死神狩猟生活日記〜日々是狩猟也〜   作:ゾディス

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荒ぶる剛鎚

 煮えたぎる溶岩の池の側。エリア4を探索していた私とシルヴィは、鈍く赤い光に照らされたソレをまじまじと見つめていた。

 

 紺に近い青い甲殻、背部にある黒い球体のような部分、そして──長く鋭い鎌。

 

「間違いなくショウグンギザミだニャ」

「賭けには勝った、のかな」

 

 見事なまでのショウグンギザミの脱皮跡。しかも、まだ朽ち始めてすらいない比較的最近のもの。それを確認した私は小さく息をついた。火山を歩き回ること4時間半、ようやく鎌蟹の存在を確認できるものが見つかった。

 

「は〜……。すっごい力抜けた」

「気持ちはわかるけどそれはダメだニャ。フェイは特に」

「わかってますー、ちゃんと注意してますー」

 

 言葉とは裏腹に気の抜けた返事をするとシルヴィに睨まれました。ほ、ホントだよ、完全に気を抜いたわけじゃないからね?

 

 実際、安堵しているのは本当。見つかって良かった良かった。

 火山と沼地じゃ環境が違いすぎて、今の荷物じゃ沼地に直行とはいかず、荷物の入れ替えが必須だろうからね。今から戻ってそれやるのは面倒だし。

 

 やれやれと首を振りながら、シルヴィが甲殻にそっと触れる。

 

「……冷たい。流石に直後のものってわけじゃなさそうだニャ。この感じだと、うーん、二日三日ってところか」

「及第点かな。グラジオさんにもある程度は妥協してもらわないと困る」

 

 脱皮の直後ともなれば、彼らの甲殻も軟化していて、ある意味一番危険な状態でもあるはずだ。わざわざ自ら危険に突っ込むとは思えない。

 逆に言えば、二、三日後からは行動を開始するとも言える。甲殻は元の強度を取り戻す頃だし、そうとなれば息を潜めている必要もない。

 

「よっし、それじゃあ追跡といこうか。シルヴィ、お願い」

「もうやってる。……エリア3に向かったみたいだニャ。そのあとは多分、エリア7か?」

「オッケー。じゃ、まずはエリア3を目指そう」

 

 甲殻からの匂いを辿り、シルヴィがショウグンギザミが向かった先を予測する。それに基づいて、私たちは追跡を開始した。

 

 しかし、エリア7にたどり着くまでもなく、私はまたしても悩みのタネを抱えることになる。

 

 ◇◇◇

 

「こ、れは……」

「ニャんてこったい。まさか──」

 

 

 震える大地。波打つ溶岩。

 エリア3に到着した私たちを出迎えたのは、砕け飛び散った岩の破片と、無残にもへし折れ、宙を舞う()()()()()()()

 

 ゴァアァァァァッ!

 

 ガキンガキン! と地面を打ち据えながら、()は勝鬨をあげる。

 

「主任がいるとはニャ……」

 

 爆鎚竜 ウラガンキン。鉱石の宝庫たる火山の番人にして、守護者。どうでも良いことだけれど、火山の麓の民からはよく「主任」と呼ばれている。

 

 体表殻は非常に堅牢で、生半可な攻撃では通じない。体重も獣竜種の中ではトップクラス。代名詞たるその顎から繰り出される一撃は岩をも砕く、文字通り鎚のごとき破壊力を誇る。

 

 けれど、彼自体はさして問題にはならない。まぁ無視しちゃえば良いんだから。

 

 問題はショウグンギザミは軽快な動きと絶え間ない攻撃で翻弄するタイプであり、ウラガンキンとの相性が最悪であることだ。

 

 ショウグンギザミは素早く動き回り、鎌による攻撃を的確に獲物に当てていくことによって仕留める。

 

 しかし、速さに特化するあまり攻撃には重み、つまり破壊力は皆無だ。それは体表殻の硬いウラガンキンとの相性は非常に悪い。

 ショウグンギザミは攻撃を躱せるけれど、自分の攻撃は通じないし、その上、最大の武器である鎌を摩耗させるだけになる。

 さらに、不意をつかれて反撃されてしまうこともある。今さっきショウグンギザミの鎌がへし折られたのはそういうことなのだろう。

 

