絶唱光臨ウルトラマンシンフォギア2nd   作:まくやま

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 ……あの運命の日を、”彼女”は今でも夢に見る。
 ”彼女”はあの絶望を前にしても、折れず、負けず、その命を燃やして唄い──そして、散って逝った。
 遺された”彼女”は選択した。
 憎しみを歌にして、怒りを唄にして……ただ運命の元凶を討ち滅ぼすことを。

 全てを斬り裂く片翼が、
 全てを貫き穿つ片翼が、

 戦笛の音によって再び──


1章・黄昏を喚ぶ笛の音響いて 1節:片翼の奏者-E/BELIAL-
EPISODE 01【片翼の奏者】


 

 

 混沌の渦──ギャラルホルンが生み出した(ゲート)。どれほどの時間が経ったのかは定かではないが、3人の少女と1人の青年は間違いなくその出口へと辿り着き、光の射す場所へ降り立った。

 

「着いたわね」

「……ここが、並行世界ですか?」

「そのはずなのだが……。立花、この公園は……」

「ここが、どうかしたんですか?」

 

 不思議そうに疑問をぶつけるミライ。マリアも同様に、不思議そうに首を傾げている。その理由を明かすべく、響が言葉を発していく。

 

「いつもの公園……みんなで遊びに行ったりする時に何かと使う場所の一つです。でも……」

「ああ、”何も変わってはいない”……」

 

 通り抜けたはずの世界が変化も無いという異常性に、二人は得も言えぬ顔になっていた。その顔に釣られるように怪訝な表情と化すマリアとミライ。と、おもむろに周りを見回した響が突然大きな声を上げた。

 

「あーッ! ま、マリアさん後ろッ!」

「な、なにッ!? ってこれ、もしかしてエルフナインが言っていた……」

「ゲート、ですよね……」

 

 振り向いたマリアとミライが目にしたものは、渦巻く混沌の穴。先程まで自分たちが通って来たものだ。

 

「ここがゲートの出口となると、ここから元の世界に帰れるのは間違いなさそうね」

「しかし、公園や街並みはここから見る限りはほとんど同じに見えますよねー」

「そうだな。思ったより並行世界と我々の世界は近いものかも知れない。一先ずは此処を中心に、色々と歩いてこちらの調査を──」

 

 そう翼が行動方針を決めたところに、地面から溶け出すように極彩色の異形が姿を現した。見紛うことは無い、ノイズの群れだ。すぐに眼前を埋める数多の極彩色、ヒト型から不定形型まで様々な異形が立ち並んでいる。人類の天敵ノイズ……それが存在しているという事は、並行世界でも変わらなかったと確信する。

 

「ノイズ……ッ!」

「……なるほど。此方はまだノイズが出るという話だったな」

「そうね。これもまた異変の一つ、ということなのかしら」

「どうだろうな。バビロニアの宝物庫が開いている以上、自然発生と言う可能性もある。だが何にせよ相手はノイズ……眼前の敵を放っておくわけにもいかないだろう」

「ですねッ! 誰かに被害が出る前にッ!」

 

 強い意気と共に戦闘姿勢をとる装者たち。其処に並ぶミライも懐から三角形型の銃を取り出し、構えをとった。

 

「ミライさん、ノイズは私たちに任せて下さいッ!」

「ありがとうございますッ! でも大丈夫。皆さんと一緒に戦う為に、用意はしてきましたからッ!」

 

 言うが早いか襲い来るノイズに向かって手持ちの銃──レーザービームガンであるトライガーショットの引鉄を引き、赤い光線を発射するミライ。

 それを数発撃ち込むことでノイズは動きを止め、やがて黒い塵へと砕け散っていく。トライガーショットを顔の横に構え直したミライの姿を見て、装者たちは思わず感嘆の声を上げていた。

 

