或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 諸般の事情で更新凍結状態にしている楯無ルートですが、かねてよりどういう話の締め方にするかは考えていました。それを、何を思い立ったか書いちゃえと昨晩に二時間くらいで一気に書いちゃいました。
実のところ、これを書いて公開できるのも本編にあの人が出たからでして。誰かは読めば分かると思いますが。


ネタ投下:楯無ルートエピローグ あとオッサン紹介

 全てが終わった夜、旅館より少し離れた場所にある崖には人影が二つある。片方、静かに佇むのは千冬。そしてもう片方、転落事故防止用として崖の端に設けられた柵にまるで公園のベンチのように腰掛けるのは篠ノ之束。

 

「……」

 

 束は眼前の空間に投影したコンソールで何かを打ち込み続けている。普段の彼女ならそれらの作業は文字通りの鼻歌交じりにこなしていただろう。だが今の束は無言、黙々と作業をこなしている。常にお気楽な調子を崩さないのが篠ノ之束という人間だ。見る者が見れば今の彼女が不機嫌であるということが分かるだろう。そして束の背後で佇み続ける千冬はその分かることができる数少ない人間の一人だ。

 

「あまり気分が良くはなさそうだな」

「まぁねー。ちーちゃんなら言わなくても分かるでしょ」

「あぁ。だが、一応確認したまでだ。――そんなに不満か? 事を収める決め手が篠ノ之に、箒にならなかったのは」

 

 そこで束の手が止まる。そして小さく舌打ちをするも、その音はすぐに潮風にかき消されて溶けていく。だがその様子を千冬はしかと見て取った。伊達に長い付き合いはしていない。

 

「別に、いっくんが活躍したのは良いんだよ。けどそれだけじゃ駄目。いっくんと箒ちゃんだからこそ意味があるんだ。それをあの小娘ぇ……!」

 

 ギリと僅かに歯軋りする。

暴走した米国製新型IS"銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)"、軍の制御を離れて暴走状態に陥ったそれを紆余曲折の末に下したのは織斑一夏、そして諸事情故にこの一行に同道していた更識楯無であった。

 

「なるほど、謎の暴走状態に陥った新型ISを、文字通りの新鋭機を引っさげたお前の妹、そして世界初の男性IS適格者が下すか。二人の名前と経歴への泊付け、そして第四世代"紅椿"の駆り手、篠ノ之箒のデビューには申し分ないな。だが結末は微妙にずれたようだな。少なくとも今回の事件の脚本家にとっては」

 

 ただじっと束を見つめるだけだった目を、千冬は僅かに細める。

 

「ちーちゃんは何とも思わないの? いっくんと箒ちゃんの大活躍の場をどこの馬の骨みたいなやつに掻っ攫われたってのに」

「あぁ、思わんな。少なくとも今回の顛末に関して私が思うのは犠牲者が出ずに事が終わって良かった、これだけだ。IS学園の教師としても、私という一個人としてもな。無事に解決するのであれば、誰が立役者になろうと一向に構わん。それが許されれば私が出向いていたくらいだ」

 

 声に苛立ちが隠せていない束を見て己は平静をと思っていた千冬だが、それでも自分がただ生徒が、弟が最前線に立つ姿をモニター越しに見ることしかできなかったことを思い出すと不甲斐なさやら何やらで苛立ちが沸くのを抑え切れない。特に一夏については危うく取り返しのつかない事態になりかけたのだから。

 

「束、少なくとも今の私が言いたいのはこれだけだ。あまり派手に世間をかき乱すような真似はするな。お前にとってはただ面白い、あるいは私か、箒か、一夏にかは知らんが、そのために良かれと思ってというものなのかもしれん。だがな、お前の破天荒な勝手で大なり小なり影響を受ける人間が無数にいる。そしてその多くは不利益だろうよ。私は、私の友の振る舞いで無関係な人間がそんな目に合うのは好かん。箒とて同じ気持ちだろうよ。そして何より、お前の行動が他ならぬ箒を苛まさせるやもしれんのだぞ」

