8月25日
目を開けるとあいも変わらずの洋館の天井だった
ヴラド「…う…」
頭を抑えベッドから起き上がるヴラド
ヴラド「…ベッド?」
枕元にある椅子には自身が着ていた鎧一式と剣が掛けてあった
更にその隣に並ぶ椅子の上にも黒い生地の服が畳んで置いてあった
ヴラド「…」
ヴラドは自身に掛かっているシーツを払い自分の服装を見る
上半身は白い長袖の胸元の開いた薄いシャツを着、下半身は黒の薄手の長ズボンを履いていた
ヴラド「…」
コンコン、と部屋の扉からノック音が聞こえた
咲夜の声「ヴラド様、咲夜です。入ってもよろしいでしょうか」
ヴラド「…あ、ああ…」
がちゃりと扉のドアノブが周り扉が開く
数時間とはいえ見知った顔、十六夜咲夜であった
ヴラド「もう平気なのか?」
咲夜「体調はいかがでしょう…」
両者同時に喋る
ヴラド「ん…ああ、おかげさまでな…」
咲夜「ふふ、私もお陰様でもうすっかり元気です」
タイミングがハモった事でヴラドは少し恥ずかしそうに、咲夜は笑顔で答える
ヴラド「…俺は…どれくらい寝ていた?」
咲夜「…6時間です…もう朝ですよ」
ヴラド「…朝…?」
初めてこの紅魔館に入った時もそうだったが、この建物には窓があまりない、よって朝か夜かもハッキリとはわかりにくいのだ
ヴラド「…ついさっきの出来事だったのか…」
咲夜「…どうぞ、お水です…お嬢様達をお呼びしましょうか?」
コップに入った水を受け取り一気に飲み干すヴラド
ヴラド「…ふぅ…いや、レミリア達もまだ寝ているだろう?」
飲み終えたコップを咲夜に返す
「残念ね!もう起きてるわ!」
ヴラド「!?」
どこからか聞き覚えのある声がする
声がとても近い
ヴラドは後ろを振り返る
ヴラド「…?」
誰もいない
再度咲夜の方を見ると咲夜はヴラドが寝ていたベッド、もといシーツを見ている
ヴラド「…ん?」
異様にシーツが盛り上がっている
フラン「わっ!」
ヴラド「っぅおっ!?」
シーツから突然飛び出してきたのは先程までの赤の服装のフランではなく、純白のワンピースのパジャマを着たフランだった
驚きベッドから転げ落ちるヴラド
ヴラド「…フラン…?」
フラン「…おはよう!お父様!」
見た目通りの可愛らしい元気いっぱいな笑顔で転げ落ちたヴラドの腹部に抱きつくフラン
ヴラド「…フラン…」
ヴラドは一瞬昨夜のことを色々と考え
ヴラド「…もう、いいのか?」
口元が優しく微笑む
長い髪のせいで表情は見えないがとても優しい声だ
フラン「うんっ!」
咲夜「…」
目の前のヴラドとフランの親子ぶりに咲夜は思わずふふっ、と笑ってしまう
フラン「…」
ヴラド「…フラン?」
フラン「…あ、あの…」
フラン「お父様…咲夜…私のせいでごめんなさい」
笑顔いっぱいだったフランの顔が少し曇る
ヴラド「……なんのことだ?」
フラン「だ、だって私が暴れたせいでお父様や咲夜には怪我させちゃったし…」
フラン、ヴラドと咲夜に目を合わせられずにぽそぽそと喋る
ヴラドは咲夜を見る
咲夜も何も言わずにヴラドの眼を見る
ヴラド「…なんのことだ?」
フラン「…え?」
意外な返しで思わずヴラドを見る
ヴラド「咲夜、俺たちはフランに何かされたか?」
咲夜は眼を瞑り首を横に降る
咲夜「さぁ…もう覚えてませんわ」
ヴラド「…残念だが俺と咲夜は昨日の事を覚えてなくてな…謝られても困るんだが」
フラン「…う、嘘…」
ヴラドはフランの頭に手のひらを乗せ、撫でる
ヴラド「だからもしお前が何かしたとしても気にしなくていい…もう終わったんだ」
フラン「…お父様…」
