閃乱カグラ 少女達の記録 【忍の業】   作:なまなま

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 目まぐるしく移り行く現代社会の影には、古来より受け継がれてきた術と心得を携え、過酷で儚い定めに生きる者たち―『忍』の姿があった。
 これは忍の生き方に翻弄されながらも、信じる道を健気にひた走る少女達の記録である。


第一話 邂逅

 午後十時。丸い丸い月が浮かぶ冬の夜。雲一つない空から、澄んだ空気を貫くように煌く星々が街を見下ろし、人気のない浅草の裏路地すら明るく照らし出していた。

 

「こんなに明るい夜は久しぶりな気がするね」

 

 黒髪をポニーテールに束ねた少女が両手を擦り合わせつつ歩いていく。彼女の琥珀色の瞳は満天の星空を見上げていた。小柄な体を黄土色のコートですっぽりと包んでいるが、服を押し上げている豊かな胸の膨らみは隠しきれていない。

その谷間に揺れる桃色のマフラーを、長い金髪に青のリボンをあしらった少女が隣を歩きつつ、草色の瞳で無遠慮に見つめる。モコモコとしていて暖かそうな白のファージャケットのポケットに手が突っ込まれ、ショートパンツから伸びた肉付きの良い脚は灰色のレギンスと茶色のブーツで覆われている。こちらもまたジャケットが巨乳で膨らんでいた。

 

「ホント久しぶりだよなー。飛鳥と二人きりで夜出かけるなんてさ」

「かつ姉、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、ずーっと私の胸を見るのなんとかならない?」

「ならない!厚着に押し込められながらも存在を主張し続けるおっぱいと、それに挟まれる手編みのマフラー!」

 

 かつ姉と呼ばれた少女が飛鳥の胸を指差しながら興奮した口調で続ける。

 

「わからないかね!半蔵様の孫なら!この抗いがたい魅力を放つ果実とシチュエーションが!」

 

 ―半蔵。現代の裏舞台に今なお存在する忍の世界において伝説と称えられる、ちょっぴり助平で偉大なる忍である。飛鳥はその孫であり、彼女もまた忍の道を志す忍学生であった。

 半蔵の名を冠する国立半蔵学院には世間から隠された忍学科が存在する。その二年生である飛鳥は、三年生の葛城とともに、切らしてしまった文房具類の買い出しにコンビニへ向かっている途中であった。

 

「・・・シチュエーションって言うけど、かつ姉は学校での修行中でも同じじゃない」

「なんだ?修行中と同じように見るだけじゃなく揉んでほしいのか?」

「っもう!折角綺麗な夜なのにっ。一緒に行くって言うから珍しいなーと思ったらこれだもの」

「まあまあいいじゃんいいじゃん。いつもと同じなら気にすることもないだろ?」

 

 にししっと歯を剥いて笑いかける葛城を見て、飛鳥は大きくため息を吐いた。外気にさらされ白くなった息が儚げに消えていく。

 

「ま、いい機会だしさ、なにか悩んでることがあるなら遠慮せず言えよな」

 

 真剣な声色を孕んだ葛城の言葉に、飛鳥が驚いたように先輩の方へと顔を向ける。迎えた葛城の表情はいつものおちゃらけた様子ではなく、真面目で口元が少しだけ優しく微笑んでいた。

 

「びっくりするなよ。アタイだってちゃーんと色々見たり考えたりしてるんだぜ?」

 

 片目を閉じてみせる葛城に、飛鳥は申し訳なさそうに目線を逸らした。先輩は前に向き直って続ける。

 

「だからさ、お前が最近なんだか悩んでんじゃねーかなってくらいはわかる。太刀筋に時々迷いがあるし、みんなでワイワイやってる時でも一瞬上の空だったりしてるだろ?」

 

 飛鳥の視線が下がる。自分では全く意識していないことだったが、想いが日常にこぼれ出てしまっていたらしい。いずれ相談しようかと思っていたのだが、向こうから切り出させてしまうとは情けない。

 

「今の飛鳥を悩ませることだ。みみっちいことじゃないんだろう。アタイに話してどうにかなるもんでもないかもしれないけどさ、口に出すことで楽になることもあるぜ」

「・・・そうだね。うん、確かに前の私だったら悩む余裕もなかったかもしれない」

 

