或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 なんやかんやで前回更新から一カ月近く。
何がこんなにも手間をかけさせたのでしょうか。
艦これのイベント? デレステのイベント? 研究? レンタルしたCWの消化? モチベの上がらなさ? 多分全部。

 続きをお待ち頂いた方々、大変お待たせ致しました。
正直、結構一杯一杯な状態で書いたものですから普段以上に拙い仕上がりかもしれませんが、何とか更新させて頂きました。

 今回は学園祭編のメインイベント前のちょっとした一幕です。


第六十四話:のんべんだらりトーキングタイム

 ズビビビビ――ゴクッ

 

「むっはー。あぁ、やっとこさクラスの方も終わったわ……」

 

 鈴と弾の料理勝負があったり、またクラスの方に戻って接客をやったり、そうこうするうちに再度一夏には自由時間ができていた。とはいえそれもさほどに長いものではないが。ただそれまでの間をどうしようかと考え、他にすることも無かったためにフリースペースとして開放されている屋上に弾と数馬を合わせた三人でやってきて、こうして茶を啜っていたのだ。

 

「随分と盛況していたらしいじゃないか。ちらほらと噂は聞こえていたよ? 君が接客をしているというね」

「はっ、要は珍し物見たさが殆どだろうさ。まぁ教室の外のあたりから除いているやつもいたのは分かったけど、入学したばっかの頃を思い出すな」

「あぁ、確かにそういうこともあったな。今となってはそれも一つ、思い出と言えるかもしれんが」

 

 この場に居るのは野郎三人だけではない。他の級友に先んじてお役御免となった者は他にもおり、その一人である箒も折角だからと同席をしていた。

 

「ふむ、篠ノ之さん。君にもそういうことが?」

「まぁ似たようなものだな。私の場合はこの姓に起因するわけだが、それもすぐに治まった。はずなんだが、最近また少し増えた自覚はあるな」

「それは、君がお姉さんから受け取ったとかいうISでかな?」

「ほぅ、耳聡いな。いや、人の口に戸は立てられぬと言うが、学外にも広まっているか」

「昨今の場合は人の口というよりもインターネット回線に、と言った方が良いかもしれないがね。どうも君はそういうことにはあまり興味は無さそうだが、一度調べてみると良い。ISの業界絡みのネット掲示板にはその話題も既に幾つとて出ているし、君が言う耳の聡い業界関係者なら知らない者はいないだろうさ」

 

 ただし、と数馬は付け加えるように人差し指を立てながら言う。

 

「インターネット、それも掲示板となると基本は匿名、専門的な手順を踏まねば誰が何を書いたか分からぬ世界だ。よほど作りや管理のしっかりした場所を除いてね。そして匿名故にそこには一切の躊躇なく、むき出しの悪意諸々の類が放り込まれる。そういう醜い言葉を見る機会も腐るほどあるとは、念頭に置いておくと良い。特に君は、そういうのは好まなそうだからね」

「忠告、胸に留めおこう。なに、不幸自慢と言うわけでは無いがその手の言葉には多少なりとも慣れているつもりだ。真に受けすぎないくらいはできるさ」

「なるほど。一夏が評価するだけのことはある」

 

 どういうことだと箒は一夏に視線を向けるも、一夏は黙って茶を啜るばかり。ちなみにその横では弾がまるで別の方を向きながら無言で紙にペンを走らせ続けている。やはり鈴との料理勝負で負けたことは本人的にも結構キてるらしく、早速レシピの改良に取りかかっているらしい。

 

「君や簪さん、それに他の――代表候補生かな? 一夏とはよくメッセージのやり取りをするが、君含め彼女らのことはよく評価するようなことは言っているよ」

 

 代わりに答えたのは数馬だ。

 

「まぁ評価の内容はそれぞれ異なるが、ここ最近では君の相手が特に楽しいとは言っていたねぇ」

 

