或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 久方ぶりに早く仕上がりましたよ。なんか筆が乗ったので。
つーわけで今度こそ修行編はお終いです。何だかんだで六話分使いましたわ。まぁでもこんなものかなと思っていたり。

 後書きにて本作の今後の予定について軽く触れますのでよろしくです。


第五十二話:夏休み小話集12 修行6

「夏休み修行編 Epilogue ~切り開いていくこれから~」

 

 

 

「んが?」

 

 そんな間抜けな声を漏らしながら目が覚めた。いつの間にか日は高く上っている。目が覚め、体を起こしてキョロキョロと周囲を確認して自分がいる場所が師の母屋の縁側だと一夏は認識する。

 

「起きたか」

「あ、師匠」

 

 いつの間にか背後に宗一郎が立っている。服装も普段着であり、昨夜のスーツは既に片づけてあるのだろう。

 

「とりあえず道場に来い」

 

 それだけ言うと宗一郎は踵を返して一人でさっさと先に向かってしまう。依然として一夏はいまいち状況を飲み込めてはいないが、それでも言われた通りにして師の後を追って道場に向かった。

 

「まぁ座れ。あぁ、胡坐でも良い。楽にしろ」

「はぁ」

 

 何だかんだで固い床の上に正座も正直言って辛いので、素直に甘えて胡坐で座る。宗一郎もまた同じように胡坐で、一夏に向かい合う様にして座った。

 

「さて、結論だけ言おうか。――合格だ。お前の意思、その剣よりしかと伝わった。よってお前の望み通り、今後も俺の技の伝授を続けよう」

「あ、はい」

 

 正直、まだ若干混乱しているところもあるので合格と言われてもただ頷くしかできなかった。

 

「ただし、覚悟はしておけよ? その道、決して生温くはないぞ。あるいは、修羅道の輪廻を彷徨い続けることになる可能性だって大いに在り得る。それは、お前が想像するよりも遥かに険しいものだ」

「確かに、そうかもしれません。正直、自分でもまだ甘いんじゃないかって思うところはあります。けど、それでもオレは――」

「あぁ、分かっている。往くと言うのだろう? ならば止めん。だがな、お前は俺の弟子で、俺はお前の師だ。師は弟子を導くと同時に支えるもの。少なくとも現時点で、今後ともに俺はお前の味方であることは固いわけだ。そこだけは忘れるな」

 

 そう言う宗一郎の表情には確かな暖かみがあった。それを見て一夏の顔にも自然と笑顔が浮かぶ。

 

「さて、これでこの夏の修行は一段落となったわけだが、少し待て。渡すものがある」

 

 そう言って立ち上がった宗一郎は道場の奥の方、床の間に向けて歩いていく。そこでようやく一夏は気付いたのだが、床の間には普段は置いていない、掛台に置かれた二振りの鞘に込められた日本刀がある。柄や鞘の拵えは見覚えのあるものではない。少なくとも一夏の記憶に照らし合わせれば初めて見るものだ。そしてどちらもほぼ同じ長さを持っている。

掛台に置かれた二振りの内の一振りを手に取ると、宗一郎は再び一夏の下へと戻ってくる。そして手にした刀を一夏に向けて差し出した。

 

「これをお前にやろう。今回の修行、お前は一つ大きな段階を乗り越えた。その証だ」

「……」

 

 先ほどまでの頭の混乱はとうに彼方へと吹き飛んでいた。ゆっくりと宗一郎の手から刀を受け取った一夏はじっとそれを見つめる。依然、刀身は鞘に収まったままだ。だというのに、どうにも異様な気配をこの刀からは感じる。

 

 チャキ――

 

 ゆっくりと鯉口を切って刀身を露わにする。全体像を現した刀身を一夏はじっくりと見る。典型的な打刀、鎬造りで先反り。その反りが浅く切っ先もつまっている。作風としては兼定の系譜が一番近いだろうか。とは言え、兼定の作風も幅が広いために一概には言い切れないが。

しかし有名どころで言えば幕末期の会津(現在の福島県西部から栃木、新潟の一部)における兼定、かの新撰組副長の土方歳三が愛用したとされる和泉守兼定に近い。時節ゆえに実戦に向く質実剛健な刀が好まれたと言う。なるほど、確かにそう見れば刀本来の役割として扱われるのに十分であろう。現代の日本刀、求められる要件として特に比重が大きいだろう美術品としての価値は一夏の目からしても決して高いとは言えない。

