8月26日
〜人里の外れ、平原〜
人里より1キロ程離れた平原に魔理沙と香は対峙していた
魔理沙は箒とミニ八卦炉を構え、香は呑気に手足を伸ばしてストレッチをしている
香「マリサ!」
魔理沙「…なんだ?」
香「ウチに勝てたらマリサの知りたい事全て話してあげるよ」
魔理沙「!?」
香の余裕のある言葉にカチンとくる魔理沙
魔理沙「…悪いが…」
箒に飛び乗る魔理沙
魔理沙「弾幕ごっこなら負ける気がしないぜ!」
香に向かって箒に跨り飛ぶ上がる魔理沙
魔理沙「先手必…!」
香『想起、テリブルスーヴニール』
魔理沙「!?」
魔理沙がスペルを唱える前に香の方が一瞬早くスペルを唱える
香の身体から白く長い光が放射線状に伸び、魔理沙の身体を突き抜ける
魔理沙(…痛くない…というかこのスペルは…)
地底から源泉と怨霊が湧いて来た異変、地底異変の時に古明地さとりと退治した際に受けたスペルだと思い出す魔理沙
魔理沙(…たしか…トラウマ弾幕を呼び覚ますスペルだっけか…)
飛び回りながら思考を巡らせる魔理沙
魔理沙(…だとすると最近受けたヘカーティアのか…いや、寅丸のも結構…くそ…考えるな!来たものにすぐ対応だ)
香「…マリサ、なんか勘違いしてない?」
魔理沙「!?」
魔理沙は空から見下ろす、香はまだ地面に立っている
香「弾幕ごっこやるなんて一言も言ってないよ」
ニコッと笑う香
その笑顔を見て背筋を凍らせる魔理沙
魔理沙「…!」
香『想起、ホィシャートゥ』
魔理沙「!?」
香が次のスペルを唱えると香と魔理沙の周りの空間が歪む
香「…スペル2枚で終わらせてあげるね、マリサ」
魔理沙「…な!?」
魔理沙は両腕をだらんと垂らし、目が虚のまま、地面に降りる
そして意識が眠るように途切れる
ーーーーーーーー
真っ暗な世界、魔理沙はどこか深い深い谷底へと落ちるような感覚に陥った
『ほう……今のお前の背中の扉は、もっとも生命力が失われる季節の境目、土用か……』
(ああ…声が聞こえる…確か季節異変の時の…)
『君の過去も未来も見えます。君は私を倒してこの霊廟を調べる事になるでしょう』
(…調べたところで私の知りたいことは見つけられないだろうな…)
『もう魔法を使っても大丈夫な世界になったのね?私は人間であった頃に不思議な力を使った事で、人から忌み嫌われ、挙げ句の果てに封印されてしまった』
(…お前も色々あったんだよな…いつも笑顔なのに…本当に尊敬するよ、大先輩)
『私が地上にいるのも天罰なの。そうだ、こんな私を連れ出そうとする人にはいつも難題を与えてきたわ』
(私にとっての罰はなんだろう…)
どんどん過去の記憶が蘇り、頭の中を駆け巡る
(…そういえばどの異変も霊夢と一緒に解決してたっけ…)
(…霊夢…なんで…)
姿は見えなくても霊夢の存在を強く感じる
どんどん過去へ意識が遠退いていく
ーーーーーーーー
–––––まただ
ここ数年夏になるとほぼ毎日見る夢
とてもとても嫌な夢
暑い暑い夏の夕刻
私の部屋に上がって来たお父さんとお母さん
私はふと気がつくと部屋の隅に立っていた
目の前には2つの大人の影に隠れる小さな少女が泣きそうな顔をして座っていた
魔理沙「…小さい頃の私…お父さんがいて、お母さんがいて…何不自由なく過ごしてたただのお嬢様だった」
「麻理沙、お前ももう7つなんだ、魔法使いごっこはやめなさい」
黒い影が小さな私に強めの口調で語りかける
「ごっこじゃないよ、お父さん、私は」
魔理沙「…魔法使いになりたいの…」
小さな私の言葉に被せるように呟く
《マリサの過去の事は知らなかったけど…異変の事は霊夢から色々聞いてたよ》
…!?
…香の…声?
頭に直接入り込んでくる
魔理沙「…どこにいる!」
《マリサの目の前にいるよー》
魔理沙「…くそ…」
私は狭い部屋の中を見回す
喋り声は聞こえないが小さな私とお父さんが言い合いをしている
《このスペルを使うと使われた人の意識にウチも入り込むから現実では何も出来ないんだよねー、大変〜》
あの妖怪バクみたいな能力か…!
魔理沙「勝手に私の中に入ってくんなよ」
《…この景色は霊夢から聞いてなかった、この人は誰?》
魔理沙「…誰だっていいだろ!早く元に戻せ!」
《…お父さん…かな?…横にいるのがお母さんかな〜マリサにそっくり》
魔理沙「…」
私はお母さんに視線を向ける
でも何も見えなかった…いや、正確にはお母さんらしき人の顔…表情がボヤけててどんな顔なのかわからない
(なんで見えないんだ…)
《…マリサの記憶…もやみたいなのがかかってる》
魔理沙「…何を…」
《きっと思い出したくない、消したい過去があるんだね》
《もっとよく見せて》
頭が痛い…
《もっと…もっと》
どんどん頭痛がひどくなってくる
まるで頭を無理やり両手でこじ開けられているかのような
魔理沙「やめろ!」
「どうしてお母さんは泣いてるの?」
小さな私の言葉を聞き、再度お母さんの方へ視線を向ける
するとそこは夕焼け色の私の部屋ではなく
魔理沙「!?」
魔理沙「やめろ!もう見るな!私に見せるな!」
私は強く目を瞑る、でもその景色は消えない
《…これがマリサの…》
やめろ!
声が裏返り過ぎて私の声が聞こえない
お母さんの写真、花束、白黒の旗
私の今見えてる世界は白黒だ
まるで古い映画を観てるような
やめろ!
やめろ!
やめろ!
お願い…もう、やめて…
私は得体の知れない何かに押しつぶされそうになる感覚に陥る
あ、家の玄関の鍵閉めなかったな…
真っ黒なぬいぐるみが笑ってる
虹色の空にクリームで行ったm.t砂の空き瓶入れと埃乾燥剤や204g@#エゲツない電球のシーツ野菜、)))01610時半から綴った紫色から呼んでいるかな?
00000000000000000
000000000000
0000
000000000#0000000000
–––––魔理沙…
なんだ?
景色が変わった…
…何処だ…ここ…
薄暗い…
遺跡の…内部?
なんかの本で見たような祭壇のある遺跡…
誰か…いる…
祭壇の前に…誰か…
…香?
