状以外はなかったのだけども。思い出してて悲しくなってきた。
しかも、今月は余裕があるためにさっさと納金しておいた。というわけで、催促状がくるはずもない。どうせないんだろうなとのぞいてみる。
ところが。
「……あった」
中には封筒が一通。それも、妙に高価な紙が使われている。
可愛らしい文字で書かれた私の名前を見て、そんな知り合いがいたかなと首を傾げる。そして、封筒の裏面を見て膝から崩れ落ちそうになった。
「まさか、嘘でしょ……?」
蝋で封をした上から捺されたその印。それは見紛うことはない、西シュレイド王国の物だ。
王国からの公的な書簡というのはギルド経由で私は届くことになっていて、私的なものであれば通常の手紙同様に直接郵送される。
そして、そんなところから私的な手紙が来るとしたら、当然というか送り主は一人しかいないわけで。
王族からの手紙を読まずに捨てようものなら何が起こるか分かったものではない。嫌々ながらに封を切り、手紙を取り出し、折りたたまれた紙片を取り出して開帳、文面に目を通す。
手紙はこう書き出されていた。
『余だよ!』
「誰だよ」
いや分かるけど。
出だしから既にすごいけど、気を取り直して続きを読む。
『この前は世話になったな。突然押しかけてしまったのは申し訳ないと思っている。
なので今回は、そなたの家を訪ねる前に手紙が着くように手紙を出した。余も手紙を出し次第出発の予定だ。
本題はそなたの家で話そうと思う。しばらく予定を空けておくように。
追伸
角竜のハツが食べたい』
また来るのかよ来るなよって思うよりも先に、あの王女らしい無理難題に頭を抱える。
「用意できるわけないじゃない……角竜のハツって……」
角竜のハツ。文字通り
しかし、ただでさえ強力なディアブロスの心臓と言うだけでも希少で価値が高いというのに、昨今では万能薬の素になるとかでますます価値が高くなっている。
いくら今は余裕があるといっても、流石にそんな高級食材を買えはしない。この前の黒狼鳥のモミジのそのさらに上をいく値段なのだ。そもそもバルバレの市場にだってあるかどうか。ポポノタンを買ってくるのとはわけが違う。
無論、私たちハンターであれば、ディアブロス討伐依頼を受注して自力調達することもできる。当然、ディアブロスを狩ることができるだけの実力が必要だけど。そもそも、家でおとなしくしていろと言いつけられている私は行くことができないし。
何より、この方法は時間がかかりすぎる。今から受注できたとして、往復だけでも3週間弱、狩猟も込みで3週間ちょっとかかるだろう。王女が来る前に帰ってくる前に用意するなど到底──ちょっと待て。
封筒をひっくり返し、受領印を見返す。
昨今の交通手段の改善により、郵便は大体3日ほどで相手に届く。さらに金を余分にかければ、速達便として1日後には相手に届くのだ。
この封筒に押された受領印から、この手紙は速達便で届けられたもの。
日付から考えるに、私の家に届いたのは3日前、私たちがユクモ村から帰ってくるさらに2日前だ。そして、西シュレイド王国から今のバルバレまでは竜車で4日弱。
「──まさか」
そう呟いた直後、ガタゴトという車輪の回る音が聞こえてくる。その方向を見やれば、国印の描かれた竜車が一台。後ろの客車の窓から身を乗り出して手を振っている金砂色の長髪と煌めくばかりの碧眼の少女。
あぁ、間違いない。
「久しぶりだな、フェイ=ソルシアよ! 約束通りまた会いに来たぞ!」
(神さま、私確かに確かに暇だとは言ったけれども)
家の前に降り立った少女を見やり。
「さ、家の中へ入れるが良い!」
「帰れ……」
(だからって面倒ごとを寄越せって言ったわけじゃないんですよっつーの)
デカデカとため息をついた。
◇◇◇
エリクシアがフェイの自宅を強襲している頃、バルバレギルドに1人の青年がやってきた。喧騒の中を1人歩む青年の周囲は、酒を片手に騒ぐハンターとは異なる空気が流れている。
彼は集会所の中を軽く見回した後、円卓についていたハンターのうちの1人に声をかける。
「アンタ、少しいいか」
「ん、アァ? なんか用かい、兄ちゃん」
「人を探している。この街にいると聞いたんだ」
聞かれたハンターの男は、目の前の青年の問いに疑問を覚える。
この街はたしかに人も物も情報も多く集まるが、それと同じくらい出ていく場所でもある。この街にいるという話を聞いたのがいつだかは分からないが、そんなアテにもならない情報だけでここに来たのだろうか。
「無駄骨になるたぁ思うが、一応聞いてやる。どんな奴だ」
「……フェイ。フェイ=ソルシアという女性だ」
「……悪いな、分からん。他には何かあるかい」
名前を出されたが、男はその名前に聞き覚えがなかった。
他に何かあるかと聞かれると、青年は少し躊躇ったようなそぶりを見せるも、ややあってこう告げた。
