漆黒の怪獣の前に現れる赤と銀の巨人。
見上げる響たち装者はその姿を知っていた。
遥か遠い宇宙……世界を跨いだ先にある光の国から正義の為に地球へと降臨した戦士たち。彼女らはその巨人たちのことを、「ウルトラマン」と呼んでいた。
だが同時に気付いていた。その姿形、僅かであるが確実な差異として、眼前のウルトラマンは自分たちが知っている者たちではないということを。
その隣で見上げていたヒビノ・ミライもまた、その姿を識っていた。
否、厳密には初めて見る姿である。どことなく獣性を漂わせる鋭利なレッドラインと、やや細く吊り上がった白く輝く瞳……紛う事なくウルトラマンの、M78星系人シルバー族の特徴と合致するのだが、ミライの顔見知りではないことは確かだった。
それでも識っていることに変わりはない。あの風貌の戦士は、光の国に保管されているライブラリで見たことがあった。だからこそ彼の顔は、驚きで歪んでいたのかもしれない。
「ウオオォッ!!」
強く握りしめられたウルトラマンの拳が、怪獣の顔に直撃。吹き飛ばされる。
だが怪獣もすぐに立ち上がり口から火球を放つものの、相対するウルトラマンは右手でたやすく捕まえて握り潰した。
そこから一足飛びで一気に接近し殴打。倒れた怪獣に馬乗りとなり、連続で更に殴りつけていく。
「なんて、戦い方……」
生々しい破壊音に響たちは勿論ミライも戦慄を隠せなかった。何かしら暴走しているならともかく、平静のままで斯様に暴力的な戦い方をするウルトラマンの姿など想像だにしなかったのだ。
無機質な顔が変わることは無い。だがその顔は、見る角度のせいなのかどことなく愉悦に破顔しているようにも感じられた。
怪獣の首を握り潰すように掴み、持ち上げる。そこから数度地面に叩きつけ、まるで物を捨てるかのように放り投げた。
そして倒れる怪獣に目を向け、両腕に稲妻のような白い光が帯電していく。僅かに腰を落とすと、その姿はまるで襲い掛かる前の猛獣が如く。そこからウルトラマンは腕を十字に交差させ、爪を立てるように荒々しく広げた手の側面から光線を発射した。
「スペシウム光線、なのか、アレは……」
ミライの呟きに答える者は居ない。
代わりに帰って来たものは、光線の直撃を受けて呻き苦しむ怪獣の鳴き声。それに次ぐように起こった発光と爆発だった。
腕を下したウルトラマンはまるで嗤うかのように小さく肩を震わせている。そして、漆黒の空を見上げるとその先を目掛けるように飛び去って行った。
またその姿を遠くから見ていた者がいた。
すべて黒で揃えられた帽子、スーツ、マント、ステッキを纏う男。それらだけを見ればそういう紳士なのかもと思わされる風貌。だがそれ以上の異常性を……邪悪な威圧感を隠すこともなく佇んでいた。
男は一度だけ、にたりと嗤うとその場から立ち去るように歩いていった。
静寂が戻った街並み。未だ動けぬまま、だがギアは解除した響たちの耳に一人の足音が聞こえてきた。奏だ。
「奏、無事だったのッ!? よかった……」
「……生きてたのか」
心配を露にする翼に対し、感情を込めずに吐き捨てる奏。そのまま独り歩き去ろうとしたところで、彼女の持つ通信機が鳴りだした。
思わず舌打ちしながらそれに応える奏。聞こえてきたのは彼女の属する組織の司令らしかった。
『無事か、奏ッ!』
「……ああ、まったくもって問題なしだ。光の巨人様々ってな」
『そうか、よかった……。労ってやりたいのは山々だが、すまんがもう一つ頼まれてくれ』
「ンだよ」
『そこにいる者たちを、本部まで連れて来てくれ』
「ハァッ!? なんでだよ、こんな偽物を──ッ!」
思わず怒りを吐き出す奏。やはりその言葉は眼前の存在を……風鳴翼を名乗り酷似する人物を認めないと言うようであった。
だがそんな彼女に対し、司令と思しき男は可能な限り冷静に、彼女をなだめるかのように理由を説明する。
『……ただの偽物にギアが纏えるとは思えない。詳しい話を聞きたいんだ。頼む……』
「ちッ…………分かったよ」
不満を隠そうともしないもののその言葉を了承した奏。通信を切って響たちの方へ向き、睨み付けながら呼びかけた。
「おい、お前ら。ついてこい。弦十郎のダンナが話したいんだと……」
それだけ言い捨てて速足で先に歩いていく奏。それをすぐに追いかけながら、彼女らも話をしていく。
「……やっぱり行き先はリディアンの地下なんですかね。ねぇ翼さん……翼さん?」
「奏……」
浮かない顔つきのまま歩を進めている翼。足取りは重く、誰が見てもあまり良い状態とは思えなかった。そんな彼女の肩を後ろから軽く叩き、隣に立ったマリアが気付けをするように声をかける。
「……ほら翼、行きましょう。……ちゃんと話してみないと、まだ何も分からないでしょう?」
「あ、あぁ……すまない」
奏の後を追い進んだ先に在ったのは、かつて何度も目にしていた私立リディアン音楽院の校舎。その一室……教職員が使う部屋より入り、更にその奥へと進んでいく。