…香の後ろ姿だ…何かを祈ってるのか…
…なん…で…
『魔理沙っ!!』
ーーーーーーーー
魔理沙「!?」
空はもう夕刻過ぎで辺りは暗くなってきている
気がつくと私は香と対峙していた草原にうつ伏せていた
頭がぼーっとする
魔理沙「…う、ああ…」
体の節々が、ヒビの入ったレンガのように硬く、痛い
自分の身体を無理やり起こすと目の前には背中に羽根を生やした見知った天狗が私に背を向け、香の方を見ながら構えていた
右手には紅葉の形をした扇を持っている
射命丸文だった
文「魔理沙さん!大丈夫ですか!?」
文は香から視線を外さず私に問いかける
魔理沙「…何がどうなってんだ…私は今まで何を…」
文「…精神干渉です。あともう少ししてたら貴女の頭の中はめちゃくちゃになってましたよ」
香「あーあ…邪魔が入っちゃったねぇ、お姉さん、誰?」
香は頭の後ろで手を組み、めんどくさそうに文に問いかける
文「…可愛い妹を助けにきた心優しいお姉さんですよ…」
文は香をきっと睨み
文「…幻想郷の決闘方法は2つ、1つは自身の霊力、妖力、魔力を使ったスペルカードルールによる弾幕ごっこ、そしてもう1つはお互い承諾し合い、立会人がいる中で行うバトル…しかし貴女はどちらもやろうとしなかった」
香「あー…ウチまだ幻想郷に来たばかりだからね〜…」
文「…幻想郷に来る前に誰かに教えられなかったの?」
香はへらへらと笑いながら
香「あーそーだった、そーだった…そんなこと言われたっけな…ウチ忘れっぽいから」
文「…ふざけた娘…」
魔理沙「…はぁ…う…はぁ…」
私はなんとか立ち上がり、息を整えミニ八卦炉を取り出す
文「魔理沙さん、無理をしないでください。私が彼女の相手をするのでその間に…」
魔理沙「文…いや、まだこいつには聞きたいことが山ほどあるんだ…逃げるわけにはいかないぜ…バトルだってやってやる!」
文「…」
文は無言で香の方を見ている
香「…ふふ」
文「…何がおかしいんです?」
香は楽しそうに文へ返答する
香「んーん…じゃあ、そのルールを守れば戦っていいわけだね?」
魔理沙「…」
香はそう呟き右手に3枚の光るカードが現れる
文「…!?」
魔理沙「…3枚…だと?」
香「まずはスペルカード…」
香がスペルカードを文と魔理沙に向けると、文が何かに気づき空を見上げる
文「…空が…」
魔理沙「…雲?」
文につられ同じく私も空を見上げる
香のいる場所の上空に黒雲のような霧が発生していた
香『激情、闘志の鬼軍』
魔理沙「!?」
香『恐符、薔薇の軍勢』
文「…1度に2枚もスペルを唱えるなんて!」
香『 聖符、最後の大隊』
香が3枚のスペルを唱えるとカードは怪しく輝き、青い炎を纏いながら消え去った
魔理沙「なっ!」
香のカードが消えた瞬間、地上から夜空へ、3本の紫色の光の柱が伸びるのが見えた
一本は紅魔館のある方角から、一本は命蓮寺のある方角から、一本は後ろの人里から天に向かって光の柱が一瞬立った
文「…何を…したの?」
香は怪しく笑い
香「…本来はウチのスペルじゃないし…3人ともまだ目覚めてないから全快の威力じゃないけど」
魔理沙「…何を言って…」
香「幻想郷を攻めるなら3枚で十分!」
文「!?」
文は命蓮寺のある方角にある森から視線を感じた
文「魔理沙!伏せて!」
タタタタ
パンッパンッ
魔理沙「!」
文が私に向かって叫ぶと同時に何発かの破裂音がし、文の身体を小さな光の粒が数発貫通する
文「あがぁっ!」
一瞬誰の声かわからなかった
いつも明るい声で調子よくハキハキと喋る文がまるでブリキの缶がひしゃげた時のような金切り声で叫んだ
魔理沙「文!」
香「あーらら…ダメだよ、殺したら…」
香はめんどくさそうに誰かに呟く
私は倒れる文に駆け寄る
魔理沙「文!しっかりしろ!」
倒れる文を抱きかかえると熱い液体が私の両手の、両指に絡みついてくるのがわかった
魔理沙「…あ…あ…」
薄暗くなった平原でもわかる、文の血だ
血液が文の身体の至る所から流れ出てくるのがわかる
魔理沙「…ど、どうすれば…」
文「は…はっ…魔理沙…さん…大丈夫ですよ……」
文は荒く短い息を吐きながら小声で喋る
文「はや…逃げてください…」
魔理沙「だ、ダメだ!お前を置いて行けないって!」
文はちらりと視線が向けられた森の方を見る
香「…そう、そうそう、脚ね、脚ならいいよー」
香も森の方を向きボソボソと誰かに指示するように呟く
魔理沙「わっ」
文は怪我した身体で私を抱きしめ空へ飛び立つ
ーーーーーーーー
––––お母さん
ーーーーーーーー
一瞬私の頭の中に香の声で一言聞こえてきた
魔理沙「…っ!?」
香「!?」
文が私と共に飛び上がった瞬間、再度破裂音がして私と文がいた場所に火花がバシッバシッと上がった
魔理沙「…なんなんだよ…あの森に何がいるんだ!?」
文「…さぁ…とにかく…ここを離れないと…」
魔理沙「離せ!自分で飛べる!」
文は強く抱きしめる
文「ダメです…はぁ…はぁ…貴女じゃ遅い!」
文「…くっ」
文の真っ黒な自慢の羽根、そこにも小さな穴が開いており血が流れていた
香「もう逃げるの!?」
今度は人里を囲う塀の陰から何本もの矢が飛んでくる
その矢を避けようとバランスを崩し、魔理沙を抱えた文は地面に急降下する
魔理沙「うっうわぁっ!」
墜落する寸前、タイミングよく地面直前で低空飛行に姿勢を変える文
文(撃たれた!…マズイわね…弓矢に…猟銃かしら…にしても人数が多すぎる…)
魔理沙を抱きかかえたまま低空飛行で最初に撃たれた森の方をちらりと見る
文(…1人や2人じゃない…それに…)
次いで、矢が飛んできた人里の方を見る
文(あっちからの矢…どう考えても数人程度からの攻撃でもない…)
