ちょっと長いのでどこかで文章の間違いなどあると思いますが…
お気になさらず!
私が最後に見た姉の姿は涙する姿だった
蝋燭の弱々しい灯りの中、病に倒れた私を最後まで看病してくれたのは姉だった
私が目を閉じるその時まで姉の泣き声しか聞こえなかった
…またいつか会いましょう
…愛しています、姉様
…ん?
目を閉じてから違和感を感じ、ふと目を開ける
…明るい…
「あれ…?」
辺りを見る。
…昼間…いや、朝…か?
目の前にいたのは朝日に照らされた随分と若くなった姉の姿だった
年頃で言うと10代半ばか20代の頭位だろうか
「は?…ぅわぁぁああっ!!」
私は驚き布団から飛び起きる
「え?な、こ…これ…は?」
目が覚め改めて周りを見渡す、見たことない和室である
私は布団にくるまれていたようだ…
女性「おはようございます。命蓮…」
…私の記憶が正しければ、目の前にいる女性は姉の聖百蓮
仏のように優しそうな、そして見惚れるような美しい顔、頭頂から首辺りまで紫色…首辺りから腰あたりまでの毛先まで金色になる様グラデーションの長い髪の毛、黒い直綴(じきとつ)を羽織り、その上からは袈裟をかけている
命蓮「あ、姉様…?」
白蓮「はい…お久しぶりです」
命蓮「そのお姿は…ここは一体…私は…」
混乱する私に姉様は優しく
白蓮「…よく聞いてくださいね、命蓮」
ーーーーーーーー
8月24日
~少女説明中~
命蓮「幻想郷…妖怪…命蓮寺…外来人…」
聞いた事のない単語に困惑する命蓮
白蓮「…」
命蓮はガックリ項垂れる
命蓮「…私の人生は一体なんだったのでしょう…仏教の教えを広め、法力を学び、極楽へ行くための修行…全て無駄だったのか…」
白蓮「命蓮…」
白蓮は命蓮を優しく抱きしめる
命蓮「あ、あ、あ姉様!?」
白蓮「無駄じゃありませんよ、命蓮」
白蓮の優しい声が命蓮の耳に囁く
白蓮「貴方は立派にやり遂げました…今ここにいるのは…そう、ただの寄り道です」
命蓮「…寄り道…」
命蓮から離れる白蓮
白蓮「貴方は少し真面目すぎますよ。少しくらい寄り道をしてもバチは当たりません」
年相応の少女らしく笑う白蓮
命蓮「…姉様には敵いません…」
白蓮「ええ、私は貴方の姉ですもの」
命蓮「…私は…これから何をすれば…」
白蓮「それをみんなで考えましょう…さ、これを着てください。命蓮」
白蓮は後ろから黒い布を渡す
命蓮は白蓮からの布を受け取り
命蓮「…こ、これは…」
ーーーーーーーー
命蓮が目を覚まして数刻後
命蓮寺、大部屋
ここは命蓮寺の面々の集いの場、いわばリビングである
村紗、ぬえ、ナズーリン、小傘を始め
白い直裰に青い頭巾を被った少し勝気な雰囲気の少女、入道使いの雲井一輪
一輪のそばをふよふよ漂ってい厳格な表情のある桃色の雲、見越し入道の雲山
黄金色のショートヘアに黒のストライプ、白い袖に赤い法衣、虎皮の腰巻を巻いた毘沙門天の代理、寅丸星
の計7人が大部屋でくつろいでいた
ぬえ「ねぇ村紗〜あれって本当に聖の弟なわけ〜?」
大部屋の真ん中にある和室にぴったりな大きめの低いテーブルに両手で頬杖をつき、だるそうに村紗な問うぬえ
村紗「んー?聖が言うならそうじゃないの?」
畳に寝転がり、表紙に「銀河戦艦ヤマト」と書かれた漫画本を読みながら答える村紗
一輪「…だとしてもなんであんな若い姿なのかしら…確か弟様が亡くなった時ってかなりの高齢だったんでしょ?」
お茶を一口飲み、ナズーリンに問う一輪
ナズーリン「人間は亡くなったら三途の川では1番強い記憶の姿になるって聞いたことがあるが…どうなんだろうね」
小鼠に餌を与えながら答えるナズーリン
小傘「物を大切にする人だといいなぁ〜」
ウキウキ笑顔の小傘
星「…もぐもぐ…」
星は干し芋を口いっぱいに食べている
大部屋の襖が開き、白蓮が入ってくる
村紗「おっ?」
白蓮「皆さん、命蓮が目覚めましたよ」
白蓮「…さぁ、命蓮入ってきてください」
命蓮「は、はい」
白蓮に呼ばれ、大部屋に入る命蓮
少し茶の入ったボサボサ気味の背中までの長髪、白蓮に似た綺麗な顔立ちの青年は黒い直裰を着ていた
命蓮(じ、女性ばかり…この人たちがみんな妖怪とは…)
一輪「もう起き上がって大丈夫なんですか?」
一輪が命蓮を見て、白蓮に問う
白蓮「ええ、どこも怪我はなく、ただ気を失っていただけらしく、意識も身体も大丈夫みたいです」
命蓮寺の面々の視線を感じる命蓮
命蓮「…」
白蓮「さ、命蓮…挨拶出来ますか?」
命蓮「あ…は、はい…」
命蓮が前に出る
白蓮「…」
命蓮の背中をじっと見る白蓮
命蓮(ええと…)
命蓮が口を開き喋ろうとした瞬間、背中に違和感を感じる
命蓮「はわっ!?」
それは一瞬の事であったが、何か…糸のようなものが切れる感じがして後ろを振り向く
白蓮「緊張していたようなので…緊張の糸を切ったんですよ」
ニコッと笑って白蓮は答える
命蓮「は…はぁ」
命蓮は再度皆の方を向いて
命蓮「…命蓮です。皆さんには助けて頂き感謝します」
丁寧に礼をする命蓮
ナズーリン「流石聖の弟様だ。礼儀があって良いね…私はナズーリン、そしてそこで干し芋を食べているのが毘沙門天の代理、寅丸星だ。よろしく」
ナズーリンが命蓮の前に行き挨拶をする
星は座ったまま笑顔で命蓮にお辞儀をする
頰は干し芋でパンパンである