 容赦なく私的な会話の中身をバラしていくスタイルの数馬に一夏は渋そうな顔をするが、実際言う通りであるため何も言うことができない。それに、別に悪口を言っているわけではないのだ。何も問題は無い。

 

「ほぅ、私との仕合が楽しいと。一夏、それは気になるぞ?」

 

 ほれほれ言ってみろとズイと顔を近づけてくる箒に、一夏も仕方ないと言うように軽く肩を落とし啜っていた茶を脇に置く。

 

「まぁストレートに言わせて貰うなら、今のところはオレの完勝が殆どだから、もっとオレを追い詰めるくらいになってくれとは思っているけどな。ただ、いつのも連中の中じゃやっぱお前だけなんだよ。一番真っ当な斬り合いができるのは」

「それは、意外だな」

 

 もう少し強くなれ、というのは箒も自身の未熟と自覚しているから特に何も言わない。ただその後は少々気になる。

 

「私とて伊達に剣の道に身を置いてきたわけではないから多少はできると思ってはいるが、クロスレンジだけで見ても相応の使い手は他にもいるだろう。凰やデュノアだって良い使い手だし、ボーデヴィッヒなどかなりのものだぞ。まぁそれでもお前の間合いでお前がやられたことは無いわけだが」

「う~ん、そうなぁ。いや、確かにそうだよ。実際、あいつらも良い腕はしている。そこは間違いないし、あいつらとやり合うのだって良いもんだとは思ってる。けど、あいつらにとっちゃそれはあくまで数ある手段の一つでしかないんだよな。あくまで勝負を有利に運ぶための道具(ツール)の一つ。

別にそれが悪いとは言わないさ。あいつらはそう認識した上で自分にとって必要と定めたレベルまで、納得できるくらいに習熟している。けど、やっぱ意識の差はでちまう。箒、オレとお前だけだろう? 本業が剣士であること、武術家であるってのは。だからこそだよ」

 

 互いに本領は剣士であり、生粋の剣士同士のぶつかり合いだからこそ感じるものもある。それを指して一夏は面白いと言っており、そういうことかと箒は納得するように頷いていた。

 

「なるほど、心得た。では私もお前のその評価に恥じぬようお前に追いつく、いや、追い越せるよう精進に励むとしようか」

「あぁ、是非その気概で頑張ってくれ。だが、負けるつもりは毛頭ないけどな」

 

 互いに挑戦的な笑みを浮かべながら視線を交差させた二人の間に視線の火花が散る。だがそれも一瞬のこと、すぐに破顔し合い呵々と笑う。

 

「そういや気になってたんだけどよ――」

 

 どうやらレシピの思案が一段落したらしい弾が会話に混ざる。

 

「なんかさっき鈴からメールが来たんだけど、鈴もクラスの方から抜けたって。あいつもだし、一夏に篠ノ之さんも、クラスのメインだろ? 同じタイミングに一度に抜けるって何かあるのか?」

 

 その問いに一夏と箒は顔を見合わせる。しばしアイコンタクト、一夏がやれ、オレ? お前がいう方が良かろう、そんなやり取りを数秒で終えて一夏の方が答える。

 

「ま、ちょっとな。なに、いずれ分かるさ。いずれな……」

 

 フッフッフと悪役じみた含み笑いと混ぜながら説明になっていない説明をする一夏になんのこっちゃと弾もあきれ顔を隠せないが、一夏も後でちゃんと教えるからということでその場はそれで流すことにする。その横で数馬が無言のまま学園祭のパンフレットを眺めているがそれが意味するところに気付く者は居なかった。

 

「そういえば箒、他のみんなはどうした? オレは一足先に抜けさせて貰ったけどさ、あいつらもだろ?」

「オルコットたちだろう? 私と一緒に抜けたさ。何でも、各々故郷の知人を呼んだらしいからな。その方々と会うなり自分で他の出し物を見て回るなりしているだろう。――っと、噂をすればか。デュノアからメールだ」