だが純粋に武器として見たのであれば、これほどのものはないと言える。何と形容すべきだろうか、あえて言うならば執念。単純に強いという言葉では表現しきれない製作者の念が全体から伝わってくる。"何が何でも斬る"、そんな刀の本質を徹底的に、あるいは魂か人生そのものを込めたと言われても納得できるほどだ。たとえ審美眼をろくに養っていないずぶの素人が見たとしても他の刀とは違うということだけは分かるに違いない。

 改めて刀身をじっくりと見る。刃紋は有名な村正と通じる直刃で樋(刀身の峰の方に掘られた溝)も一本だけ掘られた棒樋と飾り気は皆無だ。「見た目や飾り? それより切れ味だろJK」と言いたげな作者の念はこの辺からも伝わってくる。

そして問題は刃だ。あいにく一夏も人並み以上には刀に関しては見る目を持っていると自負するが、本職の鑑定家などには遠く及ばないだろうし、とにかく色々な点で未熟と言えるところも多いと自負している。だがそれでも断言できるのは、この刃はこれまで見てきた刀の中で最上の物、そして最高の切れ味のものということだ。ただ見ている、それだけで意識が引き込まれそうになる妖しい鈍色の輝きを放っている。

セオリー通りの手順で目釘を抜いて(なかご)を確認する。彫ってあるのは作成した年月日、数年前の日付だけだ。この刀を打った刀匠の名も何も刻まれてはいない。(なかご)を柄に戻して元の体裁を整えると改めて刃を見る。現代の作だというのに博物館で見る室町期や戦国期などから伝わる名刀にも勝るとも劣らない存在感、刃から発せられる噛み砕いて言えば"ヤバさ"、この刀が尋常のものではないことがよく分かる。というか不味い。この刃の吸い込まれそうな妖しさ、意識が引き込まれていくと同時に胸の奥からフツフツと良くない衝動が沸いて――

 

「っはぁっ!?」

 

 慌てて鞘に納める。危ないところだった。若干疲れが残っているのもあったからだろうが、刀を手にしてこんな状態になったのは初めてだ。

 

「師匠、これ何ですか? 作られたのは数年前、現代刀にしてもおかしいっすよ。これ、魔剣だの妖刀だのと謳っても全然通じますよ?」

「だろうなぁ。何せその刀、むしろそういう風に作られた節があるからな」

 

 何てこと無いように宗一郎は顎を撫でながら一夏の言葉に頷く。そして再び立ち上がると奥の床の間に置かれたままのもう一本を手に取り戻ってくる。

 

「俺が今持っている(コイツ)とお前が今持っている(ソイツ)は同じ刀匠の手によるものだ。兄弟刀、真打と影打ち、どちらも違うな。二本とも殆ど同一の物として打たれた。強いて言うならば双子刀とでも言ったところか」

「なるほど。で、こいつは一体どこのどなたがどういう経緯で打った代物なんですか? オレがこんなこと言うのも何か変な感じしますけど、物騒にもほどがありますよ」

「……そいつを打った刀匠はとうに墓の下だ。俺の師匠の代から付き合いがあった偏屈爺そのものな人物だったが、その腕前だけは超一級のものだった。ただ最高の刀を打たんとあらゆる技法を吸収していてな。それができたのも技術が廃れつつある現代故の皮肉か。とにかく、存命の間は美術品として打たせても武器として打たせても並ぶ者無しと言えただろう。もっとも、さっきも言ったようにかなりの偏屈だったから表には全然出やしなかったがな」

「そんな人がいるんですか」

 

 半信半疑な一夏に宗一郎は世の中などそういうものだと言う。表舞台で華々しく活躍などせず知名度などロクにない、それでも一級品の腕前を持つ。そんなのがいるなどさして珍しくも無いと。

 

「この二振りはその刀匠が最後に仕上げた遺作とも言うべき刀だ。見ての通り、銘も無ければ飾りらしい飾り気も無い。ただ斬ることのみを考えた人斬り包丁。何故俺に託そうと思ったのか、真意はあの世に行って直接本人にでも聞かなければ分からんからどう見積もっても数十年は軽くかかる。ただ、己の全てを一念と共に込めたとは言っていたな」