ヴラドはそこでああ、と思い出す
ヴラド「…女性に対してお前、だなんて失礼だな…すまない」
フラン「…?なんで?」
キョトンとした顔で首をかしげるフラン
ヴラド「…え?…いや、レミリアが…」
フラン「お姉様が?」
ヴラドは頰をぽりぽりとかきながら
ヴラド「レディーに対してお前呼びするのは失礼だ、とな…」
一瞬間があってから
フラン「あはははっ!そんなの気にしなくていいよっ!」
ケラケラと笑うフラン
ヴラド「…そうなのか?」
フラン「うん!…レディーだって…ふふふ」
ヴラド「…ふふ…」
咲夜「…」
目の前でベッドの上に座る男と少女、厳格そうな見た目からは想像できないような優しい顔つきで子の頭を撫でる父、無邪気な笑顔で時折くすぐったそうにする娘
咲夜は思う、たった数時間前に出会った、決して咲夜の人生の中で出会う事のないであろう男…名前とその歴史程度しか知らず、どんな容姿か、どんな性格かも知らない男のはずなのに、レミリアが、咲夜が、フラン、パチュリー…紅魔館の者が認めてしまうほどの男…
今目の前で広がっている光景はきっと我が主人、レミリアが夢にまで見た幸せだったのではないか、と
咲夜「…妹様、そろそろ…」
フラン「えーーっ!」
咲夜が声をかけるとフランはヴラドに抱きついたままジト目で咲夜を見る
咲夜「…お嬢様と、お約束されましたよね?」
笑顔でフランに問いかける咲夜
フラン「……うん、わかった」
咲夜と共に部屋の扉の方へ羽根をだらんと下げトボトボ向かうフラン
ヴラド「…」
その後ろ姿をジッと見るヴラド
ヴラド「…フラン」
ヴラドの方を向くフラン
ヴラド「…また後で会えるさ」
フラン「…!…うんっ!」
元気いっぱい羽根をパタパタさせ、幸せそうに笑顔で答えるフラン
扉を開けダッシュで"元の"自分の部屋へ向かうフラン
扉前に残される咲夜
咲夜「…さすがお父様、ですね」
ヴラド「…なぜあの子も俺をお父様と?」
咲夜は少しいたずらな笑顔で
咲夜「お嬢様から色々なお話を聞かれたのではないでしょうか…嫌でしたか?」
ヴラドは右手で頭を抑え
吐き捨てるように…しかし少し嬉しそうに
ヴラド「…もう好きにしてくれ…」
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元着ていた鎧とマントを羽織りエントランスホールの階段を降りるヴラド
ヴラド(フランの部屋からレミリアの部屋へと…咲夜は大変だな…)
ヴラド「…ん?…あの子は…」
ヴラドが見る先、玄関である大きな両扉の前で木材を両腕一杯に持っている美鈴がもじもじしていた
ヴラド「?」
美鈴「うーん…木材下ろしてから扉開けてまた持ち上げるの面倒だしなぁ…」
ヴラド、理解
木材を持っているせいで扉を開けられないのである
ヴラドはふ、と笑い
ヴラド「扉を開けようか?…美鈴」
美鈴「ふぇ?」
美鈴が声のした方、後ろを向くとヴラドが立っていた
美鈴「ああっ!ヴラド様!…目が覚めたんですね!」
フランに負けないくらい明るい笑顔で挨拶をする美鈴
一瞬たじろぐヴラド
ヴラド「ああ…ところでその扉を…」
美鈴「いやー!咲夜さんから聞きましたよ!暴走気味だったフラン様を止めたって!」
ヴラド「あ、ああ…いや、だから扉を…」
美鈴は両腕に抱えた木材を揺らしながら
美鈴「で、どうやって止めたんですか!?やっぱ高等魔術とか…禁術とかですか!?」
ヴラド「うむ…」
顔には出さないが少し悩むヴラド
美鈴「あっ!そうだった…ヴラド様…申し訳ないのですが…」
なにかを思い出し、少し困った顔の美鈴
