就職先はAUOの秘書でした。   作:疾走する人

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帰ってきました。(作者が)

え?自分の小説ほったらかして二年間もどこに消えてたのか、だって?

……。

さ、さあ本編に行きましょう!



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前回までのあらすじ

ネルガルをぶっ潰しました。

ネルガルさんがテンプレな小悪党的ムーブ。

典型的な主人公ムーブでエレシュキガルを助ける。

要するに、ネルガルをぶっ潰しました。


帰ってきました。(白目)

ーー駆ける。

 

 風が耳元を通り抜け、ゴウゴウと音を立てていった。

 それでも、走らなくちゃいけない。

 

ーー駆ける、駆ける。

 

 空から降り注ぐ日差しは鋭く、薄暗さに慣れてしまった体に突き刺さってくる。

 それでも、走らなくちゃいけない。

 

ーー駆ける駆ける、駆ける。

 

 道には人があふれかえり、町の喧騒は五年前(・・・)と変わらない。

 それでも、行かなくちゃ。

 

ーー駆ける、駆ける。

 

 人ごみをすり抜け道を何回も曲がって、俺の前にようやく見慣れた石造りの王宮が見えてきた。思わず足が重くなって走るのをやめたくなる。

 行かなくちゃ。

 

ーー駆ける。

 

 王宮の前にいる門番が俺に気づいたが、この速さで向かってくる物の識別なんてできないのだろう。緊迫した表情になって、迫りくる俺に対して槍を構えた。

 でも、今の俺には彼らをどうにかしている暇はない。警戒している門番にそのまま突き進む素振りを見せた直後にわずかに方向転換して彼らの横を通り抜け、王宮の中に入り込んだ。門番たちは俺が王宮の中に入ったのを見て必死の形相で追いかけてくる。

 でも、俺はこのまま走るのをやめるわけにはいかない。

 

 なぜならばーー!

 

 階段を突っ走り、俺は王宮の中でも最も高い位置にある謁見の間にたどり着いた。謁見の間には何人もの学者や大臣らしき人たちの姿があるが、俺の気にすることではない。

 謁見の間の最奥に安置されている王の椅子に頬杖を突きながら座っているギルガメッシュ。

 俺はほかの人々を一気に追い越してギルガメッシュの前に立ち、そしてーー。

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 立ったままの姿勢から、重力のパワーを借りた全身全霊の土下座をかました。

 

 俺が王宮の門を通り抜けてからここに至るまで、所要時間わずか十秒たらず。

 

 華麗なジャンピング土下座をかました俺に周囲が唖然とする中、しかしギルガメッシュは眉をピクリと動かしただけだった。

 

「すみませんでした、とは何のことだ、ライガ?」

 

 久しぶりに聞いたギルガメッシュの声は、おそらく成長期で声変わりしたのだろうことを加味しても恐ろしく低く、また平坦だった。

 やばい。こいつはめちゃくちゃ怒ってるな。

 

 思わず冷や汗が背中を伝う。

 

「そ、その、三年で帰ってくるって言ったのに五年も帰ってこなかったことですぅぅ」

 

 五年も帰ってこなかった、と言ったあたりでギルガメッシュの殺気が膨れ上がったので、思わず意味もなく俺は語尾を伸ばした。ギルガメッシュの目線は土下座していてもわかるくらいに冷たい。

 

 …………。

 

 沈黙が場の雰囲気を占める。さっきまで大声でギルガメッシュに自分の意見を聞いてもらおうと張り合っていたらしい大臣たちもいつの間にか静かになっている。

 

 数秒の沈黙の後、ギルガメッシュが口を開いた。

 

「で、申し開きは?」

 

「こ、これには深いわけが……」と始めようとした俺だが、ギルガメッシュのにらんだだけで人を殺せそうな視線に口をつぐんだ。

 

 い、言えない。実は深いわけなんてなくて、ただ冥界でエレシュキガルと遊びながら暮らしてたらウルクのことなんてさっぱり頭の中から吹っ飛んでて、冥界に行って三年したらウルクに帰るっていう約束を完全に忘れてたなんて絶対に言えない。これだけは何としても隠し通さなければ。

 

「深い……わけ?」とつぶやきながらギルガメッシュは自分の後ろに金色の光を放つ波紋を揺らめかせた。ゲート・オブ・バビロンである。

 

「いやマジですいませんっしたぁぁーー! 深いわけなんてありませんーー! 冥界でエレシュキガルと過ごすのがめっちゃ楽しくて、ウルクのことをさっぱりわすれてましたぁぁぁぁ!」

 

 ついさっき言うまいと決意したが、そんな決意なんて一瞬で吹き飛んだ。えー、こいつなっさけねえなー、と思っているであろう画面の前のそこのあなた。いや、仕方ないやん?殺意マシマシでこっちをにらみながら我らが英雄王がゲート・オブ・バビロンを展開してるんだぜ?これは白状するしかないですやん。

 

 俺はさらにぐりぐりと地面に自分の頭を擦り付ける。ギルガメッシュの冷たい目線はそのままだが、殺気は少し揺らいだ。気がする。

 

 はあ、とギルガメッシュがため息をつく声が聞こえた。 

 

「まあ、よい。貴様が二年間も遅れたことはあえて不問としてやろう。 これからは、怠け者の心を入れ替えてしっかり働くがいい。」

 

「あ、ああ!」

 

 自分でも、自分がいかに安心した顔と声をしているかわかる。ギルガメッシュが、あの幼いころから愉悦ムーブで俺を苦しめ続けてきたギルガメッシュが、俺をあっさりとゆるしてくれたのだ!

 

「お、俺、これからは心を入れ替えて働くことにするから!」

 

「……、ああ、そうだな。」

 

 五年ぶりの再会にしてはやけに淡白に、ギルガメッシュは返答をしてから俺の後ろに目を向けた。 そこには、いまだに困惑して顔を見合わせている大臣や学者たちが。

 

「……。 さて、大臣ども、各々の要件を話すがいい!この白髪の男のことは気にするな!」

 

 惑いが解けないまま、ではあるが大臣たちがギルガメッシュに意見や政策を述べ始め、ギルガメッシュはそばにたたずむ俺を気にせず彼らの言葉に耳を傾ける。 その顔はどこか寂しげで、苦しげでもあったけれど、何せあのギルガメッシュだ。俺の気のせいだろう。別に俺も帰ってきたし、寂しがる要素はないしな。

 

 忙しそうなギルガメッシュを尻目に俺はその場を離れ、謁見の間から階段を下りていく。

 

 でも、ギルガメッシュに許されたことでホッとしていたからか、その時の俺は気づけなかったのだ。

 

……俺に向けるギルガメッシュの視線の冷たさは変わらず、その言葉には失望が込められていたことが。




はい、というわけで何気にこの作品で初めてちょっと怪しい雰囲気になってまいりました。

今回登場した謁見の間、というのはバビロニアのアニメで出てきた、いつも王が座ってたあそこです。あれの正式名称は知らないので、ご存じの方がいらっしゃったらぜひ教えていただけるとありがたいです。

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