或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 前回が結構真面目路線だったので、今回は砕けた感じでやりました。
え? ここ最近砕けてばっかりじゃないかって? そこはまぁ気にしない方向でお願いします。

 そろそろ原作のヒロインズを中心にした日常風景的なものでも書いてみたいです。
じゃあ書けよって? ……頑張ります……


第五十九話:特撮バカ&親バカ

「だいたいの事情は把握しました」

 

 一応は引き分けという結果に終わった道場での手合わせの後、一夏と楯無は共に生徒会室まで戻っていた。行きと違うのは戻ってきたのが二人だけでは無く簪も加わっているという点だろうか。

 

「まぁ、なんです? 会長は随分と迷ったらしいですけど、別にさっさと話してくれても良かったのに。事情が事情だ、協力するのは一向に構いませんよ」

「そうやってすぐに承諾してくれるのはありがたいけどね、話すこっちもこっちで結構気を使うものなのよ。そこらへんは察して貰えると助かるわ」

 

 確かにそれも尤もと一夏は頷く。生徒会室に着き、盗み聞きの類が無いかのチェックをしてから始まった楯無の話。来たる学園祭におけるIS学園生徒会、一部の教師も絡んでくる学園の保安部門の裏の目的、その中心となり得ると聞かされた一夏は、もしも事が起こった場合には生徒会を中心にした学園側との協力の下、必要とあらば事態の対処に当たるということを楯無に約束した。

 

「まぁ君だけに限った話じゃないけどね。そもそも不特定多数の来場者が来る学園祭、必然的にセキュリティは薄くなるわ。そこを狙って――なんて輩が来ちゃうのは簡単すぎるくらいに予想できるもの。君に話した内容そのままってわけじゃないけど、君のクラスメイトの候補生たちを始めとして学内の腕利きにはそういう事態の際に協力を求められるって話が行くはずよ」

「そこへオレだけこういう形で、他の連中より穿った内容をってのは、オレだけ事情が特殊過ぎるから、ですか。全く、モテる男は辛いもんですね」

 

 予想される不測の事態、その際に最も狙われる対象と見なされているのが一夏だ。だが今回の楯無のプランでは、その狙われている本人を敢えて対応に動かす、言ってしまえば餌にするということだ。別にそれを非難するつもりは一夏にも無い。方法として有効なのは認めざるを得ないからだ。ただ、それでも自分が狙われる立場にあるという事実を再認して、皮肉の一つも言いたくなるのが人情というやつだろうか。

 

「けど、別にこれが初めてってわけじゃ無いんだし。まさか二度も捕まるなんてつもりは無いんでしょ?」

「簪ちゃん!」

 

 入り口近くで腕を組みながら立っていた簪が事も無げに言う。その内容に楯無は思わず声を大にし、伺う様に一夏の方を見る。そして一夏はと言えば、鋭い眼差しを簪に向けているも気分を害したという様子は無く、むしろどこか納得している様子さえ見受けられる。

 

「なんかオレの身辺調査やったとか言ってたけど、やっぱり知ってたんだ」

「一応はね。あぁ、別に負い目を感じる必要は無いよ。少なくとも私もお姉ちゃんもそれで責めるつもりはサラサラ無いし、私はむしろその方法も一つの正解と思っているから」

 

 その言葉が意味するところを理解し、一夏はそうか、とだけ答える。その奥で楯無が何かを堪える様子を僅かに見せているが、簪はそれを一瞥するとすぐに意識から外す。

 

「まぁとにかくですよ、会長。オレだってこの学園は気に入ってるし、クラスの連中とかも友人としてそれなりに思ってはいるんです。そいつらが楽しく学園祭を過ごすためってなら、オレにできる限りのことは協力しますよ」

「……そうね。そこについては改めてお礼を言わせて貰うわ」

 

 その後に二言三言、今後はどうなるのかという軽い打ち合わせをする。とは言っても、現状で一夏は単に個人としての戦闘能力が優れているだけでそうした策という面においてはまだまだだ。よってこの場で決まったことと言えば、細かい計画などについては生徒会や学園側で組み上げるので、一夏については必要な時に指示の下で手を貸してくれれば良いという取り決めを交わすということに終わった。

 