「……それでも、私は止まるつもりは無いよ。でなきゃ私じゃない。ちーちゃん、いや、言う前にやっとくことがある。話す前に、コソコソ覗き見してるネズミをどうにかしなきゃだから」

 

 そう言って振り返った束は千冬より更に奥、木々の影と夜の帳によって完全な暗闇となっている空間に目を向ける。何のことだと怪訝な顔をする千冬だが、直後に耳朶を打った声に心からの驚きの表情と共に、先の束同様に振り返る。

 

「おや、やはりバレてしまったかな?」

「だから言っただろう、どうせ隠し通せんと。千冬ならともかく、そこの兎耳の娘はな」

 

 意外そうな声に続いて白々しいと言うように呆れた声、どちらも男性の声であり千冬にとっては聞き覚えのあるものだ。そして暗闇の奥から新たに人影が二つ現れる。

 

「宗一郎……それに、更識さんまで……」

 

 共に鍛え抜かれた長身を持つ男、海堂宗一郎と更識煌仙であった。驚きを隠せない様子の千冬に対して束は睨みつけるように二人を見ている。だがそんなことなど意にも介していないと言うように二人の男は平然とした様子だ。

 

「さて。お初にお目にかかりますな、篠ノ之博士。貴女のご高名はかねがね、是非一度お会いしたかった。我々のことは――名乗るまでもありませんかな?」

「あぁ、知ってるよ。箒ちゃんの活躍を邪魔してくれたクソ娘の親父に、いっくんの先生気取ってるやつでしょ」

 

 先に口を開いたのは煌仙、そして自身たちの確認をする彼に束はあからさまな侮蔑を以って返す。だがそれを受けても二人の男はまるで動じず、それどころか煌仙に至っては笑い声を上げていた。

 

「ハッハッハ! 聞いたかい宗一郎? クソ親父だってさ! いや確かにね、娘に純粋な日向(ひなた)の道を歩かせてやれず、それどころか自分の業の一部まで背負い込ませているような父親だ。どれだけ良くあれとしても決して手放しで良い父親とは言えない自覚はあったが、こうして他人に面と向かってクソ親父なんて言われると中々どうして痛快だ。そうは思わないかい? 宗一郎」

「さてな。あいにく俺は独身だ。が、そうだな。師匠気取りか。少なくとも今回の件、一夏の身に起きたことに関しては俺の不手際があったのも事実。そこは責められようが文句は言えまい」

「それは私も同じさ。ま、幸い取り返しのつかない事態は避けられた。これを教訓に、我々も精進せねばならないということだね」

 

 言い返して来たら丸め込んでやろう、そのつもりで放ったはずの侮蔑に怒るどころか笑って受け入れ、あまつさえ言った本人である束を無視するかのように自分たちの今後のことを話し始める。とことん自分を蔑ろにしてくれる態度に束の中の苛立ちは急速に沸騰していく。

ならばもう少し言ってやろうと口を開きかけたところで、まるでそのタイミングを見計らったかのように煌仙が先んじて言葉を発する。

 

「ところで篠ノ之博士、浅学な身に是非ともご教授願いたいのですが、如何様にして我らのことに気付いたので?」

 

 丁寧でありはするものの、むしろ慇懃無礼と言った方が良い問い掛けに束は苛立たしげに舌打ちをするも、問われた以上は答えるのが彼女の矜持だ。ましてやそれが束にとっては児戯以下のこととなれば猶更である。

 

「随分と上手く気配を消してたみたいだけど、生体反応でバレバレだよ。そんなんで束さんから隠れようたって、そうはいかないね」

 

 その言葉に先に反応したのは宗一郎。しかし感心したでも驚いたでも無く、まるでその答えを予期していたようにため息を吐くだけだ。

 

「それ見たことか、煌仙。だから言っただろう、相手は曲がりなりにも現時点で科学者として不動の頂点に居座る娘。どうせその手の絡繰りで感付くに違いないとな。人が相手なら千冬でも誤魔化すに苦労はせんが、機械はそうはいかんだろう」

