––––ああっ…
そう、これだ…
私が求めていたもの…
長年待ち続けていた…
輪廻転生を繰り返しても待ち続けていたと言っても過言ではない––––
わさび団子、唐辛子団子、背脂醤油団子…
月末に1週間の期間だけ行われる創作団子…
5月に初めて出会った瞬間から私は恋をした…
そう–––––納豆団子に––––––
8月25日昼
レミリア「…美味しい…」
レミリアは納豆団子を一口食べ、その愛らしい、団子で膨らんだポニポニの頬を赤い目の目尻から溢れた一本の涙が顎に向かって線を描く
昼食を食べ終えた一同はヴラドからのお土産…人里の団子屋で購入した各種類の団子を紅魔館の住人をはじめ、小悪魔や十数人の妖精メイド達とテーブルを囲みながら食べていた
ヴラドは外の見える窓の縁に腰掛けている
レミリア「我がメイド達よ、お父様からのお土産よ!感謝していただきなさい!」
頰に涙の跡だけでなく団子の餡も残ったレミリアが自慢げに妖精メイド達に言う
妖精メイド達は聞いてないのか聞こえないのかワイワイとお喋りをしながら団子を食べている
ヴラド「…レミリア…」
フラン「…お姉様…」
ヴラドとフランがレミリアをかわいそうな物でも見るかのような眼差しで見る
レミリア「な、なによ…別に良いでしょ!?」
顔を赤くしてごにょごにょと喋るレミリア
窓際にいたヴラドはレミリアに近づいてぽふっと、レミリアの被るナイトキャップの上から手を乗せる
ヴラド「いいんだ、レミリア…俺を受け入れてくれたみんなへの俺なりのお礼だ」
少し恥ずかしそうに撫でられるレミリア
レミリア「…うん」
ヴラド「俺への礼や感謝なんて気にしなくていい、まだ団子もあるから皆で食べてくれ」
喜ぶ妖精メイド達
ヴラドはその光景を見てから大食堂の扉へ向かう
フラン「お父様?どこに行くのー?」
ヴラド「…少し疲れたからな、部屋に戻るよ」
そう言って大食堂の扉を開け、部屋を出て行くヴラド
パチュリー「…ねえ、レミィ」
レミリア「…え?何?」
パチュリーはレミリアの椅子の後ろに周り小声で声をかける
パチュリー「貴女のお父様に…自分の事を教えてあげたの?」
レミリア「…自分のことって?」
パチュリー「…言わないとわからない?」
レミリア「…」
納豆団子が入っていた紙袋を綺麗に畳むレミリア
パチュリーとレミリアの放つ雰囲気に他の妖精メイドやフラン、美鈴も2人に注目する
レミリア「部屋を変えましょうか、パチェ」
そう言い、レミリアとパチュリーは大食堂の扉を開け廊下に出て行った
ーーーーーーーー
ヴラドの寝室
ヴラドはベッドに仰向けに寝転がりぼぅっとしていた
『しばらく紅魔館にいて、咲夜の手伝いをしなさい』
目を瞑り、昨夜のレミリアとの会話を思い出すヴラド
ヴラド「…良いのだろうか…」
フラン「なにがー?」
ヴラド「ぅおぉっ!?」
突然ベッドの端からひょっこりと顔を出したフランに驚き両足がびくんっと跳ね上がるヴラド
ヴラド「…ったぁ…!…驚かせないでくれ…フラン」
フラン「あははは!お父様面白いリアクションだねー!」
ヴラド「ん"ん"っ」
ヴラド「…もう食べたのか?」
フランもベッドに腰掛ける
フラン「うん!ご馳走さまでした!」
ヴラド「ああ」
フランの頭を撫でるヴラド
ヴラドに撫でられるとこれ以上ないくらい笑顔になるフラン
ヴラド「…なぁ、フラン…」
フラン「なーに?」
ヴラドは一瞬だけ考え
ヴラド「…お前は…俺の事をどれだけ知っているんだ?」
フラン「???」
フラン、首を傾げる
ヴラド「あ、いや…レミリアも咲夜もパチュリーも俺の事を知っていた…まるで過去の人間を知っているかのような…」
ヴラドがそう言うとフランは「あー…」と考えてから
