東方香靈記   作:114

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第22話「父として」

 

 

8月25日 夕方

 

 

フラン「…ん、……んん?」

 

眼が覚めるとフランは自分の部屋のベッドで寝ていた

 

窓の外を見ると茜色の光が差し込んでいた

 

 

フラン「んん……あっ!」

 

 

 

フランはさっきまでの状況を思い出し布団を引っぺがして勢いよく起き上がる

 

 

フラン「お父様!!……あれ?」

 

 

咲夜「眼が覚められましたか、フラン様」

 

 

ベッドの横には咲夜が椅子に座っていた

 

 

フラン「さ、咲夜!…お父様…みんなは!?」

 

 

咲夜「大広間にいらっしゃいます、お身体の方は大丈夫ですか?」

 

 

フランはぱっぱっと自分の身体や頭を触って違和感がないことを確認する

 

フラン「大丈夫!」

 

 

咲夜「…フラン様が気絶されていた時、ヴラド様はずっとお側にいらっしゃっていたんですよ」

 

 

ニコッと笑う咲夜

 

 

 

フラン「…そうなんだ…」

 

 

嬉しそうに返すフラン

 

 

 

咲夜「…行かれますか?」

 

 

フラン「うん!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

紅魔館の大広間では長テーブルを囲む様に、レミリア、ヴラド、美鈴、パチュリーの紅魔館メンバーと、賊との間に入ってくれた青年

 

見た目フランやレミリアと同じくらいのあどけない顔、赤いリボンのようなものを付けた金髪のショートの髪、白いブラウスを下に黒いベスト、黒いロングスカートといった小悪魔と似た服装をした少女、ルーミア

 

 

赤いカチューシャを付けた金髪のセミロングに、青いワンピースを元に白いフリルのついたスカーフを肩から羽織った、まるでフランス人形の様な綺麗な顔立ちをしたアリス・マーガトロイド

 

 

以上7人が椅子に座っていた

 

 

 

レミリア「まさか真昼間から吸血鬼の城を狙うとはねぇ…」

 

 

レミリアが肘をテーブルに置いて頬杖をかきながら気だるそうに言う

 

 

パチュリー「真昼間だから、じゃないかしら?」

 

 

レミリア「まぁ、物の被害はあってもメイド達が怪我しなくて良かったわ」

 

 

青年「ホントホント、さっすがあたし達ね!ナイスタイミンッ!」

 

 

アリス「まぁ…紅魔館に来たのはたまたまだけど…来てよかったわ」

 

 

ルーミア「お腹空いたぁ…」

 

テーブルにぐでっと顔だけ項垂れるルーミア

 

 

ヴラド「…」

 

ヴラドはアリス、ルーミア、青年を見て

 

 

ヴラド「それで…お前らは…何者だ?」

 

 

アリス「えっ!ここに来てその質問!?」

 

 

思わず席を立ち上がるアリス

 

 

ヴラド「…う…皆が喋るから聞くタイミングを逃したんだ…」

 

 

アリス「……変な人……私はアリス・マーガトロイド……魔法使いよ」

 

 

アリスは右手を胸に当て、ヴラドに自己紹介をする

 

 

ルーミア「ルーミア〜」

 

 

足をパタパタとさせながらへらへらと自己紹介するルーミア

 

 

ヴラド「…ヴラドだ…」

 

 

 

 

青年「アタシはボナパルト…気軽にレオンって呼んでね〜」

 

 

青年はヴラド達にウインクをして自己紹介する

パチュリーがボソリと呟く

 

 

パチュリー「……皇帝…」

 

 

レミリア「……貴方、その喋り方なんとかならないわけ?」

 

 

レミリアがジト目をレオンに向ける

 

 

レオン「嫌よ、この方が楽なのよっ」

 

 

 

 

パチュリー「…まさかこんな時に同業者に助けられるとは思わなかったわ」

 

 

パチュリーもアリスを見る

 

 

アリス「あら、何かご不満でも?"動けない"大図書館様?」

 

 

ヴラド「…」

 

 

ヴラドはパチュリーとアリスとの間に何かしらの溝があるように感じた

 

 

パチュリー「……いいえ、助かったわ。ありがとう」

 

 

少し優しい表情で礼を言うパチュリー

 

 

アリス「えっ!?…あ、いや…まぁ…うん」

 

 

トゲのある言葉が返ってくると思っていたアリスは少し焦る

 

 

レミリア「…ふふ」

 

その光景を面白そうに見ているレミリア

 

 

レミリア「ところで何故レミリア達は力を封じられていたんだ?」

 

 

ルーミア「これだよー」

 

 

ルーミアはテーブルの下から水晶を取り出す

 

ヒビ割れた水晶の中には大きなお札が入っている

 

 

パチュリーは水晶を一目見て

 

 

パチュリー「…なるほど…また随分古臭い物使ってたわね」

 

 

アリス「ええ…霊夢でもこんなもの持ってないんじゃないかしら」

 

 

レミリア「…どーゆー事?」

 

 

 

パチュリーはルーミアから水晶を受け取り

 

パチュリー「…この水晶は霊力の弱い…昔の巫女や魔法使いが使っていた魔道具よ。この水晶1つ置けばその範囲…そうね、半径50メートル程度は魔力、妖力は一切使えなくすることができるわ」

 

 

ヴラド「…一切…?…それじゃあ敵も味方も…」

 

アリス「その通り、使い勝手が最高に悪いから巫女も、他の魔法使いも使わなくなったの」

 

 

パチュリー「なんでアイツらがこんなものを…」

 

 

足をパタパタしてるルーミアが答える

 

 

ルーミア「なんかねー…あいつらに襲われてた時に聞いてたんだけど、妖怪の子から貰ったんだってー」

 

 

レミリア「…妖怪?」

 

 

ルーミア「うん、誰かはわからないけど…」

 

 

ヴラド「…彼らに聞いてみよう」

 

 

ヴラドは立ち上がると大広間の扉へと向かう

 

ヴラド「!?」

 

 

扉の向こうに何かの気を感じ、扉の直線上から少し逸れる

 

 

レミリアは咲夜に静かに手招きする

 

 

 

フラン「お父様ーー!!」

パチュリー「むぎゃっ!」

 

 

 

ばんっという扉が開く音と共にフランが飛んで入ってきた

 

上手く避けたヴラドのおかげか扉の直線上、椅子に座ってたパチュリーの背中に衝突する

 

 

フラン「…あれ?パチェ?」

 

 

レミリア「…おはよう、フラン…もう大丈夫なの?」

 

 

フラン「おはようお姉様!うん、大丈夫だよ!」

 

 

パチュリーに覆いかぶさったまま笑顔で答えるフラン

 

 

レミリア「…降りてあげなさい、フラン」

 

 

フラン「はーい…って、お父様どこへ行くの?」

 

 

パチュリーから降りたフランは扉の横にいるヴラドに問いかける

 

 

ヴラド「…玄関さ」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ヴラド、アリス、レオンは紅魔館の玄関ホールへたどり着くと、さっきまで暴れていた賊達はせっせと片付けや補修工事を行っていた

 

 

フランはルーミアと気が合ったのか2人でフランの部屋へと向かって行った

 

 

 

賊B「あ、ヴラド様、レオン様!」

 

 

賊C「この通り喜んで片付けさせて頂いてます!」

 

ニッコニコの賊達

 

 

ヴラド「ああ、そこが終わったら外の門もだ」

 

賊達「喜んで!」

 

 

ヴラドの言葉に笑顔で敬礼する賊達

 

レオン「…まぁ、良かったわね、ヴラドちゃん…新しい召使いが出来て」

 

 

ヴラド「ん?…自分たちがやったことの片付けをさせているだけだ、終わったらここから出て行ってもらう」

 

レオン「ふぅーん」

 

 

ヴラドとレオンが玄関の階段を降りると瓦礫の上に1人の賊が座り込んでいた

 

 

レオン「あら、おサボり?だめよ〜」

 

レオンが賊の顔を覗き込む

 

 

賊A「うおっ!…なんだ…あんたらか…」

 

アリス「あらあら…自分達が何したか分かってるの?」

 

 

賊A「…ちっ!わかってるよ!だからこうして罪を償ってんじゃねぇか!」

 

 

賊は右足をどんっと床に踏み込む

 

 

ヴラド「…お前…名前は?」

 

 

賊A「は?」

 

賊の横で立っていたヴラドが賊の目の前に来てしゃがみこむ

 

 

 

ヴラド「賊とはいえ名前くらいあるだろう…」

 

 

賊A「……ユライ…」

 

 

アリス「…ユライ?」

 

ユライ「ああ、ユライ…それが俺の名前だ」

 

 

長髪と着流しのせいで他の賊と同じ日本人かと思っていたが、なるほどよくよく見れば白人の顔立ちに近いとヴラドは感じた

 

 

ヴラド「…まさか…お前も…外来人か?」

 

 

アリス「…お前も?」

 

レオン「あら、ヴラドちゃんも外の世界から来たの?」

 

 

ヴラド「…」

 

アリスとレオンの言葉を無視

 

 

ユライ「いや、俺がこっちに来たのはだいぶ前だがな…」

 

 

 

ヴラド「……ユライ、お前はこの団の頭だろう?」

 

 

ユライ「…ああ」

 

ヴラド「…ならあの水晶はお前が受け取ったものだろう…誰から貰ったものだ?」

 

 

ユライ「…」

 

 

アリス「素直に答えたほうが良いわよ」

 

 

ユライは立ち上がり、ヴラド達に背を向け

 

 

ユライ「…名前はしらねぇ…オレンジ色の服を着た短い髪のガキだ…」

 

 

アリス「…?」

 

ユライ「そいつが突然俺たちのところにやってきてあの水晶を渡してきたんだ」

 

 

ヴラド「…」

 

 

ユライ「『これがあれば妖怪とも対等に戦えるよ』…ってな」

 

アリス「…それでルーミアを襲ってたのね」

 

 

ユライ「…どんなもんか試したかっただけだ…使った後、あのガキに欲情したのはウチの馬鹿共だけどな」

 

レオン「やぁね、欲情だなんて」

 

 

アリス「その直後に私達と会ったのよね?」

 

 

ユライはアリスをちらりと見て

 

 

ユライ「…突然の魔法使いとオカマに出会って水晶を使いそびれたぜ」

 

 

レオン「あら、失礼ねぇ」

 

 

ヴラド「…何故そのあと紅魔館に来た?」

 

 

ユライ「…別に…前々からいけ好かねぇ奴らだったから、殺して、お宝奪ってやろうと思っただけだ」

 