「なんと、聖遺物でもない携行銃器でノイズを破壊するとは……」

「凄いですミライさんッ! さっすがウルトラマンッ!」

「いいえ、これは僕だけの力じゃありません。光の国で対ノイズ用に調整はしてもらいましたが、それでもみなさんのシンフォギアの力でノイズの位相へ固定してくれなければ倒すのも困難になります。

 それに、ノイズの炭素分解能力は僕たちウルトラマンにとっても脅威なのは変わりありませんから」

「倒せないとは言わない辺り、腕に自信ありってことね。まったく、可愛い顔して頼りになるッ!」

「装者のみなさんが居てくれてこそ、ですよッ!」

 

 襲い来るノイズを両断しながらからかうように話すマリア。翼と響もそれに後れを取るまいと、積極的にノイズの殲滅を行っていった。

 四人が互いに死角を庇い合いながら、攻め入るノイズを倒していく。そして──

 

「これで、最後ォッ!!」

 

 響の拳が最後のノイズ一体を捉え、撃ち貫くことで破壊。黒い塵となって消えた個体を最後に、周囲からノイズの姿は消えて無くなった。

 

「皆さんお疲れ様ですッ! やりましたねッ!」

「えへへ、ミライさんこそお疲れ様ですッ!」

「かかる火の粉は払った。じゃあ次はどうしましょうか?」

「それなら私に考えがある。リディアン音楽院……一先ずは其処に向かおうと思う」

「リディアンに、ですか?」

 

 尋ねる響に翼は微笑み宿した首肯で返す。

 

「ノイズが存在すると言うことは、旧二課のようにそれに抗する組織があると思う。接触して何かしらの情報……可能ならば協力体制をとれれば重畳なのだが……」

「大丈夫ですよ翼さんッ! 同じノイズと戦う者同士、きっと協力してくれますッ!」

 

 響の底抜けに明るい──あるいは楽観的で楽天的な言葉に、翼は変わらぬ微笑みで返す。それは自分もそう思いたいという心境から来るものだった。並行世界であろうともこれ程までに似通った世界ならば、多少違いはあろうともきっとその心は通じ合えると思っているからだ。

 だがそれに苦言を呈したのはマリアだった。

 

「……貴方たち二人の言う事を信じないわけじゃないけど、万が一は考えた方が良いかもしれないでしょうね。並行世界……何があっても不思議じゃないもの」

「うぅー、マリアさんも心配性だなぁ……」

「慎重と言ってもらいたいわね。それで、リディアンへの道は理解るの?」

「そりゃあもうッ! ここからだとあの坂を上って──」

 

 そこで響はようやく違和感に気付いた。約二年前、彼女自身がはじめてその門をくぐった先に在った大きな建物……歪に切り立った地に建てられた荘厳な校舎の姿を、”なんの違和感も無く”見据えていたのだから。

 

「つ、翼さんッ! アレってやっぱり……ッ!」

「──ああ、私がリディアンに向かう提案をしたのもソレだ。この世界には、かつてのリディアン音楽院が破壊されることなく現存している」

 

 見上げた先にある、”自分達の世界では喪失した建物”。過ぎるは違和感か、それとも懐かしさか……その答えを知ること無く、目的の建物──私立リディアン音楽院校舎へと向かい歩き出した。

 

 

 

 

 

 それと時を同じくして、とある深奥部にて何かを観測する動きがあった。其処に居た者たちは、自らの認識より外れたモノの存在に驚きを隠せず、ただそれでも目の前にあった事象を報告していった。

 

「……ノイズの反応、消失。同時に聖遺物反応も全て消失しました」

「観測された聖遺物反応に一致するものはあるか?」

「2つは一致するもの無し……。うち1つはフォニックゲインが観測されたので我々の知る【聖遺物】と分類することが出来ます。しかしもう1つは、反応こそあれど4つの中で一番先に反応を消したことやフォニックゲインが感知出来なかったことから”聖遺物に酷似した何か”ではないかと……」

「聖遺物に似た何か……。あとの2つは?」

「それが……」

 

