東方香靈記   作:114

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今年ももう終わりですね
寒いですはい


第15話「私のヒーロー」

 

 

8月26日

 

 

命蓮寺 大部屋

 

各々自己紹介をし、アドルフ、小傘、ナズーリン、命蓮、一輪の5人で卓を囲む

 

 

 

命蓮「ほうじ茶です、どうぞ」

 

 

 

アドルフの前にお茶を出す命蓮

 

 

アドルフ「ありがとうございます」

 

 

小傘「それで…おじさんは私がいじめられてる所を助けてくれたんだよ!」

 

 

 

ナズーリン「なかなかの脅しっぷりだったよ。大人にでも効くよあれは」

 

 

 

命蓮は感心する

 

命蓮「凄いですね…暴力ではなく言葉で相手を黙らせるとは…」

 

 

 

アドルフ「いや…私にはそれくらいしかできなかったので…」

 

 

 

命蓮「いえ、十分だと思います。暴力だけが解決への道では無いかと…思います。」

 

 

一輪「さすが姉弟…」

 

 

一輪はナズーリンと目が合う

ナズーリンは少し笑いながら

 

 

 

ナズーリン「この言葉、聖が聴いたら卒倒するだろうねぇ…」

 

 

命蓮「…え?」

 

 

 

小傘「ところでおじさんに御礼って…どうするの?」

 

 

 

小傘は卓に両肘をつけ、自身の手の指を動かしながら命蓮に問う

 

 

命蓮「あ…えーと…」

 

 

 

命蓮は大部屋の中をキョロキョロする

 

 

 

アドルフ「…お構いなく…お茶を頂けただけでも十分です」

 

 

 

一輪「あら…謙虚なんですね」

 

 

 

小傘「えーーー!おじさん今日は命蓮寺に泊まって行きなよー」

 

 

 

小傘は頰を膨らませてアドルフの真横に座る

 

 

 

アドルフ「いや…泊まりとならば、昨夜泊まらせてくれた慧音にも相談しなければならないしね…」

 

 

 

命蓮「けいね…人里にいらっしゃる方ですか?」

 

 

 

小傘「うん!寺子屋の先生だよー」

 

 

命蓮「寺子屋…!?…そのようなものが…」

 

 

 

アドルフ「命蓮殿は人里には?」

 

 

命蓮は目を瞑り首を横に降る

 

 

命蓮「…ありません。まだこの幻想郷に来て3日ばかり…此処命蓮寺から出た事はありませんので…」

 

 

一輪「命蓮は外来人なんですよ」

 

 

 

一輪がアドルフに補足して説明する

 

 

アドルフ「…あなたも…?私も幻想郷に来てまだ2日目なんですよ」

 

 

一輪は驚く

 

 

 

一輪「幻想郷に外来人が2人も…」

 

 

ナズーリンは一輪の言葉を聞き

 

 

 

ナズーリン「…何かの異変…?」

 

 

大部屋の襖が開きぬえと村紗が入ってくる

 

 

 

村紗「外来人がやってきたくらいで異変はないでしょ〜」

 

 

 

大部屋に入ってきた村紗は3冊程本を持っていた

 

 

 

ぬえ「一輪、カラスの新聞見た?」

 

 

ぬえは新聞を持っている

 

 

一輪「新聞?」

 

 

 

一輪はぬえから新聞を受け取り記事を読む

 

『悲報、命蓮寺放火される』

 

顔をひきつらせる一輪

 

 

 

一輪「…やっぱり…」

 

 

ぬえ「そっちじゃなくて表面…」

 

 

一輪「え?…ああ…」

 

 

『速報!博麗の巫女、妖怪退治を辞める!?』

 

 

一輪「え?…なにこれ?…」

 

 

村紗「今朝天狗が持ってきたんだよ、号外だ〜って…」

 

 

 

アドルフ、命蓮、ナズーリンも新聞を読む

 

ナズーリン「…八雲紫が…?…成る程…だからこの間聖はスキマに入っていったのか…」

 

 

一輪「え?…どういう事?」

 

 

 

命蓮「…すきま…?」

 

 

ナズーリンは新聞を小傘に預け、みんなに向き直る

 

 

ナズーリン「弟くんが此処に来る前…23日くらいかな?本堂で突然スキマ空間が現れてね…中から九尾が出てきて聖と何か話してたんだよ…その直後九尾と一緒に聖もスキマ空間に入っていってね」

 

 

一輪「…そんなことが…」

 

 

ナズーリン「しばらくしてから帰ってきたから何かと思っていたけど…各勢力の代表者達で会合でもしていたんだろう?」

 

 

 

小傘の背中に抱きつきながらぬえが言う

 

 

ぬえ「だいたいこいつらが幻想郷の警備するんなら大抵の妖怪は異変なんて起こそうなんて思わないんじゃない?」

 

 

 

すると壁にもたれかかりながら本を読んでる村紗が

 

 

村紗「そーそー、ある意味博麗の巫女より危ない奴ばかりだし…下手したら退治じゃなく殺されちゃうよ」

 

 

ケラケラ笑いながら物騒なことを言う

 

 

一輪「…ふぅん…」

 

 

命蓮「この…しんぶん?…を他の方に見られると命蓮寺の評判が落ちる可能性もあると思うんですが…どうしましょう…」

 

 

命蓮が少し心配そうにみんなに問う

 

 

一輪「ああ…」

 

 

ナズーリン「それは大丈夫だよ弟くん」

 

 

村紗「問題ナッスィンだよ」

 

 

命蓮寺の面々はなんてことなしに命蓮に返す

 

 

命蓮「…え?」

 

 

小傘「天狗さんの新聞は適当半分の記事が多いから一面記事以外はあんまり信用されてないんだって!」

 

 

小傘はお煎餅を食べながら命蓮に言う

 

 

アドルフ「…新聞とは…そんなもので良いのだろうか…」

 

 

 

それから他愛もない話でまずまず時間を潰していた面々。気がつけば時計の針も夕刻に近づいていた

 

 

命蓮(アドルフさんへのお礼…どうしよう…)

 

命蓮がそんなことを考えていた時だった

 

 

「住職ー!住職さんはいませんかー!?」

 

 

玄関より男性の声がした

 

 

一輪「あら…誰かしら…」

 

 

一輪が立ち上がり大部屋を出て行く

 

 

アドルフ「…私もそろそろ失礼しようかな…」

 

 

小傘「えええー!!ダメだよー!」

 

 

今日の小傘は膨れてばかりである

 

 

命蓮「ふふ、随分懐かれてますね、アドルフさん」

 

 

アドルフ「〜…」

 

 

命蓮に言われ、これはまいったといった顔をするアドルフ

 

一輪が廊下側から大部屋の襖を少し開ける

 

 

一輪「命蓮…ちょっといい?」

 

 

小声で命蓮を廊下側へ手招きする一輪

 

 

命蓮「?」

 