 

ヴラド「…」

 

 

ヴラドは呼吸を1つ

 

 

 

ヴラド「わかった、もういい」

 

 

レオン「あら?ヴラドちゃん?」

 

アリス「…」

 

 

ヴラドは1人食堂に戻る

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

大食堂

 

 

アリス「…多分、水晶を渡した妖怪に覚えあるかも…」

 

各々席に戻り、アリスが一言

 

その言葉に一同驚く

 

 

ヴラド「…誰だ?」

 

 

アリス「でも…うーん…違うのかな…」

 

 

アリスは腕を組み悩む

 

 

 

レミリア「…言いなさいよ」

レオン「…言いなさいよぅ」

 

 

 

レミリア「ちょっと!ハモらないでよ!」

 

レオン「良いじゃないのよ!」

 

 

レミリアとレオンのやりとりを無視するヴラド

 

 

パチュリー「…八雲ね?」

 

パタン、と読んでいた本を閉じたパチュリーがぼそりと答える

 

 

アリス「…多分」

 

 

ヴラド「…?」

 

 

アリス「ええ…幻想郷を管理してる八雲紫の事は知ってるわよね?その八雲紫の式の式に橙って妖怪がいるの…その子の特徴がさっきの賊が言ってた子の特徴と似てるから…」

 

 

ヴラド「…ちぇん…」

 

 

レミリア「…」

 

 

 

レミリアは席を立ち、夕刻を過ぎ、暗くなった景色を映す窓に近づき

 

 

レミリア「…なら明日、八雲紫に聞いてみるわ」

 

 

アリス「?…八雲紫の屋敷の場所を知ってるの?」

 

 

レミリア「…さぁ…でも明日会うから」

 

 

パチュリー「…何よ、会うって」

 

 

レミリア「会う予定なのよ、明日」

 

 

レミリアは窓の外をじっと見つめたまま答える

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

賊達「ご迷惑、おかけしましたぁー!」

 

 

紅魔館の門の外に賊達は一列に並び姿勢正しく門の内側にいるヴラド、レミリア、レオン、アリス、ルーミアに頭を下げる

 

 

ヴラド「…もう来るな、二度と」

 

 

 

レミリア「次来たらホントに容赦しないわよ」

レオン「もうお馬鹿な事はやめなさいよ」

 

 

レミリア「だから!話すタイミング重ねるなって!」

 

 

レオン「ぃやんっ☆」

 

 

 

紅魔館から小走りで森の中へ入っていく賊達

 

 

アリス「さて、と…私達ももう行きましょう」

 

 

レオン「そうねぇ…ルーミア、アンタも来る?」

 

 

ルーミア「んぁー…行くよー」

 

 

ヴラド「…今日は助かった…ありがとう」

 

 

 

ヴラドは門の外に出たアリス達に頭を下げる

 

 

アリス「気にしないで…偶然こっちに来ただけだから」

 

 

 

レオン「困った時はお互い様じゃないのよ」

 

 

 

ヴラド「…ああ」

 

 

 

アリス「それじゃあね」

 

 

 

アリスの言葉で3人は紅魔館から遠ざかって行く

 

 

 

レミリア「…はぁ、騒がしい人達ね…」

 

 

 

ヴラド「…そうだな…」

 

 

だが悪くないな、と思うヴラド

 

 

 

 

ヴラド「…レミリア」

 

 

レミリア「……何?」

 

 

 

 

ヴラドとレミリアは顔を合わせない

 

 

 

 

ヴラド「……助けてもらってなんだが…今夜私は紅魔館を出る」

 

 

 

レミリア「!?」

 

 

レミリア「……」

 

 

レミリアはヴラドの言葉に一瞬目を見開く

 

思考が停止し、掌に汗が浮き出て来るのを感じた

 

 

レミリア「…なんで?」

 

 

レミリア自身、驚くほどそっけない返しだった

 

 

レミリア「意味わからないわ、ダメに決まってるじゃない」

 

 

ヴラド「…すまん」

 

 

 

レミリアとヴラドは門の外を見たまま会話する

 

 

ヴラド「…だが、私はもう此処にはいられない…いてはいけないんだ」

 

 

レミリア「…」

 

 

ヴラド「…ある男がある屋敷の庭先で目が覚めた…」

 

レミリア「…!」

 

 

ヴラド「男は以前の記憶がなかった…だが屋敷の者達はそんな男を手厚く歓迎してくれた…男を父と呼んでくれた」

 

 

ヴラドは話しながら門の取っ手に手を乗せる

 

 

ヴラド「男は思った。世話になった屋敷の者達…娘達に何か礼をしないと…そう思った男は娘達の剣となり盾となることを決めた」

 

レミリア「…」

 

 

ヴラド「だが、ひょんなことから男は自分が何者だったかを知ることになる…」

 

 

ヴラドはレミリアの方を向き、彼女の眼を見る。レミリアは眼をそらす

 

 

ヴラド「…男は悪魔だった…何千、何万の人の命を自分の欲のために奪った悪魔だった」

 

 

 

レミリアは両の手の拳を握る

 

 

ヴラド「男は自分の過去を知ったことで思い直す…そんな悪魔に人を守ることができるのか?」

 

 

レミリア「…ちがう…」

 

 

ヴラド「そんな悪魔に子を持つ資格などあるのか?…ベッドで寝る資格があるのか?」

 

 

ヴラドはレミリアの正面に来て片膝をつく

 

ヴラドの視線はレミリアの視線よりも少し低くなる

 

 

 

ヴラド「…私は…無いと思う…」

 

 

 

レミリア「……!」

 

 

ヴラド「…大きな罪にはそれ相応の罰が必要だ…人の命を奪った罪なら…」

 

 

ヴラドは立ち上がり門の外を見る

 

 

ヴラド「…自分の命を絶つことが罰…」

 

 

レミリア「だめよっ!」

 

 

ヴラド「…」

 

 

レミリア「いやよ!そんなの!…私は許さないわ!」

 

 

ヴラド「…悪いが私には耐えられない…私が生きていることで私の周りには不幸しか訪れることはない」

 

レミリア「そんなの…」

 

 

ヴラド「…それに私とお前達は本当の親子でもない…血も繋がっていない…此処にいる理由は無いだろう」

 

 

レミリア「……」

 

 

ヴラド「…もう魔法は解けた…悪いがガラスの靴も置いて行くことはしない」

 

 

 

ヴラド「皆に伝えておいてくれ…世話になったのに勝手に居なくなってすまなかった、と」

 

 

ヴラドは外に向かって歩きだす

 

 

レミリア「…!」

 

レミリアはヴラドに向かって駆ける

 

 

ヴラド「!?」

 

 

ヴラドの背中から腰にかけて柔らかいものがあたる

 

首だけで後ろを見ると背中にレミリアが抱きつき、顔をヴラドの背中…鎧に埋めていた

 

 

ヴラド「…」

 

 

レミリア「…貴方の…」

 

 

ヴラド「…!」

 

 

レミリア「貴方のお陰で私やフランは存在するのよ」

 

 

ヴラド「…なにを言っている」

 

 

レミリア「…私達吸血鬼は…人の恐怖心から生み出された妖怪」

 

 

ヴラド「…」

 

 

レミリア「貴方は確かに何人もの命を奪ったわ…その行為に恐怖した人々が貴方を吸血鬼呼ばわりした…」

 

 

 

ヴラド「…ああ」

 

 

レミリア「…でもその人々が作り上げた吸血鬼という幻想から私やフラン…世界中の吸血鬼は作られたのよ!」

 

 

レミリアはヴラドの背中から回した腕に少し力を込める

 

 

レミリア「…貴方が居なかったら私は生まれることがなかった…フランも生まれなかった…私とパチュリー…美鈴や咲夜とも出逢う事は無かった!」

 

 

ヴラド「…」

 

 

レミリア「…貴方は何人もの命を奪った…でも何人もの命を生み出すきっかけを作ったのよ!」

 

 

ヴラド「…」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

そんな言葉を言われるとは思わなかった

 

歴史書で観た…自国のために鬼となった王は敵国の兵士や人間を串刺しにした

 

 

ただの人殺し、狂人だ

 

 

流石のレミリアも俺を嫌うだろう

いや、貴方ただの人殺しだったのと嘲笑うかもしれん

 

 

…そう思っていた

 

 

だから私のお陰で自分が存在するなんて言われるとは思わなかった

 

 

 

…私もレミリアやフラン…咲夜にパチュリーに美鈴…小悪魔や館のメイド達とも共に食事し、談笑し、たまに喧嘩したりしたかった…

 

だが私が存在することで大事な娘達に不幸が降りかかるかもしれないなんて…

 

 

…ん?

 

 

大事な娘達…?

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ヴラド「…ふ…」

 

 

レミリア「!?」

 

 

ヴラドは身体を小刻みに震わせる

 

 

ヴラド「…ふ…ふふっ…」

 

ヴラド「…レミリアよ…私は馬鹿者だ…」

 

 

レミリア「…」

 

レミリアはヴラドの背中から離れ

ヴラドはレミリアに向き直る

 

 

ヴラド「…私は気づかないうちにお前達を大事な娘達と考えていたようだ…」

 

 

いつもの優しい表情でレミリアに語りかけるヴラド

 

 

ヴラド「…だが…私の決心は固い、出て行くと決めた以上は…」

 

 

 

 

「…出て行っちゃうの?…お父様…」

 

 

 

ヴラド「!?」

 

 

館の方から声がして振り向くと、そこには泣きそうな表情のフランが立っていた

 

 

ヴラド「…聞いていたのか…フラン」

 

 

フラン「イヤだよ…そんなの…」

 

 

ヴラド「…お前達には悪いが…」

 

 

「まさか助けた礼をしないまま出て行くつもり?」

 

 

ヴラド「…パチュリー…」

 

 

 

パチュリー「気を失っている貴方を助けたのは誰かしら?」

 

 

 

ヴラドは辺りを見回す

すると夜の月明かりだけのせいでわからなかったが、ヴラドはいつのまにかいた紅魔館の住人達の存在に気づく

 

 

レミリア、パチュリー、フラン、妖精メイド達にこあくま

 

 

ヴラド「…レミリア…」

 

 

レミリアはいたずらな笑顔になって

 

 

レミリア「…お父様のことだもの…こうなるかもって予想してたわ…だからみんなに声をかけておいたの」

 

 

ヴラド「…お前達…」

 

 

