香霖堂には夢がつまってる   作:野道春日

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その1

 魔法の森のすぐそばに佇む古道具屋、香霖堂。半人半霊の庭師-魂魄妖夢は主人の命によりそこを訪れていた。客の少ない(冷やかしはよく来る)そこには常に静かな空気が流れている。

 流れているはずだった。

 

(何でしょうか、このみょんな緊張感は…)

 

 壺に腰かける白黒、お茶をすする紅白、黙々と本を読む名無し

 

 特に目新しい商品は無く、一見すると店に普段と異なることはない。原因は店主にあった。厳密に言えば、店主の膝にあった。

 

 ぽかぽかと暖かい昼下がり、窓からさしこむ陽の光がなんとも心地よい。

 眠気に勝てなかったらしい店主-森近霖之助の膝には座り心地のよさそうな空間がちょうど少女一人分くらい空いていた。

 

 俗に言う、膝の上の聖域。

 

 小難しい理屈などない。とにかく座りたいと思うような不思議な魅力があった。

 

 妖夢が視線を聖域に向けたことと背筋に悪寒が走ったのはほぼ同時だった。

 

 

「ああ、いらっしゃい妖夢」

「ゆっくりしていくといいぜ」

 

 妖夢に向けられたのは笑顔だった。決して笑えない、目が笑ってなかった。

 

 妖夢は理解した。彼女らは本気だと。本気で聖域(そこ)を奪わんと画策していることを。

 そして二人の間であった均衡が今、第三者の介入により破られたことを。

 

「…!」

 

 すかさず抜刀の構えをとる妖夢。

 

「臨戦体制に入るまで0.5秒」

「軽く10回は死んでるぜ」

 

 まさに一触即発。この状況は妖夢にとって最悪のものだった。

 

 幻想郷における最強格の一人である霊夢はもちろん、高火力と機動力を併せ持つ遠距離戦闘型である魔理沙との相性は最悪。

 それも二対一。戦闘となればまず勝ち目はない。加えてその尋常ならざる圧力と殺気は普段の弾幕ごっこの比ではなかった。常人なら視線だけで心臓を止められているだろう。

 

(万事休すか…)

 

 妖夢が永遠亭送りを覚悟したその時。

 

キキイイィィィィイ!!!

 

 

「ではクイズでもしませんか?」

 

 突如として鳴り響くブレーキのような金属音と共に彼女は現れた。

 

「幻想の伝統ブン屋射命丸文、面白そうなネタを嗅ぎ付けやってきました!」

 

 おなじみのゴシップ記者はいきいきとしている。

 

「…自転車で来たんですか?」

「ノンノンノン」

 

 指をふり否定する文。

 

「チャリで来た(ドヤ)」

「手羽先って美味しいですよね(チャキリ)」

「刀をお納めください」

 

 シンプルに殺意がわきました(妖夢談)

 

「その勝負…私も参加するっ!」

 

 寺子屋教師も黙っちゃいない。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「第三回!聖域争奪霖ちゃんクイズ大会ー!」

 

 赤、黄、青、白のきらびやかなボタン付きの机と背後には大きなスクリーン。生い茂る木々の前にたてられたそれは何とも華やかだ。

 それとは対照的に挑戦者たちは睨み合い火花を散らしている。

 

「えーこの大会は、熾烈な武力衝突を未然に防ぐため早押し形式のクイズで穏便に優劣を決するものです」

「暴力行為や弾幕の使用を禁じ、それらが確認された場合は即失格とさせていただきます」

 

 二人の天狗はマイクを握り、空に向かって突き上げる。

 

「お前ら!聖域が欲しいかぁあ!」

「「「ウオオォォォオオオ!!!」」」

 

 少女たちが雄叫びをあげる中、白の席に座る者があげたのは雄叫びではなく手だった。

 

「あの、ちょっといいですか?」

「どうしました妖夢選手」

「別に私は参加するつもりは…」

 

 妖夢に争うつもりはなかった。雰囲気に流されて断れなかっただけで。

 

「じゃあ聖域には興味がないと」

「そ、そういうわけじゃ、ないんですけど…その…」

 

 それは常日頃から一人前の剣士を目指して精進し、日々(あるじ)の警護や世話に勤しむ彼女が普段は見せることない年頃の少女らしい表情であり

 

「「「ちっ」」」

 

 虫唾がはしるほどの純真なもの。

 

「じゃあ不参加ということで?」

「そう…ですね…」

 

 三人は黙っていなかった。

 

(ライバルが減るのはいいのよ。でも…)

(このままじゃあ、読者からの好感度をやつだけが独占しちまうじゃねえか!)