命蓮「毘沙門天様の…星さん、ナズーリンさん、よろしくお願いします」
ナズーリン「さん付けはいらないよ。気軽にナズーリンと呼んでもらいたいね」
命蓮「わかりました。ナズーリン」
村紗「村紗水蜜です!キャプテンって呼んでね!蓮君!」
気持ちのいい笑顔で挨拶する村紗
ぬえ「封獣ぬえ!鵺だっ!」
両手を上げ威嚇のポーズをしながら自己紹介するぬえ
命蓮「きゃぷとん…?どうぞよろしくお願いします」
聞きなれない単語に若干たじろぐ命蓮
一輪「入道使いの雲井一輪です。こっちは見越し入道の雲山です」
礼儀正しく挨拶をする一輪と雲山
命蓮「よろしくお願いします」
小傘「多々良小傘だよっ!元気になってよかったね!」
元気いっぱいにニコニコ顔で挨拶をする小傘
命蓮「ええ、おかげさまで…」
ナズーリン「後は…気を失ってた君を見つけたやまびこがいるんだが…」
部屋内をきょろきょろ見渡すナズーリン
村紗「響子ならさっき出掛けたよ〜」
ぬえ「恋人のところでしょ」
命蓮「私を助けてくれた方ですか…お礼を言いたかったです…」
ナズーリン「すぐ戻ってくるさ…とまぁみんなからの挨拶はこんなものかな?」
白蓮「命蓮にはここがどこか…皆さんが何者か、ある程度の事はお話ししました」
白蓮が座布団に座りお茶を飲む
白蓮「命蓮…あなたさえ良ければしばらくここに居ませんか?」
命蓮「…良いのですか?」
白蓮「私は構いませんが…」
白蓮がみんな見る
一輪「姐さんの大切な家族なら断ることなんてありません!」
一輪、力強く答える
ぬえ「良いんじゃないの〜?」
机に頬杖をつきながら少しだるそうに答えるぬえ
村紗「よろしくね!蓮くん!」
笑顔で命蓮に手を振る村紗
ナズーリン「…また賑やかになるね」
小鼠を手に少し微笑むナズーリン。
星は干し芋で口一杯のため頰をもぐもぐさせながら笑顔でお辞儀をする
命蓮「みなさん…ありがとうございます」
命蓮も深々とみんなにお辞儀をする
小傘「命蓮寺へようこそー!」
小傘が万歳のポーズで命蓮を歓迎する
ナズーリン「なぜ小傘が言うんだい…」
小傘「あいたっ」
ナズーリン、やれやれ顔で小傘を軽く小突く
頭を上げた命蓮の肩に優しく手が置かれる
振り向く命蓮、そこには剃刀を手にした笑顔の姉がいた
命蓮「…あ、姉様?」
白蓮「貴方は今日から命蓮寺の人間…なら…」
剃刀が命蓮の目の前に来る
白蓮「…剃りましょうか!」
命蓮「…」
命蓮「…あ」
命蓮は目の真ん前にある前髪に気がつく
鏡を見てないからどこまでかはわからないが、ボサボサの長髪…
僧としては恥ずかしすぎる頭をしていたのだった
命蓮(まぁ…いいか…)
一輪「待ってください姐さん!」
一輪が突然立ち上がる
ナズーリン「…?」
ナズーリンが一輪の顔を凝視する
一輪「わ、わ、わ、私が!命蓮さんの髪を整えます!わたしが!」
命蓮「え?…いや、私は…」
一輪「いや、別に決して異性の髪を触りたいとかそんなやましい考えなどなく!ただ姐さんのお力に少しでもなるばとあもって!!」
一輪、顔を真っ赤にして鼻息が荒くなる
ナズーリン「…」
ナズーリン、一輪を汚いものを見るような目で見る
村紗「まぁ…今時坊主の坊主ってのもねぇ…」
漫画本の表紙を見つめながら呟く村紗
ぬえ「せっかくのイケメンなのにハゲ頭にしたら勿体無くない?」
畳に寝転がりパタパタと足を動かすぬえ
白蓮「う〜ん…そうでしょうか…」
少し困り顔になる白蓮
一輪がすかさず白蓮の目の前に来て
一輪「私めに!」
白蓮「…」
白蓮、困惑した顔をして一歩退がる
一輪「私めに!!」
白蓮は命蓮を見る
命蓮「では…一輪さんに…お願いします…」
こうして命蓮寺に新しい顔が増えた
ーーーーーーーー
数刻後
命蓮寺の廊下を歩く黒い直裰を来た僧侶が1人
命蓮である
だがその頭髪は目が覚めた頃よりも清潔感がある。まず髪が腰程まであった長さが耳、そして襟足を少し隠れる程度の長さまで切られていた。ボサボサ頭だった朝とは見違えるようである。
ついでに風呂も頂いた。一輪から勧められた椿油で髪を研いたため髪はサラサラである
命蓮(一輪さん…最後まで顔真っ赤だったな…)
命蓮「…ん?」
廊下から本堂への襖が開いている
本堂へ入らずに中を見ると命蓮と同じく黒い直裰に袈裟を身につけた白蓮が毘沙門天の宮殿前にある礼盤にて経読を行なっていた
命蓮(…流石姉様…熱心だな…邪魔しては悪い…か…)
命蓮は静かに襖を閉める
命蓮は廊下の先の玄関口に目をやる
村紗とぬえが玄関の扉を開けなにやら話し込んでいた
命蓮「村紗さん?ぬえさん?」
後ろから声をかけられた村紗とぬえが振り返る
村紗「やぁやぁ蓮くん」
明るい笑顔で小さく手を振る村紗
命蓮「何かあったんですか?」
ぬえ「何かも何も…」
命蓮が外を見ると、そこに立っていたのは金髪白黒の魔法使い、霧雨魔理沙だった
魔理沙「…よぉ!命蓮寺にも男がいたのか!」
勝気な笑顔で右手を上げ命蓮に挨拶する魔理沙
命蓮「はじめまして、命蓮です」
魔理沙「霧雨魔理沙だぜ!命蓮って…もしかして白蓮の弟か?」
命蓮「はい、白蓮は私の姉様ですね」
魔理沙「へぇ〜…」
腕を組んで命蓮の顔をまじまじと見る魔理沙
村紗「ゔゔんっ!」
わざとらしい咳払いの村紗
