闇に消えた苛烈な忍たちを見送った二人は、日常の夜へと戻っていく。昏き忍の業の影を感じながら。
浅草の裏路地を忍学生二人が歩いていく。
「うー寒い~!魔裏さんにコートとマフラー持ってかれちゃってたぁ・・・」
「汗もかいたしなー。寮に戻ったら、一緒に風呂でも入るか!」
「セクハラしないならね」
神成流との戦いを振り切るように、二人は努めて明るめの声を出す。
結局、お家騒動は昨日のうちにほとんどが消化されていて、飛鳥と葛城は終わりの文字を書かされただけのようなものだ。
だが、冷音や魔裏との対決は飛鳥の心に改めて固い決意をさせてくれた。これからは修行中やみんなとの憩いの時間に、忍の業と格闘することはないだろう。
ふと飛鳥が忘れていたことを思い出す。
「そうだ!かつ姉、ごめんなさいっ!かつ姉は危険なことに関わらないように止めてくれたのに、私はそれに気づけなくって・・・」
この路地で水模に変化した魔裏と会った時、去っていく魔裏を追いかけようとした飛鳥は、葛城の制止の声で立ち止まった。そして何も言わずにその場を去った葛城のことを、あの時は理解できなかったが、自分を追って公園まで駆けつけてくれた彼女を見て、その優しさを知った。
正義感が強く純粋な飛鳥を無理に止めようとすれば、彼女は反発して魔裏を追って行ってしまっただろう。それは彼女自身を未知の危険に導くことに他ならない。だから葛城はあえて何も言わずに去っていった。
葛城が歯を剥いて飛鳥に笑いかける。
「気にするなよ。実はアタイも少しして戻って来ちまってさ。飛鳥と花田の話を盗み聞きしてたんだ」
「えっ!?そうだったの!?」
驚く飛鳥に葛城が返す。
「そんで結局二人して巻き込まれちまったんだから、どう転んでも一緒だったさ」
「でも、それとこれとは別。ほんとにごめんね、かつ姉。それと、ありがとう」
飛鳥の素直な気持ちに、葛城が「おう」とだけ返して前を向く。
飛鳥は感謝しながら、葛城も聞いていたという花田との話を思い返す。あのヘラヘラした忍も自分たちと同じように、神成流に利用されたと思うと少し哀れに感じる・・・待った。
急に足を止めた飛鳥を、進んでいた葛城が振り返る。
「どうした?」
花田が話した内容を回想していた飛鳥は、あることに気づいた。気づいてしまった。
体にぶるっと震えが走る。神成流の忍の業は、飛鳥が感じた以上に過酷なものだった。
「かつ姉・・・花田さん、言ってたよね?水模ちゃんが『涙と鼻水で顔をぐしょぐしょにしながら号泣してた』って・・・」
「あ・・・ああ、そうだな・・・」
飛鳥の様子に不安を感じた葛城が、心配そうに後輩を見つめる。
「『水模ちゃんはすんでのところで殺人者を取り逃がした』とも言ってた。・・・ってことは、水模ちゃんは去り際の犯人を見てたんだよね?」
聞いていた葛城も気づき始める。
「その犯人は絵狸を殺した奴だから、正体は魔裏だ」
「じゃあ魔裏さんを見た水模ちゃんは誰・・・?」
絵狸の亡骸に駆け寄り、花田の前で大声を上げて泣き叫んだ水模。魔裏の台本に必要なのは、水模が花田に気付く演技だけだ。神成流の忍なら、花田に見破られない変化を可能とする忍など、山ほどいるだろう。だが、彼らは絵狸の死を本気で悼む演技をするだろうか。本流から弾き出され、無様に逃げ続けた無能な抜忍の演技を。
「魔裏が言ってた『水模も育ったし』ってのは、そのために十年も絵狸を生かしてたってことかよ・・・!」
「どうして水模ちゃんに・・・絵狸さんが本当の母親だってことを知らなかったはずなのに・・・」