(王は一人で充分なのだよ妖夢…)

 

 どす黒い思いが渦巻いている。もうこの時点で好感度だだ下がりであることに彼女らは気づいていない。

 

「カマトトぶってんじゃねえぞ阿婆擦(あばず)れ!」

「下らん…まったくもって下らん存在だ…」

「臆病者は消えな若白髪!」

「半分オバケ!」

「永遠の幼児体型!」

「まな板!」

 

 何かが妖夢の中で音を立てて切れた。

 基本的に非好戦的で温厚な彼女も、ここまで言われて退くことは剣士としてのプライドが許さなかった。

 

「上等だてめぇら!私を敵にまわしたことを後悔させてやる!」

 

 というか普通に怒った。

 

「司会進行は私、射命丸文と!」

「姫海棠はたてがお送りします!」

「「それでは第一問!」」

 

 妖夢には勝算があった。

 日頃から一流の剣客を目指す彼女のモットーは文武両道。剣術だけでなく学問もおろそかにしたことはない。

 

 知力を競う勝負ならば銭ゲバ巫女(霊夢)キノコ博士(魔理沙)には負けないだろうと高をくくった。そしてそれこそが妖夢が半人前であることの何よりの証明だった。

 

「昨日のお昼ごろ、霖之助氏は何をしていた?」

(知力関係なかったァァァッ!)

 

 そう、これは聖域を巡った争い。そこに必要なのはただの知力ではなかった。

 

「因みに昨日のお昼頃、香霖堂に誰も来ていないことは確認済みです」

(そ、そうか。それなら答えを誰も知らないはず…)

 

カチカチカチカチカチカチカチカチ

 

「何で!?」

 

 妖夢以外の席に座る三人は机のボタンを連打していた。まるで子供でもわかるサービス問題を解く時のように。

 

「黄コーナー!」

 

 文が指をさしランプがついたのは魔理沙の席。

 

「あいつのことだ、無縁塚にでも行ってたんだろ」

 

 ふふん、と魔理沙は鼻を鳴らす。さすがは公式幼馴染といったところ。彼の行動パターンを誰より理解している。

 

「…と、思うじゃん?」

 

 赤コーナーの霊夢は不敵に笑う。

 

「ブブー!」

「「!!?」」

 

 はたてが告げたのは不正解。意外な展開に魔理沙と妖夢は驚きを隠せない。

 

「んなバカな!あの毎日家に引きこもってわけわかんねぇ本ばっか読んでるヒキニート予備軍の香霖隠せない仕入れと言う名のゴミ拾いに無縁塚に行く以外どこへ!?」

「本人が聞いたら泣きますよ」

 

ピンポン

 

 ランプが光ったのは赤コーナー、霊夢。表情には圧倒的な自信が滲み出ていた。

 

「答えを知ってるんですか?」

 

 天狗が嘘をついていない限り、彼の昨日の行動を知る者はこの中にはいないはず。ならばなぜ?

 

(まさか…巫女の勘!?)