長い長いエレベーター。高速で降りる小さな密室の中、懐かしむように周りを見回していた響が、あることに気付き呟いた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「あぁいえ……エレベーターの外、こんなに殺風景だったっけって思っちゃって……」
「……そう? エレベーターから見える外壁なんて、そういうものだと思うのだけれど」
マリアの答えはもっともだ。隣で頷くミライも、特に疑問を感じている様子はない。翼の方に目をやるが、彼女は奏の背を追っているばかりでとても答えられるような状態ではなかった。
小さな疑問を考える響だったが、すぐさま到着のベルが鳴り渡る。エレベーターは停止し、厳重なドアは重さを感じさせないほどスムーズに開いた。
そこから少し歩いた先の扉を開いた先に在ったのは、響と翼にとってどこか懐かしさを感じる場所──特殊災害対策機動部二課のオペレーションルームだった。
「つ、翼さん……?」
「本当に……どうして……?」
「……翼、なのか……ッ!?」
部屋に入るなり皆が驚愕の目で翼を見つめ、驚きの声を漏らす。職員である藤尭朔也と友里あおいもそうであり、彼らの中心にいるスーツの下にワインレッドのスーツを着た屈強の偉丈夫……二課の司令である風鳴弦十郎もまた同じだった。
そんな顔見知りの面々を眺め見ながら、翼もまた驚嘆の呟きを漏らす。
「……驚いた。こちらでも、二課は二課なんですね……」
「こちらでも……? どういうことだ? その……翼、でいいのか……?」
困惑する弦十郎。彼のその質問に対し、凛とした顔を作った翼が偽りを交えることなく答えていった。
「……はい、叔父様。私は確かに風鳴翼でありますが、貴方達の知る”風鳴翼”ではありません」
「……俺たちの知る翼ではない、だと?」
「ええ、そうよ。それは──」
「もしかして、パラレルワールド。……かしらね?」
翼に続いたマリアより先に回答を声にした一人の女性。蝶の髪飾りと眼鏡、少しヨレた白衣の下に隠しきれない豊満な身体を持つ大人のオンナの姿に、響が素っ頓狂な声を上げていた。
「りょ、りょりょりょ……了子さんッ!?」
「はぁ~いはいはい。聖遺物研究の権威にして特殊災害対策機動部二課の頭脳たる天ッ才科学者の櫻井了子とは私の事よ」
「本当に、本当の了子さんなんですねッ!? う、あうぅぅぅ~……」
「あらあら……初めて会ったのにこんなに感極まれちゃうなんて。私ったら別の世界でも有名人なのかしら」
突如手を握られて泣き出しそうな呻き声を上げる響に少し困惑しながらだが、彼女──櫻井了子は笑顔で翼たちに肯定を求めていった。
それに小さく首肯する翼。だが響がこんなにも感極まっているのは様々な事情が交錯しているからに他ならないが、それを一言で説明するのは、いささか難しいことである。
その状況を変える為にか、弦十郎が口を挟んだ。
「すまないが、情報を整理させてくれ。
君たちは並行世界──パラレルワールドから来たと言うのか?」
「ええ、そうよ。そして、私たちが来た理由は……この世界に起きているはずの異変を受け取ったから」
そうしてマリアが話し出す。並行世界を渡る門を生み出す完全聖遺物ギャラルホルン、それが報せる異なる世界の異常、世界を越える門を渡れるのはシンフォギアを纏う者とそのギャラルホルンに認められた例外的存在。
そしてその先の世界では、無辜の人々が苦しんでいるであろうことを。
「……なるほど。その完全聖遺物の力で、君たちはこちらの世界に来たというわけか」
「はい。ノイズを始めとする暴虐から無辜の人々を守護るのは、防人たる私たちの役目ですから」
「……やはり、お前は翼なんだな」
何処か感慨深そうに話す弦十郎に、翼は思わず怪訝な顔で返す。やはりまだ、互いの意識に差があるようだった。
「司令?」
「いや、すまんな……。どうしても、俺の知る翼と重なってしまうんだ」
照れ臭く微笑む弦十郎と、それにつられて微笑み返す翼。世界は違えど二人は同じ血の元より生まれた者。何も思わないはずがないのだ。
だがそれを砕くように、奏の怒れる声が放たれた。
「ふざけるなッ!! 重なるもんかッ! 翼は……翼はぁ……ッ!!」
「……奏、落ち着くんだ。これでは話を聞くこともできない」
「そうよぉ。それに、彼女たちだけじゃなくてそこの不思議系イケメンくんにも聞くべき話がありそうだし」
奏をなだめるように言い聞かせる弦十郎。了子もまたそれに同意しつつ、艶っぽい流し目をミライに向ける。思わず背を震わせるミライだったが、その空気を吐き捨てるように奏の舌打ちが響き、苛立ちを隠さないままに距離を取り、鉄の壁にもたれかかっていった。
「……すまないな」
「……いえ」
ぎこちなく、申し訳なさそうに謝る弦十郎と生返事を返す翼。オペレーションルームに漂う暗い雰囲気を払拭するために、了子がパンパンと強く自らの手を叩き合わせた。