 今なお、ウラガンキンによるショウグンギザミへの猛攻が続いている。ショウグンギザミはなんとか躱して、逃亡を狙っているみたいだけれど、手負いの彼がそう上手く逃げおおせるとも思えない。

 

「まずいな……このままだとせっかくの獲物がぶんどられちゃう。しかも最悪の形で」

「この場合、獲物をぶんどるのはこっちだけどニャ。まぁ確かに、このままいくと折角の鎌がボロボロニャ」

 

 幸運にも、まだ出会ってさほどの時間は経っていないらしい。へし折られていない方の鎌やショウグンギザミの甲殻を見る限り、まだ傷らしきものは見当たらない。

 しかし、このまま争いが続けばショウグンギザミが押し負ける。

 

 この状況を打開するには、ウラガンキンをどうにかして撃退、ないしは狩るしかない。

 

「シルヴィ、毒投げナイフあったよね」

「支給品ボックスの中に5本だけ。多分前使った人の忘れ物だけどニャ」

「後始末しっかりしなさいよ……ま、今回はそれに感謝だね」

 

 ウラガンキンは毒に弱い。毒が回ると動きが鈍り、隙ができる。

 が、愛鎌ダークサイスSは毒属性を持たない。さらに言えば、非常に刃が脆いためにウラガンキンのようなモンスターとの相性は最悪。基本、私はウラガンキンに対して勝つことはできない。

 

 けれど、この投げナイフがあれば話は変わってくる。素早く動き回ってナイフを当てれば、毒状態にした上で私に注意を引きつけることもできるはずだ。

 シルヴィから投げナイフを受け取り、ポーチに収める。

 

「じゃ私がウラガンキン。シルヴィはショウグンギザミの誘導をお願い。イーオスくらいなら問題ないから、バサルモスとかいた時はそれとなく誘導よろしくね」

「バサルモスは多分大丈夫だと思うニャ。壁に刺さった鎌は放置?」

 

 そう言うと、シルヴィは岩壁に突き刺さったショウグンギザミの鎌を指し示した。刺さり方は甘く、それでいてまっすぐ刺さったようなので、シルヴィだけでも抜こうと思えば抜けるはずだ。

 

「……一応。もしかしたら素材として使えるかもしれないし」

「了解ニャ」

 

 鎌は回収してもらうことにして、シルヴィに防刃の袋を手渡す。ゲリョスの皮で作られたこの袋は、いかに鋭いものでもそうそうは破れない優れものだ。

 

「それじゃ、ちょっとめんどくさいことになったけど」

 シルヴィは鎌の方へ、私は2体のモンスターへと向き直り。

 

「クエストスタートだ」

 

 同時に駆け出した。

 

 ◇◇◇

 

 誘死の外套のフードを外し、フェイはポーチから投げナイフを三本取り出した。

 狙いは腹部。ウラガンキンの数少ない柔らかい部分。喉元の方が毒が回りやすいけれど、顎に当たると弾かれるため狙わない。

 

 ショウグンギザミが左右後ろへと必死に動き回る。それを追うようにウラガンキンは攻撃しているので、フェイは全く目に入っていない。

 

 いつもならそれで良い。

 けれど今回はフェイに()()を向けさせなければならない。

 

 だから、狙いはもう一箇所、絶対に自身に殺意を向けさせられる大本命。

 

eins(ひとつ)!」

 

 一本。小さな刃がウラガンキンの腹部へと突き刺さる。

 ウラガンキンはまだ彼女へと殺意は向けない。

 

zwei(ふたつ)!」

 

 けれど、気にせずフェイはナイフを投げつける。二本目の刃は少しずれて喉元に。まだ向き直るようなことはないけれど、動きが少し鈍ってきた。

 

drei(みっつ)!」

 

 続けてもう一本。今度は一本目の隣に突き刺さる。突き立った所から血が滴る。

 ついに、彼女へ()()()()()

 

ende(とどめ)ッ!」

 

 四本目のナイフもまた、ウラガンキンめがけて飛んでいく。

 そして──

 

「ガゴァァアアッ!?」

 

 突き立つ刃、尋常でない量の鮮血が溢れ流れ出す。左眼を襲った鋭い痛みに、ウラガンキンは声をあげ、小虫(フェイ)へと向き直る。残った右目で彼女を睨みつける。

 

