或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 ヨッシャー、久しぶりに早めに更新できたぞー!
万歳! 万歳! おおぉぉぉお万歳!!!

 いや、いつもよりちょっと量少ないかなと思いつつも、本当に早めに仕上げられたのは実に嬉しいです。書きたかった部分っていうのとか、マイパソ購入で割と自由な時間で書けるようになったからかな?

 とりあえずは、どうぞです。


第三十四話 人の心と機械の心

 箒たちが独断での出撃を行う時刻から遡ること少々、千冬は昼のミーティングでも使った指揮室で小さく唸りながら目頭を抑えた。

 

「織斑先生、少し休憩をされてはいかがですか?」

 

 同じく指揮室に詰めている同僚の言葉に千冬は平気だと首を振る。一夏の処置が終わってからこれまでというもの、千冬はほとんど休憩を取ることなくこの部屋に居た。見つめる先は一点、大型モニターに映された福音だ。

専用機持ちの生徒達にも、おおよそバレてはいるだろうと推測はしているが、指揮室の教員たちは衛星からの監視によって早期に福音の捕捉を行っていた。しかしそれだけだ。捕捉して以降は太平洋上空で滞空して休息状態にある福音をただ監視するだけで追撃などの具体的手段を取れずにいた。

 

「織斑先生の体力は重々承知していますけど、それでも根を詰め過ぎです。何かあったらすぐに呼びますから、部屋の外でコーヒーの一杯でも飲んで休んできてください」

 

 同僚の教員はやや強引に千冬にコーヒーの入ったカップを押し付けると、そのまま部屋の外へ追いやろうとする。周囲の他の教師たちも止めるどころかその教師を支持するような雰囲気であり、結果として千冬の方が折れる結果となった。

 

「ふぅ……」

 

 部屋の外に出た千冬は仕方なく渡されたコーヒーを一口飲む。同時に思わずため息を吐き出し、直後に全身に染みるように広がった重さに予想以上に疲れがたまっていることを悟った。

 

「先輩……」

「ん、真耶か」

 

 背後の襖が開くと同時に真耶が声を掛けてきた。自分も休憩を頂いたと言う真耶は千冬の横に立つと、同じく手に持ったコーヒーを啜る。

 

「先輩、織斑くんは……」

「案じることはない。幸い、後々に響くような大きな怪我も無い。今はただ、寝こけているだけだ。そのうち目を覚ます。お前が気にすることはない、真耶」

 

 普段は互いに先生と呼び合うが、元々二人は公私に渡り親交の深かったIS乗りとしての先輩後輩の立場にある。真耶が先ほど千冬を『先輩』と呼んだということは、どちらかといえば今の会話は私人として行う色が強いという彼女の意思表示だ。それを鋭敏に悟った千冬もまた『真耶』と名前で呼ぶ。

 

「そう、ですよね。織斑くんは強い子ですから」

 

 案じるなと、無事だと千冬は断言するように言ったが、その言葉の中にどこかそうあって欲しいという願いの色を真耶は感じ取っていた。

付き合いが長いからこそ、千冬が一夏に掛けている情を知っている真耶は小さく顔を伏せて痛ましそうに表情を歪める。

 

「それに、ここで私たちがどうこう言って、それであいつが目覚めるわけではない。私たちは、今できることを確実にしなければならない。これで私たちが変なヘマをして、それをあいつが聞きつけてみろ。盛大に笑われるぞ」

「それも、確かに織斑くんらしいですね」

 

 最後の方は軽口めいた調子の千冬の言葉に真耶は苦笑する。心身ともに疲弊しているだろう千冬を気遣って声を掛けたわけだが、いつの間にか逆に自分が緊張を解されていたというある種の本末転倒へのおかしさもあった。

 

「けれど、既に事態が起こってから大分経つのに政府側の動きが中々無いなんて……」

「現状の福音の居場所を考えれば一番近いのは日本だ。だから日本のIS部隊が鎮圧にあたるべきなのだろうが、なにせ相手は米国の新型機だ。向こうがうるさいのだろうよ」

「このままだと民間にも被害がでるかもしれないのに……。いえ、ただでさえ既に生徒に被害が及んでいるのに何で」

 

 腰を上げようとしない為政側への非難を含めた真耶に千冬は言ってやるなと肩を竦める。

 

向こう(政治)には向こうでそれなりの事情があるんだ。それは、時に私たちではどうにもできないレベルの事も含まれている。勿論、現場(コチラ)を考えてくれるならそれはありがたいが、そればかりを求めるわけにもいかんだろう」

「それは、確かにそうですけど……」

「それに、本音を言ってしまえば本国からの派遣、あるいは在日、どちらでも良い。米国、米軍が自分たちで解決するというのであれば私はそれでも一向に構わないと思っている」

「それは、どういうことですか?」

 

 解決することに異論は何もない。そこにどの国が関わるかも、現場からしてみれば取り立てて大きな問題にするようなことではない。だから千冬の言葉にも異を唱えるつもりはない。だが、千冬の口ぶりからはむしろ日本が関わらずに事が終わることを望んでいる節があるように思えた。何故そうなのか、それが真耶には疑問に感じたのだ。

 

「ISに関わる質、量の双方で米国は間違いなく世界全体で見ても上位にある。このあたりは流石と言うべきだし、おそらく然るべき準備を整えれば福音を抑えることもできるだろう。だがそれには相応に時間がかかる。そしてその間に福音が復活し、本土に、例えば東京のような首都圏で暴走活動をするような事態になったら、流石に日本政府とて何もせずにはいられない。そうなると、おそらくは鬼札(ジョーカー)を切ることも辞さないはずだ」