「はいはい話が進まないわよ。これじゃあ場凌ぎに無粋なノイズの出現を待ってるみたいじゃない」
「そうだ、ノイズ……。了子さん、この世界ってよくノイズが出るんですか?」
響からの質問に嬉しそうな笑顔を作り、了子は楽しそうに、何処か飄々と言った感じで答えていった。
「そうねぇ。発生件数の総数自体はそこまで多くもなく少なくもなく、ってところね。ただ数年の間……それもここ最近での発生件数は鰻登り状態。
幸いまだ対応できる範囲だけど、うちの装者は奏ちゃんだけだからねぇ」
「ソロモンの杖が関与しているということは?」
「あら、アレの存在を知ってるのね。でも残念、杖に関しては逸話や伝承が遺されているだけで未出土品。この私でさえ所在を知らないのよ」
「了子くんから聴いた話だと、アークセプター……ソロモンの杖はノイズを使役し、その現出を自在化することが出来るらしいな。それがあれば、少しは奏の負担も減らせられるのだろうが……」
思わず溜め息を吐く弦十郎。やはり彼女一人に負担を背負わせていることを、良しとしていないのだろう。そういうところも自分たちの知る弦十郎と変わらぬと感じた響が、思わず言葉を発していた。
「大丈夫ですッ! 私たちがいる以上、奏さん一人に重荷を背負わせたりしませんッ! ですよね、翼さんッ!」
「──ああ、もちろんだ」
「思わぬところから心強い味方の登場ね、弦十郎クン。翼ちゃんはもちろん、貴方達も装者なのよね?」
「ええ。彼女はガングニールの、私はアガートラームのシンフォギア装者よ」
「アガー、トラーム……? 了子くん、知っているか?」
「……ケルト神話における神の一柱、ダーナ神族の王ヌァザ。彼の者の異名が銀の腕……アガートラームと呼ばれているわ。でも……」
「でも、なんですか?」
「──隠す必要が無いから言っちゃうけど、その名を冠する聖遺物は、私の知る限り存在していないわ」
「ええッ!? で、でもマリアさんは確かに──」
「落ち着きなさい。ここは私たちの生きてきた世界じゃない。ソロモンの杖も未発見なのだから、他の聖遺物が存在していないことだって有り得ることよ。
(……ただそれはつまり、こっちの世界での”私たち”は……)」
響に指摘しながら一瞬曇ったマリアの顔を、了子は冷静に見据えていた。彼女の胸に去来する知識欲。神話の中でその名を知るだけのものでしかなかった存在、”アガートラーム”。それは一体何なのか、何処より去来した聖遺物なのか。
深読みし出したら思考の坩堝に嵌ってしまう。それもまた天才科学者の性なのかもしれないが、彼女の隣にはそれをフォローする者がいる。それを解からせるかのように、弦十郎が話を進めていった。
「ま、今はその詮索はよそうか。ともあれ君たちの協力に感謝する。それと、君は……」
弦十郎が話を向けたのは、響たちの後ろで優しい微笑みを絶やさずにいた青年、ミライだった。
「僕も、皆さんに協力を志願する者です」
「見たところ君は一般人のようだが……」
「そうよねぇ。並行世界でのシンフォギアが私の作ったものと同じなら、纏えるのは適合した”女性”だけのはずなんだけど……。
さっき彼女から聴いた話を鑑みるとキミはギャラルホルンに選ばれた例外、と思っていいのよね。だったらキミ、どうやって翼ちゃんたちと一緒にこっちに来たの?」
「えっと、それは……」
思わず口を噤んでしまう。ミライがギャラルホルンのゲートを通過できたのは偏に、彼がウルトラの父から授かった武具、メビウスブレスが共鳴したが故に可能となったことだ。
それに一緒に来た響たちがミライをウルトラマンの一人だと認識していても、並行世界の住人はそうではない。いくらこの世界にも”ウルトラマン”と思しき存在が居ても、それが彼らとどう関係しているかはまだ掴めない。そんな状況で自分の正体やウルトラマンの事を話して良いとは、ミライには思えなかった。
響たちも同じように口ごもっていたが、その理由はミライとは違っていた。ただ単純に、この別宇宙からの来訪者をどう説明すればいいのか分からなかったのだ。
「あ、あーっと、その、この方はですね……」
「……僕は、響さんたちと同じ組織に携わる人間です。ギャラルホルンの起動によりその調査を行っていたのですが、偶然ゲートに巻き込まれてしまって……」
「ならば君は、なぜ自分がギャラルホルンの生み出すゲートに入れる例外となったのか、自分でも理解していないという事か?」
「ええ……そう、なんです」
歯切れの悪い返答をするミライ。彼や周囲の響たちの反応を見て、弦十郎は思考を巡らせる。
(……だが、彼女らが出て来た時に検知された聖遺物反応は”4つ”。天羽々斬、ガングニール、アガートラーム……となれば、もう1つは彼が何かしらの聖遺物を持っているのではないかと勘繰ったが……。
読みがズレたか? ──いや、それは”俺たち”には秘匿しておくべき事柄、ということか……?)
