死神狩猟生活日記〜日々是狩猟也〜   作:ゾディス

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今回はちょっと短め。
新章 無双の狩人篇、開幕です。


慰安旅行……慰安?

 漆黒の空に月は輝く。

 星の煌めきをも隠さんばかりのその光が渓流の地を照らす。

 

 夜露に濡れる草花、天敵が眠り活発化した雷光虫たち。

 そして──金色の双角。

 

 静寂の中、水の流れる音だけが響く。

 彼もまた、身動き一つせず、月を見上げていた。にわかに黒雲の広がりはじめた夜空に、なおも輝く満月を。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ユクモ村。ドンドルマから約1日程度の場所の山間部に存在する、温泉と林業で有名な村。代名詞とも言えるユクモ村の温泉は、疲労や怪我、病によく効くとされ、知る人ぞ知る名湯である。周囲の山々で取れる山菜、特にタケノコは美味で、湯上りに食べる料理は絶品である。

 

 

 とまぁ、これは全部バルバレで見つけたガイドブックに書かれてたことでしかないのだけれど、私もユクモ村の温泉くらいは知っている。ユクモ村近くの渓流でファンゴを間引いた時に、足湯だけなら入ってみたこともあるけど、あれはホントに気持ちよかった。

 林業の方も、ユクモの木と言えば、ハンター業の人ならわかるはず。ユクモの木を使って作られたユクモノシリーズといえば、新人ハンターが使う装備の一つとして有名だ。他にも建材として使われているんだとか。

 

 そんなこんなで、竜車に揺られること1日。私達はユクモ村に到着した。

 せっかく行くなら、ということで、今回は私も慰安旅行ということに相成った。セラもいるけどあっちは全額自腹。私の恨みがどれだけ深いのか思い知るがいい……。

 ちなみに、一緒についてきたシルヴィの分はセラが負担しました。オハナシをしたら快く引き受けてくれたよヤッタネ!

 

 とは言ったものの、しっかりダークサイスと誘死の外套は持ってきているわけです。いや、シルヴィが「特産タケノコ持ち帰らない手はないニャ」っていうから、うん。てことで、滞在は約二週間くらいかな。ユクモ村と渓流は、近いとはいえ行き帰りにそこそこ時間かかるし。

 まぁ、セラもユクモ村のギルドのお手伝いするらしいし良しとしよう。二週間休みとるって言ったら一週間は手伝いしてこいって言われたらしい。ざまぁみろ。

 というわけで、完全休みはクラリスだけで、私もセラも半分くらいは仕事込みだったり。

 

 

 けど、最初から働きに出るというのもなんなのでまずは温泉で──なんて思ってたのだけれど。

 

 

「……なんだこりゃあ」

 

 私の横でセラが素っ頓狂な声をあげた。声に出してこそいないけれど、私も同じ気持ちだし、多分クラリスも一緒。

 

 だって、以前来た時はそこかしこで上がっていた湯煙が数本しか残っていないのだから。温泉特有の匂いもなく、宿から料理の香りが漂ってくることもない。

 ユクモ村の名物、温泉のほとんどに入れなくなっていたのだ。

 私たち以外の観光客も困惑しているようで、あちこちに戸惑う人の姿が見られる。

 

「どうだー! そっちは直ったかー!?」

「ダメだ! 温水どころか水すら出やしねぇ!」

 

「木材はまだ来ねえのか!?」

「まだみたいだ。運搬途中の道にいくつも倒木があるらしい」

 

「ガーグァの卵の在庫がないぞ!?」

「ここ最近あいつらどんどん数が減ってるんだ、仕方ないだろ!」

 

 温泉だけではない。林業や宿泊施設の方でも多大な影響が出ているようだ。つまるところ、村全体が機能停止状態にあるってところか。

 

 ヤバくないこれ?

 

「セラ、私達、ギルドに行ってみない? 何かわかるかも」

「うん……多分、渓流で何かあった感じだよね。ウチらは行ってみたほうがいいかも」

 

 ユクモ村にもハンターズギルドがある。ユクモ村がこの辺りでは1番大きな村なので、何が起こったのかわかっているかもしれない。

 村の人の話から察するに、異変の原因は近隣の渓流にある。タケノコ採りに行くつもりではあったけど、専属ハンターがいないなら、ハンターでもある私が行くべきだ。

 

「クラリス、先に宿行ってチェックインだけしておいてくれない? ウチとフェイはギルド行ってみる」

「分かった。フェイはそのまま狩場に出る?」

「……ううん。一旦戻ると思う。お金とかは渡しておくから、払っといてくれる?」

 

 そういって、私は現金をクラリスに渡し、宿屋での支払いを任せた。

 

 と、そんな時、妙な違和感に襲われた。

 なんか物足りない。いつもはこのあたりで一言二言……あ。

 