フラン「そういえば昨日お姉様からお父様の事沢山お話聞いたよー!」
ヴラド「…なんて言っていた?」
フランは笑顔で答える
フラン「…えーと、お父様はルーマニアの王様で、フラン達を創ってくれた人なんだって!」
ヴラド「…王…?創る…?」
ヴラドは考える
ヴラド「…フラン…自分の部屋へ戻っていなさい」
そう言ってヴラドはベッドから立ち上がる
フラン「…?どこかに行くの?」
ヴラド「ああ…少し調べものがあってな…1人でやりたいんだ」
フラン「えー…」
フラン、少しつまらなさそうな顔になる
ヴラド「…調べ物を終わらせたらフランの部屋へ行くよ」
フラン「…はーい…」
ーーーーーーーー
部屋を出て、廊下を歩き、階段を降りる
途中何度かすれ違う妖精メイドから挨拶とお礼を言われながらも地下の大図書館にたどり着くヴラド
こあ「あっヴラド様〜お団子ご馳走様でした!」
大扉を開けると大図書館入り口近くの本棚の片付けをしていた小悪魔に挨拶をされた
ヴラド「…ああ」
小悪魔は両手で持っていた本の山を置き
こあ「パチュリー様にご用事ですか?まだ降りてきてませんが…」
ヴラド「いや、良いんだ…少し調べ物をしたいんだが…良いだろうか?」
こあ「もちろんですよ〜、あ、おすすめのものあるんですよ」
ヴラド「…?」
そう言って小悪魔は近くの本棚からバババッと、数冊の本を持ってきた
ヴラド「…?反抗期になりにくい子育て?…愛されやすいパパ?…なんだこれは?」
まじまじと本の表紙を見たヴラドが小悪魔に問いかける
こあ「突然娘を持った父親として色々大変かと思うので…私なりにこれを読んでおけば大丈夫って本をご用意しました!」
背中の羽根をパタパタと羽ばたかせながら笑顔で答える小悪魔
ヴラド「…あ、うん…そうか」
こあ「あ、えーと…ご迷惑でしたか?」
小悪魔、少し心配そうな顔になる
それを見たヴラドはふ、と笑い
ヴラド「いや、ありがとう…後で読ませてもらうよ…」
そう言って小悪魔の頭を撫でる
こあ「えへへ…」
ヴラド「…あぁ、すまない…ついフランと同じ風にしてしまった」
ヴラドは小悪魔の頭に乗せた右手をどける
こあ「いえ!そんな…!…なんか…ありがとうございます、はい…」
小悪魔は恥ずかしそうにヴラドから少し離れ
ヴラド「…それと…世界の歴史などが書かれた本はどこの棚か…教えてもらえないか?」
こあ「…世界の歴史?…それならその奥の本棚がそうですね!日本をはじめ、欧米、北欧、中東などの世界史から魔界、霊界、冥界や天界と言った様々な世界の歴史の本があります!」
ドヤ顔で胸を張る小悪魔
ヴラド「…魔界…?」
小悪魔はあたふたしながら
こあ「じゃ、じゃあわたしそっちの方に居るので…何かあれば声をかけてくださいね!」
ヴラド「…ああ、ありがとう」
小悪魔と別れたヴラドは小悪魔からオススメされた本を持ち、世界史の本が多くある本棚へ向かった
ーーーーーーーー
同時刻、大食堂より少し離れた部屋にレミリアとパチュリーはいた
パチュリー「…はぁ?何よそれ…」
呆れながらレミリアに問いかけるパチュリー
レミリア「だから…お父様にはお話はしないわ」
真顔で答えるレミリア
パチュリー「…どうして?」
レミリアは一瞬考え
レミリア「…パチェもわかるでしょうけど、お父様はお優しいわ…」
パチュリー「…そうね…甘い、ともとれるけど」
レミリア「そんな優しいお父様が自分は冷酷非道な串刺し王だなんて知ってみなさいよ…」
パチュリー「…先ず自分の事にショックを受けるでしょうね」
レミリア「…そのショックからお父様がお父様でなくなってしまったら…」
パチュリー「…」