門の内側にヴラド、対面するレミリアの後ろには住人達がぞろぞろと集ってきた

 

 

レミリアとフランの隣に咲夜が立っている

 

 

咲夜「『おれに出来ることなら手伝わせて貰おう』…でしたよね?」

 

 

ヴラド「…」

 

咲夜「まだ手伝って頂くことは沢山ありますよ…ヴラド様」

 

 

 

ヴラド「……はぁ…」

 

 

ヴラドは溜息を吐きながら門に寄りかかる

 

 

「…ここは吸血鬼の館ですよ?ヴラド様」

 

 

 

門の外から美鈴の声がした

 

 

ヴラドは横目で門の外にいる美鈴を見る

 

美鈴は左腕が包帯で巻かれていたが、それ以外はいつも通りだった

 

美鈴「吸血鬼に目をつけられて簡単には逃げられませんよ」

 

 

ニコッと笑う美鈴

 

 

 

ヴラド「……やられたよ…」

 

 

 

 

 

たった2日ちょっと

 

仲良くなるには短すぎる時間だが、紅魔館の住人にとってそんな短い時間でも、ヴラドを大切な家族として呼ぶには十分な時間だった

 

 

ヴラド「…まだ私を……俺を父と呼んでくれるのか…?」

 

 

レミリア「…もちろん」

 

 

ヴラドは皆の顔を見る、妖精メイド達の中には賊から助けたメイドもいる

 

 

ヴラド「…そうか…お前達が俺を父と呼ぶのなら…改めて…俺はお前達を子と呼ぼう…そして命ある限り紅魔館の剣となり、盾となろう」

 

 

死を受けることが罰ではない

 

 

愛すべき娘達の幸せのために生きること、それが今の俺への罰…いや、俺の出来る償い…なのかもしれない

 

 

もちろん奪った命の事は忘れない

だがその行いで生まれた命も決して無駄にはしない

 

 

レミリア「…よろしく、お父様」

 

ヴラド「ああ、よろしく頼む…みんな」

 

 

今夜の紅魔館は少しだけ賑やかだった

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

紅魔館、ヴラドの寝室

 

部屋の明かりを消し、ヴラドは月明かりの差し込む窓際に椅子を持ってきて1人で酒を飲んでいた

 

 

 

ヴラド「…うん…」

 

 

 

ヴラドがワイングラスに淹れて飲んでいたのは山崎印の赤ワインだった

 

 

ヴラド「…これは…」

 

 

グラスを空にし、山崎印のワインのボトルの隣にある日本酒の瓶を取る

 

 

ヴラド「…ふむ」

 

日本酒のラベルをじっと見るヴラド

 

蓋をひねり、新しいワイングラスに透明な色のウイスキーを注ぐ

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

グラスの縁に鼻を近づけるヴラド

 

 

ヴラド「…凄い匂いだな…」

 

一瞬顔をしかめるヴラド

 

 

ヴラド「…どれ」

 

 

グラスを少し傾け、水分を少し、口に含ませる

 

 

ヴラド「ん…」

 

 

口に含んだ水分を舌で転がし、飲み込む

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

ヴラドは置いたウイスキーの瓶を取り、再度じっと見る

 

 

ヴラド(…悪くない、いや…少し辛めだが美味い…)

 

 

その日の夜、ヴラドはウイスキーの瓶一本を飲み干した

 

 

ーーーーーーーー

 

 

8月26日

 

 

気持ちのいい夏の朝、ヴラドは美鈴と敷地内の花壇の手入れをしていた

 

 

美鈴「いやぁ、こう空気が気持ちいいと門番の仕事を忘れちゃいますねぇ」

 

 

いつも通りの愛想のいいニコニコ顔で土いじりをする美鈴

 

 

 

ヴラド「気持ちはわかるが堂々とそんな事を言うものじゃない」

 

 

 

 

同じく土いじりをしながら答えるヴラド

昨晩飲んだウイスキーは残念ながらヴラドには残らなかった

 

 

美鈴「…はーい…でも、うん…なんか良いですね…こーゆーの」

 

 

 

ヴラド「…」

 

ヴラド「…そうだな」

 

 

 

 

「おーい」

 

 

 

 

男性の声に美鈴とヴラドは反応する

 

 

2人が声のした方を見ると大男と少女が門の内側にいた

 

 

美鈴「!」

 

美鈴は瞬時に門へと翔ける

 

 

 

 

美鈴「不法…侵入ですよっ!」

 

空から大男な向けて飛び蹴りを放つ美鈴

 

 

 

 

大男「おおっ!早いな!」

 

 

 

しかし大男は素早く避ける

 

 

 

少女「ちょっちょっと待ってよ!」

 

 

 

美鈴「問答無用!…用事があるならまず門の外へ出てください!」

 

 

 

構え、威嚇しながら少女に答える美鈴

 

美鈴の体の周りに赤いオーラが出てくる

 

 

 

大男「これは面白い!」

 

 

 

 

美鈴が大男に回し蹴りを繰り出そうとする

 

 

少女「んぬぁぁっ!!」

 

 

少女は両手を美鈴に向けると掌から白い糸を放った

 

 

 

美鈴「ぅぉおおわっ!!」

 

 

 

糸は美鈴の足下に巻きつき思わず前に倒れる美鈴

 

 

 

ヴラド「美鈴っ!」

 

 

 

鎧は着てなくても剣を帯刀していたヴラドは鞘から剣を抜き切っ先を大男に向ける

 

 

ヴラド「美鈴を解放しろ!」

 

 

 

大男「お?」

 

 

 

 

興味深そうにヴラドの剣を見る大男

 

 

 

 

少女「解放も何もアタシらの話を聞いとくれよ!」

 

 

 

少女は糸の出た掌を美鈴に向けたまま叫ぶ

 

 

 

美鈴「だからっ!話なら門の外で!」

 

 

 

うつ伏せになった美鈴も必死で叫ぶ

 

 

 

ヴラド「…まず離せ!…美鈴も余計に動かなくて良い」

 

 

美鈴「…んーー!……はい…」

 

 

ぺたりと顔を伏せる美鈴

 

 

少女「…ほっ」

 

 

糸を消す少女

 

 

ヴラド「……貴様もだ…少し離れろ」

 

 

大男はたじろぐ事なくマジマジとヴラドの剣を見ている

 

 

大男「んー…南蛮の剣か?珍しいな…どれ、見せてくれないか?」

 

 

 

ニコッと笑って掌を差し出す大男

 

 

 

ヴラド「…」

 

ヴラドは黙って剣を鞘に納める

 

 

 

 

ヴラド「それで…お前達は何の用だ」

 

 

 

少女「あっ…そうそう…

 

大男「吸血鬼がいる館があるって聞いたからな、面白そうだから見に来たんだ」

 

 

 

 

少女が折良く話そうとしようとすると大男が話を被せてきた

 

 

ヴラドは再度剣を抜く

 

 

 

ヴラド「やはり賊か!」

 

 

 

 

ガギィンッ

 

 

ヴラド「!?」

 

 

ヴラドの剣を大男の刀が止める

 

 

大男「んーやはり銀か、これは」

 

 

ヴラドはさっと後退する

 

 

ヴラド「美鈴、退がれ…この男は俺が追い返そう」

 

 

 

座り込む美鈴

 

美鈴「ヴラド様っ!?」

 

 

少女も大男を止めようとあたふたしている

 

 

 

少女「ちょっと!やめなって!」

 

 

 

 

大男は刀を構えたまま

 

 

 

 

大男「この御仁が俺を切ろうと剣を向けて来たんだ、ただの喧嘩さ」

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

 

ヴラドは何も言わずに大男に斬りかかるが、大男は容易くヴラドの攻撃を止める

 

 

 

大男「うむ、力といい速さといい」

 

ヴラド「黙れっ!」

 

 

 

ヴラドは剣を水平に放つ

 

 

大男「おっと」

 

 

 

大男は仰け反りヴラドの攻撃を避ける

 

 

 

 

大男「それじゃあ、今度はこっちの番だ」

 

 

 

大男は縦に刀を振りかぶりヴラドに向ける振り下ろす

 

 

がちんっと鈍い音がする

 

 

ヴラドは振り下ろされた刀を自身の剣を横にして顔の前で刃を止める

 

 

ヴラド(なんて馬鹿力だ…)

 

 

 

 

大男「おおー!止めた止めた!」

 

 

 

大男は嬉しそうに刀を何度も振り下ろす

 

 

 

振り下ろしてきた数の分、ヴラドも受け止める

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

何度か剣を受けた後、ヴラドと大男は息を切らして少し距離を取る

 

 

 

 

大男「はっはっはー!面白い貴公だ!」

 

 

ヴラド「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

 

 

大男は構えていた刀を降ろす

 

 

大男「俺は利益!…貴公は何という名だ?」

 

 

ヴラド「はぁ…はぁ…賊に教える名などない」

 

 

そんなヴラドと利益の様子を見てた少女が話しかける

 

 

 

 

少女「あ、あのさー!…別にアタシらは賊でもないし、紅魔館を襲おうとしにきたわけじゃないんだよ!」

 

 

ヴラド「…」

 

 

 

少女「アタシらは地底から出てきたばっかで、まだこっちの土地に慣れてなくて…ただ単に近くに此処があったから寄っただけだよ…」

 

 

 

 

少女は必死にヴラドに語りかける

 

 

 

 

美鈴「…嘘をついてる風ではないですね…」

 

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

 

ヴラドも剣を降ろす

 

 

 

利益「お?」

 

 

 

ヴラド「…さっさと出て行け…ここはお前達が来るところではない」

 

 

少し息を切らしながら睨むヴラド

 

 

 

 

少女「あ、ああ!すぐ出て行くよ!ほらっ!利益!」

 

 

 

 

少女は利益の体を押して門の外へと押し出そうとする

 

 

 

 

利益「おっ?おっとっと…」

 

 

 

 

利益と少女が門の外へと出ると美鈴は門を閉める

 

 

利益「なあ、名前教えてくれないか?」

 

 

 

 

ニコッと笑いながら檻のような門越しにヴラドに問う

 

 

 

 

ヴラド「失せろ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

利益「また来るよ〜」

 

 

手を振りながら紅魔館から離れて行く利益と少女

 

 

 

ヴラド「…はぁ…」

 

 

 

 

ヴラドはどっと疲れたのか昨晩のように門に背中からもたれかかる

 

 

 

 

美鈴「お、お疲れ様です…ヴラド様…」

 

 

 

ヴラド「なんなんだ…あの男は…」

 

 

 

 

