Waterloo   作:倉木学人

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アズールレーンの赤城さんすこなんだ。
という訳で、この話だけクロスしてます。

他の話と違って趣味多分で、暗くて救いのない話なので。
まあ、あれですよ、DDLCのスペシャルポエムみたいなもんです。


特別編:ダンシング・クイーン

 エラー、というものがある。

 つまりの所、異物であり想定外である。

 それは多くの場合に嫌悪され、排他の対象となることが常である。

 古代スパルタでは、健康でない子供はその段階で捨てられてきた。

 これは昔や外国に限った話ではなく、日本でもそういうことが往々にしてあるのである。

 

 しかしエラー自身は、自ら望んでこの世に生まれた訳ではないのだ。

 彼らはただ、“望まれたから”この世にいるのだ。

 

 これは、それだけの話である。

 

 

**

 

 

「何かしら。提督」

 

 ポニーテールに、堅い表情。

 空母娘である加賀は、誇り高き一航戦の片割れである。

 彼女は空母として高い性能を持ち、必然的に作戦の要を担ってきた。

 作戦が終わって間もなく余暇を過ごしている中、彼女は自らの上司に呼び出されていた。

 

「ああ、加賀か」

「ああ、って。提督が呼んだのでしょうに」

 

 偉そうに机椅子に座り、実際偉い男。

 艦娘を指揮する提督。

 その一人が、この男である。

 前線に出ている訳ではないが筋骨隆々で、男として何一つ恥ずかしくないと言えるだろう。

 無精髭で悪人面ではあるが、それでもワイルドであると皆思っていた。

 

「それで、何の用かしら」

「加賀を呼んだのは、他でもない。赤城の事なんだが」

「ああ。赤城さんですか」

 

 加賀は自らの片割れを思う。

 あの人と、提督との間で何かあったのだろうか。

 すぐに思いついたことを口に出す。

 

「ケッコンのご相談ですか?」

 

 それを聞くと提督は葉巻とを取りだし、口に加えた。

 マッチをこすって、葉巻に火を灯す。

 そうして目を瞑ったまま、煙を大きく吐いた。

 艦娘だらけの空間とはいえ、このご時世に良い身分である。

 

「提督?」

「そういう冗談やめろよな。ホント、洒落にならん」

 

 提督の顔は、最初から変わっていない。

 彼は極めていつも通りを心掛けている。

 面倒な仕事があって、それと向き合っているだけだ。

 

「提督は、赤城さんの何が不満なので?」

 

 艦娘といえば容姿も性格もバラバラであるが、全員が美女である。

 これは歴史に語られ、祀られた結果であるという説があったりなかったり。

 そうした魅力は、艦娘自身も分かっている。

 自身の相方は、誰にも劣らぬ魅力を持っていると加賀も思っているのだ。

 

「愛が重い」

 

 ここの赤城は提督LOVEを公言して憚らず、提督との時間を作ろうと四苦八苦しているのは誰でも知っている。

 提督はそれをばっさり、重いと切り捨てる。

 

「それの何が不満なのかしら?」

「あの赤城とケッコンなんてしてみろ。アイツ絶対俺のこと掴んで放さないだろ。現状でもキツいってのに、アイツと四六時中一緒の生活だなんて御免だね」

 

 提督も軍人である。

 必要とあれば、自らの時間を犠牲として国を守ることに何らためらいはない。

 とはいえ、自分の時間が欲しくない訳ではない。

 

「俺も好きで提督業やってる訳じゃねーんだよ。日々の業務でも忙しいのに、お前らの相手なんぞしてられっか」

 

 深海棲艦との戦争。

 そうした中で与えられた僅かな時間を、他の誰かのために使おうとは思っていないのである。

 結婚は人生の墓場とされる。

 この提督は、ケッコン指輪に単なる強化パーツ以上の価値を見出していなかった。

 

「俺は後腐れの無い、美人のねーちゃんたちと遊ぶのが好きなんだよ」

 

 そう言って、提督は煙を吐く。

 軍人とは思えない発言であるが、ここまでとなると逆に清々しい。

 包み隠すは世の心得とはいえ、やはり正直は美徳であろうか。

 

「最低ですね。仮にも提督ともあろう方の発言とは思えません」

「どうとでもいえ」

 

 加賀の目線は冷たいが、提督は気にしていない。

 部下の不平不満をいちいち真に受けていては、提督はできないのだ。

 

「それで、私に何のようかしら」

 