長考思案する弦十郎。大きく深く、今の手元にある情報全てを確認し解答へ導くために思考する。
彼の険しい横顔と沈黙が、否が応にもミライたちを緊張させる。彼……風鳴弦十郎がここまで深く考え込むとは思いも寄らなかったのだ。
だがその緊張を察してか、今度は了子や藤尭、友里が弦十郎の背を叩き彼に突っ込んでいった。
「んもう弦十郎クンッ! 私に詮索はよせって言っておきながら自分がそういうことするのは、ちょおっとスジが通らないんじゃないかしらぁ~!?」
「悪い癖ですよ、司令」
「ほんとほんと。まぁそれで助かる事も多いっちゃ多いんですがね」
「む……すまない、失礼なことをした。君たちを疑っているわけではないが、どうにも性分でな」
(……なんか、私たちの知ってる師匠とは違う感じですね?)
(そうだな……。司令も熟考することはあるが、あそこまでは私も見た事がなかった……)
小声で意見を交わす響と翼。それは小さな違和感に過ぎなかったが、一先ずそれは脇に置いておくことにした。
互いの自己紹介が済んだ今、次にやることは現状の確認だ。
「それで訪ねたいのだけど、こちらの世界に異変や異常に心当たりはないかしら?」
「そりゃあもう。しっかりバッチリ大異変に大異常よ。もうありすぎて困っちゃうぐらい」
「そ、そんなに……?」
「……ノイズの発生増加は言わずもがなだが、その出現するノイズの一部に通常のノイズとは特徴が異なる個体が出現、観測している。
そして大きな異変はもう一つ。君たちもここに来る前に遭遇したと思うが、巨大生命体同士の戦いが頻繁に発生するようになった。
恐らくはそれらが、異変の元凶だろう……」
「怪獣と、ウルトラマン……」
おもむろに呟く響。それを耳聡く聴いていた弦十郎は返す言葉で問いただしていった。
「君たちも知っているのか? あの巨人と巨獣……いや、怪獣のことを」
「……怪獣の方は分かりません。私たちも初めて見る怪獣でした」
「あの怪獣はベゼルブ。先ほど会敵した時の攻撃以外にも、体内の毒素を敵に打ち込むことで打ち込んだ相手を支配する力を持っていると……」
おもむろに答えたミライだったが、彼に向けられていたのは全員からの熱視線だった。
「ふぅ~ん、カワイイ顔して物知りなのねキミ」
「あっ、いやその……! か、過去の出現記録を見た事があっただけなんです……! 研究の、一環で……」
「そっ、そうらしいのよ! でも何十年も前の記録らしく、私たちも詳しくは知らなくて……!」
思わずフォローの言葉を放つマリア。それを若干訝しむものの、真偽の精査を行うにはあまりにも情報不足。結局弦十郎たちは、一先ずはミライの言葉を呑み込む形を取った。
彼の言葉が真であれば良し、偽であるならば持てる力で彼らを排除する。そう結論付けたのだ。なので現状は漆黒の怪獣を”ベゼルブ”と呼称し、それが明確に人類への敵対生物であることも確認した。
「彼の話、一旦は了解しておこう。そこでもう一つ聞いておきたい。ベゼルブを駆逐するあの巨人……あれは一体……」
「だから前から言ってるだろダンナ。アレは別に悪いモンじゃねぇよ」
「確かにそうかもしれん。事実として奏は何度もアレに命を救われてきたからな。
だがそれだけだ。人命に被害が及んでいないだけで、物的被害は決して少なくない。彼らがあの巨人について知っている事があるのなら聞いておくべきだ。違うか?」
真面目な弦十郎の物言いに、小さく舌打ちして口を塞ぐ奏。彼女のその振る舞いに少し溜め息を吐きながら、弦十郎がミライに話を促していった。
「……僕たちはあの巨人と類似した特徴を持つ生命体を、”ウルトラマン”と呼称しています。ギャラルホルンのアラートが発生する以前に、僕たち……正しくは装者の皆さんは、ウルトラマンと共闘したこともあります。
ですが、さっき見たウルトラマンは僕たちの世界では見たことのないタイプでした」
「ウルトラマン……超人か、はたまた限外の超越者を意味するのか……?」
弦十郎の思案に漏れる呟きに、返すものは誰も居なかった。だが今度は深く考え込むことはせず、すぐに顔を上げて響やミライの方へと目を向けていった。
「単刀直入に聞く。ウルトラマンは、我々人類に仇成すモノか?」
「そんな、違ッ──」
弦十郎の言葉を否定しようとした響を抑え、ミライが僅かにその身を前に出す。僅かな所作に過ぎなかったが、それは彼が自ら話をするという意思表明に他ならなかった。