 

 

命蓮、一輪と共に来客の元へ向かう

玄関には黒い山高帽を被り、口元に髭を生やし、くたびれた紺のスーツを着た大正時代風な格好の中年男性と、着流しを着た2人の中年男性がいた

 

 

命蓮「あ、えーと…何か御用でしょうか?」

 

 

命蓮は山高帽の男性に問いかける

 

男性が命蓮を足元から顔まで見てから

 

 

山高帽「はじめまして…白蓮和尚はご不在とお聴きしたのですが…?」

 

 

命蓮「弟の命蓮です…私に出来ることであればお聞き致します」

 

 

山高帽「…私、人里にて商店を開いている山崎と言います。実は私共の息子達が行方不明となってしまいまして…」

 

 

命蓮「なんと…本当ですか!?」

 

 

一輪「…」

 

 

山崎「方々人里の中も外も探したのですが、全く見当たらず…もしかしたら紅魔館かと思ってですね…」

 

 

命蓮「…は、はぁ…」

 

 

山崎「ですが紅魔館は凶暴な妖怪の巣窟…我々ただの人間では簡単に殺されてしまいます。そこで、命蓮の方々に子供達を探すのを手伝っていただければと思い、やってきました。」

 

 

 

一輪「私達に紅魔館に行け、と?」

 

 

山崎は無表情を変えることなく一輪を見て

 

 

山崎「命蓮寺の方々は住職をはじめ、みな人間にも友好的と聴きました。それに我々人間よりも身体も丈夫…どうか人里の未来のため、ご協力お願い出来ませんか?」

 

 

一輪「…」

 

 

命蓮「…ふむ…」

 

 

ナズーリン「私は反対だよ、大反対だ」

 

 

命蓮「!?」

 

 

気がつくと後ろに山崎達を睨むナズーリンがいた。さらに大部屋の入り口では村紗が少し顔を出してこちらの会話を聴いている

 

 

命蓮「ナズーリン!?」

 

 

山崎「…」

 

 

ナズーリンは命蓮と一輪の横に並び

 

 

ナズーリン「この男の子供だよ…小傘を虐めていたのは」

 

 

命蓮「!?…山崎さん?」

 

 

山崎は自分のヒゲを触りながら

 

 

山崎「虐めていた…?ああ、そんな噂も聞いたことはありますな…」

 

 

ナズーリン「噂じゃない!…私の目の前で…何度もひどいことをしていたんだ!」

 

 

山崎「…仮に噂ではなく真実だとすれば子に変わり謝罪します。申し訳ない」

 

 

ナズーリンに浅く頭を下げる

 

 

山崎「ですが今回は子供達の命の危険があるかもしれない…どうか助けてもらえませんか?」

 

 

ナズーリンは拳を握り少し震える

 

 

ナズーリン「…そんな…一言で…!!!」

 

 

命蓮「ナズーリン!」

 

 

右手をナズーリンの前に出す

 

 

命蓮「山崎さん、わかりました。お引き受けしましょう…」

 

 

 

ナズーリン「…弟くん…!?」

 

 

 

頭をあげた山崎は口元だけ笑顔で命蓮に向き直り

 

 

 

山崎「…そう言ってくれると信じていました」

 

 

一輪「…命蓮…」

 

 

命蓮「ただし、見つかった場合…ちゃんと小傘さんに謝罪をしてもらいます。ただ一言で終わりではなく」

 

 

山崎「ええ、もちろんそうさせていただきます。いや…とても助かりますよ…聖徳王では話にならなかったので…それでは、私どもも引き続き捜索しますので…」

 

 

3人の中年達は玄関を開けたまま出ていく

 

 

ナズーリン「…」

 

 

命蓮「あ、あの…ナズーリン…さん?」

 

ナズーリン「…はぁ…」

 

 

ナズーリンはため息をついてから命蓮に詰め寄り

 

 

ナズーリン「君は一体何を考えているんだ!アイツらは私達の敵だぞ!?」

 

 

一輪「…」

 

 

命蓮「…ごめんなさい、ナズーリン…」

 

 

命蓮はナズーリンに深く頭を下げる

 

 

ナズーリン「…っ!!!」

 

 

命蓮の頭を下げる姿を見て怒る勢いがなくなるナズーリン

 

 

ナズーリン「……はぁ…」

 

 

一輪「まぁ…姐さんでも命蓮と同じように引き受けてたでしょうね…」

 

 

一輪が玄関の引き戸を閉めながら命蓮に言う

 

 

命蓮「…」

 

 

ナズーリン「流石は姉弟ってとこだろうね…本当に君達は甘いよ、甘すぎる…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

大部屋に戻ってきた命蓮、一輪、ナズーリンはアドルフ、ぬえ、村紗に山崎と話した内容を伝える

 

小傘は縁側に座って外を見ている

 

 

『ドンッ』

 

ぬえは右手で机を叩く

置いてある湯のみが揺れる

 

 

ぬえ「命蓮!アンタ気は確か!?」

 

 

村紗「アイツらの魂胆見え見えでしょ…」

 

 

命蓮「え?…魂胆?」

 

 

ナズーリンはお茶を一口飲み

 

 

ナズーリン「命蓮寺と紅魔館を潰し合わせようとしているんだよ…アイツらは」

 

 

アドルフ「…なにがなんやら…」

 

 

村紗はアドルフに説明する

 

 

村紗「紅魔館の主は、弱い人間を嫌ってるんですよ。だから館に訪れる人間は大体殺されます。…それと同じように自分の身内以外の妖怪に対してもいい顔はしません。」

 

 

ぬえ「人探してます〜知りませんか〜…なんて言ったら『馬鹿にしてるのか』とか言って槍が飛んでくるって…」

 

 

アドルフ「…まるで暴君だな…」

 

 

一輪「あの山崎ってやつ…人里で商店開いてるって言ってたじゃない」

 

 

命蓮「え…ああ、そういえば…」

 

 

一輪「たまたまアイツの店を見たことあったんだけども、取り扱ってるのが基本お酒なのよ」

 

 

命蓮「お酒…」

 

 

一輪はアドルフの空になった湯のみにお茶を注ぎ

 

 

アドルフ「…どうも」

 

 

一輪「しかも最近は自分のところで作った葡萄酒を売ってるらしいわ…人里ではまずまずの人気みたいね」

 

 

ナズーリン「…なるほど」

 

 

命蓮「…?」

 

 

ナズーリン「紅魔館も昔から葡萄酒を作っては人、妖怪に限らず売っているんだ」

 

 

アドルフ「人間、妖怪嫌いなのにか?」

 

 

ナズーリン「商売なら別なのだろうね」

 

ナズーリン はお茶を一口

 

 

一輪「紅魔館は主のお嬢様が暴君なだけでそれ以外の子達は…まあまあ話は通じるからね…売りに来てるのも紅魔館のメイド長だったり門番だったりよ」

 

 