「その一念っていうのが……」

「お前も察しているのだろう? 刀の本質、武器としてのソレだ。その至高を、とな」

「その一つをオレに……」

 

 改めて一夏は手にした刀に目を落とす。一つの分野において文字通り技術を極めた人物がその人生の全てを強烈な一念と共に注ぎ込んで作り上げた刀。それを改めて聞かされて一夏は手に感じる重さをより鮮明に感じたような気がする。単純な物体の質量としての重さだけではない。込められた目には見えないものの重さだ。こうして手にする分には容易い。だが確かに込められているだろう重みは持っている己の心に強く働きかけてくる。

 

「師匠、何故オレにこれを?」

 

 もちろんこれほどの業物を貰えたことは素直に嬉しい。純粋に武器としての性能で見れば、江戸時代に定められた刀の格付け、その最高である最上大業物にも劣らないことは間違いない。だからこその疑問だ。これほどのもの、むしろもっと後の方が、例えば自分が免許皆伝、あるいはその先の極伝に到達した時でも良いのではないか? 言葉と共に投げ掛けた視線でそう訴える。

 

「お前の考えも分からんでもないし、他ならぬ俺自身もそこには一理あると思っている。が、それでも今だと思ったまでだ」

「それは、何故です?」

「お前もとうに分かっていると思うが、その刀の物騒さは折り紙付きだ。少しでも扱いを誤ればあっと言う間に大惨事だな。それは一夏、お前自身もそうだ」

「オレ、ですか?」

「自覚していないとは言わせんぞ。お前の五体に刻み込まれた技術とお前自身の身体能力。それらが組み合わさり生まれるお前の技はとうに凶器の域に達している。扱いを誤れば容易く他人を傷つけられる、その気になれば羽虫を潰すかのごとく死に追いやれる、な」

「……」

 

 それは言われずとも重々承知していることだ。やや精神的にも荒れている節のあった中学時代の一時期、それとなく不良などとの喧嘩にもつれ込むようにしては幾度となく叩きのめしてきた。あの時からできる限りの自制を働かしても相手は病院沙汰レベルの怪我、なんてことはしょっちゅうだったのだ。今の一夏はその頃よりも更に上の域にある。その自分が一度暴走すれば……

 

「その刀はお前の現身(うつしみ)だと思え。あるいはお前自身を映す鏡とでも言えば良いか。託した以上はお前のものだ。如何に扱うかは全てお前に委ねよう。振るうも、抜かずに封じるもお前次第。そしてその刀を御することは、他でもないお前がお前自身を御することになる」

「オレが、オレを……」

「どれだけ武器として性能が高かろうと所詮は刀の一本だ。仮にずぶの素人に持たせたとして、お前ならば素手でも軽く封じ込めるだろう。腕の立つ者が振るってこその武器だ。それ単体が為せることなどたかが知れている。一夏、お前がこの先手中に収める力はその刀一本など遥かに凌駕するものだ。それを完全に己の物として制するのならば、そんな刃物一つくらいは御せねば話にならんぞ」

「ハハッ、こりゃ手厳しい。でも、その通りですね……」

 

 師の言葉に静かに耳を傾け、湧き上がってきたのはある種の挑戦心だ。面白い、望むところだ。そんな想いが刀を持つ手に力を込めさせる。

 

「さて、今後への課題も出したところでこの夏の修行も終いと言うわけだ」

「ご指導、ありがとうございました」

 

 修行の終わりを告げる宗一郎に一夏は居住まいを正すと深く頭を下げて謝意を告げる。そして一夏が頭を上げたのを見計らって宗一郎は言葉を続ける。

 

「今後のお前への技の伝授だが、それは追って然るべき資料をお前に送っておこう。それを元に励むと良い」

「はい」

「それともう一つ、お前には与えておくものがある。とは言っても何かしらの物というわけではないのだがな」

 

 どういうことかと視線で問うてくる一夏。その目を見据える宗一郎の表情はいつの間にかどこか険しさを宿したものになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ改めて、お世話になりました。また、次に来れる時に来ます」

「あぁ、気をつけてな。それと、次に会う時までに教えておく技はものにしておけよ」

「勿論、そのつもりです」

 