 声を詰まらせるオペレーター。目の前に表記された現実が、事実かどうかをずっと疑っているようだった。しかし報告を怠る訳にもいかないので、表記された現実を述べていく。

 

「一つは第3号聖遺物、ガングニール。そしてもう一つは……第1号聖遺物、天羽々斬です」

「天羽々斬、だとぉ……ッ!?」

 

 

 

 

 =

 

 

 リディアンへ続く街並みを歩く翼たち。その中で響がおもむろに口を開いた。

 

「しかし、本当に変わりませんねー」

「ああ、フィーネとの戦いで破壊される前と瓜二つだ」

「そうなの?」

「間違いない。この風景は、変わっていない」

 

 良くも悪くも変わらない道、変わらないからこそ違和感がある。ここは本当に並行世界なのか、自分たちの生きてきた世界と違うものなのか……そんな疑問を響がおもむろに口にした。

 

「……もしかして、私たち過去に来ちゃったとかじゃないですよね?」

「時間移動したということ? エルフナインからそんな説明は無かったと思うけど……」

「そうですね……。僕も感覚で、ではありますが、時間移動をしたようなものは無かったです」

「ミライさん、時間移動したことがあったんですか?」

「ええ。とは言っても、そういう力を持った怪獣と戦った時に偶発的に、ですけどね。クロノームという怪獣だったのですけど」

 

 クロノーム。その名を聞くと翼は驚きを隠せずにミライへ言葉を返していった。

 

「ヒビノさん、貴方もあの怪獣と戦ったのですかッ!?」

「ええ。……もしかして、貴方も?」

「はい……あの怪獣は強敵でした。私も、ゼロが共にいなければ危うかったでしょう……」

 

 翼が思い返すは、異次元侵略事変の際に一体化していたウルトラマンゼロと共に聞いた、クロノームの鳴き声でもある海鳴りのような音。それと共に起こった、翼とゼロしか実体験していない過去への移動と戦い……。ギャラルホルンが繋ぐ異空間を通過する際にあの時と同じ感覚が無かったから、翼にはゲートから出てすぐに此処が並行世界であるという確信があったのかもしれない。

 だがその戦いの当事者ではない響とマリアは、その感覚に理解を示すことが出ず困惑の表情のままでいた。そんな中でマリアは、周囲に眼を向けた時にある物を見つけた。

 

「んん~……結局時間移動はどうなんでしょうね?」

「どうやら違うみたいね。あそこの店のディスプレイ、見てみなさい」

「え? あっ、本当だ……。日付も時間も全部同じ……」

「……先を急ぎましょう。この世界、まだ私たちには理解らない事だらけだわ」

 

 マリアの言葉に従うように、響たちも歩き出す。

 やがて目的地……リディアン音楽院に辿り着いた時には日も傾き始め、橙色の夕陽が建物を照らしている。そのそびえる建物の姿を見て、響と翼は驚きを露にした。

 

「やっぱり、壊れる前のリディアン……」

「ああ、遠くから見えた時にも思ったが、何から何まで記憶と一致するな……」

(確かに……ここまで歩いてきた道やこの場所は”あの時”となにも変わっていない)

 

 驚く二人の裏で思考するミライ。ルナアタック、フロンティア事変を秘かに、介入することなく見守っていた彼にとってもリディアン音楽院の外観ぐらいは覚えていた。その記憶と合致する外観を見て、秘かに眉をひそめていた。

 一方で感嘆する響と翼とは別の方向を見つめていたマリア。何かの確信を得た彼女が三人に声をかけていった。

 

「……みんな、向こうの空を見なさい」

「ふぇ? 空って……」

 

 言われるがままにマリアが示した方向──空を見る響たち。視線の先には夕刻から夜への移り変わりを告げる象徴が浮かんでいた。

 

「あ、もう月が昇ってるんですね」

「そうだな、綺麗な丸い月が出ている……ん、丸い月だとッ!?」

「そうよ。此方の月は、欠けていないの」

 