鬼札(ジョーカー)?」

「浅間美咲だよ。確かに米国のIS、IS乗り共に高い質を持つ者は多く居る。だが、それでもやつには及ばんだろうよ。例えばとして現状米国のトップガン、イーリス・コーリングとファング・クエイク。そして目下暴走中の福音と、それに捕らわれているナターシャ・ファイルス、その本来のタッグ。間違いなく世界でも有数の実力者だろうが、それでも二人掛かりで挑んだとして浅間ならば一蹴するだろうよ」

「浅間さんですか。確かに彼女なら」

 

 織斑千冬と浅間美咲、日本国におけるIS乗りの最古参であり今もなおその実力は他を、それこそ各国のトップエースすらも一蹴するほどに圧倒的なレベルで持っている。そしてなまじ実力がほぼ同格であるために千冬と美咲は、互いが互いに抱く感情の良し悪しは別として比較的近しい間柄であり、千冬と親しい真耶もまた美咲のことはそれなりに知っていた。

 

「ですが、浅間さんが出ることの何が問題なんですか? 私もあの人とは何度かお話をしたり、先輩に代わって訓練を見て貰ったりしましたけど、私は尊敬できる素晴らしい先達だと思います。むしろ、このような事態ならば適任のはずでは」

「そうだな。本当に、あいつが心底の善人なら良かったのだろうが、あるいはあの実力だからこそ、なのか。少なくとも私は、奴が出る戦場に安堵は感じないよ。むしろ、ある種の恐ろしさすらある」

 

 その言葉を聞いた瞬間、真耶は我が耳を疑った。今、目の前の人は何と言った? 恐ろしいと?

 

「確かに浅間の実力はもはや異論を挟む余地がない程に信用できる。私と違い、今も現役だ。あるいは、いや、確実に私が現役の頃よりも力を付けているだろう。だが、私の現役時代もそうだが奴はほとんど表立っての活躍をしようとはしなかった」

「それは、確かにそうでしたけど……」

 

 日本を代表するIS乗りは誰か、そう聞けば誰もが迷わず千冬の名を挙げるだろう。それほどまでに、IS黎明期における千冬の活躍はめざましかった。

そしてその千冬と互角の域にあった美咲、本来ならば彼女とて注目を浴びてもなんらおかしくない。だが、IS乗りとしての美咲の知名度は少なくとも業界に関わりの無い一般人にはほぼ確実にゼロ、業界内でも古株や一部の実力者などしか知らず、知っているにしてもそういう人物が居るという話を聞いた程度だろう。

 

「主な理由としては私がIS関係で目立つ事柄の殆どに日本の代表として選出されていたからと言えるだろうが、よくよく考えてみればそれすら浅間にとっては好都合だったのだろうよ。自分で言うのも可笑しい話とは分かっているが、仮に私を光とするならば奴は影。いや、それすら生温い、底なしの闇そのものだ」

「闇、ですか……?」

 

 とても穏やかではない千冬の表現に真耶が眉を顰める。

 

「単刀直入に言おう。奴が出てみろ。かなりの高確率で、福音もパイロットも無事では済まんぞ。パイロットは、最悪死亡も十分にありうる」

「なっ……!?」

 

 『死亡』、あまりに物騒すぎる単語に真耶が絶句する。

 

「そんな、なんで……」

「それが浅間美咲という人間だからだよ。お前が望むなら、奴という人間のことを話すが、どうする?」

「浅間さんの、ことですか」

「正直、聞いてあまり気分の良い話ではないぞ。私としてはむしろ聞かない方を進めるし、こう言っては悪いがとにかくさっきも言った理由で浅間が出るような事態は御免蒙りたいと私が考えているで納得してくれれば良いのだが」

 

 そこで千冬は真耶の顔を真正面から見据える。

 

「どうする、聞くか?」

「……お願いします。少なくとも、私は今でもあの人を尊敬しています。けど、あの人のことはほとんど知りません。だから――」

「分かった。ただし、これはとても公にできる話じゃないからな。聞いたら、自分の内に留めるだけにしておけ」

 

 少し移ろうと言って千冬は人気のない場所を選ぶように歩き出し、真耶もそれに追従する。そして少し歩いた廊下の一角で二人は立ち止まり、千冬は話を再開する。

 

「端的に言って浅間の、奴の本質は修羅のソレだ。己の目的のためなら、己の手で、誰かを傷つけ、時には――殺めることすら厭わない。確かに一見すれば奴はかなりまともではあるし、それもまた奴自身なのだろうが、その下にそうした気性があるのは事実だ」

「修羅……」

「私が表立って活躍し、メディアなどにも顔を出して、自分で言うのも本当に何だが脚光を浴びる陰で、奴は文字通りの裏仕事をしていた」

「裏仕事、ですか……」

 

 その言葉が意味するところを察せないほど真耶は蒙昧ではない。ごくりと唾を飲み込んだ喉を鳴らし、千冬の言葉の続きに耳を傾ける。

 

「当時、日本は色々な意味で目立っていた。まぁ、大半は束の馬鹿にあるわけだが。当の日本政府すら扱いに困り果てていたIS技術だ。黎明期、本当の意味で有益と言える情報の大半は束が独占的に握っていて、日本も他の各国同様に子細な情報など持たず、むしろ教えて貰えるなら教えて欲しい、そんな状態だった。