 そんな風に言葉を交わして支度を整えた一夏が立ち去っていく。その背を見送り、見えなくなったところで宗一郎は一つ息を吐く。

 

「はぁ……」

 

 何かを考えるように宗一郎は玄関で佇みながら目を閉じている。そして――

 

「ぬぅ……」

 

 小さく呻くと僅かに膝を折っていた。

 

「弟子の前とは言え、随分と我慢をなさっていたようで」

 

 不意に若い女の声が宗一郎に掛けられた。

 

「ふん、この程度ならば大したことは無い。まぁ、まるで効いていないというわけでも無いがな」

「相変わらずですね、兄さんは」

 

 玄関の脇、陰になって少なくとも玄関と真正面に向き合っては分からない位置に浅間美咲は居た。

 

「それでどうだ。昨日から盗み見をしていた感想は」

「あら、お気づきでしたか?」

「当然だ。お前、途中から混ざりたくてウズウズしていただろう。上手く気を隠してはいたが、俺の目を誤魔化すにはまだ足りなかったな」

「あら手厳しい。そうですね、その辺りのお話もしたくはありますが、まずは手当のほうからしましょうか。上がらせて貰っても?」

「……好きにしろ」

 

 いつの間にか玄関前まで移動していた美咲にそれだけ言うと、宗一郎は背を向けてさっさと家の中に戻っていく。その後を追ってお邪魔しますと一言挨拶をしてから美咲も続く。

 

 

 

 

 

「はい、これでお終いです」

「ん」

 

 手当の終わった宗一郎の上半身には左肩から腰の右部分にかけて包帯を巻いてある。その下には見る者誰しもが思わず表情を歪めるだろう痛々しい青あざがあり、それはちょうど袈裟懸けの一撃を受けた跡のような形になっていた。

 

「事の次第は全て見届けましたが、やはりあの一太刀は……」

「あぁ、察している通りだ。出来得るように仕込んできたつもりだったが、ここまで早いとはな。もう二年、いや、早くて一年と考えていたが」

「まぁあのぐらいの年頃は急激な成長を見せるなんてことはザラですから。きっとそういう類なんでしょう」

 

 治療道具を片づけながら意見を述べる美咲に宗一郎はニヒルに口元を曲げながら返す。

 

「そういうものか。何しろ俺はいつでも急成長だったからな。いまいちその辺が分からん」

「相変わらず大した自信ですねぇ」

 

 呆れるように言う美咲だが、実際否定しきれない部分も多いのが始末に負えない。確かに彼女が昨夜に直接見届けた一夏の技量、それを為す潜在能力は破格のものだ。だがそれも、この兄弟子の前にかかっては劣るものとなってしまう。

 

「とは言え、あの時の場合は他の技も重ね掛けをしていたために若干荒い部分もありましたが。相反する気の強制的な融合による地力の増強、心身と刀の三位一体、それにインパクトの瞬間の気の炸裂による強引な防御破り。そのあざは最後の影響が大きいですね」

「……あの瞬間、当たることは避けられなかった。そしてあの状態で直撃を何もせずに受けるにはリスクが高すぎた。故にあの瞬間だけは全力で防御に回った。一瞬遅れた故にこうなったが、でなければもう少し軽くは済んだな」

「改めて受ける側に回ると脅威を実感しますね、"奥伝・時戒(じかい)ノ太刀"」

 

 前の夜、たった一合いの一夏と宗一郎の交差は宗一郎に先んじて一夏の放った一撃が宗一郎の胴を打ったという結果に終わった。勿論、加減はせずとも宗一郎が本来の力を大きく抑えてのことであり、仮に宗一郎が本当に全力ならばそもそも何かをしようとするよりも早く一夏は倒れていた。

だが例え力を抑えていようとも、宗一郎という男の振るう技が脅威であるのは紛れも無い事実である。それに一夏が競り勝った要因、色々な重なりこそあるものの最も大きなものを挙げるとしたら技そのものだろう。それこそが美咲が語った技の名。

 

 時戒ノ太刀 ――

 

 それこそが一夏が宗一郎に向けて無意識の内に放った一撃。一夏、宗一郎、そして美咲。この三人の修める剣の積み重ねは幾つかの無双とも言うべき技に行き着く。そしてこの時戒ノ太刀もそんな極みの一つだ。そして極めた者が振るうこの技を前にすれば最後、相手に防ぐ手立ては無い。その名が示す通り、この技は"時"すらも使い手の支配下に戒めるのだから。