 加賀はため息をつく。

 提督の発言に不満はあるが、提督が折れることはないだろう。

 それを察して、加賀は提督の発言を促す。

 

「赤城を処分するには、どうしたらいいと思う?」

 

 その瞬間、部屋の温度が一気に下がった。

 加賀が殺気を放ち、提督を射殺せんとするほどに見つめる。

 それほど、加賀にとって提督の発言は静観できるものではなかった。

 

「よりにもよって、それを私に聞きますか?」

「おい、俺を誰だと思っていやがる」

 

 加賀に殺気をぶつけられても、提督はびくともしない。

 この提督には、殺気をぶつけられてなお、ぶつけ返すだけの胆力を持っていた。

 

 軍において、上司の権限は絶対である。

 武力は加賀が圧倒しているが、この場は提督が支配していた。

 

「頭に、きました」

「だろうな」

 

 加賀はハッと正気に戻る。

 そして即座に謝罪し、己の非を認めた。

 

「だが、アイツのことを良く知っているのは加賀だけだからな」

 

 赤城の交友関係はかなり狭い。

 加賀が一番親しく、後は蒼龍や翔鶴たちと多少の交流があるだけである。

 護衛する駆逐艦たちには怖がられてすらいる。

 そういう訳で、こういった話が加賀に回ってくるのは当然といえば当然なのだろう。

 

「理由を、聞かせてもらってもいいかしら?」

「うん? ぶっちゃけ。アイツ、邪魔だ」

 

 邪魔、という言葉に加賀は少しだけしかめ面を作る。

 加賀も分かってはいるが、それを言ってはいけないような感じがしている。

 

「戦果は、問題ないはずですが」

「それ以外が問題なんだよ」

 

 提督は頭の後ろをボリボリと掻く。

 赤城の実力は認めるところである。

 他のいかなる空母や艦種と比較しても、彼女を超える艦はいないぐらいに。

 しかし実際の所、洒落にならないぐらいには提督も迷惑に思っているのだ。

 

「提督である俺を、毎度のように誘惑しやがって。アイツは何がしたいんだ? そんなに俺の業務を邪魔するのが好きなのか?」

 

 提督LOVEを通り越して、肉食系動物の域に達している女である。

 暇があれば、こちらへのセクハラを繰り返してくる。

 見た目が良いのもあって、男として正直身体に悪いのだ。

 

「赤城さんは。提督のことを思って」

「本当に俺のことを思っているのなら、俺の思っていることを察して動くべきだと思うんだがね」

 

 一方的に相手のことを想い、支配しようとする。

 正直、それが真に愛と呼べるのであろうか。

 それは甚だ疑問ではある。

 少なくとも健全な関係というのは、互いに適切な距離を取り、互いに思いやるものであるのは確かであろう。

 

「それは。そうですけど」

 

 赤城の味方であろうとする加賀としても、それには反論ができない。

 正直の所、彼女からしても目に余るものがあるらしかった。

 

「それでも、女といちゃつきながら日本ぐらい救ってみせろってか? 自分の女を戦場に送ってか? 冗談じゃないぜ」

 

 というか、ぶっちゃけ上官が部下と関係を持つというのは、人としてどうなのだろうか。

 ファンタジーものではよくある関係なのかもしれないが。

 実際にするのは、どうかしているのではなかろうか。

 

「とはいえ。俺も、アイツを簡単にどうにかできるとは思っていない。誰よりも妖怪染みた女だからな」

 

 この鎮守府の赤城は艦娘として例外の多い女である。

 本人が言う所によると、“ゲームシステムが違う”と表現しているように。

 普通は、艦娘は撃沈されればそれでお陀仏であるが。

 彼女にも、それが適応されるのであろうか。

 

「ぶっちゃけわざと沈めても、自力で復活しそうな気はするからな」

「流石にそれはどうなのかしら?」

「アイツの燃費とか知っているだろう。ホント、異常だからな。何が起きても驚きはせんよ」

 

 例えば、正規空母というのは揃って大食らいであるのが常であるのだが。

 赤城は菓子と飲物さえあれば三日は戦えると公言しているし、実際にそうしたこともある。

 それほどに、規格外の存在なのだ。

 提督からしてみれば、赤城だけは何があっても不思議ではないのだ。

 

「という訳で、アイツの事は加賀、お前に任せたい」

 

 加賀としては、複雑な気分である。

 自分がこの件を引き受けねば、という思いがある。

 そして、どうして自分が、という思いがある。

 納得はできるが、理解はしたくなかった。

 