「よっし……こっち向いたね」

 

 先ほどまでとは違い、殺意までもがフェイに集中しているこの状況。ショウグンギザミを逃すには十分な時間が稼げるはずだ。

 だが、フェイが取れる手段はもうほとんどない。動きが鈍っている所からすでに毒投げナイフは十二分に効果を果たし、「物陰から急所を両断する」といういつもの狩猟は実行できない。

 

 故に……

 

「サヨナラっ!」

 

 フェイはもと来た道へ全力で引き返したのである。

 

 

 ◇◇◇

 

 怒り狂ったウラガンキンがフェイを追いかけてエリア4へと向かい、傷ついたショウグンギザミが地中へと潜ってから数分後、誰もいなくなったエリア3の物陰からこっそりとシルヴィは姿を現した。

 

「なんだかニャー……フェイの出来ることを考えたら、あの行動は間違っちゃいないはずなんだけど」

 

 脳裏に浮かぶのは洞窟の出口へとひた走る主人の姿。女子らしからぬ悲鳴をあげて、

 

 我が主人ながら、なんと情けない姿だろうか。

 

 言葉には出さないし、ハンターとして「撤退」という行為はなんら恥ずべき行為ではない。狩りによって得るものがなんであれ、命あっての物種だ。

 

 しかし、あのウラガンキンの小さな目に投げナイフを寸分違わず投げつけられるなど、生半可な技量ではなし得ないはずなのだ。

 

 それをあっさり決められる腕を持っておきながら、そのあとは悲鳴をあげて逃走するフェイ。正直ダサいとしか言いようがなかった。

 

「よいせ……っと、これは厳しいかな?」

 

 壁に突き刺さった鎌を慎重に抜き出す。

 見たところ、刃の部分自体には傷が走り、折れ目からのひび割れもあって、耐久力など皆無だろう。刃物としての価値は皆無だ。

 

 しかし、一応は素材。それ以外にも価値があるかもしれない。

 そんなことを思いながら鎌蟹の鎌をゲリョスの革製の袋へと入れる。

 

 

「さてと……どうするかニャ。フェイの指示通りショウグンギザミを追いかけても良いけど……」

 

 

 何より、「フェイが一人」というシチュエーションが不安でしかない。いつ何をやらかすか分かったものではないのだから。

 

「フェイの方かな。しばらくはペイントももつし、ショウグンギザミはそれで大丈夫か……」

 

 ウラガンキンとショウグンギザミの交戦中にこっそりとペイントボールを投げつけておいたから、二体の位置はわかる。ショウグンギザミはエリア6にいることから、おそらく休眠しているのだろうことはわかる。シルヴィとしては、誘導する手間が省けて何よりだった。

 ウラガンキンは言わずもがな、エリア4にいるはずだ。というか、いてくれないと困る。

 

 袋を背負い直し、まずはベースキャンプへと向かう。

 あんな主人(フェイ)に仕えると、どんな時でも失敗した時のフォローを先にしておかないといけなくなるのだ。

 そう、もっとフェイがしっかりしていれば──

 

「……いけないいけない。それは考えない」

 

 ついそんなことを考えてしまう。けれど、今の彼女のあの性格はもうどうしようもないものだ。「もしも」なんて考えるだけ無駄だ。

 

(シビレ罠とけむり玉は持っていくべきかニャ?)

 

 次に考えたことは、いかにしてフェイの優勢を取り戻すか。

 

 無駄な思想はすぐに捨て去り、道すがら現状打開の手段を練る。

 ()()彼女は、それくらいしないとすぐに死んでしまうから。

 

 銀色のアイルーは小さく溜息をつきながら歩き出した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 エリア4。爆破岩がゴロゴロと転がっているお陰で、フェイが身を隠す場所に困ることはなかった。

 

 エリア3から猛追するウラガンキンとこのエリアで何分か逃げ回り、隙を見て岩陰に隠れた。一度見失われれば、再び誘死の外套の隠密効果が発動する。ウラガンキンは、フェイの姿を突如見失って困惑しているはずだ。

 

「ハァ……ハァ……ふぅ。逃げおおせたは良いけど、ここからどうしようかな」

 