 マリアが伝えた事実と、響と翼が目にした現実。それは、この世界が”自分たちの生きて来た世界”とは違う世界だということを何よりもハッキリと明言していた。

 

「私はこの街にはそこまで詳しくないからどうもしっくり来ていなかったのだけど、あの月を見てようやく実感が湧いたわ。

 ”月が欠けていない”という事は、ルナアタックが無かったという事。この世界は、あの事件がないままに進んできた世界なのね」

「あの事件が起きていない……? そうなればフロンティア事変も魔法少女事変も……」

「それに、ヤプールとエタルガーの侵攻も無く、ゼロや兄さんたちが来ることも無かった世界、という事になりますね……」

「ええ、街の状況を見る限りそれも起きてないでしょうね。それどころか、フィーネがいるのかどうかも分からないわ」

 

 翼と、それに次いで答えたミライに対しても首肯するマリア。自分たちが知っている過去の事件が起こっていない……たったそれだけが並行世界という不可思議な状況を実証するものとなる。それを4人はまざまざと感じ取る事となっていった。

 そんな時、黄昏時の静寂をつんざく叫び声が聞こえてきた。

 

「今の、悲鳴ッ!」

「近いぞ、向こうの方だッ!」

「急ぎましょうッ!」

 

 ミライの言葉と共に走り出す4人。走る中で翼はマリアに危惧すべきことを尋ねていった。

 

「マリア、LiNKERの方は大丈夫なのか?」

「効果は残ってるわ。でも残り時間はわずかだから、そう長くは戦えないでしょうね」

「わっかりましたッ! その時は背中は任せてくださいッ!」

「頼りにしてるわ。──来るッ!」

 

 ノイズを群れを視認し戦闘態勢を取る4人。駆け出し襲い来るノイズに、ミライの手に握られたトライガーショットから放たれる光線が足を止めるように地面を砕き、砂煙が立つ。その煙を突き破り、現れる青と黄と白の影三つ。爆ぜる音を上塗りするかのように、鳴り渡る音楽と歌声は三者三様。

 聖詠と共に戦装束を纏った少女たちと青年は、人類の天敵たる存在に颯爽と立ち向かっていった。

 

 

 

 

 爆音と共に奏で唄われる歌。鳴り響き渡るそれは、彼女らの立つ戦場を越えてその先まで届いていた。その場で猛然とノイズを打ち砕く彼の者は、流れてくる歌を耳にして一瞬動きを止めた。

 まるで、それを識っているかのように。

 

「──この、歌……」

 

 一瞬の隙を付いて襲い来るノイズ。それを大振りの横薙ぎでまとめて砕き飛ばす。大きな動きと共になびいた髪は、まるで燃える炎のようでもあった。

 

 

 =

 

 

「どおおりゃあああッ!!」

 

 中空一転、身体ごと放たれる響の踵落としがノイズの脳天を捉え、めり込むと同時に荒々しく両断する。着地と同時に深く踏み込み、重心を前へ移動させながらの叩き込む正拳。拳圧と共に放たれるフォニックゲインを伴う衝撃波が、密集しながら接近していたノイズをまとめて貫いていった。

 その隣で長刀を払い、眼前のノイズを一刀の下に伏せる翼。そこから幾度となく返される刃は彩色の異形をことごとく切り裂いていく。また同様にマリアは白銀の短剣を縦横無尽に振り回しながら、ミライは握り締めた銃で、華美さは無いものの精確な一撃をノイズを撃ち抜いていく。

 攻撃の後に残されたのは黒い塵芥。ノイズを撃滅したという儚い証。だがそれを見ても何かを思う事など無く、即座に周囲へと目をやる。極彩色の集団は、無機質的な威圧感を放ちながら其処に立っていた。

 

「……ステージはまだ始まったばかりというところかしら」

「されど所詮はノイズ。我らが一気呵成に攻め入れば、討てぬ道理は在りはしないッ!」

「一気に蹴散らしましょうッ!」

 