「いやぁ、やっぱりだったかぁ。となると、頑張って機械を騙すしかないねぇ。いっそ、頑張って体温下げてみるとかどうかな?」

「それはもう爬虫類の領域だろうよ。俺達は人間は哺乳類だ……」

 

 漫才をやっているんじゃないんだぞと、年の離れた盟友の珍発言に宗一郎は再び、しかし先ほどよりも深くため息を吐く。

 

「は、随分な言い様じゃないか。お前ら程度がちーちゃんより上みたいな言い方してるけど、身の程弁えなよ。この世で最も凄いのは束さんとちーちゃんって決まってるのさ」

「無論、人類最高(レニユリオン)と謳われる貴女の能力を疑ったことは一度とてありませんとも、博士。ですが、これは純粋に年長者としてのアドバイスですが、まぁ世の中というものは往々にして自分の考えを上回ってくるものですよ」

「そんなの、お前らがボンクラだからに決まってるじゃん。束さんにはそんな凡ミスをすることなんてありえないよ」

 

 得意げに謳う束に、それも尤もだと煌仙は頷きで返す。

 

「ただまぁ、それでも一つ言えることがあるとすればですが、あちこちを飛び回っている間ならいざ知らず、こうして目の前にいる以上は我々も博士、貴女を御することは決して不可能では無いということですかね。一応は我々二人とも、国家機関に属する身だ。国際手配されている貴女を見つけた以上、何もせずにいるというわけにはいかない」

「……なんだって?」

 

 あの男二人(チンパンジーども)は何と言ったのか? 自分を抑えつける? ふざけるな、それができるとすればちーちゃん以外にはいない。さっきから聞いていれば自分どころかちーちゃんまで軽く見ているような台詞の数々、そろそろキレても良いだろう。

というより、こんなことに時間を使っていたのが間違いだ。長居をするつもりも無い。さっさと切り上げて、ちーちゃんと話すべきことを話して、後は速やかにこの場を去る。それで良い。邪魔者はとっとと蹴散らすに限る。

 思考が決定を下すよりも早く束は動き出していた。ほぼ最初から最高速に至ったかのような圧倒的敏捷性(アジリティ)と単純な圧倒的速さ。それは公に人類最強と呼び称される千冬に比肩するものであり、事実千冬ですらこの突撃めいた奇襲には最大限の対応で臨まなければならないと千冬自身が言うことのできるものだった。

 

「止せ、たば――」

 

 制止の声を掛けたのは仕掛けた側と仕掛けられた側、どちらを案じてのものだったのか。だがその答えを千冬の思考が弾き出すよりも早く事は動いていた。

 

「え――?」

 

 気が付けば視界が転じていた。直後に顔に固いものが叩きつけられる感触と、それに伴う痛みがやってくる。口の中にはジャリジャリとした感覚と土の味、そして口内のどこかを切ったのか血の味も混じっている。

 

「今回は、博士の方が浅慮でしたな」

 

 掛けられた声を聞き、そこへ至ってようやく束は何者かに頭を押さえつけられ地面に叩きつけらているという自身の状況を察する。そして何とか動く視線だけを動かして上を見てみれば、頭を押さえつける手の主である煌仙が冷然とした目で束を見下ろしていた。

 

「束っ!」

 

 色々と思う所はあるし言いたい文句も千万ある。だがそれでも友であると認識している者の危機に思わず駆け寄ろうとし、しかしその足を千冬は強制的に止められる。

 

「宗一郎……」

 

 それまでずっと持っていながら、しかし一度とて認識させなかった愛刀を鞘から抜き放ち、自身にに突きつける宗一郎が千冬の行く手を阻んでいた。

 

「下手な真似はするな。俺とて、一夏に要らん心配を背負わせたくは無いからな」

 

 そこでようやく千冬は悟る。既に彼女は束諸共に宗一郎の必殺圏内(キルゾーン)に捕われている。そして自身も強者故に分かってしまう。宗一郎、そして煌仙も、自分より更に高次にの領域の武人であるこの二人は、自分が何かするよりも早く手を打てると。