村紗「…とにかく、今聖はお勤めの最中なので、用事があるなら時間を改めてください」
魔理沙「うーん…」
命蓮「あの…姉様になんのご用ですか?」
魔理沙はニカッと笑って
魔理沙「実はある魔法を教えてもらいに来たんだが…まぁまだ時間はあるし、また来るよ!」
命蓮「魔法…?」
聞きなれない単語に少し戸惑う命蓮
ぬえ「もう来なくていいから…」
ぬえが魔理沙に悪態を吐く
魔理沙は箒に跨る
魔理沙「このあと霊夢の所に行こうと思っててな!それまでの時間潰しで来ただけだから今日はもう行くぜ!」
ロケットの如く高速で空へ飛び立つ魔理沙
残される村紗、ぬえ、命蓮
命蓮「…今の方は…?」
ナズーリン「人間の魔法使いだよ」
後ろから声がしたので、命蓮、ぬえは廊下側を見る
ナズーリン、小傘、星がいた
命蓮「…魔法…」
ぬえ「おや、小傘、もう行くの?」
小傘「うん!」
小傘はウキウキで土間へ降り、下駄を履く
ナズーリン「全く…本当に今日も行くのかい?」
小傘は一瞬沈黙
小傘「…人間のお友達、欲しいんだ…」
少し悲しげな雰囲気で笑う小傘
ナズーリン「…そう、か……気をつけてね」
ぬえ「迷わないでよ〜」
小傘「は〜い」
命蓮「…どちらに?」
小傘「人里!」
命蓮(ひとざと…)
命蓮「…行ってらっしゃい」
命蓮は笑顔で小傘を送る
小傘「うん!行ってきまーす!」
玄関から軽快にスキップしながら山門へ向かう小傘
ぬえは玄関の扉を閉め
ぬえ「…さっきの奴、気ぃ抜いてたらなんでも盗まれるから気をつけた方が良いよ」
命蓮「は、はぁ…」
村紗は命蓮の頭へ視線を上げるとワクワク顔に変わり
村紗「おー!髪の毛さっぱりしたじゃーん!やっぱイケメンだわ!」
命蓮の顔を覗き込む村紗
命蓮「ち、近いです…村紗さん」
ぬえ「あ…一輪から洗濯物の手伝い頼まれてるの忘れてた…めんどくさ〜」
嫌なことを思い出したぬえが上半身だけグデンとだらける
命蓮「私行きますよ」
ぬえ、命蓮の言葉を聞きアホ毛がぴんぴんになる
ナズーリン「ご主人、私も少し出てきます」
星は1つ頷き、ナズーリンは勝手口の方へ向かう
ぬえ「まじで!?助かるー!」
村紗「こら、ぬえ!」
命蓮「構いませんよ、私も命蓮寺の一員ですから…というかそれくらいしかお手伝いできませんし…」
村紗「まぁ…そう言ってくれるなら…」
ーーーーーーーー
命蓮寺、庭
洗濯カゴを地面に置いた一輪が物干し竿に洗い物を干している
一輪「全く…またぬえは…」
ぼやきながら作業をする一輪
命蓮「一輪さん、お手伝いしますよ」
一輪「あら、命蓮さん…」
命蓮「命蓮で構いませんよ。ぬえさんにお話しして、お手伝いを代わってもらいました」
一輪(変な人…)
命蓮「お手伝いさせて頂きます」
命蓮と一輪で雑談しながら洗濯物を干す
真面目な二人なので無事滞りなく終わった
干した洗濯物を眺めながら縁側でお茶を飲む2人
一輪「ありがとうございます、やっぱり男性がいると色々助かりますね」
優しい笑顔で命蓮と話す一輪
命蓮「いやいや…私なんて…それよりも一輪さん、お聞きしたいことがあります…」
一輪は朝のように顔を赤くして
一輪「こ、恋人なら…いませんよ…」
命蓮から目線をずらしながらボソボソと言う一輪
命蓮「…???…いえ、姉様の事で…」
一輪「え?…あ…あぁ…」
少し肩を落とす一輪
雲山、渋い顔で一輪を見る
命蓮が白蓮の事を聞こうとした時だった
「今日こそは道教の日の出なりー!!」
命蓮&一輪「!?」
少し高めの少女の声が蔵のある裏門の方から聞こえて来た
ーーーーーーーー
命蓮寺は白い塀に囲まれた敷地内の中央にある本堂をはじめ、本堂から南に山門、東側に本堂から続く大部屋や風呂、客間など生活住居と物干し用の小さな庭があり、西側には墓地、そして寺の倉庫兼修行施設の蔵がある。
西側の蔵の入り口近く、干し草の置いてある所に少女はいた
長く、綺麗な銀髪のポニーテールに烏帽子を頭にちょこんと乗せ、白の狩衣を着ている、丈は臀部が隠れるくらい、下半身は太ももが半分以上見えるほどの紺の袴を履いた尸解仙の少女、物部布都である
足元には数本の瓶が転がっており、手には松明を持っていた
物陰からこっそり覗く一輪と命蓮
命蓮「あの子は…?」
一輪「はぁ…」
一輪、また来たのかという顔で下を向く
一輪「…神霊廟…道教の子です…3日おきくらいに命蓮寺に来るんですよねー…」
一輪「とりあえず洋菓子渡しておけば素直に帰るので…ちょっと私持って…命蓮…?」
一輪が命蓮のいた方を見ると命蓮はいなくなっていた
一輪は布都の方を見る
一輪「あ"っ…」
命蓮は布都にジリジリと近づいていた
布都「な、な、な、な何者じゃ!?お主!」
布都がキョどる
命蓮「危ないですよ!その松明をこっちに渡してください!」
布都「な、なぜ命蓮寺に男がいるのじゃ!?なんの妖怪じゃ!?こ、怖い!!近づくな!」
布都、興奮しながら松明を持った手をブンブン振り回す
命蓮「あ、危ないですって!」
スポンッ
布都&命蓮&一輪「!?」
布都の持っていた松明は手からすっぽ抜けた
布都「ぬわっ!」
布都はその場に尻餅をつく
命蓮「大丈夫ですかっ!?」
ボワッ
松明が干し草に引火する
布都「え?」
さらに干し草の近くにあった瓶に飛び火し、炎は大きくなる
命蓮「なっ!」
命蓮(…あれは油か!)