まっすぐな道を前へ前へと進む飛鳥にはわからない。あまりに非情で、あまりに理不尽な神成流の宣告。
死した絵狸の子に与えられた苦痛と真実に、少女の心が張り裂けそうに痛む。
「どうしてッ!」
光る夜空に消えていく飛鳥の叫びに、答えを返す声はない。
広い広い屋敷の一室。行灯が一つ灯るだけの薄暗い和室で、魔裏が長く美しい黒髪を櫛で梳かしていた。
背後に気配。音もなく現れた忍へ、部屋の主が笑みを浮かべて振り返る。
静かに立っていたのは、土色の着物に身を包んだ幼い忍の姿だった。行灯の光に照らされた、腰まで伸びた焦げ茶色のサラサラとした髪。凛とした印象を与える細い眉の下では、トビ色の瞳が意志の光を放っていた。
「なんの用かの、水模」
「花田という忍を追跡しろと。姉上の命だとお聞きしましたので・・・いつでも発てます」
魔裏の流麗な目が慈しむように細められる。
「三日間だけよい。四日後にはわらわになってもらわねばならぬからの」
「承知いたしました」
忍務を受けて去ろうとする水模に、魔裏がもう一度だけ口を開く。
「頑張るんぢゃぞ」
「・・・はい」
姉の励ましに、水模は生真面目な表情を変えず部屋から姿を消した。消える瞬間すら捉えられないほど、鮮やかに。
前へ向き直った魔裏は、髪の手入れを続ける。その表情はいくぶんか柔らかくなっていた。
水模が屋敷の廊下を歩いて正門へ向かう。彼女の右後方には目玉模様の忍が付き従っていた。
「単なる追跡だと思うな。一つでも多くの情報を持ち帰り、神成流に捧げるのだ」
「はっ」
わずかに幼さの残る主人の声に、包帯を巻いた冷音が短く答える。
「今の私はかつての私にあらず。この身は、我らの道を示す神成流のため」
水模は自らに刻み込むように、落ち着いた、しかし力強い声で決意を固める。
「我が力を導いてくださった父上と母上のため」
それは微かに残っていた躊躇いの残滓を消し去る言葉。
「愛で逃げ道を断ってくださった姉上のため!」
廊下の先が開け、屋敷の正門へと続く石畳が現れる。
「いざっ!」
二人の姿は石畳の前で跡形もなく消え去った。
もはや忍の業でさえ、彼女たちを捕えることはできない。
『閃乱カグラ 少女達の記録 【忍の業】』 終
『閃乱カグラ 少女達の記録 【忍の業】』をお読みいただき、ありがとうございます。
お楽しみいただけたでしょうか。
こういった場に小説を投稿すること、原作ありの二次創作で小説を書くのが初めてだったので、拙い表現や読みにくさや誤り、閃乱カグラにそぐわないなど、お気に召さない点が多々あったかと思います。申し訳ないです。
自分が『閃乱カグラ』に一番魅力を感じたのは、エッチなコンセプトとは裏腹に、死や闘争で満たされる殺伐とした忍の世界でした。少しおバカな忍学生たちのやり取りなどとのコントラストに惹かれたんです。
ただ、近作の閃乱カグラ『EV』や『PBS』には、生々しくてドロドロした忍の世界が今までほどフィーチャーされておらず、ちょっと物足りなさを感じてしまっていました。
そんなら自分で考えちゃえ!って、色々な妄想が膨らんでいき、形にしたい衝動に駆られてできたのが、今回の拙作です。
ですので、お色気やギャグ満載の明るい閃乱カグラが好きな方には、特に申し訳なさでいっぱいです。でも、自分も明るい閃乱カグラは大好きです。
今回の主人公である飛鳥ちゃんも明るくてとってもいい子ですよね。妄想はいろんなキャラでしていたんですが、書くとなると、やっぱり原作主人公の飛鳥ちゃんしかいねーべ!ってことで、主役選びは迷いませんでした。
