内容を自分なりに咀嚼しようとしてみたものも、あんまり目新しさはないと思います。
試験的な投稿なら別の短編の方に纏めた方がよかったかな?
2017/9/10 那智のリアクションの所が間違っていたので表現を修正
呉鎮守府の一角に、一組の男女。
女は背をしっかり伸ばして立っていて、近未来を連想させるボディースーツを着込んでいた。
男は質の良い木の机椅子に座っていて、これまた質の良い整えられた、白い軍服を着込んでいる。
「どうした。提督」
女の名を戦艦“長門”といい、男の名は言うほどの名ではないが、一般に“提督“と呼ばれている。
そう、二人は世間に名高い戦闘美少女である艦娘と、それを将として率いる提督である。
「あ、ああ」
提督と呼ばれた男は、自らの視線を何度も何度も、長門の眼と机との間で行き来させている。
「先日の出撃、良かったぞ」
そうして、男は天井を見つめ。
場をもたせようと、何とかその言葉を絞り出した。
「当然だろう。あの程度の敵に苦労するようであれば、ビックセブンの名も廃るというもの」
「そう、だな」
提督は視線が乱れ、そわそわしきっている。
あからさまに不審な提督の様子を見かねて、長門が口を出した。
「どうした? 提督。何か変だぞ? 悪いものでも食べたか?」
「いや、その、だな」
提督は露骨に視線を逸らし、長門は首をかしげた。
「変といえば、何故今更、オリョール海だったのだ? 今更、あの海域に“長門”関連の任務が残されていたとは考えにくいのだが。私である必要があったのか?」
南西の海域に位置するオリョール海は、当の昔に鎮守府が制覇した海域だ。
残存する深海棲艦は多少はいるとはいえ、それでも戦艦長門がそこに必要であったのだろうか。
艦娘は縁のある海域に立ち寄ると、特別な反応を見せることがあるのだが。
それが長門に、それもオリョール海にあるとは、長門は考えにくいのだった。
「いや、長門。君に関することだった」
「そうか?」
再び長門は首をかしげたが、提督が机の引き出しから貝紫の小さな箱を取り出すのを見ると、その表情をぐるぐる回し始めた。
「まさか。提督。いや、まさかだ」
「長門。君のことが好きなんだ。ケッコンしてくれ」
提督は箱を開け、箱ごと白金の指輪を長門へと差し出す。
「待った。待って。待ってくれ」
それに対して、長門は真っ赤に顔を染めて、慌てて提督から距離をとる。
「正気か?」
「ああ。うん。正気だよ」
「前も言ったが、私は長門だが。中身はその。男だぞ?」
この長門は普通の艦娘ではなかった。
身体こそ普通の艦娘、長門であったが、中身には長門の精神と共に異世界の提督のものを宿している。
異世界では、艦隊これくしょんというブラウザゲームがあり、異世界の提督はそれで遊んでいたのだ。
そんな提督を宿すこの鎮守府で唯一無二の、そんな風変りな艦が、この”長門”という艦娘であった。
「それでも、君が好きなんだ」
提督も長門の事情については知っている。
それでも、この男は揺るがない。
長門は自らの中に宿る長門ではない存在について公言しているのだから。
それでも、このケッコンを諦める理由にはならなかった。
「そうか」
長門は提督の顔を見ることができなくて、思わず窓の方を見る。
外は海と、雲一つない空が広がっている。
空はあんなに青いのに、どうしてこうも気分は複雑なのだろう。
「しばらく。一人にさせてくれ」
「ああ。そうするといい」
微妙に整っていない敬礼を取り、足取り怪しいまま、長門は部屋を出て行った。
長門が覇気無く、とぼとぼと歩いていると。後ろから桃の髪を揺らす重巡、青葉がひょっこりと顔を出した。
「どもぅ。青葉ですぅ。一言お願いします」
「どうしてこうなった」
青葉は顎に指をあてて、首をかしげた。
「そうですか? 青葉はようやく、と思ったのですが」
それを聞くと、長門は青葉の方にゆらりと首を向ける。
「知っていたのか? 提督が私に、その、好意を寄せていたことを」
「えぇ。しかし、ひどい顔ですねぇ。そんなにショックでした?」
「ああ」
長門の顔は暗い。
さっきまで赤かった顔は、今は血が引いて真っ青だった。
「気づいていないようでしたけど。提督は隠れて、皆さんに相談していたそうですよ?」
「道理で、最近みな余所余所しいと思っていた所だ」
どうやら、前々から提督はケッコンを考えていたらしい。
一時の気の迷いという訳でもないらしかった。
それが余計に、長門には分からなかった。
