或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 おおよそ一か月ぶりくらいの更新ですね。いや、リアルが中々に忙しくて。
今回は銘打つならばラウラ戦後半というところでしょうか。いやぁ、戦闘シーンを改めて書くって本当に大変です。


第二十四話 ぶつかるは共に最強に憧れし者たち

 一夏の割り込みはシャルロットとラウラにとっても予想外のことだった。剣でラウラを、空いた手でシャルロットを制しながら一夏は二人に交戦の停止を告げる。

 

「双方引け。これ以上は無用だ」

「なっ……」

「むぅ……」

 

 二人にしてみればいきなり割り込まれた挙句に一方的に停戦を突きつけられたようなものだ。驚くなり押し黙るなり反応は様々であるだろうが、少なくともすぐにハイ分かりましたと頷けるものではなかった。

 

「そら」

「むっ!?」

 

 二人の返答を待つよりも早く一夏が次の行動に移る。ラウラの回転刃と拮抗状態にあった蒼月の刃を、手首を僅かに動かすことでその位置をずらす。

鬩ぎあいのバランスを崩された回転刃はそのままあらぬ方向に力を流され、結果としてラウラの全身も少々ではあるが傾く。そしてその『少々』は一夏にとって十分すぎるほどの隙であり、ラウラが体勢を崩したのと同時にただちに蒼月の一刀を見舞う。

 

「くっ!」

 

 スラスターを逆噴射させることでラウラは一夏の攻撃をかわそうと試みる。だが、思いのほか一夏の太刀筋が速かったために僅かにシールドを掠め微量ではあるがシールドエネルギーの残量を削る。ほんの小さな数値とはいえ、確かに減ったシールドの残量に距離を空けてからラウラは小さく舌打ちをする。

 

「お、織斑くん?」

「さて、デュノア。ボーデヴィッヒの足止めご苦労。おかげで俺も自分のことに集中できたよ。いや、本当にありがたい」

「あ、うん。それは良いんだけど、えっと……どういうこと?」

「割り込みかけて邪魔したことは謝るけどさ、ここはちょっと俺に任せてもらえないか? ボーデヴィッヒのやつとは、タイマンの約束があったからな」

「そういえばそんな話だったね」

 

 綱渡りのような攻防を続けている内に当初の予定を完全に忘れていたシャルロットは一夏の言葉で元々の計画を思い出した。

役割分担をした上での各個撃破、その主軸となるのは一夏でありシャルロットはサポートを主体とする。別にサポートに回るのは一向に構わないし、立場を逆にしても一夏が上手くサポーターを務められる保証はない。

戦術の安定性を考えるのであれば特に異論を挟むことは無かった。

 

「篠ノ之は……及ばなかったのか」

 

 ポツリと呟かれたラウラの言葉が通信回線越しに一夏とシャルロットの耳に入る。

 

「あぁ、確かにあいつはよくやったけど、まだ俺には届かなかったな」

「そうか……」

 

 冷然と箒の敗北という事実を再認識させる一夏にラウラは僅かに視線を伏せた。その様子に一夏は眉を顰めた。先ほどの声のトーン、そしてこの視線の動きといい、まるで箒の敗北に心を痛めているようだと一夏の目には映ったのだ。

 

「意外だな。もうちょっと淡白な反応をすると思ったけど、結構メンタルに効いたりしているのか?」

 

 指摘しない理由はどこにもない。生じた疑問を一夏は遠慮せずにぶつけることにした。

 

「そうだな。思うところが無いと言えば嘘になってしまうか。私はやつが何をしていたかは知らない。だが、お前と戦い勝つという一点を目指して力を振り絞ったということだけは分かる。その想いと努力、せめて報われて欲しいと思うのはごく自然なことではないか?」

「……そうだな」

 

 ラウラの言わんとすることはよく分かる。自分とて何年も修練を積み重ねてきた身だ。その自覚と自負があるからこそ、自分の積み重ねてきたものが実を結んで欲しいと思うし、他人が行う同様のソレに対しても同じだ。

 

「けど、競い合えばどっちかが勝ってどっちかが負ける。残酷なようだけど、勝負はそういうもんだ。それが分からないお前じゃあないだろう?」

「あぁ、無論そこは承知している。だが、曲がりなりにもチームの相方として矛先を同じくした仲だ。気遣いの一つくらいはするさ」

「そうか。……良い奴だな、お前は。良かったよ、箒の相方がお前で。俺はきっと、お前のようには振舞えない」

 

 そう静かに抱いた感想を素直に吐露した一夏の表情にはクシャリと歪むようなものがあった。自他共に認める武の邁進(まいしん)者、その強い意志から成る姿勢はたとえ幼馴染であっても、血を分けた姉であっても武にあっては一切の妥協や甘えすら認めない。

何時の間に自分はこうなったのだろうか。幼い頃は自分が立っていた幼馴染の隣という場所に、自らの意思で以って離れた後に立った少女の心遣いを見て自分という人間を再認識させられる。

 

(あぁ、それにしてもまったく、俺は本当にとんだ人でなしだな)

 

 今は試合の最中だ。隙を晒すわけにはいかない。だがそうでなければ思わず天を仰いでいただろう。そんな感傷すら戦いの中にあるということを僅かに再認しただけであっという間に思考の片隅に些末事として追いやられる。

自嘲するような歪んだ苦笑は徐々に消えていき、冷たく、鋭い眼光を真一文字に唇を引き締めながらラウラに向ける。

 

「要らない世間話をしちまったな。悪い、続きを始めようか」

「来るか」

 

 八相の構えを取る一夏にラウラもまた身構える。そして一夏の隣に助太刀すると言うようにシャルロットが立つ。

 

「デュノア、お前は下がっていろ。元々俺とボーデヴィッヒでタイマンをするつもりだったんだ。手助けはありがたいけど、今は要らない」

 

 そう隣に立つシャルロットに告げる。助勢の意思がありがたいのは紛れもない事実だが、今ここでは求めてはいない。故に一夏はシャルロットに下がるように促す。そんな一夏の方をシャルロットは向いて――

 

「え? なんだって?」

「……」

 

 一夏としてはここで颯爽とラウラに一人果敢に挑もうとする心づもりだったのだろう。だがそんな彼の目論見の出鼻を見事に挫くシャルロットの言葉に一夏は思わず閉口する。ラウラもまた構えはそのままにどうすれば良いか決めあぐねているような様子を見せていた。

 

「ん、んんっ! いやだからな、デュノア。ここは俺がやらせてもらいたいわけなんだがね」

「え? なんだって?」

「だからあいつは俺が一人で――」

「え!? なんだって!?」

「あーもう! なに何なのさっきから! お前絶対聞こえてるよな!」

 

 確認するまでもない。シャルロットは間違いなく一夏の言葉が聞こえている。聞こえない理由などあるわけがない。そんな都合の良い突発性難聴を患っているわけがないし、そうだったらそうでとうに医者通いでもしているはずだ。

つまりシャルロットは意図的に一夏の言葉を聞こうとしていないのであり、それにイラだった一夏が声を荒げるのも無理なからぬというものである。だがそのシャルロットはと言えば、呆れたようにハァ、とため息をつくとジト目で一夏を見ながら口を開く。

 

「あのねぇ、君が結構無茶苦茶な所あるのは僕もそれなりに分かってるつもりだよ。けどね、通る無茶と通らない無茶っていうものがあるの。割り込んできたのはまだ良いとして、いきなり一人でやるから引っ込んでいろっていうのは流石に僕でもどうかと思うよ。だいたい、僕みたいに器用に何でもソツなくこなせるIS優等生、その上いたいけでかわいい女の子の手伝いを跳ねのけるって男の子としてどうなの?」