美鈴「私両腕塞がってるので…扉開けてもらえませんか?」
ヴラド「……ああ」
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ヴラドが両腕で両扉を開く
少し開いた隙間から陽の光が差し込んでくる
光がヴラドの顔を照らし、眩しそうに顔を少し背ける
光に慣れてきた頃には扉は全開まで開いた
ヴラド「…朝日だ…」
美鈴「当然ですよー!朝ですから!」
空いた扉からチョコチョコと駆け足で外に出る美鈴
美鈴「ありがとうございます!ヴラド様!」
ピシッと姿勢を正し、ヴラドに頭を下げる美鈴
頭を下げた時に木材の1枚が足元に落ちた
美鈴「げっ」
ーーーーーーーー
ヴラド「…ここで良いか?」
紅魔館のエントランスホールを外に抜け、自分が目覚めたであろう紅魔館の門内の横にある広い花壇の前に木材を下ろすヴラド
美鈴「ありがとうございますヴラド様!」
ヴラド「…良い、天気だな」
まだ朝とはいえカラッとした強い日光がヴラドと美鈴を照らす
美鈴「今日も暑くなりますよー!」
ヴラド「ああ…ところでまだ挨拶をちゃんとしてなかったな…ヴラドだ…咲夜が君のことを美鈴と呼んでいたのだが…」
美鈴はヴラドを見てニッと笑い
美鈴「紅美鈴です!気軽に美鈴と呼んでくださいね!」
ヴラド「ああ、よろしくな…ところでこれからなにを?」
美鈴は木材をチラリと見てバツの悪そうな表情をする
美鈴「あ…いやー…花壇の…補強を…」
ヴラドは足下の花壇を見る
ここは自分が昨夜目が覚めたところだと記憶している
ヴラド「…あ…」
とある部分は花壇の柵が壊れていた、否、壊されていた
美鈴「あ、いや、ヴラド様のせいではないんですよ!」
焦りながらヴラドをフォローする美鈴
ヴラド「…すまなかった…」
頭を下げるヴラド
美鈴「…い、いや…ははは…」
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紅魔館の中庭、花壇にてヴラドと美鈴は花壇の柵の修復作業をしていた
時はまだ午前中だが伸びつつある日差しは強く、少し蒸している
ヴラドは朝起きた時と同じく、マントと鎧を脱ぎ、腕まくりをした白シャツと黒いズボンである
美鈴「いやー手伝ってもらってありがとうございます!」
額の汗が輝く程笑顔の美鈴
ヴラド「いや…そもそも俺が壊さなければ美鈴もこんな仕事をしなかったんだろう…?すまなかったな」
そう言ってヴラドは美鈴に頭を下げる
美鈴は驚いた表情をする
ヴラド「…何か?」
美鈴「あー…いや…ヴラド様ってお優しいんですね」
ヴラドは腕で顔の汗を拭う
ヴラド「…そうか?…事実、俺のせいだろう」
美鈴「…まぁ、そうなんですけどね」
苦笑いで返す美鈴
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15分程度で元の花壇の柵…よりは手作り感満載だが柵ができた
美鈴「…よっし、ありがとうございますヴラド様!」
ヴラド「ああ、お疲れ様、美鈴」
咲夜「こんなところに居たんですね、ヴラド様」
ヴラド「うおっ!」
突然背後から声が声がかかり驚くヴラド
ヴラド「…咲夜…それやめてくれないか?」
ふふ、と笑う咲夜
咲夜「申し訳ございません…ヴラド様の反応が面白くて」
ヴラド「…何かあったのか?」
咲夜「お嬢様がヴラド様をお探しです、朝食も御準備してありますので、どうぞ中へ」
ヴラド「…ああ、そういえば動いていたせいか腹が減ったな…」
