目の前の彼の一挙手一投足が凄く心に残った。助けてもらったからとか、命があってよかったとか感じるより先に私はこう感じてしまっていた。
「カッコイイ…」
先ほど0P敵を叩きつぶした彼が凄くヒーロー然としていて、素直にかっこいいと思ったのだ。正に昔なりたかったヒーローの理想としてそこに存在していた。そんな彼に目を奪われない方がヒーロー志望としてどうなのかというそのぐらいプロヒーローと遜色のない存在感だった。
「本人目の前にして、カッコイイは褒め過ぎだよ。怪我はない?」
彼はそんな軽口をたたきながらコチラに手を差し伸べてきた。見ただけでわかる鍛錬を繰り返した拳だ。自分と彼ではどれほどまでに距離が空いているんだろうか、同じ受験者なのにどこか尊敬を覚えてしまう。
「えっと、怪我はあなたのおかげでないわ。私は植蘭中学の拳藤一佳。貴方は?」
「あ、ご丁寧にどうも。俺は潮風中学の紅 夕斗って言います。ちょっと派手にぶっ飛ばしたから被害が行ってないか心配でさ」
そういうとどことなく反省したような表情を見せる彼。特徴的なねずみ色の髪の毛に、キリッとした目。それでいて、どこか反応は子供っぽくて正に人に好かれるような好ましい人物の彼は紅 夕斗と言うらしい。
そんな子供っぽい印象とは真逆のイメージを与えた先程の一撃。結構離れていたはずだったのに自身の個性で風を防いでおかなければ軽く吹き飛ばされていた。それを繰り出したのが目の前の人物だと言うんだから驚きだ。
「あの、助けてくれてありがと。情けないけれど貴方が来てくれた時凄くほっとした」
お礼の言葉を彼に告げるとすぐさま彼は表情を変えた。
「情けなくない。君はあの状況下で誰かを助けていた。危うく自分が怪我をする時にでも誰かを助けれる人は決して情けなくなんかない」
……これはビックリした。まさかそんな事まで見られていたのか。確かにあの時は無我夢中で周りの人を避難させていたが、助けてもらった相手からそんな風に評価してもらっているとは誰が想像しただろうか。
ヒーローは慈善事業的な部分とエンターテインメント性がかき混ぜられた職業だ。しかし、ヒーロー候補にすらまだあがっていない私でもこんなふうに褒めてくれる人がいるんだからヒーローとはなんと素敵な職業なのだろうか。
「ごめん、ありがとう。紅も凄いかっこよかったよ!また、お互い受かってたらご飯でも奢るよ!」
どこか恥ずかしくなってそれだけ告げてその場から去る。なんと言うか、あいつに認めてもらえるようになりたいってこの時は凄く晴れやかな気分で入試を終えれた。
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なるほど、これは手痛い反撃を受けてしまった。あんなことを言うタイプには見えなかったが、スッキリした顔をしていたので入試のことで悩んでしまうようなことは無いだろう。
にしても派手にやりすぎた。入試ということで張り切っていたのもそうだが、何よりオールマイトが見ているかもしれないというのが一番大きかった。演習場に着く前に誰かが言っていたことなので定かではないが、今年から雄英にはオールマイトが教師として赴任してくるらしい。だから今回の入試も彼は見ているのではないだろうかという話だった。
それが災いした。自分でもどこか変なテンションのまま、望んでしまいついつい彼が見ていたら褒めて欲しい一心で0P敵にもオーバキルと言えてしまう一撃を放ってしまった。
そもそも百%なんかで放ってしまったのであの周囲百メートル程は衝撃波で壊滅的であったし、減点対象にされていてもおかしくはない。
こんな些細なことで父さんとの約束の歴代一位が取れていなかったらどうしようか。あぁ、反省しなければ。
「おいおいおいおい、お前すげぇ男らしいな!!!」
っと一人で反省していると赤髪の男の子がこちらに近寄ってきた。そもそも、男らしいとはなんなのだろうか。
「あ、あぁ。ありがとう。すまないんだけど君の名前は?」
「あ、いっけね名乗らないとな。俺は切島 鋭児郎。お前は紅だっけ、すげぇなさっきの一撃!」
なんて言うかものすごく明るい人物なようだ。それでいてどこか頼り甲斐のある漫画とかでよくいる仲間意識がものすごく強くて一人で突っ走ていくタイプに感じる。
「ありがとう、でもあんまり大声やめてくれないかな。さっきの一撃で軽く酔ってるから頭に響くんだ」
「悪ぃ、そうだったのか。一人で立てるか?リカバリーガールが負傷者を手当してるからそっち連れていこうか?」
見た目通りというかなんと言うか、やはり切島は優しい人物だった。彼も受かっていたらいいなぁ、同じクラスだと楽しそうだし違うクラスでも競い合えそうだ。
「いや大丈夫だ、しばらくゆっくりしていたら治るから気にしなくていいよ」
「そっか、分かった。俺一人で動けないやつの手伝いに行ってくるから、またな紅!」
「おう、お互い受かってるといいな!」
拳を高く突き上げて、去っていく切島。俺も暫くゆっくりしてから家に帰るとしようかな。
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「夕斗〜!雄英からお客様が来てるから早く降りてきなさーい!」
母さんのそんな声で昼寝していた脳が一気に覚醒した。
入試から一週間ほど経ちそろそろ結果が知れるとは思っていたがまさか直接誰かが来るとは。