 

「お前ぇっ……!」

 

 あらん限りの憎悪を込めて束は煌仙を睨みつける。だが直後、頭を押さえつける手に一切の緩みは無いまま、今度は背中にとんでもない衝撃が襲い掛かる。

 

「ガハッ、ゲハァッ!」

「あぁ、手荒な真似をどうか容赦願いたい――とは言わないさ。だが篠ノ之束、自身の身勝手な振る舞いをもう少し顧みることを勧めるよ。君を信奉する者は多いが、同時に君を憎む者も多い。私も宗一郎もそのどちらでもないが、かといって君をここで葬ることに一切の躊躇は無い」

 

 背中の衝撃の招待は煌仙が足で束の背を踏みつけたことによるものだ。それもただの踏み付けでは無い。貫いた衝撃は束の内臓を一気に傷つけ、口の端からは喉の奥より込み上げてきた血が垂れる。

刹那、宗一郎が何もない宙に向かって剣を振るう。一見無造作に思えるそれは、しかし明確に狙いを定めての一閃だった。

 

「キャアッ!」

 

 悲鳴と共に突如として姿を現した銀髪の少女が地面に崩れ落ちる。その両手足は先の宗一郎の一太刀により腱を斬られ、行動の自由を奪われている。いかなるトリックか、姿を見せぬまま束を救出しようとした少女はその目論見を予想だにしていなかった規格外の存在により阻まれた。

 

「くーちゃん!?」

「目で見えるだけを消した程度では欺くにも限度がある」

 

 それだけ言うと宗一郎は何事も無かったかのように千冬に切っ先を向け直す。変化があったとすれば、彼のキルゾーンに取り込まれた者が一人増えたということだろうか。

 

「くっ……」

 

 その様子をくーちゃん――クロエという名を持つ少女を斬っている間でさえ気配のみによって動きを抑えられていた千冬はただ見ているしかできなかった。

 

「そう怖い目で睨むなよ。別にこちらは、君らを殺すつもりは無いのだから」

 

 そう言っても憎悪の視線を緩めようとしない束に嘆息しつつ煌仙は言葉を続ける。

 

「あいにく、今の君を捕えたとて面倒事が増える以外は思いつかなくてね。正直、我々もそこまで暇じゃあないんだ。だからこれは、今回の事件の黒幕である君への抗議というわけだ」

 

 後に"福音事件"と呼称される今回の暴走事故、その裏にある黒幕とその思惑の大半は地面に叩きつけられたままの当人を除いて全員が把握している。ゆえに元凶である束にとって隠し立てはこの場に関してはもはや無意味であり、ただ睨みながら煌仙の言葉を聞いている。

 

「今回の件で米国は結構な被害を被ったが、いかに同盟国とは言え所詮は海の向こう。知ったことじゃない。福音のパイロットやら蹴散らされた米兵やらも災難だったとは思うが、そんな災難は割とよくある。では日本に被害が及びそうだったということか? それも違う。はっきり言って、彼女(・・)が出ればすぐに収まる話だからこれも問題は無い」

 

 では何なのか、そう前置きをして煌仙はこの状況に至った真の理由を語った。

 

「君の幼稚な思い付きと虚栄心で我が娘と我々の弟子は傷つき、艱難に見舞われた。父親として、師として、怒りを抱く理由はそれで十分だ」

 

 直後、嵐のごとき勢いとコールタールのごとき密度を持った殺気が周囲を包み込む。それは海堂宗一郎と更識煌仙、千冬もあてはめられる世に達人と言われる者達すら及ばぬ真に武人として超越の域に達した二人の男が放つ、加減容赦一切無しの本気の殺気が合わさったものである。

木々の葉が揺れ、辺り一帯の小動物が一斉に逃げ出す。まともな感性の持ち主であれば、その微小な余波からでさえ全力で逃げようとするだろう。ではそんなものの、爆心地とも言えるべき場所にいる者はどうなのか? 当然のごとく平常ではとてもいられなかった。