「私が、ですか」

「俺の名と権限を好きに使っていい。手段は問わんから、アイツをどうにかしてみろ」

 

 このままでは、赤城は処分される。

 それは確実なのだろう。

 提督はやると言ったらやる男である。

 修羅場を正確に見定め、いくつも潜り抜けてきた確かな物がこの男にはあるのだ。

 

「真にアイツのことを思うなら、自分の手でどうにかするこった」

 

 自分が、赤城さんをどうにかしてみせる。

 静かにそう決意を抱く。

 一息いれて、加賀は頷いた。

 

「了解しました」

 

 それを聞いても、提督の顔は晴れない。

 やや言いにくそうにして、提督は続けて口を開く。

 

「しかし―。これは命令ではない。本当なら、俺自身がどうにかするべきなのかもしれん」

 

 部下を管理するのが上司の役目ではある。

 場合によっては、部下を切るのもその役目の一つである。

 それでも、自ら手を汚す必要はなくはない、と言った所だが。

 自ら手を汚すのが、ある意味で“綺麗“ではある。

 

「それでも、やろうと思うか?」

「やります」

 

 今度こそ、きちんと加賀は言い切った。

 彼女にもはや、迷いはない。

 礼を取り、静かに退室しようとする。

 

「加賀は、どうしてそこまでアイツに関わろうとする?」

 

 そんな彼女を、提督は呼び止めていた。

 本当は、呼び止めるつもりはないのかもしれない。

 彼には、まだ迷いがあった。

 

「こういっちゃ悪いのは分かってはいるが。アイツは自分の片割れと名前が同じなだけの、別人なんだろ?」

 

 加賀の足が止まる。

 それは、事実でもある。

 そういったことを意識しなかったといえば、嘘になる。

 

「確かに、赤城さんは私の知る赤城さんではないのでしょう」

 

 それは、本人も認める所である。

 彼女は、かつて加賀と同じ戦場で戦った“赤城”ではない。

 所属していた組織も、似てるだけの違った組織である。

 

「ですが、私は赤城さんに死んでほしくないんです」

 

 だが、それでも疎遠となる理由にはならない。

 加賀にとってはそれだけの魅力が、彼女に然りと存在しているのである。

 

 ―死ぬのは嫌だ。

 

「私は、仮にも赤城さんの名を持つ船が、私より先に沈むことを許容できない。ただ、それだけのことです」

 

 それが、提督に理解されるかは微妙である。

 恐らく、他の誰かにも理解されないものであろう。

 それは艦娘が抱えることのある、一種の偏執病である。

 

「失礼しました」

 

 そう言い残して、加賀は綺麗に出て行った。

 提督はその光景を、ただ何も思うことなく見つめていた。

 

「よくわからんな。いや、いかんな」

 

 葉巻を灰皿へと押し付け、その火を消した。

 

 

**

 

 

 各艦娘には、プライベートな空間として部屋が与えられている。

 そしてそれは、誰かとの共同の部屋であることが決められている。

 ただ、部屋には空きが多めに存在し、一人であることを望む艦娘が居ない訳ではない。

 それでも一人一部屋は極めて稀な処置である。

 その理由としては社会における艦娘の定義が軍人であり、軍人同士の連帯感を高める処置であるからなのだろう。

 

「赤城さん。話があります」

 

 加賀は自分に与えられた部屋であり、そして自らの共同生活者である赤城の元に訪れていた。

 とりあえずは、と思いここを訪れたが、どうやら一発正解であるらしかった。

 

「あら、加賀さん」

 

 周りから特異、特異と言われている赤城であるが、容姿についてもオンリーワンである。

 加賀の姿は完全な人型であり、それに清楚な弓道着、とった出で立ちであるが。

 赤城は九尾の狐の姿であり、それに派手な和服である。

 人を見下したような視線もあり、加賀としても正直に言って悪役臭いとは常々思っている。

 これらのせいで同じ一航空戦ではあるが、同じに見られた試しがない。

 

「単刀直入に言いましょう。これ以上、提督に近づかないでください」

 

 赤城はそれを聞くと、笑みを一層深めた。

 背後の黒い尻尾がゆらめく。

 

「加賀さん? それはこの赤城と敵対を? いえ、でも加賀さんとなら、指揮官様と一緒に居てもいいですわぁ」

 