一輪「命蓮っ!」
あっという間に炎は蔵を包み込んだ
布都「あ…あ、こ、これは…」
布都、気が動転し動けないでいる
一輪「私、姐さんを呼んできます!」
一輪は直ぐ走って本堂の方へ向かう
命蓮「ど、どうすれば…!」
その時、ぬえと村紗、星が走って蔵の方へやってきた
村紗「なになに!?」
ぬえ「ぬえぇえー!蔵が燃えてる!」
命蓮「!?」
命蓮はぬえと村紗を見てすぐ
命蓮「ぬえさん!風呂の釜から水を!村紗さん!井戸か川があればそこから水をお願いします!」
ぬえ「合点だー!」
村紗「なんなのよもぉー!」
ぬえ、村紗はまた走って風呂と井戸に向かう
命蓮「寅丸さん!命蓮寺の周りに人がいないかを確認してください!誰かいれば近づかないよう注意を促してください!」
星はコクっと頷き走り出す
バキバキバキ…
蔵の支えになっていた柱が倒れはじめる
命蓮「っく!」
柱が倒れる先には布都が座り込んでいた
布都「わっ!わっわーー!」
腰が抜けたのか全く立てないでいる布都
命蓮、全力で布都へ走り込む
その距離5メートルほど、柱はもう倒れる直前
命蓮「んぬぁぁぁああああーーー!!!」
間一髪
命蓮は柱が倒れきる直前に布都を抱き抱え柱を避けた
命蓮「……っぷあっ!」
命蓮「はぁ…はぁ……はぁぁああぁぁぁ…」
仰向けになる命蓮
うつ伏せで倒れてる布都
そんな時に風呂釜を両手で頭上に持ち上げて走ってくるぬえの姿があった
ぬえ「おら!消えろ火事がー!」
バッシャッ
蔵にぶっかける大量の水
遅れて村紗も3つの水の入った大桶を両手と口で咥えて走ってくる
村紗「んまむいあっ!おええおあー!!」
口に大桶の取っ手を咥えてるので何を言ってるかわからないが多分ぬえと同じような意味のことを言ったのだろう。村紗もまだ少し燃えてる火元に向かって水を放つ
白蓮「命蓮っ!」
白蓮と一輪、そして星もやってくる
命蓮「…大丈夫ですか?…」
命蓮は助けた少女に話しかける
布都「う、ううう…」
泣きながら頷く布都
命蓮「…それは…よかった…」
気を失う命蓮
ーーーーーーーー
命蓮「っはっ!!」
眼が覚めると今朝と同じ布団、今朝と同じく姉が布団の横に正座していた
白蓮「…眼が覚めましたか?命蓮」
命蓮「…あれから…どれほど経ったのでしょう?」
命蓮は上半身を起こす
額に乗せてた水手ぬぐいが落ちる
白蓮「30分位ですよ、ついさっき火事も収まりました」
命蓮「…よかった…」
安心する命蓮
白蓮「貴方も無事で良かったです…では、もう少し休んでてください。」
白蓮は立ち上がり、大部屋へ続く襖に向かう
命蓮「姉様?」
白蓮は振り返らず
白蓮「お仕置きをしなければならない方がいるので…」
命蓮「!」
命蓮は身震いした、姉のこんな冷たい声を聞いたのは初めてだからだ
ーーーーーーーー
命蓮寺、大部屋
大部屋の真ん中を分けるように、一列に白蓮、星、一輪、ぬえ、村紗、雲山が並び、その反対側に布都が一人正座をしている
白蓮「さて…布都さん、何か言うことはありますか?」
その言葉に布都はびくんと震える
布都「あ、わ、我は…あの…その…」
布都、目線が下のまま上手く喋れない
村紗「いつもは松明を持ってても放火なんてしなかったのにね」
ぬえ「やっちゃったねぇ」
一輪「蔵は全焼…烏天狗に写真まで撮られちゃったじゃない…」
布都「う…」
布都、小さくなる
星「…」
白蓮「…拳骨…ですね」
布都も命蓮寺の一同も顔が青くなる
皆知っている…白蓮の拳骨は拳骨なんかじゃない、今ここにいる面々は経験があるからだ
…1人を除いて
命蓮「待ってください姉様!」
襖をパンッと開け、命蓮が入ってくる
白蓮「命蓮?」
布都「…お、お主…」
命蓮は命蓮寺の面々の前に、布都の隣に正座し、頭を下げる
命蓮「今回の火事の件!私にこそ責任があります!」
村紗「ちょっ…蓮くん!?」
命蓮「私の事を知らない彼女の前に突然現れて、脅かしてしまったせいで今回の事が起きてしまいました!」
布都「っ…!!」
白蓮「…」
命蓮「罰なら私が受けます!だからどうか彼女を許してあげてください!慈悲を!」
布都「な、なぜ庇うのじゃ!?」
命蓮「!」
布都は涙を目に溜めて
布都「お前は関係ない!」
一輪「どうして…命蓮…」
命蓮「…」
命蓮は目を瞑り、一呼吸
命蓮「彼女はたまたま…火を持っていただけです」
白蓮「…」
命蓮「本当に放火する気があれば、私達に聞こえるように騒ぐより、さっさと火をつけたはずです」
星「…」
命蓮「たまたま彼女は火を持ち、たまたま彼女は干し草のある蔵の前にいただけです。」
ぬえ「…」
命蓮「そんな彼女を驚かせてしまったのは私です。火消しの指示をすぐ出せなかったのも私です。」
村紗「ちょっと…蓮君何言ってるの!?蓮くんが指示してくれたから蔵だけで済んだんじゃ…」
白蓮「水蜜」
白蓮が村紗を止める
村紗「…!」
白蓮「続けなさい、命蓮」
命蓮「…はい」
命蓮、見た目からはそうは見えないが、直裰の下は汗でぐしょぐしょである、もちろん冷や汗である
命蓮「…なので、彼女に非はありません。あるとしても十分の一ない程度です。」
布都「…ちがうっ!」
じっと下を向いていた布都が叫ぶ、一同驚いて布都を見る
布都「我が…誤って火を放ってしまったのが原因じゃ…お主は…悪くない…!」
白蓮「…」
白蓮は布都をじっと見る
布都「わ、悪いのは…悪いのは…」
命蓮「…」
正座の姿勢だった布都が両手を畳に付け、頭を深々と下げる
布都「我じゃぁ…ご、ごめんなさい…」
涙で顔をくしゃくしゃにした布都が謝る
命蓮「…!!」
白蓮「…」
白蓮は立ち上がり、布都の前へ立つ
命蓮「姉様!!」
布都「〜…!!」
布都、ガタガタと震える
白蓮「ふふ…」
白蓮が笑う
白蓮「ようやく謝罪の言葉が出ましたね」
命蓮「…!?」
布都「…」
土下座の姿勢から正座の姿勢へ戻った布都、また下を向く
村紗「聖?」
白蓮「私のお説教はもうとっくに終わりましたよ」
いつも通り優しい笑顔の白蓮
星は懐から食べかけの干し芋を取り出す
命蓮「…」
白蓮「布都さんはここに座ってから一言も謝らなかったので…謝罪の言葉1つあれば私は十分です」
命蓮、布都の身体の力が抜ける
命蓮「は、はぁ…」
白蓮「相変わらず命蓮は屁理屈が多いですね…でもその程度じゃまだまだですよ」
命蓮「…精進します」
一輪「ほら」
一輪は布都に紙の包みを渡す
布都「こ、こりは…?」
一輪「クッキーよ、もともとアンタに渡してさっさと帰ってもらおうって思ってたから…いらないなら返しなさいよ」
命蓮(くっき…?)