村紗「しかも売り上げも葡萄酒だけなら幻想郷1じゃないの?…なら山崎からすれば紅魔館は商売敵…自分の嫌いな妖怪寺を自分の商売の邪魔な紅魔館にブツけたがるわけだわ…」

 

 

ぬえ「げー…ハラマックロだね…」

 

 

ナズーリン「山崎からすれば紅魔館が無くなれば売り上げ上がって、命蓮寺が無くなれば妖怪嫌いの山崎の心が潤うワケだ」

 

 

命蓮「…なんて…事を…」

 

 

ナズーリン「だからあんな奴の依頼を引き受ける必要はなかったんだよ…と言ってももう遅いけどね」

 

 

ぬえ「…で、どうするの?命蓮?」

 

 

命蓮「……」

 

 

命蓮、思わず目を伏せてしまう

 

 

「私、行ってくるよ」

 

 

一同縁側に目を向ける

 

 

 

小傘「紅魔館に…子供たちがいるかどうかを聞いてくるだけでしょ?」

 

 

ナズーリン「小傘…君もあそこが恐ろしいところだって知ってるだろう?」

 

 

小傘は一同に向き

 

 

小傘「わざわざ主さんのところへ行かなくても、門番さんに聞けばわかるんじゃないかな?」

 

 

ぬえ「そりゃあそれで済めば良いけど…」

 

 

小傘「門番さん…美鈴さんなら何度かお話した事もあるし…ダメだったら他の方法もあるし…大丈夫だよ!」

 

 

小傘は笑顔でそう答える

 

 

命蓮&アドルフ「…」

 

 

この笑顔は卑怯である

彼女の笑顔を見た者の心を動かす…そんな力があるような気さえする

 

 

命蓮「…行きましょう、小傘さん」

 

 

一輪「命蓮!?」

 

 

命蓮の言葉にみんな驚く

 

 

 

命蓮「そう、ただ聞きに行くだけ…喧嘩しに行くわけではありません」

 

 

アドルフ「私も行こう」

 

 

命蓮「え?」

 

 

アドルフ「…吸血鬼の館というものをただ観たくなっただけです…それに紅魔館という1つの組織である以上、会話することで意思の疎通も出来るはず…」

 

 

村紗「…」

ぬえ「…」

 

 

村紗もぬえも命蓮とアドルフの言葉を聞いて呆れる

 

 

一輪「わかったわ、私も行く」

 

 

村紗「一輪!?アンタまで…」

 

 

一輪「あんなところに人間2人と唐傘だけなんて心配でしょうがないし…」

 

 

ナズーリン「…」

 

 

一輪「私達って姐さんに助けられて姐さんの為に生きてきたじゃない?……さっき山崎から話を引き受けた命蓮を見て、姐さんでも同じ風に引き受けてたんだろうなって思ってね」

 

 

村紗「…」

 

一輪は少し照れくさそうに頰をかきながら

 

 

一輪「もし姐さんが引き受けてたら…一緒に行かないはずないもの…」

 

 

小傘「大丈夫だよ!上手くいくよ!」

 

 

一輪「…そうね」

 

 

ナズーリン「…はぁ」

ナズーリンはため息をつく

 

 

 

命蓮「…ナズーリン」

 

 

ナズーリン「人間2人と唐傘と雲と脳筋の雲使いだけじゃ心配でおちおちチーズも食べられない…」

 

 

一輪「誰が脳筋よ…」

 

 

ナズーリン「さっさと行こう…幸い吸血鬼姉妹もこの時間ならまだ寝てるはず…とっとと聞くだけ聞いて帰ってこよう」

 

 

ナズーリンも少し顔を赤くして立ち上がる

 

 

命蓮「…ナズーリン…」

 

 

一輪は村紗とぬえを見る

 

 

村紗「わ、私はパス…お寺留守にするわけにいかないし…」

 

ぬえ「…」

 

 

目を合わせぬまま答える村紗と黙るぬえ

 

 

命蓮「気にしないでください…私達が勝手にやってる事なので…」

 

 

村紗「…」

 

 

アドルフ「小傘、行こう」

 

小傘「…うん!」

 

 

 

 

こうして命蓮、アドルフ、小傘、一輪、ナズーリンと雲山で紅魔館へ向かうことになった

 

 

 

6人を寺の門から見送る村紗とぬえ

 

 

村紗「…なによ…」

 

 

ぬえ「…」

 

 

村紗は6人を見つめたまま己の拳を強く握る

 

 

 

 

一同はしばらく歩き1時間ほどで紅魔館へ着いた

 

高く大きい真っ赤な洋館、その洋館を囲うように立つ真っ赤な壁…少し霧が出ているような不気味な雰囲気

 

歩いた時間が長かったせいか、夕刻に近づき日は少し沈んできている

 

 

 

小傘「…うーん」

 

 

小傘が門の前で腕を組んでうなっている

 

 

ナズーリン「門番…いないじゃないか…」

 

 

小傘「変だねぇ…」

 

 

命蓮「いつもはここにいるんですか?」

 

 

小傘「うん…」

 

 

一輪は小傘の頭を軽く撫で、少し微笑みながら

 

 

一輪「別に疑っちゃいないわよ」

 

 

アドルフ「いつもいるのなら…たまたま離れているだけだろう」

 

 

命蓮寺の一同、紅魔館前で立往生

 

 

小傘「…中入ってみよう」

 

 

 

ナズーリン「多々良さん、不法侵入はどうかと思うよ?」

 

 

アドルフ(不法侵入…私は強く言えないな…)

 

 

小傘「大丈夫!」

 

 

小傘、ナズーリンに元気いっぱいに親指をたてる

 

 

命蓮「その自信はどこからやってくるんですか…」

 

 

小傘、紅魔館の門を押してみる

 

 

『ギィー…』

紅魔館の門が開く

 

 

 

小傘「…空いてるね」

 

 

アドルフ「…こんなものでいいのだろうか…」

 

 

小傘が門を半分開く

 

 

小傘「さっ!…みんな!」

 

 

命蓮「…大丈夫かな…」

 

 

 

ぞろぞろと紅魔館に入っていく一同

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

紅魔館の門の内側は館まで一本道、その両サイドには赤いバラ畑が広がっている

 

 

一輪「…すごい…」

 

 

アドルフ「建物の造りが…中世ヨーロッパ時代に建てられた建物に似ているような気がする…」

 

 

 

小傘「ひろいねぇー」

 

 

6人は館へ進み、両開きの大きな扉の前へたどり着く、紅魔館の正面入り口である

 

 

『コンコン』

 

扉をノックする小傘

 

 

ナズーリン「ちょっ…小傘…」

 

 

アドルフ「…迷いなき行動…さすが小傘…」

 

  

 

 

小傘「んー…留守なのかな…?」

 

 

命蓮「…」

 

 

命蓮はドアノブに手をかける

 

 

一輪「…命蓮?」

 