ヴラドは自分の手を見る、少し震えている

 

 

ヴラド(…なんだ…?…随分と久々な感覚だ…)

 

 

 

美鈴「ヴラド様…お強いんですね…あんな早い剣筋…見たことありません」

 

 

 

 

ヴラド「…そんなことないさ…」

 

 

 

 

 

フラン「お父様ーおはようー!」

 

 

もたれかかったヴラドはイチゴのような甘い声に反応する

 

 

顔を上げると日傘をさして腰に可愛いらしい茶色のポシェットを下げたフランがいた

 

 

 

 

美鈴「おはようございます、フラン様」

 

フラン「おはよー美鈴」

 

 

 

ヴラド「おはよう、フラン…どこかに行くのか?」

 

 

 

フラン「うん、ルーミアのところに!」

 

 

 

 

フランとルーミアは昨日の一件で仲が良くなったらしい、これからルーミアのところに遊びに行くようだ

 

 

ヴラドは美鈴に視線を向ける

視線に気づいた美鈴はニコッと笑う

 

 

美鈴(…心配性だなぁ、ヴラド様)

 

 

美鈴が門を開く

 

 

フラン「行ってきまーす!」

 

ヴラド「行ってらっしゃいフラン」

 

 

 

 

ヴラドはフランの頭を撫でるとフランは嬉しそうにスキップをしながら門の外への出て行った

 

 

ヴラド「…頼んだ、美鈴…門番は俺がする」

 

 

美鈴「了解しました!…お嬢様と咲夜さんもお昼くらいから八雲紫のところへ行くんですよね?」

 

 

 

 

ヴラド「ああ、今日は俺が紅魔館を守るさ」

 

 

美鈴「よろしくおねがいします!」

 

 

 

 

美鈴はヴラドにビシッと敬礼をするとフランの後を追っかけて行った

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

ヴラド「…それで?」

 

 

 

紅魔館の玄関、咲夜と小悪魔が子供3人をロープで縛っていた

 

1人はあの酒屋の子、弥太郎であった

 

ヴラド「お前達は山崎の……何故ここにいる…?」

 

 

 

 

弥太郎「くそっ!離せよ!」

 

 

少年は体をグネグネと動かしロープから逃げようとする

 

 

少年達は勝手に紅魔館に入ってきてヴラドに見つかった哀れな少年達である

 

ヴラドは少年達をじっと見る

 

 

ヴラド「何故勝手に入ってきた」

 

 

弥太郎「…此処には剣や槍があるんだろ!?それを貰いにきたんだよ!」

 

 

ヴラド「…理由は?」

 

 

少年達は黙り込む

 

 

ヴラド「咲夜、紅魔館に牢はあるのか?」

 

 

咲夜「はい、外の建物に」

 

ヴラド「子供達を少し反省させてやりなさい…怪我をさせないように」

 

 

咲夜「はい…こあ」

 

 

こあ「了解です!」

 

 

咲夜と小悪魔はヴラドの言葉で少年達を玄関から外へ連れて行く

 

 

ヴラド「……毎度毎度…レミリアも大変だったんだな」

 

 

 

がちゃり、と玄関の大扉が開く

 

 

ヴラド「?」

 

 

ヴラドが扉の方を見ると頰をぷっくり膨らませたフランとルーミアが、その後ろにはボロボロの服になった美鈴が立っていた

 

 

 

ヴラド「……う」

 

 

ヴラドの顔が強張る

 

美鈴は右手で頭をぽりぽりとかいて

 

 

美鈴「あはは…ヴラド様、すいません…バレちゃいました…」

 

 

フラン「お父様ひどいよ!美鈴をストーカーみたいに私に付けるなんて!」

 

 

 

ヴラド「あ、いや…その…あれだ…フランが心配で…」

 

フラン「お父様の馬鹿ー!!」

 

 

ルーミア「…ありゃ」

 

 

 

ヴラド「––––––!」

 

 

フランはそう叫び外へ飛び出て行く

 

 

ルーミア「…フランは私がいるから大丈夫だよ」

 

 

右手の親指をピッと立てヴラドにウインクをしてからフランを追いかけるルーミア

 

 

 

美鈴「ヴ、ヴラド…様?」

 

 

 

ヴラドは白目を向き膝から崩れる

 

 

 

美鈴「ヴラド様ー!!」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ヴラドの部屋

 

フランの一言からヴラドは窓の近くの椅子に座ってぼうっとしていた

 

 

ヴラドは窓を見たままぼうっとしている

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

咲夜「どうか、なされましたか?」

 

 

ヴラド「…咲夜か…いや、今朝来た男の事を考えていた」

 

 

 

咲夜「…」

 

 

ヴラド「…あの男の剣…受ける度に何故か心が踊ったのだ…」

 

 

 

咲夜「……お嬢様がお呼びです。どうぞ寝室へ」

 

 

 

ヴラド「…ああ………咲夜…」

 

 

 

咲夜「はい」

 

 

 

ヴラド「…私は…誰だ…」

 

 

 

咲夜は少し間を置き

 

 

 

咲夜「紅魔館の父でございます…」

 

 

ヴラド「…」

 

 

 

ヴラドは咲夜の顔を見る

 

 

 

咲夜「さぁ、どうぞ……ヴラド様」

 

 

 

ヴラド「……フランに…嫌われたかもしれん…」

 

 

 

咲夜「…へ?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

レミリアの寝室

 

 

レミリア「それじゃあ、行ってくるわねお父様」

 

 

ヴラド「ああ、気をつけろよ」

 

 

 

 

レミリアと咲夜は突然空間に出来た『裂け目』の中へ入っていった

 

フランはルーミアと外に出ており、美鈴も諸事情(?)により出ている

 

 

パチュリー達は図書館にいるにはいるが

 

 

実質妖精メイド達と俺とで紅魔館の留守番になったわけだ

 

 

それから昼過ぎまでは特に何も起きはしなかったが、夕方過ぎにまた来客があった

 

 

 

ヴラド「ん?」

 

玄関ホールの階段の途中を降りるヴラド

 

 

 

『ギィィイイイ…』

 

 

 

蝶番が少し軋む音がして扉が開いた

 

 

ナズーリン「だ、大丈夫…きっと中にいるのは門番かメイド長だ……」

 

 

 

ヴラド(なんだ?…こいつらは…)

 

 

ぞろぞろと何人かが入ってくる

髪の毛、服装が青い少女、青い頭巾を被った白装束の少女、ネズミの耳を付けた少女に黒い装束を羽織った青年と老人

 

 

 

小傘「こ、こんにちわ…」

 

 

1人の青い少女と目が合う

 

 

ヴラド「…また子供か…今日は来客が多い日だ」

 

 

 

 

 

アドルフ「!?」

 

 

初老の男はネズミ耳少女の耳元、小声で何か会話をしている

 

 

ヴラド(?)

ヴラド「…何用だ」

 

 

 

1人の青年が青い少女の前へ出て頭を下げる

 

 

命蓮「勝手に入ってしまい申し訳ありません…私は命蓮寺の命蓮と言います。実は人里で子供が行方不明になってしまって…」

 

 

ヴラド「…(ミョウレンジー?)」

 

 

命蓮「…もし何かご存知でしたら教えていただきたいのですが…」

 

 

ヴラド「勝手に入ってくる様な連中に話すことはない、お引き取り願おう」

 

 

ヴラドは右手で入口の扉を指す

 

 

命蓮「…ぅ…」

 

 

初老の男が青年の横に並ぶ

 

 

アドルフ「どうか無礼を許してほしい…子供達がいるかいないかだけを教えてはもらえませんか?」

 

 

ヴラド「何度も言わせるな」

ヴラド(面倒事はごめんだ、威嚇だけしておくか)

 

 

ヴラドは低い声でそう言うと剣を抜く

 

 

 

アドルフ「!?」

 

一輪「ち、ちょっと!」

 

 

頭巾を被った少女が叫んだ

 

 

 

一輪「勝手に入ったのは悪かったけど…そんな物騒なもの出さないでよ!」

 

 

 

 

ヴラド「3つ数える内に紅魔館から出て行け」

 

 

ヴラドは剣を構える

 

 

命蓮「ま、まま、待ってくださいよ!」

 

ヴラド「1つ」

 

 

 

ヴラド「2つ」

 

 

一輪「…くっ!」

 

 

 

頭巾少女が手のひらより大きい鉄のリングを取り出す

 

 

ヴラド「3つ」

 

ヴラド(…だめか…仕方ない、少し手荒だが、気絶させておくか)

 

 

ヴラドが青い少女に向かって翔ける

 

 

ヴラド(最初に入ってきたこの少女さえ気絶させておけば皆この館は危険な場所だと感じるだろう)

 

ヴラド「!」

 

 

ヴラドが青い少女に斬りかかる瞬間、初老の男が青い少女をかばう様に前に出てきた

 

 

 

「待ちなさい」

 

 

 

切りつける瞬間、少女の声がした

ヴラドの動きが止まる

 

 

初老の男の首元にはヴラドの剣先が当たるギリギリで止まってた

 

 

 

命蓮「あ、アドルフ…さん…」

 

 

ヴラド「…レミリア…」

 

 

ヴラドは初老の首元に剣を向けたまま

 

一同が声のした方を見ると、二階の階段近くの手すり近くレミリアが立っていた

 

 

 

レミリア「その人達は殺しちゃダメよ」

 

 

 

レミリアは微笑んでから一言

 

 

レミリア「…お父様」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

紅魔館、大広間

 

長い大机の先端、中央の上座の椅子にレミリアが座り、その右側に先の男が、左側に銀髪のメイド長、十六夜咲夜が立っている

 

大机の左右の席に命蓮寺の面々が座っている

 

 

命蓮「命蓮です。命蓮寺の住職の弟です」

 

命蓮は1つ頭を下げ自己紹介をする

 

 

 

アドルフ「アドルフです…ええと…外来人です」

 

 

アドルフも同じく挨拶をする

 

 

レミリア「…」

 

 

レミリアは何も言わずに命蓮とアドルフを見てから一言

 

 

レミリア「その他の名前はいいわ…大体知ってる顔ばかりだから」

 

 

ヴラド(…知らない顔ばかりだが…)

 

 

ヴラド「すまなかったな…先程は無礼を働いてしまった」

 

 

ヴラドは小傘とアドルフに頭を下げる

 

 

小傘「ううん…勝手に入っちゃったの私達だし…」

 

小傘は少し恥ずかしそうに答える

 

 

一輪「そもそも私達の方が無礼だったからね…」

 