もちろん時の政府首脳陣もそうした旨を公式に述べていたわけだが、まぁ裏をかいてなんぼの政治だ。余所の国々のお偉方はそうは思わなかったのだろう。やり方の程度に差はあれど、何とかしてこの国から情報を引き抜こうとあれやこれやと手が迫っていたらしい。浅間は、そうした動きに対しての対応をしていた。そしてそれはとても守りと言えない、それでも防衛と言うのであれば触れれば問答無用に屠る超攻勢防御とでも言うべきか。本人は草むしりと言っていたが、国内でそうした国外の者の怪しい動きがあれば即座に飛び――後は想像がつくだろう」

「……」

 

 国家防衛のため美咲がしてきたこと。千冬の言葉からそれがどういうことなのかを察するのはあまりに容易だった。そして理解したからこそ、真耶は戦慄するように表情を強張らせる。

 

「確かにお前が見てきた奴の姿も、さっきも言ったが間違いなく奴の本当の姿なのだろう。事実、身内には寛容な部分もあったし、指導者としても申し分ない手腕を持っている。そうだな、事実は本当に単純。単に、敵対者には容赦をしない、それだけのことなのだろう」

「浅間さんは、それをずっと……?」

「さてな、どれくらいかは私も知らん。その手の稼業は、別にISに乗らずともできることだ。正直、私もあいつに関しては知らんことが多い。ただ、あくまで推測でしかないが、それでも私は確信を持って言える。いまどき大量破壊ができる兵器など珍しくも無い世だが、そうした物に寄らずに己の手で仕留めた数。間違いなく奴は今現在の世界でトップ、あるいはそれに近い位置にいるだろうさ。世間を賑わすような凶悪殺人犯すら、奴と比べたら可愛いものだ」

 

 吐き捨てるような物言いはそのまま千冬が美咲に抱いている感情を表しているようだった。正直なところ、真耶も心中は複雑なものだった。純粋に敬意を抱いていた先達の隠された一面、それも極めて剣呑なものであるということに、どう受け止めたら良いのか図りかねていた。

 

「けど、やはりそれは国家のためとか……」

「あぁ、それは間違いなく事実だろうな。ただ、さっきも言った通りあいつの気質は修羅だ。奴自身の、単純な好みというやつだってあるだろうよ。本人も仕事と好みが合っていただけだと私にはよく言っていたな」

「……」

 

 本人がそれを望んでやっていると言われてしまってはそれ以上真耶には何も言うことができなかった。

 

「まぁ、これもさっき言ったことだが奴も問答無用の非情というわけではない。私は正直関わること自体御免だが、関わるには関わるで今まで通りに接すれば何も問題はないさ」

「その、今まで通りっていうのが一番厄介なんですけどね。ちょっと、先輩を恨みたくなっちゃいましたよ」

「いや、それはすまなかった」

 

 冗談めかして言う真耶に千冬もまた苦笑で返す。

 

「いずれにせよ、この際どこの誰が出張るにしてもだ。落ち着いた結末に終わってくれればそれで良いさ」

 

 そう言って千冬はふぅと軽く息を吐くと背後の壁に背を持たれかけさせる。直後、千冬の懐あたりからそこに入れておいた端末の着信を知らせる小さな電子音が鳴った。

 

「どうした」

 

 通信先が指揮室の同僚であることから状況に何か変化が生じたこと察した千冬は単刀直入に説明を求める。そして相手の話を聞くこと数秒、千冬の表情に緊張が走った。

 

「なんだと!? どういうことだ!? ――分かった、私も山田先生とすぐに向かう。状況の監視と、コンタクトを続けてくれ」

 

 端末の通信を切った千冬は真耶に行くぞとだけ言って指揮室へ足早に戻ろうとする。その背を追いながら真耶は何事かと千冬に聞く。

 

「動ける専用機持ち六人、揃って福音に挑みに行ったらしい。初めは教員の一人が連中が居ないことに気づいて、それからすぐ後に監視中の福音が連中と交戦状態に入った。ご丁寧にこちらとの通信を遮断した上でな」

「そんな!?」

 

 信じられないと言いたげな真耶の表情に千冬も内心で心底同意していた。

 

「確かに、殊勝に押し黙ってるような連中じゃないと分かってはいたが、まさか本当に出るとはな。チッ、こんなことなら連中にも見張りを付けておけばよかったよ」

 

 歩きながら悪態を垂れる千冬だが、言葉の端々に出撃した六人を案じるような色があった。

 

 

 

 

「状況は!?」

 

 指揮室に戻った千冬は襖を開けて部屋に入るなり報告を求める。

 

「依然、専用機持ち六名と福音は交戦中です。ボーデヴィッヒさんが総指揮を、更識さんがそのサポートを行う形になっています。概ねは、昼のミーティングで話された内容と同じ形です」

「そうか」

 

 部屋を出るまでの定位置だった中央のモニター前に、再び腕を組みながら立った千冬は映像から状況の把握をする。

戦況は数の差もあることから専用機持ちチーム側の優位にあった。簪が解析したデータを基にラウラが指示を出し、機体の機動性が高い箒とセシリアが福音を引き付けて攪乱する。

そうして出来た隙に、鈴、シャルロット、簪、ラウラが一気に攻撃を叩き込むというスタンスだ。圧倒しているというわけでもないが、確実に福音の守りを削り一歩一歩と勝利へと歩を進めている。

 

(できれば、このまま何事もなく終われば良いのだが……)

 

 そう願う千冬だが、どうにも釈然としないものも感じていた。明確な根拠があるわけではない。ただ単純に、このままというわけにはいかないのではと勘が告げているような気がするのだ。