 

命蓮がドアノブを引く

しかし扉は開かない

 

 

小傘「命蓮さん、それはひねるんだよ~」

 

からからと笑いながら命蓮に教えてあげる小傘

 

 

ナズーリン「多々た、々良さん…?」

 

 

焦ったナズーリンはどもる

 

命蓮は両方のドアノブをひねって引く

すると扉が開いた

 

一同息を飲む

 

 

 

『ギィィイイイ…』

 

 

 

蝶番が少し軋む音がして扉が開いた

 

 

ナズーリン「だ、大丈夫…きっと中にいるのは門番かメイド長だ……」

 

 

紅魔館の中は少し薄暗かった

 

1番に突入した小傘は目を凝らす

 

入り口から入るとベージュの壁紙に赤いカーペットが敷かれたエントランスが広がっていた。エントランスの真ん中には二階に上がる広い階段がある

 

その階段の真ん中…二階へ登る階段を守るかの様に人影があった

 

黒い西洋の鎧の上から真っ黒なマントを羽織った長い髪、立派な髭を蓄えた30代後半の様な見た目の大男だった

 

 

小傘「こ、こんにちわ…」

 

 

 

少し警戒しながら小傘は挨拶をする

まさか男がいるとは思ってなかったのだろう

 

男は鋭い眼で小傘を見る

 

 

男「…また子供か…今日は来客が多い日だ」

 

 

小傘(…また?)

 

遅れて命蓮達も入ってくる

 

 

 

アドルフ「!?」

 

 

アドルフはナズーリンの耳元で小声で

 

 

 

アドルフ「…まさか利益どのが言っていた…」

 

 

ナズーリン「…そうみたいだね…まさか本当に紅魔館に男が…」

 

 

男「何用だ」

 

 

 

命蓮はすかさず小傘の前へ出て頭を下げる

 

 

命蓮「勝手に入ってしまい申し訳ありません…私は命蓮寺の命蓮と言います。実は人里で子供が行方不明になってしまって…」

 

 

男「…」

 

 

命蓮「…もし何かご存知でしたら教えていただきたいのですが…」

 

 

男「勝手に入ってくる様な連中に話すことはない、お引き取り願おう」

 

 

男は右手で入口の扉を指す

 

 

命蓮「…ぅ…」

 

 

アドルフが命蓮の横に並ぶ

 

 

アドルフ「どうか無礼を許してほしい…子供達がいるかいないかだけを教えてはもらえませんか?」

 

 

男「何度も言わせるな」

 

 

男が低い声でそう言うと腰から下げてる剣を抜いた

 

アドルフ「!?」

 

一輪「ち、ちょっと!」

 

 

思わず一輪が叫んだ

 

 

一輪「勝手に入ったのは悪かったけど…そんな物騒なもの出さないでよ!」

 

 

男「3つ数える内に紅魔館から出て行け」

 

 

男が剣を構える

 

 

命蓮「ま、まま、待ってくださいよ!」

 

男「1つ」

 

ナズーリンは入口の扉のドアノブに手をかける

 

 

 

男「2つ」

 

 

一輪「…くっ!」

 

一輪が手のひらより大きい鉄のリングを取り出す

 

 

男「3つ」

 

 

男が小傘に向かって翔ける

 

強く目を閉じる小傘

小傘を守る様に抱き寄せるアドルフ

 

 

「待ちなさい」

 

その瞬間、少女の声がした

男の動きが止まる

 

小傘がゆっくり眼を開けると顔を男に向け小傘を抱きしめているアドルフがいた

 

そのアドルフの首元には男の剣先が当たるギリギリで止まっていた

 

 

命蓮「あ、アドルフ…さん…」

 

 

男「…レミリア…」

 

 

男はアドルフの首元に剣を向けたまま

 

一同が声のした方を見ると、二階の階段近くの手すり近くに薄い桃色のドレスを着た、背中に蝙蝠の羽を持つ吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットがそこに居た

 

 

 

レミリア「その人達は殺しちゃダメよ」

 

 

 

レミリアは微笑んでから一言

 

 

レミリア「…お父様」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

紅魔館、大広間

 

天井は高く、床いっぱいに赤い絨毯が広がるいかにも貴族らしい大広間、長い大机の先端、中央の上座の椅子にレミリアが座り、その右側に先の男が、左側に銀髪のメイド長、十六夜咲夜が立っている

 

大机の左右の席に命蓮寺の面々が座っている

 

 

命蓮「命蓮です。命蓮寺の住職の弟です」

 

命蓮は1つ頭を下げ自己紹介をする

 

 

 

アドルフ「アドルフです…ええと…外来人です」

 

 

アドルフも同じく挨拶をする。不法侵入の上に名前を名乗らないとなればただの恥である

 

 

レミリア「…」

 

 

レミリアは何も言わずに命蓮とアドルフを見てから一言

 

 

レミリア「その他の名前はいいわ…大体知ってる顔ばかりだから」

 

 

男「すまなかったな…先程は無礼を働いてしまった」

 

 

男は小傘とアドルフに頭を下げる

 

 

小傘「ううん…勝手に入っちゃったの私達だし…」

 

小傘は少し恥ずかしそうに答える

 

 

一輪「そもそも私達の方が無礼だったからね…」

 

 

男「今朝、品のない賊の様な奴らが来てたからな…少し警戒していた」

 

アドルフ(利益殿達か…)

 

 

 

レミリア「…で?」

 

 

 

レミリアが一言発する

アドルフと命蓮はレミリアの顔が見れない。圧というのだろうか、まるで蛇に睨まれたカエルの様に身体が硬直した様な気がした

 

 

レミリア「お前達は何の用で此処に来た?」

 

 

レミリアがアドルフに向かって言う

 

 

レミリア「返答次第では私が直々に手を下してやろう」

 

 

一瞬間が凍る

下手な言葉は言えない…

 

そうアドルフと命蓮が思った時だった。

 

 

小傘「んもーっ!なんでそういう言い方するかなー!?」

 

小傘が席を立ってレミリアに怒る

 

 

 

命蓮「小傘さん…ちょっと!」

 

 

小傘「私達は子供達を探しに来ただけだってば!」

 

男「…」

 

 

 

レミリア「…え?子供?」

 

 

 

レミリアの空気が変わる

カリスマたっぷりだった雰囲気は無くなり

 

椅子の肘掛に頬杖をついて

 

 

レミリア「なーんだ…悪そうな顔してるおじさん連れて来たからなんか面白そうな事するのかと思ったのに…」

 

 

アドルフ「悪そうな顔…」

 

 

 

アドルフが少しどんよりする

 

 

男「…レミリア…」

 

 

男がレミリアを声をかけるとレミリアはハッとして頬杖を解いて咳払いをしてから紅茶を手に取り狂気の笑顔を作り吸血鬼のカリスマたっぷりに

 

 

 