 言うが早いか果敢に飛び込みノイズを殴り飛ばす響。そのまま地面に拳を打ち込み、バンカーよりエネルギーを放つことで地面へと伝播、一定範囲を爆散させる一撃──大地へ浸透する発剄がノイズを砕いていく。

 翼もまた高く跳躍すると共にアームドギアを大型の刃へと変形。蒼雷を纏わせ溜めた一撃である蒼ノ一閃を振り抜き放ち、ノイズの群れを吹き飛ばし次々に四散させていった。

 マリアは左腕のガントレットから短剣型のアームドギアを数本握り締め、腕を大きく振り抜くことで投擲。鋭い白銀の刃は一直線にノイズたちを貫き、無残に壊していく。だがその瞬間、マリアの身体に電撃が走るかのような痛みが走った。

 

「──く、うぅッ!?」

(バックファイアッ!? こんな時に、時限式の仇が……ッ!)

 

 痛みに膝を付くマリア。次の瞬間、彼女が纏う白銀の戦装束……アガートラームのギアが解除され、私服の彼女が痛みを吐き出すかのように息を荒げていた。そんな彼女に向かって襲い掛かるノイズ。勝機と見たのかは定かではないが、ギアを纏わぬ今のマリアがノイズと接触することで齎されるのは何よりも確実な死だ。

 

「マリアッ!!」

「マリアさんッ!!」

 

 彼女の危機を察知し顔を向ける翼と響。だが激しく群れるノイズの集団に、どちらも動けずにいた。矢継ぎ早に襲い掛かる敵を倒しながら、それでもマリアの下に迫るノイズを止められない。二人の顔が焦燥で染まり、マリアが悔しそうに歯噛みする。そしてノイズが必殺の一撃をマリアに浴びせようとした瞬間──伸びた殺意は光の壁によって遮断された。

 一瞬何が起きたのか理解らずに周囲を見回すマリア。いま理解るのは、自分が光壁の中に居るということと、ノイズはそれを越えられないということ。それを認識をしているその間に、光壁周辺のノイズが砕かれ灰と還っていく。見つけた目の先には、トライガーショットを構えたミライが居た。それと同時にマリアの周囲を覆っていた光壁が軽い音を立てて容易く割れ砕けていった。

 

「大丈夫ですかッ!? こっちにッ!」

 

 マリアの手を引き、銃撃を放ちながらノイズとの距離を取るミライ。障害を崩し合流した響と翼も、マリアの安否を心配していた。

 

「大丈夫ですか、マリアさんッ!?」

「え、えぇ……。でも、今のは?」

「キャプチャーキューブ。対象の周囲にバリアを展開し、攻撃を防ぐものです」

「そんなモノまで……。貴方たちウルトラマンたちの故郷……光の国の技術は凄いものですね」

「実際の出自は違うんですが──」

「それを悠長に語ってる暇は無さそうねッ! 右ッ!」

 

 マリアの指示と同時に飛び掛かって来るノイズへ向けて、ミライがトライガーショットの引金を引く。光弾が貫いたノイズはすぐに崩れ去るものの、その後ろにはまだ多数の敵が控えていた。

 

「マリアさんは僕が守りますッ! 響さんと翼さんはノイズをッ!」

「承知ッ!」

「了解ですッ!」

 

 ミライの言葉と共にまたノイズとの交戦を再開する響と翼。ミライの後ろに控えながら皆の死角をフォローするように時折指示を出していくマリア。だがその心境は苦しく、騒々たる戦場の中に置いて動けぬ我が身への苛立ちを噛み潰していた。

 

(手持ちのLiNKERには限りがある……。前の時とは違う、今の私にはたったこれだけが皆を守護るための力。

 ……口惜しいけど、翼たちが居る以上は任せなければいけない時がある。それは理解っているはず、だけど──)

 