「しっかしまぁ、本当に居るんですねぇ。テンプレな悪者って連中は」

 

 ドッカリと室内のソファに座り込みながらどこか呆れ交じりに言う一夏に、楯無もまったくだわと同意するように頷くも、表情に崩れたものは無い。

 

「けど、決して侮って良い相手でも無い。むしろ最大限の警戒が必要なの。できれば君の出番は無いまま終わるのが良いのだけど、当日だけじゃなくて当日まで、それにその後も身辺には気を付けてね」

「いやあの、前も後もって……それってエブリディピンチってことじゃあ……」

「あー、うん、まぁもしもってこともあるし」

 

 マジかよと言いたげな一夏に楯無も目を逸らし気味に答える。そんな気まずい空気に意外なことに簪が横から助け舟を出す。

 

「流石に街中とかでいきなり人目も憚らずに派手に来るなんてことは無い。勿論、警戒は大事だけどそれも夜道の一人歩きとかそういう類。あと、これは私の個人的意見だけど、相手がそういう手合いだって認識したらサクッとやっちゃって良いと思うよ」

「簪ちゃん」

 

 先ほどとは違う、静かに窘めるような楯無の言葉が簪に向けられるが、簪は相も変わらず平坦な眼差しを姉に向ける。

 

「別に間違ったことは言ったつもりは無いけど。元々、更識(わたしたち)はそういう人間でしょ? お姉ちゃんのそういうトコロ、嫌いじゃないけど私は違うから。仮に私が織斑君と同じ立場としてもそうする。私の生きる上で役に立たない、それでも無害ならまだ良い。けど、害があるなら早目に摘む。それだけのことでしょ? 訳に立たないどころか有害でしかない、排除して何が悪いの」

 

 冷え切った簪の言葉には情け容赦の類は無い。だが、そういう遠慮の無い様子も楯無は姉として、本人の納得の如何は別として慣れてしまっているのか、ただ深くため息を吐くだけで終わる。

 

「ハァ、何だろうなー。そういう鉄火場とかは私の方が慣れてるつもりなのに、なんで簪ちゃんはこうかなー」

「生まれつきの性格? 私もそう、お姉ちゃんもそう。そして――」

 

 向けられた視線に一夏は無言のまま眼差しだけで返す。言わんとすることは察しているが、何となくこれ以上を言うと場の雰囲気がどんどん重加速――もといどんよりな感じになりそうなので、楯無に見えないように「それあるぅ!」という意図を込めて小さくサムズアップだけ返しておくことにした。

 

「まぁしかしですよ」

 

 ついでに話題も変えてやろうと今度は一夏の方から口火を切る。

 

「ISなんて、出てきて十年経ってる今でもよくよく考えてみりゃトンデモ発明過ぎるって思うような物を使ってて、挙句お誂えな感じの悪者まで出てくるだ? 全く、特撮の世界じゃねぇんだぞって話だ」

「そこに関しては私も同感だわ。案外、ISが無ければ私もちょっと実家が変わってる普通の女子高生やってたかもしれないし」

 

 共感するような楯無の言葉を聞きながら一夏は右手首につけられた腕輪型の待機形態をとる白式を見つめる。ただじっと、己の相棒たるISを見つめる一夏の眼差しにはどこか憂いのようなものが混じっている。それを楯無は見逃さなかった。そして僅かに胸が痛むような感覚になる。

そう、どれだけ武技に優れていようと、どれだけ戦闘者として適した思考回路を持っていようと、彼は少し前まで普通の暮らしをしていた少年なのだ。それがいきなり世界唯一の存在となって、本人の望むに関わらず政治、思惑、陰謀、世界全体を巡るかもしれない巨大すぎるうねりに巻き込まれようとしている。それは彼も多少なりとも察しているのだろう。楯無や簪のように家柄故の教育としてそうした事情にも通じ、受け止める気概を持てるよう育てられたわけではない。あの憂いを帯びた眼差しの奥ではそうした現実への不安が渦巻いているのではないか。それを考え、せめてそうした気持ちの面だけでも今この場で力になれないかと思考を巡らせる。

 

「白式、腕輪……か……」

 

 漏れた呟きにもどれほどの想いが籠っているのか。何か声を掛けようと、楯無は座っていたデスクから腰を上げようとして、それよりも早く一夏の方に歩み寄る簪の姿を見た。

 

