20XX年3月某日、新潟県
突然ですが私こと
起床ラッパが鳴り響き、点呼の為に移動する多数の靴音を聴き、私は漸く
「昨夜は雪が多く降ったようで外は膝上まで積雪している、各部屋3名人員を出すように。」
当直の曹長殿の通達を寝ぼけながら聞き流して考える、今日も一日寒そうだ。
「それと杉崎兵長はこの後中隊長室に向かうように。以上各人員を選定後行動に移れ、解散ッ!」
『敬礼ッ!』
・・・なにやら今日はいつもと違うようだ。
私はなにか怒られるような事をしてしまっただろうか?それとも急な衛生支援だろうか?
だがそれならばまず先に小隊長や小隊陸曹から通達があるはずだ。
答えが出ないまま歩いていると、前方から見覚えのない若い顔の女性が向かってきた。
私の所属する新発田駐屯地は他の陸軍駐屯地と比べると人員が少なく、名前がわからずとも顔はわかる程度しかいないのである。ましてや女性隊員となると両手で数えるほどしかいないのである。
昨日の通達では来賓はいなかったはずだと思い相手をよく見てみる。
白い制服を身に纏う姿は海軍将校、うろ覚えの記憶を引き出して階級章を見ると二本の金の線と間に桜が一つ・・・。
『 少 佐 』
慌てて廊下の端に寄り、道を開けて敬礼をする。
「お、おはようございます!早朝からの勤務お疲れ様ですッ!」
すると海軍少佐殿(仮)は恥ずかしそうに答礼をしながらこちらに近寄ってきた。
「あ、あのぉ・・・本部管理中隊の中隊長室ってどこにあるのでしょうか?」
・・・どうやら彼女はこのクッソ狭い駐屯地で迷ったようだ。
自分も中隊長室に呼ばれていることを伝え、道案内をすることになった。
とは言ってもあと20歩も歩けば着くのだが何も言うまい。
中隊長室の目の前に到着し、身だしなみを確認してからドアをノックする。
「衛生小隊杉崎兵長他、来賓の方一名到着いたしました!」
「どうぞ」
部屋の中から我らが中隊長殿の許可が出たので少佐殿に確認し、ドアを開けて中へ案内する。
「朝早くから呼び出してすまないな、そちらの方の時間が無いようなので手短に言おう」
中隊長の声色的に怒られるわけではなさそうなので一安心していると
「杉崎兵長、上から君に帝国海軍所属の基地へ異動するように辞令がでた。」
「はっ・・・申し訳ありません中隊長、自分の聞き間違えでなければ海軍所属と聞こえたのですが間違いではないのですか・・・?」
「それについては私から説明をします。」
少佐殿改め、
提督とは、『妖精』と呼ばれる小人を認識でき、それと会話ができる素質を持ち、現在世界中の脅威となっている正体不明の生態兵器『深海棲艦』と唯一対等に戦える存在、『艦娘』を指揮する者の総称である。
宮川少佐は素質により政府から直に提督へと任命されたのだが、少し前まではただの大学生であったそうで自分を補佐してくれる人材を探していたそうだ。
しかし海軍部は度重なる深海棲艦との戦闘により消耗し人材不足、上層部が艦娘の秘匿性を重視した人事の結果、素質のある極わずかの者もしくは家柄が高貴で確かな方々しか関われず人材探しは難航してしまったようである。
そんな時、陸軍部からもしかしたら素質があるかもしれない隊員がいるという情報が入り、ぜひとも人材を融通してくれと交渉し現在に至るそうだ。
この素質があるかもしれない隊員が私と言うことらしい。
確かに過去に小人のような生き物を見たことがあるが、疲れによる幻覚だと思って笑い話で同期に話したことがある。どうやらそれが何故か偉い方々の耳に入ったようである。
なんにせよ上が決めたことに逆らう気もないので私は了承した。
「自分のような者でよろしければ、宮川少佐よろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いします、杉崎兵長。」
「よし、では杉崎兵長はさっそく異動の準備に取り掛かれ、出発は明日早朝だ。」
中隊長の悪戯が成功した時のような顔と共に私の本日の、又、これから先の忙しい未来が決まった瞬間である。
クソ忙しい異動準備が消灯時間ギリギリになんとか終わり、同期達と隠れて小さな壮行会をしてもらい翌日の早朝になった。
起床ラッパはまだ鳴る時間ではないが身だしなみを整え、少ない荷物を持ち、いまだ眠る同室の仲間や駐屯地に別れを告げ私は岩川基地に向け出発するのであった。
車での長時間移動を覚悟していたが、上の計らいにより飛行機を用意してくれたおかげで3時間程度で鹿児島に到着することができた。