文(…幸い、妖怪の私なら休めば一日…いや、十数時間あればこの程度の傷は癒える…でも魔理沙さんには例え一撃でも致命傷になる…)
文「ここから逃げますよ…魔理沙さん…!」
魔理沙「あ、ああ…」
傷だらけの文を見た私はたじろぐ
それもそうだ、今までの弾幕ごっこで解決してきた異変では誰かが血を流す、なんて事は一度として起きてはいない
そりゃあ攻撃を受けて怪我をしたって奴らは何人もいたが、これは…
魔理沙「…酷いな…」
文「ええ…私も銃…はぁ…で、撃たれたのは初めてです」
文は私の一言に痛々しい笑顔で返す
魔理沙「…じゅう…?」
文(……くっ…上手くバランスが取れない)
香「逃がさないよっ」
文&魔理沙「!?」
突然香が私を抱きかかえる文の前に飛んできた
香「…お姉さん疾いね、でもその怪我じゃ速度半減…ウチの方が少し早いかも!」
香が突然文の目の前に降り立ったお陰で急な進路変更をした文は地面に腹から墜落する
ーーーーーーーー
–––どうして、お母さん
ーーーーーーーー
またノイズと一緒に香の声が頭に入ってくる
文「…はっ…はぁ、はぁ…」
文は私に覆いかぶさるようにうつ伏せになる、もう動くのも辛そうだ
私は文の下から這いずりながら抜ける
魔理沙「…こんなの、ルール違反だろうが!」
香「ルール?…勝てれば良いじゃん」
魔理沙「…なにを…うわぁっ!」
その瞬間私の後頭部を誰かが手で掴みそのまま地面へと押し付けられる
魔理沙「!?」
「…このガキどもが…うろちょろしやがって…」
聞いたことのない男の声
私は頭を押し付けられたままだが僅かに顔を横に向ける
私を押さえつけていたのは今まで見たことのない男だった
黒色のスーツのようなものを着て、頭にはスーツと同じ色の見たことのない帽子を被り、丸い眼鏡を掛けた中年の白人男性がそこにいた
男「ん?…なんだ?お前アメリカ人か?」
男は私の顔を見てぼそりと呟く
香「アメリカ人でもフランス人でもないよ」
魔理沙「…香!」
香は押さえつけられてる私の目の前に余裕の表情で立っている
香「…少しだけ、話してあげるよ」
魔理沙「…」
倒れてる文を見る
息が荒い…
魔理沙「…ウチに勝てたら全部話す、じゃなかったのか?」
香「…あー…いや、うん…でも負けたら話さないなんて言わなかったし…」
魔理沙「…そうかよ…」
香が喋ろうとしたその時だった
男「…殺さないのか?」
男は怪しく笑いながら香に問いかける
香「…!?…だめだめ、殺しは無しだよ!それはだめ〜」
香は両手を交差し、バッテンを作り男に答える
香「…あとでちゃんと大暴れさせてあげるから…まだ我慢しててね」
男「…で、このガキどもはどうするんだ?」
香は文と私を見てから腕を組み
香「うーん…そこのお姉さんはほっといていいよ、でも…」
香は私の目の前にしゃがみ顔を覗き込んできた
香「マリサは別…一緒に連れていくよ」
魔理沙「!?」
香「…だってまだマリサの記憶をちゃんと見てないし…沢山知りたいことあるから」
魔理沙「…ふざけんな…」
ザッザッ、と私の視界外から雑踏が聞こえてきた
その音は1人2人ではない、数十人分の足音だった
男「…来たか、このガキを連れていくぞ」
男は誰かに声をかける
「「「はっ!」」」
魔理沙(…くそ…まだ誰かいるのかよ…)
男が地面に押さえつけてる私の頭から手を離すとまたもや知らない男2人が私の両腕を掴み、ヒョイと持ち上げる
魔理沙「…うう…」
私の視界の高さが地面からいつも通りの高さのものへ戻ると、目だけで辺りを見回す
私の目の前、3〜5メートル先には香と私を押さえつけてた官帽子の男が話している
そして私の両腕をつかんでいる奴ら…
頭にヘルメットを被った…ん?作業着か?
2人ともヘルメットを被り、パリッとした作業着みたいなものを着てる
姿は見えないが私の後ろにあるいくつかの気配もこいつらの仲間だろう
男「…じゃあ、そのガキを連れていくぞ」
男2「はっ!…隊長殿、そこに倒れてる女はどうしますか?」
隊長と呼ばれた男は倒れてる文を一目見て
隊長「放っておけ…俺たちが手を下さなくても死ぬだろう」
香「…」
魔理沙「…くっ…文…!」
何もできない私を男達は連れて行こうとする
「…私一人で…上手くいくと思ったんですけどね…」
か細いく弱々しい声がした
私は思わず文の方を見る
魔理沙「文!」
血だらけの文は顔だけ私の方を向いて右手をもぞもぞと動かす
隊長「!?…この女!何か持ってるぞ!取り上げろ」
男が声を上げる
その声を聞き、私の後ろにいたヘルメットの男達が文に走り寄ろうとすると
文「…遅いわよ」
文がうつ伏せから仰向けに体の向きを変え空に向かって1発の弾幕のようなものを撃つ
その場にいるもの達が全員空へ視線が向く
その視線が空に向いた瞬間文は起き上がり私の方へ飛んできた
パァンッ
空へ向けられた弾幕が強い光を放つ
音と同時に文が私を捕まえていた男2人に向かってタックルをして私の腰を強く掴み空へ飛び上がった
文「魔理沙さん、大丈夫ですか!?」
魔理沙「あ、文…だ、大丈夫…」
香「…へぇ」
大尉「…ガキが!」
文の言葉に安心、興味、憤怒と三者三様の反応が起こる
文「とにかく…ここから逃げましょう」
霊夢の事が気がかりで、本当は香から色々話を聞こうと思ってた…
でも傷だらけの文を見て、わがままを言うほどバカではない
魔理沙「…わかった、でも空に飛んだらまたあいつらに狙われるんじゃ…」
文「…大丈夫ですよ、ほら」
あやが妖怪の山方面を顎で指す
魔理沙「…あ…」
隊長「お前らあのガキどもを狙え!」
男達「「「は!」」」
男達が猟銃の様なものをこちらに向ける
その瞬間強い風が吹いた
ガギィン!
ガッ!