「《死神》……
「死神……ハーデスだぁ?」
これは傑作だ。死人を追いかける若者なんぞ今時珍しい。
男は内心で青年を嗤った。
《死神》という渾名のドジっ子なら一応はいるが、それは違うだろうと切り捨てる。
そもそも、
最強の狩人の一角としてその名を馳せたこともあったが、それも今や昔の話。そのハンターは
「おいおい。まさかあの話を知らないわけはあるめえな?」
「なんのことだ」
「惚けてんじゃねえよ。かの名高き天狼の第三位ともあろう狩人様が、上位飛竜にミンチにされたって情けねえ話だよ」
首狩りの死神の末路。
油断していた《死神》は、採取ツアーの途中で乱入してきた飛竜によって不意を突かれて死亡。最強と呼ばれていた狩人のうちの1人のあっけない末路。ギルドから伝えられたその話は、いつ何時でも油断するなという訓話として、笑いとともにすぐさま広まった。
「──っ」
「いやはや、まさかあの笑い話を知らねえ男がいるたぁな。最強だがなんだか知らねえが、油断してぽっくり逝っちまったなんざ讃えようもねえ話だろ? だから笑い話なわけさね」
今や下位のハンターですら知っている話だ。それを知らないとなると、別の大陸から来た異邦者なのか。
そう思いながら青年を見直した男は、今更ながらに彼の装備が上位レベルのものでもないと気づく。
彼自身は赤銅色の髪に碧眼と、この辺りでは珍しくない容貌だ。
しかし、その装備は一級品。強靭な角竜の素材で作られたと分かるディアブロX装備と、それに比肩するものと分かる剣斧、真・王牙剣斧【断天】。G級ハンターの中でも相当の実力者の証。
はて、そういえばこんな装備をしたG級ハンターがいたような。
「──撤回しろ」
「ッ!?」
それが誰かを思い出すよりも前に、男の体は宙に浮かんでいた。
青年は男の目を睨みつけてなおも叫ぶ。
「撤回しろッ!」
「あぁ!? なんだテメェ降ろしやがれ!」
「撤回しろと言っている! あの人に対する侮辱だけは許さねえぞ!」
「うぁっ、ちょっ、分かった! 撤回する! するから降ろせ──ッ!」
襟首を掴まれ持ち上げられた男は、青年の胸元に輝く
天に吼える狼を象った白金のそれは、大陸最強の狩人の証。
徽章の下半分に象られた蛇を屠る剣士の紋様は、伝説にある《勇者》の象徴。
(この兄ちゃん、天狼の──!?)
息も絶え絶えに、男が青年の正体を察した直後、その青年の背後から低い声がかけられた。
「そこまでにしてもらおうか」
直後、青年の頭蓋へと鉄の口径が突きつけられる。
掴んでいた襟首は離されたために解放され、急いで離れ行く男を見やりながら、銃の持ち主は言葉を重ねた。
「おいたが過ぎるぞG級ハンター。それも、天狼の1人ともあろうものがこんな暴挙に出るとはな。恥を知るといい」
「天狼と分かっていながら俺に銃を突きつけるか、ギルドナイト。力量差というものを知らんのか」
銃口を突きつけられた青年は、薄笑いとともに両手をあげた。
が、肩ほどまであげた瞬間に背後に立つ男の足を払い、形成逆転を図る。
しかし。
「ッ!?」
「天狼と分かっていながら、ではない。天狼にも勝る者だけがギルドナイトになるんだ。思い上がってんじゃねえぞ、《
「アンタは……ッ!」
体勢を崩したはずのその男は、勇者と呼ばれた青年の足払いを避け、頭をホールド。抵抗させる間も無くギルドナイト──グレイ=クロステスはそのこめかみに銃身を突きつけた。
「ハッ……なんでアンタがこんなとこに、しかもギルドナイトなんてやってやがる……!?」
「適性があると判断されたからさ。それ以外にないだろうが、愚弟」
「誰が愚弟だ、グレイ=クロステス! いいや、《
《勇者》──マグナ=アルレヴェリが叫んだ直後、周囲で見守っていた野次馬の間からどよめきが起こる。
「
「あの下戸のヘタレグレイがか? なわけないだろ」
「いやけど、あっちの勇者って言われた兄ちゃんの装備……!」
《
そこへ、マグナの放った言葉が、更なる困惑を招いた。
「アンタにギルドナイトの適性なんぞあるものかよ……この
というわけで初登場、《勇者》ことマグナ=アルレヴェリ君です。サブタイトルの割に出番が短い() フェイの過去に絡む人物なので、しっかり書いていければなと。
え、カイルさん? いや、あの人はそんなに重要キャラでもないかな……?
さて、前書きでも述べさせていただきましたが、赤評価をいただきました。私、今回の更新をする前にFGO時空の沖田さん短編を企画参加として書いていたのですが、赤評価になったのを知ったのがその最中だったんですよね。頭から内容がぶっ飛びかけました。
いや、本当に嬉しかったです。改めて、拙作をどうぞよろしくお願いします!
……赤評価になるとお気に入りの伸び方が変わるんやなって()