「織斑君」

 

 小さく、囁くように簪は一夏に声を掛けるとそっとその肩に手を乗せる。そしてスルリと羽毛に触れるような柔らかさで二の腕までを撫で下ろす。

 

「私は、君の考えていることが分かるよ」

 

 先ほどの楯無の会話とは違う、優しさを含んだ声音だ。だがそれだけでは無い。単純に彼を励まそうとか、そういうものだけではない。何か別のものも感じる。

簪は一夏の後ろに回り込むと、背後から手を伸ばして一夏が依然眺める白式の腕輪に指を這わせる。必然二人の間の距離も縮まる。そして簪の顔は一夏の耳元に近づき、囁きに混じる吐息すら聞こえるほどになる。

 

「君の手にはISがある。そしてそれを悪い奴らが狙っている。だから――ねぇ、シたいんでしょう?」

 

 そこで楯無はようやく簪の声音に混じるものを悟る。それは色香だ。簪がこの世に生を受けたその瞬間から今に至るまで、楯無は姉として簪を見てきた。だがその十五年に及ぶ姉としての生活の中で殆ど、一度もと言って良い程に見たことのない姿を今の簪は見せていた。それは姉である楯無でさえ思わずドキリとさせられるものだ。

 

「か、簪ちゃん……?」

 

 戸惑い気味に楯無が声を掛けるも、簪はまるで意に介した様子は無い。

 

「ね、織斑くん?」

「何をだ」

「分かってるくせに。私だって君と同じ。だから、分かるんだよ」

 

 言葉の端々に色っぽい吐息を交えながら、誘惑するように囁く簪に楯無はもはや言葉を失い、口をパクパクとさせている。

 

「強がってても無駄。今はガマンしてても、本当は思い切り吐き出したいんだよね? シたくて、シたくて、堪らないんだよね? クスッ、私だって同じようなものだから、分かるの」

(何? 何なの!? 何をシたいって言うの!? 簪ちゃんも一夏くんも、何なの!? 吐き出したいって何を!? ナニを!?)

 

 これが漫画やらアニメだったら楯無の頭頂部からは湯気がプシューと蒸気機関車の煙突のごとく吹き出ているだろう。事実、鍛えられたメンタルのおかげで一定のラインから先の冷静さは残っていたが、それ以外では殆どパニック状態と言っても良い。

 

「だから……言っちゃえば良い。思い切り、大声で。君がシたいことを。ね? シたくて堪らないんでしょう?」

 

 あわあわと、口はパクパクさせたまま行き所の無い両手を虚空でフラフラさせている楯無を尻目に簪は顔を、その唇を更に一夏に近づける。そしてその言葉をついに言った。

 

 

 

「ヘ・ン・シ・ン」

 

 

 

「……は?」

 

 余りに予想外な言葉に楯無は口を広げたまま自分でも間抜けだなーと思えるような声を漏らす。さて、先ほど愛しき実妹は何と言ったのだろうか。

ヘンシン? へんしん? 返信、変針、変心、変身――多分一番最後のが当てはまると思って良い。変身――英語にすればtransformとかmetamorphosisとか。意味は大まかに言えば姿形を変えること。

 

(変身?)

 

 はて、何がどうなってそう繋がるのか。首を傾げる楯無はとりあえずそのまま二人のやり取りを見続けようと決める。

 

「……はぁ。やっぱり同好の士ってやつだからかな。分かっちまったか」

「そうだね。私も、同じようなことは考えてるから」

 

 一つため息を吐いて苦笑する一夏に、簪も先ほどまでの色気やらはどこへ吹き飛んだのか、いつも通りの様子に戻って一夏の言葉に頷く。

 

「敵は謎の悪の集団。そしてそれに挑むことになるだろうオレは、装着型のメカニカルなアイテムを武器にする。もうさ、これは待機形態を変身ベルトにするしか無いよな」

「うん、うん。その通りだよ。……ゴメン、私いま結構感激してる。学園で初めて頷いてくれる人だったから」

「だろうな。こればかりはお嬢の多そうなこの学園の連中には理解し難いだろうよ。あぁもう駄目だ、いざ言葉にしたらもう堪らない。別に腕輪(コレ)が悪いってわけじゃないけどさ、何で待機形態がベルトにならなかったんだよ」