金属と金属が当たる音、更に刃物が肉を切りつける音がする
そしてその音がする度に猟銃を持つ男達が倒れていく
魔理沙「…お前ら!」
風を切り男達を切り倒していたのは妖怪の山で出会った白狼天狗、犬走椛と、椛と同じ頭巾、天馬の印が刺繍された白装束に赤い袴と、一般的な哨戒天狗と同じ格好した金色の長く透き通った髪を持つ私と同世代に見える少女の2人だった
ボゥッ
何者かに斬りつけられ、倒れた男達は青白い炎を纏いながら消えていく
少女「文おねえちゃんっ!」
椛「遅れました!」
少女と椛が文に向かって叫ぶ
文「…上出来よ」
魔理沙「なっ…!?あいつら人間じゃないのかよ!」
抱きかかえられたまま空を飛んでいる私は、青い炎を噴き出しながら消えていく男達を見て文に問いかける
文「ええ、奴らは…」
「忘却の住人」
魔理沙&文「!?」
私と文が声に気づくと同じ目線の高さに浮いている香がいた
魔理沙「…忘却…?」
聞いたことない単語だった
文「…」
下では椛と少女が男達と交戦している
香「そう、あの子達は忘却の住人、死してなおその人の記憶は忘却の世界を永遠に漂う、ウチはその記憶を現世に生き返らせただけ」
魔理沙「何を言って…」
香「ああ、そうだよね、ちゃんと自己紹介してなかった…」
香は私と文にニコッと笑顔を向け
香「改めて、ウチは瑠歌香……反魂香だよ」
文「…やはり貴女が異変の原因ね…」
月を背に反魂香、瑠歌香は怪しく笑う
魔理沙「…はんごん…」
文「!?」
文は男達が出てきた森の方を見る
香「…どんどん増えていくよー…どうする?お姉さん」
文「…!!」
ーーーーーーーー
地上、草原
少女「くっ!」
椛「チェンチ!」
チェンチと呼ばれる少女は男からの攻撃に一瞬怯む
チェンチ「…大丈夫!…でも人数が多すぎる!」
攻撃を受けながらもなんとか持ちこたえるチェンチと椛
椛は上空の文達を一目見る
椛「文様…一体何を…ん!?」
気配を感じ、椛は男達が出てきた森とは違う、人里の方を見る
チェンチ「…新手!?」
『ボォォオオォォォ』
男達「「「うぉぉおおおー!!!」」」
法螺貝の音がすると、椛達が戦っていた軍服の集団とは違う、戦国武将の様な鎧甲冑を着込んだ男達が威勢良く走ってきた
その数はざっと100人ほど
椛「…な、なんだ…あいつら…」
軍服の男達に鎧武者達
この狭い幻想郷にこんなに人がいるものなのかと思う椛
椛「チェンチ!作戦変更だ!」
椛は腰の道具袋に手を入れる
ーーーーーーーー
上空、平原
魔理沙「…反魂香って…あの、人を生き返らすってやつか…」
香「そーそー、っていってもまだあんまり力を制御はできないけどねー」
魔理沙の問いに軽く返す香
文「彼女はまだ産まれたばかりの付喪神です…」
魔理沙「…」
私は香の顔をじっと見る
香「…?」
魔理沙「…お母さんって…なんのことだ?」
香「…!?」
文「?…何を…?」
魔理沙が問いかけると香は驚き目を大きく開く
香「…記憶が流れ込んだ…?」
魔理沙「…??」
香は一言呟くと口元を少し吊り上げる
パァンッ
瞬間、乾いた火薬の破裂音がし、魔理沙達と香の間を一瞬光の線が通り抜ける
魔理沙「…!?」
隊長「ガキどもが!逃がさんぞ!」
官帽子を被った男は拳銃を魔理沙達に向け叫ぶ
香「…もう…」
文「?!」
文「椛!」
魔理沙を抱きしめたままの文は椛を呼ぶ
椛「はいっ!」
椛は返事をすると同時に道具袋から二寸程度の花火玉の様なものを取り出す
文『風符、風神一扇』
文は魔理沙を抱えたままスペルカードを唱える
するとこの草原一帯にただの風にしては少し強めの、しかし特別違和感を感じることのない程度の強さの風がどこからともなく吹いてきた
武者「か、火薬玉だー!」
椛の手にする玉を見て鎧武者の男が叫ぶと周りの男達はどよめく
男達の動きに迷いが出た瞬間、椛は二寸玉を地面に叩きつける
ボフッ
玉を地面に叩きつけた瞬間、小さな火花が一瞬出て、大量の黒煙を吹き出した
隊長「ちっ!…煙幕か!」
文のスペルと椛の放った煙幕玉の相性はとてもよく、男達が立つ草原一帯を黒い煙は怪しく包み込む
椛「チェンチ!」
チェンチ「わかってる!」
真っ暗な煙の世界で男達の狼狽える声と少女達の声だけが響く
それは上空の文と魔理沙が香と対峙をしている空間にも影響を見せていた
香「…あーあ…話せなかったね、マリサ」
魔理沙「…香」
香は黒い煙の中、明るくおどける
文「…」
文は魔理沙を抱えたまま高速で逃げた
香「まさか煙幕とはね〜…こりゃ意外すぎてなんの反応も出来ないね!」
香「こんだけ煙がすごいと相手を見つけるなんて難しいね…この隙に逃げられたら追いかけようがないね、うん!」
香は大げさに声を張り、目を瞑り腕を組む
隊長「…くそっ!…くそぉっ!」
ーーーーーーーー
数分後、黒煙が晴れていくと軍服を着た兵士と鎧武者を着た男達が平原に何十人も立ち尽くしていた
香「あーらら…逃げられちゃったねぇ」
香は空からふわりと降りてくる
隊長「…面目無いです…」
隊長は香の顔を見れず目を伏せる
香「別にいーよ、時期は早かったけど、目的のスペルも唱えられたし…」
香は文達が逃げたであろう方角をじっと見る
香「でも殺しは無しだよ、なに?幻想郷でアウシュビッツでも作る気?」
隊長「いや…それは…」
香「君たちが外の世界で何をしてきたかは知ってるけど、それをここでしたらだめだよ?」
隊長「…承知した」
香「んじゃあ」
香はふわりと空に飛び上がる
香「後は手筈通りにね、わかるよね?」
隊長「は!」
隊長は香に向きなおり、右腕を肩から指先まで斜め上へ真っ直ぐに伸ばす
香「…よろしくね」
香は隊長を始め軍隊達と武者達に向けニコッと笑うと山の方へ飛んで行った
ーーーーーーーー
残された男達
隊長「手筈通りに進めるぞ!まず小隊…少人数を選出し、我らと兄弟にあたる公国兵どもと合流だ、それ以外は人や妖怪に見つからないように森や壕、廃墟などに隠れながら我らの城作り!」
隊長が武者達と軍服の真ん中に割って入りながら少し声を張り説明する
隊長「…人里の人間や害意のなさそうな妖怪を殺すことを禁ずる!もし見つかったり面倒ごとになりそうなら武装解除…縄で縛る程度にしておけ!」
軍隊達は敬礼し、武者達は何も言わず頭を縦に小さく振る
隊長「行動開始!」
隊長の言葉に一斉に森に向かって歩き出す男達
草原に1人残る隊長
隊長「…クソガキが…」
一言漏らし、隊長も森に向かう
ーーーーーーーー
紅魔館近くの森
文「…ふ…ぁぁぁあ…」
ドサリと魔理沙を抱えたままの文は木を背もたれにし、座り込む
文「…あっ……ぶなかったぁ…」
頭や体から血を流しながらも安堵の表情を見せる文