「で。どうするんですか? ケッコンしちゃいます?」
青葉は期待の眼差しを長門に送るが、長門はその視線から眼をそむけた。
「断ろうと思っている」
「そうですかぁ。残念です」
青葉はわざとらしいぐらいに、肩を落として見せた。
「どうしてそう思う?」
「いやぁ。提督と長門さんがケッコンカッコカリするなら、この鎮守府も安泰だなぁ、って思っただけですよ?」
確かに、ケッコンはカッコカリといえど、めでたい話なのだろう。
提督が信頼できる艦娘と強い絆で結ばれる。
確かに良い話だ、実に感動的だ。
「確かに、私を超える艦はこの鎮守府にいないのだと思っている。そういった意味では、私は適任なのだろうな」
長門もケッコンのシステムは熟知している。
ケッコンすることで艦娘は強化され、運動は効率的になり、さらなる強化の機会に恵まれる。
強くなりたいなら、そして活躍したいなら、まず受けない理由はないはずなのだ。
鎮守府のことも考えると、戦艦長門はこの話を受けるべきなのである。
「だが、お前も私の素性は知っているだろう。私は提督を異性として見ることはできん」
とはいえ、長門の中身が問題であった。
長門の中に宿る提督は、なんでもない普通の男であった。
確かに身体は女性のものといえど、男性の意識として男性を好きになるのは未だ、抵抗があるのだ。
「そうです、かぁ」
「何だその眼は」
「いや、そのぅ。なんといいますか」
青葉の眼差しが暗く、不安げに揺れる。
「何か言いたいことがあるなら言ったらどうだ? この長門、器量の狭い艦だとは思われたくはないのでな」
こちらの不安をあおるような姿だ。
そんな青葉の様子を見かねて、長門は気持ちを引き出そうとする。
「やはり青葉は、長門さんだから、だと思うのですよ。身体に提督さんを持っているからこそ、提督は長門さんを求めているのではないでしょうか」
その言葉を聞くと長門は腕を組み、天井を見上げた。
「そうかもしれんな」
実の所、長門は自分がそこまで自分が優れているとは思っていないのであるが。
中身に提督が中に入っているとはいえ、提督とは名ばかりのただの一般人なのだ。
そんなのが艦娘に入っているぐらいで、普通はそう強くなるはずはないのだ。
しかし、現状は予想を裏切っている。
生まれて提督を見に宿してこのかた、長門は活躍してばかりである。
長門は間違いなく、この鎮守府で一番の艦娘となっている。
自分でも不思議なくらいに、長門は強かった。
そんな自分だからこそ、選ばれているのではないかとは思っているのだ。
「だが、それは私が受け入れる理由にならんよ」
「そうです、かぁ」
提督が長門を求めているといっても、所詮はそれは提督の事情があってのこと。
こちらにも、こちらの事情があるのだ。
こちらが受け入れる姿勢が無い以上、この話は進展しないだろう。
「羨ましいですね」
そんな中、青葉はぼそりと呟いた。
「何がだ?」
「ケッコンなのか、長門さんなのか、はたまた提督なのか。青葉には、よくわかりませんが。青葉は羨ましく感じます」
自身もよくわからないが、とにかく羨ましい。
そんな言葉が長門に伝わるわけもなく。
長門は首をかしげるばかりである。
「そうか」
そうして、二人は簡単に挨拶をして、その場を去って行った。
時は夜。場は鎮守府内にある居酒屋。
ここでは、軽空母である鳳翔が料理を行っていた。
人呼んで居酒屋鳳翔、である。
「あらあら。ここに居たのね、長門」
「ああ」
長門は席に座り、箸でホッケをつついていた。
コップにはウーロン茶が注がれている。
「あ、鳳翔さん、黒ビールとフライドポテトで」
そう注文するのは長門型二番艦、戦艦陸奥。
姉のお堅い長門とは対照的に、柔らかい印象が見受けられる艦娘だった。
陸奥の注文に、割烹着姿の艦娘、鳳翔はこくりと頷いた。
「聞いたわよ。提督にラブコールを受けたって?」
ウキウキと陸奥は問うが、長門の表情は相も変わらず、暗い。
「私は、どうしてここにいるのだろうな」
提督のケッコン申込みを断りたいとは思っているのだ。
思っているのだが。
どうしてか、自分はここにいた。
それがどうして分からない。
「受けちゃいなさいよ。私は祝福するわよ?」
長門は自棄気味に、薄く笑った。
「いっそ那智へのお触りのように、無知を装った方が気も楽かもしれんな」
長門は、妙高型の重巡の一人を思い浮かべた。
ブラウザでの彼女のように、男女の関係を理解せずに受け入れれば、どんなに自分は楽だったのだろうか。