 

 ほら、と箒はシャルロットから送られてきたメールを見せてくる。内容はごくシンプルに今どこにいるかというもの。屋上に一夏や一夏の友人と居ると返して箒は数馬と弾を見る。

 

「すまん、二人は知らないか。デュノアというのは――」

「シャルロット・デュノア。一夏や篠ノ之さんと同じ一組所属、フランスの代表候補生。合っているかな?」

 

 箒が言うよりも先に言ってのけた数馬に箒もほぅ、と感心するような息を漏らす。

 

「お前のことはとにかく頭が良いと聞いてはいたが、事情通でもあるのか?」

「人並み以上にはアンテナを張っているという自負はあるかな。パーソナルデータの把握は特技の一つでね。この学園の生徒情報はある程度開示がされているだろう? 少なくとも一夏に近しい人、中でもそれなりに重要な立場の人間なら公にされている分には覚えているよ」

「ということは――」

「件のデュノア嬢だけではないとも。英国代表候補セシリア・オルコット、ドイツ代表候補ラウラ・ボーデヴィッヒ。この二名のことも無論。これも一つ忠告というかアドバイスというか、代表候補クラスともなれば少なくともその国の業界じゃそれなりに名が知れる。人の口に戸は立てられないからねぇ。調べれば、分かることもあるさ」

「なるほど。ではネットの界隈に潜れば私や一夏のことも、余人が知る分には赤裸々にされているというわけか」

「ご明察。君には不本意かもしれないが」

 

 それは事実だが、もはや今更なことと柳眉を立てる気にもならない。何気にこのあたり、自分でもそこそこ寛容にはなってきているのではとは、箒も思っていることだったりする。

ちなみに誰が誰なのか弾にはさっぱりなので、改めて数馬が説明をしていたりする。件の三人、元より衆目を引き易い容姿であるため、最初に一夏に会いに一組を訪れた時に視界に入ったのを弾も覚えており、思いのほか説明は早く終わった。

 

(ま、確かに考えてみりゃあいつら見た目が目立つもんな~)

 

 再び茶を啜りながら一夏はそんなことを思う。ラウラのあの一際小柄な体躯と銀髪眼帯の組み合わせは否が応でも目立つ。シャルロットにしても個性的に過ぎる特徴があるわけでは無いが客観的に見ても普通に可愛い。セシリアは、あの金髪縦ロールとか本人の前じゃ絶対に言わないがマジで実在するのかという話だ。ベ○バラじゃあるまいし。まぁ昨今の流行りでは姫騎士でくっ殺だろうが、生憎彼女はガンナーだ。気質的には合っていると思わないでもないのだが。

 

「それで箒、メールは何だって?」

「ん? あぁ、お前は知っているだろう? この後のスケジュールを。どうせ行くなら全員纏まった方が良いと、それでここに留まるなら呼びに来るとさ」

「ふ~ん、良いのか? 他のところを見て回ったりしなくて」

「ここに来る前に幾らかは見たし、もうさほど時間があるわけでも無かろう。良い機会だ、デュノアたちが来た時に二人のことを紹介しようと思ってな。どちらも私や一夏の友だというのに、面識も何もないというもの味気ないだろう」

 

 きっと良き友になれるはずだと言う箒の言葉には微塵の不安も感じられない。弾や数馬、そしてシャルロット、セシリア、ラウラ。それぞれが一夏と箒の友人であり、各々が互いに良き友と思い合っている。こと箒と弾、数馬に至っては未だ面識を持って日が浅いにも関わらず、箒は彼らもまた良い友人と本気で思っているのだ。そう言われて別に悪い気はしない二人だが、まさかここまできっぱり言い切られるほどだとは思ってもおらず、感心したと言うように目をパチクリとさせていた。

 