「いたいけとかテメェで言うか普通!? 今のセリフで色々台無しになってんの分かってるか!? えぇい! とにかくだ! 元々俺がやつとタイマンする予定だったんだし、そもそもからしてお前だって一応の了解はしていただろう!」

「あーそれかぁ。うん、僕も最初はそれで良いかなぁなんて思ってたんだけどね、君が篠ノ之さんと戦っている間に僕も僕でやっていて、まぁ気分が変わったんだよね。最後まできっちり決着をつけたいっていうのかな」

「この……はた迷惑な心変わりだな」

「仕方ないよ。女の子っていうのはね、結構移り気なものなんだよ? それに上手く付き合えるかどうかが、男の子のポイントなんじゃないかなぁ」

「は、感情に流されて人を振り回すようなのに一々構っていられるか」

「いや、人を振り回すっていう点なら君も大概だからね」

 

 やいのやいのとラウラをそっちのけにして言い合いを続ける二人。そんな姿にラウラは構えたままどうして良いか途方に暮れ、控えていた真耶は苦笑いを浮かべ、そして管制室の千冬は後で二人纏めて説教をしようと心に決めるのであった。

 

「デュノア」

 

 なおも口論を続けそうな二人の間に別の声が割って入った。誰のかを確認するまでもない。完全に蚊帳の外に置かれていたラウラだった。

 

「なに? というか、前々から言ってるけどシャルロットでも良いんだよ? もしくはお姉ちゃんでも僕としてはポイント高いかな」

「いや、お前の呼び方についてはこの際どうでも良いのだが、いやそうじゃなくてだな。私からも意見させて貰おう。悪いが、ここは私とやつでやらせて欲しい」

 

 予想外の、ラウラからの一夏との一対一を望む言葉にシャルロットは思わず面喰う。その隣でそれ見たことかと勝ち誇ったようなドヤ顔を浮かべた一夏に若干イラッとしながらも、シャルロットは改めて尋ねる。

 

「なんで、っていうのは聞いちゃダメかな?」

「別に構わん。そう難しい話ではないよ。単に、そいつとまず果たしあうという約束の方が先にあっただけだ。私とてお前との勝負はしっかりと着けたい。だがそのために先約を反故にもできない。いっそ二人纏めてというのも私は構わないが、二人共を片手間でやって納得のいく結果にできるほど器用なつもりはない。

あまりにも知恵の足りていない方法というのは百も承知だが、私としては一つずつ順番に片づけたいだけだ」

「なるほどねぇ……」

 

 ラウラの真剣そのものな言葉にシャルロットは言葉に困るように額に手を添える。

 

「分かったよ。二人揃って意見が同じになっちゃったら、僕も何も言えないね。仕方ない、ここは織斑くんに譲ることにするよ」

 

 そう言って決着を一夏に委ねることを決めて、一夏の隣より一歩分後ろに下がる。

 

「織斑くん、せっかく譲るんだしちゃんと勝ってね? まぁ負けたら負けたで僕が後は引きうけるけど、ここで負けたら物凄く恰好悪いよ?」

「ふっ、分かってるさ」

 

 シャルロットの忠告に一夏は微笑と共に答える。そしてその微笑はすぐに初めから存在しかったかのように消え、獲物を狙う猛禽のような鋭い光が双眸に宿る。

 

「やるからには勝つさ。あぁ、案じる必要はないよ。俺は、負けん」

 

 直前までの漫才じみたやり取りで弛緩していた空気が一気に引き締まっていくのをシャルロットは肌で感じ取っていた。その大本、周囲の雰囲気をきつく縛り上げているのは他ならぬ一夏だ。

まるで別の誰かと入れ替わったのではと錯覚するほどの切替の早さとその度合いに決して長くない付き合いながらもシャルロットは畏怖を禁じ得なかった。これから戦いに臨む一夏は、間違いなくあのシャルロットの目論見が露見した夜に見せた、まず何よりも恐怖を感じさせられた彼なのだろう。となれば、今からの彼から容赦は確実に消え去る。そう、幼馴染に対してすら無慈悲な一撃を見舞ったように。

正しくIS界に彗星のごとく現れたダークホースと言っても良いだろう。対するは世界でも有数のISに長けた舞台、その中でも若年ながら指折りの実力を持った、確かな経験の裏打ちを持つプロ。

 

(ま、何だかんだでこれも結構面白そうかな)

 

 自分で直接舞台に立つのも良い。だがこうやって興味深いカードを傍から見るのも悪くは無いだろう。そうやって、シャルロットは一夏に事を任せた己を納得させる。

 

「じゃあ織斑くん、あとよろしく。ちゃんと勝ってね?」

「あぁ、無論だ」

 

 そう言って二人は別れる。一夏から離れたシャルロットは未だ倒れたままの箒の方をチラリと見遣り、そちらの方へと行くことを決めた。

仮に彼女が目を覚ましたとして相方の戦いに余計な茶々を加えられないように見張るため、目を覚まさないにしても突然の具合の変化をきたしたとしてすぐに対応できるように。

 

(ほ~んと、こんなに気遣いができる僕ってすっごく良い女の子だよね~)

 

 戦いの最中にありながらもシャルロットの思考はどこか呑気なものであった。

 

 

 

 下がったシャルロットを背に一夏はラウラを改めて見据える。

 

「悪いな、少し手間取った」

「まったくだ。この際だから言わせてもらうが、事前に計画をしっかり立てていないからこうなるのだ。これが軍務ならば大問題になっていたのかもしれないのだぞ」

「実に耳が痛いな。いや、ここは中尉殿の高説を甘んじて受け入れるとしようか」

「どこで私の階級やらを知ったのか。まぁ良い。何はともあれ、だ」

「あぁ。これで準備は整った」

 

 改めて一夏とラウラは互いに得物を構えなおす。睨みあうこと数秒、そして――

 

「はぁぁぁああああああ!!!」

「ぜぇぇぇぇええええいっっ!!」

 

 気勢を伴う吶喊で互いが互いに向かっていき、それぞれの刃同士を激突させた。

 

 

 

袈裟がけに振るわれた蒼月の刃とラウラの右手に取り付けられた回転刃がまずはぶつかった。インパクトの瞬間、激突の衝撃を和らげるように二人同時に敢えて刃同士を絡ませたまま自分の方に少し引き寄せようとする。結果として、互いのすぐ目の前に相手の顔がやってくるという形になった。

 

「ぐっ」

「ふん」

 

 回転刃が蒼月とぶつかり合う耳ざわりな金属音をBGMに予想以上に重い一夏の一撃にラウラが僅かに歯を食い縛る。対する一夏はこの程度何ともないと言うように涼しい顔で受け止める。

 

「せい!」

 

 蒼月と絡み合っているのは右手の回転刃だ。左腕に取り付けられた方は自由なままである。そして当然とも言えるが、空いた左腕の回転刃で一夏を攻撃しようとラウラは左腕を振り抜いてくる。

 

「はっ!」

 