レミリア「私はそんなこと望んでいないわ…だったら本来の…記憶を失う前の人柄や歴史は伝えない、それがフランの…いえ、紅魔館のためなのよ…」
パチュリー「…」
レミリア「…なんて…ダメだったかしら?」
レミリアは壁に背を預け困り笑顔でパチュリーに問いかける
パチュリーはレミリアから目線を逸らし
パチュリー「紅魔館は貴女の城よ、貴女の決めた事には紅魔館の者なら従うわ」
そう言って扉へ向かい、ドアノブに触れ
パチュリー「…もしも彼が以前の記憶、または情報を知ったら…どうするの?」
レミリア「…」
パチュリーはレミリアに振り返り
パチュリー「というか…レミィ、貴女の能力でこの先の事は判らないの?」
レミリア「…あー…」
レミリアは苦い顔をする
パチュリー「?」
レミリア「…まだ誰にも言ってないんだけど…」
レミリアは頰をポリポリとかきながら
レミリア「……運命…見えないのよね…なんにも…」
ーーーーーーーー
大図書館
小悪魔は図書館入り口に沢山の山積みになった本に囲まれた黒いソファーに座ってぼぅっとしていた
こあ「…ふぁあ…」
小悪魔は小さく欠伸をする
それもそのはず、普段の紅魔館では住民と妖精メイド達が一緒に会話をしながら食事をすることなどなく、更にデザートのお団子で満腹感満載での午後、眠くならないはずがない
こあ(昨夜会った時は絶対怖い人だと思ってたけど…優しい方で良かった〜)
そう思いながら小悪魔はそばにあった本を3冊手に取る
『精神の世界』『治癒魔法大全』『高等魔女の催眠魔法』
小悪魔は本を取り、本の表紙を見つめながら昨夜までの事を思い出す
こあ(…レミリアお嬢様も…はパチュリー様もヴラド様が来るまでずっと…ずぅっと妹様を治すために頑張ってたもんなぁ…)
こあ「…愛の力…かなぁ…」
ぱふっとソファに横たわり、目を瞑る小悪魔
こあ「……すー…すー…」
ーーーーーーーー
その小悪魔の居る図書館入り口よりも本棚の奥の奥…1番奥の本棚に囲まれた通路にある小さな机と丸椅子があるところにヴラドはいた
机には10冊程度の歴史書などが山積みになっている
ヴラド「…」
食い入るように本と睨み合うヴラド
ヴラドが手にしている本のタイトルは
『ルーマニアの歴史』
と書かれている
ヴラド「…ふぅ」
パタン、と本を閉じ机の上に本を置く
目を瞑り、右手の親指と人差し指で目頭を少し強めに指圧する
ヴラド「…」
背中側の本棚に寄りかかりぼぅっとするヴラド
ーーーーーーーー
パチュリー「…あら」
しばらくして図書館に戻ってきたパチュリーはソファに横になっている小悪魔に気づく
パチュリー「…ふふ」
いつものパチュリーなら叩き起こして軽いお説教をするところだが
パチュリー「…たまには良いのかもね…」
そう呟き、本が山積みなっている大机、いつもの椅子に向かうパチュリー
パチュリー「…あら」
本棚の裏からヴラドが出てきてパチュリーと向かい合う
ヴラド「…パチュリー」
パチュリー「これはこれはお父様…この図書館に何か?」
パチュリーはわざとらしく軽く頭を下げる
ヴラド「…よしてくれ…」
パチュリーはふふっと少しだけ笑い
パチュリー「冗談よ、お団子ご馳走さま」
ヴラド「…ああ」
パチュリーはヴラドが手に持っている本を見る
パチュリー「…それは?」
ヴラドはパチュリーの本の表紙を向ける
パチュリー「…子育て?…愛されパパ?」
パチュリー、はぁ、とため息をつく
パチュリー「こあが用意したのね…また私に黙って…」
ヴラド「ああ…勉強になったよ、こあが起きたらありがとうと伝えておいてくれ」
パチュリー「はいはい」
ヴラド「では…フランと約束があるんでな」
パチュリー「ええ、またいつでもどうぞ」
ヴラドは図書館の扉を開け、部屋の外へ出て行く