レミリア「失礼…貫禄がある、と言う意味で言ったのよ…」

 

 

アドルフ(…あ、なんか見栄張ってるな…)

 

 

咲夜「お嬢様、失礼ながらもうカリスマキャラ作りは必要無いかと…」

 

 

咲夜がレミリアに言うとレミリアはため息

顔を赤くして

 

 

レミリア「…あー!もうめんどくさいわね!子供達でしょ!?…咲夜!」

 

 

咲夜「はい…子供達は紅魔館の武器や防具を盗もうとしてたので、牢に入ってもらってます」

 

 

命蓮「よ、よかった…無事だったんですね」

 

 

 

ナズーリン「…ところでミス・スカーレット…その男性は?…先程はお父様と呼んでいたけど…」

 

 

ナズーリンが恐る恐るレミリアに質問する

レミリアはナズーリンの言葉にさも当たり前のように

 

 

レミリア「…お父様よ?私とフラン…紅魔館の父」

 

 

ナズーリン「…お父様?…どう見てもただの人間にしか見えないんだけども…」

 

 

 

ナズーリンの言葉を聞いて男がみんなに向きなおる

 

 

 

男「…ヴラドだ…この幻想郷にはまだ来たばかりでな…気がつけばこの子達の父と呼ばれていた…」

 

 

そう言いながら少し微笑みながらレミリアの頭に手を乗せる

 

アドルフ(まさか本当に…ヴァンパイアか…?)

 

 

レミリア「…」

 

 

レミリアは少し赤くなってからヴラドの手を払う

 

 

レミリア「子供扱いしないでよお父様っ!…他の人がいる時は…!」

 

 

元からレミリアを知る一輪、ナズーリンは戦慄する

 

あの…あのわがまままで暴君のようなレミリアが、こんなにも…

 

 

ナズーリン「まるで…少女だね…」

 

 

咲夜「…お嬢様…」

 

 

咲夜がレミリアを小声で呼ぶ

 

 

 

レミリア「…あ」

 

 

レミリアは命蓮寺の面々からの視線に気づき

1つ咳払い

 

 

 

レミリア「結局…何しに来たのよ貴方達…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

少女達説明中

 

 

レミリア「ふーん…その山崎って奴…魂胆見え見えでムカつくわね…」

 

 

 

頬杖をかいたままレミリアは答える

ヴラドは窓側の椅子座り外を見ている

 

 

一輪「本当かどうかはわからないんだけどね…」

 

 

 

ナズーリン「本当に子供を助けたいんなら人里の…自警団や寺子屋の先生のところとかに行くだろう」

 

 

レミリアは少し考えてから

 

 

レミリア「うん、良いわよ…子供達をさっさと連れて行きなさい…お父様、咲夜、お願い出来るかしら?」

 

 

咲夜「承知しました」

ヴラド「…」

 

 

咲夜は頭を下げ、ヴラドは頷く

 

 

小傘「良いの?今夜の食事にするわ!…とか言うかと思った…」

 

 

レミリア「…私はグルメなの…ムカつく人間の子供なんて食べたって美味しくはないわ…それに…」

 

 

レミリアは小傘をじっと見つめ

 

 

小傘「…?」

 

 

レミリア「ちょっとしたお礼よ」

 

 

小傘「???」

 

 

レミリアの言葉にみんなハテナが浮かぶ

 

 

 

レミリア「そんな事より貴方…」

 

 

レミリアはアドルフに指を指す

 

 

 

アドルフ「…は?」

 

 

レミリア「さっきからずっと持ってるその背中の風呂敷…」

 

 

ナズーリンは座ったまま身構える

ナズーリン(…しまった!!慧音から貰った納豆!?)

 

アドルフ(…やはりこの匂いは吸血鬼にはダメだったか…!?)

 

 

ヴラド「…??」

 

 

レミリア「…納豆ね…?」

 

 

アドルフ「…ええ」

 

 

アドルフは恐る恐る答える

 

 

レミリア「もしかして…私へのお土産ね!?」

 

 

レミリア、嬉しそうに良い顔でアドルフに言う

その言葉で一同固まる

 

ナズーリン(まさか…!)

一輪(この反応って…)

 

アドルフ(この子…)

 

 

 

命蓮「レミリアさんは納豆がお好きなんですか?」

 

 

命蓮、普通にレミリアに話しかける

 

 

レミリア「もちろん」

 

 

レミリア、腕を組んで即答

 

 

レミリア「あんな美味しいもの、この世に2つと無いわ!…納豆こそグルメの頂点よ!」

 

 

ヴラド「…?」

アドルフ「…」

 

アドルフは一度ナズーリンを見る

 

頷くナズーリン

 

 

 

アドルフ「ああ…もし良ければどうぞ?沢山あるので…」

 

 

そう言ってアドルフは背中に背負ってた風呂敷をテーブルの上で広げる

中には藁で巻かれた納豆が20本ほど入っていた

 

 

レミリア「!!!!!」

 

 

思わず顔を赤くするレミリア

 

咲夜(お嬢様…飛び跳ねたいほど嬉しいでしょうね…)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

咲夜とヴラドに着いて行き紅魔館の中庭に出る。空はもう暗くなっていた

 

 

一輪「牢って…外にあるの?」

 

 

咲夜は振り返らずに答える

 

 

咲夜「昔は館と繋がった地下にあったのですが…今は外…あの建物が現在の紅魔館の牢屋です」

 

 

咲夜は中庭の隅に立ててある赤いレンガの小屋を指差す

 

 

命蓮「これが…牢屋…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

鉄扉を開けると地下への階段が続く

地下に降りると蝋燭の明かりだけが灯った3室ある牢屋に着いた

 

 

少年A「うわっ!うわぁぁ!!」

 

 

ヴラドを見た少年たちが怯える

少年達は3人まとめて同じ牢に入れられていた

 

 

ヴラド「…少しは反省したか?」

 

 

少年B「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

 

 

少年C「もう家に返してください!」

 

 

ナズーリン「…一体何が…?」

 

 

 

ナズーリンがヴラドの方を見て呟く

 

 

ヴラド「…この子供達は昼頃に紅魔館な忍び込んで来たんだ…今日はたまたま門番が人里に出ていてな…すんなりと…忍び込んで来た」

 

 

咲夜「その時ちょうど私も門から離れていたので気づかなかったんです…そうしたらヴラド様に捕まったらしくてですね…」

 

 

アドルフ「何故紅魔館に…」

 

 

少年A「お父さんから…紅魔館には剣とかの武器が沢山あるからって…教えられて…」

 

 

命蓮「…君は…もしかして山崎…さん?」

 

 

命蓮の言葉に少年Aはハッとして

涙目でしゃくりながら返答する

 

 

少年A「な…なんで知ってるんだよ…」

 

 

一輪「まさか…自分の子供にまでこんな事させるなんて…」

 

 

ナズーリン「山崎って男がどれほど腐った男かよくわかったね…」

 