椛「…もっと早く知らせて欲しかったです、文様」
椛もチェンチをお姫様抱っこの状態で文の隣に降り立つ
文「…魔理沙さんを颯爽と救出して好感度アップ作戦、失敗でしたね、はは…」
疲れ気味に乾いた笑いを見せる文
そんな文の目の前に改めて座り込み、文の力無い手を両手で少し強めに握る魔理沙
文「お、およよ…魔理沙さん!?」
魔理沙「…ごめん…私のせいでこんな…」
魔理沙は下を向いたまま震え声で文に謝る
文「…」
文は木にもたれかかったまま魔理沙を見る
その眼差しは優しい目をしている
文「…これで…」
文が呟くと椛、チェンチは文の方を見る
文「…魔理沙さんの好感度……うなぎ…の…り…ですね…」
目を瞑ったまま途切れ途切れにそう言うと文は草の上に倒れる
魔理沙「文!」
椛が文に近づく
椛「…気を失っただけです…少し休めば大丈夫ですよ」
魔理沙「…ぁ…」
魔理沙は安堵する
チェンチ「あ、あのー…」
魔理沙の後ろにいたチェンチがそろりと右手を上げる
椛「どうした?チェンチ」
チェンチ「えーと…自己紹介を?」
チェンチは魔理沙を見てから椛に問いかける
魔理沙「…あ、そういえば…えーと…誰?」
魔理沙も椛に問いかける
ーーーーーーーー
金髪青目の少女の名前はチェンチと言う
記憶喪失で気がつけば妖怪の山の中で目が覚めたとのこと
ここ数日は椛と文、…そして天狗の長、天魔が天狗の里には内緒で面倒を見てるとのことだが…
椛「さっきの戦いぶりを天魔さまが見たら唸るでしょうね」
ため息混じりに答える椛
その椛の膝枕には文が静かに寝息を立てている
チェンチ「ホント!?」
笑顔で返すチェンチ
魔理沙「…」
チェンチ「でもおじいちゃんと手合わせすると疲れるからなー」
ぶつぶつと独り言をつぶやくチェンチ
椛「…」
チェンチは魔理沙に向き直る
チェンチ「…まぁまぁ、そんなわけでよろしくね!魔理沙ちゃん!」
魔理沙「ああ…よろしく、チェンチ」
挨拶をすると魔理沙は辺りを見回し
魔理沙「…ま、まぁなんだ…ありがとうな、椛、チェンチ…助けてくれて」
椛「…私は文様に呼ばれたから来ただけです、ついでに巻き添えになってた貴女を助けただけです」
ぷい、とそっぽを向く椛
チェンチ「椛おねえちゃん素直じゃないなぁ…文おねえちゃんが『魔理沙さんがマズイかも』って一言言っただけで魔理沙ちゃんのことすっごく心配しながらこっち向かってたのにー」
チェンチがケラケラと笑いながら言葉を追加する
魔理沙「…そうなのか?」
椛「チェンチ〜…」
椛はジト目でチェンチを見る
チェンチ「…私は何も言ってませーん」
椛「…魔理沙さん」
魔理沙「え?」
真剣な顔で魔理沙を見る椛
椛「残念ながら私達が今貴女に協力できるのはここまでです…チェンチだけならまだしも、貴女まで妖怪の山で匿うのは残念ながら難しいです…文様もこんなだし」
魔理沙「ああ…いや、ありがとう、本当に」
魔理沙は礼を言い、立ち上がる
椛「…どこへ?」
魔理沙「…博麗神社だ」
椛に背を向けたまま答える
魔理沙「…」
魔理沙「あ…箒…」
香と対峙した際に落としてしまったらしい
ーーーーーーーー
魔理沙が椛達から立ち去って数分後
「ああ…魔理沙さんの手、柔らかかったなぁ…」
椛「気持ち悪いこと言わないでください、文様」
椛の膝枕から起き上がった文は手首をさすりながら魔理沙に握られた手の感触を思い出す
椛「…傷、大丈夫そうですか?」
文「ええ、あと二、三時間もすれば出血は止まるわ…多分」
チェンチ「…」
チェンチは文の顔をじっと見る
文「…チェンチ?」
チェンチ「…なんで寝たふりなんてしてたの?」
文「…あそこで血を吐いて息を切らしながらおしゃべりする私を魔理沙さんが見たら彼女は私につきっきりになるわ」
椛「…」
文「そんなの嫌よ、異変が起きてるってのに私の事なんかで歩みを止めないで欲しいし…寝たふりしてれば気を使って魔理沙さんも此処から離れるでしょう」
チェンチ「ふーん」
文「もみこ、ナイスアドリブよ」
文は椛に右手のこぶしを向け、親指を縦に立てる
椛「…魔理沙さん、博麗神社に行くって言ってましたけど…何かあるんですか?」
椛の言葉に文は一度考える
文「…さぁ…魔理沙さんの事だから此処から離れる理由を適当に言ったんじゃないかしら」
ーーーーーーーー
人里より南側の平原を1人フラつきながら歩く魔理沙
魔理沙「…はぁ…はぁ…」
久々に歩く、それとわりと長時間
魔理沙「…歩くって…疲れるんだな…」
目の下にクマを作った白黒少女は呟く
文達と別れはや1時間、魔理沙は今歩いてきた道を見る
しかし月明かりだけでは天狗達のいる森はもう肉眼でははっきり見えず、天を見れば鈴虫の鳴きごえだけが聞こえる少しばかり蒸し暑い夜空が広がる
魔理沙「…お?」
歩いてると一軒の家、もとい廃墟があった
魔理沙「…誰もいないと良いが…」
魔理沙は家に近づき、窓からそっと家の中を覗く
『…だから、お前で良かったよ…』
『…うん…』
魔理沙はばっと窓下に身を潜めた
中から聞こえてきたのは若い男女の小声だったのだ
魔理沙(…こりゃあ…此処に入る訳にはいかないな、うん、やめよう)
幻想郷の人間といっても魔理沙はまだ歳頃の少女、男女の小声で何かを察知した
魔理沙「…ふむ…」
魔理沙は家の周りを見回す
すると視線の先、家の壁に竹箒が立てかけてあった
魔理沙「…」
魔理沙は箒の置いてあるところへ近づく
そこには箒と小さな窯と積み上げられた木炭が置いてあった
魔理沙「…悪いが箒、借りるぜ…」
魔理沙が箒を手に取るとたまたま置いてあった桶に箒の先が当たる
ガランッ
ガランガラン…
『誰だ!?』
魔理沙「まずい!」
家の中から声が聞こえた瞬間、魔理沙は箒に跨ぎ、夜空へ飛び立つ
ーーーーーーーー
満天の星空を頭上に魔理沙は飛ぶ、目的地は…
魔理沙「あそこは…」
目の前に見慣れた屋敷が見えてきた
悪魔の館、紅魔館である
魔理沙「…」
魔理沙は無意識に紅魔館へ飛んでいった
ーーーーーーーー
紅魔館、門前
紅魔館の門番、美鈴は壁に背中を当て、夜空を眺めていた
美鈴「あー…綺麗な星空だなぁ…」
小さく欠伸しながらも一応仕事をしていた
美鈴「ん?…あれは…」
美鈴は空を飛んで紅魔館に向かってくる人影に気づく
ーーーーーーーー
美鈴「魔理沙…さん?」
魔理沙「よぉ、門番」
あら…随分疲れ切った顔して…
門前に降りてくる時にいつものスピードも無くふらふらと降りてきたし
…でもかける声はいつもと同じ様にしようかしら
美鈴「何か用ですか?」
笑顔笑顔、と
魔理沙「ん…レミリアと話したいんだが…入れてくれないか?」
美鈴「…へ?」
いつもなら強行突破のこの人が「入れてくれないか」?