「いや、篠ノ之さん。その身に余る評価は痛み入るがね。僕も弾も、まさかそこまで評価されているとは思いもしなかったよ」

「そうか? いや、それが謙遜ならば無用だ。確かに私たちは見知ってから日が浅いが、一夏が無二の親友と評しているのだ。ならばそれだけで十分だろう。それに私自身、二人のことは凄いと思っている。色々とだがな」

「別にそこまで言われるほどのモンじゃあないぜ、篠ノ之さん。俺のなんか、中学入って何となく一夏や数馬とツルんだらそのままここまで来ちまったようなもんだし。それに知らないかもしれないけど、まぁこの二人ときたら時々妙な面倒事を何時の間にか抱え込んでるからな。こっちに飛び火しないように配慮してくれてんのはありがたいけど、もちっと見てるこっちの身にもなれって話だ」

「良いじゃないか弾。僕も一夏も、君のことを重んじているのは事実なのだから」

「それにしてもだろうが。特に数馬、お前なんかマジでヤバいことに首突っ込みそうだからこっちは気じゃないんだよ」

「それは肝に銘じるつもりだが、それでも面白そうなことは覗きたくなるのが僕の性質でねぇ。そこは、まぁ、お祈りということで」

 

 まるで悪びれる様子の無い数馬に弾も言う言葉が見つからないと深々とため息を吐き、一夏も一夏であまり人の事を言えない自覚があるからか、そっぽを向きながら茶を啜っている。そんなコントじみた三人のやり取りを見ながら、箒はクスリと笑った。

 

「あ、篠ノ之さ~ん。それに織斑君も」

 

 それから程なくして屋上にやってきたシャルロットが一夏と箒に声を掛けながら寄ってくる。後にはセシリアを始めとするいつものチーム専用機も続いている。

 

「ん? 来たか。用件は、アレか?」

「うん、そうだけど。織斑君に、そっちの二人は織斑君の友達だっけ? 教室の方にも来てたよね?」

「あぁ、御手洗数馬に五反田弾。二人とも一夏の知己だ。二人とも、こちらはシャルロット・デュノア。私や一夏と同じ一組の所属で、フランスの代表候補生だ」

 

 紹介をする箒にシャルロットは笑顔で弾と数馬を見ながらよろしくと挨拶をする。数馬はこちらこそと、弾は軽くウスと、各々挨拶を返す。後に続くセシリア、ラウラの紹介も同じように為される。

 

「二人ともゴメンね? できればゆっくりお話とかしたいんだけど、ちょっとこの後に予定が詰まってて。悪いけど篠ノ之さん、連れて行かなきゃなんだ」

「いや、気にしないでくれて良いよ。ふむ、音に聞こえしIS学園の専用機持ちが集ってか。何かあるとは見るが、楽しみにしているよ」

 

 ある程度の察しはついているらしい数馬の言葉にシャルロットは軽く微笑むと箒を加えたやってきた面子で校舎内へ戻っていく。ただ微妙に違いがあるとすれば、箒と入れ替わるように簪が残っていることだ。

 

「お前は良いのかよ」

「私はみんなとは別の仕事があるから。時間に余裕はある」

 

 問いただす一夏に何てこと無いと言うように答えながら、簪は先ほどまで箒が座っていた場所に座る。

 

「それで、数馬くんに五反田くん。どうだった? 他のみんなと顔合わせをした感想は」

 

 この場に特別な目的があるというわけではない。ただ集まって駄弁っているだけだ。故にいつどんな話題が出るかは唐突だが、口火を切ったのは簪だった。

 

「どうって言われてもなぁ。面白味もなんも無い感想だけど、可愛い子しかいねぇなって」

 

 そう答えたのは弾。その横で一夏がウンウンと頷く。実際間違ってはいない。実はIS学園の入学基準には容姿が隠し数値的な感じで含まれているのでは無いかと思うくらいには平均レベルがやたら高いのは一夏としても大いに同意するところである。

 