パチュリー「…」
パチュリーはヴラドが出てきた本棚の通路を見る
パチュリー「…………まさか、ね…」
ーーーーーーーー
図書館を出て、途中通路にいた妖精メイド達と挨拶をしてからフランの部屋へ向かうヴラド
ヴラド「…部屋が多すぎる…ここか?」
少し大きめの扉の前に立つヴラド
レミリア「あら、そこは武器庫よ、お父様」
後ろから声がかかり振り向くヴラド
ヴラド「…レミリア」
レミリア「どこかの部屋と間違えたのかしら?」
口元についてた団子のタレはどこかの妖精メイドが拭き取ってくれたのか、レミリアの口元から無くなっていた
ヴラド「…フランの部屋にな…行こうと思ったんだ」
レミリア「フラン?…ならお父様と同じ階にあるわよ、連れて行ってあげる!」
ヴラドの手をとるレミリア
ヴラド「…ああ、よろしく頼む」
手を繋ぎレミリアがヴラドより少し前に出て歩きだす
ヴラド「…」
ヴラドは繋がれた手を見て
ヴラド「…レミリアは…ずっとこの紅魔館に住んでいるのか?」
レミリア「ええ、幻想郷に来る前からこの紅魔館とともに生きてきたわ」
レミリアは繋がれた手を離して、立ち止まりヴラドに向き直る
レミリア「何年も…何十年も何百年も…私たち吸血鬼を打ち取るために襲いかかってきた者達を相手してきたわ」
レミリアのまっすぐな目をヴラドはじっと見る
ヴラド「…」
レミリアはヴラドに背を向け
レミリア「…フランも咲夜もいる…なら私がこの紅魔館を守らなきゃ…」
ヴラド「…良い姉じゃないか」
レミリア「そんな事ないわよ…守らなきゃ、そう思って…思いすぎて、思い込みすぎて、勘違いをしてしまったから今回のフランみたいなことになっちゃったわけだし…」
ヴラド「…」
レミリア「…またちゃんとやり直さなきゃ…考え直さなきゃだから…」
ヴラドはレミリアの頭に手を乗せ撫でる
ヴラド「…お前なら出来るさ…レミリア」
レミリア「…あ」
ヴラドははっと思い出し手を引っ込め
ヴラド「ああ…すまない…『おまえ』と呼んでしまった…」
レミリア「…ぃわ」
ヴラド「?」
レミリア「いいわ…お父様になら…お前って呼ばれても…」
ヴラド 「…」
恥ずかしそうにぽそぽそと呟くレミリア
それを聞き、そっぽを向き頰をかくヴラド
ヴラド 「あ、あー…そういえば咲夜の姿が見えないが…」
レミリア「…咲夜?…咲夜ならさっき出掛けたところよ。永遠亭」
ヴラド 「…永遠亭…?」
ーーーーーーーー
フランの部屋
数分後、レミリアとヴラドはフランの部屋にたどり着く、ノックをし、中に入るとそこはレミリアやヴラドの部屋と同じく、シックでいかにも西洋の館の部屋だった
部屋の真ん中にあるキングサイズのベッドに腰掛け、脚をパタパタさせながらフランは本を読んでいた
ヴラド「案内をありがとう、レミリア」
レミリアと繋がれた手を離すヴラド
レミリア「…ええ、迷ったならいつでも」
離した手のひらをちらりと見るレミリア
ヴラドはフランのいるベッドに近づく
フラン「お父様!」
ヴラド「待たせたな、フラン」
そう言ってベッドな腰掛け、フランの頭を撫でるヴラド
レミリア「…」
その光景を何も言わずに見るレミリア
フラン「ご本読んで〜」
ヴラドに抱きつきながら本を渡すフラン
ヴラドは渡された本の表紙をみる
ヴラド「…シンデレラ?」
フラン「うん!」
ヴラド「…わかった…レミリアもどうだ?」
レミリア「…そうね、じゃあたまには聞こうかしら」
そう言ってレミリアはベッドの横にある椅子に座る
ヴラド「…昔々あるところに…」
ーーーーーーーー
こあ「すー…」
相変わらず図書館のソファで寝ている小悪魔
そんな小悪魔の鼻に羽ペンの羽の部分を近づけるパチュリー