 

「……っ」

 

 千冬ですら一言も発することができない。それどころか全身が締め付けられながら切り刻まれていくような、数えるのもバカバカしい程の死のイメージが強制的に脳裏に叩きつけられ、それを体感しているような気さえしてくる。呼吸すらままならず、ただ吸って吐くという当たり前にしている動作すら全神経を集中してやっとやっとで行っているという有り様だ。既に気を失っているクロエなどむしろ幸福な部類だろう。

そして、おそらくこの場でもっとも強くこの殺気の渦を受けているだろう束はと言えば、全身が土埃に塗れ、口の端から血を垂らし大量の脂汗を流しつつも、それでも憎悪の視線を緩めることなく煌仙を睨み続けていた。それしかできなかった。伊達にISという存在の生みの親などやっているわけではない。人知れず所時している手勢だってあるし、それを用いればこの場を脱することもできるだろう。だが相手は絶対にそうはさせてくれない。決して認めたくない事実を、束がそうした抵抗を試みようとした瞬間にその命を速やかに刈り取るだろうということを、正真正銘世界の頂点に立つ頭脳は彼女にとって冷酷なまでに計算結果を弾き出していた。

 

「なるほど、こうしてステゴロでは我々に後塵を拝するとは言え、伊達に人類最高とは言われていないらしい。あぁ、実に残念だ。君が僅かでも武人の心を持っているのであれば、それこそどっちが相手をするかで宗一郎と本気の喧嘩をしても良いくらいに素晴らしい死合いができただろうに。君とはどれだけ戦おうが僅かたりとも闘志が燃える気がしない」

 

 心の底から残念がるようにしみじみと煌仙は呟き深いため息を吐く。そして唐突に荒れ狂わせていた殺気の嵐をピタリと止めると、束の頭と背中から手足をどける。

 

「何のつもりだ」

「これ以上の用は無い、それだけだ」

 

 殺気が止むと同時にキルゾーンの展開も解除した宗一郎に千冬は説明を求める。だが返って来たのは素っ気ない答えだけだ。

 

「彼の言う通りですよ、織斑先生」

 

 代弁するように煌仙が引き継ぐ。

 

「先ほども言ったように、我々にこの場で篠ノ之束と、何やら乱入してきたその娘の身柄をどうこうしようという気はありません。まぁ、抵抗の仕方によってはそれも已む無しでしたが、幸いにも彼女は賢明だったようだ。なら我々の目的は当初のままです。一人の父として、そして師として、娘に、手塩にかけた弟子に危害を加えたその元凶に対して抗議と警告をする。既にそれは達成されました。これ以上は蛇足というやつですよ」

 

 言って煌仙は未だ茫然としている束の襟首をつかむと、女性とはいえ大の大人一人をまるでゴム玉でも投げるように軽々と千冬の方に向けて放り投げる。同じように宗一郎もすぐ傍で倒れるクロエを掴み千冬に放り投げ、ようやく解放された千冬は慌てて二人を同時に受け止める。その時には既に宗一郎も煌仙も彼女らに背を向けて歩き去っていくところだった。

 

「では織斑先生、我々はこれで失礼しますよ。今後とも、娘二人をどうかよろしくお願いします。あぁ、篠ノ之博士。我々は本当にもう君に関しては、よっぽどのことをやらかしてお上に命じられでもしなければ個人としてどうこうするつもりは無いから。まぁ精々世界に排斥されないように上手くやってくれたまえよ」

「……千冬」

 

 ヒラヒラと手を振りながら歩き去っていく煌仙をそのままに、宗一郎は一度足を止めると背を向けたまま千冬に声を掛ける。

 

「お前は一夏とそこの娘、どちらの側につく?」

「なに?」

 

 気がやや動転しているとは言え、それでも宗一郎の言葉は不可解なものだった。

 