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美鈴は門番の仕事のため門へ、ヴラドと咲夜は紅魔館の中へと入っていく
紅魔館、食堂
大広間に負けず劣らずこちらも広大な広さの食堂だった。部屋の真ん中には真っ白なテーブルクロスの掛かった長いテーブル、その両脇には左右対称に並べられた椅子
その奥、2つ並んだお誕生日席に片方は紅魔館の主人、永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットがドヤ顔に襟元にナプキンを付け、右手にスプーン、左手にフォークを持ってテーブルの端に両手を立てており、もう片方の席にはさっきまで父のベッドに潜んでた元引きこもり娘、フランドール・スカーレットが姉と同じく襟元にナプキンを付け、両手はテーブル下の両膝に付け、まだかまだかとそわそわしていた
2人とも昨夜と同じくいつもの私服である
咲夜が食堂の扉を開き、ヴラドが入ってくるのを見つけるスカーレット姉妹
レミリア「おはようお父…」
フラン「お父様ー!!」
流石吸血鬼のスピードである
フランが座っていた席から食堂の扉まで約20数メートル、その距離をほぼ一瞬で縮めたフラン
ヴラドに抱きつくフラン
フラン「んふー♪」
ヴラド「…フラン」
笑顔で抱きついてきたフランの頭を撫でるヴラド
レミリア「…大部懐かれたわね…」
ヴラド「…おかげさまでな…」
咲夜「どうぞ、ヴラド様」
咲夜がヴラドの席であろう椅子を引く
ヴラド「ああ」
フランを元の席へ誘導して、ヴラドも咲夜か引いてくれた椅子に座る
ヴラド「…ふむ」
ーーーーーーーー
レミリア、フラン、ヴラド各々に咲夜が朝食を配膳する
メニューは野菜スープ、ベーコンとトマトのサンドイッチ、ポークビーンズである
ヴラド「…」
ヴラドはスプーンを使い、野菜スープを一口飲む
レミリア「…」
レミリアもヴラドの真似をして野菜スープを飲む
フラン「…ぅえ…」
フランはポークビーンズの豆をお皿の端に避ける、どうやら豆が苦手の様子
ヴラド「…うむ、美味いな…これは咲夜が?」
咲夜「いえ、スープは給仕係の妖精メイドが…」
ヴラド「…うん、そうか…」
そう言ってスープを飲み干すヴラド
レミリア「お父様!ポークビーンズも美味しいわよ」
ヴラド「…どれ」
ヴラドは豆を一口食べる
咲夜「…」
ヴラド「…美味い…うむ…んぅ…むぐむぐ…」
咲夜「…」
ヴラド「これもその妖精メイドが?」
咲夜に問うヴラド
咲夜「いえ、こちらの料理は私が作りました」
レミリア「咲夜の豆料理は幻想郷1よ」
口元にポークビーンズのソースを付けた高貴なる吸血鬼が答える
ヴラドは咲夜を見る
咲夜「はい、お嬢様が納豆をお好みなので、納豆を作っているうちに色々な豆料理を覚えました」
ヴラド「ナットウ?」
フラン「納豆きらーい」
ばんっ
レミリアがテーブルを叩いて焦りだす
レミリア「そ、そうだわ!納豆団子!」
ヴラド「…??」
レミリア「期間限定の納豆団子よ!今人里のお団子屋さんでやってるの!買いに行かないと…!」
フランはもむもむ噛みながらジト目でレミリアを見つつ
フラン「お姉様の納豆好きは狂ってるよ」
咲夜「…でしたら後程私が買いに行きますわ、本日も日差しが強いので」
レミリア「あ…うん…ありがとう…」
すとん、と椅子に座るレミリア
ヴラド「…」
もぐもぐと咀嚼しながらレミリアを見るヴラド
ヴラド「ぅえいあ」
レミリア「?…どうかしの?お父様」
食べているものを飲み込み
ヴラド「…っ…レミリア、俺も咲夜について行っていいか?」