布都は渡された紙袋をギュッと両手で胸元に抱える
布都「…あ、ありがとう…」
顔を赤くしながら一輪にお礼を言う布都
一輪「え?う、うん」
一輪(いつもなら『うむ!ご苦労!はっはっはっー!』とか言うのに…)
いつもと違う布都の返しで内心戸惑う一輪
白蓮は大部屋の襖前まで歩いていき
白蓮「布都さん、ちゃんとお礼を言わないといけない相手がいますよね?」
布都「…う…」
布都、顔が赤いまま命蓮をじろっとみる
命蓮「…え?」
布都は命蓮にちゃんと正面向き直り
布都「神霊廟…の…物部布都である…」
命蓮「…み、命蓮…です」
布都は更に顔を真っ赤にして
布都「た、たしゅけてくれて…あ、あ、あ、あり、ありあり…」
村紗「…」
村紗、優しい目で布都を見る
村紗(あのアホっ子…まさか…)
ぬえ(こりゃあ…吊り橋効果、的な?)
一輪(青春してるわね、ホント…)
星(…)
以下命蓮寺の面々も布都を優しい目で見つめる
布都「…ふーっ」
布都「あの時は…助けてくれてありがとう…命蓮殿…」
深呼吸をし、凛とした道士らしい表情になってからちゃんとお礼を言う布都
命蓮は1つ驚いてから
命蓮「…無事で良かったです」
軽く頭を下げた
その光景を見て白蓮は
白蓮「やはり…布都さんと命蓮には罰を与えます」
命蓮「…え?」
布都「にゅっ!?」
白蓮「貴方達、すぐに全焼した蔵を建て直しなさい」
命蓮&布都「…!!」
命蓮、布都を含むこの場にいる一同凍りつく
白蓮は部屋の襖の前、みんなに背を向けた状態で続ける
白蓮「…誰にでも、何人にでも手伝ってもらっても構いません、必ず建て直しておいてください」
命蓮「…姉様」
白蓮「私は本堂にて書き物をします…集中するので外の音は聞こえませんが、サボらないように…」
そう言って白蓮は大部屋を後にする
布都「…」
一輪「…どうするの?」
一輪が命蓮に問う
命蓮「…布都さん、どうしましょうか?」
布都は命蓮寺の面々に向き直り
布都「建て直すのを…手伝って欲しい…」
頭を下げる
命蓮「…私からもお願いします」
また命蓮も一緒に頭を下げる
村紗「…あーあ」
村紗は立ち上がる
ぬえ「…村紗?」
村紗「金槌とか鋸とか…探してくるよ」
命蓮「…!」
ぬえ「木材って裏にまだあったような気がするから見てくる!」
布都「み、みんな…」
立ち上がった一輪は布都に手を差し出す
一輪「ほら、いつまでも泣いてないで…手伝ってあげるから早く行くわよ」
そう言った一輪の口元は少し笑っていた
命蓮「ありがとうございます…皆さん」
ーーーーーーーー
それから、やはり妖怪の力は人間のそれとは違った。数日かかる作業も数時間で終わった
同日夕刻 大部屋
ここには白蓮、星、一輪、ぬえ、村紗、雲山、命蓮が卓を囲み、お茶を飲んでいた
布都は新しい蔵を作った後、白蓮に挨拶して帰っていた
ナズーリン「なるほど、それで元の蔵からツギハギだらけの蔵になってたんだね」
帰ってきたナズーリンは腕を組んで正座してる命蓮に言う
命蓮「…か、彼女も反省をしていたので…」
ナズーリン「はぁ…君達姉弟は本当に甘いなぁ…」
命蓮縮こまる
命蓮「と、ところでナズーリンは一体どこへ行ってたんですか?」
ナズーリンは一瞬考え
ナズーリン「まぁ、ちょっとね…」
「ただいま戻りましたー!」
玄関から明るく、少し高めの少女の声がした
命蓮「?」
白蓮はお茶を置き
白蓮「響子さんが戻ってきたようですね。一輪、命蓮、お迎えに行ってあげてください」
一輪&命蓮「はい」
玄関への廊下を歩く2人
玄関の土間にはしゃがんで靴を脱いでる少女と、こちらに背を向けた小傘がいた
靴を脱いだ少女が命蓮を気づく
響子「あぁっ!命蓮さん、初めまして!やまびこの幽谷響子です!」
ナズーリンと同じくらいの小さめの身長、明るい緑色の肩までのショート、左右の側頭部から茶色い犬の耳を出し、薄桃色のワンピースを着たやまびこ、幽谷響子が丁寧にお辞儀をしながら挨拶する
命蓮「命蓮です。どうやら私を助けてくれたとかで…」
響子「助けたなんて…朝方に掃き掃除をしてたら、たまたま壁にもたれながら気を失ってる命蓮さんを見つけたんですよ!」
命蓮「それでも…ありがとうございます」
一輪「小傘もお帰…!?」
一輪は小傘に声をかけてる途中突然小傘の両肩を掴む
一輪「小傘!貴女…どうしたの!?」
命蓮「…?」
響子「…」
響子は黙って下に俯く
命蓮も小傘を見る
命蓮「…!?」
よくよく見ると拭いた後があるが服には泥が飛び散ったであろう跡があり、小傘の顔も汚れだらけ、腕には何か硬いものがぶつかったであろう傷も出来ている
命蓮「な、なんてひどい…」
ボロボロの状態の小傘は一輪と命蓮に向け笑顔で
小傘「ただいま!…転んじゃった…」
小傘の声は震えていた
命蓮&一輪「……っ!」
一輪、思わず口を抑える
命蓮「……」
小傘「私もう寝るね、ご飯はいらないかな」
小傘は下を俯きながら命蓮と一輪の間を足早に通り、自分の部屋へ入る
命蓮「な、何がどうなっているんですか…」
一輪「…」
命蓮の言葉に口元を締める一輪
響子「小傘…また人里の子達にイジメられてて…」
一輪「響子!」
命蓮「い…イジメ…?」
一輪「あ、いや…その…」
まだ命蓮寺の一員になったばかりの命蓮には知られたくなかったのだろう、一輪はどもる
ナズーリン「…私から説明するよ、弟君」