 加賀はこめかみに手を置いた。

 これは言い直すべきだろう。

 じゃないと基本脳内お花畑に、言いたいことは伝わらない。

 

「ああ。言い方が不味かったですね。セクハラ行為を止めてください。提督が迷惑しています」

 

 その言葉を聞くと、赤城は豆鉄砲でも食らったのか急にしおらしくなった。

 尻尾も耳も、元気なく垂れている。

 

「薄々感じてはいましたが、とうとうこの時が来たのですね」

「赤城さん?」

 

 いつもの赤城なら考えられないほど弱気な口調だ。

 常に根拠もなく自信満々でいるのが加賀の知っている赤城であるのに。

 

「指揮官様は、この赤城のことがお嫌いなのでしょう。それは理解しています」

 

 どうやら、赤城は自身が提督の迷惑になっていることを自覚していたらしい。

 そして、ならどうして、と思わないでもない。

 

「しかし。この赤城は、指揮官様のことを愛しています。そしてそれは、このような方法でしか表現できないですし、止めることはできないのです。今までがそうであったように、赤城は指揮官様に甘えとうございます」

 

 その言葉に、加賀は何とも言えず。

 とりあえずは、もっと話を聞くべきだと感じた。

 

「とりあえず。飲みませんか?」

 

 加賀は手ごろなジュースを取り出した。

 因みに、赤城は酒を飲めない。

 本人曰く、飲む習慣が無いらしく、また本人にもその気がないらしい。

 

「どうして、赤城はこの赤城なのでしょう」

 

 やはり、いつもの赤城であると感じられない。

 今まで決して見せることのなかった姿に、加賀は若干の困惑を覚える。

 

「もし、赤城が加賀さんの知る赤城であれば、指揮官様に別のアプローチがあったはずですのに」

 

 もしそうだったら、それを加賀も考えたこともある。

 自分が知っている赤城は極めて普通で、真面目な人だった。

 初めてこの赤城と出会った時は、盛大に困惑を覚えたことを今でも覚えている。

 

「私は好きですよ」

 

 ではあるが、加賀はこの出会いに感謝をしている。

 その気持ちに間違いはない。

 

「何があっても沈まなさそうな貴女が好きです。私の目の前にいる赤城さんが、私の知る赤城さんです」

 

 初戦で、赤城が化物染みた戦闘力を発揮したのを覚えている。

 技も経験もへったくれもない、まさしく蹂躙と呼ぶにふさわしかった。

 それを見た時から、加賀は赤城に対する印象を改めたのである。

 

「そう言ってもらえると、嬉しいですわ。ああ、駄目ですね。ここの山城のようなことを言ってしまいました」

 

 赤城はそれに、力なく笑うのであった。

 耳や尻尾から、相変わらず力を感じられないのである。

 

「赤城さんは、これからどうしたいのですか?」

 

 問題はこれからであろう。

 これから赤城はどうするのか。

 つまり、赤城はどのように更生するのか、ということである。

 

「赤城の思いは、指揮官様にお会いしてから何も変わっていませんわ。指揮官様を私のモノにしたい。それだけです」

 

 それは普段の彼女と何も変わっていない。

 つまりは、現状維持を望んでいるのである。

 

「その願いは叶いませんよ」

 

 駄目だ、駄目なのだ。

 あなたは、赤城はそれを望んではいけないのだ。

 

「それも存じています」

 

 その願いが叶わぬと知っていながら。

 それでも、彼女は望まずにはいられない。

 

「ああ。指揮官様を無能共から略奪してしまいたい。そして、閉じ込めてしまいたい。そうしたら、永遠に指揮官様と、うふふ」

「発想が完全に悪役のそれですね」

 

 そう言って、赤城は妖艶に笑う。

 その思想はまさしく、女捕食者のそれであろう。

 

「流石に実行はしません。できるならしたい所ですが。許されることではありませんね」

 

 急に真面目な顔になって、そう赤城は告げる。

 普段からして、ただの色ボケにしか見えないが、そこら辺の良識はあるらしい。

 

 ただ、加賀としては先ほどの台詞に違和感を感じた。

 

「というより、無能共、とは。それは聞き捨てありません」

「事実でしょう?」

 

 何を当然、といった感情を赤城は隠そうともしていない。

 それは艦娘たちと“彼女“との決定的な思想の違いであった。

 

「大本営も国民も。総じて無能揃いですわ」

 

 自分自身の上司たちと守るべき国民を、それを無能呼ばわり。

 ここに来て、赤城は馬脚を現していた。

 