咲夜「…ヴラド様?」
ヴラド「人里を見てみたいんだ…ナットウにも興味がある」
フラン「ならフランも行くっ!」
レミリア「…フランはダメよ…昼間は陽の光が強いから危なすぎるわ…」
フラン「むふぅぅううう…」
頰を膨らますフラン、だがレミリアの言葉は意地悪には聞こえなかった。
妹を心配する姉の言葉にヴラドは聞こえた
フラン「…はーい」
レミリア「…お父様…大丈夫なの?」
レミリアが心配そうにヴラドに問いかける
ヴラド「…幻想郷をよく知る咲夜と一緒なんだ…心配ないだろう…」
ヴラドは思う
ヴラド(それよりも…口元を拭いた方が良いんじゃないか?…レミリア)
ーーーーーーーー
朝食を終え、ヴラドと咲夜は紅魔館の厨房の扉を開ける
中には背中に小さい蝶のような羽根を生やした妖精メイドが3人がシンク台の前の椅子に座り楽しそうにお喋りをしていた
咲夜「あの子達が今朝の食事の用意を…」
ヴラド「…」
妖精メイド達がヴラドに気づき一斉に立ち上がる
妖精メイドA「あ…お、おはようございます」
ビクつきながら挨拶をする妖精メイド
ヴラド「ああ、おはよう」
妖精メイドB「あ、あの…なにか?」
ヴラド「ん?…今朝の食事はお前達が作ったと聞いたんだが」
妖精メイドA「は、はい…お口に会いませんでしたか?」
泣きそうなメイド達
ヴラド「…いや、美味かったよ、作ってくれた礼を言おうと思ってな」
妖精メイド達はお互いの顔を見る
ヴラド「暖かく、美味な食事を用意してくれたこと感謝する、また頼む」
そう言いヴラドは妖精メイド達に頭を下げる
妖精メイド達はヴラドのその姿にポカン、と口を開ける
咲夜「…ふふ」
妖精メイドA「い、いえっ!こちらこそそんなわざわざお礼に来てもらってありがとうございますっ!」
妖精メイドB「あはは…レミリア様はそんな事言いに来ることなかったので…ちょっと驚きました…」
ヴラド「…そうなのか…俺からレミリアに伝えておこうか?」
妖精メイドB「あ、いや、やめてください〜!」
ーーーーーーーー
咲夜「…本当に…ヴラド様は変わってますね」
ヴラド「うん?…そうか?」
厨房を出て廊下を並んで歩くヴラドと咲夜
咲夜「はい、紅魔館の住人で妖精メイドに頭を下げる人は初めて見ました」
ヴラド「…あの子達も紅魔館の住民だろう?」
咲夜「…まぁ…そうですね…」
ヴラド「なら良いじゃないか…彼女達は作ってくれた、俺たちは作ってもらった…間に主人とメイド、金銭が発生してもそれは変わらない、作ってもらったのなら感謝しないとな…」
咲夜「…」
ヴラド「…なんてな…」
咲夜「…やっぱり変わってますね」
咲夜は少し微笑みながら返す
ーーーーーーーー
エントランスホールから外へ出るヴラドと咲夜
門まで歩き、内側から鉄の檻のような門を開け、紅魔館の敷地から出る
門の外には美鈴が屈伸運動をしていた
美鈴「あれ?咲夜さん、ヴラド様…お出かけですか?」
咲夜「ええ、人里までね…門番よろしくね」
美鈴「任せてください!」
ビシッと咲夜とヴラドに向かって敬礼をする美鈴
咲夜「さ、ヴラド様、行きましょうか」
ヴラド「ああ、よろしく頼む」
ーーーーーーーー
紅魔館を出てから約1時間、人里に着いた咲夜とヴラドは人里の入り口から商店街を歩く
ヴラドは白シャツに黒ズボン、と紅魔館に来た時より身軽な格好をしている
ヴラド「…まさか咲夜が空を飛べるとはな…」
咲夜「驚かせてしまって申し訳ございません」
ヴラド「いや…まぁ、もう驚かんよ」
ヴラドはそう言いながら商店街を景色をじっと見ている
咲夜「…何かお探しですか?」