「断言は出来ません。僕たちの世界ではウルトラマンは人類の味方でした。それは疑いなく明言できることです。
ですが、ここは並行世界……可能性の一つとして、あのウルトラマンは”人類の味方として”ではなく、ただ”敵対生物を滅ぼす使命”に従い戦っているに過ぎないことも考えられます」
「ミライさん……」
「……だから、これは僕自身の勝手な見解によるお願いです。どうか──ウルトラマンを、信じてください」
ミライの嘘偽りの見えない真摯な言葉に、弦十郎たちは静かに頷いていく。
並行世界の彼らにとって、突如世界に出現したウルトラマンも怪獣も、等しく如何に対応すべきか頭を悩ませていたことだ。それに対して一つの回答を示す事が出来たのは僥倖以外の何物でもなく、停滞していた懸念事案が動き出す切っ掛けになったのは間違いないのだから。
「まず一つ、ウルトラマンと怪獣についての方針は決まったわね」
「一先ずといったところだがな。ただ、万が一への準備は怠れない。そこは理解してくれ。……奏もな」
ミライたちは優しい笑顔で返し、一方で奏は若干不服そうにしながらも沈黙を通す。それは弦十郎の言葉を受け入れている事でもあった。
『ウルトラマンは侵略者か否か』……結局のところそれを決めるのはその世界に生きる人々に他ならない。だからこそミライは、目の前の彼らを信じるが故にあのウルトラマンを信じてほしいと”願い出た”のだ。
それはきっと、彼が今もなお変わらず地球人を愛しているが為に……。
「それじゃあ次は、もう一つの原因と考えられている異種のノイズについてね」
「司令は先程、そのノイズは普通のモノとは違い特徴が異なると仰っていましたね? それは、一体どういう……」
「そうだな……見てもらった方が早いか。藤尭」
呼ばれた藤尭がすぐに端末を操作しモニターに映像を映し出す。そこに映し出されていたのは、ノイズと戦う奏の姿だった。
それだけならば特に変哲のない映像に過ぎない。奏がその力を奮い、荒々しくノイズを殲滅していくだけのもの。彼女の戦闘力を推し量るには申し分ないが、それだけならばいつでも見れるだろうと考えていた。
だがその認識はすぐに変わっていくこととなる。あらかた掃討した奏の前に、渦巻く瘴気が発生したのがその発端となった。
「これは……?」
「まぁ見てなさい。怪獣とは違う、もう一つの大異変よ」
モニターから目を離さないようにする響たち。奏が対峙する瘴気の渦がやがて固着し姿を作る。その姿はこれまで戦ってきたノイズと大きく変わるところは無い。──ただ一つを除いては。
「……黒い、ノイズ?」
響の呟きに答える声は無かったが、翼もマリアもミライも、その姿には強い違和感を感じていた。
映像の中で繰り広げられる奏と黒いノイズとの戦い。それは装者たちにとって異様な光景であった。鋭く伸びたノイズの触手が躱す奏のギアを砕き、振り抜かれたガングニールのアームドギアに吹き飛ばされるも即座に立ち上がり、削れた身体を即座に修復していく。何度貫いても、何度叩きつけても、黒いノイズはすぐさま再生し立ち上がり襲い掛かる。ノイズに対しては絶対無敵にして唯一不撓の牙であるシンフォギアが、他でもないノイズに対してその真価を発揮できずにいる。それが信じられないのだ。
数分間続いていた戦闘映像は、突如として終わりを迎えた。奏の身体……彼女の纏うギアから電流が漏れ出し、LiNKERの効果時間の限界を訴えている。膝を付き歌が途切れた時、黒いノイズは瘴気と共に霧散した。消失したのだ。
ギアを解除し忌々しげに地面を殴りつける奏。映像はそこで終了した。
「今のは、一体……」
「あれが異変の元凶と思しきもう一つの存在……シンフォギアの力さえも容易には通さぬ、ノイズ変異体だ」
「変異体……。でも、見た目は色が違うだけで普通のノイズに見えますが……」
「それ以上に不可解なのは、ノイズを瞬滅せしめるアームドギアの攻撃をモノともしていないというところと、通常のノイズを遥かに凌ぐ戦闘力でしょうか……」
「さっすが装者、目の付け所がシッカリしてるわね」
翼の指摘にどこか嬉しそうに話しながら前に出る了子。黒いノイズの姿が映し出されたモニターの前に立ち、指示棒で指し示しながら解説を始めていった。
「翼ちゃんの言う通り、この黒いノイズは普通のノイズよりも遥かに高い戦闘力を持っているわ。何度か奏ちゃんが相対してるけど、戦績は奮わず状態。でもそれは、手前味噌だけど奏ちゃんの力不足が原因じゃない。