 一夏の反応は早かった。鍔迫り合いはそのままに蒼月の柄を握っていた両手のうち右手だけを離してレーゲンの左手首の部分を掴んで腕の動きごと回転刃を抑え込む。

両手を使ってラウラの攻撃を抑え込んだ一夏はすぐに次の行動に移る。左手首を軽く捻り蒼月の位置を微妙にずらす。これにより拮抗していた力のバランスが崩れ、ラウラの回転刃が滑るように蒼月とこすれていく。そのまま回転刃の切っ先が一夏に向かって来るが、それよりも早く一夏はラウラの左腕を掴む右手を支点として体を捻り、ラウラの左半身側に自分の位置をずらすと同時に回転刃をかわす。

そのまま前進を使って思いっきりラウラを真下の地面に向かって投げ飛ばした。

 

「ぬぅっ!」

 

 実際の所、左腕を振るってから投げ飛ばされるまでの間は2秒と掛かっていない。ラウラにしてみれば隙を突いたつもりがいつの間にか地面に向かって投げ飛ばされ、空を仰ぎながら背中から落下しているのだ。驚きの一つもあるのは仕方のないことと言える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 そして投げ飛ばした当の一夏はと言えば落下するラウラに追って追撃を仕掛けてきていた。腰部装甲のホルダーに蒼月を括りつけ両手を自由にした彼は、空いた二つの手で熊手を象りながら吶喊してくる。

あの両手に鋭利な刃が備えられていることは既に把握している。となれば素直に受けるわけにはいかない。落ちながらラウラは次の行動を思案する。

 追撃を仕掛けた一夏がラウラに追いついたのとラウラが地面スレスレの所まで落ちたのはほぼ同時だった。

人の腕ではまずもって起こせないだろう大気を切るのではなく、荒々しく引き裂き捻りつぶすような重い風切り音と共に一夏が双腕を振るう。

地面が爆ぜる音と共に土煙が大量に舞い上がる。その中からギリギリのところで一夏の攻撃を回避したラウラが飛び出してくる。何もない地面に刃を仕込んだ凶手を叩き込んだ一夏は、自分の為した結果がただ地面に大量の斬り傷をつけただけという結果に舌打ちをして前方のラウラを再度睨みつける。

逃げるというのであれば是非も無し、再び追いつめるだけと言わんばかりに、一夏は再度ラウラへの接近を試みる。

 

「させんっ!」

 

 レーゲンの腰部から四本のワイヤーブレードが飛び出し一夏に襲い掛かる。一見すればワイヤーそれ自体が備えるエッジの切れ味が脅威と見えるが、この装備の真価はその本来の扱い方、つまり相手を拘束するための部分にある。

いかに機動性に優れた機体であっても、そのどこか一部をワイヤーに絡め取られれば大きく動きを阻害されるのは必定だ。それは一夏の白式とて例外ではない。都合四本のワイヤー、どれか一本にでも捕えられたら途端に一夏は不利になる。

 

「はっ!」

 

 だが迫るワイヤーを前に一夏は微塵も臆する様子を見せないどころか、逆に真っ向からワイヤーへと突き進む。右手に握った蒼月を振るって一本のワイヤーを弾き飛ばし、もう一本を左手で払う。どちらもワイヤー自体ではなく、その先端に付けられたペンデュラムを狙って行われた。

甲高い金属音と共に二本のワイヤーがあらぬ方向に弾かれ残り二本が迫るも、既に一夏は活路を見出していた。ちょうど、ワイヤー同士の間にラウラへ向けて一直線に向かうこのことのできるルートが開いていた。

迷うことなくそこへ飛び込む。獲物にすり抜けられた二本のワイヤーはそのまま何もない虚空を飛び、射出時の運動エネルギーによる推力を失より早く巻き戻されていく。

 ワイヤーをあっさりとかわした一夏はそのまま一息の内にラウラとの距離を詰めようとする。白式のOSがロックオン警報を発したのはその時だった。

 

「やはりそこへ来たな!」

 

 得意げなラウラの声が聞こえた。端的に言って、ワイヤーは囮でしかなかったのだ。効果を発揮したらしたでそれは御の字だが、別段対処されてもまるで痛くない。むしろ対処してくれた方が予定通りと言えた。

一夏が見出した隙間、そこはラウラが意図的に作ったワイヤーによる陣の空白だった。そこへ飛び込んだ一夏は、まさしく狙い通りの動きをした獲物に他ならない。

肩部のレールガンが狙いを定め、砲身に紫電を迸らせる。プラズマ化するほどに加熱した火薬による圧倒的な加速を、更にリニア機構により速さを跳ね上げた大砲は、放たれれば文字通り刹那の内に一夏へと達する。放たれればそれまでだ。ならばどうすれば良いのか。

 

(――ッッ!!)

 

 前頭葉の辺りが加熱するような錯覚を抱く。アラートと同時に一気に高めた極限の集中は、間違いなくこの学園においても最高峰の身体スペックを誇る一夏をしても明確な負荷を掛けると同時に、確かな効果を彼に与える。僅かに、ほんの僅かにだけ周りがスローモーションになる。まるで年度の高い液体の中をかき分けるような重さを体に感じつつも、一夏は持てる膂力を振り絞り蒼月の刃を天にかざす。

視線の先にはラウラ、彼女の眼帯で覆われていない右の瞳がある。ハイパーセンサーによるズーム機構がその動きの仔細を一夏に伝え、僅かに瞳孔が絞られるのを一夏は見た。刃を振り下ろしたのはほぼ反射によるものだった。手応え、確かに重い何かを斬り裂いた感覚が手に伝わった。背後では衝突に続いて爆発音。観衆の一際大きなどよめきが聞こえてくるが、知らぬ聞こえぬ。

 ワイヤーでルートを限定させてからの狙い澄ましたレールガンの一撃、流れるようにそこまで状況を持っていったラウラの手並みには一夏も素直に見事と讃える。だが、それを武技で以って上回ってこそが織斑一夏の矜持の発揮のしどころというものでもある。

どうだ、これが織斑一夏だ。その意思を乗せて更に突き進む。蒼月のコバルトブルーに輝く凶刃で以ってレーゲンの装甲を斬り裂かんと迫り、ラウラの瞳に浮かんだ『笑み』を見た瞬間、一夏の危機回避本能が最大限の警鐘を鳴らした。

 

「チィッ!」

 

 忌々しげに一夏は蒼月の刃を地面に突き立てる。スラスターの逆噴射と合わせてそれを減速に用い、そのまま蒼月を振り抜く。結果として発生した大量の砂埃は纏めてラウラの方へと向かっていく。

加速を食い止めバックステップで後退すると、自分が巻き起こした砂埃の行方を見て一夏は小さく舌打ちをする。そのほとんどは宙へと流されていった。だが、一部の砂埃がまるで虚空で固められたかのように留まっている。その場所はラウラの前面。突き出されたラウラの右手から少し離れた所に砂でできた薄膜のようなものが広がっていた。

 

「あっぶね~……」

 

 小さく、しかしどこか安堵を含ませた声で一夏は呟いた。

 

「ふむ、見抜かれてしまったか」

 

 対するは何ともないかのようにそう呟き、さっとかざしていた腕を払うラウラだ。ラウラの腕が払われると同時に砂の膜はその形を崩し宙へと散っていく。

 

「やはり、というか本命はAICだったか。俺の勘も捨てたもんじゃないな。あのまま突っ込んでたら捕まっていたよ」

「私としてはその方が良かったのだがな。まぁ、決まれば御の字程度の小細工だ。あえて何も言うまい」

「イケるかと思ったんだがねぇ。世の中そう上手くはいかんか」

「あいにく、貴様がレールガンを対処するところまでは織り込み済みだ。さしずめ砲弾斬り、とでも呼ぼうか? 確かに初見ならば狼狽えもするだろうが、一度見ている」

 

