8月26日
地上へ繋がる洞窟
勇儀が利益をおぶさり、暗い洞窟を松明を照らしながら飛んで進んでいる
利益「すまないな、勇儀…俺も飛べれば良かったんだが…」
利益の言葉に勇儀はニカッと笑い
勇儀「構わないよ、これくらいしか今は出来ないからねぇ」
利益「…だが、こんな物をもらっても良かったのか?」
そう言って利益は背中から布に包まれた棒状のものを取り出す
中身は勇儀が見繕った妖怪鍛冶屋は作った刀である
勇儀「地上からはアンタ一人なんだ、身を守れる物は持っておいた方が良いよ」
利益「…腕相撲だけでは進めないか…」
勇儀「未知の場所に行くってのに呑気なもんだねぇ…」
くっくっと笑う勇儀
利益「…ヤマメは、どこに行ったんだろうな」
勇儀「…さてねぇ…」
話しながら進むと奥が明るくなっているのが分かる
利益「…もう地上か?」
勇儀「いや、まだまだ先のはずだけど…」
灯りがだんだん大きくなってくると勇儀の持ってる松明と同じ物だとわかった
勇儀「…お前らっ!!」
道を塞いでいたのは紫鬼、黒縄とその手下の鬼たちであった
黒縄「よぉ、利益…勇儀の姐さん」
利益「…お前は昨日の…」
昨日と違い今日の黒縄は自身の身長より長く、大きな大刀を担いでいた
扉一枚分位の厚さを持つ大刀で自分の肩でトントンと軽そうに叩く
黒縄「まさかあの女の言う通りになるとはな!待ち伏せてみるもんだ!」
鬼A「黒縄のアニキ!こいつらここで仕留めて良いんすよね!?」
手下の鬼が黒縄に嬉しそうに言う
黒縄「…ああ!2人とも身体の中身を引っ張り出してやるぜ!」
勇儀「…」
地面に降り利益を降ろす勇儀
利益「勇儀…?」
勇儀「…こっから先はアンタ1人で登るんだ、地上までは緩い坂だからアンタの足なら行けるよ」
利益「…俺も戦おう」
勇儀「いや、ここは私1人で十分さ、それに…」
勇儀は黒縄を睨む
勇儀「…この馬鹿とは色々あってねぇ…」
黒縄「…」
口元を吊り上げ笑う黒縄
勇儀「…判るだろう?そういうことだよ」
利益「…わかった。色々ありがとう、勇儀」
勇儀「…」
黒縄達に対して構える勇儀
勇儀「…利益、1つ頼まれてくれないかねぇ」
利益「…いいよ」
勇儀は利益に耳打ちする
鬼A「テメェらなにくっちゃべってんだ!?」
鬼B「殺してやるからよぉお!」
–––––ゴッ!!
勇儀が目にも止まらぬ速さで鬼2人を洞窟の壁に埋める
鬼A「……かっ…」
鬼B「……どっ…」
黒縄は嬉しそうに笑う
勇儀「…道は開いた…行きな、利益」
利益「恩にきる!」
空いた道を走り抜ける利益
黒縄「…」
黒縄が目で他の鬼達に合図をする
鬼C「殺せー!」
鬼一同「うおおおおおおー!」
勇儀「来なっ!!」
ーーーーーーーー
俺は少し息を切らしながら地上への洞窟を登る
利益「はっ…はっ…」
『ヤマメ「…拙者は黒谷ヤマメと申しますっ!…旧都の外れで倒れてたあんたを運んだのはあたしだよ〜」』
ヤマメ…
『ヤマメ「そうそう♪…まぁ地底に外来人が迷い込むってのはかなり珍しいけどねぇ」
』
明るく屈託のない笑顔で可愛らしかったな…
『ヤマメ「そんなのダメだって!」』
感情豊かで…真っ直ぐな子なんだろうな
利益「はっ…はぁ…また…会えるといいがな…」
また暫く歩くと洞窟の奥に光が見えた
松明の明かりではない、太陽の光だ
利益「…地上…か…」
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた
「そう、この先が地上…幻想郷の大地だよ」
後ろを振り向く
利益「…ヤマメ…」
そこにいたのは数刻前まで共にいた友人の姿だった
ヤマメ「…利益、考えを直す気はないのかい?」
利益「ああ、俺は地上へ行く」
ヤマメ「そうかい…」
その時、ヤマメの後ろにじわじわと蜘蛛の巣が出来る。蜘蛛の巣が洞窟の径を覆い尽くす。
ヤマメ「…殺してでも…止めるよ!!」
ヤマメの目が真っ赤になり、右手の爪が小太刀の長さまで伸び俺に向ける
利益「…ヤマメ!」
ヤマメ「怖じ気付いたのかい?良いからかかって来なよ!」
ヤマメは俺の持っている布に巻かれた棒を見て
ヤマメ「…抜きな…!人間如きが妖怪様に素手で勝てやしないだろう!」
利益「…」
ヤマメ「行くよ!」
ヤマメが俺に突進してくる
右手の甲で右払いしてくるヤマメの攻撃を腕で防ぐ
ドカッ
利益「…ぐっ!」
俺は壁に叩きつけられる
ヤマメ「…」
俺に向かって右手を振りかぶるヤマメ
ガッ
利益「…ッ!」
腹を爪で傷つけられる
利益「……がはぁっ…」
ヤマメ「…剣を…抜きなよ!!」
何故そんな辛い顔をするんだ…ヤマメ
バシュッ
ガッ
ザクッ
ヤマメ「…なんで…なんで戦おうとしないのさ…」
眼を潤ませ弱々しく俺に言うヤマメ
利益「…最初に…言ったろう…」
…また傷だらけになるな…
利益「…お前のような美人に殺されるなら…」
俺はヤマメの眼をしっかりと見て
利益「…それもまた一興だ」
笑顔で答える
ヤマメ「…!!!」
ヤマメ「…これが最後だよ…」
壁にもたれ座る俺の首元に右手の爪先を向ける
ヤマメ「…お願いだから……一緒に地底に居てよ…」
利益「…」
俺は一度目を瞑り、1つ呼吸をしてから
利益「俺は…地上へ行きたい」
ヤマメが右手を振り上げる
ヤマメ「…そっか…なら…」
利益「…」
覚悟は決めた。
ヤマメからは眼を逸らさない
…ヤマメの振り上げた右手がだらんと下に下がる
ヤマメ「…あたしも…連れてってよ…」
利益「…!!」
大粒の涙をボロボロと流しながら俺に言う
ヤマメ「…利益と…一緒に居させてよ…」
俺は1つ息を吐く
利益「…ああ、良いよ」
座り込む俺にヤマメが抱きついてくる
人間の少女の様に、大声で泣きながら
利益「…勇儀から伝言だ…」
ヤマメ「…!?」
ーーーーーーーー
勇儀「利益…1つ頼まれてくれないかねぇ?」
利益「…いいよ」
勇儀「もしこの先でヤマメに会ったらさ」
利益「…」
勇儀「いつでも帰って来いって…伝えといておくれ」
利益「…必ず」
ーーーーーーーー
利益「…いつでも帰って来い…とな」
それを聞いてヤマメは更に泣いた
ヤマメ「勇儀も…ぐすっ…パルスィも…さとりも…みんなわかってたんだねぇ…」
利益「…ヤマメ…」
ヤマメ「…え?」
利益「あの時は断ったが…すまん、肩を貸してくれないか?」
それを聞いてヤマメの顔が太陽の様に明るくなる
ヤマメ「…もちろん!」
ヤマメに肩を貸してもらって地上へ向け飛びたつ…
良い匂いだな…ヤマメ
さぁ、地上へ…幻想郷へ
ヤマメ「…利益…地上に出たらどこに行きたい?」
利益「そう…だな…勇儀の話だと妖怪の山や人里、コウマカンという屋敷があるらしい…」
ヤマメ「じゃあ、全部行こう!利益の行きたいところ全部!」
ヤマメ…お前の笑顔は地上からの光よりも眩しいな…
まるで地底の太陽だ…
利益「…それは、楽しみだ」
地上へ…次の世界へ
これにて前田慶次編は一度終了となります。
次の話は前田慶次編の裏ストーリーとなります。