「長門のいくじなしー。こういう時ばっかりヘタレるんだから、もう」
「うるさい。私だってな、私だって」
私だっての、その先は続かなかった。
どうしようもなくなって、長門は再びホッケに手を伸ばす。
「で、実際の所、提督のことはどう思っているの?」
「あの提督は、できる男だ。まさに戦友といったところだな」
長門の返答に、陸奥はあきれてため息をついた。
「そういうのを言っている訳じゃないのは分かっているでしょ? いい加減逃げるの止めなさいよ」
長門はしばらく押し黙る。
やがて、その口を開いた。
「ケッコンを断ろうとは思っているのだがな。だが、どうして中々、踏み切ることができないでいる」
「へぇ」
断る、の所で陸奥は残念そうにしていた。
しかし、続く言葉でその表情は一転する。
「ひょっとすると、自分はケッコンに、そう悪くないと感じているのかもしれない」
長門はそう、物憂げに呟いた。
「あら? 意外ね。衆道がどうのこうやらって茶化すかと思っていたのに」
「私はそこまで臆病者ではないよ」
コップのウーロン茶を飲み、喉を潤した。
全てを飲みほし、コップは空になった。
「少なくとも私は、長門の気持ちには正直でいるつもりだ」
その言葉に、陸奥は納得したようだった。
「あなたが言っていた、戦艦長門のささやき、かしら」
「ああ」
長門の中に提督が宿ってはいても、その中に長門が居ない訳ではないのだった。
長門は自身を提督だと思っていはいるが、長門の意識がこうして時節コメントというか、自分に影響を与えることがあった。
それを彼女は、戦艦長門のささやきと呼んでいるのであった。
「長門が何を考えているのか、自分でも分からないよ」
「長門、ねえ。少なくとも、私はあなたが長門だって言われても、何も変だと思わないのだけどね」
一心同体という訳でもない。
長門といえど、長門を理解できないこともある。
今回は特に、それであった。
何故、自分の中の長門は、提督を拒んでいないのだろうか、と。
「鳳翔。酒を一杯貰えないか?」
その言葉に鳳翔は優しく微笑んだ。
「どれにします?」
「私に酒の味は分からん。一番いいのを頼む」
「では、広島西条のお酒を」
そう言って、鳳翔は長門の目の前で、とくとくと日本酒を注いだ。
「飲むのね」
「ああ」
「ちゃんと部屋に戻ってよね。前みたいに担ぐのは御免よ」
「分かっている。飲んだら直に部屋に戻る」
長門は、財布から紙幣と硬貨を取り出してその場におき。
やがて、コップ一杯の酒を飲みだした。
何度も口にするが、随分と飲みにくそうに、少しずつ喉に通していく。
そして突如として、ぐいっと一気飲みした。
「ご馳走様」
そう言う長門の顔は既に真っ赤であった。
少し怪しい足取りのまま店を出て、寮へと向かっていった。
「何で、提督は長門に惚れたのかしらね」
「長門さんが、この鎮守府で一番”人間”として完璧だから、でしょうね」
「ふぅん? そういうものかしら」
陸奥は、あの姉の姿をみていると、なんとも締まらない姿だと思っていた。
とはいえ、そんな姿もまた姉らしく、また人間らしいとは感じているのであった。
寮にある長門と陸奥の部屋。
そんな中で、若干雑に敷いた布団の中で、長門は仰向けになって寝ていた。
「はー、はー、はー」
息は荒く、あまり快適に寝ているとは言い難い。
「き、気持ち悪い」
長門は普段、酒を飲まない。
彼女の中の提督は、酒好きではあったのだが。
長門の身体は完全に下戸であった。
「み、水」
身動きもとれず、ただ、茫然と呟くばかりである。
「てい、と、く」
そんな言葉を残して、彼女の意識は夢の中にへと消えて行った。
ふと気が付くと、長門は深い海の底にいた。
深くはあるが、日の光は届いている。
だが、周りには何もなく、彼女は孤独であった。
「提督」
そんな中。女性の声がする。
「長門か」
身体を水の中で回転させ、振り返ると、そこには一人の女性がいた。
彼女がそうであるように。彼女もまた、長門である。
「こうして会うのは、二回目か」
「そうだな」
長門が微笑み、もう一人の長門は訝しんでいる。
「どういうつもりだ? どうしてあの提督に気を許している?」
その問いに、長門は照れくさく微笑んだ。
「何、昔の私を見ているようで、親近感を覚えたまでだ」
その答えは、長門には理解できない。
しかし、長門は笑っている。
「寂しいのか?」
「いいや?」
今回の件で、特別喜んでいるという訳でもないようだ。
ただ、毎日が祝福されているかのように、長門の表情は穏やかであった。