 一夏の為した芸当に観客の大半は驚愕の声を上げた。何せ音速を優に超える砲弾を真っ二つにすることで無力化するなどというやり方、世界を見渡してもそうそう目に掛かれるものではない。

だがラウラは一度だけではあるが同じことを一夏が行ったのを目の当たりにしている。そして、既にラウラの中でIS乗りとしての一夏は一定のラインを超えた然るべき評価に値して決して侮ってはいけない相手として認識されている。ゆえに、このくらい(・・・・・)はやってのけると予想をしていたのだ。

ワイヤーブーレドのコンビネージョンも、レールガンも、どちらも囮に過ぎなかったのだ。本命はその先にあるAIC。もっとも、直前でそれを察知されて結局は不発に終わった。そうして一連の攻防が終わってみれば、二人の間にはただ距離が空いているだけという何も変わらない結果だけが残った。

 

「まぁ良い。収穫があったのは俺だって同じだよ」

「なに?」

 

 予想外の一夏の言葉にラウラは小さく眉の端を上げる。そんなラウラの様子を見て一夏は小さくフッと笑うと人差し指を立てる。

 

「AIC、見切ったり」

 

 その言葉に一瞬ラウラから表情が消えかけた。だがすぐにいつも通りの冷静な表情に戻すと、どういうことかを問う。

 

「別に大したことじゃあない。単に、俺なりにAICというものを考察してみただけだ。当たってる保証はないが、俺としては良い線は行っていると思う。

AIC、アクティブイナーシャルキャンセラー。まぁ大方PICの技術の応用だろうが、細かい原理はこの際どうでも良い。そんなのは技術屋の領分だ。第三世代らしく起動は乗り手の思考がトリガー。発動すると何かしらのフィールドを展開、それに触れた物はピタリ止まると。

一見すればとんでもない防御兵装だが、意外に完璧じゃあない。さっきの砂埃止めたのを見ても気付いたが、どういうわけかAICは格子状に展開されるらしいな。だから、小さいが穴はいくつかある。ついでに言えばものが小さすぎても問題だな? オルコットの武装のような熱量系には効果が薄いと聞いているが、それはそいつに実体がないから。だから多少弱められても透過を許しちまう。

展開位置は乗り手のお前を起点にして凡そ2、3メートルか。範囲はお前がすっぽり入る程度。まぁ上手く気付ければかわせないこともないな。

そして俺が思うある意味一番のウィークポイント。発動させるのに結構強めな意識の集中がいるな? はっきり言ってさっきもそうだったが、かなり気配が分かりやすかったぜ?」

「……」

 

 一夏の言葉にラウラは無言のまま目を見開いた。間違っていない。一夏のAICに関する考察、指摘は間違っていない。それが全てとは言わないが、言われた内容に限定すれば全て当てはまるのだ。

話した記憶など微塵もない。そもそもからして話す理由も無い。AICを使う機会は幾度かあった。その折に見ていたのだろう。だが、それだけで彼はここまでの解を導き出した。その事実に一瞬、確かな動揺を感じた。

 

「図星、か」

 

 ラウラの動揺を鋭敏に感じた一夏が言い放つ。言われてラウラは態度に出ていたことに気づき、自制をしきれなかった己を内心で叱咤する。

 

「むぅ……。ふぅ……」

 

 心の揺れを静め深呼吸、すぐに気分は落ち着いた。

 

「あぁ、正直驚いたな。よもやそこまで見抜かれるとは」

「否定はしないのな」

「あれだけの反応をしてしまったのだ。今更しても無意味だろう。そんなことはどうでも良い。あぁ、こればかりは手放しに讃えるとするよ。その眼力、見事だ」

「恐悦至極、と言いたいところだが、半分以上はお前自身が原因だぜ? お前、鈴――凰とオルコットを相手にした時に何度AICを使った。あれだけ見せられれば、あたりをつけることはできる」

「なるほど。いや、それも含めてだ。偶発的な機会を無意味にすることなく活かす。間違いなく褒められて然るべきだろう。あぁ、前言の撤回はしないよ」

 

 そういってラウラは再度両手の回転刃を起動して構えを取る。口ぶりは穏やかだが、放つ気配は徐々に研ぎ澄まされていき闘気が高まっていくのを一夏は感じ取った。

 

「こうも見抜かれては、そうそうAICに頼るわけにもいかないな。ならば後は、私自身で勝つしかないわけだ」

「ほぅ? 良いのかよ? 自分から切り札を使い渋るような真似をして?」

「使おうとしてそのたびに見抜かれるくらいなら使う意味がない。それにAICは確かに強力だが、そればかりに頼るわけにもいかんのでな。一つ教えてやろう。これは教官の、織斑先生の薫陶だよ。

そして今この瞬間、私の中での貴様は既に脅威と認識するに足る乗り手になった。全霊を以って、打倒させてもらう」

「面白い……」

 

 言葉は静かながら、一夏もまた闘気を立ち上らせる。その様に軍属として磨かれたラウラの勘が刺激され、一瞬肌の産毛が逆立つような感覚を抱かせる。

右手に蒼月を携えたまま一夏は号令をかけるように空いた左手を払う。それと同時に、白式の腰部に量子展開の燐光が奔った。

 

「む?」

 

 何が現れるのかと一瞬警戒したラウラだったが、実際に出てきた物を見て頭の上に疑問符を浮かべる。左右に一本ずつ、腰部装甲に取り付ける形で現出したホルダーに下げられた蒼月と同じ日本刀型ブレード。強いて蒼月との違いを挙げるのであればどちらもやや長さが短いことだろうか。

そして一夏から見て左側の腰部装甲には、追加のブレードを取り付けたホルダーの更に上に何も下げていない空のホルダーがある。おそらくは今現在手に持っている方の剣を下げるためのものだろうとラウラはあたりをつけた。

 

「追加の武装、しかし変わらず剣か。部隊の仲間が日本の剣豪には三本の刀を操る者もいると言うが……」

「そりゃ漫画の世界の話だよ。現実に三刀流なぞ、無茶にもほどがある」

 

 真剣な、しかし明らかに間違っている解釈のラウラの言葉に一夏は軽く呆れながら訂正を入れ、そして言葉を続ける。

 

「別にどうということは無いよ。単に整備したら要領に空きができたから載せただけだ。銃器とかでも良かったんだけど、やっぱり俺には刀の方が性に合っている。一見すればただ増えただけだがな、やれることは見た目以上にあるぞ?」

「構わん。全て、真っ向から倒すだけだ。来い、織斑一夏。貴様に本職の格というものを教えてやる」

 

 言葉を交し合ったのはそこまでだった。軽いステップで跳躍したかと思うと、一気にスラスターを吹かして一夏がラウラに向かっていく。

振るわれた蒼月の一閃を交差させたレーゲンの回転刃が受け止めて、ここに二人の戦いの第二幕があがろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、む。千冬の薫陶ですか。中々、あのドイツの子は見所があるようですね」

 

 アリーナのスピーカーがラウラの言葉を観衆に伝える。VIP用ブースで防衛省幹部護衛の任の最中にある美咲はそれを聞いて小さく感心するように呟いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒか。ドイツの黒ウサギ(シュヴァルツェ・ハーゼ)の実働隊で最年少ながら隊長を務めると聞いているが、やはり君にかかっては見所がある程度に収まるかね?」

 

 そう美咲に尋ねるのは彼女の護衛対象であり、現在彼女の隣で椅子に腰掛ける初老の男、赤木防衛事務次官であった。

 