 飛鳥は半蔵学院入学以後、仲間たちとともに濃密な時間と戦いを経験してきた。自分たち善忍と対立する悪忍との激突、校舎と忍の誇りを懸けた学校対抗戦、死者と斬り合う千年に一度の祭り、そこから得た新たな同志と絆、そして信念・・・。

濃縮された経験の中で成長してきたからこそ、置き去りにしてきてしまっていた想いが、忘れた頃に首をもたげてくることがある。

 飛鳥の胸中をたびたび支配するもの、それは忍の業であった。

揺るぎない想いに刃を走らせ、人を斬る。自らの信じる道のために、他者の命を散らす。それはあらゆる忍が覚悟し、逃れられぬ定めだと心得ていること。飛鳥ももちろんそうだ。

だが仲間との修行やライバルたちとの手合わせ、昼休みや放課後の楽しいひととき・・・そんな命の休息に、飼い慣らしたはずの忍の業が問い、迫ってくることがあるのだ。

 お前の命は、お前が散らした多くの命の上に存在している。お前の命にはそれだけの価値があるのか。殺された者たちが享受できたであろう幸福を受ける資格があるのか。お前の他愛もない笑顔の先に、死者の魂に値するものがあるのか。忍の世界であっけなく散らすかもしれない、そのとりとめのない命に。

 

「あのね、かつ姉・・・」

 

 言いかけた飛鳥の眼前に葛城の手が差し込まれる。人差し指が立てられ、言葉の続きを塞いでいた。一瞬戸惑いを見せた飛鳥だったが、すぐその意味に気付き葛城と目配せする。

 ・・・誰かに後をつけられている。思いを巡らせていた飛鳥は気付くのが遅れたが、葛城は話しつつも気配を感じ取っていたようだ。

 だが、なんだろう。二人は違和感を覚える。忍を尾行しているわりには、気配を消すのが不十分にすぎる。恐らく二人から五メートルも離れていないのではなかろうか。神経を研ぎ澄ませれば、足音すら聞こえる。

 二人はごくごく小さく頷き合い、再び話を始める。

 

「だーかーらー!かつ姉のセクハラにはもうウンザリなんだってば!」

「なんだよその言い草は!女なんて揉まれるうちが華なんだぞ!」

「女性差別だよそれ!最低だよ!もう、かつ姉なんて知らないっ!」

 

 怒って走り出す飛鳥。

 

「おい!ちょ、待てよ!」

 

 叫びつつ一拍遅れて追いかける葛城。前を走る飛鳥は路地の角を右に曲がって姿を消す。追いすがる葛城も同じ角を曲がるが、少し進んで足を止めた。路地の先に飛鳥の姿がなかったのだ。

 葛城の後方、曲がり角付近でたたらを踏むような音が聞こえる・・・と、間髪入れずに布が擦れ合うような音に変わったのを確認して、葛城は笑みを作りながら振り返った。犯人が罠にかかったようだ。

 

「うわっ、おい!は、はなせよ!」

 

 曲がり角で飛鳥が尾行犯を背後から拘束している。小柄な少女に羽交い絞めにされた、より小柄な女の子が足をばたつかせて抵抗するが、忍の束縛はそう簡単に解けるものではない。

 

「お、女の子・・・?」

 

 葛城が気の抜けた声を出すと、飛鳥がキョトンとした顔で返してくる。

 

「放してあげるべきかな?」

 

 飛鳥の問いに、葛城が改めて暴れる女の子をまじまじと観察する。

焦げ茶色のショートヘアに無地の土色Tシャツと紺のジーパン。ボーイッシュな声と気の強そうなキリッとした眉にトビ色の瞳。

年齢は十歳くらいの小学生だろうか。いや待てよ、忍仲間に見た目は子供でもれっきとした高校生がいるし・・・でもおっぱいは膨らみ始めという具合で年相応だ。いやいや待て待て、忍仲間に見た目は高校生だけど胸のない奴がいるし・・・

 

「あなたは誰?どうして私たちをつけてきたの?」

 