「シルヴィ、具合でも悪い?」

 

 そうだ。シルヴィがやけに静かなんだ。いつもは世話焼きなこのアイルーが、ここまで無口なのは珍しい。

 だから、どこか具体でも悪いのかと思ったのだけれど。

 

「……ニャ?」

「シルヴィ、どしたの、大丈夫?」

「……ごめんニャ、ちょっとぼーっとしてたニャ」

「そ。なら良いんだけど。私たちこれから」

「ギルドに行くんでしょ。ちゃんと聞いてたから大丈夫ニャ」

 

 そう言って、大丈夫であることを示したシルヴィだけど。やっぱり、どこか調子がおかしいような気がした。

 

 

「ねぇ、フェイ?」

「何、セラ」

「ウチの宿代は?」

「私が出すわけないでしょ」

「フェイのケチー!」

 

 あーあー、聞こえない聞こえなーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがですね……詳細はこちらでもよく分かっていないんです」

「あれま……」

 

 そう、困った表情で伝えてきた受付嬢に礼を言ってセラは戻ってきた。私も周りの人から情報収集してみたのだが、誰も何が起こっているのかを詳しく知っている人はいなかった。ただ、悪いことは重なるというか、この村の専属ハンターは数日前から砂原に向かっているとのことだった。

 

「まぁギルドでも分かってないってことは、村の人も知らなくて当然か」

「そりゃね。それに、分かってても開示はしてないと思う。危険性がある以上、村の人に情報開示して危険に突っ込むような人が出たらマズいし」

 

 当然ながら、ハンターズギルドは一般人を危険に晒すような情報の開示はしない。ハンターにすら、情報の開示は慎重に行い、村民の混乱を招かないよう、細心の注意を払っている。狩場とは、実のところ、一般人が入るには相当危険な場所でもある。

 

「まぁ専属ハンターがいないんじゃね……」

「えぇ。わたくしがあの方に、ボルボロスの狩猟を依頼してしまったので……」

「はぁ。そりゃまたなんで」

「ギルドの一部が老朽化で脆くなってきまして、その修繕材料をと……」

「あー、それじゃ仕方がない……ってうわっ!?」

「いや、なんで今までさらっと会話してたの? 初めまして村長さん。お噂はかねがね」

 

 ホントだよ。自然と会話をしていたけれど、なんでそんな違和感なく続けられたんだ私。

 会話にスーッと割り込んできたのは、着物姿の竜人さん──この村の村長さんだった。竜人さんは普通の人間よりも寿命がはるかに長いので、年齢は不詳、というか聞いてもにこやかにスルーされるだけなのだけれど、見た目はとにかく若々しい美人さんだ。その美貌はバルバレやドンドルマでも度々話題に上がるほど。

 で、ハンターさんがいないのは彼女が狩猟依頼を出したかららしい。まぁ、いつ何が起こるかわからないしね。仕方ない。

 

「はぁ……どなたか、渓流の調査に行ってくれないかしら……」

 

 チラッチラッてこっちを見てくる村長さん。

 

 いや、まぁ、良いんですけどね、行くつもりだったし?

 

 

 ……露骨すぎませんか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 というわけで、やってきました渓流。あれからすぐに準備して出発したから、着いたのは明け方になった。とはいえ、あたりはだいぶ明るいし、視界もさほど悪くはない。

 

 ただ……

 

「やっぱ変な感じ。気配っていう気配が感じられない……」

「ニャ……虫ならいくらでもいるんだけどニャ。ガーグァとか、ジャギィとか、ちっこいモンスターの気配も感じられないニャ」

 

 普段の狩りのやり方がそうさせるのか、私やシルヴィは気配というものに敏感だ。だから、なんとなく周囲にどれくらいのモンスターがいるかとか、そういうのが分かる。

 

 けれど、今日はそれがない。普段は水底の虫をつついているガーグァや、逸れたガーグァを狙うジャギィといったモンスターが全くいないのだ。もともと生命力にあふれた場所である渓流で、こんなことが起こる可能性などなきに等しい。

 

 おかしいのはそれだけではない。

 さっき上げたような出来事は実のところ、ごく稀ながら起こりうる。その場合、その地域には非常に強力なモンスター、通称“古龍”の出現が影響している。人知を超えた能力を持つ彼らのオーラというべきか、そうした雰囲気に怯えて、大型小型に限らず小動物に至るまで、全ての生き物が逃げ出してしまうのだ。

 

 しかし、さっきシルヴィが言った通り、()()()()()()()()()()のだ。つまり、古龍が出現したわけではない。というか、渓流に古龍現れたこと自体なかったと思うが。少なくとも私は覚えていない。

 

 ゆえにこそ、今回の事件は、本当に不気味だ。

 

 

「とりあえず、全域見回ってみようか。何か違反の原因とか分かるかもしれないしね」

「そうだニャ……なんかヤな予感がするけど、どうしようもないか」

 