「あいにくですが、私や千冬から見れば今現在の現役の乗り手など殆どがその程度の枠に収まりますよ。次代の違いゆえに致し方なしとは言え、今の娘たちは黎明期の過酷さを知らないのですから」

「だがその黎明期も数えてみればたかだか十年前から少し程度。それが既に一時代前とはな。つくづく空恐ろしさを感じる進歩の速さだ」

「全くです。私、まだ二十七ですよ? それが業界で見てみれば大ベテランに当てはまるなんて。まだ三十にもなってないのに古い時代の人扱いされるのは少々困りものですよ」

 

 茶目っ気を含むような美咲の言葉に赤木はカラカラと笑う。千冬と並んで日本の、世界レベルで見てもIS乗りとしての最古参にあたる彼女は防衛省とのつながりも相応の長さを持っている。

まだIS関連の各方面の整備がままならない頃からの付き合いが美咲と赤木の間にはあり、親子ほどに年が離れて立場の厳然たる違いを持ちながらも、こうして冗談交じりの会話ができるほどには親交があった。

 

「まぁ私はISなど動かせんからね。こうして観客に徹して見ている。だからこそ、いっそ摩訶不思議な新型の装備にも面白味を感じることができるが、やはり君は違うかね?」

「無論です」

 

 きっぱりと言い切った。

 

「常に新しい物を生み出す。それ自体は人類全体にとって必要な発展的行為である故に否は言いません。いえ、むしろ私とて推奨はします。ですが、作ってそればかりになることにはいささか物申したくあります。

どうにも最近の子たちには新型や目新しい物を重宝したがる傾向があるようで。確かに新型や目新しい武装というものは往々にして高い戦果を挙げられますが、それも初めの内。すぐに解析され、対策をされ、意味を失くす。本当に必要なのは何よりも本人の腕だと言うのに。

幸いと言いますか、この学園の卒業生からそのままIS乗りに進んだ子は比較的そうした意識もあるのですが、やはりそれ以外の方面から来たとなると。特に企業のテスターにその傾向が見受けられますね」

「まぁそっちはその新型などの最前線だ。必然、それに合わせた考えに傾いてしまうのだろうよ」

「はぁ、ますます自分が古臭い人間に思えてきて、さすがに参りますね。ですが実際こう思ってしまうのですよ。新型、第三世代――何もかもが馬鹿馬鹿しい」

 

 一転、美咲の口調から温度というものが消え去った。赤木もまた、浮かべていた笑いを引っ込めて美咲にその言葉を放った意図を問う。

 

「真実強者たる者はただ在るというそれだけで十分なのですよ。千冬などその好例。第三世代の新型ISに新装備? 新進気鋭のホープ? 無意味、等しく無意味ですよ。何をどんな組み合わせで持って来ようが、彼女に、たとえ駆るのが今では時代遅れと言われる第一世代の暮桜であっても、一刀の下に屠られるのが目に見えている。

乗り手の思考で動く自立砲台? 不可視の砲弾を放つ? 相手の動きを止める? なんですかそれ? 賢しいの一言に尽きますよ。

足りていないのはただただ当人たちの強さのみ。それが足りていない。けどそれを露見させるのが嫌だから物珍しげな武器を引っ張り出して強いとでも思わせたいのですか? それで卵でも立てたようなつもりにでもなっているのですか?

まるで曲芸じみた武器(オモチャ)で自分が高みに上ったような気になったまま踊り、それがさも高尚な戦いのように演出して悦に入る。

笑止。真に王道とは、ただただ当人だけに帰結する力ですよ。すべてはそのためにある道具に過ぎない。道具を主役にしている時点で愚かの一言に尽きますよ。この際だからはっきり言いますが、技術の進歩、広まっていく新型、それに伴って圧倒的というものがとんと見当たらなくなりました。

別に特別なものなどさして必要ないのですよ。あれやこれやと変に趣向を凝らし過ぎるのは逆に白けるというもの。少なくとも私は純然たる衝突こそが王道と思いますわ。それをつまらないと言うのであれば、それはその者がつまらないということ。実力の桁が違えば、やれ相性だの武装の特異性だのは無意味に帰するのですよ」

「もしかしなくともだが、結構不満が溜まっていたりするのかね?」

「お恥ずかしながら、少々……」

「まぁ、なんだね。心中は察するよ。後進にあたる者に見所を見出しにくいのは、確かに辛かろう」

「本当に。主に十代を主軸に据えた女性へのISの意識調査、などというのが以前にありましたが、どうにもファッションの類と勘違いしているような意見もチラホラ。本当に困ったものです」

 

 少なくともこの悩みは美咲にとっては実に深刻なものである。IS乗りである以前に武人としての自己を確立している彼女にとっては、後進の育成もまた必要なことと考えている。

だがその後進としてふさわしい者が少ないとなると、そもそも育成をする以前の話になってしまう。

 

「一応、私の部下の子たちにはそれなりに教えを施しているつもりですが、はたしてあの中の何人かが正真正銘の高みへ登れるかと問われたら、彼女らには悪いですが多少の不安はありますね」

「苦労は察するよ。だが、それも含めて君の仕事だ。月並みな言葉だが、頑張ってくれたまえよ」

「本当に、ただくだに高みを目指すだけだった昔が懐かしく思えてきますね。あのころは千冬だけじゃない。他にも多くの良き競い相手達が居たものです」

「黎明期の傑物達か。今となっては、少なくとも我が国が把握している一線での活動者は君くらいなものだ」

 

 美咲と赤木の言葉には共に懐かしさが宿っている。まだISの扱いに各国が四苦八苦し、このIS学園も教育施設ではなく研究施設だった頃、今もなお黎明期の名立たる一流の乗り手たちとして知る者ぞ知る敏腕が研鑽に励んでいた頃を美咲は懐かしむ。

 

「我が国ならば『戦女神(ブリュンヒルデ)』の千冬、アメリカの『姫光帝(ライト・エンプレス)』ミューゼル、ドイツの『大魔弾(デア・ザミエル)』ヴァイセンブルク……、本当に懐かしい」

 

 美咲が呟くのはISの黎明期においてとりわけ高い技術、実力を誇っていたIS乗りの先駆けたちだ。他にも多くの者がISという未知なる兵器を物にして、ある者は己の挑戦のために、ある者は名声を求め、ある者は己が奉ずる祖国のために、各々がそれぞれの理由を持って研鑽に励んでいた。

今現在の主役と言える若い世代たちにもまたそうしたIS乗りである理由、気概があるということは美咲も重々承知している。それを決して貶めはしない。だがそれでもかつての自分と研鑽し合った者達と比較すればどうしてもその執念に、気迫に、劣っていると言わざるを得ない。

 

「今となっては当時の面子も殆どが一線を退いてしまいました。IS乗りであるという立場から去った者もいれば既に後進の育成に従事する者もいる。表舞台より去って行方も分からなくなった者もいる。いささか寂しいとも思いますし、好きでやっていることとはいえ未だに一線に立ち続けている自分が実はただの頑固者なのでは、と思うこともありますよ」

「もっとも、それに我々が助かっているのも事実だ。私個人の意見としては、君には可能な限り現役でいて欲しいものだよ」

「ふふ、そう言ってもらえると私も仕事人冥利に尽きますわ」

 

 赤木の言葉に美咲は微笑と共に謝意を告げる。そして再びアリーナに視線を戻すと浮かべていた微笑を怜悧に値踏みする硬質なものへと変え、空中で繰り広げられる白と黒の攻防を見据えた。