「弾の言うことも尤もだと思うがね、僕としてはまぁ随分と面白い娘が多いというのが第一印象だよ」

 

 そう答える数馬に一夏と弾は揃って嫌な予感がすると言いたげな顔をしながら数馬の方を見る。先ほどの箒の会話でも、その後のシャルロットらとの短いやり取りの間でも、明朗闊達な様子を微塵も崩さなかったが二人は数馬の本性というものを特に理解している。その彼が言う面白いという評価がロクなものではないというのはもはや論ずるに値しない。

 

「おいおい二人とも、そんな目で見るなよ。別にどうこうしようってわけじゃ無いんだ。そうする必要も、意味も、価値も無い。そも一夏、彼女らは君の友人なのだろう? 君自身、彼女たちのことはあくまで友情というレベルでだが好意的に思っている。君がそう思っている相手に対しどうこうと、そこまで僕は無粋じゃあ無いさ」

 

 だがその言葉は裏を返せば、一夏が間に立っていなければその限りでは無いということだ。そこを見抜けないほど、一夏も弾も抜けてはいない。ただ、相変わらずだなコイツと言うように揃ってため息を吐くだけだ。

そんなやり取りを簪はただ無言で見つめている。理解しているのかいないのか、あるいは理解した上で、更にはそのやり取りの奥にある数馬という人間も察した上で黙っているのか、表面からは察することができない。そこにはこの場でも特に彼女と付き合いの長い方だろう一夏も気付いていない。それもそうだ、何しろ彼女はあくまでいつも通りにしているだけなのだから。

 

「でだ、話を戻そうか? うん、面白いというか、個性というものが際立っていると思ったのは事実さ。鈴に関しては今更だから置いといて、例えば篠ノ之さん。まぁ言動からも分かるけど、いまどき珍しいくらいに実直なタイプだよ。まるで少年漫画の主人公を見ている気分だ。血縁故の苦労は察するところだけど、それゆえと言ったところかね」

「シャルロット・デュノア。多分、少しばかり僕に似ているところがあるよ。あぁ、確かに十人中十人が彼女を可愛いと評すだろうね。客観的意見としてそこは否定しないとも。加えて初対面の僕らに対しても気さくにコミュニケーションを図ってきたあの性格だ。容姿に加え人柄、非の打ちどころなどあるわけなし――ただしそれも表面での話だ。僕ほどではない、いやそもそも僕に及ぶ輩が早々居るわけもないのだが、彼女のアレは意図してやっているんだろうさ。有り体に言えば人の間での立ち回り、要領が良いんだよ。そうやって最終的には自分に得が来るようにする。そんなところかな」

「セシリア・オルコット。英国貴族のお嬢様、オルコットという家は向こうじゃ結構有名らしいね。ググれば普通に出てくる。で、肝心の彼女だが、貴族のお嬢様の手本ってやつがあるなら、それにドンピシャリじゃないかね。お家に絡む話の幾らかも聞き及んではいるが、なるほど踏み越えた場数に相応しい気概の持ち主ではあるようだ。一夏はよく彼女を優等生と評していたが、それが一番妥当だね。僕としても、仮に彼女が同級であるなら僕の邪魔にならない限りは一応は友好の体裁をとるのも吝かじゃあない」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。一言で言えば知識と経験ばかりが早熟な子供、かね。いや、見てくれに限った話じゃないさ。精神性、人間性と言うべきか。悪い意味じゃない、そのままの意味で未だ幼さが色濃く残っている。そのくせ自分の専門となると知識も経験もプロ顔負けだ。これも一夏曰くだけど、最近じゃあ彼女、マスコットみたいな感じで可愛がられているんだって? 多分、そういうギャップが元じゃないかね」

 

「……相変わらず、大したやつだよお前は」

 

 今日初めて会ったばかりの三人、その彼女らに対して実に的確な人物分析を下した数馬に一夏は一切茶化すことなく素直に賛辞の言葉を送る。弾も同じようなことを言いたげな視線を向けているし、簪もやや驚きを表情に表している。