ヴラド「ん?…いや……」
ヴラドは目を瞑り少し笑いながら
ヴラド「此処は…平和だな…良い空気だ」
咲夜「…はい、幻想郷は良い所ですわ」
ーーーーーーーー
少し歩いていると、咲夜はある雑貨屋の前で止まる
咲夜「ヴラド様、申し訳ありませんが少しの間、こちらで待っていて頂けませんか?」
ヴラド「…ここがダンゴヤか?」
いくつかの商店が並ぶ通りでのこの店、外から中を見ると食器皿や調理道具などが並んでいるようだ
咲夜「いえ、ただの野暮用ですわ…」
ヴラド「…わかった、待っていよう」
ヴラドがそう答えると咲夜は店の中へ入っていく
またもヴラドはぼうっと町の景色を見ている
昼前のせいか人通りは多く、親子連れが多い
ヴラド(…俺の知らない風景だ…何故か…羨ましく感じるな…)
ヴラドがすっと振り返ると
どんっ
「きゃっ」
ヴラド「…ん?」
左腕に何かがぶつかったような気がして足元を見る
黒く長い髪の赤い着物を着た御婦人、およそ30代前半と思わしき女性が尻餅をついていた
女性「…いたたた…」
ヴラド「すまない…」
ヴラドが尻餅をついてる女性に手を差し伸べようとした
「ちょっと!アンタ何やってんのよ!」
ヴラド「!?」
女性の後ろにいたであろうと思われる黒く長い髪を頭のてっぺんでお団子にした、活発そうな14〜5歳くらいの少女がヴラドを睨んでいた
少女「お母さんになにしようとしたの!?」
ヴラド「…いや…俺は…」
少女「…妖怪…いや、人間?…」
少女はヴラドに対して両手を前に出して構える
女性「こらっ」
少女「いたっ!」
自分で立ち上がった少女の母親らしい女性が少女の後頭部を小突く
少女「な、なにするのよっ!お母さん!」
後頭部を抑え涙目で母親に訴える少女
母親「お母さんがいけなかったのよ…私からこちらの方にぶつかっちゃったの」
ヴラド「…いや、こちらこそちゃんと見ないでいたからな…悪かった」
母親「いえいえ、私達こそご迷惑かけてごめんなさいね」
愛想の良い笑顔で会釈する母親
横では少女がしかめっ面で腕を組んでヴラドを睨んでいる
少女「…お母さんがそう言うなら…」
母親「…あなたもこちらの方に言うことあるでしょ?」
少女「…う…」
ピクッと反応する少女
ヴラド「いや…俺は別に…」
少女「…ひどい言い方して…ごめんなさい…」
少女も母親と同じくヴラドに頭を下げる
ヴラド「…良い、娘さんをお持ちだ」
ヴラドは少女の母親に微笑む
母親「…自慢の一人娘ですよ」
ヴラド「…!?」
笑顔で返す少女の母親
少し照れながらも、しかしその声は心底嬉しそうに聞こえ、そんな母親の姿を見たヴラドは思う
とても綺麗だ、と…
少女の母親は顔の作りも整った美人、体の線も細めと、見た目も綺麗ではあるのだが、ヴラドが綺麗だと感じたのは見た目だけではなく、母親の子を思うその心である。
ヴラドは母親から少女へ目線を変え
少女「な、なによ…」
ヴラドはふ、と笑い
ヴラド「…いや…母親を想ってのあの啖呵…見事のなものだ」
そう言われ少女は赤くなり、腕を組み、そっぽを向きながら
少女「私の親なんだから私が守るのは当然でしょ!」
ヴラド「…そうだな…」
少女の言葉にヴラドは目を瞑り、少し嬉しそうに返す
ヴラド「引き止めてしまった様ですまない」
女性「いえいえ、こちらこそ失礼しました」
それから親娘は歩き出し、昼間の人通りに消えていった
ヴラドは親娘が進んでいった通りをジッと見つめる
咲夜「ヴラド様?」
ヴラド「ん?」
後ろから声がかかり、振り返るヴラド
そこには目の前の店で購入したと思われる両手くらいの大きさの紙袋を持った咲夜が立っていた