 持っているはずの力を使えない。自らのアイデンティティの一つを奪われたような感覚は今の自分の無力さを否が応でも痛感してしまっていた。

 しかしこうなることも予想はしていた。先の異次元侵略事変……ウルトラマンと一体化して乗り越えた戦い以降、LiNKERの使用量が増加──正確には一体化以前の使用量に戻っただけではあるのだが──し、第二種適合者である自分と調、切歌の三人は、立ちはだかる敵に対してLiNKERが必要不可欠という枷を再度つけられてしまったのだ。

 エルフナインも無理を推してLiNKER作成に尽力しているものの未だ完成には至らず、其処へ重なるように訪れたギャラルホルンのアラートと、ウルトラマンを名乗る青年ヒビノ・ミライの出現。マリアが並行世界への同行に志願したのも、その世界で異変に苦しむ人々の為でもあるが自分たちの状況を打開する鍵があるのではと言う、可能性への淡い期待もあった。

 故にこそ、その可能性の結果を見るまで死ぬわけにはいかない。例えその期待が外れていようとも、そこで彼女の戦いが終わる訳ではないのだから。

 

(そうだ。だから今は、私に出来る戦いをするのみ……ッ!)

 

 自らのギアペンダントを握り締め顔を上げるマリア。今はミライの背後に立ち、皆を後ろから見る”眼”に徹し始めた。

 右に左にと視野を大きく広げ、迫るノイズを即座に察知。先を読んで皆に伝え、円滑な殲滅を行なえるように声をかけていく。その指示効果は大きく、翼はともかく、徒手空拳を主体とするが故に大雑把になる響の動きに指向性を持たせ、短銃射撃が主体となっているミライにも二手三手先に在る正確な位置を示すことで索敵のロスを大幅に減らせていた。

 

 やがて翼の一太刀がノイズを斬り伏せ黒炭へと還すと、戦場に静寂が戻って来た。何時しか日は沈み、風に乗る黒炭を目視することは適わない。だが彼女たちは自らの肌で、殲滅完了を理解していた。

 

 

 

 戦いの終わりに一息吐き、マリアとミライの下に駆け寄る翼と響。二人の顔は何処か心配そうだった。

 

「マリアさん、大丈夫ですか!?」

「平気よ。ちょっとLiNKERの制限時間が切れただけだから」

「ちょっとだなどと言ってほしくは無いものだがな……。一寸違えれば命の危険もあっただろうに……」

「……そうね。でも、私たちには他にも心強い味方がいた。でしょう?」

 

 笑顔でミライの方を向くマリア。彼もまた、何処か嬉しそうな笑顔で返していた。

 

「助かったわ、ありがとう。でも、きっと今後も同じような事態が起きる。その時は──」

「守護ります。僕が必ず」

「──ええ、頼りにしてるわ」

 

 二人の笑顔が交錯すると共に、響と翼もつられるように笑みを零す。戦闘の終わりと共に訪れる安堵の時間。そこへ割って入るように、翼が言葉を続けていった。

 

「どうやら向こうも終わったようだな」

「向こう?」

「ああ、あちらの方でも戦闘の音があった。状況を考えると、こちらの世界でのノイズに対する対抗組織が動いていたものと思われる」

「ってことは、こっちの世界の装者かもしれませんねッ!」

 

 喜ぶように明るく話す響に、全員が微笑みで返す。肯定も否定も出来ないが、少なくともノイズと戦えることに違いはない。ならば、きっと事態に対しても前向きな協力が得られるだろう。そう考えていた。

 僅かに与えらた静寂の後、街灯の明かりが照らす薄暗い道……落ちた陽により深まった夜闇の中から、カツカツと高い足音が聞こえて来た。

 

 音を聞き、すぐさまその方向へ顔を向ける四人。足音の主が街灯の下に来た瞬間、響と翼、二人の空気が瞬時に変わった。──それは、驚愕でだ。

 

「……ッ!?」

「……え……?」

「二人とも、どうかしたの?」

「嘘……。そんな、だって、あの人は──」

 