何をバカなことをと千冬は思考から振り払うように頭を振る。状況を見てもこちら側の有利に変わりはない。ならば何を心配する必要があるというのか。そう己に言い聞かせる。その直後だった。

 

「織斑先生! 織斑くんの容態に変化が!」

「なに?」

 

 別の教師の言葉に千冬は敢えて平静を保ちながら応じる。これを見て欲しいと自身が担当しているモニターを指す教師の言葉に、千冬はそのモニターを見るために近寄る。

 

「これは、どういう状態だ?」

 

 モニターには幾つもの波線のようなものが表示されている。そしてそのうちの何本かが波が高くなったり低くなったりと大きく動いているのが確認できる。

 

「安全面では心配するようなことはありません。ただ、彼の意識状態が妙な状況になっているんです。間違いなく、今の彼は昏睡状態にあるのですが、脳波から読み取れる彼の意識は覚醒状態にあるんです」

「つまり、寝ているはずなのに頭の方はしっかりと起きている、ということか?」

「おおまかに言えば。本来だったら普通に目覚めていてもおかしくないのにこれは……。どうします?」

「どう、とは」

「彼の生命の安全に問題がないのは事実ですが、この異質な状態を放置しておくのも私としては賛成できません。彼の意識は一種の興奮状態にあります。軽い鎮静剤などの投与などをすべきと思いますが」

 

 そこで千冬は顎に手を当ててしばし考え込む。そして数秒後、千冬は自分の意思を目の前の同僚に告げる。

 

「いや、ここで下手に外部から手を出すのも良くないかもしれん。命に別状が無いなら、今のところは大丈夫だろう。ひとまずは様子見だ。ただし、何かあったら報告をしてくれ」

「分かりました。ではそのように」

 

 頼むぞと言って千冬は再び元の立ち位置に戻る。何も思わないはずがない。だがそれを表に出すことは千冬にはできなかった。

何故ならば千冬はこの指揮室を取り纏める立場にある。そんな自分が、いかに身内のこととはいえども取り乱すわけにはいかないからだ。故にできることは一つだ。

 

(戻って来いよ、一夏)

 

 弟の気丈さが必ずや彼の回復を齎すと信じながら、自分の職務を果たすことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「う、あ……」

 

 最初に感じたのは「妙」としか言えない感覚だった。目が覚めたにしては体が軽いと言うべきか、どれだけ調子の良い目覚めでも避けられない起き抜けのあの体の微妙な重さというかダルさというか、そうしたものが一切感じられないこと。そしてもう一つ、瞼を開くというよりは何も見えなかった状態からぼやけた絵があって、それが段々と鮮明になっていくと言えば伝わるだろうか。このような視界の開け方も寝起きのソレとしてはおかしい。

 

「あん……?」

 

 とりあえずは起きようと上体だけを起こし、周りを見て首を傾げた。周囲の風景、簡潔に言うならば夕方の海岸というべきだろうか。というかそうとしか言えない。見渡しす限りに広がる砂浜と海、地平線と水平線が同時にあるという少なくとも日本ではほぼお目に掛かれないだろう光景だ。

 

「なんだこれ」

 

 覚えている限りでは福音にやられて海に落ちたあたりまでだ。こうしている以上、多分死んではいないのだろう。多分ちゃんと回収され、然るべき処置がされたに違いない。だが、この光景は何だ? 普通に考えれば旅館の中で目覚めるところだ。

 

「まさか、夢とかそういうのか?」

 

 その割には随分とはっきりしている。少なくとも意識の感覚は普通に起きている時と何ら変わらないし、体が何かに触れている感触もしっかりと感じ取れる。

感触と言えば、今自分が座っている地面も変だ。間違いなく砂浜なのだが、何と言うべきか固まっているのだ。ペタペタと触る感触は学園の教室や廊下の床みたいであり、砂は一粒たりとて動かない。

一夏も名前や主要キャラくらいは知っている往年の有名漫画じゃないが、時間を止めたら空間はこうなるのではないかと思わされる。

 

「まさか、なぁ?」

 

 何となく頭に浮かんだ予感に疑いを感じつつも、一夏は立ち上がって海の方へと歩いて行く。歩きながら足元の感触を確かめるが、砂浜を歩いているという気はまるでしない。普通に学校の廊下を歩いて行く感じだ。そこでようやく気付くが、服装も旅館の浴衣でもISスーツでもない、既に着なれた学園の制服だ。これもおかしい。

 

「さてと」

 

 波打ち際まで来て一夏はいよいよ予想を確信へと変えた。海も、まるで動いていない。一歩、海面に歩を進めてみれば足は水に沈まず、砂浜同様に廊下をあるくような感触で水の上に下りる。これではまるで普通の床にトリックアートもかくやと言わんばかりにリアルな海岸を描いた、あるいは映し出したようではないか。

 

「ったく、一体どうなっているんだよ。夢ならさっさと起きろよリアルの俺。次は――っ!」

 

 悪態を独りごちかけて一夏は振り向く。これが夢だとしたら在り得ない、何かが居る気配を感じ取ったからだ。いや、在り得ないと言うのは間違いだろう。何しろ今、その気配を感じ取った時点でそれは在り得ないことではなくなっているのだから。

 

「次は、福音に再び挑むと?」

「だ、誰だよ?」

 

 振り向いた先に居たのは一人の女だった。しかし分かるのはそれだけだ。鎧、というには生身の露出面積が多い気がするが、とにかく鎧と言える物を纏っており、顔もバイザーのような面で覆っているため、見えるのは口元くらい。とにかく素性というものが欠片も探れない女だ。

 

「福音、今度はみんなで倒しに行くの?」

「んなっ!?」

 

 すぐ後ろから聞こえてきた、目の前の騎士らしき女の凛然としたものとは違う、無垢とも言える少女の声に一夏は驚きと共に反応する。

再び振り返ってみれば、そこには白いワンピースを纏い、同じく純白の大きな日除け帽子を被っている少女がすぐ側に居た。

 

(な、なんだこれは?)