 

ヴラド「今朝、品のない賊の様な奴らが来てたからな…少し警戒していた」

 

そう言ってヴラドは利益達の姿を思い出す

 

レミリア「…で?」

 

 

 

レミリアが一言発する

アドルフと命蓮はレミリアの顔が見れない。圧というのだろうか、まるで蛇に睨まれたカエルの様に身体が硬直した様な気がした

 

 

レミリア「お前達は何の用で此処に来た?」

 

 

レミリアがアドルフに向かって言う

 

 

レミリア「返答次第では私が直々に手を下してやろう」

 

 

一瞬間が凍る

下手な言葉は言えない…

 

そうアドルフと命蓮が思った時だった。

 

 

小傘「んもーっ!なんでそういう言い方するかなー!?」

 

小傘が席を立ってレミリアに怒る

 

ヴラド「!?」

 

 

 

命蓮「小傘さん…ちょっと!」

 

 

小傘「私達は子供達を探しに来ただけだってば!」

 

 

 

レミリア「…え?子供?」

 

 

 

レミリアの空気が変わる

カリスマたっぷりだった雰囲気は無くなり

 

椅子の肘掛に頬杖をついて

 

 

 

 

レミリア「なーんだ…悪そうな顔してるおじさん連れて来たからなんか面白そうな事するのかと思ったのに…」

 

 

アドルフ「悪そうな顔…」

 

 

 

 

アドルフが少しどんよりする

 

 

 

 

ヴラド「…レミリア…」

ヴラド(そんなこと言うな…レミリア)

 

 

 

ヴラドがレミリアを声をかけるとレミリアはハッとして頬杖を解いて咳払いをしてから紅茶を手に取り狂気の笑顔を作り吸血鬼のカリスマたっぷりに

 

 

 

レミリア「失礼…貫禄がある、と言う意味で言ったのよ…」

 

 

 

咲夜「お嬢様、失礼ながらもうカリスマキャラ作りは必要無いかと…」

 

 

咲夜がレミリアに言うとレミリアはため息し、顔を赤くして

 

 

レミリア「…あー!もうめんどくさいわね!子供達でしょ!?…咲夜!」

 

 

咲夜「はい…子供達は紅魔館の武器や防具を盗もうとしてたので、牢に入ってもらってます」

 

 

命蓮「よ、よかった…無事だったんですね」

 

 

 

ナズーリン「…ところでミス・スカーレット…その男性は?…先程はお父様と呼んでいたけど…」

 

 

ナズーリンが恐る恐るレミリアに質問する

レミリアはナズーリンの言葉にさも当たり前のように

 

 

レミリア「…お父様よ?私とフラン…紅魔館の父」

 

 

ナズーリン「…お父様?…どう見てもただの人間にしか見えないんだけども…」

 

 

 

 

ヴラド「…ヴラドだ…この幻想郷にはまだ来たばかりでな……気がつけばこの子達の父と呼ばれていた…」

 

ヴラド(過程の話は…いいか……)

 

 

そう言いながら少し微笑みながらレミリアの頭に手を乗せる

 

 

レミリア「…」

 

 

レミリアは少し赤くなってからヴラドの手を払う

 

 

レミリア「子供扱いしないでよお父様っ!…他の人がいる時は…!」

 

 

元からレミリアを知る一輪、ナズーリンは戦慄する

 

あのわがまままで暴君のようなレミリアが、こんなにも…

 

 

ナズーリン「まるで…少女だね…」

 

 

咲夜「…お嬢様…」

 

 

咲夜がレミリアを小声で呼ぶ

 

 

 

レミリア「…あ」

 

 

レミリアは命蓮寺の面々からの視線に気づき

1つ咳払い

 

 

 

レミリア「結局…何しに来たのよ貴方達…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

少女達説明中

 

 

レミリア「ふーん…その山崎って奴…魂胆見え見えでムカつくわね…」

 

 

 

頬杖をかいたままレミリアは答える

ヴラドは窓側の椅子座り外を見ている

 

 

ヴラド(そうか…レミリアは山崎の事を知らないのか…いや、咲夜が話してないのか…)

 

 

 

一輪「本当かどうかはわからないんだけどね…」

 

 

 

ナズーリン「本当に子供を助けたいんなら人里の…自警団や寺子屋の先生のところとかに行くだろう」

 

 

レミリアは少し考えてから

 

 

レミリア「うん、良いわよ…子供達をさっさと連れて行きなさい…お父様、咲夜、お願い出来るかしら?」

 

 

咲夜「承知しました」

ヴラド「…」

 

 

咲夜は頭を下げ、ヴラドは頷く

 

 

小傘「良いの?今夜の食事にするわ!…とか言うかと思った…」

 

 

レミリア「…私はグルメなの…ムカつく人間の子供なんて食べたって美味しくはないわ…それに…」

 

 

レミリアは小傘をじっと見つめ

 

 

小傘「…?」

 

 

レミリア「ちょっとしたお礼よ」

 

 

小傘「???」

 

 

レミリアの言葉にみんなハテナが浮かぶ

 

 

 

レミリア「そんな事より貴方…」

 

 

レミリアは初老の男、アドルフに指を指す

 

 

 

アドルフ「…は?」

 

 

レミリア「さっきからずっと持ってるその背中の風呂敷…」

 

 

ナズーリンは座ったまま身構える

 

 

ヴラド「…??」

 

 

レミリア「…納豆ね…?」

 

 

アドルフ「…ええ」

 

 

アドルフは恐る恐る答える

 

 

ヴラド(…ああ…そう…)

 

 

 

レミリア「もしかして…私へのお土産ね!?」

 

 

嬉しそうに良い顔でアドルフに問うレミリア

 

 

一瞬の間があって

 

 

命蓮「レミリアさんは納豆がお好きなんですか?」

 

 

命蓮、普通にレミリアに話しかける

 

 

レミリア「もちろん」

 

 

レミリア、腕を組んで即答

 

 

レミリア「あんな美味しいもの、この世に2つと無いわ!…納豆こそグルメの頂点よ!」

 

 

アドルフ「…」

 

アドルフは一度ナズーリンを見る

 

頷くナズーリン

 

 

 

アドルフ「ああ…もし良ければどうぞ?沢山あるので…」

 

 

そう言ってアドルフは背中に背負ってた風呂敷をテーブルの上で広げる

中には藁で巻かれた納豆が20本ほど入っていた

 

 

レミリア「!!!!!」

 

 

思わず顔を赤くするレミリア

 

咲夜(お嬢様…飛び跳ねたいほど嬉しいでしょうね…)

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

咲夜とヴラドに着いて行き命蓮寺一行は暗くなって来た空の下、紅魔館の中庭に出てきた

 

 

一輪「牢って…外にあるの?」

 

 

咲夜は振り返らずに答える

 

 

咲夜「昔は館と繋がった地下にあったのですが…今は外…あの建物が現在の紅魔館の牢屋です」

 

 

咲夜は中庭の隅に立ててある赤いレンガの小屋を指差す

 

 

命蓮「これが…牢屋…」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

鉄扉を開けると地下への階段が続く

地下に降りると蝋燭の明かりだけが灯った3室ある牢屋に着いた

 

 

弥太郎「うわっ!うわぁぁ!!」

 

 

ヴラドを見た少年たちが怯える

少年達は3人まとめて同じ牢に入れられていた

 

 

ヴラド「…少しは反省したか?」

 

 

少年B「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

 

 

少年C「もう家に返してください!」

 

 

ナズーリン「…一体何が…?」

 

 

 

ナズーリンがヴラドの方を見て呟く

 

 

ヴラド「…この子供達は昼頃に紅魔館な忍び込んで来たんだ…今日はたまたま門番が人里に出ていてな…すんなりと…忍び込んで来た」

 

 

咲夜「その時ちょうど私も門から離れていたので気づかなかったんです…そうしたらヴラド様に捕まったらしくてですね…」

 

 

アドルフ「何故紅魔館に…」

 

 

弥太郎「お父さんから…紅魔館には剣とかの武器が沢山あるからって…教えられて…」

 

 

一輪「まさか…自分の子供にまでこんな事させるなんて…」

 

 

ナズーリン「山崎って男がどれほど腐った男かよくわかったね…」

 

 

小傘「…」

 

 

小傘は牢越しに少年達の前に出る

 

 

 

小傘「そんなに…私のこと嫌いだったの?…殺したいほど…」

 

 

アドルフ「…小傘…」

 

 

弥太郎は小傘から目をそらして

 

 

弥太郎「…別に…お前だけ嫌いなんじゃない…」

 

 

ナズーリン「…」

 

 

弥太郎「俺たちは親を妖怪に殺されたんだ…」

 

 

命蓮「え?…お父さん…山崎さんは生きてるじゃないか…」

 

 

弥太郎「あいつは本当の親父じゃない…」

 

 

弥太郎は牢の手すりに両手をかけ

 

 

 

弥太郎「俺は養子で引き取られたんだ!…親のいない子供を引き取れば人里の人間からの印象良くなるからな…!でも引き取ってから俺に優しくしてくれたことなんて無かったよ…」

 

 

小傘「…」

 

 

弥太郎「だから…俺は妖怪を許さない…お前ら妖怪がいるから…俺たち人間は不幸になるんだ…!」

 

 

アドルフが少年達の檻の前に立つ

 

みんながアドルフに注目する

 

 

アドルフ「ご両親が妖怪に殺された…なるほど不幸な事だと思う…だが小傘が何かしたのか?君の親を殺したのか?」

 

 

 

アドルフ「ご両親が殺されて不幸な事だと思う、だが君はその悲しみの中ずっともがき苦しむだけなのか?前へ進もうとは思わないのか?妖怪を許さない?妖怪を殺す?そんな野蛮なことしか考え付かないのか?」

 

 

弥太郎「…うるさい…」

 

 

アドルフ「子供だからってそんな直情的な考えを持った時点で君は君が嫌っているご両親を殺した妖怪と同じではないのか?」

 

 

アドルフ「殺されて恨むのは簡単だ、だがそこからどう這い上がるか、どう考え方を変えるかで君の未来が変わるだろう」

 

 

弥太郎「…うるさい!」

 

 

アドルフ「小傘は優しい少女だ、小傘をずっといじめてきて小傘にやり返されたことがあるのか?小傘に殺されかけた事は?叩かれたか?石を投げられたか?罵倒されたか?」

 

 

弥太郎「…!!」

 

 

アドルフ「亡くなった親御さんが今の君を見たらなんと言うんだろうな…」

 

 

