8月24日
周りの鬼や妖怪が嫌いなわけじゃない
旧都の街にも顔見知りは増えたし
ひもじい生活をしてるわけでもない
友達もまあまあいるし
…でもなんか…よくわからないけど
自分の心にとても気になる隙間があるような気がする
だからなのか最近あんまり元気がない…いや、元気がないのを周りに話して心配してもらおうって訳じゃない…
ただなんていうか…
…まぁ、そんなあたしのことに気がついたのか…気を使ってくれたのか、勇儀が温泉宿にでも行こうって誘ってきた
…いや、誘ってくれた
お酒は美味しかったし、食事もまあまあ…
で、何となく散歩したくなって外に出てきた…格好は浴衣だけど…
誰かとあんまり会いたくなかったから旧都の外れを散歩しようと思った
ヤマメ「♪〜」
誰もいない旧都をのんびりほろ酔いで散歩…良いもんだねぇ
地上は真夏で猛暑らしいけど、地底は快適だよ
…歩いてると少し離れた岩場の陰で誰かが倒れていた
近づかないで人影を見る
あ、起き上がっ…また寝た…
ヤマメ「ありゃあ…誰かねぇ」
警戒心もなく寝てる奴に近づいた
…侍…?
人間だ!
ヤマメ「おお!人間なんて珍しいねぇ…って、おーい…大丈夫かい?」
そこにいたのは前髪を少し出したちょんまげに無精髭…上半身裸に下半身は鎧と袴を履いた男だった
死んで…ないよね?
男「…誰か…そこにいる…のか…?」
ヤマメ「…!?」
すぐに男に寄ってやる
男「すまんが…手を貸してくれ…ないか?」
ヤマメ「…わたし、土蜘蛛だよ?」
男「…つ…ち…?」
小声で返す男
ヤマメ「わたし、妖怪だよ。わたしに触れたら、アンタ毒に感染するかもしれないよ?」
男「…」
男は片目だけ薄目で開け、わたしを見る
男「…俺には…天女に見える…ぞ…」
初めてそんな事言われた…
男が少し、笑ったような気がした
ヤマメ「仕方ないねぇ…」
きっと今わたしの顔は真っ赤なんだろうねぇ…
ヤマメ「毒に感染しても…しらないよ…」
そう言って男を抱き上げる
…気を失ったのかな?
それが、利益との出会いだった
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8月25日
利益を抱えたまま宿まで戻った
勇儀はとても驚いてたけど、お前が良いならって言ってくれた。
利益の眼が覚めるのを随分待った気がした。
実際一日くらい待ったのかな?
眼がさめてからなんか緊張しちゃって「やぁ」とか言っちゃったし…
ヤマメ「調子はどうだい?」
男「ああ…や、少し頭がぼうっとするが…身体は大丈夫そうだ…おぬしは?
ありゃ…あたしの事覚えてないのかい…
ちょっと残念…
…それから勇儀が来て、色々話して、お酒を呑んで…
外で鬼達と呑みたい?
…物好きな人間だねぇ
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外で利益と鬼達が腕相撲してたら地霊殿の悟り妖怪がやってきた
なんか色々話した後…
さとり「…ここじゃなんでしょうし、どうぞ、地霊殿までご案内します」
ヤマメ「!?」
何言ってんのさ…
利益「ちれいでん?」
ヤマメ「この旧都を越えた所にある悟り妖怪の家だよ」
行くならあたしも行くよ!
利益が心配だし
さとり「勇儀さんも、旧都の責任者として来てください…もちろんヤマメさんもどうぞ」
…わたしの考えわかってるんだろう?
もちろん行くよ!
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勇儀「…楽しそうだねぇ、利益」
勇儀はそう言うけど、わたしとしては少しでも時間を稼ぎたい…
地霊殿なんて行ったらもう帰ってこない気がする…
そう思い、わたしは人間にのみ効く、目眩のする気を出した
利益「ああ、見たことも無いものを見るのは新鮮だからな…おっとっと…」
利益の足元がフラつく
勇儀「!…どうした利益?」
倒れそうになるが脚で踏ん張り体制を立て直す利益
利益「…ふむ、鬼達と遊んで少し疲れたのか……」
ヤマメ「そ、そりゃあ腕相撲とはいえ鬼達と力比べしてたんだ、疲れない方がおかしいさね」
ごめん、利益…
さとり「…」
そんな目で見ないでよ…
…わたしの考えに気づいたさとりがため息を吐いて言った
さとり「利益さん、やはり今日は休んでください、明日また、お会いしましょう」
…なんかごめん、さとり…
そのあとわたし達は宿に戻った
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利益と勇儀が寝た後、わたしは宿の屋根の上にいた
…たった2日ちょっとしか一緒に居ないのに…何故か利益の事が気になる…
…食べたい…?