 

「えーと……」

 

 先ほどとは別の意味での困惑が脳裏を巡りながらも、楯無はようやく二人のやり取りの意味が分かった。

つまり一夏も簪も、ISなんて近未来な武装を纏って悪者と戦うなら、特撮のヒーローよろしく待機形態をベルト型にして、それで変身っ! とやりたいと。そういうことだ。

じゃあさっきまでの妙に色っぽい言葉遣いは何だったのよお姉ちゃんドキドキしちゃったじゃないと更識楯無(17歳現在彼氏無し恋愛経験ゼロ初恋まだ異性のタイプも自覚なし)は小さくため息を吐く。だがそんな彼女の様子など知ったことかと言う風に一夏と簪の待機形態談義という妄想話は進む。

 

「けどベルトだけじゃ駄目だよな。そりゃ昭和世代ならそれだけで良かったし、それはそれでの良さもある。けどやっぱ今の流行りはベルトにセットのアイテムだよな」

「うん。カードデッキ、携帯、トランプみたいなの、カブトムシやSu○caもどき、蝙蝠みたいなのとかまた別のカード」

「USBメモリやメダルにスイッチ、指輪に錠前にミニカー。どれもギミックが響くんだよなぁ、胸に。そういや簪、お前の弐式って待機形態指輪だよな? ていうか前にシャバドゥビもどきやってたよな?」(※第二十六話参照)

「それが……限界だった」

 

 小さく拳を握りながら答える簪の声には心からの口惜しさが滲んでいた。曰く、手間とかリソースとかのあれこれで余りに複雑な形態は推奨されないとか。加えて待機形態は専用機持ちが非常時に瞬間的にISを展開できるのが強みだ。それをわざわざポーズ決めてからギミック動かして展開など、時間と手間の無駄ということらしい。故に簪のように指輪という待機形態としても比較的メジャーなものに、それっぽい動かし方ができる飾りを付けるくらいまでしかできないらしい。そしてそのような諸々の説明を簪にしてくれた倉持技研の技術者は、簪以上に悔しそうな表情をしていたとか何とか。

 

「何でだよ。そんな手間とか時間の無駄とか分かってんだよ。んなのニチアサの特撮見てれば誰だって思うわ! 幼稚園児だって説明すれば理解するわ! だがやる! だってその方がかっこいいじゃん!」

 

 吐き出すように吠える一夏に簪も強く頷く。

 

「……ところで、織斑君的にはどんなのが良いの?」

 

 これは割と重要な質問だ。何しろ変身ベルトと言ったら特撮ヒーローの象徴、作品の顔と言っても過言ではない。毎年毎年、新作が発表される度に新たなモチーフ、ギミックが小さなお友達も大きなお友達も興奮させる。そして発売された玩具に小さなお友達のお父さんと大きなお友達の財布が薄くさせられる。

 

「ぶっちゃけどれも好きだけど、個人的には幾つかピックアップするなら、まずはカードデッキだな。というか、他のにも言えることだけど、そういう外部から取り付けるアイテムに武器のデータとか入れといて、必要に応じて読み込ませて取り出すって形にすれば本体のリソース削減とかになるんじゃね?」

「その辺りは私がとっくに倉持に力説した。織斑君にはできないくらい具体的に、徹底的に。けど……検討止まり……!」

「おのれディケ――いや話を戻すか。まぁそれでだよ、ほら、ISにはアレあるじゃん? 単一仕様能力(ワンオフアビリテイ)。オレならカードデッキ型にしたらそんな安っぽい名前は付けないね」

「と言うと?」

「んなの決まってんだろ――」

 

 そこで一夏は一度言葉を切ると簪と目を合わせながら小さく頷く。そして一夏の言いたいことを察した簪も頷き返し、タイミングを合わせるように一夏がせーのと言い――

 

『FI○AL VE○T』

 

 見事に二人、完璧にハモって同じ言葉を口にする。そして息が合ったことへの嬉しさからかウェーイとハイタッチを交わす。

 