 橙と黒で調和した見覚えのある戦装束、白を基調とした身の丈ほどもある鉾状の鈍器──否、槍。そして何よりも目を引く、炎のように……鳳のように広がりなびく大きな髪。

 目にした瞬間、翼の中で想いが沸き上がる。そしてその想いは、思考へ至るより前に彼女の足を動かしていた。

 相対する彼女もまた、駆け寄る者の姿を見た瞬間その心が強く高鳴ったのを感じていた。

 蒼穹を連想させる髪、しなやかで流麗な姿態、見覚えのある青の戦装束……。記憶の中の彼女とは顔つきがやや凛々しく整っているように感じられたが、破顔したその顔を忘れるなど有り得ない。

 互いの視線が──瞳が交錯した瞬間、二人どちらともなく声が発せられていった。

 

「奏ええぇぇぇッ!!」

「……翼──ッ!?」

 

 思わず、だがあまりにも自然に彼女……天羽奏の胸へと飛び込む翼。奏もまた思わず……だが自然と翼と受け止めた。

 

「奏……奏ぇ……。夢じゃない……今度は、想い出の中の奏じゃないんだ……ッ!」

 

 嗚咽を漏らすように言葉を出す翼。彼女は以前……異次元侵略事変の折に、時間怪獣クロノームの手により自らの過去へと転移され、そこで数年前の天羽奏と出会っていた。

 だがいま彼女の前に居る天羽奏は、その時分とは全く違う。顔つきも、体つきも、身に纏う雰囲気も……全てが翼の記憶の最後にある奏の姿と合致──いや、正確にはそれよりも大きな存在となっていた。

 直感で理解した。同じ時系列が流れている以上……周囲や自分自身が時間とともに成長を進めている以上、”天羽奏が生きていればこうなる”ということを。

 故に翼の想いは爆ぜた。目の前の”天羽奏”は、もう二度と会うことは無いと思い続けて受け止めていた、”いまを生きる”存在なのだから。

 

 その微笑ましくも何処か哀愁のある光景を眺め見る三人。響が目に涙を浮かべている隣で、マリアは比較的冷静にその姿を見ながら思考していた。

 

(あれが、天羽奏……。

 やっぱり、これもまた並行世界の可能性……。『天羽奏が死ななかった世界』も有り得るということ。だったら……)

 

 想像が確信に近づいていく。まだ確証には至らずとも、推理に必要な最も大きな存在は眼前にある。それで十分だった。

 だがこの考えはマリアの自分勝手なもの。いま目の前の微笑ましい光景を無碍にするのは野暮というものだ。一度考えを隅に置き、隣で涙ぐむ響へ声をかけていった。

 

「奏さん……翼さん……よかったよぉ……うっ、うっ……」

「……ねぇ、天羽奏というのは、翼にとってそんなに大きな存在だったの?」

「大きいなんてものじゃありませんッ! 翼さんにとって、奏さんは──」

 

 そう響が強く語ろうとした、その時だった。

 ドン……と音が夜の街に響き、翼と奏の間に僅かな、しかしあまりにも大きな隔たりが出来ていた。

 

「奏……?」

 

 困惑のまま彼女の名を呼ぶ翼。しかし眼前の相手から帰って来たのは、彼女が想像だにしていなかった辛辣な、そして意外な言葉だった。

 

「──うるせぇッ!! 翼は死んだ……ッ! お前が翼のはずがないッ!! 誰だ、テメェらは……ッ!」

「私が、死んだ……?」

 

 奏が放った一言、それは”風鳴翼の死”。だがそれは相対している翼自身は勿論、見守る響やマリアにも即座に理解できるようなものではなく、ミライだけが表情を崩さずに二人のやり取りを見つめていた。

 

「私はここにいるよ、奏……」

「黙れッ! それ以上言うのなら──ッ!!」

 

 怒りともとれる奏の言葉を遮るように、彼女の通信端末から大きなアラームが鳴り渡る。すぐさまそれを取り、ぶつけるように言葉を放っていった。

 