小傘「…おじさん」

 

 

小傘がアドルフの服の裾を掴む

 

 

アドルフ「…小傘」

 

 

ヴラド「…」

 

 

ヴラドはそんなアドルフと小傘の光景を見る

 

 

 

小傘「早く、出してあげよう?」

 

 

咲夜「…開けますね」

 

 

咲夜は少年達の檻の鍵を開ける

 

 

命蓮「…人里までお送りしますよ」

 

 

弥太郎「いい…自分達で帰る…」

 

 

少年達は少し俯きながら檻から出てくる

 

 

 

ヴラド「…」

 

 

少年達はみんなが降りて来た階段の方へ向かい、少年B、Cが階段を上っていく

 

弥太郎は小傘に振り返る

 

 

 

弥太郎「…」

 

 

小傘「…?」

 

 

弥太郎はまた階段の方を向き一言

 

 

 

弥太郎「…ごめん…もう、いじめないから…」

 

 

そう言って少年Aも階段を上っていった

 

 

小傘は少年の言葉にきょとんとしていた

 

 

 

アドルフ「…きっともう大丈夫だよ、小傘」

 

 

アドルフが小傘の頭にぽんと手を乗せる

小傘はすこし照れながら

 

 

小傘「…うん、ありがとう、おじさん」

 

 

 

一輪「…さ、用事も済んだ事だし、みんなもう行きましょう!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

紅魔館、門前

 

門前には命蓮、一輪、雲山、ナズーリン、アドルフ、小傘の6人に加えヴラド、咲夜がいた

 

 

 

命蓮「わざわざ門まで送ってもらってすいません」

 

 

命蓮がヴラドに頭を下げる

 

 

ヴラド「いや…俺も外の空気を吸いたかったからな…それに…」

 

 

ヴラドはアドルフと楽しそうに話してる小傘を見てから少し微笑む

 

 

ヴラド「…良いものも見れたしな」

 

 

一輪「え?」

 

 

咲夜「ふふ…」

 

 

ヴラド、咲夜が笑ってるのを見てバツの悪い顔をする

 

 

 

ヴラド「ん"んっ…では、道中気をつけろよ」

 

 

命蓮「はい、失礼します」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

アドルフという男のお陰で特に問題もなく無事子供達を解放し、寺の者達とも別れることになった

 

 

…本当にこの男の言葉には力があるように感じる…不思議だ…

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

紅魔館を後にする命蓮寺一同

紅魔館の門の外で見送るヴラドと咲夜

 

 

ヴラド「…咲夜」

 

 

遠くなる彼らを見ながら咲夜と呼ぶ

 

 

咲夜「はい…場所は分かっています」

 

 

ヴラド「あまり遅くならないようにしよう…レミリアにもフランにも機嫌を悪くされたらかなわん」

 

 

 

咲夜「…本当によろしいのですか?」

 

 

咲夜がヴラドに少し心配そうに問いかける

 

 

ヴラド「…舐められたら終わりだ…やるときは徹底的に、だ」

 

 

 

咲夜「はい」

 

 

ヴラド「さぁ行こう咲夜」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

人里を囲う柵を乗り越え中に入るヴラドと咲夜

 

 

時刻は午後8時頃、民家ではちらちらと明かりがついている

 

 

ヴラド「…咲夜、ここはどの辺りだ?」

 

 

まだ一度しか人里に来てないヴラドはどこがどこだかさっぱりわからない

 

 

咲夜「こちらです、ヴラド様」

 

 

咲夜がヴラドより先に歩く

 

2人がしばらく歩いていると昼間に通った商店通りに出た

 

 

ヴラド「…ここは昼間の…」

 

流石にこの時間、商店は何軒も雨戸を閉め営業終了していた

 

 

咲夜「ヴラド様…その店です」

 

 

ヴラド「…」

 

 

咲夜の言葉に頷くヴラド

 

 

ヴラドと咲夜は見覚えのある酒屋の前にいた

 

 

ヴラド「…」

 

どんどんどん

 

 

ヴラドは酒屋の閉まってる雨戸を叩く

 

 

咲夜「…」

 

ヴラド「…ふむ…」

 

 

どんどんどん

 

 

再度ノックするヴラド

 

 

「はいはい」

 

 

中から男の声が聞こえて来た

 

 

「もうウチは終わりましたよー…って…」

 

案の定出て来たのは山崎だった

 

 

山崎「ぅおっおっおっはっはぁぁー!?」

 

 

まるで死人を見たかのような表情とリアクションをしてくれた山崎、後ずさろうと思わず不思議なステップを踏んでその場で尻餅をつく

 

 

 

ヴラド「…近所迷惑だ、静かにしろ」

 

 

山崎「な、なんであんたら生きて…」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜は何も言わずに自分の腰に手を回そうとする

 

 

ヴラド「咲夜……いい、お前は何もするな」

 

 

そう言われた咲夜は手を前に戻す

 

 

ヴラド「さぁ、山崎…何故俺が此処に来たかわかるか?」

 

 

店内のボトルを見ながら山崎に問いかける

 

 

山崎「……さぁね…昼間の買い忘れですか?」

 

 

ヴラド「…ふふ…それは面白い冗談だ」

 

 

山崎は近づいてくるヴラドに警戒しながら店内をちらちらと見回す

 

隙を見てなんとか逃げようとしている

 

 

 

ヴラド「俺はな…山崎……例えお前が…」

 

ヴラド(…あ…なんと言ったか…あの寺の者達…)

 

 

 

ヴラド「……誰かに紅魔館を攻撃させようとしたりしても怒りはしない」

 

 

 

咲夜(…命蓮寺…)

 

 

ヴラド「…嫌味を言ってこようが嫌がらせをしてこようがそれに対しても大して声を上げることもしない」

 

 

山崎「…ぅ…」

 

 

ヴラド「だがな…」

 

 

咲夜「!?」

山崎「!?」

 

 

ヴラドは腰の剣を抜き、座り込んでる山崎に向かって振り下ろす

 

 

咲夜「ヴラド様!」

 

 

ガジンッ

 

 

山崎「…ひぃいいいっ!」

 

ヴラドが振り下ろした剣は山崎の座り込んでる地面に突き刺さる

 

 

ヴラド「…自分の子供を危険にさらす真似は許さん」

 

山崎「…う、うぅ…」

 

 

ヴラド「養子だろうと…血の繋がらない子だろうと…お前の子だ」

 

山崎「…」

 

 

山崎はヴラドの目を見る

 

 

ヴラド「…親として…父として責任持って守ってやれ」

 

 

山崎「…」

 

 

「やめろぉっ!」

 

 

ヴラド「!?」

 

 

どんっ、と何者かがヴラドに体当たりをする

 

 

山崎「や、弥太郎…!」

 

 

ヴラド「…」

 

 

体当たりをしてきたのは先程まで紅魔館の檻にいた少年だった

 

弥太郎「お…お父さんを虐めるな!」

 

 

山崎「!」

 

 

ヴラド「…お前は父が嫌いだったのではないのか?」

 

 

弥太郎「…!」

 

 

少年は下を向く

 

 

ヴラド「…もう、良いだろう…いつまでも意地を張るんじゃない」

 

 

山崎「…」

 

 

 

思わずヴラドを見る山崎

 

 

ヴラド「お前は父としては何もしてくれなかったと言ったな…だがそれはお前の本心の言葉だったのか?」

 

 

弥太郎「…」

 

 

ヴラドは昼間の山崎との会話を思い出す

 

 

『…いやぁ…年頃の子供は何を考えているのか…ははは』

 

 

 

ヴラド「…どうだ?…弥太郎…」

 

 

弥太郎「…」

 

 

少年は泣きそうな顔になる

 

 

 

弥太郎「…お、俺は…」

 

 

山崎「…」

 

 

少年は右手の拳をギュッと握り

 

 

弥太郎「…自分の気持ちは…よくはわからないけど…でも、この人は殺さないでくれよ!…お父さんなんだよ!」

 

 

山崎「…弥太郎…」

 

 

ヴラド「…よくわからない…か」

 

弥太郎「…きっとお父さんは俺のことを自分の子供だなんて思ってないと思う…でも…俺からしたら、親を殺され、ひとりぼっちになってた俺を助けてくれたお父さんなんだよ!」

 

 

 

少年の言葉を聞き、山崎は地面に顔を伏せる

 

 

「…子の心、親知らず…と言ったところですかね」

 

 

聞き覚えのない声に驚く一同

 

 

店の外から1人の女性が入ってきた

 

神霊廟の聖人、豊郷耳神子である。後ろには命蓮寺の船幽霊、村紗水蜜を引き連れている

 

 

ヴラド「…誰だ?」

 

山崎「…聖徳王様…」

 

 

咲夜はヴラドの後ろに立ち

小声で教える

 

 

咲夜「神霊廟という場所の主…神霊です」

 

 

神子「こんばんは咲夜さん…数刻ぶりですね」

 

咲夜「…」

 

 

和かに挨拶する神子と目をそらす咲夜

 

 

ヴラド「…神霊廟…」

 

 

神子「山崎さん…あなたの事は前々から知っていました…」

 

神子は山崎をじっと見る

 

山崎「…!?」

 

 

神子「貴方、人里ではだいぶ有名ですよ…かなりのトラブルメーカーだと…」

 

神子は山崎を睨む

 

 

神子「それに…貴方の商売敵である紅魔館に命蓮寺をぶつけようとしたらしいですね」

 

 

山崎「そ、それは…」

 

 

神子「…更に聖徳王では話にならなかった…貴方がそう言ったとそこの命蓮寺の者が言ってましたが…」

 

 

後ろで力強く頷く村紗

 

 

神子「…変ですね…神霊廟では貴方のお顔は見てません…手紙も受け取ってませんが?」

 

 

山崎「…あ、いや…」

 

 

ヴラド「…」

 

 

神子「勝手に捏造されるのは困りますね……一応私達初対面ですよ?」

 

山崎「…ぐ…」

 

 

ヴラドと咲夜、弥太郎の視線に神子の言葉

 

山崎は泣きたくなった

 

 

 

 

神子「なによりも…感心できないのは貴方のお子さんへの接し方です」

 

 

弥太郎「…」

 

 

 

神子「貴方は紅魔館には武器や防具が沢山ある、と…何の気なしに言ったのでしょうが、子供からすれば大人の言う事は信じてしまうものですよ…それが親なら…尚更の事です」

 

 

神子「紅魔館は人里でも有名な危険な場所です。どんな理由があっても子供だけで行かせる場所ではない」

 