「一夏、それに楯無もか。二人はあの年にして俺や煌仙までではないとは言え、少なくともお前やあいつ(・・・)と比べても良い、"領域"に達した。未だ階段一段、あるいは片足一歩か半歩程度とは言え、確かに至ったのだ。それはお前やあいつ、俺や煌仙ですら為し得なかったことだ。――こうなってはもはやあいつらは只人では終わらんぞ。いずれ化けると断言できる。そして、確実にこの世界において無視できない存在となるだろう」

「……」

「そして、確実に一夏とそいつは根本の部分で相容れることは無い。お前とてそれは薄々感づいているだろう? それが表面化し、もはやぶつかる以外に手立ては無いとなったとき、お前はどうする」

「私は……」

 

 答えを急ぐなと、千冬が何かを言うより先に釘を刺す。

 

「土台、今この場で答えられるような問いでは無いと分かっている。精々考え抜くが良いさ。だが、もしもその時が来たとすれば、その時は一切の迷いのない確固たる答えで以って臨め。半端なままで臨めばどんな結果になるにせよ残るのは悔いだけだからな」

 

 そうして宗一郎も去っていく。

後はただ潮風とそれに揺らされる木々の音のみが残る静寂の場で、千冬は束とクロエの二人を抱えながらただ茫然としていた。そしてその腕の中で小さく、チクショウと呟く声が漏れた。

 

 

 

 

 

海堂 宗一郎

年齢:31歳

身長:194cm 体重:91kg

所属:公安警察(外部活動時の肩書のみ、実際に所属しているわけではない)

好きなもの:酒、ギャンブル全般(そこらの競馬からベガスでのオシャンティーなカジノ遊びまで手広く。一番得意なのはスロット、目押し余裕ですた)

嫌いなもの:自身の平穏を乱す者

最近の悩み:実家の母親から送られてくる見合い写真と結婚しろプレッシャー、弟子の行く末

 

 にじファン時代より登場している本作の一夏の師にして本作のチートその1。にじファン時代より今に至るまで感想で度々言及されているが、モデルは某抜刀斎の師匠である。ちなみに自分的には福山雅治はアリだった。

武人としては正真正銘現在の世界における頂点を二分する存在であり、その実力は千冬を以ってしても真っ当な戦いができこそすれ、勝つことはほぼ無理。

才能があるとかそういう域を飛び越えており、そう至る様に運命づけられていたという方が当てはまるような存在。これに勝ち得るとすれば、それは同じようにその領域に至るべくして生まれた者のみ。

ちなみに千冬と美咲も可能性はあったが、共にそれを開花させることが叶わなかったという設定が作者脳内にあったりする。

 一応は剣士であることを本業としているが、実際は武術全般においてだいたい何でもこなせる。その万能さたるやドラ○もんの如し。本人もこの点については自負しているものの、無手となると僅かだが謙虚な姿勢を見せる。理由は後述。

剣術に関してはもはや人の手に負えない域にあり、最近使い始めた無銘の超業物も相まって人型兵器か何かと言うほど。剛柔静動須らくに通じ、極めて繊細な技すらも披露するが本人の気質的に得意とするのは剛のスタイルであり、雑魚相手ならばサクッと速やかに終わらせるが、世界で見て一握りのそれなり以上に戦える相手だと豪快かつ怒涛の猛攻を繰り出す。巻き込まれれば即ナムアミダブツ。

十代の内に流派(名称考案中)の技を全て会得し、更に独自(一部厳密にはやや異なる)の奥義を持ち、それらを総伝として弟子に伝えるのが当面の責務と考えている。多分今後永劫、この人が剣で敗れる状況が来ることはあり得ない。

 

 実家は官僚を輩出してきた名家であり、本人も結構な高学歴。警察官僚(警察庁次長)の父を持ち、本人の実力も相俟って早くから国家の暗部に身を置いてきた。

一時期その役目を妹弟子に引き継ぎ田舎に引き籠り、紆余曲折の末に取った弟子を鍛えるなどしていたが、弟子の身辺や世の動向の変化に伴い、かつていた闇に再び舞い戻る。この瞬間、裏社会の一部で噂されていた「遭遇すれば生存確率0%」の伝説が復活を遂げることになる。