 

「言ったろう? これでも人を見るのは得意なんだ。先の三人は、なまじ個性という点が強いために猶更さ。故に存外分かりやすい。何がその心の芯に、核になっているのか。どこをどう突けば、脆く崩れるのかもね」

 

 クックッと笑いをこぼしながら語る数馬の顔は先ほどまで箒やシャルロットたちと会話をしていた時とはまるで違う。一夏と弾しか知らない彼の本質が現れたものだ。今まで数馬がこの顔を見せたのは一夏や弾の前だけ、だが今この場にはもう一人いる。

 

「凄いんだね」

 

 簪はそんな数馬を見て発した言葉はそれだけだ。一夏や弾などもはや見慣れているから何も言わないが、元々整った顔立ちの数馬がする悪い笑みというのは見る者にゾッとする印象を与える。仮に衆目の前で彼が今のような顔をしていたら、見る者は不安を抱かずにはいられないだろう。だが簪は初めて見たはず、そう考え一夏は簪の方を見るが――

 

「別に何とも思わないけど。私も人を見る目は養っているつもりだけど、彼ほどじゃない。だから素直に凄いと思うし、数馬くんがどんな人かも何となく感じていた。それに、その顔は少し前に四組の展示の時に見た」

「あ、もう知ってたのな」

 

 そういうことなら納得だと一夏も頷く。ただ、数馬のアレを見て慣れているわけでも無いのに早々に受け入れているというか、何とも思わないというあたりはやはり簪も簪で変わり者だと思わないでも無い。もっとも、それを言い出したら一夏自身もそうだし、弾や数馬も、箒たちもそう言えてしまうわけだが。

 

「まぁ良いじゃないか。彼女たちは一夏にとっては良き友人なのだろう? であれば僕も、仮に彼女らと今後も縁があるなら同じように良き友人でありたいよ」

 

 

 

 

 

 

「そういやさ、オレがクラスで接客してる時なんだけど、まさかパーツの売り込みしてくる奴までいるとは思わなかったわ」

 

 別の話題が無いかというところで一夏がそう話し始める。

 

「それは、また大胆だね」

 

 真っ先に反応したのは簪だ。やはりと言うべきか、ISが絡むとなると彼女が話題をリードするのがこの場では適任だ。

 

「全くな。そりゃあ物が良いなら考えても良いけど、現状は倉持のやつで満足だし。本当、川崎さんとか頑張ってくれてる人たちには頭が上がらないや」

「あそこも結構こだわる所だから。組む相手としては良いところ。――名刺とか貰ったの?」

「ん? おぉ、貰ったぜ。まぁアレだ。結局は先生とか学園を通してくれって話になるんだけどな」

 

 ほれ、と一夏は渡された名刺を見せる。企業名と共に「巻紙 礼子」と書かれたソレを三人はふ~んと言う体で見て、それから再び一夏の懐に戻る。

 

「なんだい、学校の中どころか外の女性まで寄ってくるのかい。随分なモテようじゃないか、一夏」

「おうおう、羨ましい限りじゃねぇか。世の野郎が聞いたらさぞや嫉妬するだろうよ」

 

 茶化すように言って来る数馬と弾に一夏も苦笑を禁じ得ない。確かに、世の多くの同性からしてみれば今の自分は理想とも言える環境にいるのだろうということは一夏自身も分かってはいるが、別に世の中そこまで都合が良いわけじゃない。

 

「前から何度も言ってるけどさ、それなりに苦労もあるんだよ。プライベートの空間まで近い場所にいるんだから、色々気を使うことも多いしよ。いや、ほんとこれは大変なんだって。第一選り取り見取りとか、オレはどんだけ下衆なんだよ」