「私はあなたと常にある。私はそれで満たされている」
そうして長門は目を瞑り、胸に手を当てる。
そんな長門の姿を、長門はじっと見つめている。
「長門。私はあなたのことが不思議でたまらない。今回の件もそうだが」
前回、長門は長門と会って話をしたが、未だに理解できないことは沢山ある。
納得できないが故に、長門は問う。
「あの時もそうだ。雲の数ほどいる提督の中で、何故私だったのか」
どうして、自分は選ばれたのか。
どうして、自分はここにいるのだろう。
どうして、ただの提督であった自分が、この世界で長門としているのだろうか。
「あなたとは縁があったからだろう。後は私が勝手に呼んだだけだ」
長門としても、特定の誰かを選んだわけではなかった。
ただ、長門としては、自分を理解してくれる人と出会え、一つになれた。
そのことで胸がいっぱいであった。
「勝手にか?」
「うん? ひょっとすると、悪かったか?」
流石にバツの悪い顔になる長門。
悪いことをしたとも思ってはいるようだった。
「いや、今はもう、いい。前の世界に未練はあるが。ここもそう、悪くはないからな」
とはいえ、この出会いは長門にとっても悪い話ではなかった。
戦艦長門に気を許した結果、長門と一つになれた。
そこには新たな出会いがあり、それはとても刺激的であったのだから。
「私も、あなたといれるというのは嬉しいよ」
「そうか。私も嬉しい」
二人は同じ微笑みを浮かべた。
「そして、今回、あの提督が考えていることもそうだろう」
一人の長門の表情が沈む。
「長門。教えてくれ。あの提督は、何を考えているのだ。私は、どうすればいいのだ」
もう一人の長門が腕を組み、うんうんと頷いた。
「心配するな。あの提督も、私たちと同じだよ。人としての完全を目指しているのだ」
「人としての、完全、だと?」
長門は光差す空を見上げた。
そうして語り掛ける。
「私は、かつて、人として満たされていなかった」
かつて彼女は孤独だった。
光の中に潰え、再びこの世に生を受けた。
そうした彼女の中には、ぽっかりと穴が開いていた。
「艦娘として生まれたはいいものも。どうしようもなく、私は不完全だった」
足りないものを埋めるため、彼女は人を求めた。
しかし、誰も彼女の欠陥を埋めてくれない。
この世の人では駄目だった。
欠陥を塞ぐことはあれど、完全に埋めることはできなかった。
「だからこそ、完全を目指した。だからこそ、あなたをこの世界に、私の中に呼び寄せた。そうして、私たちは一つになり、満たされることになった」
だからこそ、真に自分と一つになれる人を。
異世界の提督を、自らに求めたのだった。
「あの提督もきっと、満たされてはいないのだろう。そして、あの提督は、ただの人故に。完成することは、きっとない」
人としての欠陥は、誰しもが大なり小なり持っているものだ。
艦娘はちょっと違うだけで、人である限り、持っていて当然のものなのだ。
「だからこそ彼は、完全なる私たちを求めているのだろう」
長門は全てを理解し、飲み込まんとしている。
彼女の中に、何かが渦巻いていた。
「私は」
「彼に全てを委ねる必要はない。私たちは真に、私たちだけのものだ」
長門の言う通り、彼と一つになる必要はない。
そもそも、彼とは一つになれないであろう。
「だから、完全なるものとして、彼を受け入れるだけでいい」
だからこそ、彼の隙間を埋めるのではなく、塞ぐ関係であるべきだった。
例え、それが代償行為に過ぎないとしても、不完全さによる孤独を解消するには、それしかないのだから。
「それが、提督としての、彼にとっての救いとなるのだろう」
長門はそう、締めくくったのだった。
翌朝、長門はいつものように提督の部屋を訪れた。
「提督」
長門の姿を見ると、提督は気まずそうにしていた。
「長門か」
二人の間にしばらくの沈黙が流れる。
「私は提督を提督として認めてはいる。しかし、恋仲としての男とは、認めることはできん」
その言葉を聞くと、提督は露骨に肩を下ろした。
「そうか」
だが、長門は続ける。
「しかし。提督はこの鎮守府で男一人だ。寂しかろう。それは分かる」
うんうん、と頷く。
「だが、これからは安心していい。
そうして、提督に微笑みかけた。
「それでよかろう」
そうして長門はそっぽを向いた。
その言葉を聞くと、何とも言えない表情で、提督は笑うのであった。
「ありがとう」
これが二人の、強い絆で結ばれる切っ掛けであったのだ。