 

 近づいてきたならその気配を感じるはずだ。だが先ほどの騎士女と言い、この少女と言い、まるでそこに突然現れたかのように気配が湧いたのだ。それこそ、師クラスの極限レベルの達人ならば己の気配くらい自在に操って同様のことはできるだろうが、この場の女二人には土台無理だろう。

 

「福音に、再び挑むつもりですか?」

 

 再度騎士が問いかけてくる。依然、分からないことばかりの現状に困惑はしているも、別に答えられない問いではない。それに、話せば何かしら分かるのではないかという期待も込めて、一夏は応じることにした。

 

「あぁ。さっきは不覚を打ったからな。やっぱ三人はきつい。今度は全員で出てボコだ」

 

 思い返せば束はよくもまぁ出任せを言ってくれたと思う。何が箒と自分の二人だけで大丈夫だ。もう一人加えた三人でもダメだったのに、二人でどうしろと言うのか。

腹いせに次にあったらスカート捲りか胸を揉むかのどっちかで仕返しをしてやろうと心に決める。とりあえずスカート捲りからのパンツコンボは、既にパンチラ写真で間に合っているので現状は胸が良いかなどと思いつつ、一夏は気になっていることを聞くことにする。

 

「まぁ何で福音のことを知っているかは置いとくとしてだ。お前ら誰だ。そしてここどこだ。ていうかこれ夢か? なら早く起こさせてくれ」

 

 向こうが聞いてきた以上はこちらにも聞く権利がある。単刀直入に問う一夏に、しかし騎士は黙したままだった。

 

「おい――」

「私もあの人も、あなたを知っている」

 

 黙したままの騎士を問い詰めようと声を出しかけた一夏に、背後の少女が代弁するかのように話し出す。

 

「俺を知っている?」

 

 だが自分はこの二人に見覚えが無い。騎士の方は顔が隠れているから仕方ないとして、少女の方の顔を見ようとして一夏は再度首を傾げた。

見えている、間違いなく少女の顔は見えているのだ。遮るものは何もない、確かに視界に映っているはずだ。だが、認識できない。間違いなく見えているはずなのだが、輪郭もパーツの位置も、とにかくどんな顔立ちなのかがさっぱり分からない。

再び困惑に首を傾げる一夏に構わず、少女は語り続ける。

 

「私もあの人も、あなたをずっと傍で見てきた。あなたが戦うところ、全部。ずっと傍で一緒に居た」

「何を言って……」

 

 目の前の少女にしろ、後方の騎士にしろ、こんな奇怪な人物を二人も周囲に侍らせた記憶は無い。自分の戦い、IS学園に入ってからはやたらと増えたが、確かに周囲は女生徒だらけだがこんな色物は見たことが無い。

第一、戦いの最中でもずっと自分の傍にいたなど――

 

(いや、待てよ? まさか……)

 

 ふと、副担任が前に授業で言っていた言葉を思い出す。いわく、ISには心があると。

 

「まさかお前、白式なのか……?」

 

 おそるおそると、常ならばまずしないような慎重さで一夏は少女に問う。そして少女は――小さく頷いた。

 

「馬鹿な、いやいや嘘だろ。機械に心だと? そんなオカルトありえん!」

 

 否定と言うよりは自分に言い聞かせるように一夏はありえないと繰り返す。その姿を少女はじっと見つめている。その表情は誰にも窺い知れない。だが、仮にこの光景を第三者が見ていたとすれば、少女の姿はどこか悲しげなものに見えたと言うだろう。

 

「ですが、私も彼女もここに、自身の心を持ってあります。そして、あなたと話している」

「それは……」

 

 騎士の言葉に一夏は確かにそうだがと呟くが、依然として表情に納得した様子は無い。

 

「だったら、ここは何なんだよ。あれか? ロボットものによくあるなんか心だけで会話してるとかそういう空間かよ。オカルトなフレームが共振してたりオカルトな粒子がばら撒かれたりしているのか?」

「言葉の意味は分かりかねますが、ここがあなたと私たちが意思疎通を行うための空間、という認識に間違いはありません。そして、私たちがあなたを知る、そのことに疑問を持つのでしたら、その証拠をお見せしましょう」

 

 直後、映し出される光景が一気に切り替わった。四方に異なる映像が次々と映し出されていく。床、壁、天井を全てモニターで作った部屋の中に居るイメージというのが分かりやすい表現だろうか。

そして映し出されていく映像には全て白式を纏う一夏、あるいはその一夏の視点で見たとおぼしき光景が映し出されている。試合らしきものからただの練習風景まで、どれも見覚えのあるものばかりだった。

 

「馬鹿な……こんなことが……」

 

 ここまでされては信じるしかない。そのことを突きつけられて一夏は呆然とする。そして目を閉じると、ゆっくりとした深呼吸を数度する。その後に再び目が開かれる。その瞳から動揺は既に消え失せ、いつも通りの平静を湛えていた。

 