咲夜「お待たせいたしました」
ヴラド「いや、もういいのか?」
咲夜「はい……ヴラド様はどなたかとお話されていたのですか?」
ヴラドは親娘の向かった通りをまた見て
ヴラド「…まぁ、な」
咲夜もヴラドの見ている方向を見てから首をかしげる
咲夜「?」
ーーーーーーーー
ヴラド「…美味い!」
噂の納豆団子を食べたヴラドは感激した
雑貨屋の後、咲夜に連れられて向かった先は妙齢の女性が1人で切り盛りする団子屋だった
ヴラドが女店主にレミリアの分の期間限定納豆団子と紅魔館の住民、妖精メイド達の分の団子を注文し、咲夜自身とヴラドの分の納豆団子を一本ずつ、きな粉団子も一本ずつ、その場で食べる分を注文したのだった
咲夜「お嬢様の分だけでなく、まさか私や紅魔館のみんなの分まで買っていただけるとは…ありがとうございます」
ヴラド「俺の持っていた金貨で買えるとは思ってなかったがな」
そう言ってヴラドはズボンに括り付けてある布袋から金貨を1枚取り出し、自分の手のひらで転がす
そこへ女店主が客の食べたお皿をお盆に乗せ、片付けしながら話しかけてきた
女店主「此処じゃお金だったらある程度なんでも使えるよっ!後で妖怪の賢者に両替してもらうしね」
ヴラド「…そういうものなのか」
ヴラドはきな粉の団子も口に運ぶ
女店主「しっかし…団子で金貨出す人なんて初めて見たよ…その金貨5枚も出せば人里じゃ家一軒買えるんじゃないかい?」
ヴラド「…そうか?」
ヴラドはそう返し、商店通りに視線を向ける
ヴラド「…活気ある商店街、走り回る子供達…本当に此処はとても平和に見える」
団子屋の中から見える商店通りを見ながらヴラドは呟く
咲夜「…目に見えないこともあるんですよ…」
ヴラド「?」
ヴラドの呟きに小さな声で返す咲夜
ヴラドの視線が通りから咲夜へ向く
咲夜の顔色は少し曇り、両の手の指を少し絡めながら
咲夜「…いえ、なんでもありません」
ヴラド「…」
ヴラドは座っていた長椅子から立ち上がる
ヴラド「そろそろ行こう…レミリア達が待ってる」
ヴラドがそう言うと咲夜も立ち上がる
咲夜「はい」
女店主「はーいどうもありがとねー」
女店主からの声を背に受け、店から出る2人
また通りを歩き、ある店でヴラドは足を止める
ヴラド「…ここは…」
その店の店頭には日本酒、焼酎や、洋酒などが広い台一杯に並べられていた
要は酒屋である
咲夜「…」
ヴラド「…葡萄酒…幻想郷にもあるんだな」
咲夜「ヴラド様、葡萄酒なら紅魔館で作ったものがありますので…」
ヴラド「…ほう」
咲夜「この店には用事はありません、それよりも…」
「いやぁ、酷いですな…」
店の奥から男性の声がした
咲夜「…」
店の奥、のれんをめくり口髭を生やしくたびれたスーツのズボンにワイシャツを着た、白髪混じりの中年男性が出てきた
山崎「これはこれは紅魔館の…今日はお嬢様はいらっしゃらないのですか?」
作り笑顔満点の表情で咲夜に話しかける男性、山崎
咲夜「ええ、お嬢様は今日はお忙しいので」
山崎「お忙しい?…そうですかそうですか…それはそれは大変ですなぁ」
ヴラド「…」
咲夜と山崎が話しているのを視線も向けず、ヴラドはワインやウイスキーの瓶を見ている
山崎「そういえば先月の紅魔館印のワインの売り上げ、相当良かったらしいですなぁ…いや、羨ましい」
山崎がへらへらと笑う
山崎「確かお客様は妖怪の方が大半だとか!…やはり妖怪が作ったものは妖怪にしかわからないのでしょうかねぇ」
咲夜「…何が言いたいのですか?」