こあ「…ぅ…ふんっ…ぐっ…」
パチュリー「…」
小悪魔の鼻がピクピク動くたびにパチュリーの心はほっほした
こあ「…ふごっ……!」
さっと離れるパチュリー
こあ「ぅ…ふぁあ…あっ!ね、寝てました…」
目を覚ましてすぐ立ち上がる小悪魔
パチュリー「あら、おはようこあ」
何事もなかったかのように振る舞うパチュリー
小悪魔はジト目でパチュリーを見ながら
こあ「…何かしませんでした?パチュリー様…」
パチュリー「さぁ?また氷の妖精でも来たんじゃないのかしら」
こあ「…もー…あれ?ヴラド様?」
パチュリー「彼ならもう部屋を後にしたわよ、本をありがとうって言ってたわ」
小悪魔は笑顔で照れる
こあ「いやー…なんか嬉しいですね〜」
パチュリー「…ねぇ、こあ」
こあ「はい?」
パチュリー「彼…何の用で図書館に来たのかしら」
小悪魔は顎に指を当ててんー、と考えて
こあ「あー…そういえば調べ物したいって言ってました」
パチュリー「…調べ物?」
こあ「はい…えーと…世界史?とか…」
パチュリーは頭を抑える
パチュリー(…やっぱり…)
こあ「あ、あの…何かまずかったですかね…?」
小悪魔はパチュリーのリアクションを見て不安がっている
その小悪魔の光景を見たパチュリーは頭をふるふると横に振って
パチュリー「…マズくなんかないわよ…案内をしてあげたのね、ありがとう、こあ」
そう言い手を少し上げて優しく小悪魔の頭を撫でるパチュリー
こあ「い、いえ…」
撫でられてる小悪魔は恥ずかしそうにもじもじする
パチュリー「こあ、ちょっとレミィの所へ行ってくるわ」
パチュリーは図書館の扉へ向かう
こあ「あ、はい!わかりました!」
ーーーーーーーー
フランの部屋
フラン「お父様ご本読むのとっても上手ね!」
本を読み終えたヴラドにフランが笑顔で言う
ヴラド「…そうか?そう言ってもらえると嬉しいな」
レミリア「そうね、まるで本当に舞台のセリフを聞いてるみたいだった」
ヴラド「それはなによりだ」
フラン「もっとお話ししてー」
そう言ってフランはヴラドの背中に抱きつく
レミリア「こら、フラン!お父様のご迷惑になるでしょう?」
フラン「むー」
ヴラド「構わないさ…そうだな…」
抱きつかれたままのヴラドは自分のあご髭を触る
ヴラド「…ある男の話をしようか」
レミリア「男?」
ヴラド「ああ…」
ヴラド 「記憶の無くした男が自分の歴史を見つける物語だ…」
レミリア「!?」
その言葉に驚き、思わず椅子から立ち上がるレミリア
フラン「?」
フランが不思議そうにレミリアを見る
レミリア「…やめてよ…」
ヴラド「…昔々…と言うほどでもないか…薔薇の花が広がる広場で男は目を覚ます…」
『ガチャ』
ヴラドが話し始めた時、部屋の扉が開いた
パチュリー「ノックもせずにごめんなさいね、レミィ!」
レミリア、フラン、ヴラドはパチュリーに注目する
パチュリー「…!?…貴方…」
パチュリーもヴラドに気づき、声を出そうとした時
『ドォンッ!』
外から爆発音と地震の様な揺れを感じる一同
レミリア「…な、何!?」
ヴラド「!?」
部屋に1つしかない窓から外を見るヴラド
ヴラド「…なんだ、あいつらは…」
レミリアとパチュリーもヴラドの横に立ち外を見る
パチュリー「…美鈴!?」
ヴラド「…!」
ーーーーーーーー
夕刻に近づき、空はきつね色になった頃、紅魔館の鉄の門が破壊された
もくもくと煙が門全体を覆い、外から数人の男達が入ってきた
皆、茶色や紺色などの地味な色の着流しを着て、刀や斧、槍を持って騒いでいる
賊A「ぎゃはははっ!見ろぉっ!紅魔館の門を壊してやったぜ!」
目つきが悪く、長髪で細身の男が刀を振り回しながら大声で叫ぶ