「オーケー、落ち着いた。ここまでされたらもう仕方ないな。良いぜ、ひとまずはそういうことにしておくとしよう」

 

 状況を肯定するという旨の一夏の言葉に騎士も少女もどこか満足そうに頷く。

 

「でだ。さっさと本題に入るつもりだったけど、少し予定変更だ。なんで俺はこんな所に居る。いや、お前らの言葉から察するに、今ここにあるのは俺の意識だけなんだろ。だったら、なんで俺の意識がここに飛ばされた」

「私たちは確かに心を持ちます。ですが、私たちの持つ世界はとても狭い。私たちは私たちの世界の中にしか居られず、できるのは同胞の世界と意思を通じあうことだけ」

 

 抽象的な表現に首を傾げる一夏に、騎士は捕捉をするように説明を続ける。

 

「私たちの世界はあなた方がコアと呼ぶもの、そして同じくコアネットワークと呼ばれるものによって、私たちは同胞と繋がる」

「あぁ、そゆこと……」

 

 つまりここは、本当に信じ難くはあるが、白式の中ということだろう。そこに何の因果か一夏は意識を飛ばされているというわけだ。

 

「いやタンマ。じゃあなんでお前らは二人で居るんだよ。さっきの話ぶりだと、コア一つに一人になるだろ。それともお前らはあれか? 二人で一つのISとかふたりはISとかそんなニチアサのノリなのか?」

「……」

 

 今度の問いには騎士も少女も答えない。そのことに釈然としないものは感じるものの、そこまで重要なことではないとも思ったためにそれ以上を追及しようとはしなかった。

 

「じゃあ質問を変えよう。俺がここにいる。このことは、他の奴にもありうることなのか?」

 

 コアの持つ意識と乗り手の意識がコンタクトを取る。少なくとも一夏の記憶にある限りではそのような話は聞いたことがない。

仮にあったとしたら、確実に何らかの事例として教科書などに載っていてもおかしくないはずだ。今もなお、世界中の科学者技術者がISの解明に挑んでいるのだ。そんな中にあってコアの意識との接触など、その解明を進める足掛かりになるだとかで誰もが飛びついておかしくない。

だがそのような話を聞いたことがないということは、他の例がない、あるいはあっても世間に認知されないほどに些細なレベルでしか起きていないということになるのではないか。だとすれば、自分は男ながらのIS起動以外にもレアケースの一つになったということになるのではないか。

 

「数は少ないですが、あります。ですが、それは人々に認知されなかった。接触の、その多くは微かなものであり、誰もが己の夢物語としかしなかった」

「……」

 

 騎士の言葉を一夏は黙って聞き、続きを待つ。

 

「今のあなたと同じ、明確にして確固たる(エニシ)を持てたのは二人のみ。しかし、そのどちらも形は歪。一人である我らの母は、ただその言葉を伝えるだけ」

「母って……」

 

 ISが母と呼ぶ。IS製造に携わる技術者はあちこちに多くいるが、このコアを、仮に目の前の存在がISの根幹であるその人格としたら、それを生み出せるのはただ一人しかいない。即ち篠ノ之束だ。

一夏の推測を肯定するように騎士は頷き、言葉を続ける。

 

「そしてもう一人。ですが、私はその存在を語りたくない」

「は?」

「私は、あの存在が恐ろしい。私だけではない。我が同胞は皆須らくあの存在を恐れるでしょう。私たちにとってあの存在は闇の塊としか見えなかった。そして、それに触れてしまった同胞は魅入られ、呑まれた」

 

 語る口調こそ変わらず静かなものだったが、一夏はそこにこれまでの会話で初めて騎士の感情を見たような気がした。それは言葉通りの恐怖だ。見れば一夏の傍らに立つ少女も同じように、騎士が語る存在を思い出してか恐怖しているような様子が伺える。

 

「その闇とやらのことは――あぁ良い。話したくないってツラだな。なら良いよ。なら本題入るだけだ。早いところ、俺を――起こしてくれで良いのかな? とにかく体のほうが大丈夫ならだけど、動かさせてくれよ。俺は、やらなきゃならないことがあるんだ。お前が白式だっていうなら分かるだろ? 俺は、福音を倒さなきゃならない」

「……」

 

 頼みかける一夏に騎士は何も答えない。一番肝心なことなのにまるで無反応な騎士に一夏は眉を潜める。そして文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけた瞬間、周囲の景色が再び変わり、今度は四方が同じ映像によって統一された。

 

「なっ!?」

 

 周囲に広がる映像を見た瞬間、一夏は絶句した。そこに映し出されていたのは夜空の中を自在に舞う福音と、それを囲むようにして攻撃を加える見知ったISの集団、IS学園一年の専用機とその乗り手達が移っていたのだ。

 

「おい! これはどういうことだ! 答えろ!」

 

 半ば怒声じみた声で騎士に問うも、騎士は何も答えない。チィと苛立たしげに舌打ちをして一夏は再び周囲の映像に目をやる。

 

「これは、まさかリアルタイムなのか? なんであいつらが……いやでも、やりそうだし、俺も気持ちスゲー分かるし……えぇい!!」

 

 痺れを切らしたように一夏は大股で歩きだす。そこでようやく騎士が一夏に声をかける。

 

「何をするつもりですか」

「分かり切ったことを聞くな! 俺も出るんだよ! あいつらが何で福音と戦ってるのか、何となく想像できる部分もあるけど、このまま指咥えてみてるなんて俺にはできん!」

「それが、あなたの意志ですか」

「あぁそうだ」

 