 

小傘「…」

 

 

小傘は牢越しに少年達の前に出る

 

 

 

小傘「そんなに…私のこと嫌いだったの?…殺したいほど…」

 

 

アドルフ「…小傘…」

 

 

少年Aは小傘から目をそらして

 

 

少年A「…別に…お前だけ嫌いなんじゃない…」

 

 

ナズーリン「…」

 

 

少年A「俺たちは親を妖怪に殺されたんだ…」

 

 

命蓮「え?…お父さん…山崎さんは生きてるじゃないか…」

 

 

少年A「あいつは本当の親父じゃない…」

 

 

少年Aは牢の手すりに両手をかけ

 

 

 

少年A「俺は養子で引き取られたんだ!…親のいない子供を引き取れば人里の人間からの印象良くなるからな…!でも引き取ってから俺に優しくしてくれたことなんて無かったよ…」

 

 

小傘「…」

 

 

少年A「だから…俺は妖怪を許さない…お前ら妖怪がいるから…俺たち人間は不幸になるんだ…!」

 

 

アドルフが少年達の檻の前に立つ

 

みんながアドルフに注目する

 

 

アドルフ「ご両親が妖怪に殺された…なるほど不幸な事だと思う…だが小傘が何かしたのか?君の親を殺したのか?」

 

 

少年A「…」

 

 

少年Aはアドルフを睨む

 

 

 

アドルフ「ご両親が殺されて不幸な事だと思う、だが君はその悲しみの中ずっともがき苦しむだけなのか?前へ進もうとは思わないのか?妖怪を許さない?妖怪を殺す?そんな野蛮なことしか考え付かないのか?」

 

 

少年A「…うるさい…」

 

 

アドルフ「子供だからってそんな直情的な考えを持った時点で君は君が嫌っているご両親を殺した妖怪と同じではないのか?」

 

 

アドルフ「殺されて恨むのは簡単だ、だがそこからどう這い上がるか、どう考え方を変えるかで君の未来が変わるだろう」

 

 

少年A「…うるさい!」

 

 

アドルフ「小傘は優しい少女だ、小傘をずっといじめてきて小傘にやり返されたことがあるのか?小傘に殺されかけた事は?叩かれたか?石を投げられたか?罵倒されたか?」

 

 

少年A「…!!」

 

 

アドルフ「亡くなった親御さんが今の君を見たらなんと言うんだろうな…」

 

 

小傘「…おじさん」

 

 

小傘がアドルフの服の裾を掴む

 

 

アドルフ「…小傘」

 

 

少年A「…」

少年Aは下を向く

 

 

小傘「早く、出してあげよう?」

 

 

咲夜「…開けますね」

 

 

咲夜は少年達の檻の鍵を開ける

 

 

命蓮「…人里までお送りしますよ」

 

 

少年A「いい…自分達で帰る…」

 

 

少年達は少し俯きながら檻から出てくる

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

少年達はみんなが降りて来た階段の方へ向かい、少年B、Cが階段を上っていく

 

少年Aは小傘に振り返る

 

 

 

少年A「…」

 

 

小傘「…?」

 

 

少年Aはまた階段の方を向き一言

 

 

 

少年A「…ごめん…もう、いじめないから…」

 

 

そう言って少年Aも階段を上っていった

 

 

小傘は少年の言葉にきょとんとしてなにも言えなかった

 

 

アドルフ「…きっともう大丈夫だよ、小傘」

 

 

アドルフが小傘の頭にぽんと手を乗せる

小傘はすこし照れながら

 

 

小傘「…うん、ありがとう、おじさん」

 

 

 

一輪「…さ、用事も済んだ事だし、みんなもう行きましょう!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

紅魔館、門前

 

門前には命蓮、一輪、雲山、ナズーリン、アドルフ、小傘の6人に加えヴラド、咲夜がいた

 

 

 

命蓮「わざわざ門まで送ってもらってすいません」

 

 

命蓮がヴラドに頭を下げる

 

 

ヴラド「いや…俺も外の空気を吸いたかったからな…それに…」

 

 

ヴラドはアドルフと楽しそうに話してる小傘を見てから少し微笑む

 

 

ヴラド「…良いものも見れたしな」

 

 

一輪「え?」

 

 

咲夜「ふふ…」

 

 

ヴラド、咲夜が笑ってるのを見てバツの悪い顔をする

 

 

 

ヴラド「ん"んっ…では、道中気をつけろよ」

 

 

命蓮「はい、失礼します」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

紅魔館を後にする命蓮寺一同

紅魔館の門の外で見送るヴラドと咲夜

 

 

ヴラド「…咲夜」

 

 

遠くなる彼らを見ながら咲夜と呼ぶ

 

 

咲夜「はい…場所は分かっています」

 

 

ヴラド「あまり遅くならないようにしよう…レミリアにもフランにも機嫌を悪くされたらかなわん」

 

 

 

咲夜「…本当によろしいのですか?」

 

 

咲夜がヴラドに少し心配そうに問いかける

 

 

ヴラド「…舐められたら終わりだ…やるときは徹底的に、だ」

 

 

 

咲夜「はい」

 

 

ヴラド「さぁ行こう咲夜」

 

 

 

そう言って命蓮寺とは違う方向、人里の方へ歩き出すヴラドと咲夜

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ところ変わって命蓮寺の門前

 

 

命蓮「ええっ!?人里に戻る!?」

 

 

 

アドルフ「あ…ああ…」

 

 

アドルフの言葉に驚く命蓮、少し退くアドルフ

 

 

 

小傘「ええええええ!!いぃやぁだぁぁぁあ!」

 

 

アドルフの腕をガッシリ掴んで更に頭を擦り付ける小傘

 

 

アドルフ「いたたたた…」

 

 

一輪「アドルフさん?ウチは泊まってもらって大丈夫ですよ?むしろ泊まっていってください」

 

 

命蓮「貴方には助けられてばかりです…ちゃんとお礼をしたいんです!」

 

 

一輪、命蓮、小傘でアドルフに詰め寄る

 

雲山は気の毒そうな顔でアドルフを見ている

 

 

アドルフ「いや…わたしにも…義理があるんだよ…」

 

 

命蓮「…義理?」

 

 

 

腕に小傘をくっつけたアドルフは人里にのほうを見る

 

 

アドルフ「慧音に一晩お世話になった…別れも礼も言わずに勝手に居なくなるのはどうかと思ってね…」

 

 

 

アドルフ「命蓮さん…貴方たちが私に対して礼をしたいと思うのと同じく私も慧音に礼がしたいんだ…どうか私の気持ちを汲み取ってはもらえないかね」

 

 

一輪「アドルフさん…」

 

 

命蓮は少し考えてから

 

 

命蓮「わかりました…私達からのお礼は…我慢します…」

 

 

アドルフは命蓮に向き直り

 

 

アドルフ「…ありがとう」

 

 