違う…そういうのじゃない…なんていうか…
一緒にいると心地良いというか…
心の隙間が埋まるというか…
随分久しぶりな感覚…
ヤマメ「…わからない…」
1人呟くわたし
最初に…知らなかったとはいえ土蜘蛛のわたしを頼ってくれた
人に恐れられる事はあっても頼られることなんてなかったから…
キスメも勇儀もパルスィもわたしを頼ることなんてなかったし
…嬉しかったなぁ…
明日は地霊殿に行く…
行きたくないけど…行く…
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8月26日
地霊殿に着いて、さとりから隙間妖怪が利益を探し出すまで地霊殿にいた方が良いと言い出した。
あたしは反対だと言った
すると利益がこんな事を聞いてきた
利益「…ヤマメはさとりが嫌いなのか…?」
嫌い…じゃないよ…悟り妖怪ってだけで人間からも妖怪からも嫌な目で見られて…大変だと思う。
それこそあたしが想像できないくらいに…
だからせめてわたしや勇儀で力になれる事があればなんでも…って…
さとり「……そうですか…ありがとうございます。そう思って貰えるだけで充分ですよ」
あ…利益が変なこと聞くから余計なこと考えちゃっ…て、ちょっとさとり!…なんで顔赤くしてるのさ!?
なんか恥ずかしくなってきた…
ヤマメ「…」
みんなの顔が見れない…
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利益「…地上へ行ってみたいな…」
魔理沙が来た後だからもしかしてって思った…
…はは、やっぱ行きたがるよね…地上へ…
でも、わたしは…
ヤマメ「あたしは大反対だよ!そんな事許さない!」
ちがう…こんな事を言いたかったんじゃない…
わたしはただ…
トシマスト…イッショニ…
ヤマメ「…アタシ…モウカエルヨ…ワルイケド」
トテモコンナトコロニハイラレナイ
なんダロ…このキモチハ…
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迎え橋
ナンか…
アタシのワルイきもちがアフレテル…
こんナニクルシクテ…セツナクテ…
ヤマメ「はぁ…ナンデアンナ態度とっちゃッタンだろう…」
「…勝手に来て勝手に悩まないでくれる?」
ヤマメ「…いたの?パルスィ」
パルスィ「あら、橋の番人が橋の守りをしないで橋の番人なんて呼べるのかしら?」
…パルスィから色々言われた…嫉妬してたなんて…嫉妬の精神に飲み込まれるところだったんだ…
言われて気づいた…
あたしのやりたい事…やりたかった事…
利益と一緒に居たい…
ずっとじゃなくても良い…でも少しでも長く…彼と…
ヤマメ「…なんなのかな…」
利益には人や妖怪を惹きつける何かがある…
こんな人は他にはいない…
きっと彼なら…
ヤマメ「わたしの心の隙間を埋めてくれる…」
…会いに行こう!
会って…あたしの気持ちを伝えなきゃ!
そう思い、あたしは迎え橋を渡り地上への洞窟へ向かっていた
すると岩陰から話し声が聞こえてきた
…この声って…
そっと近づいて近くの岩陰から覗く
いたのは昨日見た紫鬼…黒縄だ
それと数人の鬼と…少女?
こちらに背を向けてるけど間違いない…人間らしき少女だ
襲われてる感じじゃないけど…
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黒縄「…で本当に利益の野郎は来るんだろうな?」
少し苛立った様子で少女に言う黒縄
少女「ほんとだよ〜、ウチ嘘言わないもん〜」
鬼A「…黒縄のアニキ…どうするんですか?」
取り巻きの鬼が黒縄に問う
黒縄「旧都の町にはいねぇから地霊殿だとは思うが…あそこにはもう1人の悟り妖怪がいる…そっちの方が面倒だ」
黒縄「だから利益の野郎がこっちに来るっつんならそっちの方が全然良い…」
少女「あの男と喧嘩、したいんでしょう?チャンスじゃない?」
黒縄「ああ…大チャンスだ……この話が本当ならな!」
鬼達が少女を囲む
少女「…?」
黒縄「お前、何が目的だ?何故そんな事を俺に教える?」
ヤマメ「…」
少女は笑う
少女「…良いことすれば褒められるでしょ?」
黒縄「…」
少女「まぁ、いいじゃん!」
少女はふわりと浮く
少女「じゃあ確かに伝えたよ!楽しんでね!」
少女は洞窟の中へ飛んでいく
鬼B「あいつ…地上の妖怪ですかね?」
取り巻きの鬼が黒縄に言う
黒縄「…まだ幻想郷に来たばかりか…妖怪になったばかりだろう…ありゃあまだガキだ」
鬼A「…は、はあ…」
黒縄「…行くぞ、テメェら」
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げ、あいつらも洞窟に入ってくのかい!?
…先回りしないと!
洞窟の上にも中に通じる小さな穴がある、そこから入り込もう!