 うーんうーんと思案している葛城をよそに飛鳥が問いかける。女の子は諦めたのか暴れ疲れたのか、動きを止めて飛鳥を見上げる。

 

「・・・話すから放してくれよ」

「度胸はあるみたいだな」

 

 葛城が考えるのをやめて二人に近づき、腰を屈めて女の子と目線を合わせる。前に視線を戻した女の子の目に映ったのは殺気をまとった少女の顔であった。

 

「アタイたちも暇じゃねーんだ。さっさと言わねぇなら痛い目にあわす」

 

 葛城のドスの利いた声に女の子が喉の奥でヒッと声を上げて、救いを求めるように飛鳥を見上げなおす。

 

「私も最近調子悪いから肩慣らしでもしたいかなぁ~♪」

 

 こっちも笑顔で暴力をちらつかせてくる。目が笑っていない。

 

「わ、わかった!話す!話すよ!」

 

 わたわたと焦りながら敗北宣言をする女の子。忍二人は目を見合わせてにっこり笑った。

 

「で、でもこの体勢はキツいから、やっぱり放してくれよ」

 

 忍たちの笑顔が呆気にとられたようになって女の子に向けられる。あんなに焦っていたのにもう小生意気な面持ちで二人を睨みつけている。

 葛城はため息を一つ吐いて、飛鳥に放してやれと手で合図をする。どうせ自分たちからは逃げきれない。

 飛鳥が仕方ないといった風に解放すると、女の子は痛かったとでも言うように飛鳥へ肩を見せつけグルグル回した。

 

「それで?名前は?」

 

 葛城が気怠そうに問う。

 

「みなも、水を模すで水模だよ」

「なに?」

 

 飛鳥と葛城が再び顔を見合わせる。まさか。

 

「その変わった名前・・・もしかしてだけど忍者かなにか、だったり?」

「ニンジャ?忍って言えよ忍って。カッコ悪いだろニンジャなんて」

 

 まさかだった。まさか忍とは。

 

「忍だとして、なんでアタイたちを追ってきたんだ?」

 

 葛城が質問すると水模は不機嫌そうに答える。

 

「あたしが追ってたのはお前じゃない。こっちのチョロそうな飛鳥って奴だ」

「チ、チョロそう・・・!?」

 

 指を差された飛鳥が思わぬ口撃に怯む。水模は二人が思っている以上に生意気だった。

 

「それで?飛鳥に何の用だよ」

 

 無関係だったらしい葛城まで不機嫌になる。飛鳥は飛鳥で心当たりがない上に名前まで知られているため不安になってきていた。

 

「お前、ザコ山強盗団の花田って知ってるか」

 

 飛鳥の目が丸くなる。ザコ山強盗団といえば、この街でスリやひったくりを働いているケチな窃盗集団だ。また意外な名前が出てきたものだ。

 

「私、その人たちに財布をスラれたんだよ!それも2回も!」

「おいおい、そんな恥ずかしいことを軽々しく・・・」

 

 後輩の情けない言葉に、葛城が額に手を当てて首を振る。

 

「あっ、でも花田って人がどの人かは分からないや。会ってもいないかも」

 

 飛鳥が記憶の引き出しを探っていると、水模がにじり寄ってきて人差し指を突きつける。

 

「会ってるはずだ!お前にやられてから足を洗ったって、奴から聞いたんだ!」

「あー・・・じゃあ私がやっつけた中の一人だったんだ」

 

 水模の話をゲンナリしながら聞いていた葛城の眉がピクリと動く。

 

「待てよ。飛鳥と花田って奴の名前は誰から聞いたんだ」

 

 再び低くなった葛城の声に水模が少し身を竦める。初めの脅しも効いているが、今度の葛城は本気なのだ。

忍は社会の影に生きる存在。世間に知られるわけにはいかない。それが小娘の不用意な行動で明るみに出てしまったとなれば、飛鳥にも原因追及の矛先が向くだろう。下手すれば退学、あるいはもっと厳しい罰を受けることになるかもしれない。

 威圧的に見下ろしてくる忍学生に怯みながらも水模が捲し立てるように答える。

 