 

(では、見せて頂きましょう。織斑一夏、我が最強の兄弟子が後継たる若き刃。そしてラウラ・ボーデヴィッヒ、我が最強の好敵手たる戦女神の教えを受けた黒兎。武の、ISの、私が奉じる道の次代を担うあなたたちの実力、この場で検めさせてもらいます)

 

 その瞳に宿った冷たさはまさしく絶対零度。彼女が回顧した歴戦の猛者達と同様にその非情の刃故に『斬魔姫神(イビル・ゴッデス)』と知る者に畏怖された当代最高峰の武人にしてIS乗りであることの証左だった。

 

 

 

 

 

 

 

「せあっ!!」

 

 一夏の振るう二式中型近接刀の二振りがラウラへと迫る。それを回転刃の一本でまとめて受け止めるが、片腕のみで両腕から繰り出される攻撃を受け止めたことで一瞬押し切られそうになる。それを避けるためにより力をこめて踏ん張ろうとするが、直後に体を捻った一夏の膝蹴りがラウラの側面を叩く。

密着状態が解除されたのを契機としてラウラは後退、そのまま空いている左手に予備の装備として格納していたハンドガンを展開し、照準を定めるのもそこそこに一気に弾丸を放っていく。かわしては行動のロスが多いと即座に断じた一夏は二刀を乱舞のように振るい弾丸を纏めて弾き飛ばす。いくつか斬撃の防御をすり抜けた弾丸もあったが、元々IS戦という規模で見れば小口径に分類される弾丸だ。直撃も無く掠めた程度なのでダメージらしいダメージは無い。

弾丸が途切れたのを見ると一夏はすぐさまラウラに向けて吶喊する。元々高い機動性を主軸に開発された白式だが、近接格闘を主体とすることもあって特に前方方向への直進の速さは他の専用機と比較しても群を抜いたものがある。AICで迎え撃とうとしても察知されてかわされるだけと、今度はラウラも回転刃で迎え撃つ。

 

 一夏の左腕に握られた刀が振り路される。交差させた回転刃で受け止めたラウラはインパクトの瞬間に思いきり腕を押し込む。左腕から伝わったラウラの抵抗による押し返そうとする重さに対して一夏が取った対応は、更に力を込めて抵抗するのではなくそのまま力の流れに腕を任せることだった。

押し返された刀はそのまま一夏の手から離れる。だが直後に一夏の右手が握る刀を振るう。狙うのは左の太刀を押し返したことで伸びたラウラの上半身側面。回転刃の交差を解いたラウラは左腕を払うように奮って回転刃を迎撃に向かわせるが勢い、乗せる力といった要素の不足によって今度はラウラの腕が弾かれる結果となる。

ラウラの腕を弾くとほぼ同時に一夏は、左手から離れて一回転半した刀を逆手に掴んでそのまま振り抜く。ラウラから見て右側からの攻撃を、左半身の体勢が若干崩れたままではあるものの、何とか整っている体勢の右腕の回転刃で受け止める。そのまま棒のように腕をその場に留めつつ押し込まれまいとラウラは力を込める。この拮抗による硬直の中、一夏は逆手に柄を握る左手を離す。

元々左の太刀を受け止めるラウラの回転刃はその場に留まろうとするだけで押し返そうという力は込められていない。持ち主の手から離れても刀は弾き飛ばされず、すぐに重力に従い真下へと落下を始めようとする。だがその先走りである水平状態の崩れに先んじて一夏は一度離した左手で今度は柄を順手に持ち直す。

そして両腕を一度引くと、そのまま連続して突きの猛攻撃を繰り出した。数秒の間に十を超える刺突の連続、更に一夏は勢いを利用しての連続回転切りへと繋げる。元々超近距離でのクロスレンジにおけるマニュピュレーターや腕部の運動性では白式に分がある。ラウラも応戦はするものの、捌ききれなかった数撃が装甲を掠めてシールドの残量を減らす。

 回転斬りの勢いをそのままに一夏はラウラの上方に飛ぶとそのまま二刀を振りかざして叩き斬るように落下をしてくる。スラスターを逆向きに吹かしたラウラは一夏の落下軌道から外れるとそのまま逆噴射のままに瞬時加速を使用する。予想だにしない後方移動の瞬時加速に一夏が目を見張るのも一瞬。後退と共に宙から地面に降り立ったラウラはレールガンの砲身を伸ばし一夏に向けて照準を合わせる。

今度は一夏も回避を選択した。楕円形のアリーナの境界に添うように大きく旋回飛行し、レールガンの照準を振り切ろうとする。その大きさから似つかわしくない連射性を持つレールガンは次々と砲弾を撃っていく。だが照準のロックが白式の速さに間に合わないため、放った砲弾の悉くがアリーナと観客席を隔てるシールドに弾かれて地へと落ちていく。すぐ目の前のシールドで爆ぜる砲弾の爆発と轟音に観客席の生徒たちの悲鳴じみた声があがるも、それを気に掛ける余裕は二人には無かった。

 

 土煙を上げながらラウラ同様に地に立った一夏が蒼月を振るう。振るわれた刃は迫っていた砲弾を真っ二つに斬り飛ばし半分になった弾体を後方にすっ飛ばす。そのまま一夏はスラスターを吹かす。

照準を定めさせないためのジグザグとした機動、加速と方向転換を対になっているスラスターの片方ずつによる瞬時加速によるものと見たラウラは今度こそ瞠目する。何せそれは一般に個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション)と呼ばれるスラスターを用いた加速技術の中でも現状特に高い難易度を誇る技術なのだ。ラウラとて挑戦はすれども確実にできるという確証はほとんど持てない。そんな技術を知ってか知らずかやってのけた一夏に、ラウラは更なる闘志を燃やしてそれを獰猛な笑みの形に吊り上げた口の端という形で表情に表す。

蒼月をホルダーに下げると再び二刀での連続攻撃でもって斬りかかる。順手、逆手の持ち替えを織り交ぜながら縦横無尽に斬りつけていく。更に一夏は二刀の柄同士を接触させる。パーツ固定用のボルトを加工したものを取り付けた柄は甲龍の双天牙月のように長柄の武器に二刀を一本の武器に転じさせることができる。

重い風切り音と共に二刀が変貌した両刃の薙刀を高速で回転させる。横合いからの一撃を防いだと思えば既にそこに刃はなく今度は真上から迫ってくる。先ほどまでの二刀とは似ていながらも趣を異にする連撃にラウラは守りのリズムを僅かに崩される。一度仕切り直しをしようとラウラはバックステップで下がろうとする。それを当然ながら許す一夏ではない。すぐに追撃をしようとするが、レーゲンの腰部から放たれたワイヤーがそれを阻もうとする。小さな舌打ちをしながら一夏は薙刀を前面で扇風機のように回転させて放たれたワイヤー二本をまとめて弾き飛ばす。そして再度ラウラに迫り斬りかかる。

 違和感に気付いたのは最初の一太刀からだった。明らかにラウラの反応速度が上がっていた。変化に気付いたのはその次だ。ラウラの左目を覆う黒い眼帯、それが外され今まで封じられていた左目が顕わになっていた。

一夏は知る由も無いが、ラウラの左目にはある生体技術が収められている。名を『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』。欧州でも比較的早くIS、関連技術の研究に着手したドイツが開発したISパイロット用の身体強化技術の一つだ。