 

神子は山崎に近づく

 

 

神子「…今の貴方ならもうわかるでしょう…?…この方がおっしゃった様に、これからは親として、ちゃんと彼と接してあげなさい」

 

 

山崎「う…うぅ…」

 

弥太郎「お、お父さん…」

 

 

座り込む山崎の両肩に後ろから手を乗せる

 

山崎「や、弥太郎…ご…ごめんなぁ…ごめんなぁ…」

 

 

ぼろぼろと泣きながら我が子の手を握る山崎

 

 

 

ヴラド「…行こう、咲夜」

 

 

咲夜「…徹底的に、ではなかったのですか?」

 

 

ヴラドは店の開いている扉の前まで歩き、咲夜に振り返らずに

 

 

ヴラド「…もう十分だろう…」

 

 

咲夜「…はい」

 

 

ヴラド「あー…そうだ、山崎」

 

 

 

山崎「…!?は、はい」

 

 

ヴラドは振り返らずに山崎に声をかける

 

 

 

ヴラド「お前の作ったワイン……あれを飲んだ」

 

 

山崎「は、はぁ…」

 

 

 

ヴラド「…正直言おう…ひどい味だった」

 

山崎はしゅんとしょげる

 

 

ヴラド「あれならまだ川の水の方が美味いな…」

 

 

山崎「は、はは…お口に合わなかったようで…」

 

 

ヴラド「だがウイスキー…あれはワインとは比べものにならないな」

 

 

山崎「え?」

 

 

ヴラド「お前のウイスキーは最高に美味かった…手広くやるよりも1つのものをもっと極めてみたらどうだ?」

 

 

 

山崎「…」

 

 

ぽかんとする山崎

 

 

 

弥太郎「…友達のお父さんも言ってたよ…」

 

 

山崎「!?」

 

 

弥太郎「『山崎の奴はいけ好かないけどウイスキーだけは文句ない』って…」

 

 

山崎「や…弥太郎…」

 

 

ヴラド「…ではな」

 

 

 

店の外に出るヴラドと咲夜

 

 

 

 

神子「…貴方…紅魔館の方ですね?」

 

 

後ろから神子に声をかけられる振り向くヴラド

 

 

 

ヴラド「ああ…ヴラドだ」

 

 

神子「…なるほど、貴方が…」

 

 

神子は足元から顔までヴラドの姿をまじまじと見る

 

 

神子「…良いお父様ですね」

 

 

神子は咲夜に向かって優しい笑顔で言う

 

 

 

咲夜「…」

 

 

神子から眼を背ける咲夜

 

 

神子「…本当は私の方で山崎さんと"話し合い"をしようと思っていたのですが…どうやら先に来た貴方の方で済んでしまったようですね」

 

ヴラド「…悪かったな…余計な事をしてしまったようだ」

 

 

神子「いえ、素晴らしい説法でしたよ」

 

 

ヴラド「…俺は宗教家じゃない」

 

 

神子「…うちにも貴方に似た方が今居ます。近いうちにどうぞ遊びにいらしてくださいね」

 

 

 

にこりと笑う神子をヴラドは一目見て

 

 

ヴラド「…考えておく」

 

 

ヴラドと咲夜は暗くなる人里の中へ溶け込んでいく

 

 

店の前に残るは聖徳王と船幽霊

 

 

神子「貴女もわざわざご苦労様…よく1人で神霊廟まで来たわね」

 

 

村紗「…別に…私にできる事をやろうと思っただけよ」

 

 

そっぽ向きながら答える村紗

 

 

神子「…村紗水蜜…貴女は今の幻想郷をどう思う?」

 

 

村紗「…へ?」

 

 

間に聖が居ても絶対質問してこない事をさも当たり前の様に村紗に問いかける神子

 

 

村紗「なによそれ…今のって…いつも通りでしょう?」

 

 

神子はクスリと笑い

 

 

神子「ふふ、そうね…いつも通りかもしれないわね」

 

 

神子は星空を眺め

 

 

神子「…いつも通りの幻想郷…でも今年の夏だけは…なにか特別な気がするの…」

 

 

村紗「…特別…」

 

 

神子「…そうは思わない?」

 

 

村紗の頭に命蓮やアドルフの姿がよぎる

 

 

 

村紗「…そう、かもね…」

 

 

神子「…なんてね」

 

 

 

神子はそう呟きヴラド達とは逆の方向へ歩き始めた

 

 

村紗「…あ、あのさ」

 

 

神子「?」

 

 

村紗が神子を呼び止める

 

 

村紗「…ありがとう…協力してくれて…」

 

 

神子はキョトンとしてからふ、と笑い

 

 

神子「…さっき彼にも言ったでしょう?…今うちにも随分とお節介な人が来ててね…貴女に協力してあげたほうがいいって言われたから…そう、その人の影響のせいで今日は気分が乗っただけよ」

 

 

村紗「…あっそ!」

 

 

むくれる村紗とくっくっと笑う神子

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

紅魔館までの道のり、真っ暗な草原を歩くヴラドと咲夜

咲夜は心なしか少し機嫌が良かった

 

 

ヴラド「…」

 

 

ヴラド「…なぁ、咲夜…」

咲夜「ヴラド様」

 

 

ヴラド「…なんだ?」

 

 

咲夜「なんとなく…ヴラド様がわかりましたわ」

 

 

ヴラド「…え?」

 

 

咲夜「フラン様を救い、紅魔館を救い…一部の…紅魔館の敵まで救おうとしたヴラド様…男も女も関係なく…見返りも求めない…」

 

ヴラド「…俺が…

 

咲夜「俺がそうしたいからだ、ですよね?」

 

 

ヴラド「…」

 

 

咲夜はいたずらな笑顔になる

 

咲夜「…ヴラド様に出逢うまではそういうの…失礼ながらただの偽善行為だと思ってました…」

 

咲夜「でもヴラド様のは…そういうのとは違う…そんな気がするんです」

 

 

ヴラド「…どうだろうな…」

 

 

 

ヴラドが咲夜から視線を外し呟く

 

 

ヴラド「!?」

 

 

能力を使ったのか、気がつくとヴラドの背に咲夜がまるで片想いをする少女の様にくっついていた

 

 

咲夜「…ヴラド様」

 

 

ヴラド「…なんだ?」

 

 

 

咲夜は呟くような小さな声で

 

 

咲夜「ヴラド様は…私たち紅魔館の者を娘…と仰ってくれました」

 

 

ヴラド「…ああ」

 

 

咲夜「…それは私も含まれているのでしょうか?」

 

 

ヴラド「…当然だ」

 

 

咲夜「…ヴラド様は紅魔館の父…それは……私にとっても父であると…そう思ってもよろしいのでしょうか?」

 

 

少し震えた声で問う咲夜

その顔は見れない

 

 

 

ヴラド「…そう、思ってもらえると俺は嬉しいな…」

 

 

咲夜「…ありがとう…ございます」

 

 

 

咲夜「…お父様」

 

 

ヴラド「!?」

 

 

また気がつくと咲夜が前を歩いていた

 

 

咲夜「さ…早く帰りましょう…お父様」

 

 

咲夜はヴラドに振り向くことなく歩く

後ろから見えるその耳は真っ赤である

 

 

ヴラドはその言葉にふ、と笑い、咲夜に声をかけようとした時

 

 

 

 

ヴラド「!?」

 

 

突然膝から地面に崩れるヴラド

 

 

咲夜「!?」

 

 

勢いよく振り返る咲夜

 

 

咲夜「おと…ヴラド様!?どうしました!?」

 

 

ヴラド「ぐ、ぅ、うぁぁあああ!!」

 

 

ヴラドは頭を抱え地面に包まる

 

 

ヴラド(頭が…な、なんだこれは!?)

 

 

頭痛と目眩が同時に来るような感覚、そして頭の中に勢いよく流れ込んで来る景色、敵国の兵を殺害する景色、民衆が声を上げ、ヴラドを祝福する景色、夕焼けの光の先に見える丘、その丘の上にある首吊り台

 

 

ヴラド「うがぁぁあああああ!!」

 

 

咲夜「ヴラド様!!」

 

 

咲夜が倒れているヴラドに手を触れる

 

 

ヴラド「…はっ……はぁ…はぁ…」

 

 

激しかった頭への違和感は過ぎ去ったのか、大分楽になる

 

 

ヴラド「…さ、咲夜…?」

 

 

咲夜「大丈夫ですか…!?…一体何が…」

 

泣きそうな顔でヴラドを心配する咲夜

 

 

 

ヴラド「…はぁ…はぁ…もう、大丈夫だ…」

 

 

顔中汗だくになったヴラドはその場に座り込む

 

 

ヴラド「…心配かけたな…早く帰ろう…手を、貸してくれないか?」

 

 

咲夜「は、はい」

 

 

咲夜は立ち上がるヴラドに手を貸す

 

 

咲夜「本当に大丈夫ですか?」

 

 

ヴラド「ああ…俺にもよくわからないが…おかしな幻覚を見てたようだ…」

 

 

 

咲夜は辺りを見回す

 

 

咲夜(…妖怪の気配は…無さそう…)

 

 

 

ヴラドは深呼吸をし、右手の掌を開いたり閉じたりする

 

 

ヴラド「…ふぅ……もう大丈夫、行こう」

 

 

咲夜「…はい」

 

 

咲夜とヴラドはあと少しでたどり着く紅魔館を目指し歩き始める

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

美鈴「あ、咲夜さん、ヴラド様、おかえりなさい」

 

 

紅魔館の門前には美鈴が和かに2人を迎える

 

 

ヴラド「ああ、ただいま美鈴」

 

 

咲夜「…」

 

 

咲夜の顔は少し暗い

 

 

美鈴「…?…そういえばついさっき、魔理沙さんが来てましたよ?」

 

 

咲夜「…魔理沙?」

 

 

美鈴「はい、お嬢様とお話したいから入れてくれって来て…まだいるのかな?」

 

 

咲夜「…そう」

 

 

美鈴は咲夜の態度に首をかしげる

 

 

美鈴「あ…えーと…『なんで勝手に入れたのよ』とか…言わないんですね?」

 

 

咲夜「…そろそろ来ると思ってたからね」

 

 

ヴラド「…」

 

 

美鈴「と、とりあえず門、開きますね!」

 

 

門が開き咲夜とヴラドは敷地内へ入る

 

 

 

ヴラド「…咲夜」

 

咲夜「はい」

 

 

門を抜け、玄関の方へ歩くヴラドと咲夜

 