美鈴「…あー…レミリアお嬢様…」
魔理沙「…いないのか?」
美鈴「いや、いますけど…」
あちゃー…でもここで入れて面倒ごとが…いや、無いわね、魔理沙さんの顔見るかぎり元気いっぱいって感じでは無いし…
美鈴「…良いですよ、でも面倒ごとはやめてくださいね」
魔理沙「ああ、ありがとう美鈴…ところで…それなんだ?」
魔理沙さんが私の二の腕のあたりを指差す
…あ、あー…
魔理沙「…裏生地か?」
裏生地って…
美鈴「…ああ…包帯代わりに使ってたんですよ」
魔理沙「包帯?美鈴が怪我したのか?珍しい」
…そんなに珍しいのかな…
美鈴「…ええ、今日の昼間にちょっと…」
魔理沙「…へぇ、妖怪相手にか?」
美鈴「…人間です、凄く強い方がいらっしゃって…」
魔理沙「ふぅん」
…あー…興味なさそう…
美鈴「ま、どうぞ」
–––––ガシャン
魔理沙さんを門の内側に招き、再度門を閉める
門の外から見る魔理沙さんの背中はなんというか…とても重いなにかを背負った風に見える
美鈴「…あんなに弱々しかったっけ…」
私は腕の布を見る
美鈴「…明日も会えるかなぁ…リーさん」
今私はどんな顔をしてるんだろう…
ーーーーーーーー
紅魔館、大広間
館に入れてもらい、大広間まで案内されると、長テーブルを囲うようにレミリア、私、パチュリーが座り、その後ろに小悪魔が立っているという不思議なメンツが揃った
魔理沙「突然悪かったな、レミリア」
レミリア「いいえ、構わないわよ…そろそろ来るだろうなって思ってたし」
レミリアは自身が座る椅子の肘掛けで頬杖をつく
魔理沙「…思ってた?…ああ、運命か」
レミリアは首を横に振り
レミリア「…運命なんかじゃないわ、私がそう思っただけ」
魔理沙「…そうか」
パチュリー「…で、こんな時間に突然どうしたの?だいぶ疲れてる様だけど」
本を読んでいたパチュリーは目線を本に向けたまま問いかけてくる
魔理沙「…紫…」
レミリア「!?」
なんの考えなしに呟いたわけじゃない
魔理沙「紫と何を話したか…教えてくれないか?レミリア」
レミリア「……」
レミリアは私の目をジッと見たまま何かを思案する
パチュリー「…」
パチュリーはそんなレミリアに視線を向けず本を読んでいる
魔理沙「レミリア!」
思わず私はテーブルに身を乗り出す
レミリアは私の態度に少し目を大きくし、驚く
レミリア「…はぁ…何を知りたいの?」
魔理沙「…全てだ」
レミリアからの返事をもらった私は席に着く
魔理沙「…いや、新聞に載ってい事を知りたい…」
レミリア「…アレが全てよ、あの天狗、正直に書いてくれたのね…たまにはちゃんと仕事するんじゃない」
魔理沙「…」
レミリアの言葉を聞き、一瞬傷だらけの文の姿が私の頭の中を過ぎる
魔理沙「…文をそんな風に言うな…」
呪うように小さく返す
レミリア「…」
パチュリー「…」
恐らく顔に出ていたのだろう、私ははっと我に帰る
魔理沙「…悪い…」
レミリア「…」
沈黙が流れる
小悪魔は顔が強張っている
魔理沙「…忘却…」
レミリア「…!」
レミリアは窓の外を見たまま動かない
魔理沙「忘却の住人…って知ってるか?」
レミリア「さあ、私にはさっぱりね」
レミリアは私の問いに即答し、紅茶を口に含む
魔理沙「反魂香は?」
レミリア「あら、東洋の御茶菓子かしら?」
魔理沙「…」
ダンッ
さっきまでの戦いや最近あまり眠れないための睡眠不足もあり、レミリアのはぐらかしについ苛立ってしまいテーブルを叩いてしまった
…でもこの沸騰したこの感情は止められない
魔理沙「邪魔したな、もう私は行くぜ…」
フラつきながらも私は席を立ち上がる
パチュリー「ちょっと…本当に大丈夫なの?」
まさかパチュリーが私の心配をするとはな…
魔理沙「ああ…昨日から寝ないでずっと飛びっぱなしだったからな…」
壁に立ち掛けてある盗んだ箒の方へ向かう
私の足取りは重い
魔理沙「おっとっとと!」
こあ「っ!」
バランスを崩し前に倒れそうになるが小悪魔がタイミングよく支えてくれた
レミリア「…」
レミリアは私をジッと見る
魔理沙「…悪い…」
…早く出てけってことかよ
レミリア「…魔理沙、少し此処で休んでいったら?」
魔理沙「…」
は?
なんだよ…さっきまであんな態度取ってたのに…
私は小悪魔に支えられながらぐっと目を強く瞑る
いろんな考えが流れる
霊夢の事、香の事、文の事…夢の事
魔理沙「…いや…そんな時間は…」
レミリア「もし、誰かと…何かと闘うのなら万全の状態で挑みなさい…魔理沙」
レミリアの言葉に私は目を開け顔を上げる
レミリア「…やられる魔理沙なんて見たくないわ」
魔理沙「…」
そう言ったレミリアの顔はさっきまでの私を茶化すような表情ではなく、真剣そのものだった
レミリア「…こあ」
こあ「は、はい!お嬢様」
レミリア「空いている客間があるの、30分でも1時間でも良いからその部屋で休みなさい」
魔理沙「…」
パチュリーは1つため息を吐き
パチュリー「…魔理沙、少しでも良いから休みなさい…今の貴女、ひどい顔よ」
魔理沙「…悪い…じゃあ、1時間だけ休ませてくれ…」
––––––––私は大広間を後にした
ーーーーーーーー
紅魔館の客間
大広間と同じくシックな白と茶色の壁、真っ赤な絨毯、大広間ほどではないがなかなかの大きさのシャンデリア
魔理沙の家の寝室の数倍は広い客間のベッドで魔理沙は寝転がっていた
シャワーを借りたため服装は客人用の白い薄手の長袖長ズボンのパジャマを着ている
魔理沙「部屋番号2022号室…どんだけ広いんだよ…紅魔館は…」
魔理沙はベッドで仰向けになり天井を見つめる
魔理沙(…霊夢の母ちゃん…か…それと香…反魂香って…なんなんだよ…)