命蓮「でも必ずお礼はしますので…是非また命蓮寺にお越しください」

 

 

 

一輪「ウチはいつでも大歓迎ですよ」

 

 

一輪と命蓮は笑顔でアドルフに言う

 

 

アドルフ「ああ…必ずまた来よう…」

 

 

 

小傘「うん、また来よう!」

 

 

アドルフ「…」

 

 

アドルフは腕に引っ付いた小傘を離そうとする

 

 

命蓮「…」

 

 

命蓮達はアドルフと小傘を微笑ましく見る

 

 

アドルフ「小傘…君は命蓮寺に残りなさい」

 

 

ぐいぐいと小傘を引っ張る

 

 

小傘「い、いやだっ!おじさんと行くのー!」

 

 

小傘、アドルフの腕に小傘ホールド

 

 

 

アドルフ「や、何を…」

 

 

アドルフは助けを求めようと命蓮を見る

 

 

命蓮「…もう1日くらい…一緒に居てあげてはどうでしょう?」

 

 

いい笑顔で返す命蓮

 

 

アドルフ(君は聖職者だろう!?)

 

 

一輪「せっかくこんなに懐いてるじゃないですか」

 

 

アドルフ(一輪さん!貴女も!)

 

 

苦し紛れにナズーリンを見るアドルフ

ナズーリンはニヤリと笑い

 

 

 

ナズーリン「私も行きたいが…昨日ご主人の買い物が出来なかったんだ…これから説教を受けなきゃならない…」

 

 

アドルフ「…」

 

 

アドルフ、固まる

すると小傘が上目遣いでアドルフに問いかける

 

 

小傘「おじさん…駄目…かな?」

 

 

アドルフは小傘がホールドしてない右手で自分の顔を抑える

 

 

アドルフ「夜の道だ…危険かもしれない…」

 

 

一輪「なら人間より力がある妖怪の小傘がいた方が良いですよ」

 

 

アドルフ「…人里に行っても慧音が寝てたら野宿するかもしれないんだぞ!?」

 

 

命蓮「冬ならともかく今は夏、星空が綺麗ですよ」

 

 

アドルフ「……私は男だ!豹変して小傘を襲うかもしれない!」

 

 

ナズーリン「小傘を襲うのかい?」

 

 

 

アドルフ「…いや…」

 

 

アドルフ「…」

 

 

こんな時に弁が立たないとは…そう考えるアドルフだったが

 

 

命蓮「みんな、アドルフさんを信用してるんですよ…」

 

 

 

アドルフ「命蓮さん…」

 

 

命蓮「不思議な人だ…たった数刻一緒にいただけなのに小傘さんを大切に思う気持ちをとても感じます」

 

 

一輪「アドルフさんなら安心して小傘を任せられますよ」

 

 

 

アドルフはため息を吐いて

 

 

アドルフ「…ふぅ…わかった…私の負けだよ…もう1日だけだぞ?小傘…」

 

 

小傘はアドルフの腕から離れて満面の笑みで

 

 

小傘「…うんっ!」

 

 

 

 

夜、月の光だけで照らし出された命蓮寺から人里へと続く道…

 

その道を歩いて行くアドルフと小傘

 

背を見送る命蓮達

 

 

一輪「…変な人だったわね…」

 

 

ナズーリン「噂に聞く独裁者とは大きく違ったね」

 

 

一輪はナズーリンを見て

 

 

一輪「独裁者?」

 

ナズーリンは右手で口元を隠す

 

 

ナズーリン「おっと失言だった…忘れておくれ」

 

 

命蓮「なんだって構いませんよ…彼はとても良い人だ…また会いたいですね」

 

 

 

遠くなる2人を見つめながら命蓮がこぼす

 

 

 

一輪「そうね…さ、中に入りましょう」

 

 

 

命蓮寺の門をくぐる4人

ちなみにこの後帰るのが遅くなった事で白蓮にお叱りを受けるのは別のお話

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

人里に向かって夜道を歩くアドルフと小傘

 

小傘は軽い足取りで鼻歌交じりに道を進んでいる

 

アドルフ(ああ…今日一日疲れた…

あ…納豆全部あげてしまったな…まぁいいか…朝から納豆を食べ、利益殿達と出会い、命蓮寺からの紅魔館…もうクタクタだ…)

 

アドルフは小傘を見る

小傘はニコニコしながらスキップをしている

 

アドルフ(悪くない一日…いや、2日間だった…こんな平和な時間を過ごすのはどれくらいぶりだろう…)

 

 

アドルフ(…不思議な…気持ちだな…)

 

 

その瞬間、アドルフの頭の中にある風景が突然流れ込んできた

 

 

第一次世界大戦の風景

ドイツ国民の前で演説する風景

ドイツの首相になった瞬間の風景

ポーランドに侵攻した風景

 

そしてユダヤ人を…

 

 

…さん…

 

(何故…急に…)

 

 

…じさん…?

 

まるで映画館のスクリーンを見てる様な…しかしその場面場面が瞬間的なスピードで切り替わる…

 

(わ…私…は…)

 

「おじさん!!」

 

 

アドルフ「…はっ!」

 

 

月の光の下、人里への道の途中でアドルフは尻餅をついていた

 

小傘が心配そうに問いかける

 

 

小傘「…おじさん…大丈夫?」

 

 

 

アドルフ「あ…ああ…」

 

 

アドルフは立ち上がり小傘の頭を撫でる

 

 

アドルフ「大丈夫だよ、そんな泣きそうな顔をしないでおくれ」

 

 

小傘「…違うよ…」

 

 

アドルフ「え?」

 

 

小傘は少し背伸びをしながらアドルフの頰に優しく手を当てる

 

 

 

小傘「泣いてるのはおじさんだよ?」

 

 

その時アドルフは初めて気づいた

自分の頰に水が流れているのを…

 

 

アドルフ「な、なんだ…?」

 

 

アドルフは手で頰を拭う

 

すると、立っていたアドルフは肘から地面についた

 

 

アドルフ「…わ、私は…う、うぅ…」

 

 

泣きじゃくりながら地面に土下座する様な姿勢になるアドルフ

 

 

アドルフ「う、ぅぁああああ!!」

 

 

アドルフ(なんだこの感じは…次から次へと涙が…何も…考えられない…)

 

 

 

アドルフ「!?」

 

 

小傘はアドルフを胸元に抱きしめる

 

 

アドルフ「こ…小傘…」

 

 

小傘「大丈夫…大丈夫だよ、おじさん…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

道端にあった丸太に並んで座るアドルフと小傘

 

すっかり泣き止んだアドルフは気まずかった

 

アドルフ(…なんてことをしてしまったんだ…小傘に抱きつきながら泣くとは…)

 

アドルフは頭を抱える

恐る恐る小傘に話しかけるアドルフ

 

 

 

アドルフ「こ、小傘…さっきは…」

 

 

小傘はニコッと笑って

 