ちなみにその気になれば父の跡を追って官僚になることもできたが、どう頑張っても並よりそれなりには優秀程度で留まり、父には絶対に敵わないと自覚しているためあっさりとその道を蹴っている。

 

 どっしりと落ち着き構える性格であり、本人も自身の立場や鍛えた技のもたらすものなどから泰然自若を旨としている。ただし何だかんだで年齢故の若い部分が出たりする。なお血液型がA型なので、親しい相手ほどそういう部分が出やすい。

 人間関係として、接し方の違いはあれど両親とは基本的に上手くやっており、常に何かしらの孝行はしてやりたいと考えている。ただし母親相手にこれを言うと即座に「じゃあ早く結婚して孫の顔見せろ」と言われるため口には出さない。

弟子である一夏との師弟関係は良好そのもので、一夏は下手したら千冬以上に懐いている節がある。その関係は師弟であり親子であり兄弟でもあるかのごとし。

本人的には師匠として相応に厳格に接しているつもりだが、実際のところはダダ甘。弟子のためとなると何だかんだであれやこれやと世話をしたり考えたり悩んだり。そういう部分について知らぬは当の師弟のみという状況。

妹弟子は浅間 美咲。元々彼女の祖父が宗一郎の師であり、宗一郎の弟子入りより数年の後に妹弟子として同流派に弟子入りした。

関係者が口を揃えて認める零細流派であるため当時の弟子もこの二人しかおらず、実はかなり親密な関係であった。というか作中でも言いかけているがぶっちゃけ元カノ。なおこの辺りのことについてとなると宗一郎は途端に口を噤む。

しかしながら何だかんだで宗一郎も美咲には一夏とはまた別の形で甘く、交流は普通に続いており彼女の頼みごとを愚痴を垂れつつキッチリこなしていたりする。

 

武器:無銘の業物

彼の師の代より縁のある刀匠(現在は鬼籍)が最後に打った二振りの業物の片方。

武器としての刀の極限を追及したものであり、もうぶっちゃけると某刃金の真実である。

並の者が扱った所で切れ味のやたら良い刀でしかないが、宗一郎の極限の技量の下で奮われるとそりゃもうヤバイ存在となる。

 

???(ネタバレにつき一部伏せ)

変態技術立国日本が生み出した変態技術の産物。多くの者がその存在を肯定し、使うことを是とする中で彼のみが扱うことに不満を抱く。

しかしながら彼が最も優れ、最強の使い手であるという何とも因果な存在。

 

 

 

 

更識 煌仙

年齢:41歳

身長:189cm 体重:79kg

所属:公安調査庁

  (ただし表向き。実際は政府中枢直下の対テロに総合対応するための特別機関のようなもの。それこそが『更識』である)

好きなもの:酒、外国の名物料理、妻子

嫌いなもの:『日本国の国民、国益』に害為す存在

最近の悩み:上の娘が色々頑張っているのは良いけどもうちょっと親子で接する時間が欲しい、下の娘からの扱いがややぞんざいになりつつあること、ちょっと羽目を外すとすぐ妻にしばかれること

 

 常にスーツをビシッと着込み、一見すればだいぶ若く見えるのでやり手の企業家のようにも見える男。チートその2。にじファン時代に楯無ルートを書き始めた頃から構想し、現在の本作の比較的最近においてようやく登場させることができた人物。剣の宗一郎と共に無手の頂点として世界最強の武術家として君臨する。

武術家としての戦闘能力は宗一郎とほぼ同等。違いは剣が得意か無手が得意か程度のもの。この二人がガチでぶつかった場合、勝敗は神すら分からぬ、決着のその瞬間まで不明なもの。ただし周辺被害がえらいことになるのは確実。

戦国時代の忍をルーツに持つ更識家が独自に磨いてきた更識流とも言うべき武術を始め、各国のメジャーな武術、果てはほぼ我流とも言うべきものまで様々な格闘技に精通、極めており、宗一郎が剣でそうであるようにこちらは無手でドラ○もん。