賊B「オラァッちゃっちゃと歩けボケが!」
太った坊主頭の大男が美鈴の肩を掴み無理矢理歩かせる
美鈴は合わせた手首を紙のようなものでグルグルに巻かれていた
賊A「オメェらっ!紅魔館をめちゃくちゃにしてやるぞ!」
賊達「おおおー!!」
賊達は騒ぎながら門から玄関ホールへぞろぞろと向かう
ーーーーーーーー
ヴラド「…美鈴が捕まっていたぞ」
パチュリー「あの子も妖怪…あんな人間なんかに負けるはずないのに…」
レミリア「…」
フラン「…助けなきゃ!」
ブワッとベッドから飛び降りたフランは廊下にでるため部屋の扉へ向かった
レミリア「待ちなさい、フラン !」
姉の言葉を聞かず部屋を飛び出すフラン
ヴラド「っ…!」
ヴラド達も遅れてフランを追いかける
ーーーーーーーー
紅魔館玄関ホール
賊C「オラァッ!」
『ガシャッ』
玄関近くの窓ガラスを割る者
賊D「よいっしょぉっ!」
『ガジャッ』
ホールの階段横にある壺を壁に投げつける者
突然の来訪者のお陰で、紅魔館の門から玄関ホールがボロボロにされていた
妖精メイド達は隅に固まって怯えている
フラン「貴方達!やめなさい!」
玄関ホールの2回の手摺から身を乗り出して賊に声を張るフラン
賊A「お?出てきたな…吸血鬼!」
賊B「…あれがお嬢様か…」
フラン「美鈴を離して!」
美鈴の肩を掴んでいた大男にフランが叫ぶ
賊B「ひひひ…そりゃあ聞けねぇなぁ」
美鈴「妹様!逃げてください!…こいつら…んぐっ」
なにかを言おうとした美鈴の口を塞ぐ
賊A「お前らの首を取ったら離してやるよ!」
その言葉にフランが賊Bに向けて手のひらを伸ばす
フラン「……キュッとして…」
手のひらをグッと握る
フラン「ドカンっ!」
しかしなにも起きない
フラン「…あ、あれ?」
賊達はその光景をニヤニヤしながら見ている
賊A「おいっ!やれ!」
賊E「応!」
『ドゥンッ』
賊Eは大筒をフランに向けて火を放った
飛んできた砲弾はフランの立っていた二階の手摺を破壊した
フラン「きゃっ!」
ヴラド「フランっ!」
間一髪のところでヴラドがフランを抱きかかえその場を跳び上がり、一階の玄関ホールに着地する
ヴラド「…っ!」
着地した瞬間足首に激痛が走るヴラド
ヴラド(…足を痛めたか)
フランを見ると気絶していた
賊A「…流石妖怪はタフだねぇ」
ヴラド「…」
フランを抱えたままその場にしゃがみこむヴラド
レミリア「お父様っ!フラン!」
パチュリー「…」
ヴラド「大丈夫だ!…フランは気絶してるだけだ」
レミリア「…お前ら!」
レミリアも賊達を睨みつける
賊A「へへへ…出たなぁ…レミリア、クソーレット!」
レミリア「スカーレットよ!この紅魔館に攻め込むなんて良い度胸してるじゃない」
賊A「そう思うならこっち降りてこいよ!」
レミリアは動かない、もとい動けなかった
何故か飛べないのだ
レミリア(…なんか変…力が入らない…)
パチュリー「…レミィ…奴ら、何かしたわね」
レミリア「!?」
賊A「…流石に魔法使い様は違うねぇ」
賊Aはくっくっと笑う
パチュリー「あなたたち、なにをしたの!?」
賊A「さぁねぇ…聞きたいことがあるなら二階にいないでこっちに降りてこいよ!」
レミリア&パチュリー「…」
賊A「…ああ、もしかして飛べないのかぁ?なんでだろうなぁ〜ぎゃはははは!」
なにかの力のせいか、パチュリーとレミリアは能力や魔法、宙を飛ぶことさえ出来なくなっていた
一階から二階までは高い天井の吹き抜けになっており、今の状態で飛び降りれば運が良ければヴラドと同じく足をひねる程度で済むが、下手をすると…
パチュリー「レミィ…咲夜は?」
パチュリー、小声でレミリアに問う
レミリア「…今頃永遠亭よ…」
