8月26日
…
……朝、なのか…?
勇儀から話は聞いていたが地底には陽の光は入らないらしい…
時計という刻を表す盤で朝夕を確かめるとのこと…
眼を開け、布団から起き上がる利益
昨日泊まった宿の一室は少々狭く畳6畳といったところか…
枕元には俺が付けていた草摺と佩楯と袴がある。今の俺は浴衣だ
利益「ふぁ〜…まるで昼寝してたようだ」
無理もない外は昨夜と同じく街明かりだけが頼りの夜空…夕刻に一眠りして夜中に起きるような感覚である
勇儀「利益、起きたのかい?」
襖の向こうから勇儀の声がする
利益「ああ、少し待ってくれ、今着替える」
勇儀「はいよ、着替えたら下に降りてきといてくれ、飯食って早速地霊殿に行こうじゃないか」
襖の向こうの足音は遠ざかっていく
利益「さて、着替えるか」
ヤマメ「利益、入ってもいいかい?」
今度はヤマメの声がした
勇儀と一緒じゃなかったのか
利益「いや、待ってくれ、今着替えてるから」
少し間があってから
ヤマメ「わかった…わたしも降りてるよ」
…着替えるか
その後、着替えて宿の下に降りる
下で2人と合流する
勇儀は昨夜のような訪問着ではなく上は白い生地の物に襟元と肘までの短い袖には赤い線が、下は少し透けた濃い紺色の生地に縦に親指程の太さの赤い線が入った腰一周出来る腰巻のようなものを履いている
ヤマメも浴衣ではなく首と手首まで隠れる黒生地の肌着とその上から赤茶色の胸元から足首まで伸びた腰巻のような着物を着ていた
俺たちは屋台で粥を食べそのまま地霊殿へ向かった
ーーーーーーーー
地霊殿の門前に俺たちは着いた
地霊殿は旧都を真っ直ぐ…方角で言えばおそらく北の方へ行ったところにあった
見たことのない白い壁の大きな建物、小田原城の天守閣と同じくらいだろうか…
利益「…小田原城ってなんだったかな?」
勇儀「ん?何か言ったか?」
利益「いや…そんなことよりお前達には驚いた…空を飛べるんだな…」
ヤマメ「飛んでる時、勇儀の背中で思いっきり騒いでたけどね、利益」
利益「ああ!とても気持ちよかったぞ!」
ヤマメ「ふふっ」
勇儀「それじゃあ、行こうか」
片手で門を開ける
門をくぐると地霊殿の扉までの広く長い庭が続く庭には見たことのない花が並ぶ
利益「…綺麗な花だな」
気がつくと花の前に立っていた利益
ヤマメ「それはね、薔薇の花だよ」
隣に来たヤマメがニコニコした表情で教えてくれた
利益「…ばら…?」
ヤマメ「そうそう、この赤い薔薇はね…」
勇儀「おーい、中入るぞ〜」
勇儀の言葉でふと我に帰る
利益「ああ、すぐ行く」
扉を開け、中に入って行く3つの影
地霊殿の窓からその影を見つめる少女がいた
ーーーーーーーーー
中に入った利益達を広いエントランスが出迎える
利益「ほう、これは凄いな」
勇儀「相変わらず照明は暗いねぇ」
シャンデリアなどの見た目は豪華な照明器具があるが、明かり自体は少し暗い
ヤマメ「ほんとほんと、持ち主に似て…」
さとり「『持ち主に似て暗いねぇ』ですか…」
声がする方を見ると、エントランスの階段の上にさとりがいた
さとりは利益を見て
さとり「ようこそ、地霊殿へ」
利益「ああ、お邪魔するよ」
利益はニコッと笑顔でさとりに返す
さとり「…どうぞ、こちらでお話しましょう」
さとりは3人を2階の応接間へ案内する
応接間の入り口は両開きの大きな扉となっていた
利益「これはまた…立派だな」
中に入り部屋の中をまじまじと見る利益
さとり「さぁ、どうぞ座っててください、今お茶を用意しますね」
そう言ってさとりは部屋から出て行く
ヤマメ「ん〜…なんの話するんだろうねぇ」
椅子に座って背伸びをしながら勇儀に話しかけるヤマメ
勇儀「…わからないねぇ」