 

ヴラド「…さっきのこと…レミリアには黙っていてくれ」

 

 

咲夜の脳裏に蘇るはヴラドが地面に伏せていたこと

 

 

咲夜「…しかし…」

 

 

ヴラド「昨日の今日でレミリアには心配かけたくはない…どうか父の願いを聞いてくれ」

 

咲夜「…かしこまりました」

 

 

ヴラド「ありがとう…俺は…今日は早めに寝かせてもらうよ」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

紅魔館、大広間

 

長テーブルを囲うようにレミリア、魔理沙、パチュリーが座り、その後ろにこあが立っていた

 

 

白黒の魔法使い少女、霧雨魔理沙

 

しかし表情に元気が無く、目の下に隈を作って少し疲れ気味な様子

 

 

魔理沙「邪魔したな、もう私は行くぜ…」

 

 

少しふらつきながら席を立つ魔理沙

 

 

パチュリー「ちょっと…本当に大丈夫なの?」

 

 

魔理沙「ああ…昨日から寝ないでずっと飛びっぱなしだったからな…」

 

 

壁に立ち掛けてある箒の方へトボトボと向かう魔理沙

 

 

魔理沙「おっとっとと!」

 

 

こあ「っ!」

 

 

バランスを崩し前に倒れそうになるがこあがタイミングよく支える

 

 

レミリア「…」

 

魔理沙「…悪い…」

 

 

レミリア「…魔理沙、少し此処で休んでいったら?」

 

 

魔理沙「…」

 

 

魔理沙はこあに支えられながらぐっと目を強く瞑る

 

 

魔理沙「…いや…そんな時間は…」

 

レミリア「もし、誰かと…何かと闘うのなら万全の状態で挑みなさい…魔理沙」

 

 

レミリアの言葉に目を開け顔を上げる魔理沙

 

 

 

レミリア「…やられる魔理沙なんて見たくないわ」

 

 

 

 

魔理沙「…」

 

 

レミリア「…こあ」

 

 

こあ「は、はい!お嬢様」

 

 

レミリア「空いている客間があるの、30分でも1時間でも良いからその部屋で休みなさい」

 

 

魔理沙「…」

 

 

パチュリーは1つため息を吐き

 

 

パチュリー「…魔理沙、少しでも良いから休みなさい…今の貴女、ひどい顔よ」

 

 

 

魔理沙「…悪い…じゃあ、1時間だけ休ませてくれ…」

 

 

こあと魔理沙は大広間を出て行く

 

 

 

 

2人は出て行き扉が閉まる

 

 

 

レミリア「…仕方ないわ、相棒が行方不明だからね」

 

 

 

パチュリー「一昨日までは元気だったのにね」

 

 

パチュリー「…レミィ」

 

 

レミリア「ん?なに?」

 

 

パチュリー「今日八雲の所へ行ったそうだけど…どうだったの?」

 

 

レミリア「…ええ…そうね、まず昨日の騒動、犯人は化け猫…橙ではないわ」

 

 

パチュリー「…そう」

 

 

レミリア「それとお父様の様に、幻想郷各地で外来人が目撃されてるらしいわ」

 

 

パチュリー「各地で?」

 

 

レミリア「ええ、桃色亡霊が八雲紫に問い詰めたの」

 

 

パチュリー(…ああ、くいしん亡霊…)

 

 

レミリア「…何かしら問題事が起きた…でも八雲紫はそれを話さなかった、だから桃色亡霊が八雲紫に問い詰めた、って感じね」

 

 

パチュリー「…問題事?」

 

 

レミリア「ええ」

 

 

 

レミリアは席を立ちパチュリーの席の後ろに回り彼女の肩に手を乗せる

 

 

 

 

レミリア「幻想郷での問題事…」

 

 

パチュリー「…異変ってわけね」

 

 

パチュリー「貴女のお父様も異変の原因の1つなのかしら?」

 

 

レミリア「…」

 

 

レミリア「…違うわよ、きっと」

 

 

パチュリーの肩から手を離し、胸元のリボンを直す

 

 

レミリア「でも異変は異変…明日にでも紅魔館からは異変解決のため、咲夜を出そうと思ってるわ」

 

 

パチュリー「…そう」

 

 

 

1つ間があって

 

 

 

パチュリー「…レミィ」

 

 

レミリア「…何?」

 

 

パチュリーは読んでいた本を閉じる

 

 

パチュリー「…貴女、私に嘘をつくの?」

 

 

 

レミリア「嘘って?」

 

 

レミリアはティーカップを奥に手前にと傾ける

 

 

 

パチュリー「…今回の異変、十中八九貴女のお父様も関係あるわよ、きっと」

 

 

 

パチュリーの言葉にレミリアは1つ息を吐き

 

 

 

レミリア「…そうだとしても、私はお父様を敵に回す気は無いわ」

 

 

パチュリー「…八雲紫と何を話したのよ」

 

 

レミリア「だから言ったでしょう?幻想郷に外来人が多くいる、それだけよ」

 

 

パチュリー「…」

 

 

レミリアのその言葉を最後に沈黙が2人の間を流れる

 

 

パチュリー「…私は図書館に戻るわ…貴女も生活時間を彼に合わせたのなら早く寝たほうが良いわよ」

 

 

レミリア「…ええ」

 

 

パチュリーは席を立ち、扉の方へ歩く

パチュリーはレミリアの方を向かないまま

 

 

パチュリー「…何かできることがあったら言いなさいよ…私達、親友でしょ?」

 

 

レミリア「…」

 

 

レミリアはパチュリーの後ろ姿を見ながら小声で呟く

 

 

レミリア「…ごめんね、パチェ」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

その日の日付が変わる頃の紅魔館

 

大広間にてレミリアは窓際の椅子に座って外の景色を眺めていた

 

 

 

咲夜「お嬢様」

 

 

レミリアの後ろに突然現れる咲夜

レミリアは後ろを振り返らずに

 

 

 

レミリア「おかえりなさい咲夜…もう済んだの?」

 

 

 

咲夜「はい、ヴラド様が」

 

 

レミリアはふ、と笑って

 

 

レミリア「お父様は?」

 

 

 

咲夜「ご自分のお部屋に戻られています」

 

 

レミリア「そぅ」

 

 

咲夜「…」

 

 

窓に映った咲夜の顔を見てレミリアは眼を閉じる

 

 

 

レミリア「咲夜…お父様のいる生活はどう?」

 

 

咲夜は真っ直ぐな眼でレミリアに向けて言う

 

 

咲夜「とても幸せです」

 

 

レミリアは後ろを振り返りニコッと無邪気に笑って

 

 

レミリア「私もよ!」

 

 

再度窓の外を見ながら少し切ない表情で

 

 

 

レミリア「…絶対…この幸せを手放すものですか…」

 

 

レミリア「…誰を敵に回しても…」

 

 

 

咲夜「…」

 

 

レミリア「咲夜…明日から色々動いてもらうわよ」

 

 

咲夜「はい…承知してます」

 

 

 

レミリア「…今年の花火大会は…みんなで行きたいわね…」

 

 

咲夜「…私も…そう願います」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

同時刻、人里近くの小さな洞穴に瑠歌香は居た

 

 

テーブル代わりにちょうどいい岩の上に20〜30個ほどの大きさが違うビー玉のようなものを布の上に広げていた

 

ほとんどの球は青白く淡い光を放っている中、いくつかは光が宿っていない、透明な球もあった

 

 

香のすぐ近くには数ある球の中でもふた回り程度大きい球を4つがあった

 

1つは透明な球で3つは青白く光っている

 

 

 

香「ありゃー…1人切れちゃったのかな…大事な戦力なのに…」

 

 

透明になった球を指で摘み、月光に照らしながらじっと球を見る

 

 

 

香「…えーと…ああ……"皇帝様"ね…」

 

 

 

香は広げた球を黒い布袋に全て入れる

 

 

香「…でもメインは3人いれば十分かな」

 

 

 

香は岩に背を預け球を入れた袋を大事そうに胸元に抱きかかえ目を瞑る

 

 

 

香「そろそろみんな起きるかな…」

 

 

 

そう呟き香の意識は遠くなる

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

八雲邸

 

山に囲まれた大きな家、こちらも命蓮寺と同じような和風の作りの家である

 

 

その家の居間に妖怪の賢者、八雲紫とその式、八雲藍がちゃぶ台を囲んでいる

 

 

 

紫「あー…もう、結局色々バレちゃったわねぇ」

 

 

やれやれ顔でちゃぶ台に肘を乗せ頬杖をつく紫

 

 

 

藍「…まさか幽々子様があの場にいらっしゃるとは思いませんでした…」

 

 

紫にお茶を出す藍

 

 

紫「…昔っから勘が鋭かったのよねぇ、幽々子…だから呼ばなかったのに…」

 

 

ずるりと頬杖から直接ちゃぶ台に頭を乗せ、項垂れる紫

 

 

紫「…まぁ、事の真相まではバレやしなかったけど…香もどっか居なくなっちゃうし…」

 

 

藍「今私の全ての式を使って捜索してはいますが…」

 

 

紫「…しかも思った以上に所々に出現してるみたいね、彼等」

 

 

藍「…瑠歌香の目的はなんなんでしょう…」

 

 

 

紫「…私にはさっぱりね…あーあ…また閻魔に怒られちゃうわ…」

 

 

藍「…お力になれず申し訳ありません」

 

 

藍は紫に頭を下げる

 

 

紫「…良いのよそんな事気にしないで…貴女はちゃんと仕事した訳だし、今の状況は香が勝手にした事だしね」

 

 

藍「…ですが…」

 

 

紫は頭を下げる藍の頭に手を乗せ撫でる

 

 

紫「それより今は早く香を探しましょう?あの子が何をしようとしてるのかを聞きださないと」

 

 

藍「…はい」

 

 

紫「…」

 

 

 

 

さて、どうしようか…そんな事を考えながら我が式の頭を撫でる妖怪の賢者だった

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ヴラドが頭痛を起こした同時刻

魔法の森近くの草原には西洋の甲冑を着こんだ者たちが集っていた

 

その数は10人や20人はくだらなく、100人近くいる

 

 

「…遂にこの時が来たぞ」

 

「ああ…ようやく時が来た」

 

彼等は黒マントに白銀の甲冑と、ヴラドと同じような格好をしていたが、全員兜で顔をは見えなかった

 

 

「…王のもとへ」

 

「王のもとへ!」

 

「「王のもとへ」」

 

 

 

 

騎士たちは歩き出す

 

 

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