その効果の一つは一言で表すならば「動体視力の飛躍的強化」だ。決して突飛と言えるものではない。だが、このような近接格闘戦において動体視力が強化されること、それが齎す意味は非常に大きい。

本来であれば始めから使っていても良い能力だ。だがそれをラウラはしなかった。何故ならばラウラの目に宿る越界の瞳は稼働が不完全、効果を発揮しこそするがかつてはラウラをIS乗りとして地に貶めた苦い記憶の象徴なのだ。そしてそこから引き揚げ、同時に不完全な目の御し方を彼女に伝えたのがかつての千冬である。

封じると決めていた忌むべき左目、その封印を解いたのは他でもない確実なる勝利のためだ。それすらも使わねば完全に勝利を得ることは難しい。今やラウラの中での一夏の評価はIS学園第一学年中最高のものとなっている。

振るわれる斬撃、その悉くを見切らんとする左目は金色に輝いている。それは本来人体では起こりえない現象だ。ならば起こらないはずの事象を起こし、なおかつ敵を打倒するためにあるこの目は正しく魔眼と呼べるものだろう。

 

 当然ながら一夏はラウラの左目に関するアレコレを一切知らない。だが、武人として磨き上げてきた勘が凡そのことは告げていた。つまり、反応速度が上がったということ。認識などそれだけで十分。

ならばどうするべきか? 決まっている。視えている? 反応速度が上がっている? それがどうした。それ以上を誇る正真正銘の魔人とも言える存在を彼は知っている。今更その程度で驚きやしない。

視えているならばそれで結構。ならばそれですら対処できない技を、技量を以ってして迎え撃つまでだ。

 一夏の双眸がラウラの双眸を射抜く。視るのは瞳、瞳孔、網膜、その更に先、ラウラ・ボーデヴィッヒという人間の思考だ。

正確に言うのであれば思考のトレースに近いだろう。自分が行おうとしていることに対して相手がどのように対処をしてくるのか。そんな読みを数手分先まで行うことで疑似的な未来予知にも等しい動きの先読みを行う。より練度を高めることができれば動きの先読みから自身の動きを相手の流れにトレース、更には逆に相手の動きを自分の流れに巻き込み完全に手玉に取ることもできる。

と言うのはこの技法を彼に授けた彼の師の弁だ。実際今現在でそこまでできるかと問われたら、一夏自身の技量とラウラ自身の腕前から相対的に見積もって難しいだろう。だが、最初の段階の先読みくらいならば完全にできる。

思考の予測による動きの先読みを行う一夏と、このアリーナに集う誰よりも高い動体視力を以って完全な見取りを行うラウラの攻防は、次第にそれまで火花を幾度も散らすような激突から陣取り合戦のような牽制の応酬になっていく。互いに突かず離れずの距離を保ちながらもアリーナを目まぐるしく駆け巡っていく。突き出された拳をいなし、振り上げられた蹴りをかわし、横に払われた剣を同じように剣で以って捌く。

このままでは状況が膠着すると一夏が判断したのは流れが移行してから数秒経ったすぐのことだった。ラウラの攻撃に対処することは十二分に可能だ。だがそちらは向こうも同じこと。ならばどうすべきか。答えはすぐに出た。

 両刃薙刀だった二刀の柄のロックを外して再び元の二刀の状態に戻す。そして二振り同時に下からの渾身の切り上げ。先ほどまでの相手の出方を伺うような牽制とは打って変わった思わず気圧されるようなプレッシャーと共に振るわれた刃にラウラも反応しこそすれ回避が間に合わなかったために回転刃を交差させて防御を試みる。だが激突した二振りの刀と回転刃が拮抗したのも束の間、二刀は回転刃を大きく弾き飛ばし振り抜かれる。

回転刃が弾かれたことで必然的にラウラの体勢も崩れる。振り抜いた二刀を一夏はそのまま手放す。白式の手、そこに仕込まれた凶爪が獲物を捉えたからか陽光を反射してギラリと光る。両手それぞれが貫手を形作りラウラへと迫る。迫る二本の腕を見てラウラはこの試合で最大級の危機感を覚える。

回避しようにも逃げ場が封じられていた。腕の微妙な動きの変化で、それを操る一夏自身が全身で牽制に牽制を重ねてラウラの退路を封じていた。

 これが一夏の出した答えだ。見切られているならそれでも結構。ならば視えていてもかわせない技を、攻撃を放てばいい。絶対に当たる、それは常軌を逸した速さや決して逃がさない追尾なのではなく、初めから逃げようがないということによって真実為されるのだ。

そしてこの逃げ場のない双腕の貫手に対してラウラが取る選択肢は二つだ。かわすことができない。ならば素直に受け入れ当たること。そしてもう一つは真っ向から迎え撃ち打ち破ること。

ラウラが取ったのは後者の選択肢だった。否、選択の余地など初めから無かった。それ以外にどうしろと言うのがラウラの弁だ。

迫る二本の貫手、その最中に右腕の動きが僅かに鈍ったのをラウラの左目は見逃さなかった。反射的に両腕を伸ばしその右腕を掴み取る。これで片腕を封じた。あとは身を捻り残る左腕をかわすだけ、そう思った矢先だ。掴まれた一夏の右腕、その先にある手が貫手の形を解いて大きく開いた。そして開かれた腕はそのまま自身を捉えるラウラの腕の片方を掴む。瞬間、ラウラの視界が上下逆さまになった。

捉えた、ということは言い換えれば自分もまた相手に捉えられかねないということだ。そこを突いた一夏の二重の仕込みだった。大きくラウラをレーゲンごと振り回すように投げ、そのまま真下に叩き落そうとする。すぐ目の前を落ちるラウラ、その頭に向けて一夏は膝を思いきり振り上げた。厳密にどの武術に属するというわけではない、強いて言うならば我流の産物と言えるこの技は相手を投げ、その勢いを利用して頭部への蹴りのダメージを増幅させるものだ。

その威力たるや推して知るべし。今度こそ回避も守りも間に合わなかったラウラは落下の勢いが加わった合金の装甲による膝蹴りを脳天に直撃させられる。目の前で火花が散るような光が奔ると共に激痛が頭部全体に広がる。そのまま吹っ飛ばされたラウラは二転三転と地面を転がるものの、それでも歯を食い縛って痛みにこらえながら意識を明確に保ち倒れまいとする。

 

 クリーンヒットを与えた一夏はこのまま流れを一気に自分の方へ持っていこうと間発入れずに追撃を掛ける。スラスターを吹かしながら跳ねるようにラウラへ直進し、今度は右手による熊手を叩きつける。だが、その右手はラウラに届くことなく止まった。いや、止められた。

今度は一夏が狼狽えた。まるで右手だけがその場に縫い付けられたように動かない。もしやと思ってラウラを見る。そこには、歯を食い縛りながら目を見開き、それでもしてやったりと言う笑みを口の端に浮かべたラウラの顔があった。AIC、正しく自分と白式にとって最大の弱点にも等しい枷に捕らわれたことを一夏は悟った。

ラウラにとってもこれは賭けだった。AICがその発動、維持に求める乗り手の思考のリソースはブルー・ティアーズや衝撃砲に比べて非常に大きい。それもその凶悪な性能を考えれば当然の代償と言える。だからこそラウラはそれを可能な限り減らすために腕によるアクションなどの指標も加えていた。

だからこそ、何の身体動作による補助もなく、なおかつ決して平静とは言い難い心理状態でAICを発動するのはこれが実質初めてだった。せめて迫る手だけでも、そのために展開範囲を平素のそれに比べて極小と言える小ささにし、今現在の持てる集中の殆どをつぎ込んだ。その結果が、一か八かの賭けの成功だった。