魔理沙は仰向けから窓のある方に寝たまま身体を向ける
魔理沙(…それにレミリアの奴…)
咲夜「『しらんぷりしやがって』」
魔理沙「!!?」
ビクンと身体が跳ね上がる魔理沙
振り向くと部屋の出入り口、扉の前に咲夜が立っていた
魔理沙「脅か…っていうか勝手に…!っていうかなんで考えてる事分かっ……」
魔理沙「…ばかっ!」
突然の来室者に魔理沙はベッドの上に座り込みシーツをくしゃくしゃに握りながら顔を真っ赤にして怒鳴る
咲夜「ふふ…相変わらずいい反応ね、脅かしがいがあるわ」
魔理沙「…相変わらず悪趣味な能力だな…驚きがいがあるぜ」
笑う咲夜に睨む魔理沙
咲夜「…一応ノックはしたんだけどね」
魔理沙「『心の中の』…だろ…なんだよ、詩人かよ…」
咲夜「本当よ、でも返事がなかったから寝てるのかと思ってね」
魔理沙「…寝てたら部屋に入らなくていいだろ…」
咲夜「珍しいから寝顔を…」
魔理沙「見せねぇよ!」
咲夜「…」
魔理沙「…」
咲夜は魔理沙をじって見て、魔理沙はふてくされたようにそっぽを向く
咲夜「…お嬢様からいろいろ聞いたわ、貴女が来た理由もだいたいわかる」
魔理沙「…レミリアの奴、何も教えてくれなかった…」
咲夜「こあとパチュリー様がいたからよ、お嬢様なりに2人に気を使ってたのよ」
魔理沙「…あっそ」
咲夜「…座っても?」
咲夜は魔理沙の座るベッドを見る
魔理沙「…高いぜ?」
咲夜「…ありがとう」
ベッドに腰掛ける咲夜
短い無音の時間が過ぎる
咲夜「…実は今日…プリティー連合の会合があったの」
咲夜の言葉に驚く魔理沙
魔理沙「会合って…お前も行ったのか!?」
咲夜「ええ」
魔理沙「…どうして…」
咲夜「…まずは私の話を聞いてくれる?」
魔理沙「あ、ああ、悪い」
咲夜「…まず今幻想郷各地で目撃されてる外来人の正体がわかったわ」
魔理沙「…忘却の…住人…?」
咲夜「…あら、知ってたの?」
魔理沙「ん…まぁな…」
咲夜「…じゃあ反魂香の存在も知ってるのね」
文が攻撃されたことを思い出し、表情が曇る魔理沙
魔理沙「…ああ…」
魔理沙「…あいつ…香は何者なんだ?…自分のことを反魂香と言ってたが…」
咲夜「…私達も最後まで話を聞いてなかったからハッキリとは言えないけど」
咲夜は片側の前髪のおさげを片手で触りながら
咲夜「…恐らく、誰かの持ち物であった反魂香と言う名の何かに命が吹き込まれ、妖怪化した存在…」
魔理沙「…付喪神…」
咲夜「…恐らく、ね」
魔理沙は頭を抱える
魔理沙「…わけわからん…そいつと霊夢と…何が関係……」
そこまで考え魔理沙はあっと気づく
それは霊夢と一緒にいた霊夢の母親らしき女性のことだった
魔理沙「…もしかして…霊夢の母ちゃんって…う…」
魔理沙の頭の中にノイズが走る
突然頭を抱える魔理沙を心配そうに見つめる咲夜
咲夜「…魔理沙…大丈夫?」
魔理沙「……ぁ…」
魔理沙の頭の中に過去の記憶が流れてきた
ーーーーーーーー
快晴
昼間の博麗神社
陽炎で揺れる灯籠
本堂、賽銭箱の前には見覚えのある紅白の巫女服を着た10歳くらいの少女がいる
「––は?–––だわ、私––7歳の時にね–––––沙は?」
少女が少しむすっとした顔で語りかけてくる
「–––よ、––も7––の時にな––」
ーーーーーーーー
…ああ…そういえば…霊夢とあんな話してたな…
…いくつの時だっけ…
咲夜「魔理沙?」
咲夜の呼びかけに私ははっと気づく
魔理沙「あ、ああ…大丈夫……か?」
咲夜「…いや、大丈夫なのかは貴女の方よ?」
魔理沙「ああ!…いや、えーと…大丈夫、だよ」
咲夜「…」
咲夜はじっと私の眼を見てくる
咲夜「…ねぇ」
魔理沙「…え?」
咲夜「此処に来るまでに、何があったか教えてくれない?」
魔理沙「…は?」
なんで…
咲夜「…ただの好奇心よ」
魔理沙「…私の悩みでも解決してくれるのか?」
咲夜「…お望みならば」
…変なやつ…
でも咲夜は…霊夢程じゃないがまずまずは信用できる
…異変も何度か一緒に解決してきたし
魔理沙「…実はな…」
私は昨日からの出来事を咲夜に話した
博麗神社で霊夢と出会ったことから瑠歌香に襲われるところまで…
まるで懺悔のように話す私、それを黙って、たまに相槌を打って聞いてくれた咲夜
…ちなみにアリスの事は言わなかった…
…椛と話した時もそうだったが、心なしか、少し気持ちが軽くなったような気がする…
…咲夜や妖夢とは異変ではちょくちょく会うがこうやってゆっくり話す事なんてそういえばなかったな…
宴会でもみんな騒ぐだけ騒ぐような感じだったし…
魔理沙「…なんか…ごめん」
色々感じてつい謝ってしまう
咲夜はきょとんとしてる
魔理沙「え、あ…いや、なんか…」
咲夜「…ふふ」
くすくすと笑う咲夜
咲夜「そういえば、こうやってゆっくりと話すのも初めてね」
ーーーーーーーー
『あなたの時間も私のもの…古風な魔女に勝ち目は、ない』
ーーーーーーーー
魔理沙「…ぷっ」
私は思わず吹き出す
なんだ…おんなじ事考えてたのか
咲夜「…前よりも、貴女のことわかってきた」
魔理沙「…なんだよ、それ」
咲夜はベッドから立ち上がる
咲夜「…別に…それよりも」
魔理沙「?」
咲夜「その反魂香…もしかして霊夢のお母さんを蘇らせるために幻想郷に来たんじゃないかしら?」
魔理沙「…」
咲夜「…あくまで私の勝手な推測だけれども…魔理沙の話を聞いてわかったのは、霊夢のお母さんは既に亡くなっている」
魔理沙「…」
咲夜「そして数年経った今、反魂香の力で蘇った」
…私もそう思ってた
咲夜「…そして霊夢のお母さんを復活させた影響なのか、多くの忘却の住人達も蘇った」
…なるほど…?