さっきも見た通り、あのノイズは無尽蔵とも思える回復力を備えていて、切っても叩いても貫いても蘇ってくる。そして前触れもなく突然、何を切っ掛けにしてるのかあのノイズは消滅する。
その理由がなんなのかは、まだ解明してないけどね」
「だが我々としては、どんな形であろうとあのノイズへの対処は最優先かつ何よりも慎重に行っている。いや、行わざるを得ないんだ」
「それは、どうして……」
マリアからの問い掛けに表情を曇らせる弦十郎。いや、彼だけではない。隣に佇む了子も壁にもたれかかっている奏もオペレーターたちも、みな同様に悔しさというか忌々しさのような表情を浮かべていた。
だがその表情の意味を詮索する前に、了子が話をし始めた。
「まず前提として、ノイズは人と接触すると炭素分解を起こす。これは知ってるわよね」
頷く響たち。これはノイズという存在における絶対的な法則だ。
”人を襲い、人に触れることで炭素分解を発生させ、諸共に崩れ去る”という、先史文明期に産み落とされた人類鏖殺兵器……それこそがノイズ。そのノイズをノイズ足らしめる絶対法則を問いかけた了子は、皆の反応を見てさらに言葉を続けた。
「でもね、そのノイズはヒトだけを分解させるのよ。──無尽蔵に」
「……え?」
「つ・ま・り~、人間だけを分解し、自分は分解されないの。触った相手だけを次々と分解させちゃうわけ」
「そんな……それでは犠牲者が……ッ!」
「ああ、このノイズ1体で、いくらでも人を殺せる。しかも、見てもらった通り今までのノイズとは比べ物にならない戦闘力もある。
謎の消失現象が起きて撤退するから犠牲者を抑えられているという程度だが、先ほどの怪獣同様……いや、ある意味ではそれ以上に危険な相手なのは間違いない」
「ある意味では、と言うと? その言葉だと、無尽鏖殺以外にも何かありそうですが……」
「……ああ。このノイズのもう一つの大きな特徴として、人を狂暴化させる力がある」
「狂暴化、ですか……?」
「そうなのよ。力の根源は目下調査中だけど、このノイズが出現すると共に、周囲の人間が狂暴化しているわ。
狂暴化するのにも個人差があるけれど、それで避難行動にも遅れが出て被害が拡大しているのも事実。ギアを纏っているからか、奏ちゃんにそういった異変が起きてないのは幸いだけどね」
「我々はこのノイズを、何らかの原因で状態変化が起き、特性が変わったものだと見ている。それをノイズの『カルマ化』と呼んでいるが、詳しい詳細はまだ分かっていないのが現状だ」
「ノイズの、カルマ化……」
弦十郎と了子の話す内容に、言葉を失い押し黙る翼たち。最早ただのノイズとは言えぬ怪物に戦慄しているところもあった。
だがそんな想像を越えた重責を負いつつも、毅然とした態度を持ちながら語る弦十郎に当てられてか、彼女らは前代未聞の敵に対する意気を高めていた。
「……君たちがこの解決に協力してくれるというなら、我々も心強い。是非、力を貸してほしい……」
「もちろんですッ! どーんと任せてくださいッ!」
「ええ。私たちはその為に此処へ来たのだから」
「僕たちからも是非、皆さんに協力させてください」
「皆の言う通り。この身に代えても、この世界に跋扈する脅威を討ち取って見せます」
決意を声に、和気が溢れる互いの交流。だがその中へ、劈くような奏の声が響き渡った。
「──ッ! ふざけんなッ!!」
驚愕のまま彼女へ目を向ける一同。鼻息荒く憤る奏は、さらに捲し立てるように言葉を放っていく。
「この身に代えても? 軽々しく口にしてんじゃねぇよッ!」
「奏……」
「お前らの力なんかいらない……。この世界の異変は、この世界の住人であるあたし達がどうにかしなきゃいけないんだッ!!」
そう口にした時、一瞬表情を曇らせる奏。そこからは何も言わず、ただ歯を食いしばりながら指令室から勢いよく出ていった。
「奏ちゃん、ご機嫌斜めねぇ」
「……奏にも割り切れない思いはあるのだろう。
すまない、今日はこれくらいにしよう。我々のセーフハウスを提供するから、こちらにいる時は自由に使ってくれ。
もちろん、男女同室は遠慮した上でな」
「はい、ありがとうございます」
「ご配慮に感謝します。彼は無害だと思うけど、モラルは大事だものね」
マリアの言葉につい首を傾げる翼とミライ。間違いなど起こるはずもないし、互いに抱く意識は仲間のそれ。ならば同じ部屋で過ごした方が効率的ではないかと言わんばかりであった。