 レールガンの砲身が動き、再度一夏に狙いを定める。この至近距離、なおかつ動きの大半が封じられた状態、もはや当たらない道理はない。

舐めるな、吼えるような怒号が一夏から発せられる。自由に動く左手が二刀の片割れを掴む。それを一夏は迷うことなくレールガンの砲身に投げ込んだ。刀が飛び込むのとレールガンの発射指示が下ったのは同時だった。

砲身内に大きな異物を取り込んだまま砲弾が放たれる。齎される結果は『暴発』というあまりにも予測に容易いものだった。レールガンの砲身、そして投げ込まれた刀が爆散する。砲身の爆発はレーゲン本体とラウラだけでなくそのすぐ間近に動きを縫いとめられていた一夏すらも襲った。

苦悶の声を上げシールドの残量を大きく削りながら互いに反対方向へと吹き飛ばされていく。そのダメージは決して軽くなく、一夏もラウラも吹き飛ばされそのまま立ち上がることはなく、どちらも一度地面にその身を伏した。

 

「ガァッ!!!」

 

 獣のような唸りと共に先に立ち上がったのは一夏だった。元より素のタフネスという点では彼の方が圧倒的に優位に立っている。その差がここで表れた運びである。

立ち上がった一夏は距離を詰めるよりも先に無事なまま片割れを失った残る一刀をラウラに向かって投げつける。一夏に遅れる形で立ち上がったばかりのラウラはそれをAICで何とか動きを止めることで防ぐ。直後、ラウラの視界に影がさす。刀を投げると共に飛翔していた一夏がラウラの真上まで移動し、そして大きく肘を振りかぶりながら落下してきていた。

上方からの肘の打ち降ろし、肘と膝による打撃を主とするタイの国技ムエタイ、その中でもより威力に優れた古流に属する一手だった。雷神の鉄槌のように振り下ろされる肘に思わず左腕をかざして防ごうとしたラウラだったが、それはどちらかと言えば悪手だった。振り下ろされた肘の一撃は刃を回転駆動させていない回転刃の刀身半ばに当たった。元々そこまでの厚みを持っていない回転刃はこの試合の最中で想定以上の酷使を強いられ、そこへ追い打ちをかけるように強烈な一撃を叩きつけられたのだ。その結果、刀身は中程が砕けて真っ二つに折られた。

技の直撃で落下の勢いを殺された一夏はそのまま身を捻り膝蹴りをラウラの側頭部に叩き込む。今度こそ完全に流れを取ったと確信した。白式に残った最後の武器、白式本来の刃である蒼月の柄を握り、地に足をつけると同時に思いきりラウラの胴を切り上げた。

 火花を散らしながら蒼月の刃がレーゲンのシールドを削る。振り抜いた勢いのまま左手を伸ばしてラウラの頭を鷲掴みにする。そして、攻撃の直撃によって完全に怯んだラウラに一夏は最後の手札を切る。

すさまじい爆音が白式の背から鳴り響くと共に、白式が掴んだレーゲン諸共にその場から掻き消えた、その直後には轟音を響かせながら一夏がラウラをアリーナの隔壁に叩きつけていた。

ISの加速技術、その中でも難易度最高峰にして、かの零落白夜に並んで織斑千冬をIS乗り最強たらしめた絶技『超瞬時加速(オーバード・イグニッション)』の発動だった。過日のセシリア戦において一夏が使用、そして見事に自滅をしたあの大技を再び一夏は使ったのだ。

姉には完全に物にできないなら使うなと言われ、一夏自身それに従うことに(イヤ)は無かった。だがラウラが顕わにした左目、それがきっとラウラが己で秘すと決めた奥の手であろうと悟った一夏は同時に刺激されたのだ。向こうがそう来るのならば、こちらも相応の返礼をすべきと。その想いが、彼にこの技の使用を決意させた。

 未だに加速の制御はできていない。何せ通常の瞬時加速でも軽々対応してのける白式のハイパーセンサーですらまともに周囲の認識ができない程の超加速なのだ。だがその制御できないということを逆手に取る。一切の勢いを殺さぬままに一夏は鷲掴みにしたラウラを壁へと叩きつけた。

激突の衝撃はラウラだけでなく彼女を掴む腕を通して一夏すら侵し抜く。左腕にこれまでのどの試合でも感じなかった強い痛みが走るが、この程度の痛みなど修行で茶飯事と己を鼓舞して耐える。そのまま一夏はラウラを壁に押し付けたまま加速に身を委ね、おろし金のようにレーゲンを削っていく。

完全に勢いがなくなったのは意外に早く壁への激突から数秒程度だった。やられていたラウラは当然として、無理を押していた一夏もまた壁から離れて投げ出されるように宙を舞う。その最中、アリーナのモニターに示されたレーゲンのシールド残量が残り僅かであることを見た一夏は正真正銘最後の一手に打って出る。

 

「らぁっ!」

 

 未だ宙を舞うラウラへと接近、蒼月の一撃を叩きつける。地面へと叩きつけられ土煙を上げながらその上を滑るレーゲンとラウラ。その動きが完全に止まった時、ラウラは起き上がることなくモニターに映るレーゲンのシールド残量は0を示していた。

甲高いブザー音がアリーナに鳴り響く。片やシールドを0にされ、そしてもう片方は未だ戦闘不能状態のまま。もはや勝敗は決していた。

場内アナウンスがラウラ、箒両名の戦闘不能を告げる。そして一夏とシャルロットの勝利を告げ、ここのタッグトーナメント第一試合、専用機の部一回戦第一試合が決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁああああああああああああああああああああ!!!」

 

 そして、観衆の歓声が爆発するよりも前に、一人の少女の悲鳴が響き渡る。苦悶に呻く悲鳴は、さながら続く第二幕の幕上げを告げる号砲のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回のラウラ戦後半、ほとんどセリフがないのは仕様です。
なんというか、目まぐるしく動きながら戦う疾走感とか緊張感とか、そういうのを出したかったんです。ちなみに白式の追加の剣に関しては殆ど思いつきに近かったりします。前々からやってみようとは思っていたのですが、割と一気に「よしやるか」って感じで決めたんで。
まぁ刀云々に限った話じゃないのですが、今回のバトルはかなり勢い任せに書いていましたね、えぇ。そうでもしなきゃ書けませんでしたww
いやぁ、どこぞの格闘漫画とかザンネン連中が頑張るロボアニメとかには本当にインスピレーションを湧かせて頂きました。特にアニメの方、あれヤバイ。マジでヤバイ。めっさ面白い。

 半ばでなんかブツクサ言っていた美咲さん。よく見ると彼女のセリフの端々にネタとかなんか見逃しちゃいけないような単語とかがあります。自分としては彼女も結構重要なポジにしているつもりなので、いずれはちゃんと目立った活躍をさせたいですね。だって今のままじゃ業界のお局が裏でコソコソしてるだけですもの。二十代なのにお局とはこれいかに。
ちなみに、彼女が挙げていた実力者の異名については完全に深夜のテンション任せで作りました。えぇ、そうでもしなきゃ書けない書けないww

 とりあえずは次回でトーナメントに一区切りつけて、それから二話程度で何とかして二巻分にケリをつけたいですね。大学の期末が近いのでちょっと大変ですが、なるべく早く手を付けたいですね。

 ではまた次回に。

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