 

「相手の呼吸、意識、それらを総括した"()"の虚を突くことで相手の流れを一時的に完全な支配下に捉え、固める。相手からすれば時が一瞬止まって、気が付けば斬られていたようなものだ」

 

 そして放たれる一撃もまた必殺の域。そこまでを成立させるために使い手は持ちうる能力を存分に引き出すことを要求される。自然、振るう剣の冴えが増すのも道理というものだ。更にその一太刀はどのように振るわれるかも分からない。

認識する時間ごと流れの全てを奪われた状態で使い手のポテンシャルを総動員させた一撃が、どのように来るかも分からないままに迫る。それが如何に脅威となるかは推して知るべし。

 

「ところで知っていますか兄さん? そういうの、世間一般じゃポル○レフ状態と言うらしいですよ」

「何だそれ」

「いえ、知らないなら結構です」

 

 あっさり話を打ち切った美咲にとりあえず後で調べてみようと内々で決める宗一郎であった。そして調べた結果が漫画に起因すると知り、そういえばマンガとか昔から好きだったよなぁ、美咲のやつとどこか呆れ顔で納得するのだが、それは別の話である。

 

「まぁあいつもこれで感覚くらいは掴んだだろう。後は、あいつ自身で磨くだけだ」

「それでしたら私も、いずれお手伝いができる日が来るかもしれませんね」

「ん? それはどういう意味だ」

「実はですね――」

 

 そこから美咲が話した内容を聞いて宗一郎は思わず呆れかえりそうになったが、この妹弟子ならば仕方がないかと軽く諦めた風で首を振る。

 

「まぁ敢えては止めんし、それが一夏のためになるならば――諸手を挙げてとは言わんが認めよう。ただ、あまり派手にやり過ぎるなよ?」

「ご安心を。これでも他にも教え子を持ったことはありますし、その辺りの加減は弁えていますとも」

「なら良いがな」

 

 ついでだからと美咲が淹れてくれた茶を一口啜る。考えるのはこれからのことだ。弟子のこと、自分のこと。

自身のことについては特に心配するようなことはない。何が起ころうと切り抜けられる、それだけの実力と度胸は培ってきた。

 問題は弟子の方。アレはこれからも力を付け続けるだろう。そしてそれに引き寄せられるように厄介ごとも寄ってくるに違いない。

そこで自分にできることと言えば、伝えてきた技を駆使して自力で弟子が切り抜けるのを信じるばかり。必要以上に弟子のことに手を出さないのが師範たるの振る舞いとは言え、歯痒さを感じるのも事実だ。

 

(あぁ、だからこそだ。人でなしと言われようが構わん。一夏よ、勝て。そして生き続けろ。そのためにお前が修羅を選ぼうと、俺は認めよう)

 

 窓から見える蒼穹、同じ空の下に居るだろう弟子に向けて宗一郎は胸の内でそう語り掛けていた。

 

「それと兄さん、もう一つ別件が」

「"仕事"の話だろう、分かっている」

 

 美咲の言葉に宗一郎の意識は一瞬にして切り替わる。その表情に弟子の行く先を案じる憂いは既に無く、見る者の背筋を震わせる鷹の鋭眼を光らせている。

 

「えぇ、以前にお話しした通りに"あの方"と共に、ということになるのですが」

「心得ている。既に二人である程度の段取りも整えているからな」

 

 そうですか、と言って美咲は満足げに、そして妖艶に笑みを浮かべる。次いで彼女が取り出したのは電子端末、そこに記された地図上のある地域が"仕事場所"となる。

かくして準備は着々と進んでいく。極東に生まれた剣と拳を司る最強にして最凶、存在そのものが人の域を外れた二つの異端(イレギュラー)。天災にも等しき暴威は、人知れずその降りかかる先を狙い定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オ・マ・ケ 「その頃の一夏くん(電車なう)」

 

L○NEにて

 

数馬:ゴッメーン、い~ちかクゥウウン。お先に達成しちゃったー つ磯風

一夏:テメェふざけんじゃねぇゴルァアアアアアア?! 死ねよ空母BBAAAAAAAAA!!