大部屋からやってきたであろうナズーリンが後ろから命蓮に話しかける
ーーーーーーーー
小傘以外の面子が大部屋に集まる
夕食後、ナズーリンの説明が終わった
ナズーリン「…とまぁ、そんな感じ…要は友達作りのために人里に行ったは良いが、妖怪嫌いの子供達から、いちゃもんつけられて虐められてるってわけさ。」
命蓮「…ひどい話ですね…」
村紗「小傘みたいな人間にほぼ無害な妖怪なんてほとんどいないのにねぇ…」
響子「その虐める子達以外の里の方達にはかわいがられてはいるみたいなんですが…」
命蓮「…友達…」
白蓮「…」
大部屋に変な空気が流れる
一輪「はぁ…」
一口飲み、お茶を置く一輪
一輪「どーせ命蓮の事だから、なんとかしようなんて考えてるんじゃないの?」
命蓮「えっ!?」
図星を言われ驚く命蓮
一輪「今日一日一緒にいれば貴方がどういう人かだってなんとなくわかったわよ」
村紗「お節介系主人公だね〜」
村紗がケラケラと笑いながら命蓮を見る
命蓮「お、お節介…」
白蓮「命蓮、小傘さんの事…放っておきなさい」
命蓮「…!」
白蓮「布都さんの時とは違うんです。これは小傘さんの問題、言わば小傘さんの試練です。私達は見守ることしか許されません」
命蓮「……はい…」
ナズーリン「…」
響子「…」
白蓮「さぁ、 夕ご飯も頂いたので明日のためにもう寝ましょう!」
白蓮の言葉で一同立ち上がり各々の部屋へ戻っていく
大部屋に1人残る命蓮
白蓮「命蓮」
命蓮「は、はい!」
閉じた襖の向こうから白蓮の声がする
白蓮「小傘さんは夕食を食べてません…貴方が持って行ってあげてください」
命蓮「…!…はい!」
ーーーーーーーー
大部屋での食事を終え、皆各自の部屋でまったりしている中、行灯の灯が照らす廊下を歩く僧が1人
命蓮は小傘のため、夕食をお盆に乗せ目的の部屋へ進んでいた。
命蓮「…ふぅ…」
表からは鈴虫の鳴く声が聞こえる
命蓮は小傘の部屋の前に着き
命蓮「小傘さん…まだ起きてますか?」
少し小声で問いかける
「…寝てるよ…」
命蓮はほっとし
命蓮「…夕食…小傘さん食べられなかったので持ってきましたよ…開けてもらえませんか?」
「…」
命蓮「…」
襖が少し開く
襖の隙間には少し俯き気味な小傘の顔が見える。部屋は真っ暗だ
命蓮「…今日は村紗さんがお夕食を作ってくださったんですよ。大根と筍の煮物です」
命蓮は小傘に優しく微笑む
小傘「…」
小傘は襖を開き
小傘「…どうぞ…」
命蓮「失礼します」
命蓮が小傘の部屋に入るとその襖が閉められる
部屋の隅にある行灯に火をつける
昼間のようにではないが多少明るくなる
小傘「ごめんなさい…命蓮さん」
部屋の小机に夕食の乗ったお盆を置き小傘と命蓮は座布団に座る
命蓮「お気になさらず、お腹が空いてると思って用意したんですが…お節介でしたか?」
小傘「ううん…ありがとう…頂きます」
小傘は手を合わせ夕食をとる
小傘「…おいしい!」
煮物を食べた小傘は笑顔になる
命蓮「明日…村紗さんに言ってあげてくださいね」
小傘「うん!」
命蓮「村紗さん、本当はかれいらいす?というものを作りたかったようですよ」
小傘「あー…村紗カレー好きだから…命蓮さん食べたことないの?」
命蓮「んー…無いですね…どのような味かもわかりません…」
小傘「今度作ってあげるね!」
命蓮「それは楽しみです」
ーーーーーーーー
夕食を食べ終えてから小傘は少し沈黙する
命蓮「どうかしましたか?」
小傘「…命蓮さん…」
小傘は命蓮を上目遣いで見る
命蓮「…え?…こ、小傘さん?」
思わずどきりとする命蓮…
行灯の薄明かり、美少女が目の前で上目遣いで自分を見ている
小傘「…わたし…」
命蓮「……」
小傘は命蓮からすぐ離れて敷いてあった布団に飛び込む
命蓮「…小傘さん?」
小傘「わたし…兄弟はいないけど…もしお兄ちゃんがいたら、命蓮さんみたいな人だったらなって…」
布団に包まって頭だけ出した小傘が少し顔を赤くしてボソボソと喋る
命蓮はふと笑い
命蓮「…そう言ってもらえて光栄です…」
命蓮は小傘が食べ終わった食器をまとめてからお盆を持ち立ち上がる
命蓮「…兄にできることがあればなんでも言ってくださいね」
小傘「うん…ありがとう」
命蓮は片手でお盆を持ちもう片方の手で部屋の襖を開ける
小傘「明日は…」
命蓮「…?」
小傘「明日はきっと素敵な出会いがあると思うんだ!」
小傘は寝ながら笑顔で命蓮に語りかける
命蓮「…ええ」
命蓮も笑顔で
命蓮「きっとありますよ。素敵な出会いが」
小傘「うん…!…おやすみなさい…命蓮さん…」
命蓮「おやすみなさい…小傘さん」
命蓮は小傘の部屋を後にする
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小傘が寝た同時刻、縁側に寝具の浴衣を着た白蓮が座っていた、横には薄明かりの行灯とお盆に乗った銚子と御猪口が置いてある
白蓮「…」
白蓮は空を見上げている
「…仏に仕える僧がお酒なんて…どうかと思いますが…」
暗闇の廊下から優しい声がする
白蓮「般若湯ですよ…今日だけ…ダメですか?…星」
行灯の薄明かりに照らされるのは金髪のショートヘアの寅丸星だった。白蓮と同じく浴衣を着ている
星「…私は今法衣を着てません…ただの1人の妖怪です……お隣良いですか?」