「そうかなぁ? 君はそれなりには女子の受けは悪くないほうだったと思うけど?」

「みんながみんなそうとは限らないだろ。まぁ、彼女とか、そういうのが良いなぁとは思うのは確かだけどさ。でも、そこまでがっつくほどでもないよ。今は、他にも色々やらなきゃならんからな」

 

 嘘は言っていない。幸いにも所属する一組の同級たちとは実に友好的な良い関係を築けているが、別のクラスや別の学年には一夏がISを動かし、今こうして学園に所属することを快く思わない者もいるという。ネットを探せば一夏に対してのアンチ的な意見もゴロゴロと出てくるわけで、誰もが一夏に好意的というわけではない。

更に彼女云々で言えば、一夏だって年頃の男子だ。そういう相手が欲しいと思うことだってあるし、同級生の少女たちは異性としても実に魅力的な娘が多いというのも否定しない。いずれは一夏だって誰かにそういう感情を抱き、関係を深められたらと思ってはいるが、今はそれよりも為さねばならないことがある。決して最優先にするようなことではないのだ。

 

「相変わらず妙なところで生真面目というか。まぁでもアレだよ、実際風変りな生活をしているのは確かなんだ。いっそのこと普段の生活をブログだとかで発信とかしたらどうだい? 絶対に受けると思うけどねぇ」

「でなきゃ本でも出すか? タイトルはそうだな、『オレがIS学園に男性サンプルとしてゲッツされた件』、なんてのはどうよ」

「お、良いね。それこそブログにしたってタイトルでいけるよ」

「やっぱそう思う? いや、オレも我ながら中々の妙案だと思ってな。だが断る。ブログだ本だと、書くのが面倒くさい。やってられっか」

「言うと思ったよ」

 

 そういえばと、一夏は話題の転換を図る。

 

「さっき見せた名刺の巻紙さんだけどよ、アレな、ぶっちゃけオレ苦手なタイプだったんだわ」

 

 その言葉にへぇ、と数馬と弾は興味深そうに耳を傾け続きを促してくる。

 

「いやな、確かに見てくれが結構な美人だったのは確かなんだけど、ありゃどうも中身がキツそうというか、トゲトゲしてそうでな。オレ、ぶっちゃけそういう女はどうもな……」

「いや、それはお前に限った話じゃないと思うぞ。多分男ならだいたいそうだろ。俺だってそうだ」

 

 だから大したことじゃないと弾は頷きながら一夏を肯定する。そこで一夏の言葉を聞いていた簪があれ? と言うように首を傾げる。

 

「じゃあ、織斑先生はどうなの? あの人、いつも厳しそうだけど」

「あれは家じゃずぼらの干物だから別の意味で論外」

 

 バッサリ斬り捨てで姉をdisるこの弟である。そう、姉だよと一夏はさらに続ける。

 

「姉と言えばだ。前に数馬と弾には話したよな? 妹とかも欲しかったと」

「あぁ、そういえば夏休みの頃だかに言っていたね」

 

 確かチノちゃんみたいな妹が欲しいとかのたまっていたはずだ。気持ちは大いに分かるところだが。

 

「それでな、まぁ今言っても後のフェスティバルでどうしようも無いから言って何になるなんだけど、それでも考えたんだよ。もしも妹がいれば的なのを。でだ、やっぱりこのままでいいかなって……」

「それは、なんでだい?」

「いやさ、オレの妹ってことはだぞ? 生みの親はオレや姉さんと同じなわけだ。顔も名前も知らんがな。で、その生みの親だよ。良いか? オレの両親は姉さんとオレと、二人の子供を産んだんだ。で、それが育った結果が姉さん(アレ)とオレだぞ? お前、三人目がそうならないという保証がどこにある」

『あぁ~……』

 

 妙に説得力のある一夏の力説に聞いていた三人揃って納得してしまうような声を漏らす。

 

「別に姉さんが嫌だってわけじゃねぇ。家族として大事に思ってはいるさ。そこは確かだ。……ただ、姉さんみたいなのが上と下の両方と考えると、ちょっとな……。家でのダメっぷりがそのままと考えると、正直勘弁してほしい」