だがそれに対する突っ込みが入るより前に、了子がまた彼女たちに質問をぶつけて来た。
「ところでぇ、あなたたちのいる世界にこっちから行くことは自由に出来るのかしら?」
「自由に……というと語弊がありますが、通ってきたゲートを使えば、いつでも戻れるようです」
「それなら行ってみたいわぁ~ッ! 破片とはいえ聖遺物ならこっちにもあるし、それで行けないかしらッ!?」
興味津々の了子に思わず苦笑いをする響たち。誰も詳しいことは理解らずに訪れたこともあり、マリアが絞り出した回答はどうにも曖昧なものになってしまっていた。
「さっきも話したけど、何を以てギャラルホルンに選ばれるかは私たちにも理解らないの。それに、何もかもが未知の場所へ貴方を連れ出すのは気が引けるわ」
「申し訳ありませんが、マリアの言う通りです。櫻井女史は二課に必要な方……それを不測の危険に晒すわけにはいきません」
「あぁら嬉しいこといってくれるじゃな~い。でも残念だわ、並行世界をこの目で見るいい機会だと思ったのに……。
……うん、だったらぁ~……♪」
そう言いながら艶めかしい視線を向ける了子。その先に居たのはマリアだった。
「なッ、なに……ッ!?」
「マリアちゃん、だっけ。貴方のそのアガートラームのシンフォギア、ゆっくりじっくりたぁ~っぷり見せてもらいたいのだっけどぉ~……?」
「ええッ!? ちょ、ちょっとそんないきなり……ッ!」
「あぁら、見た目よりもずっとウブな反応してくれるのね~。大丈夫よぉ、優しくしてあげるから♪」
「……了子くん」
呆れながら了子をマリアの傍から引き離す弦十郎。ちょっと不満そうに彼へ抗議の目を向けるものの、弦十郎の責める目に従ったのか大人しく引き下がっていった。一方でマリアは両腕で身体を隠すようにしながら距離を取っていく。そして一息置いてから、了子からの強引な提案に返答した。
「……見せるのは良いけど、また明日にしてちょうだい。私も貴方と話したいことはあるけど、先にこちらでも情報をまとめておきたいの」
「んふふ、そうね。溢れる知的好奇心を抑えるのは勿体無いけれど、こっちの仕事も無きにしも非ず。明日を楽しみにしているわ」
「それじゃあ、今日のところは失礼しますッ!」
微笑み手を振る了子と、普段と変わらぬ優しい笑顔の弦十郎、顔の見知ったオペレーターたちに見送られながら、響たちはその場を去っていった。
途中で奏の姿を見かけ、思わず翼が声をかけようとするが、マリアに制止され皆が一瞥するだけで終わり立ち去っていく。ただ一人、ミライを除いて。
「……なんだよ、アンタ」
苛立ちを押さえつけつつも、威嚇するように睨み付けながら声をかける奏。だがミライはそれに怯むこともなく、ただ奏の目を見つめていた。彼女の目の奥の、更に奥の……その最奥を覗き込むかのように。
──何かを、伝えるかのように。
「──ッ!?」
思わず背後へ飛び退く奏。瞬時に胸元のペンダントを握り締めるも、そこへ聞こえてきたのは眼前の青年を呼ぶ響の声だった。
「ミライさーんッ! 行きますよーッ!?」
「すいません、すぐ行きますッ!」
真剣な顔から優しい笑顔に戻り、礼儀正しく深く会釈して走り去っていくミライ。だがその姿を見届けた奏は、その胸中に不快感だけが募っていた。
その嫌な気持ちをほんの少しでも発散させるかのように、壁を殴りつける奏。さほど反響もしない鈍い音と手から伝わる痛みだけが奏に伝わっていく。
「ちくしょう……一体、なんだって──」
反芻するは彼の男が向けてきた眼。まるで語り掛けてくるような……否、比喩ではなく”語り掛けて来た言葉”を。
「ワケわかんねぇ……ッ! あいつも、あいつらも……ッ!!」
苛立ちが続く。思い浮かぶは先ほどの翼の言葉。自分が知っている彼女よりも遥かに強く研ぎ澄まされた言の葉を放った彼女の事を。
『……この身に代えても、この世界に跋扈する脅威を討ち取って見せます』
彼女が語った言葉を、彼女の姿を脳裏から消すために頭を振る奏。だがそんな事では消えないし消せるはずもない。分かっていても、解かっていても、癇癪のように頭を振り回しては壁を殴りつけ蹴りつける。
息が切れると共に、見つけた小さく出血している指。それが少し思考を冷ましたのか、拳を開いて声を漏らしていった。
「あいつの顔で、あいつの声でそんな事言うな……ッ。あたしは絶対に認めねぇ……そんなの許さねぇッ!」
誰にも聞こえぬ廊下で吐き出される奏の言葉。何処までも慮外を解せず信じぬ頑なな心根。