「今行くー!」
返事を返し、すぐに身支度を整える。流石にパジャマで会うわけには行かないし、寝癖も軽く整える。オールマイトが来ていたらどうしようか。まぁでもそんな期待するより歴代一位で受かれたのかどうかが目下の懸念だ。
「オ、オオ、オールマイトだ!!握手してもらっていいですか!」
と思っていた時期が私にもありました。なんて言ってみるが下に降りたらオールマイトとネズミの姿をした人がいて俺はオールマイトに全ての意識を逸らされてしまった。これは俺は悪くない、オールマイトファンとして当然だ。
「ハハハ!お安い御用だよ!」
オールマイトの手を両手で受け止める。握手というよりはどこか俺の一人相撲みたいな感じがした。
ん?オールマイトと握手した感覚が誰かに似ていた。誰だ?この感触をしていた人物は……
「出久といたおじさん…?」
と口から出た言葉で、オールマイトはどこか焦った表情をしていた。まだ疑問の域を出ないが、本当にそんなことがありえるのだろうか。
目の前の彼は筋骨隆々でまるであの骸骨じみたおじさんとは照らし合わせても合致しないが手の感触や、おじさんとあった時に思った声質の点も凄く似ていた。
「俊典さん、うちの子気になったことは意地でも調べるからここで無駄な時間を使って活動時間狭めるより大人しく明かした方がこれから先も楽だと思いますよ」
「仕方ない…か」
どこか母さんとオールマイトは友人と話すような感じで会話をしていた。するとオールマイトが煙に包まれて、そこには海岸で見たガリガリのおじさんがやはりいた。
「やっぱり……!」
「騙すようなことをして悪かった紅少年。しかしこの事は他言無用で頼む。ヒーローはいつでも悪に屈するような真似はできないのでね」
「分かってますけど、何か特別な事情があるんですよね」
「まぁ、夕斗。そこら辺は先ずは貴方の入試成績を聞いてからにしましょう。ずっと気になっていたでしょ」
そう、すっかりオールマイトに全てを持っていかれていたが入試だ入試!俺の成績はどうだったのだろうか。
「こんにちは、紅君。僕は根津。気軽に校長先生って呼んでね」
「あっ、はぁ……。根津校長、それで俺の入試成績はどうだったんですか?」
「そうだね、紅君は筆記は満点合格。仮装敵Pは歴代二位の143Pだね」
歴代二位、その言葉が俺の肩に重くのしかかったきた。父さんとの約束を守れなかった。あの時0P敵を無視してポイントを稼ぎに向かっていればもしくは…と考えてしまい涙が出そうになった。それを母さんに見られたくなくて下を向いてじっと話を待つ。
「けれど、今回の入試で見ていたのはその二つだけにはあらず!根津校長も意地が悪いですね。紅少年、君は0P敵が現れた時一切の迷いなく少女を助けるために飛び出した!」
オールマイトの言葉が、俺の心に刺さる。一言一言に涙が溢れ間違ってなかったんだと思えた。
「ヒーローとは綺麗事を実践するお仕事だ!ならあそこで飛び出した君が褒められないのはおかしいだろう?仮装敵ポイントに加えて更に私達は審査性の救助ポイントもつけていたのさ!」
救助ポイントだって?そんな説明は一切されていなかった。さらにオールマイトは続ける。
「君についた、救助ポイントは94。仮装敵ポイントと合わせて合計237ポイントだ!これは雄英高校始まって以来の歴代一位さ!」
歴代一位!その言葉が聞こえた瞬間に顔を上に上げる。そこには満面の笑みを浮かべたオールマイトがいて、どこか嬉しそうな根津校長がこちらを見ていた。
「こいよ、紅少年」
「っ!はいっ!!!」
横を見ると母さんが凄い嬉しそうな顔をしていて、俺も誇らしかった。涙を見られてしまったのは気恥しかったが、それでもちゃんと父さんとの約束を果たせて一先ずはほっとした。
「それでね、紅君。ここからは僕達からの提案になるんだけど、君には授業料の免除に加えて食堂の利用も無償化にしようと思うんだよ。それだけ君の成績やヒーローとしての姿勢は素晴らしかったからこれは僕達教師からの期待の表れだね〜」
あの雄英から授業料免除なんて聞けるとは思わなかった。それにあのランチラッシュがやっている食堂の使用許可までももらえるらしい。そんな事までしてくれるのか。
「もちろん、授業をしていて君がそれに足らないと判定されればこれも止めさせてもらう。それで良ければどうかな?」
根津校長はどこか俺を試す様な視線を向けて問いかけてきた。
ならこれも超えるべき壁ということなのだろう。
「やらせてもらいます!学費免除して頂けるならそれに恥じないように学校で過ごさせてもらいます!」
「なら、これを渡すよ。金のネクタイピンだよ。これを食堂で見せたらタダにしてもらえる」
渡された金のネクタイピンが渡された。期待の大きさがもので表されるというのは凄く重圧を感じる。
「んじゃあ、伝えたかったことは全部伝え終わったから私達は帰るよ。紅少年、四月から楽しみにしてるぜ」
オールマイトは姿を変えていつもの筋骨隆々の姿に変えて玄関から帰って行った。根津校長もオールマイトの肩に乗って行ってしまったので、リビングには俺しかいない。母さんも二人を見送りに玄関まで向かったので一人だ。
父さんが帰ってくれば、このことを自慢しよう。きっと父さんも褒めてくれると思う。
けれど父さんがその日帰ってくることは無かった。この日から俺と因縁の敵との縁が現れ始めることになるとはこの時の俺は全く思いもしていなかったのだ。