しかしここで問題が発生した。
迎えが、いない。
「交通機関はどうだろうか・・・。」
『バス故障につき運休中』
「・・・散歩だ、これは健康のための散歩だ、そう考えるべきだ。」
こうして私の一人行軍が始まった。
一方岩川基地では
「今日、新しく配属される方の迎えって誰が行ったんでしたっけ?」
「えーっと、確か提督が自分が迎えに行くとか言って出てったような・・・。」
「「・・・あっ」」
「捜索隊を今すぐ結成しろ!」
「空母は艦載機を飛ばせ!すぐにだ!」
「こんな時の為に提督の制服にGPS付けときましたよ!」
「「「「でかした!」」」」
「執務室に制服がありました!」
「くそがああああ!」
とても賑やかであった。
さて散歩(約60㎞)を歩き始めた私はどうしているかと言うと意外と楽しんでいた。
出身地の栃木と勤務地の新潟しかろくに出歩いたことがなく、歩く距離さえ無視すればただの観光のようなものだった。
訓練での100kmよりは短いし頑張って歩けば今日中には到着するだろうと楽観視してこの状況を楽しむことにした。というよりもそうしないとやってられないのが本音ではあるが。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと視界に何かが入ってきた。
手のひらに乗るくらい小さな人形のような生物・・・。
「なるほど、これが妖精かぁ・・・。」
以前見たときは疲れ果てていてしっかり見る気力もなかったが今回はきちんと認識することができた。どうやら見たところ4人?いるようだ、ヘルメットをかぶり木材や金槌、包帯を持っている3人組と、それを指揮する頭に鉢巻を巻き、法被を着て電動ドリルのようなものを持っているのが1人・・・。
「これは・・・大工の妖精か?」
なんだか眺めてると子供のごっこ遊びのようで微笑ましい光景である。
「確か鞄の中にあったはずだが・・・お、あったあった、おーいそこの妖精さん達や、ちょっといいかい?」
私が声をかけるとびっくりしたようにこちらに振り向き、4人で顔を合わせ・・・警戒しているようだ。
意を決したように法被の子が前に出て何の用だとばかりに胸を張って睨んでくる。膝が震えているのは見ないであげよう。
「そう警戒しないでくれ、ちょっと聞きたいんだが君たちは岩川基地ってわかるかい?一人だと道に迷いそうで知ってたら道案内を頼めないかと思って声をかけたんだ。」
そう言うとまた4人で顔を合わせてなにやら相談しているようだ。
「もちろんタダ働きとは言わないぞ、報酬はこれだ。」
そう言いながら鞄の中から金平糖の入ったガラス瓶を取り出してみせる。
4人の動きが止まり視線が金平糖に固定される。
「さらに今なら前払いでキャラメルもあげよう。」
こうして交渉はつつがなく交わされた。
「いやー助かるよ、君たちの言葉がわからないのが残念だけど雰囲気で何とかなるもんだね。」
頭と両肩に彼女たちを乗せて歩くこと数時間、ようやく半分くらい進めたかなと言うところで法被の子が私の頬を叩て道の先の方を指さす。
「えーっと、あれがここだから今いるのは多分ここで・・・あれ?こっちかな?ふぇーんわかんないよぉ」
車の中で地図をくるくる回して泣いている見たことのある顔の女性がいた。
「わざわざ宮川少佐が迎えに来ていただけるとは思ってもいませんでした、ありがとうございます。」
車を
「本当はですね、空港まで行くはずだったんですけど何故か地図通りに進んでもたどり着けなかったんですよ・・・。」
と顔を赤くしながら蚊の鳴くような声で宮川少佐は言った。
「ま、まぁそのおかげで彼女たちと出会えましたので良かったと思いましょう。」
ルームミラーで後部座席を見てみるとキャラメルと金平糖を少しずつ分けて楽しそうに仲良く食べている4人が見える。
「やっぱり杉崎兵長も素質があったんですね!よかったです。」
「はい、一応あるようです、しかし残念ながら彼女たちの言葉はわかりませんでした。」
「あぅ・・・そうでしたか、でも見えるだけでも十分すごいことですよ!」
「確かにそうですね・・・、なんだか昨日までとはまるで違う世界ですよ。」
「ふふふ、なら基地に着いたらおとぎ話に迷い込んだと感じるかもですね。」
「それは大変なことになりますなぁ。」
そんな他愛もない話をしているとようやく目的の場所が見えてきた。
「あっ杉崎兵長!ほら、見えてきましたよ!」
ここが私の新しい勤務地だ。