 

小傘「すまなかった?…良いよ!…おじさんは私の事をずっと助けてくれたんだもん!」

 

 

アドルフ「……ありがとう…」

 

アドルフ(…ありがとう…か…)

 

 

 

小傘「きっとおじさんも大変だったんだよね?私じゃわからないことで沢山悩んだりしたんだと思うよ?」

 

 

アドルフは小傘の言葉に驚く

 

 

アドルフ「…何故…そんなことが?」

 

小傘は口元に指を持っていってんー、と考えながら

 

 

小傘「私って傘の付喪神…物の妖怪だから…人間に触れるとなんとなくその人の思い、とか記憶が私の中に入ってくるんだ」

 

 

アドルフ「…」

 

 

小傘「なんとなく…おじさんの記憶が見えた様な気がしてね…えーと…戦争?とか…そうとう?とか…」

 

 

アドルフ「…ただの人殺しだよ、私は…」

 

 

小傘「うん、そうだね」

 

 

小傘「でも…昨日も言ったよ?おじさんのおかげで私は不幸にならなかった」

 

 

アドルフ「…小傘」

 

 

小傘はまたアドルフに笑顔で

 

 

小傘「おじさんがどんな悪い人でも、人殺しでも…私にとってはヒーローだから!」

 

 

アドルフ「…ヒーロー…」

 

 

 

小傘「私、おじさんに着いて行くから!ちゃんと…私もおじさんも満足できるお礼をできるまで」

 

 

その言葉を聞きアドルフは立ち上がる

 

 

小傘「おじさん?」

 

 

アドルフは小傘に背を向け人里の方を向いたまま

 

 

アドルフ「ヒーローとは…市民を…世界を守れる人間のことだ…」

 

 

小傘「…」

 

 

小傘に振り向き少し笑いながら

 

 

アドルフ「私は小傘…君1人を守れればそれでいい…」

アドルフ(私も守られてばかりだよ…小傘…)

 

 

 

小傘は顔を真っ赤にしてアドルフの袖を引っ張る

 

 

小傘「もうっ!はやく行くよおじさん!」

 

 

アドルフ「ははは…わかったわかった」

 

 

 

 

 

「お二人さん、仲良いねぇ〜」

 

 

 

頭上から少女の声がした

 

 

 

アドルフ「ん?」

 

 

 

見上げると少し太めの木の枝にオレンジ色のチャイナ服を着た少女が座っていた

 

 

 

「こんばんわ〜」

 

 

小傘「貴女…誰?」

 

 

少女は木から降りる

アドルフがさりげなく小傘の前に立つ

 

 

 

「…?そんなに警戒しないでよ〜…ウチはおじさん達の味方だよ〜」

 

 

アドルフ「妖怪か?人間か?」

 

 

アドルフがこう聞くのは仕方ない…幻想郷の少女達は一部の妖怪を除いて人間とほぼ区別がつかないのだ…人間だと思ったら妖怪だった、なんて事もある

 

 

香「ウチはかおり…瑠歌香って言うんだ」

 

 

少女はケラケラと笑いながら自己紹介をする

 

 

小傘「…るか…かおり?」

 

 

香「お姉さんと同じ妖怪だよっ」

 

アドルフ「そんな妖怪が私達に何の用だ?」

 

 

 

アドルフは少し睨みながら香に問う

 

 

香「んー…」

 

 

アドルフ「!?」

 

 

一瞬だった、3メートルほど離れていた香が一瞬でアドルフの目の前に跳んできた

 

香は両手でアドルフの顔を掴み、自分の顔の前へ持ってくる

 

何も知らない人が見れば男女がキスをしている様に見える

 

ちなみに香の身長は小傘よりも少しばかり大きかった

 

 

小傘「な、な、な、な、何して!?」

 

 

アドルフはほんの数センチ先の香の眼を見る

真っ黒である…一切の光が灯っていないほど…深い深い黒だった

 

 

香「うん、いい色だね…」

 

 

 

少女の声なのに少女の声ではない様に聞こえた

その声と眼の色にアドルフは戦慄する

 

まるで自分の額に銃口を押さえつけられている様な錯覚にさえ陥ったのだ

 

 

香「…もうすぐだよ…お母さん…」

 

 

香が吐息を漏らす様に小声で呟いた

アドルフに言っているのではない…アドルフではない誰かに言ったのだ

 

 

小傘「ちょっと!!」

 

 

小傘がアドルフと香の間に割り込む

 

 

 

香「おっとっと…」

 

 

小傘「な、によ!あなた突然!」

 

 

 

香はおどけた風に笑って

 

 

香「ごめんごめん〜素敵なおじさまだったからつい、ね」

 

 

 

アドルフ「……」

 

 

小傘「んもぅっ!」

 

 

小傘、膨れる

 

 

 

香「じゃあ、仲良くしてるところお邪魔しました〜」

 

 

そう言って香は人里の方に飛んで行った

 

 

アドルフ「…なんだったんだ?…ん?小傘?」

 

 

アドルフが小傘を見ると小傘はジト目でアドルフを睨んでいた

 

 

アドルフ「え?…な、何?」

 

 

小傘はぷいっとそっぽを向いて

 

 

小傘「べっつにー」

 

 

月夜の中、少し距離が離れた老人と少女は人里に向かう

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

その日の日付が変わる頃の紅魔館

 

大広間にてレミリアは窓際の椅子に座って外の景色を眺めていた

 

 

 

咲夜「お嬢様」

 

 

レミリアの後ろに突然現れる咲夜

レミリアは後ろを振り返らずに

 

 

 

レミリア「おかえりなさい咲夜…もう済んだの?」

 

 

 

咲夜「はい、ヴラド様が」

 

 

レミリアはふ、と笑って

 

 

レミリア「お父様は?」

 

 

 

咲夜「ご自分のお部屋に戻られています」

 

 

レミリア「そぅ」

 

 

咲夜「…」

 

 

窓に映った咲夜の顔を見てレミリアは眼を閉じる

 

 

 

レミリア「咲夜…お父様のいる生活はどう?」

 

 

咲夜は真っ直ぐな眼でレミリアに向けて言う

 

 

咲夜「とても幸せです」

 

 

レミリアは後ろを振り返りニコッと無邪気に笑って

 

 

レミリア「私もよ!」

 

 

再度窓の外を見ながら少し切ない表情で

 

 

 

レミリア「…絶対…この幸せを手放すものですか…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

人里には入らずに少し離れた森の上を飛んでいる香

 

 

 

香「うん、みんな良い顔してたなぁ…」

 

香(あと少しで全て整う…そうすればお母さんが褒めてくれる)

 

 

香は笑う

 

 

 

香「…早く、会いたいなぁ…」

 

 

 

香「お母さん…」

 

 

 

 




ここに来て、物語の鍵を握る少女、オリジナルキャラクターの瑠歌香の登場となります。

どうぞよろしくです
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