 歩き、騎士に近づいた一夏はその肩を掴むと退けと言って押しのける。特に抵抗をしなかった騎士の体はあっさりとどかされ、一夏はそのまま進もうとする。

だが、騎士を押しのけて歩き、程なくして背後から掛けられた声に一夏はその足を止めざるを得なかった。

 

「ならば私はこのまま貴方を目覚めさせるわけにはいきません」

「なに?」

 

 歩を止め、一夏は騎士の方へと向き直る。

 

「どういう意味だ」

「言葉通りの意味です。あなたを、このまま目覚めさせるわけにはいかない。そして戦場へと向かわせるわけにはいかない」

「はっ、何を根拠に、何の権利があって」

「あなたは同じだ」

「同じ?」

「かつて同胞を呑みこんだ闇と。いいえ、まだ違う。けれど私は感じる。あなたは今、それに近くある。それを、見過ごせない。他の同胞たちのためにも、それが私だから」

 

 それではまるで自分が件の危険人物と同類だと言われているようだと感じ、一夏は不機嫌そうに眉の皺を深める。

 

「ですが、それ以上にこれはあなたのためでもある」

「俺のため?」

 

 予想外の言葉に眉根に寄せた皺はそのままながら、一夏はどういうことかを問う。

 

「このままあなたを戦いの場へは赴かせられない。共に在ったからこそ分かるのです。今のままの貴方を、このまま進めてはいけないと」

「何を根拠に……と言っても多分答えちゃくれないよな」

 

 肯定するように騎士は沈黙で返す。

 

「気遣いは痛み入るけどね、けど俺はこのままじっとしてるなんて無理なんだよ。俺をここに押しとどめたいって言うなら、腕づくでやってみろ」

「……やはり、そこへ達しますか」

 

 半ば分かっていたと言うような声だった。

 

「言葉で通じぬならば、力で以て。私は貴方の敵ではない。そうは在りたくない。ですが、それが真実貴方のためとなるならば、私はそうしましょう」

 

 そう語る騎士の手にはいつの間にか一振りの長剣が握られていた。侍の刀とは違う、騎士のその姿に相応しい西洋の長剣だ。強いて変わった点を挙げるとすれば、少しばかり刀身の幅が広いことくらいか。剣は、まるで初めから騎士の手に握られていたかのように自然に存在していた。

 

「……」

 

 その光景を一夏は黙って見ていた。まるでフィルムに突然剣を持った騎士のコマが差し込まれたかのように、いつの間にかその手に剣を持っていた。

だが、ここは現実とは異なる一種の異空間。まさかこんな漫画やゲームのような展開に出くわすなど、ISを動かした以上に想像をしていなかったが、それでも今という瞬間は一夏にとっての現実としてある。

そしてここが、仮に心だの意識だの、そういう世界だと言うのならば、その在り様を決めるのは当事者の意思なのだろう。だとしたらやることは簡単だ。

 

 気づけば一夏の手にも鞘に収まった一振りの刀が握られていた。別に何てことはない。ただ、刀を持った自分をイメージしただけだ。それだけでコレなのだから、ますますもってオカルト染みているなと思わず苦笑する。

だが、すぐに眼光を鋭くし騎士を睨む。心は既に固まっている。ここ数か月で慣れた、戦う時の心だ。そういう意味ではIS学園での生活は本当に武の錬磨に役立っていると言える。

 静かに刀を鞘から抜き放ち、空いた鞘は静かに下へ置く。そして刀を構える。騎士もまた、静かに剣を構えた。

 

「気遣いは有難く思うよ。けど、口を出すな」

「不愉快は百も承知です。ですが、それが貴方のためとなるならば、私は敢えてこの道を選びましょう」

 

 それ以上言葉は不要。ここに、誰も知ることのない決闘が静かにその幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏……?」

 

 福音との交戦の最中、箒は不意にその名前を呟いていた。

状況は素人目に見ても専用機持ちチームの優位にあった。昼の戦闘での反省を活かし、箒はエネルギー消費の多い二刀での攻撃を控え、機動力を活かしての福音の攪乱を主に行った。

篠ノ之束謹製の新型の性能に恥じない機動性は、福音のソレと比較しても高いものであり、なまじ攻撃に割く思考のリソースを充てることで昼間以上の機動力を紅椿は発揮していた。

これが功をそしたお蔭で、福音の攻撃の厄介な一面であった面制圧性も攻撃が散ることで薄れ、結果としてアタッカーが落ち着いて攻撃を加えることができた。

 そしてたった今、不利を悟った福音はこの状況を脱しようと高速で戦域からの離脱を試み始めたのだ。

 

「箒! 追いかけるわよ!」

 

 手傷を負っていようとも福音の機動性が高いものであることに変わりはない。逃げに徹され見失ってはまた面倒なことになる。

すぐに後を追いかけようと先陣を切ったセシリアに続いて動き出した鈴が箒に呼びかける。それを受けて箒もまたすぐに動き出し、鈴と並走する形で福音を追い始めた。

 

「どうしたのよ、箒。なんか気になることでもあった?」

「いや、その……」

「戦闘のことなら平気よ。むしろあんたは十分に貢献してるわ。あんたがビュンビュン飛び回ってるおかげで、福音もだいぶ攪乱できたもの」

「あ、ありがとう。いや、そういうことじゃないんだ。凰、お前は感じなかったのか?」

「何をよ」

 

 となればこれは自分だけなのか。あるいは気のせいなのではないか。そう思いながらも箒は率直に言う。

 