 

 違うんだ、オレが欲しいのは癒しなんだと一夏は呻く。そんな親友の姿を見て、姉弟の両方をよく知っている弾と数馬は苦笑いを隠せない。

 

「織斑くん織斑くん」

 

 チョイチョイと肩を叩いてきた簪にどうしたと振り向いた一夏に、簪は真顔で言う。

 

「実妹が駄目なら義妹にすれば良い。手を出しても合法だから」

「ゴメン、なに言ってるか分からない」

 

 真顔でぶっ飛んだことを言ってのける簪に一夏も引かざるを得ない。時々真顔でこういうぶっ飛んだことを言うのだから実に始末に負えない。

 

「別に、所詮はもしもの話。そこまで気にすることじゃ――お姉ちゃんからメール? ……そう、織斑くん。そろそろ時間」

「あぁ、もうなのか。よし、行くとするか」

 

 予め申し合わせている通り、定刻となったため一夏と簪も移動を始めようとする。その前に弾と数馬への説明も忘れずにだ。

 

「悪いな。ちょっと簪の姉貴、ここの生徒会長に頼まれごとをされててよ。ちょいと生徒会の手伝いに行かなきゃならないんだ」

 

 それを聞くと数馬がおもむろに立ち上がり、すぐ傍の屋上出入り口まで歩いていく。そして出入り口の前に立つと何やら得意げな顔をして口を開いた。

 

「やはり生徒会の出し物か……。いつ出発する? 僕も同行しよう」

「みたら院」

「そこの男子二人、花京院コラごっことかしない」

『サーセン』

「というより数馬くん、気づいてたんだ」

「正確にはさっきの一夏の言葉で最後のピースが嵌ったと言うべきかな。生徒会の出し物というのはこの案内に載っていたからね。で、さっきのこれは――ちょっとしたお茶目かな。一夏がノッてくれたのがありがたかったけど」

「ボケにはきっちりレスポンスを入れる、いつものことだろ。オレらのさ」

「違いないね」

 

 そんなやり取りをしてハッハッハと笑う男子二人に、やれやれと言いたげに簪は首を横に振る。だがその動きをはたと止めると、数秒何かを考えるように黙り込む。

 

「織斑くん、先に行ってて。私は五反田くんと数馬くんに生徒会の出し物の会場の案内をするから」

「ん? おぉ、それなら頼むわ。オレなんか結構こき使われそうだからな、任せるよ。んじゃあ弾、数馬。まぁ楽しんでいってくれや。それなりには面白いはずだからよ。……多分」

 

 そう言い残して一夏も屋上を出ていく。屋上自体にはまだまだ人もそれなりにいるが、先ほどまでの会話をしていたという括りで見れば残ったのは簪、弾、数馬の三人だけだ。

 

「じゃ、二人とも案内するね。けどその前に――数馬くん」

「ん?」

「別に断ってくれても全然構わないけど、ちょっとだけお願いがある。聞いてくれる?」

 

 小首を傾けながら尋ねてくる簪。その口元にはうっすらとした微笑が浮かんでいた。

 

 

 

 




 というわけで次回は学園祭メインイベントのアレです。
多分次回の話で原作でもあったガールズとのドッタンバッタンをやり、次々回でとある人物が巻き起こすちょっとした一騒動をやります。そしてその次々回の最後あたりで、やっとこ連中のお出ましになるかと。

 次回以降のは書きたいと思っていたシーンですからね。頑張ります!
さて、アクションの参考にスターウォーズでも見よう。

 感想ご意見は随時受け付けております。
些細な事でも構いませんので何でもどうぞ。更新した話に限らず、以前の話についていても読んで思ったことなどでも全然構いません。
感想通知を見た瞬間、テンションが上がるのがワタクシです。

……前回来なかったからね。流石に凹んだの……

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