死神狩猟生活日記〜日々是狩猟也〜   作:ゾディス

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あけましておめでとうございます(特大遅刻)
やっとこさ色々と落ち着きまして、ようやく投稿となりました。
今年が昨年同様忙しい年になるのか、はたまた楽しい一年となるのかはまだ分かりませんが、今年もよろしくお願いいたします。


完全なる鎌を求めて

 大陸各地を移動し、時に「地図に載らない町」とまで呼ばれる移動拠点、バルバレ。

 各地を移動するという性質がゆえに、物資や情報だけでなく人の出入りも激しい。

 そんなバルバレだが、そこでは常に一つの噂が出回っている。

 曰く、

 

「バルバレには死神がいる」と。

 

 その狩人は巨大なモンスターの首を強靭な骨ごと両断する。

 モンスターは首が飛んだことに気づかぬまま、その命を終える。

 狩場に残る血痕はただ一箇所、血の池が残るのみ。

 

 唯一の手掛かりは「黒い外套を纏い、大鎌を担いでいた」という目撃情報だけ。

 

 その素顔を見たものは誰もいない。

 故に、「死神」は少年だという人もいれば、壮年の男性だという人もいるし、少数ながら女性だとか、果ては本当の死神だとか言う人もいる。

 どれが真か、あるいは全てが嘘なのか。真実を知るものはごくわずか。

 知るものも皆、誰一人として真実を明かさない。知らぬ存ぜぬを突き通し、誰も語ろうとはしない。

 こうして、死神の噂はバルバレとともに各地を飛び回るのである。

 

 

 その死神()()は、今──

 

 

 ◇◇◇

 

「お金を、貸していただけませんでしょうか」

「研磨依頼のお金を払うどころか、逆にお金要求されるとはこれ如何に」

「お願い! 残ってたお金もなくなって、もう何も食べるものがないのよ!!!!」

「そうはいっても自業自得なわけだしなぁ……」

 

 バルバレの往来、その一角に居を構える鍛冶屋の前で、私は私史上最高のDOGEZAを披露していた。

 目の前で私を見下げながらため息をつく友人の視線がつらいです。

 

 雪山で第三王女の無茶振りクエストをこなしてから四日。

 空き巣に入られて全財産を失った私は、隠し持っていたヘソクリでどうにか凌いでいました。

 が、遂にそれもつき、食費すら枯渇。というか、家には生活費としては十分な蓄えがあったので、ヘソクリなんてあんまりなかったというのが本音。

 

 ともあれ、いよいよその日暮らしすら危うくなってきました。

 っていうのも、ハンターって家より狩り場にいることの方が多いから、家に食材がほとんどないんだよね。あっても食べる前にダメにしちゃうし。

 家賃のこともある。今住んでいる家はバルバレギルドから貸し出されたもので、月に一度は25,000ゼニーを納めなければならない。

 

 というわけで、我が家に食材は皆無。けれど腹は減る。家賃も払わねばならない。

 おまけに、ダークサイスSの研磨は時間がかかる。ちょっと特殊なやり方で研磨してもらっているのだけれど、それができるのは彼女──クラリスと、彼女のお師匠さんしかいないから。

 で、研磨作業が終わったのが今日。同時に朝飯を食べたことで残っていたお金も尽きて、クエスト受注金すら失ってしまったというのがことの顛末。

 

 ちなみに、セラとグレイにはすでに頼み込んだ。結果は言わずもがなでした、あの鬼どもめ。

 で、友達でもあるクラリスにお金を貸してもらえないか直談判してみたというわけです。

 目の前のクラリスはと言えば、どうしようか悩んでいる様子。これは助かったのでは……?

 

「フェイはお金が欲しいんだよね?」

「う、うん」

「なら——」

 

 これは勝った。そう思った矢先。

 

「はい」

「ありが……とう?」

 

 ポンと渡されたのはわずか600ゼニー。

 これじゃ節約しても一日しか持たない、と文句を言おうと口を開きかけた瞬間。

 

「『働かざる者、食うべからず』ってね」

 

 にっこり微笑まれた。目が笑ってないぜクラリスさん。

 契約金はやるから仕事しろってことですねわかります、面倒見てもらえると思ってた私が甘かったです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ちょっと変な依頼なのよね、コレ」

「どういうことよ?」

「うーん……」

 

 所変わって、バルバレギルド。

 クラリスから依頼が指定されていると聞いて薄情者(セラ)に確認してみたところ、難しい顔をしながら一枚の紙を取り出した。

 パッと見、普通の納品依頼の様だけど。

 

「一応、受理されてはいるんだけど……ただ素材を持ち帰ってギルド経由で納品するんじゃなくて、取ってきた素材を自分で持ってこいって言ってるの」

「なんで?」

「さぁ……」

 

 なんだかまためんどくさい依頼の予感……

 

「依頼主の名前は?」

「えっと、グラジオさn「よし、他の依頼にしよう!」なによ急に?」

「なに? じゃないよ! グラジオって、めちゃくちゃ気難しいって有名なあのグラジオさんでしょ!?」

 

 どうしてこうもめんどくさい人からの依頼が回ってくるんだ私は!?

 

 クォーツ・グラジオさん。

 大陸の中心部に存在する、大都市ドンドルマ。ハンターの町といってもいいその町において、最も優秀な腕前を持つと言われている鍛治師さんだ。

 100歳を超えるご長寿で、片足が動かなくなってしまったというお話も聞いたけれど、その腕前は今でも全然落ちていないとか。

 ただし、彼はとても気難しいことでも有名で、いつも眉間にしわを寄せていると言われてる。

 その顔つきと腕前から、いつしか付いた異名が「鍛冶神(ヘファイストス)」。

 

 そんな人が出した依頼、それも納品クエストだよ?