「我々が、忠義を捧げるべき方々ですよ」

「この赤城。無能共に捧げるものは何も持ち合わせておりません」

 

 軍人とは、公務員であり全体の奉仕者である。

 である、のだが。

 加賀は冷静になろうと自らを保ちながら、なんとか赤城を諌めようとする。

 それでも赤城の思想が変わることは一切無いのだが。

 

「何故、臣民の平和のためだとか。どうでも良い大義などというもののために、御霊を捧げなければなりませんの? 赤城は赤城自身のため、そして指揮官様に捧げるために戦いとうございます」

 

 確かに、平和は素晴らしいものなのだろう。

 それぐらいは赤城にも分かっている。

 分かっているが、そのために自分が頑張る事なんて冗談じゃない。

 そんなことは他の誰かが、あるいは自分で守ればよかろうなのだ。

 

「その愛を、他の提督に捧げるつもりは?」

 

 まだだ、まだ修正できる。

 そう思えないでいながら、加賀は提案する。

 

「ああ。あの有象無象の凡骨共ですか。赤城はそんな軽い女ではありませんわ」

 

 赤城にとって、他の提督なんぞ興味はない。

 連中は今まで腐るほど見てきた凡俗共であるのだから。

 

 だが、あの提督は違う。

 だからこそ、ここまで固執しているのだ。

 特別だからこそ、自分のモノにする価値があるのだから。

 

「赤城さん」

 

 ここに来て加賀は、どうしようもない思想の壁というものを感じていた。

 どうにかなるのだと思っていた。

 まだ彼女には未来があるのだと思っていた。

 

「私は、提督から権限を預かっています。邪魔者を処分せよ、と」

 

 だが、違うのだと理解した。

 提督の言うとおり、彼女は邪魔なのだ。

 彼女はどうしようもなく、我々にとって異端すぎるのだ。

 

「これからどうなるか分かっていますか?」

 

 なら排除するしかない。

 加賀にとってそれは認めることができないが、納得しかない。

 二人にとって、とても残酷な現実だった。

 

「赤城はどうもしませんわ。とっくにこうなるのが分かっていて、それでもこうするしかなかったのですから。煮るなり、焼くなり。好きにしなさいな」

 

 加賀はとても、哀しげだ。

 他人の気遣いなんてできない“彼女”でもわかるぐらいに。

 そして、これからどうなるかも分かっている。

 

「結局、“俺”は怪物でしかないのでしょう?」

 

 そこにあるのは、生まれ変わって力を得たとしても。

 何も、何も変わらない。

 “彼女”と“彼”の絶望であった。

 

 

**

 

 

 提督は、駆逐艦娘から連絡を受け取っていた。

 

「何? 加賀が帰投しない?」

「はい」

 

 その場にいた、駆逐艦娘はやや困惑した表情でそのことを伝えている。

 頼れる人が二人、突然居なくなった。

 そのことに困惑しても、無理はないだろう。

 

「そうか」

 

 公式な任務という訳ではないが、それでも“意向“を伝えた部下が戻らない。

 その事実に、提督は一種の結末というものを感じ取っていた。

 

「提督?」

「何でもねえよ。加賀は役目を完了したってことだろ」

 

 恐らく、何かしらの方法によって加賀は役目を果たしたのだ。

 その結果、加賀がどうなったかまでは分からない。

 

「わかった。ご苦労」

 

 ただ一つ、確実なこととしては。

 赤城も加賀も、二度と提督の前に姿を現すことはないだろう。

 そういうことだ。

 

「しばらく、一人にしてくれ」

「了解です」

 

 駆逐艦娘は敬礼し、その場を去って行った。

 

 提督は葉巻に火をつけ、深く煙を吸った。

 これから、始末書やらの書類仕事が自分を待っている。

 

「つくづく、どうしようもねえな」

 

 邪魔者が消えるべくして、消えた。

 だが、失ったものが二人。

 

 それの影響が、あまりにも大きすぎる。

 どうしようもなかったとはいえ、これはどうなのだ。

 

 提督の気分は晴れなかった。

 




RPGで見る今作の主人公たち

長門:騎士。
戦いの華であり要。正面からの殴り合いを得意とする。

不知火:盗賊。
ヒット&アウェイを主とする。場合によっては搦め手も使う。

赤城:ユニークモンスター。
ボス特権により膨大なステータスを誇る。味方だとバランス崩壊。
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