「お、お母さんが敵の忍と戦ってたんだけど、それを隠れて見てた奴がいて、それで見た目を頼りに探してて・・・色々聞いて回ったら強盗団の奴だってわかって・・・」

 

 息継ぎを挟みつつ手ぶりを交えて説明を続ける。

 

「でも強盗団の奴らを見つけて問い詰めても、その花田ってのは辞めたって言われて・・・そ、その時に飛鳥の名前が出てきたから、詳しく聞き出してきたんだ!」

 

 そこまで話すと水模が大きく息を吐く。

 

「そ、そんなとこだよ」

 

 聞き終わった葛城は安堵の表情になっていた。世間の信用がないザコ山の連中が愚痴る程度なら、飛鳥の危機にはならないだろう。

 しかし当の飛鳥の目には心配と興味の色が宿っていた。

 

「お母さんが戦っていたって、何があったの?もし力になれることがあったら・・・」

 

 飛鳥の心配は自身の忍生命ではなく水模の抱えている問題に向けられている。未熟な忍の女の子が母親のために街を奔走したのだ。正義感の強い少女は聞かずにいられなかった。

 そんな優しき問いに反して水模の顔は険しくなる。

 

「お前には関係ないだろ」

 

 突き放すような冷たい声。だが飛鳥を見上げる幼い瞳では決意が揺らめいていた。自分だけで解決するんだという気丈さが、手がかりを失ったことと思いやりの言葉で迷い始めているのだ。

 飛鳥にはわかった。水模にとって母親がどれだけ大きな存在か。幼き忍として、すでに困難の中に生きているのだと。自らの恵まれた幼少期にはこんな悲壮さはなかったから。なかったからこそ力になりたい。

 飛鳥はコートとマフラーを脱ぐと、水模にそっと着せてやった。寒々しい恰好をした女の子が足首まで外套に包まれる。

大きめコートに戸惑いつつ、水模の鋭い眼差しが和らいでいく。珍しそうにマフラーの先をいじくり、体をひねって自分を見回す。

 

「ふふ、似合ってる似合ってる♪」

 

 黄色いセーターと緑のスカート姿になった飛鳥が腕組みをして微笑んでいるのを、水模が不思議そうに見上げている。

 

「手袋もあったらよかったんだけど、かつ姉着けてないよね?」

 

 目を向けられた葛城がポケットから素手を出してヒラヒラと揺らす。どこか飛鳥に呆れているように感じられる仕草だった。

 

「・・・ごめん」

 

 水模の口から小さく謝罪の言葉が零れる。申し訳なさそうにうつむいて、長すぎる袖口から指を出してマフラーをいじくっている。まだ迷っているようだ。

 

「どんな小さなことでもいいの。話してみるだけでも気持ちが楽になるかもしれないし・・・って、これはかつ姉の受け売りだけどね」

 

 飛鳥は言葉を投げて水模の反応を待った。いつまででも待つつもりだったが、答えはすぐに返ってきた。

 

「・・・お母さん、戦って死んじゃったんだ」

 

 ぽつりと呟くように放たれた言葉に、飛鳥と葛城が驚きとともに硬直する。水模は予想以上に過酷な状況にあった。

 幼き忍は弱々しくなった声で述懐を続ける。

 

「三日前にお父さんも・・・お母さんとあたしを逃がしてくれたけど殺されちゃって、多分おんなじ奴だと思うけど・・・そいつに昨日、お母さんもやられちゃったんだ。あたしがトイレに行ってる間にさ」

 

 忍の世界は非情だ。深く愛され幸せを感じていた子供の両親でさえ、あっという間に奪い去っていく。少なからぬ少年少女たちが、大なり小なりそんな環境で生きることを余儀なくされている。

 飛鳥の視線が葛城に向けられる。いつも溌溂として頼りがいのある先輩の表情は、いつになく硬くなっていた。

葛城は幼いころに両親と生き別れているのだ。忍務に失敗し、死から逃れて抜忍となった彼女の父と母は、娘を危険にさらすまいとして別れを決めた。忍としてたくましく生きる彼女もまた、十分な愛を受けずに生きる苦しみと悲しみを背負っている。