「他のにもそういう必殺技ってのは当然あるけどさ、やっぱこれが一番決め技感が出てると思うんだよな」

「わかる」

「だろ? で他にどんな形態が良いって言ったら、そうだな。別のカードの方も好きだし、S○icaもどきも良い。あと錠前も良いな。割と最近だからってのもあるけど、好きなんだよ。キャラとかシナリオも。あとギミックも良いんだよね。ぶっちゃけ全般的に言えるけど、こう心をくすぐられるというか」

「すごくわかる」

 

 その他にもどんなシチュエーションでの登場が良いか、どんな決め台詞が良いか、どんなポーズがかっこいいか、完全に楯無を置いてけぼりにして一夏と簪は話に華を咲かせる。その様子をただ見ているしかできなかった楯無は言いようのない寂しさを感じたとかなんとか。そしてネットの映像レンタルでとりあえず特撮モノでも見まくって話についていけるようにしようと心に決めたとか何とか。

 

「んじゃまぁ、話も終わりってことでオレはこの辺で失礼しますわ」

「あ、うん。えっと、とりあえずよろしくね? 色々と」

「うぃーっす」

 

 簪との特撮談義も一段落し、特に話すことも無くなった一夏は時間も頃合いであるために寮に戻ることにする。そうして挨拶と共に部屋を出ようとする一夏だったが、思い出したように声を挙げて背に声を掛けた楯無によってその足は止められることになる。

 

「なんです?」

「いや、そんなに大仰な話ってわけじゃないんだけどね。学園祭に招待する人、決めたの? そろそろ申請しないとまずいわよ」

「あぁそれですか。いや、普通にダチを呼ぶつもりなんで。心配にゃ及びませんよ」

「なら良いわ」

 

 それじゃ、と言い残し今度こそ一夏は生徒会室を出る。

 

「じゃ、私も部屋に戻るね」

 

 それだけ言うと簪も出ていく。一人生徒会室に残る形になった楯無は再び会長用の椅子に座ると背もたれに身を預け思い切り力を抜く。完全に崩れ切ったその姿はとてもじゃないが他人には見せられないものだ。

 

「なんかもう……疲れたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで織斑君」

「ん、なに?」

 

 一夏のすぐ後に生徒会室を出たため、簪が一夏に追いつくのはすぐのことだった。

 

「招待券、友達に送るって言ってたけど、五反田君と数馬君のどっち?」

 

 IS学園の学園祭はセキュリティの関係上、誰でも来場できるというわけではない。学園側が招待、あるいは来訪の申請をしてそれが通った業界関係者以外の一般人が来るとすれば、それは基本的に生徒側が送る招待券によってのみ叶う。そして生徒一人につき招待できるのは一名のみ。

基本的には家族などを招待するものだが、招待する家族など居ない一夏は親友である弾と数馬をその候補としていた。ちなみに師である宗一郎にも話はしてみたのだが、二つ返事で要らないと返されていた。

 

「そこなんだよなぁ。マジでどうしよ」

 

 そして簪の質問は一夏にとっても悩みの種であった。一夏もまた例に漏れず招待できるのは一名のみ。つまり弾か数馬のどちらを選ぶしかないのだ。ウ~ンと結構本気で頭を捻って悩んでいる一夏を簪はしばし見つめていると、一夏が答えを出すより先に再び口を開く。

 

「私も、手伝おうか?」

「え?」

「私が数馬君を招待するから、織斑君は五反田君を呼べばいい。ほら、これで解決」

「……いいのか?」

 

 正直な話、簪の申し出は一夏としては非常にありがたい。二人纏めて呼ぶために箒や鈴あたりに協力を打診してみようかとも考えていたのだ。それをいち早く向こう側から申し込まれた。助かるのは確かなのだが、それにすぐに食いつくほどガサツになったつもりも一夏には無い。

 

「別に良いよ。呼ぶような友達が他に居るってわけでもないし、親戚もそう。家族にしてもお母さんはそういうのは別に要らないって言うし、お父さんは……まぁいいや」

(ちょっとー、更識さんトコのお父さーん! 娘さんからの扱いが適当ですよー!)