一人だと寂しいので、頼れる先輩のかつ姉にご出演頂きました。かつ姉を選んだのは、動き回ってくれるのと、セクハラ魔人以外の姉御肌な部分にフォーカスしたかったからです。うまくいったかどうかは・・・読んでいただいた通りですが;
今作で生まれた神成流の発端は冷音のコンセプトでした。当初の名前も決まっていない頃の冷音は、魔裏クラスのヤベー奴だったんですが、飛鳥ちゃんとかつ姉が活躍させにくい!ってことで弱体化。ギョロギョロ目玉はその名残で、魔裏の気持ち悪さにも受け継がれました。
冷音の衣装は最初から着物と決めていて、ゴテゴテさせたくないので帯を武器にしました。本当は魔裏が真似た夢幻交叉をはじめとする秘伝忍法を使わせたかったんですが、書いてたら飛鳥ちゃんとかつ姉が強くって、気づいたら負けてました。代わりに魔裏に使ってもらったので良しとしましょう。良くないけど。
冷音の衣装と戦闘スタイルが決まって、ふとコイツの秘伝動物ってなんだろうと、目玉とびろーんって伸びる帯を思い浮かべて考えたら、カメレオンしかねぇーじゃん!ってことで、隠密術→変化術という具合に設定が固まっていきました。ちなみに冷音の名前も、カメレオン→レオン→冷音(れいおん)→ひやね、で決定。安直ですね。
秘伝動物要素ももっとしっかり登場させたかったなぁ。
冷音と戦う理由になった水模を考えついたころには変化術の神成流という忍集団も出てきてました。神に成るんだ!で神成流ですが、変化術で神に成れるんでしょうか?知りません。
水模は飛鳥ちゃんのまっすぐさを引き出すために作りましたが、関わった女の子が死んだりしたら飛鳥ちゃん可哀想だよな・・・と思って正体を魔裏にしました。なんてことしてくれたんだ。でも水模は水模で生き延びていたのでいいよね・・・?
一番頭おかしい魔裏というキャラクターは、初めは種明かしのためだけに出てきた人でした。ストーリーと性格に肉付けしていったら、思っていたより邪悪になっちゃったので、飛鳥ちゃんに倒してもらおうとも考えたんですが、いい加減冗長になりすぎるだろうというわけで、夢幻交叉だけに留めました。
オリキャラで唯一原作要素に関係を持たせてしまった花田もムカツク奴ですね。ホントの名前わかんないし。役割は生まれた頃とあんまり違わないんですが、元は完成品よりちょっとだけいい奴でした。斑鳩さんにこっそり仲間のピンチを伝えて、強敵の冷音に苦戦する二人のもとへ駆けつけさせたり。冷音弱体化に伴い、消された要素ですね。
変化と言ったら狸!墨を化け狸に変化させる絵狸と彼氏の渋樹に関して。
実は絵狸と魔裏のバトルも書いてはいたんですが、オリキャラ同士で誰得だし、全体を通してみると不要だなってことでバッサリ。絵狸はなんとなく弱そうなイメージかもしれませんが、結構カッコイイ忍でしたよ。魔裏と同じ顔なので美人ですし。
渋樹は作中ほとんど触れられていませんが、樹木への変化を得意とする手練れでした。年齢は冷音と同じくらい。冷音が彼に思いを寄せていたという設定もありましたが、爆破されました。
年の差カップルの駆け落ちは大変そうですよね。
これらのオリジナル要素で飛鳥ちゃんとかつ姉の魅力を引き出せたか、自信はありませんが、自分なりに努力をしてみたつもりです。
上で触れたように書きたい要素はまだまだありましたが、書ききれなかった部分は後の作品、別の形で触れられたらいいなー。
・・・というわけで、後書きも終わりにさせていただきたいと思います。
長々とつまらない話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。グッパイ!
ぜひぜひ、感想や評価をお聞かせくださいませ。