利益「…」
さとり「お待たせしました」
さとりの声がして扉が開く、さとりともう1人さとりより背が高い少女がいた
黒を基調とし、所々に雪の結晶のような白い模様の入ったアオザイのような服装をし、赤い髪を2つの三つ編み、猫耳で猫目な愛嬌のある顔の少女、火焔猫燐である。
4つのカップを載せたトレイを持っているのはお燐である
お燐「もう…さとり様もお茶を用意するなら言ってくださいよぉ〜」
愛嬌のある笑顔で隣のさとりに言う
さとり「ええ、ありがとう、お燐」
お燐「は〜い、どうぞ〜」
そう笑顔で言いながらお燐は勇儀、ヤマメ、利益、さとりの順に目の前のテーブルに紅茶の入ったカップを置く
各々椅子に座りテーブルを囲む
お燐は入り口の扉横にいる
さとり「…では、本題をお話をする前に…」
息を飲む3人
ヤマメを見てさとりはため息混じりに言う
さとり「…間欠泉騒ぎが起きてからは地上からも地底からも妖怪や人の出入れは多少ありますから…別に彼を殺したり監禁したりはしませんよ…それと…」
ヤマメはほっと一息
次に勇儀を見て言う
さとり「…紅茶よりお酒の方が良いですか?話が終わったらにしてくださいね」
そして利益を見て
さとり「…この状況で私の話より部屋の内装が気になりますか?本当に変わった人ですね…」
利益「やはり不思議なものだな、考えを読まれると言うものは」
優しい笑顔でさとりに言う利益
さとり「考えを読まれるのは嫌でしたか?」
利益「どうだろうな?少なくとも今のは嫌ではないな」
ヤマメ「それよりも!これから利益はどうなるのさ!?」
どんっ、と机を叩きさとりに強く話すヤマメ
さとりは一瞬驚いて目を広げたがすぐ目を細めヤマメに言う
さとり「これからの事…よりもまずは彼の事を貴方達にお伝えします」
利益「俺の…事?」
さとりは一口紅茶を飲む
そしてカップを置き…
さとり「記憶喪失に関してはまだ詳しくはわかりませんが、貴方の喋り方、その服装、見た目…利益という名前から予想していたのですが…」
利益「ふむ」
さとり「前田慶次、という名前に思い当たる節はありませんか?」
勇儀「ッブフっ!」
思わず紅茶を吹き出す勇儀
ヤマメ「汚なっ!何してんのさ!勇儀!」
利益「…」
勇儀に目もくれず少し考える利益
勇儀「ゲホッゲホッ…なぁ…いくらなんでもそりゃあ無いだろう?」
むせながらさとりに言う勇儀
さとり「…どうですか?利益さん」
利益「ああ…聞き覚えがある……と言うよりも、正しくは…」
利益「前田慶次郎利益…だな」
ヤマメ「前田…慶次郎…」
ヤマメが利益をじっと見る
勇儀「…なるほどねぇ…」
勇儀が何かを理解したように再度紅茶を飲む
さとり「…」
勇儀「戦国の大武将…そんなやつなら多少は腕っ節が強いのはわかる!だけどそれでも鬼と腕相撲して連勝なんて出来るのはおかしいだろう?」
利益「…大武将?…戦国?」
さとり「さぁ…その辺は幻想郷ならではのチート的なものでは?幻想入りの影響でパワーアップ的な…」
ドヤ顔気味なさとりは勇儀に向かって言う
ヤマメ「なんて事言うんだい…」
利益「待ってくれ…名前の事はいいが…一体なんの話をしている?」
輪に入れない利益が少し慌てる
さとり「そうですね…」
さとりは一冊の本を取り出した
ヤマメと利益がまじまじと見ながら
ヤマメ「…歴史シリーズ…」
利益「…戦国…時代…」
さとり「はい、そうです」
利益「…」
さとりは本をパラパラとめくりながら
さとり「…貴方は恐らくこの本に載っている前田慶次さんご本人かと思われます」
勇儀「ちょいと待ちなよ」
さとりの言葉を勇儀が止める