白蓮「もちろん」
白蓮の隣に腰掛ける星
星は銚子を取り白蓮に向ける
白蓮「ありがとう」
星の酌を受ける白蓮
星「…眠れないのですか?」
白蓮「…ええ」
星「命蓮さんの事ですか…?」
白蓮は少し目線を下げ
白蓮「…ええ」
星「命蓮さんは小傘さんのお部屋に行かれましたよ…多分、余計なことはしないと思います」
白蓮「そう…」
星「命蓮さんが来てから今日一日…たった一日で命蓮寺のみんなは変わりました」
白蓮「…」
星「聖…貴女もですよ」
白蓮「…」
星「…聖?」
白蓮「私…こう見えてワクワクしているんです」
白蓮は星に笑顔を向ける
星「…ワクワク?」
白蓮「ええ、貴女が言うように命蓮が此処に来たことによって色々と変わりつつある…明日には…明後日には…どんな風になるのか…」
星「…」
星は目を瞑り
星「そうですね…確かにこの先この命蓮寺がどうなるのか…見てみたい気はします」
白蓮「もうじき夏も終わります…素敵な思い出を作らなきゃ…」
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8月25日
明朝
命蓮寺、風呂場
ヒノキの匂いのする風呂場にて、命蓮は朝早くから浴槽に浸かっていた
命蓮「何故…こんな事に…」
思い出すは数分前
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庭にて背伸びをする命蓮
命蓮「ん……ああ〜……良い朝だなぁ…」
「命蓮」
声が後ろからかかり、命蓮は振り向く
そこには縁側に立っている白蓮と星がいた
命蓮「ああ…姉様、星さん、おはようございます」
お辞儀をする命蓮
星もお辞儀をする
白蓮「おはよう、命蓮…貴方…昨日は湯船に入りましたか?」
命蓮「え?…あ、いや…昨夜は身体を流さずに寝てしまいました…」
命蓮、嫌な予感を肌で受ける
白蓮「それはいけません。さぁ、私と一緒に湯に浸かりましょう」
命蓮「……は?」
その後命蓮の抵抗虚しく星と白蓮に風呂場まで拉致されてしまった
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浴槽に口元まで沈む命蓮
命蓮「姉様…久しぶりに姉弟で湯浴びなんて…」
「命蓮、お湯加減はどうですか?」
戸の向こうから白蓮の声がする
命蓮「あ!あー…良いお湯加減です!でももう出ます!はい!」
ざばっと湯船から勢いよく出る命蓮
白蓮「遠慮しないでください」
戸が開きタオルを体に巻いた白蓮が入ってくる、即座に湯船に戻る命蓮
白蓮「…どうかしましたか?命蓮」
命蓮「い…いゃぁぁあ…ははは…姉弟とはいえもう一緒に湯浴びする歳でもないかと…」
目の前に布ごしではあるが白蓮のバディラインが見える
白くきめ細かな肌、昨日と違い髪を後ろで上げているためうなじが見える。
そして直裰を着ていてもわかっていたが……とても立派なものが二つ…
命蓮(何を狼狽えているのだ命蓮!私たちは血の繋がった家族…子供の頃は一緒に湯船に入っていても何も感じなかったが…歳を重ね色々なことを学んでしまったせいか姉様が1人の女性にしか見えない…ああ、いやいや…馬鹿か私は!?何を考えているのだ!)
かけ湯で身体を流した白蓮
白蓮「私も…入りますね」
命蓮「ゑ?」
湯船にゆっくりと片足を入れる白蓮
命蓮(あ、いや…こんな時こそ般若心経…!)
白蓮も湯船に入り命蓮と同じ目線になる
命蓮「……」
顔を真っ赤にする命蓮
命蓮「も…桃…」
白蓮「も…?」
命蓮「あ、いや!桃の花が〜咲いて〜あっはっはっは!」
命蓮「…」
命蓮は湯船の中で白蓮と逆の方を向く
白蓮「…私と湯船に入るのは嫌…でしたか?」
命蓮「や、その…」
命蓮は1つ息を吐き
命蓮「どんな形にせよ…こうして姉様と一緒にいるのが…不思議な感じで…」
白蓮「…命蓮」
命蓮「い、嫌では…無いです……」
その時命蓮の背中に柔らかいものが当たる
命蓮「…!!!」
白蓮が命蓮の背中から優しく抱きしめる
白蓮「私も…また貴方に会えてとても嬉しく思います」
命蓮「…あ、あ、姉様…」
声が裏返りながらも白蓮に問いかける命蓮
命蓮「…姉様は……人間…なんですか…?」
昨日の村紗達の話を聞いてからずっと疑問に思っていた命蓮
命蓮「魔法が…とか…って、昨日聞いたものなので…」
白蓮「…」
白蓮は命蓮を抱きしめたまま
白蓮「…私は…とある事情で…人間である事を辞めました」
命蓮「!?」
白蓮「…どちらかといえば…妖怪…みたいなものですね…」
少し白蓮の声は震えていた
命蓮「…そう、ですか…」
白蓮「…」
湯船の湯気だけが静かに2人を包む
白蓮「でも心は…ずっと変わりません…」
命蓮「…」
命蓮は抱きしめていた白蓮の手をほどき、向いていた壁側から白蓮の方へ向く
命蓮「…私も変わりませんよ」
白蓮「…」
命蓮「たとえ人でも妖怪でも仏様でも…貴女は私の姉様です」
白蓮「…命蓮」
命蓮はにこっと笑って
命蓮「…そして私は…どんな事があっても貴女の弟ですから」
白蓮「命蓮っ!」
湯船の中、正面から命蓮に抱きつく白蓮
命蓮「あぅっ…あ、あねしゃま…!!」
白蓮「愛してます…命蓮!」
風呂場の外…寅丸星は白蓮達の入っている湯船の釜焚きをしていた
星(聖…なんて美しい…これぞ姉弟愛です…!)