咲夜「…さらに忘却の住人には一人一人能力があって、反魂香がその人達の能力を使用できる、と」
スペルカード3枚も唱えてたしな
咲夜「…なるほどなるほど…」
魔理沙「…咲夜?」
咲夜「…近づくのは簡単にはいかない、か…」
咲夜がぶつぶつ言いはじめた
咲夜「…となるとスペルの持ち主を見つけて再度詠唱させるか、反魂香の能力を止めさせるか…ふむむ…」
魔理沙「咲夜!」
咲夜「…何?」
魔理沙「大丈夫か?」
咲夜「…ええ、問題は反魂香が何処にいるかと、誰が反魂香を幻想郷に呼んだのか、ね」
魔理沙「…」
霊夢達が消える時、紫のスキマ空間に飲まれたことは言ってない…
なんとなく、言いたくなかった
魔理沙「…そう、だな」
咲夜はおさげを触りながら私をじっと見る
咲夜「…ありがとう魔理沙、話してくれて」
魔理沙「…いや…こっちこそ聞いてくれてありがとう…な」
咲夜はそう言い扉の方へ向かう
魔理沙「…」
咲夜「…魔理沙」
咲夜はこちらに背を向けたまま私を呼ぶ
咲夜「…明日から私も反魂香を探す事になったの」
魔理沙「…え…ああ…」
咲夜「…恐らくほかの勢力も動き出す…いえ、もう動き出してるはず」
魔理沙「…なんで…」
咲夜「…きっとみんなの想いは同じよ」
魔理沙「…想い?」
咲夜「…大切な人と一緒に居られるように、ね」
魔理沙「…なんだよ…それ」
ガチャ
私と咲夜がいる部屋の扉が開く
そこに居たのは白いシャツと長ズボン姿の長髪髭の見知らぬおっさんだった
ヴラド「おお…ここに居たのか、咲夜…」
咲夜「…ぉ……ヴラド様…もうお休みになられたのでは?」
ヴラドと呼ばれた男は微妙に、でも少し嬉しそうに困り顔になる
ヴラド「あ、いや…寝ようと思ったらフランに襲われてな…トイレットペーパーが無い無いと騒いで…ん?」
おっさんはパジャマ姿の私に気づく
ヴラド「…あ、いや、すまん…友人が来ていたのか…」
扉を閉めようとするおっさん
魔理沙「あ…だ、大丈夫だぜ…!」
咲夜「…」
ヴラド「おっ…おい、咲夜…?」
咲夜はおっさんの袖を引っ張り私の前に連れてくる
咲夜はおっさんの横に並び
咲夜「紹介するわ、紅魔館の父、ヴラド様よ」
魔理沙「…え?」
ヴラド「…」
咲夜「そしてこちらが魔法使いの霧雨魔理沙です、ヴラド様」
ヴラド「…ああ…お前が魔理沙か…」
魔理沙「…よろしく…」
…なんで私のこと…
魔理沙「なんで私のこと知ってるんだ?」
おっさんは、ああ、と言って
ヴラド「咲夜やパチュリー…フランもお前のことを話していた…」
魔理沙「…あ、そう…」
咲夜「…」
ヴラド「…」
ああ…態度悪いな…私…
ヴラド「…まぁ、なんだ…2人ともゆっくりしててくれ…」
咲夜「…ありがとうございます」
ヴラド「…トイレットペーパーのありかだけ教えてくれ」
咲夜「トイレットペーパーならトイレの壁側の棚に入っています」
ヴラド「うむ、棚だな、ありがとう」
おっさんは部屋を出て行く
魔理沙「…なぁ、咲夜…今のおっさんって…」
咲夜「…ええ、あの方も忘却の住人…本人は理解してるのかはわからないけどね」
魔理沙「…」
咲夜「魔理沙」
咲夜は私の方に向き直る
咲夜「私も…お嬢様も、きっとフラン様やパチュリー様もあの方に対して同じ想いを持っているわ」
魔理沙「…」
咲夜の言わんとしてることはなんとなくわかる…でも
咲夜「…魔理沙は、これからどうするの?」
魔理沙「…え…」
咲夜「いなくなったはずの霊夢を探して、見つけたはずの霊夢は反魂香の力で生き返った母親と一緒にいる…」
魔理沙「…」
咲夜「…霊夢の幸せを奪うつもり?」
魔理沙「…そんなつもり…私は…」
私はパジャマの裾を掴む
咲夜「…忘却の住人は近いうちに消えるらしいわ」
魔理沙「!?」
…なんて…?
咲夜「…八雲紫が言ってたの…」
咲夜は少し俯き加減に続ける
咲夜「反魂香が呼び出した忘却の住人達は31日には消えてしまう、と…」
魔理沙「…あのおっさんもか…?」
咲夜「…」
咲夜の沈黙を肯定と判断する
魔理沙「…」
咲夜「…31日まで霊夢のことは放っておいてあげたら?」
…咲夜が言ってる意味はわかる
解るし判る
確かにあんな嬉しそうな霊夢の顔は…多分、見たことない
魔理沙「…少し、考えさせてくれ…」
私はベッドに倒れこむ
咲夜「…ええ、お休みなさい、魔理沙」
咲夜は部屋を出て行く
ーーーーーーーー
魔理沙「…」
襲われてた時は考えてる暇なんて無かった…
だから今なら分かる…
霊夢は今の方が幸せだ
少なくとも私といるよりは…
でも31日までの幸せ…
9月になればまた今まで通りだ
…今まで通り…?
霊夢はせっかく母親に逢えたのにまた別れるのか?
それとあの時見た香の後ろ姿はなんなんだ…記憶が流れ込んだって…なんのことなんだ?
魔理沙「…はぁ、さっぱりわからん…」
…本当にさっぱりわからないのか…?
いや、私は…
私は…
……
ーーーーーーーー
レミリア「そう、魔理沙とそんな事を…」
魔理沙のいる部屋を出た後、レミリアお嬢様の寝室へ報告に来た
ベッド傍のランプにのみろうそくの灯りをつけ、お嬢様は水色のパジャマ、ナイトキャップ姿でベッドの上で寝転がって本を読んでいる
咲夜「…恐らく魔理沙は私達の邪魔にはならないかとは思いますが…」
レミリア「…そうね」
お嬢様は読んでいた本を閉じる
レミリア「…でも霊夢は…敵になる可能性あるわね」
咲夜「…確率は高いですね、霊夢は反魂香と行動を共にしていると思います」
レミリア「…はぁ…嫌になっちゃうわね…霊夢強いのに」
咲夜「…ですがそれは弾幕ごっこでの話…」
レミリア「…そうね、もしもの時は例え霊夢でも私達の舞台で戦ってもらうわ」
…お嬢様…
レミリア「…」
お嬢様は私の顔をじっと見る
咲夜「…なんでしょうか?」
レミリア「…明日からの反魂香の捜索、私も行くから」
咲夜「…よろしいのですか?」
レミリア「…本当はお父様と沢山話したいけど…咲夜だけに行かせるなんてなんか……悪いし…」
…お嬢様がこんな事を仰るなんて…
咲夜「…お父様の…おかげね…」
私は思わず呟いてしまう
レミリア「…え?なに?」
咲夜「いえ、なんでも…明日からどうぞよろしくお願いいたします」
ーーーーーーーー
とある森、太い木の枝の上に香は座っていた
香「…ウチの記憶がマリサに流れ込むなんてね…」
香は小袋から青白い玉を1つ取り出す
香「…もしかしたらマリサもウチと同じなのかな」
隊長「ここにいましたか、母よ」
香が下を見ると木の根元の方に隊長と兵隊が数人香のことを見ていた
香「どうしたのー?」
香は降りずに上から隊長に問いかける
隊長「…我らの城がじきに完成します、母には場所だけでも知っていただこうと思いまして」
香「あー、はいはいはい」
香は木の上から隊長達のいる場所へ降りる
香「どんな城なの?」
隊長「今は地下に…全ての準備が整った後、地上に出てくる塔型の城です」
香「いいね〜試練の塔、的な?」
隊長「…は?…まぁ、ええ…」
香の問いによくわからないといった雰囲気で返す隊長
香「…あー、なんでもないや…連れてって〜」
隊長「はい、それと我らとバラバラになっていた公国軍と合流しました」
香「うん」
隊長「…ですが…」
香「?なに?」
隊長「…公国軍の連中、『母よりも王の元へ』などと言っており、あまり我らに協力的では無いのですが…」
香は考える
香「…王、そうだね、やっぱみんな必要だよね」
隊長「…何が…でしょうか?」
香は隊長に向けニコッと笑う
香「…スペルの本当の持ち主」