数馬:ですが笑えますねぇ。貴方は時間が中々取れずに未だ削り止まり。一方僕は今ではレア掘りに余裕をできる身、随分と差が付きました。悔しいでしょうねぇ

一夏:ハハ、ふざんけまじって話よ。俺だって磯風くらい……磯風……磯風……。磯……磯……居るじゃないか! 磯風! なぜ磯風がここに? 逃げたのか? 自力で脱出を? 磯風!

数馬:彼女は磯風ではない(無言の腹パン

一夏:磯風ぇええええええええええええええ!!!

数馬:すぐに叫び出す提督は嫌いだ……

一夏:くそ、なんでオレはこうも手こずるんだ。答えろ! 答えてみろ、数馬ぁ!

数馬:いや、僕の方が艦隊の練度高いし。資材もあるし。ていうか、むしろ一夏の方がそこまで行けてるってことに驚きだよ。

一夏:まぁそうなんだけどさぁ。で、でもお前だって結構余裕無かったんでねーの(震え声

数馬:はぁ? 余裕が無い? 冗談言うなよ。こんな海域、キャンディー舐めながらだって僕にはできる。遊びさ。本気でやるわけないじゃん。

一夏:嘘乙。本気でやってるだろお前

数馬:ア、ハイ

 

 とりあえず帰ったらダッシュでPCの前に張り付こう。師匠がシリアスな空気を出していることなど露知らず、そう電車の中で決心する一夏であった。

 

 

 

 

 




 では今回のおさらい。
 一夏が貰った刀って結局どんなやつなんよ? というの。
 師匠が言ってた通り人斬り包丁、飾り気とか美術度とかガン無視して徹底的に武器としての性能を追求した一品。単純性能なら最上大業物クラス、下手したらそれ以上。しいて美術的に見るなら機能美くらいしかない。ぶっちゃけ十代半ばの小僧に渡したり、そのまま学校の寮に持ち込ませるような代物じゃない危険物。さらにぶっちゃけると某刃金の真実そのまんまである。

 一夏が師匠にぶっぱした奥義ってつまりなんだってばよ? というの。
 話の中に書いた通り、相手の意識の一番の隙を突いて心身共に一時的に強く麻痺させてその隙に最速かつ最大の一撃でぶった切る。という設定。
こっちが仕掛ける、相手「うっ」って怯む。次の瞬間にはスパッ済み。ちなみに性質や特徴が違うけど同格の超必殺技みたいなのは他にもある。という設定。

 師匠も怪我するのね というの
 人間ですから。一応、あれでも。多分だけど。

 美咲さんってさー、師匠に結構絡んでるよね というの。
 二人の関係は現在では同門の兄弟子妹弟子というだけのもの。またビジネス的なのもあるけど、どうでも良いから割愛。けど一時期はそうじゃなかった。
考えてみてほしい。青春時代に力を入れた修行で、一緒にやってるのは二人のみ。兄弟子の方は何だかんだで男前系イケメンだし面倒見も良いしで、妹弟子の方だって兄弟子に懐いてて年も少し違うくらいでしかもめっちゃ美少女。あとは分かるな?

 作者お前、最後の最後でネタとか我慢できなかったのかよ というの
 我慢できなかったんです。非力な私を許してくれ……


 とりあえずではありますが、この修行編の終了を以って夏休み編の終了となります。
できれば他の女子メンバーとかにもスポットを当ててとかやりたいんですけど、話が思いつかないんですよね~。日本に居る組、具体的には一夏宅に突撃かました三人は割とのびのびやってますし、ヨーロッパ三人衆はフッツーにお仕事とかですもん。
もしかしたら気まぐれで夏休みにこんなことやってましたよ~みたいな話を短編として書くかもしれませんので、その際にはそういうことでよろしくお願いしますということで。

 さて、夏休み編終了ということはつまり原作四巻の終了です。
そして五巻ですね。学園祭ですね。楯無さんやっと出番ありますね。こっから話を大きく動かせたら良いな~と思ってます、はい。
安心してくれたっちゃん会長。あんたには学園祭で中の人が歌った独身アラフォー魂の叫びソングを歌わせるというネタをぶっこんでやる(ゲス顔
 ですがその前に、軽い整理もかねて簡単な人物紹介などをするかもしれません。これも作者の気分次第となりますので、悪しからず。

 それでは、また次回の更新の折に。



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