 そう言って、私たちはベースキャンプを出た。

 

 

 ◇◇◇

 

 周囲が木に囲まれているエリア5。いつもは木々のせいで薄暗いような場所なのだけれど、今日は()()()()()()()()

 

「……割とあっさり、それっぽい痕は見つかったね」

「ユクモの木がこんなメチャクチャに……」

 

 倒れ伏した木々の数々。なぎ倒されたというかへし折られたというか。根元から掘り起こされたようになっているものや、乱暴に圧し倒されたようなものが目立つ。中には、焼け焦げたようなものもあった。

 

 それともう一つ。

 

「これ、なんだろ……」

「ハチミツじゃニャいか? そこにハチの巣落ちてるし」

「ハチミツかなぁ……?」

 

 黄色っぽい、表面が少しべたついた欠けらのようなもの。側にはたしかにハチの巣が落ちているし、まぁ、そんな気もしないではないけど。

 

 しかし、それ以外に特にめぼしいものがあるわけでもなく。ただ、()()()()()()()()()()()()()という推測しかできなかった。

 

 その後も、私たちは各エリアを見て回ったけれど、同じような跡が残る以外に目立った変化はなかった。エリア3を根城にしている野良アイルーやメラルーも逃げ出したようで、彼らから話を聞くこともできずじまいに終った。

 

「一旦戻ろっか。もしかしたらこういうことができそうなモンスターいるかもしれないし」

 

 シルヴィが無言で首肯を返したので、私たちは一度戻ることにした。

 ……せっかくだからタケノコも持ち帰ることにして。

 

 

 

 

「……そうですか。ユクモの木が……」

「えぇ。かなり手酷くやられてました。林業に大きな影響は出ないと思いますが……」

 

 知らせを聞いた村長さんは、やはり表情を曇らせた。ユクモの木が村の名産であることもそうだし、近隣の自然がこう荒らされてしまうのはやはり思うところがあるんだろう。

 

 先程の跡を報告したものの、やっぱり心当たりがある人はいなかった。この地域でそんなことができるモンスターはほとんどおらず、せいぜいがアオアシラ、あとは、稀に現れる雷狼竜 ジンオウガくらいだろうとのことだった。

 しかし、アオアシラの形跡はほとんどなかったし、ジンオウガも、少し前まではいたが、何日か前に忽然と姿を消したという。つまり、彼らは下手人じゃない。

 

「訳がわからん」

「今までこんなことが起こった試しがねえし、ジンオウガだってこんなことするようなモンスターじゃないはずだしなぁ」

 

 ジンオウガは、一度敵対すれば恐ろしいモンスターだけれど、基本的にはおとなしいモンスターだ。テリトリーを侵されたとしても、人間程度では相手にされることもない。「無双の狩人」という異名があるように、並大抵の生き物は彼らの敵ではないから。

 

 

 だから、そんなジンオウガが、今の渓流であそこまで暴れるはずがない──そう思っていた。

 

 

「そ、村長! 渓流で、じ、ジンオウガが暴れてるって! なんかもう、見境なく荒らしまくってるみたいだ! このままじゃ渓流に生えてるユクモの木が全部ダメになっちまう!」

 

 門番さんの、切羽詰まった報告を聞くまでは。

 




というわけで、前書き、本編の通りジンオウガ篇となります。想像以上にジンオウガに苦戦しそうですが、頑張ります。

さて、死神狩猟日記も7話となりますが、主人公のフェイの詳細プロフが未だ詳しく記載してないよなーって思いまして、この場を借りて紹介させていただきたいと思います。
また、オリジナル要素タグもつけた方がいいなと思ったので、付け加えておこうと思います。更新前には追加されているかと。

◆人物紹介◆
フェイ=ソルシア
HR5
見た目:銀髪のポニーテール、アメジスト色の瞳
得物:太刀(ダークサイスS)
防具:誘死の外套(下にランポス革製のベストなど着用)

肝心なところでボロを出す、あがり症持ちの太刀使い。得物の大鎌の一太刀で対象モンスターを討伐するという狩猟法から“死神”の異名を持つ。
受付嬢のセラと鍛冶屋のクラリスとは親友。相棒に、同じく銀毛のアイルー、シルヴィがいる。

補足として、ダークサイスSと誘死の外套についても。

ダークサイスSの方は、見た目は普通のダークサイスと同じですが、切れ味が紫5 赤50 というような、「一度斬ったらあとはなまくら」という武器だと思っていただければと。
誘死の外套については、「羽織るだけで隠密、抜刀術【技】、超会心が発動するものの、防御力がほぼゼロ」というような防具。というか服。


と、オリジナル要素の説明もあり、あとがきが長くなりました。長々と申し訳ありません。
次回もまた、よろしくお願いします。それでは。


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