「私自身、なんと言えば良いのか分からない。ただ、何かを感じたとしか言いようがないのだが、それを感じた時になぜか一夏のことが、な」

「ふぅん、あたしはぁ……特に何も感じなかったわねぇ」

「そうか……気のせいだったのかな」

「それとも、もしかしたら一夏が寝ながらあんたのことを考えていたとか。箒、案外かなりで脈アリなんじゃないの?」

「か、からかわないでくれ!」

「いやぁ、あたしは結構真面目に言ってるんだけどなぁ」

 

 だが、しかし、とやや慌てる箒に鈴は面白そうにカラカラと笑う。そんな二人に簪から通信でもうちょっと気を引き締めた方が良いという旨の言葉が伝えられ、それを受けた二人は揃って顔を見合わせて苦笑をすると、共に福音の向かった方へ真剣な眼差しを向ける。

 

「凰」

「なに?」

「一夏、無事だと良いな」

「心配いらないわよ。年中健康優良児なのがあいつの取り柄の一つみたいなもんよ。学校の欠席なんて、基本サボりだけだし」

「それもそうか」

「そうよ」

 

 そう言葉を交わし、二人は視線を前方へまっすぐ向けたまま顔に笑みを浮かべる。

 

「凰、勝つぞ」

「当り前よ」

 

 そして二機のISは今度こそ敵を仕留めるために夜空を猛スピードで駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、こうなってしまった……」

 

 騎士の声には深い悔恨があった。突き出された手に握られた剣は、同様にまっすぐ前方に突き出されている。

騎士の顔は面に隠れて見えない。だが、露わになっているとしたら間違いなく痛ましげなものをしていることは間違いなかった。

騎士がそのような表情を浮かべる原因、それは騎士の視線の先にある。

 

「がっ……はっ……」

 

 そこには呆然とした表情を浮かべた一夏の姿があった。目は限界まで見開かれ、半開きになった口は周囲の筋肉をヒクヒクと痙攣させている。

馬鹿な、ありえない、こんなことあるはずがない。一夏の思考は否定の言葉で埋め尽くされていた。絶対にこうなることはないはずだった。その確信があった。だというのに、この現状はどういうことだ。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 今の状況から見れば彼にとって有り得ないことがもう一つ。何も感じないのだ。痛みも、異物感も、あって然るべきはずの感覚がない。

いや、感じるものはある。それは喪失感。本来ならば痛みがあるはずだろう場所、そこから流れ出るべき生命の雫すらも流れない代わりに、自身という意識が流れ出そうになる。

 

「あぁ……」

 

 必死に動こうとするもできない。それどころか、目覚めた時の流れを逆再生するかのように、徐々に視界が暗くなっていく。

既に全身から力は抜け落ち、両腕はダラリと垂れ下がっている。だが、彼の体が地に崩れ落ちることはなかった。その原因は、いま彼の身に起きている全ての原因でもある。

 

「ち……くし……」

 

 言い切れなかったその言葉を最後に、ついに頭もダラリと垂れる。そこに至るまでの全てを見た騎士は、ただただこうなってしまったことを嘆く。

騎士が向ける視線の先には一夏の胸がある。そこには騎士が突き出した剣が深々と突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 いや本当にね、iPhone5s買ったりマイパソ買ったりで。他にも戦神館買ったりでもっと時間かかると思ったらそうでもなかった!
ところで、今iPhoneは価格競争凄いですね。自分は家族四人で一斉にソフトバンクに乗り換えで買ったのですが、買った店がPCメインのショップでして。その店で使えるPCの割引券三万円分を家族四人分貰えました。iPhoneの方もかなり割引効いてますし。
まぁその割引券のおかげで、マイパソを買ってもらえたと。富士通の割と新しいやつです。今回の話もそのPCから更新してます。

 さて、本題。
今回は千冬と一夏メインでしたね。
千冬が真耶ちゃんに美咲さんヤベーよマジパネェ的なことを話し、一夏は一夏でなんか夢空間で中二病的シーンなタイム。いやね、かなり前々から想定していた場面なのですが、この時期に書いているとどうにも、「アレ? なんかこれ戦神館っぽくね?」と思ったり。いや、意識したつもりはないのですが、まぁ時期が被っちゃったということで。
 さて、三巻といえば福音戦が目玉の一つではありますが、ぶっちゃけ結構端折ります。もう二次移行まではダイジェストです。そっからみんなピンチが本番ですよ。
箒ちゃんには中の人ネタじゃあないけど、某ZESSYOU的な感じでテンションアップと言いますか、盛り上がってウオー!な感じで頑張って頂きましょう。
 なお、最後の方で見事にぶっ刺されてる一夏ですが、何も心配はいりません。
どうせ復活します。主役なんですから。えぇ、誰だって思うでしょう。「どうせすぐに復活するんだろコイツって感じで」。えぇそうですその通りです。ですからふーんとスナックでも齧りながら見ちゃってください。
 あぁちなみに、一夏パートで騎士がビビってた闇云々は、まぁ話の流れでお分かりになると思います。そういう風に意識して書いたつもりですが、伝わると良いなぁ。
ちなみに騎士と少女はアニメにもちょびっと出てきたアイツラです。

 とりあえず今回はこのくらいで。
割と本心ぶっちゃけますとね、感想とか一杯来たら、それはとっても嬉しいことかなって。
などと、テメーそんなウスノロ更新がどの口でと言われるようなことを思ってますが、ご意見ご感想はどんどんどうぞ。

 それでは。

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