パチュリー「…こんな時に…」
賊A「なんだぁ!?降りてこないのかよ?…ならそこで待ってろよ…」
レミリアとパチュリーが賊を見る
賊A「一階を滅茶苦茶にしてから二階に上がってやるからよぉ!」
賊の1人が妖精メイドの1人の手を掴み賊Aの前に引っ張ってくる
レミリア「!?」
賊A「手始めにコイツらを切り刻んでやるよっ!」
妖精メイド「い、いやっ!」
賊Aは持っていた刀を振り上げる
賊A「おらぁあっ!」
振り下ろそうとした瞬間、背後から何者かの気配を感じ、動きが止まる
賊A「…ぁあ?」
後ろを振り向くとヴラドが立ち上がり、賊達を睨みつけていた
ヴラド「その子を離せ」
ヴラドは妖精メイドの肩を掴んでいる賊Eに対して指差す
賊E「ああっ!?なんだこらぁっ!」
美鈴「ヴ、ヴラド様っ!ダメですっ!」
賊A「コイツらは捕まえて見世物小屋に売るんだよ!紅魔館の妖怪なんて捕まえることはなかなか出来ないからな!」
ヴラド「3つ数える、その手を離せ」
賊Aの言葉に反応せずにヴラドは賊Eに向けて言う、その声はフランと対峙した時のように冷たい声だった
レミリア「…ぉ、お父様…?」
ヴラド「ひとつ」
賊E「うっるせ!近づくなよこらぁっ!」
賊Eはメイドの肩を掴んでたが、首に腕を回し更に身体を密着させる
ヴラド「ふたつ」
賊Eに近づくヴラド
ヴラド「みっつ」
数えると突然賊Eの目の前からヴラドの姿が無くなった
『ザッ』
賊A「!?」
レミリア「!?」
瞬間、まるで分厚い布生地を切るような音がした
賊E「…え?」
気づけばヴラドは賊Eに斜め後ろに背を向け片膝をついていた
妖精メイド「……!」
目をつぶった妖精メイドは自分の首に巻きつかれてた賊の腕の感覚が無くなっていることに気づき、ゆっくり目を開ける
妖精メイド「!?」
妖精メイドの目の前に賊Eの肘から先が宙に飛んでいた
『ゴトン』
宙に飛んでいた賊Eの腕が玄関ホールの床に落ちる
賊E「ぐっぅぅぁぁああああっ!!」
妖精メイドから離れ床に倒れる賊E
賊E「いってぇぇああ!いてぇえええ!」
賊A「…や、やりやがった…」
レミリア「…」
パチュリー「…なんてこと…」
賊達やレミリア、パチュリー…その場にいた妖精メイド達もヴラドの行いに驚く
ヴラド「手を離せと言ったはずだ」
剣についていた賊の血を振り払いゆっくりと立ち上がる
一同ヴラドの放つ冷たい空気を肌で感じ、恐怖する
賊A「お、おい!妖怪が人間に手出したらてめぇらどうなるか…!」
ヴラド「…しらんな」
賊E「ぅっおっいってぇぇ!」
床を転げ回る賊E
ヴラド「そこになおれ、首をはねてやろう」
妖精メイド「や、やめてください!ヴラド様!私は無事です!」
レミリア「お父様!やめて!」
妖精メイドは叫び、レミリアも裏返るほど声を張る
賊C「や、やめてくれぇ!」
賊達がヴラドの背に回り羽交い締めにする
ヴラド「…離せっ!」
ヴラドが掴まれた腕を振り払うと賊の1人は吹き飛ぶ
レミリア「…ダメよ…」
レミリアは呟く
ヴラド「さぁ、そこになおれ!」
背中と脚に賊が引っ付いたまま賊Eに剣を向ける
賊E「ひ、ひぃいいい!!!」
賊Eは斬り落とされた腕の切り口を抑え、涙を流し座り込んだまま後ずさる
ヴラド「良いだろう、そのままで良い」
レミリア「…それじゃあ…ダメよ…」
ヴラドは賊Eの目の前で剣を高く掲げ
ヴラド「朽ちろ、下衆が」
剣を振り下ろした
レミリア「お父様ー!!」
『ガギィン』
叫ぶと同時に目をつぶるレミリア
つぶった瞬間、金属と金属が衝突する音が紅魔館のホールにこだまする
音がしてレミリアがゆっくりと眼を開けると、ヴラドの振り下ろした刃をレイピアの刃先で止める影があった