星は泣きながらかまどに薪を入れる
ぬえ「星?なんで泣いてんの?」
ーーーーーーーー
小傘「それじゃあ行ってきます!」
風呂も上がり、命蓮寺の門前に小傘、命蓮、一輪の3人がいた
命蓮「気をつけて行ってらっしゃい、小傘さん」
一輪「何かあったらすぐ帰ってきなさいよ」
小傘「うん!」
小傘はいつもの傘を持ち、命蓮寺を出発する
見送る命蓮と一輪
命蓮「…小傘さん…大丈夫ですかね?」
一輪は少し浮かない顔で
一輪「あの子も妖怪…もしもの時は自分でなんとかできると思うけど…」
命蓮「やはり見に行った方が…」
ナズーリン「私が行くよ」
後ろからナズーリンの声がする
命蓮「ナズーリン、おはようございます」
ナズーリンは命蓮をジト目で見ながら
ナズーリン「おはよう弟君、今朝の風呂は楽しんでたようだね」
命蓮「あっ…ははは…今日も暑くなりそうですね!」
一輪「…もう行くの?ナズーリン」
ナズーリン「ああ…ご主人が団子を食べたがっていてね…その買い出しに」
命蓮「…"ついで"に小傘さんの事も、よろしくお願いします」
ナズーリンに頭を下げる命蓮
ナズーリン「ああ、まかせてくれ」
ーーーーーーーー
その日の日中は特に変わったことは起こらなかった。
小傘とナズーリン以外の面子で午前のおつとめ、皆と昼食を食べ、命蓮は村紗やぬえから現代日本語を学んだ…
しかしその日の晩、ナズーリンと小傘は命蓮寺に帰らなかった
夕食後、命蓮寺の門前で落ち着かない様子で2人の帰りを待つ命蓮と、落ち着いた様子で立ってる一輪、ぬえ、村紗
命蓮「お二人に何かあったのでしょうか…」
一輪「大丈夫よ、命蓮…少なくともナズーリンがいるんだから」
壁に寄りかかるぬえ
ぬえ「命蓮は心配性だねぇ…妖怪を心配なんて、ほんと変わってるよアンタ」
命蓮「昨日の今日ですから心配しますよ!」
村紗「はは…多分大丈夫だと思うけどね…」
命蓮は人里と違う方を見る
命蓮「ん…そういえば…昼間も気になってたんですが…あの建物は?」
命蓮寺から大分遠くの方に赤い館が見える、紅魔館である
一輪「ああ…あそこは紅魔館…吸血鬼の館よ」
命蓮「…吸血鬼…」
命蓮は紅魔館をじっと見つめる
命蓮(…まさか…小傘さん…)
頭をブンブン振って自分の考えを否定する命蓮
ぬえはゆっくりと村紗に近づく
ぬえ「村紗、村紗…」
小声で村紗に話しかけるぬえ
村紗「ん?」
ぬえ「今のうちに遊びに行っちゃおうよ」
ぬえは手で御猪口で呑む仕草をする
村紗「…良いねぇ」
目を輝かせる村紗
村紗とぬえはこっそり命蓮と一輪から離れて行く
一輪「ふぁぁ…命蓮、もう中に入りましょうよ…村紗とぬえも中に入ったみたいだし」
命蓮「え…?ああ……はい…わかりました…」
ーーーーーーーー
8月26日
命蓮が命蓮寺に来てから3日目の朝
廊下を歩く命蓮
命蓮「昨夜は心配で一睡もできなかった…ね、眠い…」
白蓮「おはよう命蓮」
白蓮と星に大部屋の前で出会う
命蓮「おはようございます。姉様」
星も頭を下げる
白蓮は白いワンピースの上に黒い羽織を着て風呂敷に包まれた荷物を持っている
命蓮「その格好は…?」
白蓮「ちょっと人里の方まで…夜までには戻ります」
命蓮「あ、小傘さんとナズーリンは…戻ってきたのですか!?」
白蓮は首を横に振り
白蓮「今日は見てないのでまだ戻られてはいないのかと…」
命蓮「そ、そうですか…」
白蓮は命蓮の頭を撫で
白蓮「大丈夫ですよ、小傘さんもナズーリンもしっかりしているので…心配には及びません」
命蓮「…はい…」
白蓮「それでは出てきますね」
命蓮「…お気をつけて…」
白蓮と星が玄関より出て行く
命蓮も気分を変え外の空気を吸おうと玄関かは外へ出た
門前では村紗とぬえが掃き掃除をしているのが見える
玄関口にいた一輪に問う
命蓮「おはようございます、一輪さん、2人は一体…?」
一輪「おはよう命蓮…村紗とぬえは昨晩呑みに出歩いてたのよ…今朝姐さんにバレて罰の掃き掃除…」
命蓮「ああ…成る程…」
命蓮は昨日の2人の姿を思い出す
村紗とぬえ、命蓮寺ではなかなかのトラブルメーカーの2人である。基本的に発信はぬえからなので大抵村紗はとばっちりだが
一輪「これも修行ね」
命蓮「…そうですね」
…と、一輪とほのぼのしていると村紗とぬえが手を止めている突っ立っていた
一輪「あ…まーたあの2人は…」
命蓮「私行きますよ…一輪さん、響子さんとお洗濯ありますもんね」
一輪「なんかこんな事までごめんね…」
命蓮「いえいえ…」
命蓮は村紗とぬえの元へ走って行く
命蓮(全く…寺の者なのに飲酒なんて…)
命蓮「こらぁっ!掃除サボっちゃダメじゃないですか!」
村紗とぬえはバレたとばかりに命蓮を見る
命蓮「これは罰なんですよ!サボらないでちゃんと掃除してくださいよ!」
ぬえ「ちゃんとやってたんだって…ネズミが帰ってきたからちょっと話してただけだよ」
命蓮(え?)
めんどくさそうに返すぬえ
村紗「まぁまぁ、ちゃんとやるよ命蓮君」
ぬえと村紗から視線を外しナズーリンと小傘に向き直り
命蓮「おかえりなさい、ナズーリン…んぇ?」
直後、小傘の開いていた傘で見えなかったがもう1人、見たこともない初老の男性がいた
男「…はは、どうも…」
命蓮(…誰?)
命蓮「あ、はじめまして、聖命蓮です。ようこそ命蓮寺へ」
姿勢を正し、頭をしっかり下げて挨拶をする命蓮
アドルフ「…アドルフです…随分お若いのに…よく妖怪相手にあそこまで言えますな…」
命蓮「あ…いや、ははは…」
命蓮(もう…ちゃんと言っておかないとみんな止まらないから…)
小傘「命蓮さん、おじさんは昨日私のことを助けてくれたの!」
命蓮「え?助けたって…本当ですか!?」
命蓮(…小傘さんを…?)
思わず前のめりになる命蓮
命蓮の勢いに多少たじろぐアドルフ
アドルフ「え、いや…まぁ…」
ナズーリン「助けてくれたよ。彼は小傘の…私たちの恩人だ…何か礼をできないかと思ってね」
ナズーリンが説明してくれる
命蓮「なんと!ええ!もちろん喜んで!…どうぞ、先ずは中でお話ししましょう!」
アドルフ「ん…いや…やはり私は…」
ナズーリンを見るアドルフ
ナズーリンは優しく微笑んで
ナズーリン「良いじゃないか、私達にとって小傘は家族、その家族を助けてくれた恩人にはちゃんと礼をしたいんだ…命蓮寺の顔を立たせてくれないか?」
アドルフは小傘を見る
小傘「…おじさん…?」
上目遣いでアドルフを見上げる小傘
アドルフ「う…」
アドルフは命蓮を見る
命蓮はニコニコしながら
命蓮「…さ、どうぞ」
アドルフ「…」
1つため息
アドルフ「お邪魔…します」
アドルフは命蓮に頭を下げる
ぬえ「じゃあお茶の時間だひゃっほー!」
両手をぐるぐる回しながら小躍りするぬえ
命蓮「ぬえさん達は罰の続きですよ!姉様に言いますよ?」
ぬえ「さぁ、村紗、命蓮寺を金閣寺のようにキラキラに磨き上げよう!」
村紗(…拭き掃除じゃなくて掃き掃除なんだけどなぁ)
ナズーリン、小傘、アドルフ、命蓮は本堂へ進んでいく
命蓮(良かったですね…小傘さん…素敵な出会いができて…)
命蓮寺は今日も快晴である