 

 思わず心の中で一夏はツッコミを入れる。知識としてでしか知らないが、ティーンの娘に父親というものはとかく扱いが雑にされやすいと聞くが、更識家という特殊な家柄でもそこは例外では無いのかと至極どうでも良いことを考えてしまう。

 

「うん、とりあえず私も大丈夫だから。別に数馬君は呼ぶ相手として普通にアリだし、良いよ」

「えっと……それじゃあ、お願いします」

 

 そう言って一夏は頭を下げる。そして、とりあえずはそのことを報告しておこうと一夏は携帯を取り出して弾と数馬に連絡を入れることにした。

ちなみに後に一夏が聞いたところによる、他の主だった面々の招待相手は以下の通りと言う。

 

箒:叔母にあたる雪子氏。実家の管理などをしてくれているお礼とかなんとか。別に雪子ゆーても直系の先祖が青幇のボスのジャンキーなんてことは無いで

セシリア:幼馴染かつ専属のメイドであるチェルシーさんとやらを呼ぶそうな

鈴:両親のどちらかを呼ぼうかと迷ったらしいが、母親の方がちょっと家の方が忙しいらしいので、都内のホテルの厨房で働いている父親を呼ぶことにしたとか

シャルロット:父親。普通に業界人のコネやらで余裕で来れるんでねーのと聞いたら、「でも部下の社員とはいえ娘が直接呼んだ方がポイント高いでしょ?」とニッコリ笑顔で言っていた。あざとい

ラウラ:母国の部隊で右腕として働いてくれたクラリッサ氏を呼ぶとかなんとか。ちなみに聞くところによると本人は学園祭の数日前には日本入りし、アキバやブクロの観光をするとか

 

 そして日本国某所でもまた、IS学園学園祭招待チケットを発端とする一騒動(?)が起きようとしている。

 

 

 

「ふっふ~ん♪」

 

 某県某所、郊外に佇むとある屋敷の一室ではスーツ姿の男性が機嫌の良さを表すかのように鼻歌を鳴らしている。自称イケてるアラフォーの更識煌仙である。

更識一門という古くより日本国の政における荒事担当として動いてきた、裏では名の知れた一族の中心人物である彼は、当代の座を実娘に譲ったとは言えまだまだ日々の仕事に追われる日々を送る。一応は当主権限を譲った先代という立場だが、当の現十七代楯無がまだ年若く研鑽中ということもあり父として、当主後見人として楯無を支え、一門全体においては未だ強力無比、楯無に並ぶかあるいは上回る部分すら持つ実質的最高権威者だ。

とまぁ堅苦しい肩書を持っている煌仙だが、本人の気質はむしろ穏健な方と言える。無論、必要とあらば人の身の極限に達したその武威を容赦なく奮うが、そんな機会など無いならそれで越したことは無いというスタンスを取っている。そんな性格は娘たちへの接し方にも表れており、無論のこととして更識家先代当主として娘たちを後継と扱う時は相応に厳しく接するが、ただの父娘となるともうダダ甘である。そして一日の仕事を終えた今、彼は更識家先代当主という顔を遥か彼方へ投げ捨てて、娘に甘い父親の顔を出し始めたというわけである。

 

 依然鼻歌を続けながら煌仙は懐から携帯電話を取り出すと電話帳に登録されている一つの番号に電話を掛ける。そして数度のコールの後で相手が応対に出る。

 

『もしもしー、どうしたの? お父さん』

 

 電話から聞こえるのは少女の声だ。煌仙を父と呼ぶ快活な声の主に当てはまるのはただ一人、煌仙の二人の愛娘の姉にして現更識当主の楯無だ。ちなみに、簪にも同様のことが当てはまるが煌仙と二人の娘の間での携帯電話の連絡はそれぞれ二通りが用意されており、それぞれで先代当主とその跡継ぎとしての対応と、ただの親子としての対応で分けている。今回煌仙が用いたのは親子モードの方であるため、楯無もこのように気軽な調子で電話に出たのだ。仮にもう片方だった場合、楯無の対応はもっとお堅いものになっていた。

 

「いやねー、ちょっと娘の声が聞きたくなっちゃってねー。後は一つ大事な相談もあってさ」

『もう、お父さんったら~。で、相談ってなぁに?』

 

 大事な相談とはいうものの、親子モードでの通話越しのことだ。大事は大事だろうが更識の仕事として重要なことというわけでは無い。互いにその認識があるゆえに、話す口ぶりも軽い物だ。