そこに染み入るはあの優しくも真っ直ぐな眼。まるで──心へ緩やかに入り込む毒のように響き渡る声無き”言葉”。
『──大丈夫』
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セーフハウスの一室。
響と翼とマリアが簡素な寝間着に着替え、思い思いのところに座りながら情報整理という名目の歓談をしていた。
初めての並行世界、生きている天羽奏、強力なカルマノイズと謎の怪獣ベゼルブ、見た事のないウルトラマン……話して纏めることは山のようにあった。
「こうして並べると、私たちの世界とは結構違うものなんですねぇ……」
「そうね……。でも、当座の目的はハッキリしたわ」
「カルマノイズと呼ばれるノイズの討滅と、怪獣……ベゼルブへの対処だな。だがマリアが戦えない以上、私と立花、ヒビノさんでどうにかするしかあるまい」
「そうですね。こっちの二課の人たちも協力してくれますし、奏さんもいます。へいきへっちゃらですよッ!」
「……そう上手く行ってくれればいいのだけれどね」
溜め息を吐きながら、響の楽天的な考えに異を唱えるマリア。それに頬を膨らませながら、響が僅かばかりの反論をしてきた。
「えー、何でですかぁ。同じ装者ですし、奏さんですし……きっと力を貸してくれると思いますが」
「貴方のその理想論は嫌いじゃないけれど、彼女の態度を見てると一朝一夕でどうにかなるようにも思えないのよね……。まぁ私は貴方たちほど天羽奏の事を知らないから、つい一線引いた眼で見てしまうのもあると思うけど。
翼、貴方はどう思う?」
マリアに振られ、すぐに考える翼。やがて口から出た答えはどうしても曖昧な……されど翼にとって今の心をハッキリと示すものだった。
「……分からない。マリアの言っていることも理解は出来る。今の奏にどれだけ言葉を伝えても、届かないかもしれない。
ただ、それでも私は奏を信じたい。奏と……もう一度肩を並べられることを」
「翼さん……そうですよねッ! 私も奏さんを信じますッ!」
翼の言葉に嬉しそうにはしゃぐ響。それを見ながらマリアはもう一度溜め息を吐くものの、彼女の顔は優しい微笑みに変わっていた。
「彼女を一番よく知る翼がそう言うのなら、私も出来るだけのことはやってみるわ。
でも、その前にやらなきゃいけないこともあるけどね」
「了子さんとのお話ですか? 気を付けてくださいね~。私も初めて会った時に、あ~んなことやこ~んなこともされちゃいましたから」
(あんなことや、こんなこと……ッ!?)
「立花、そのように言うものではない。あの時分の立花がどういう状況だったか、知らしめてくれたのは櫻井女史ではないか」
「えへへ、そうでしたー」
「お、脅かさないッ! もうッ……」
明るい笑い声が一室に響くなか、突如通信端末が着信を知らせて来た。ノイズの出現かと即座に身構える三人だったが、通信相手はミライだった。
「響です。ミライさん、どうしたんですか?」
『お疲れのところすいません、今日のうちに皆さんに話しておくことがありましたので。いま大丈夫でしょうか?』
ミライの言葉をそのまま伝える響。翼もマリアも問題無いとばかりに首肯し、響はスピーカーホンに切り替えて端末をテーブルに置いた。
「大丈夫ですッ!」
「それで、なにかあったの?」
『はい。……今日出会ったウルトラマンのことなのですが』
思わず息を呑む。彼女らにとって見知らぬウルトラマン……弦十郎たちの前ではミライも知らないと言ったが、敢えてその場で真偽を確かめることは無かったこと。
それをミライの方から話してくるという事は、きっと重要な話なのだと三人とも直感していた。
『先ほどは知らないと言いましたが、皆さんは以前に兄さんやゼロたちと共に戦ったことがある。だから話すべきだと思いました』
「勿体ぶらないで。……貴方は、あのウルトラマンの事を知っているのね」
『……はい。彼は……』
通信機越しのミライの声が一瞬止まる。彼もまた自らの確信を言葉にするのに、いささかの躊躇があるのかもしれない。そう感じられる沈黙だった。
それを破り発したミライの言葉。それはこの場の誰もが……いや、誰よりも風鳴翼が、最も大きな驚愕を与えられるものだった。
『……彼は、”ウルトラマンベリアル”。在りし日の……邪悪に染まる前、僕たちと同じく
そしてその変身者が……天羽、奏さんです』
「──奏が……ウルトラマン、ベリアル……ッ!?」
end.