 だからだろうか。言葉は無意識に投げかけられていた。

 

「抜忍だったのか?」

 

 葛城の感情を押し殺した声に水模が頷く。

 

「なんで抜忍になったかとか、元々どこにいたのかとか、そんなのは何も知らない。あたしは生まれた時から抜忍だったから」

 

 地面に視線を落としたまま、悲しみの言葉を紡ぐ。声には感情の波が立ち始めていた。

 

「西におっきな公園があるだろ。そこで昨日、やられたんだ。お父さんの時は何にも手掛かりがなかったし、敵を追うのはお母さんに止められちゃった」

 

 水模の顔が上がる。瞳には確固たる決意と燃え上がる憎しみ。

 

「でも今度は花田が隠れて見てたんだ!あたし、泣いてる時に気付いたんだ!見てる奴がいるって!あいつは、きっとお母さんを殺した奴も見てたはずなんだ!」

 

 憎悪が水模を駆り立てていた。放たれるのは激情。

 

「花田から殺した奴のことを聞き出して、あたしが殺す!仲間がいるならそいつらも殺す!全員!全員!」

 

 未熟な忍に似つかわしくない殺意の強さに、飛鳥は衝撃を受けていた。幼少のころから忍の定めに翻弄され、人を殺めようとする者たちもいるのだと、想像はできていた。忍の世界に生きていれば、自然と悟ることだった。

しかし、実際に目の当たりにしたのは初めてだ。誰が水模の殺意を否定できようか。彼女をどんな言葉が救えようか。

 飛鳥の心は水模へと踏み出そうとしていたが、同時に彼女を傷つけてしまうことを恐れていた。自分の信じる忍の道、前を向いて正義の心で救いたいならば、憎しみと復讐を止めねばならない。止めなければ水模自身の命も散らされてしまうだろう。

止めるべきだ。そう決めていても言葉にできない。あまりに哀れな境遇と深い憎悪に陥った水模の心に、自分の慰めや制止の言葉が刃となって突き刺さってしまいそうで怖い。無神経な他人の戯言が負の感情を大きくしてしまうかもしれない。そしてそれは自身をも傷つけることになるだろう。

 葛藤する飛鳥の耳に冷静な言葉が飛び込んでくる。

 

「そうか。せいぜい死なないようにな」

 

 飛鳥の目が言葉の主に向けられる。視線の先で葛城が体を翻し、路地を進もうとしていた。

 見放したような先輩の発言に、巡らせていた想いが弾ける。

 

「かつ姉!?見捨てる気なの!?水模ちゃんを一人にするわけには・・・」

「余計なお世話だ!あたしは一人でやり遂げる!お前たちには関係ないって言っただろ!」

 

 葛城に気を取られた飛鳥の隙をついて、水模が怒りと決別の言葉を口にして、来た道へと走り出す。

 

「水模ちゃんっ!」

「飛鳥ッ!」

 

 水模を追いかけようとした飛鳥の背中に鋭い声が叩きつけられる。思わず足を止めた飛鳥が振り返ると、葛城が咎めるような目でこちらを見つめていた。

 葛城の威圧感と張り詰めた空気で、飛鳥は動きを止めてしまった。ハッとして逆に向きなおるが、すでに水模の姿は消えていた。

 

「どうして、止めたの・・・」

 

 飛鳥が葛城へ疑念の眼差しを向けると、もう尖った雰囲気はなくなっていた。葛城はゆっくりと目を伏せ、問いに答えることなく踵を返して歩き始めた。

 残された飛鳥は一人路地に立ち尽くす。

 葛城はなぜ水模を逃がしたのか。なぜ自分に水模を追わせまいとしたのか。わからない。

自分の不甲斐なさに肩を落とす。葛城と天秤にかけ、水模を追えない自分を悔やむ。

 水模にかける言葉は見つからない。葛城の真意もわからない。

それでも立ち止まっているわけにはいかない。ならば・・・

 

「とにかく花田さんを探し出して、水模ちゃんより先に刺客をなんとかするしかない!」

 

 自分に言い聞かせるように声に出すと、少し気持ちが前を向く。大丈夫。進める。できることをやるんだ。

 

                                      第二話へ続く

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