 

「いや、もうすぐIS学園も学園祭だろう? で、また去年みたいに招待券、回してくれないかな~って思ってね」

『え……? えっと、お父さん? 簪ちゃんの方はダメなの?』

「いや~、なんか最近できた友達を誘うとかって連絡が来てね。あの娘が自分からそうやって誰かを誘うなんて滅多にないことだから、お父さんも別に良いかな~って。だから去年みたいに楯無から貰いたいんだけど、良いかな?」

『えっと……あ~、その~』

「え……?」

 

 歯切れの悪い楯無に煌仙も顔つきが固まる。そして楯無は心底申し訳なさそうに言葉を続ける。

 

『あのね? 私もできればお父さんにチケットはあげたいんだけどね、今年はちょっと……。ほら、私って今は一応ロシアの方でISの登録してるでしょ? だから今年はその辺の付き合いの事情で向こうの人を……ね?』

「そ、そーなの……」

 

 事情を聞けば多少は仕方のないことと理解はできる。元より楯無とロシアの現在のアレコレについてGoを出した一人が煌仙だ。それはIS乗りとしての楯無の向上のためもあるし、更識として日本国のためにも必要な措置でもあり、現在も楯無はその面でもしっかりとした働きをしてくれている。そう、それを考えれば楯無の語る理由も十分に理解はできるのだ。理解は。だがそれと父親としての感情は別物だ。

 

『あの、お父さん? 大丈夫……? 本当にごめんね?』

「いや、良いよ。楯無、君のその判断は"更識"として至って正しいものだよ。気にすることは無い。招待券の方は……まぁどうにか頑張ってみるよ」

『う、うん……』

 

 その後、二言三言交わして通話を切った煌仙は椅子の背もたれに深く背を預け天を仰ぐ。

 

「はぁ~~~~~~~……はぁ………………おのれロシアァアッ!!」

 

 一人の部屋で煌仙は怒声を上げる。彼としては非常に珍しいことだ。実際問題、屋敷の使用人や一門の配下の者が見れば誰もが驚くだろう。それほどまでに日頃の煌仙の姿というものは余裕を纏った穏やかそのものだからだ。そんな彼が珍しく怒気を露わにする、その理由が娘二人からハブられたという何とも情けないものであるということには……あえて目をつぶろう。

仏頂面を変えずに煌仙は再び携帯の上で指を滑らせて別の操作をする。電話帳から別の番号を呼び出すと再びコール、程なくして相手側が電話に出る。

 

『どうした、煌仙』

 

 次の電話の相手は宗一郎。武術家としても一個人としても気の合う、双方ともに認め合う煌仙の盟友だ。

電話越しにも煌仙の良いとは言えない雰囲気を察した宗一郎は少々気を張って煌仙の言葉を待つ。そして煌仙は不機嫌の理由である先ほどの楯無との会話のことを話すのだが、話し終えた時には宗一郎の雰囲気も完全に呆れたように砕けきったものになっていた。

 

『いや、お前それはなぁ? そりゃあそういうこともあるだろうよ。まぁ巡り合わせが悪かったと思うしか無いな』

「分かってはいる。分かってはいるんだよ……!」

 

 悔しさを隠そうとしない煌仙に宗一郎も苦笑いを禁じ得ない。どうにも理解が難しいのは煌仙のソレが愛娘を持つ父親の心境というやつだからだろうか、独身三十路の宗一郎はそんなことを考える。さて、自分が友のように妻子を持ったとしてこのようになるか、こればかりはどうにも想像ができない。

 

「だいったいさぁ、ちょっとばかり調子に乗り過ぎだと思うんだよ、あの北国は。あれかね? 国土のデカさがそのまま態度に出ているのかね?」

『そりゃあ、国土の広さあっての大国だからなぁ』

「まぁロシアもそうだし? そのちょっと下あたりもそうだし? いい加減目につくからさぁ、私もちょ~っと本気だしちゃってもいいと思うんだよねぇ?」

『……一応聞くが、何をどうすると?』

「寸鉄一つ纏わぬ無手こそが私の強みさ。それを活用すれば少しばかり必殺仕事人しちゃうのだって造作は無い。それでちょっとね? 中枢を穴だらけにしてやろうと。ウチの一族、元は忍者なのだよ? ササッと侵入、ササッと接近。そして殺す」