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…地上へあと少しの所にあたしは待ってた…
あと数十歩歩けば地上…
あたしとしては利益には地底に居てもらいたい…
あたしが地上に行きたくないからだ…
今更行ったところで嫌われ妖怪…
地上の妖怪や人間からまた忌み嫌われて、迫害されるだけ…
ならまだ話のわかる勇儀やパルスィがいる地底がいい
人間のいない地底がいい
…利益が居てくれる地底がいい…
ダメだ…さっきパルスィに言われたばかりなのにまた悪いあたしが出てきてる…
『パルスィ「貴女はそもそもどうしたかったの?…一番したかった事をするために何をすれば良いのかを考えてみたらどうかしら?」
』
…一番したかった事…
利益に地底に居てもらいたい
…本当にこれがあたしの一番したいこと…
…なのかな?
…来た!
…利益の背中が見える…
待ち構えてたはずなのに…いつのまにかあたしが隠れてるところを過ぎてたみたい
利益「…地上…か」
利益の嬉しそうな声…
ヤマメ「そう、この先が地上…幻想郷の大地だよ」
自分でも驚くほど感情のない声が出た
利益がわたしの方に振り向く
利益「…ヤマメ…」
ヤマメ「…利益、考えを直す気はないのかい?」
…お願いだよ
利益「ああ、俺は地上へ行く」
ヤマメ「そうかい…」
蜘蛛の巣が洞窟内を覆い尽くす。
ヤマメ「…殺してでも…止めるよ!!」
右手の爪を伸ばし、利益に向ける
利益「…ヤマメ!」
ヤマメ「怖じ気付いたのかい?かかって来なよ!」
…刀かな?
…こう見るとやっぱり侍なんだねぇ
ヤマメ「…抜きな…!人間如きが妖怪様に素手で勝てやしないだろう!」
利益「…」
ヤマメ「行くよ!」
利益目掛けて突進する
右手の甲で右払いをする
…受け止められた
ドカッ
利益「…ぐっ!」
利益を壁に叩きつける
ごめん、利益
ヤマメ「…」
利益に向かって右手を振りかぶる
ガッ
利益「…ッ!」
腹を爪で傷つける
利益「……がはぁっ…」
ヤマメ「…剣を…抜きなよ!!」
早く降参してよ利益…
バシュッ
ガッ
ザクッ
ヤマメ「…なんで…なんで戦おうとしないのさ…」
…なんで…
利益「…最初に…言ったろう…」
傷だらけの利益は言った
利益「…お前のような美人に殺されるなら…」
利益「…それもまた一興だ」
笑顔で答える
ヤマメ「…!!!」
鬼達と呑んで少年のように笑う利益
わたし達の話を聞いてくれて春の風ように爽やかに笑う利益
ヤマメ「…これが最後だよ…」
壁にもたれ座る利益の首元に右手の爪先を向ける
ヤマメ「…お願いだから……一緒に地底に居てよ…」
利益「…」
…本当は…地霊殿で話を聞いてた時からあたしの答えも決まっていた…
…でもそれはあたしにとって…地底の妖怪にとって許されないこと…
利益「俺は…地上へ行きたい」
…やっぱり…
利益は自由を愛する人なんだろうな…
…そんなところが…
わたしは右手を振り上げる
ヤマメ「…そっか…なら…」
利益「…」
覚悟を決めた眼…
利益はわたしからは眼を逸らさない
…散々傷つけたわたしが言っていいことじゃないけど…
振り上げた右手がだらんと下に下がる
断られたって、嫌われたって構わない…
最後に言いたかった事だけ…
ヤマメ「…あたしも…連れてってよ…」
利益「…!!」
…ずっと泣いてたと思う…
でも一番言いたかったことを言えた安心感と嫌われたらという不安で余計に涙が溢れてきた…
ヤマメ「…利益と…一緒に居させてよ…」
利益は一瞬驚いてから…
利益「…ああ、良いよ」
傷だらけなのに…そんな涼しい笑顔なんて…卑怯だよ…
…あたしの一番したかったこと…
利益に地底に居てもらいたい事じゃない…
本当にしたかったことは…
利益の側にあたしを居させてほしい…
ウザがられればもちろん近づかないし、邪魔にならないようにする…
でも許される限り一緒に居させてほしい…地底でも…地上でも…
…この気持ちってやっぱり…
ーーーーーーーー
パルスィ「恋ね…間違いないわ」
旧都の呑み屋のカウンターにて釣瓶落としのキスメと呑んでるパルスィ
キスメ「…ヤマメが?」
パルスィ「…一目で分かるわよ」
キスメ「でも昨日一昨日会ったばかりの男でしょう?思い入れも何もないのに?」
パルスィ「お馬鹿さん…恋ってのは長く一緒にいた期間だけで好きになる事はないわ」
キスメ「…???」
パルスィ「会った瞬間、話した瞬間、目が合った瞬間…恋に落ちた」
パルスィ「ヤマメの一目惚れよ」
キスメ「…一目惚れ…」
パルスィ「多分しばらくは帰ってこないでしょ…妬ましいわ」
橋姫は今夜も荒れる