 

 世界最強の格闘家、一国の暗部中枢を取り仕切る、そんな肩書を背負いながらも本人の気性は至って温厚そのものであり妻子には良き夫、良き父であるよう心掛け無償の愛を向けている。

部下に対しても常に気配りを心掛けており、多くの部下は組織人としての義務感などは当然として、彼への忠誠心も非常に篤い。

 一方で暗部の人間としての冷徹さも持ち合わせており、任務上においては必要とあらば対象を切り捨てることもいとわない。

某M○6の木工接着剤みたいな名前の男のようなことも数多くやっており、その過程で情報を得るために親密になった者もいるが後々に禍根が僅かでも残るとあらば容赦なく始末する。それは相手が女であろうと変わりは無く、何だかんだで最終的には女とよろしくニャンニャンやってるあちらとは大違い。

この人間味から来る人を纏めるという点は長女に、目的のために機械のごとく必要なプロセスを冷徹にこなす点は次女にそれぞれ受け継がれている。

 

 戦国時代より時の為政者に仕える忍を源流にする更識家、その一門当主が率いる国家直属の対テロ組織『更識』の先代であり数えて16代目にあたる。

様々な要因から頃合いと見た煌仙本人の意思で当主の座こそ17代目である現『楯無』に譲ったが、現在も権限の多くを保有しており、楯無も彼から様々な援助を受けていることから依然として一族、組織の最高権力者と言っても過言では無い。

後継者については早くから長女の方にと考えていたが、実際のところ能力的には次女も十分及第点であるため理想としては姉妹で互いを補い合って協力して頑張って欲しいと思っている。このことは当の娘二人にも直に伝えており、本人曰く「人生で特に甘さが出た時」と語っている。

 

 人間関係として、何よりも妻子を大事に思っており、常にそのためにできる最善をしてきた。

『更識一族』の人間としてはまごうことなき頂点とも言うべきであるものの、ただの夫婦娘二人という家族となると一転し、妻には惚れたナンチャラで敵わず娘二人にもダダ甘ゆえに家庭内の何やらが残念なことになっていたりする。

宗一郎とは仕事を通じて知り合い、共に極限の域に達した武人として意気投合し年の差を超えた親友となっている。その関係は互いに互いが最もくだけることのできる相手と認識するほど。

 

武器:磨き上げた四肢のみ

ただし人の極限とも言うべきほどに達した身体能力と技量から繰り出される技はもはや人の技によるものとは思えないほど。基本的に人はワンパンで終わりです。

ちなみに武器についてはあまり使わないだけで使えないと言うことでは無く、剣や槍など種々の武器、更には銃火器に至るまで手広く使いこなし、それらの技量すらも普通に世界トップレベルを張れる。

同様のことが宗一郎についても無手と剣をひっくり返した形で言うことができる。

 

???

宗一郎と似たようなモン

 

※1:???は本当に作中で出るのか現状不明

※2:できればこの二人もガンガン動かしたいし、この二人の関わる荒事というのも書きたいが、断言できる。こいつらが動くと確実に死人が出る。

 

 

 

 




 結局のところオッサン二人が何をやりたかったかというと、弟子と娘が危ない目にあったから「気を付けろやクルルァ! 舐めてんのかオォン!?」と言いにきただけです。その割には随分と物騒なやり取りになりましたが。
 実はこの楯無ルートにおける福音戦において、実は一夏が危うく再起不能の廃人(ゲーム的な意味では無く)になりかけており、一夏や自分自身の不徳もあったとは言え、宗一郎もかなりのレベルで怒っていたりします。

 ちなみに、大人たちがこんな物騒なやりとりをしている中で肝心のいっぴーとたっちゃんが何してるかと言えば、イチャコラしてます。多分この話で一番かわいそうなのはくーちゃん。

 以上、ネタの吐き出し投下としての楯無ルート終盤部分、チート野郎ども暴れるの回でした。
 さて、本編の続き書こう。



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