『ジ○レミー・レナーかお前は。落ち着け、娘にハブられた気持ちは……一応察するがそれで国体を揺るがそうとするな』

「ハハッ、いや流石に冗談だよ。必要も無いのにそこまではやらないさ。必要も無いなら、ね。まぁ? ちょっと痛いダメージ喰らってても良いとは思うがね? 例えばさぁ、爆弾の実験をミスるとか。ツァーリ・ボンバをモスクワにシュゥウウトッ! 超っエキサイティンッ!」

『今すぐ奥方に通報してお前の頭をシュートさせても良いんだぞ?』

「あ、それは流石に勘弁して」

 

 世界最強の武術家の一角言えども、惚れた弱みゆえに妻には頭が上がらないものである。先ほどまでのテンパり具合といい、こんなのが無手の武術を極めた最強の格闘家であり、日本国のカウンターテロの筆頭格というのだから始末に負えないと宗一郎は胸の内で大きくため息を吐く。

 

『まぁお前のことだ。娘以外にもツテはあるだろう。それを使えば良いだろうが』

「そんなのは百も承知だとも。けどね、娘からというのはやはり別格で――まぁ、今更言っても仕方ないことだ。その方面でどうにか頑張るとしよう。どうかね? 希望があるなら君の分も手配はしてみるが」

『要らんよ。弟子にも話は受けたが、さして興味も無いのでな』

「そうかい。君と一緒に我が娘の様子を見て回るというのも面白そうだったのだが――そういうことなら仕方ない」

 

 そして楯無ともそうしたように、話の締めとして二言三言を交わして電話を切る。そしてデスクでゲン○ウポーズを取ると、この後に取るべき方策を練る。

 

「……」

 

 黙したまま煌仙は思い浮かんだ一つの策を考える。成功する可能性はかなり高い方だ。ただ、この方法を取るとなると威厳とかそういうものを色々放り投げなければならない。そしてそのまましばし悩み、意を決した煌仙は再び携帯を操作してまた別の人物に電話を掛ける。そして電話の相手が出た瞬間、煌仙は心底大真面目に言った。

 

「虚ちゃん、後生だから私を助けてくれ」

 

 選んだ方法は分家であり従者でもある家の娘に泣きつくというものであった。ちなみに結果は、一門の先代当主とは思えないほどに下でに出まくって、もはや無茶なお願い事をしてる親戚のオッサン状態の煌仙に苦笑いを隠せなかった虚が承諾し、無事に招待券を入手できたというものになった。

 

 

 

 




 仮面ライダーの変身ベルトはどれもカッコイイ! 異論は認めん!
いや、そりゃ最初の内は違和感とは何だよコレみたいな意見とかあるでしょうけど、見ている内にもうそれがなきゃ物足りないとかってなりません? 喧しくないウィザードライバーとかつまらないじゃないですか。ねぇ?
 ちなみに物凄い個人的意見なのですが、各ライダーそれぞれ必殺技を持ってはいますが、個人的にはファイナルベントが一番決め技らしさがあるかなーと思っています。特にファイナルとかってついてる名前がもうね、凄くそう感じて。あとは、セカンドシフトしてもシフト前後の状態の切り替えができたら面白いなぁとか。勿論、シフト前からシフト後への切り替えはサバイヴで。いや、最近レンタルで龍騎見終えたばっかりなので、謎の龍騎推しを感じたらそういうことだと。

 あと、簪ちゃんのお色気演技は完全に悪ふざけです。一夏に対して友情はありますが、それだけです。特にそういう感情はありません。一夏の側もそう。ただ、一夏の場合はある配慮をしているのもありますが。


 そして後半。
一体いつからダブル師匠がシリアス&真面目専門キャラだと錯覚していた?
宗一郎氏は基本的にツッコミ専門ですが、煌仙氏は……まぁ御覧の通りです。娘が絡むと割とハッチャけます。アラフォーですけど。

 さっさと学園祭本番に移行したいです。でなきゃアイツラとかあの人の本格的な登場とかが書けない。
 というわけで、感想ご意見は随時受付中。ドシドシお送りください。
それでは、また次回更新の折に。

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