 もうね、先行きに不安しか感じないってもんです。

 

 

「ちなみに、報酬は素材の状態次第。状態がいいほど報酬アップだって」

「う、ぐ……っ」

 

 お金ないんだし、この素材なら問題ないでしょと言われ、うまく言い返せず。

 

 依頼書に書かれている納品素材は「鎌蟹の爪」、つまり鎌蟹の()

 私の場合は頭から両断するだけで良いのだし、今回みたいな依頼なら鎌の根元から切断するだけでも事足りるのだから、()()()調()()()()だけなら傷一つつけずに納品することは難しいことじゃない。

 もっとも。

 

「アレに傷がないってかなり珍しいんだけどなぁ……」

 

 ショウグンギザミにおける鎌とは、私たち人間にとっての手に等しい。

 そして、刃とは使っていけば少しずつ()()がつくもの。

 さて、どうすれば傷の少ない鎌を手に入れられるだろう?

 

 ◇◇◇

 

 ショウグンギザミ。通称名の示す通り、鎌のような爪が特徴的なモンスターだ。

 近縁種であるダイミョウザザミとは対照的に、ショウグンギザミは軽快な動きと鋭い切れ味を持つ鎌でハンターを翻弄する。前者を鉄壁の守りとするなら、後者は万物を断つ刀と言うべきか。

 通称名の通り、ショウグンギザミの腕は鎌のようになっており、その切れ味は、岩をもたやすく切り裂くほど。

 故に、ハンターの武器だけでなく、日用品にも使われる。当然値は張るが、それだけに使い勝手は申し分ない……らしい。

 

 グラジオさんの依頼文によれば、今回は包丁にするんだとか。店に卸すのだそうで、だから傷が少ない方が好ましいというわけ。

 

  ところで、私たちは今どこにいるかと言いますと。

 

「さて、クーラードリンク大丈夫だよね、シルヴィ?」

「クーラードリンクも元気ドリンコも、もちろん家の戸締りも大丈夫ニャ」

「いらん事思い出させなくて良い!」

 

 シルヴィから渡された小さな小ビン。その中に入った白い液体を飲み干すと、身体中にひんやりとした冷気がまとわりつくような感覚を覚える。

 

「さ、行こうか」

「転んで溶岩に落ちたりなんかしないよう気をつけるニャ」

「私そこまでドジじゃないよ!?」

 

 今回の狩場はラティオ活火山。大地が生きていることを強く感じるこの過酷な場所が、今回の舞台です。

 

 

 

「けど、火山は久しぶりだわ。……他のハンターさんは大変だろうなぁ」

「他のハンターさんは皆、防具着てるしニャ……その点、フェイは大分楽なはずニャ」

 

 先ほど飲み干したのはクーラードリンクと呼ばれるもの。調合素材がにが虫と氷結晶という、中身を知ると飲みたくなくなる飲み物筆頭なんだけど、飲むと不思議と暑さに強くなる便利アイテムっていうニクいやつ。

 火山のような焦熱地帯では必須で、これを飲まないと暑さで満足に動くこともできない。

 

 けど、クーラードリンク飲んでもじんわり暑いのよね……実際動きやすさと耐暑に関して言えば、私は外套だけなんだし他のハンターさんよりはマシだとは思う。

 

「で、どうしてそんな火山に来たのか、説明がまだなんだけどニャ?」

「あー、うん、それはねぇ……脱皮だよ」

「脱皮?」

「そ。殻からスポンって抜けるアレ」

 

 甲殻類、つまりカニやエビは成長するにつれて脱皮を行う。それは同じ甲殻類であるショウグンギザミ(とダイミョウザザミ)も同じで、若い個体は何度か脱皮をすることが確認されている。

 で、その脱皮がどう関係するかと言うと。

 

「脱皮直後なら鎌にも傷はないはず、ってことかニャ?」

「そゆこと。で、脱皮直後を狙うなら沼地よりもこっちの方が良さそうだって思ってね」

 

 ショウグンギザミはこのラティオ活火山の他にクルプティオス湿地帯、俗に言う沼地にも姿を見せる。

 しかし、沼地は火山に比べて危険度が低く、沼地に出現する個体は既に脱皮をしなくなった老個体であることの方が多い。

 対して、火山は危険度が非常に高い。環境も相まって、生命力の高い若個体が出現することの方が多いのだ。現に、これまでに観測された脱皮跡は火山地帯を中心に発見されることが多い。

 

 とまぁ、これはセラの豆知識だったりするわけだけど。

 

「ともかく、今回私達が探すのは若い個体。大きさを見れば分かるから、シルヴィは見つけ次第私に合図すること」

「おうともニャ。けど、そこまで数いるかニャ?」

「時期的にはいてもおかしくない……と、思うんだけど」

 

 少なくとも、この時期が産卵期だと聞いたことはないから、一匹も居ない、なんてことはないと思う。

 ま、いなかったら沼地の方に行くしかないかな。

 

「いなかったらその時はその時で。とりあえず、エリア4から回って行こうか」

「隠密行動?」

「当然」

 

 地図をポーチにしまいながら、私達はベースキャンプを後にした。

 

 そんな私たちは気づくはずもなかった。

 

 

 ゴァァアアアアッ!

 

 

 この日に限って、とあるモンスターがいることに。




ザザミギザミはいつ頃産卵するのだろう(疑問)
現実の蟹、およびその他甲殻類は成体になるまでの間に何度か脱皮をするということだったので、彼らにもそれに倣ってもらうことにしました。ショウグンギザミが脱皮するか否か、正確な情報をお持ちの方がいましたら、どうか教えていただけると助かります。
しっかし、今回短いなぁ……それでは。

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