「なんだよッ!!」

『奏、其処にいる者たちを連れていったん退け。ヤツが来るッ!』

「ッ!」

『一課はもう出撃した。住民の避難状態も現状のまま継続、あとはお前たちだけだッ!』

「……クソッ!」

 

 通信を切り再度翼たちの方を睨み付ける奏が、翼たちへと声を投げ放つ。

 

「オイお前ら、死にたくなけりゃさっさとここから失せろッ!」

「どういうことかしら? ノイズの反応は無いみたいだけど」

「アァッ!? なに寝惚けたこと言ってんだッ! いいからここから──」

 

 マリアからの返事に対し、苛立ちを隠そうともせず言葉を放つ奏。だがその直後、空気を劈く音が鳴り渡り、夜空に数本の炎の尾が真っ直ぐと更に高い空へと伸びていった。戦闘機から発射された空対空ミサイルである。

 

「な、なにが……」

「見てください、アレをッ!」

 

 数秒の後、ミサイルが爆ぜ炎の輝きが地上を照らした。その中で彼女たちが見たのは、炎光の中に居て尚も漆黒を保つ異形。漆黒において爛々と輝く紅蓮の眼光。

 薄い羽根をはばたかせつつ急降下してきた異形は、姿勢を変えて僅かにホバリングした後に地面へと着地。砂塵を巻き上げながら甲高い鳴き声を上げた。

 

「そんな、あれは……」

「怪獣……ッ!?」

 

 慮外だった。響もマリアも翼も。並行世界は”僅かに何かが違う”だけで基本的に”よく似た世界”である。だからノイズの存在や出現は想定の範囲内であった。

 だが怪獣は違う。あの存在は元々彼女らの世界にも存在しなかったものであり、異なる宇宙より現れた邪悪な侵略者が召喚したものだ。

 だからこそ考えられかった。並行世界にも怪獣が出現しているという可能性を。”ウルトラマン”が協力に訪れたにも拘らず。

 

「まさか、こんな……ッ!」

「狼狽えないッ! 戦えない今の私が言うのもなんだけど、なんとか撃退するしかないわ……ッ!」

「来ますッ! 伏せてッ!!」

 

 ミライの言葉と共に怪獣の口から発射される光線。吹き飛ばされた瓦礫が飛び交う中、響は思わず皆の前に立ち、自らの手甲を展開、連撃を以てそれらを破壊。無防備なマリアとミライを守護っていった。

 初手の攻撃が落ち着き礫塵が収まったとき、改めて怪獣……規格外生物の脅威を思い出した。生半な覚悟では、逆に此方が命を落としてしまうということを。

 

「大丈夫ですか、マリアさん、ミライさんッ!」

「ありがとう、大丈夫ですッ!」

「こっちもねッ! 翼は……ッ!?」

 

 マリアに呼ばれた翼だったが、それを意に介さずどこかオロオロするように視線を左右に動かしていた。

 

「翼、どうしたのッ!?」

「奏が……奏が居ない……ッ! 一体何処に……」

「きっともう避難したのよッ! 何時までも呆けないでッ!!」

 

 マリアの叱咤に思わず奥歯を噛みしめる翼。現状を鑑みればマリアの言葉は正しい。呆けている暇などあるはずがないのだ。

 だが天羽奏の存在が今の翼の戦意を揺らがせているのは間違いない。それは誰の目にも明らかだった。

 

(僕が、やるしかないか……ッ!)

 

 怪獣を見据えながら左腕に力を籠めるミライ。光が∞を象る螺旋となり、回転する。だがミライの行動より先に、この戦場に変化が起きた。

 

 漆黒の怪獣が吹き飛ばされ、その眼前に光が現れる。

 一粒の光が爆ぜ広がり、夜天の空から舞い降りる一つの姿があった。

 純銀の肉体に真紅の紋様。白く光る眼と胸に輝く青い球体。

 見間違えるはずがなかった。響も、マリアも、翼も、そしてミライも。

 

 光と共に現れたその存在は──

 

「──……ウルトラ、マン?」

 

 

 

 

 

 end.

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