勇儀「人々に忘れられた人、物、妖怪がこの幻想郷に流れ着くんだろう?前田慶次って言ったら戦国時代を代表するくらい有名人じゃないか…なんだってそんな有名人が500年近く経って今更幻想郷に?」
さとり「…さぁ」
勇儀の言葉をさっぱりと返すさとり
利益「…どれ、その書物を見せてくれないか…?」
ーーーーーーーーーーーーーー
利益「…なるほど」
本を閉じた利益が言った
利益「俺と言う人間がなんとなくわかった…他の武将の名前も聞いた覚えのあるやつらばかりだ」
ヤマメ「…」
ヤマメが心配そうに利益を見る
勇儀&さとり「…」
勇儀とさとりも紅茶を飲んで利益を見る
利益「…しろい」
ヤマメ「…え?」
利益「面白い!なるほど!俺は未来に来たのか!」
勇儀「…たまげたねえ…」
さとり(私たちからすれば過去から来たとも言えますけど…)
ヤマメ「も、元の世界に戻りたいとか無いわけ!?」
ヤマメが利益に強く言う
利益「…戻りたく無いわけでは無いが…元の記憶がほとんど無いからなぁ…」
さとり「…ここからが今日皆さんを呼んだ本題です。…恐らく、何日かすれば幻想郷の管理人の妖怪が貴方のことを見つけてくれると思います。そうすれば高い確率で貴方は元の時代…もとい元の世界へ帰れるはずです。私としてはそれまで貴方にはこの地霊殿に居てもらおうと考えています」
ヤマメ「は!?なんで地霊殿なのさ!」
ヤマメがさとりに怒鳴るように言う
勇儀「…なんでヤマメが怒鳴るのさ…」
さとり「…」
ヤマメをじっと見るさとり
さとり「理由は色々ありますが……まず此処は地底です。人間を嫌って地底に来た者、人間に地底に封印された者、人間に迫害されて地底に来た者…利益さんは人間です。高い確率で鬼やその他の妖怪から危害を受けるでしょう。それと昨日の光景を察するにから黒縄も利益さんを狙っていることでしょう。地底…旧都にいるのは危険すぎます。」
勇儀「まっ…妥当だねぇ…地霊殿なら古明地やお燐…お空もいるし、ある程度力がある奴が襲って来ても大丈夫だろうねぇ」
ヤマメ「…き、旧都だってわたしや勇儀もいるし、住む所や何か問題が起きたら力を貸してくれる鬼たちだって…!」
利益「…ヤマメはさとりが嫌いなのか…?」
利益の一言でヤマメが一瞬思考停止してから利益に返す
ヤマメ「…え?…いや、嫌いって…いや、そうじゃ…」
ヤマメをじっと見るさとり
さとり「…」
さとりから目を背けるヤマメ
さとり「……そうですか…ありがとうございます。そう思って貰えるだけで充分ですよ」
少し頰を赤らめヤマメから視線をずらし答えるさとり
ヤマメ「…」
さとりよりも顔を真っ赤にして下を向いてしまったヤマメ
勇儀&利益「…」
さとり「…お二人とも、そんな目で見ないでください」
ジトッとした目で訴えてくるさとり
利益「ふふ…仲がいいんだな」
優しい声と言葉で言う利益
勇儀「旧都に行くか地霊殿にいるかは利益本人に決めてもらえばいいんじゃないかい?」
腕を組んでさとりに言う勇儀
さとり「…そうですね」
勇儀の言葉に目を瞑って答えるさとり
さとり「では利益さん、この先数日ほど…旧都と地霊殿どちらで過ごしますか?」
利益「ふむ…そうだな…ここは…」
そのときだった
ドガァァアッ
「うにゅぅぅううう!!」
入口の方でなにかが壊れる音と誰かの悲鳴が聞こえた
一同「!!!?」
さとりがすぐに席を立ち
さとり「お燐!」
お燐「はい!見てきます!」
お燐が応接室の扉を開けようとノブに手を伸ばした
ドガァァアッ
お燐「にゃああぁぁぁぁ…」
扉が破壊されお燐も吹っ飛ばされる
扉を破壊した犯人が応接室に入ってくる
さとり「…お久しぶりですね…」
魔理沙「挨拶はいい!さとり!教えてくれ!!」
慌ただしく入ってきたのは普通の魔法使い、霧雨魔理沙だった