山崎は棚の上の木箱を下ろしながら
山崎「いやいや…そのままの意味ですよ」
咲夜「うちで作ったワインの方が売り上げ良いからって私達に当たらないでもらえますか?」
咲夜がそう言うと木箱の中身を棚に並べている山崎の手が止まる
山崎「あなた達妖怪は同じ妖怪相手にだけ商売していれば良いでしょう…わざわざ人里まで来て何が入っているのかわからないような物を売るのはやめていただきたいですねぇ」
ヴラド「おい店主」
山崎「!?」
ヴラドは並んだ酒瓶から一本持ち上げ山崎の前に出す
ヴラド「これを貰えるか?」
山崎「…貴方…紅魔館の者じゃないんですか?」
ヴラド「…?ああ、確かに俺は紅魔館の人間だが…」
山崎「ならウチの酒を買う必要なんてないでしょう?…帰って紅魔館印のワインを飲んでいればいいんじゃないんですか?」
ヴラド「俺が欲しいから買うだけだ…これで売ってくれないか?」
そう言いヴラドは小袋から金貨を3枚取り出し、山崎に渡す
金貨を受け取った山崎はその金貨をまじまじと見て
山崎「…本物の金?…貴方は一体…」
驚いた顔でヴラドに問いかける山崎
ヴラド「売ってくれるのか?ダメなのか?」
山崎「…ええ…もちろん…ありがとうございます」
腑に落ちない顔で頭を下げる山崎
ヴラド「…うん、ついでにお勧めのものを何本か貰おうか」
山崎「…はい」
ヴラドは店内を見回す
山崎は咲夜の方を見て
山崎「…やはり人間には人間の作った物が1番、と言うことですかね?」
作り笑顔で咲夜に語りかける
咲夜「…」
咲夜は何も言わずに山崎を睨む
ーーーーーーーー
ヴラド「うむ、こんなものか」
そう言うとヴラドは酒瓶5本が入った紙袋を抱える
ヴラド「ん?」
店の入り口から1人の少年が入ってきた
少年はヴラドと咲夜に目もくれず2人の間を通り、さらに山崎の横も通り過ぎ、奥に入って行く
山崎「弥太郎…帰ってきたなら父に挨拶があるだろう?」
弥太郎「…」
弥太郎と呼ばれた少年は山崎を一度見てからすぐ奥の扉を開け中に入ってしまった
山崎はヴラドの方を向き作り笑顔で
山崎「…いやぁ…年頃の子供は何を考えているのか…ははは」
ヴラド「…」
山崎「…またのご来店、お待ちしてます」
そう言い頭を下げる山崎
ヴラド「…行こうか、咲夜」
咲夜「…はい」
ーーーーーーーー
人里から紅魔館までの帰り道
雑貨屋で購入した者と、レミリアの分の団子の袋を持つ咲夜と、両手には妖精メイド達やパチュリー、美鈴、フラン達の分の団子、脇に挟むは山崎のところで買ったお酒各種を持つヴラド
咲夜「やっぱりヴラド様は変です」
ヴラド「…は?」
突然そんな事を言われた
咲夜「…お嬢様やパチュリー様は妖精メイド達に食事を作ってくれたお礼なんてまず言いませんし…」
咲夜はヴラドの持つ妖精達の分の団子の袋を見て
咲夜「…その妖精メイド達にお土産なんて用意もしません」
ヴラド「…」
咲夜「紅魔館を馬鹿にされれば腹を立てず、突然父親呼ばわりされても嫌な顔せず妹様のお相手をする…」
ヴラド「咲夜」
ヴラドは咲夜を見ずに続ける
ヴラド「俺がそうしたいだけだ、その選択がお前達にとって悪いことなのか、間違っているかどうかはわからないが…」
咲夜「…」
ヴラド「…駄目、だろうか?」
咲夜「…いいえ、このまま…もう少し観ていたいです…」
目を瞑り咲夜が答える
ヴラド「ん?…何をだ?」
思わずヴラドの後ろを歩く咲夜の方を見るヴラド
咲夜「いえっ…なんでもありません」
ヴラド「…??」
そんな話をしながら、暑さで景色が揺らぐ草原をヴラドと咲夜は紅魔館に向かって歩き続ける