 かといって、フェイの状況が良くなったわけでもない。

 毒によるダメージは間違いなく入っているだろうし、すでにショウグンギザミとの戦いで少なからず体力を消耗しているはずだが、それでも撃退には遠く及ばない。

 

 担いでいた大鎌を手に取る。溶岩の鈍い光を受けて暗く光る刃には一点の曇りもない。クラリスの修繕に抜かりがないことの証だ。

 

 ダークサイスSはとても繊細な武器だ。最初の一太刀こそ凄まじいが、それはたった一度きり。二太刀目にそれほどの鋭さはない。

 今回のメインターゲットがショウグンギザミの鎌である以上、それをウラガンキンに対して使うことは避けるべきだ。

 だが……

 

「多分あのショウグンギザミ、手強い……」

 

 逃亡を図る直前、ちらりと見えたウラガンキンの顎。正面からではわからなかったのだが、その顎はやけに平らだった。ショウグンギザミがその顎を切り落としていたのである。

 

 残念ながら戦意を喪失させるには至らず、むしろ刺激してしまったわけだが、ウラガンキンの硬い顎を両断できるとなれば相当な強さであるのは間違いない。

 そんな相手をこのウラガンキンという不安要素がある中で狩るのは、フェイにとっては避けたいところだ。

 

 おそらく、あのショウグンギザミは放置してもさほど問題はない。今は弱っているが、イーオスやウロコトル程度であれば敵にはならない。

 

 が、ウラガンキンは別だ。もう一度あの二体が対峙したなら、ショウグンギザミの負けは必至だ。

 

 ならば、獲るべき相手はウラガンキン。ショウグンギザミを確実に獲るためには彼を狩猟するべきだ。

 

 気配に勘付かれぬよう注意を払いながら、岩陰からウラガンキンを覗き見る。すると、鼻息荒くエリア内を歩き回っている様子が見えた。次第にこちらへと近づいて来ている。やがては今フェイが隠れている爆破岩の元へもやってくるだろう。

 

(勝負は……距離5メートルを切った瞬間)

 

 フェイがウラガンキンに勝つためには、ウラガンキンの懐、体の下から腹部を狙うしかない。

 だが、懐に潜り込めたなら確実に獲ることができる。

 

 だから、勝負はフェイが飛び出す瞬間に決まる。

 

 息を殺し、気配を殺す。心を鎮め、殺意を隠す。

 

(残り、8メートル)

 

 近づく足音。

 

(7メートル)

 

 震える大気。

 

(6メートル)

 

 伝わる殺意。

 

 フェイはそれらに臆することなく待ち続ける。

 己が殺意を

 

(今ッ!)

 

 この一瞬に叩きつけるために。

 

 地を駆け、愛鎌を抜き放つ。下から振り上げられた鎌が、ウラガンキンの腹部へと突き立つ——直前だった。

 

 

 ドゴッ!

 

 

(え——?)

 

 気づけば、フェイは宙を舞っていた。否、フェイだけではない。ウラガンキンもまた、下からの衝撃に突き上げられていた。

 

「ぁ……っ」

 

 とっさに受け身を取ろうとするも失敗し、体を強かに打ち付ける。

 それでもなんとか気を保ち、自分たちが元いた場所を見やる。

 

 そこには、新たな敵対者に怒りを露わにするウラガンキンと地中から這い出す()()()

 

「ショウグンギザミ……!」

 

 

 鎌蟹 ショウグンギザミ。先程とは別の個体だった。

 

 怒りに猛るウラガンキン、全く疲弊していないショウグンギザミ。

 

(最悪だ……!)

 

 打つ手を完全に無くしたフェイは、ポーチから戻り玉を取り出して地面に叩きつける。

 

 この日、二度目の撤退を選択したのだった。

 

 




さて、想像以上に長くなりましたショウグンギザミ編。
いやですね、ほんとは2話くらいで終わると思ってたんですよ。
そしたら、ウラガンキンが思いの外自己主張してきましてね(震え

「というか、死神らしさなくない?」

そう思ったあなた、間違いじゃない。じゃないけど次回はちゃんと頑張らせるから……! なのでもう少し待ってくださいね()

というわけで次回、ショウグンギザミ編完結(予定)です。読んでくださっているみなさんにはもう少しお待ちいただければと思います。

それでは。
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