黒い二角帽子を被り、服装は赤、白、青を基調とした軍服を着た、少し背の低い見た目30代とみられる青年がヴラドの剣を止めていた
ヴラド「!?」
ヴラドが剣を引く
青年「いやねぇ……何も殺すことはないでしょっ?」
見た目に反し、少々高めの声を持つ青年は続ける
青年「この子達は戦う意思は無いみたいよ?」
ヴラド「…新手か…?」
青年も剣を降ろす
青年「…まさか……アタシはその子達とは全くの無関係よっ!」
賊A「あっ!…てめ…いや、あなたはさっきの…」
賊達が青年の姿を見てビクつく
青年はふぅ、とため息
青年「…全く…幼女にいたずらしていたかと思えば今度は強盗?…アンタ達頭大丈夫?」
ヴラド「…」
ヴラドは青年の姿をじっと見つめる
賊A「え…いや、アンタには関係ないだろう!…今度は邪魔させねぇよ!」
レミリア「なに、なんなのよ…」
賊達は武器を掲げ、青年を取り囲む
ヴラドはその隙に倒れているフランを片手で抱き、座り込んでいる妖精メイドに手を差し向ける
ヴラド「大丈夫か?」
妖精メイド「…は、はい…」
ビクビクしながらもヴラドの手をとる
美鈴「…た、助かった…?」
壁にもたれかかる美鈴
ーーーーーーーー
賊A「ちっ!…このオカマ野郎が!」
青年「む…聞き捨てらんないわね?」
青年は剣を胸元に縦に構え
青年「…殺しはしないわ!かかって来なさい」
賊A「やれっ!てめぇら!」
賊達「うおおー!」
賊達が青年に襲いかかろうとした瞬間
紅魔館の玄関ホールが真っ暗になった
停電ではなく文字通り真っ暗闇である
レミリア「今度は何!?」
パチュリー「…これは…!?」
賊A「…げっ!…こ、これは…!?」
何かを思い出す賊A
漆黒の闇、壊された玄関扉には夕焼けの光をバックに少女と思われる者が両腕を左右にピンと伸ばし、立っていた
まるで十字架が佇んでいるかのように
賊達F「ひいいい!」
賊C「どうする!カシラ!魔封じの札はもうねぇよっ!」
賊D「アイツが能力使ってるってことは結界壊されたぜ!」
賊達の会話からピンと来たレミリア
レミリア「…!」
レミリアは自分の身体に妖力が戻っていることに気づく
青年「…ルーミア!もう済んだのかしら?」
青年が少女に向かって叫ぶ
ルーミア「うん〜アリスと一緒に壊したよ〜」
賊A「くそっ!」
そこで賊達は動けなくなる
まるで身体が硬直したかのように
賊A「…て、てめぇ!」
賊Aは二階にいる魔道書を開いている魔法使いの少女に向かって舌打ちをする
ぱぁっと真っ暗だった闇が晴れる
パチュリー「…殺しちゃダメよ」
レミリア「…わかってるわよ」
レミリアは二階の手摺をひらりと飛び越える
レミリア「あんたらぁぁあー!!」
賊Aに向かって二階から飛び蹴りのポーズで突っ込んでいくレミリア
賊A「!?」
レミリア「吸血鬼パンチ!!!」
賊A「…ふがっ!」
レミリアの飛び蹴りの脚が賊Aの顔面に直撃、直後床に倒れる賊A
ヴラド「レミリア!」
レミリア「お父様!大丈夫!?」
着地してポーズを決めるレミリアはヴラドに向かって言う
ヴラド「…あ、ああ…」
ヴラド「!?」
ヴラドがレミリアから視線を外し、青年の方を見る
青年は華麗な剣さばきで賊達を次々と倒していた
青年「…あの後素直に家に帰っていればこんな事にならなかったのにねぇ…ホントおバカさんっ!」
後1人の残った賊に向け青年が剣を構えながら言葉を発する
賊「く、くそっ!くそっ!」
青年「…おっと?」
青年は賊に背を向け剣を鞘に収める
賊「な、なんだ!?」
青年は賊に背を向けながら右手の親指で賊の後ろを指す
青年「…後ろ、見てみなさいよ」
賊「?」
首だけでくるりと後ろを見る賊
目の前にはヴラドの大きな大きな拳があった