 

「当然よ。私は毎日霖之助さんのことを陰から見守っているんだから」

「ただのストーカーじゃねぇか!」

「そういや香霖のやつ、最近どこからか視線を感じるって言ってたな」

「何ですって!?急いで見守りを強化しなくちゃ!」

「いやその視線お前!」

 

 しれっと恐ろしいことをする巫女だった。

 

「では赤コーナー、答えをどうぞ!」

「昨日の昼頃、霖之助さんは人里に出かけていたわ!」

 

 自信に満ち溢れた解答だ。まあ実際に見ていたのだが。だからこそ誰もが正解だと思った。

 

「ブブー!おしい!」

 

 はたてが告げたのは不正解の合図だった。

 

「そんな馬鹿な!昨日私は確かに霖之助さんが人里に入って行くのを見たのよ!?陰からついていったから間違いないわ!」

「しれっとストーキング認めましたね」

 

 納得がいかず、抗議(物理)に挑まんとする霊夢を妖夢が羽交い締めにしてとめる。

 

「里の中には入らなかったんですか?」

「それが入れなかったのよ。最近ストーカー事件が多発してて危ないからって」

「間接的に事件解決しましたね」

「そういえば寺子屋も一週間ほど休みだって聞いたな」

「完全に警戒されてんじゃないですか」

 

 しかしそうなるとますます分からない。おしい、ということは人里の中どこかが答えというわけだ。

 となるとこの中で唯一人里で暮らす青コーナーの慧音が最も正解に近いはず。 

 

(じゃあなぜ彼女は動かない…?)

 

 と、妖夢が考えたその時

 

ピンポン

 

 青コーナーのランプが光る。一同の視線が青コーナーに集まった。

 

「慧音さん、答えをどうぞ!」

「昨日、霖之助は」

(((ゴクリ…)))

「私の注文した教材を届けに寺子屋に来ていた!」

「正解!」

「「「ちょっと待てぇぇぇえ!!!」」」

 

司会席につめよる三人。

 

「おいどういうことだコラ!難易度が明らかに不公平だろうが!」

「そうですよ!これじゃあ必死に答えを探ってた私たちがバカみたいじゃないですか!」

「やり直しなさい腐れ天狗!あんたのア〇ル楼観剣の鞘にするわよ!」

「いやですよそんな汚い所に楼観剣さすの!」

「あんた普段から腰に刀さしてるじゃない大して変わんないわよ!」

「うまくねぇんだよ!肛門に自分の刀さす剣士がどこにいる!」

「お前らいったい何の話してんだァァァ!」

「あやややや」

「まあまあ落ち着いて!このクイズ大会は正解して終わりじゃないのよ」

 

 もみくちゃにされる文を尻目にはたては回答席の背後にあるスクリーンを指さした。

 

「あのスクリーンがどうかしたの?」

「このクイズの勝者は正答数じゃない、とったパネルの数で決まるのよ!」

 

 5×5のパネルを正答者からビンゴゲームの要領で取り合い、最終的なパネルの数で勝敗を決するというものだ。

 

「もっと詳しい説明はないんですか?」

「詳しくはアタ〇ク25でググりましょう。」

「G〇〇gle先生に丸投げかよ」

 

 ごめんなさい。

 

「まあそれはさておき、青コーナー慧音さん、何番を選びますか?」

 

 スクリーンに光がともる。そこに映し出されたのは大きな「1」のみ

 

「一回で終わりじゃねぇかァァ!」

「さあ慧音さん!どうぞ!」

「どうぞじゃねえだろ!選択の余地が一切ねえだろうが!」

「文、これこの間の宴会のビンゴゲームで使ったやつよ」

「あやや、間違えました」

「出来てねえよビンゴゲーム!数字揃えるゲームで馬鹿ばっかり揃えて何やってんだ!」

「失礼しました。本当はこっち」

 

 文の合図でスクリーンの「1」の文字が消える。そして新たに3×3のパネルが表示された。

 

「さあ慧音さん、何番にします!?」

「…4番と7番で」

「なんと二枚抜き宣言です!」

「ただのストラックアウトじゃねぇか!」

「まったく、文句の多い人ですね」

 

 やれやれ、と首を振る天狗たち。

 

「まあこれなら大丈夫でしょ」

 

 はたてがケータイをいじるとスクリーンに5×5のパネルが表示された。

 

「ではでは慧音さん!何番ですか!?」

「92番で」

「パネル何枚あるんだよ!」

「裏コード・ビーストですね!」

「裏コード・ビーストって何だぁァァッ!?」

 

 妖夢の叫びとともに再度司会席に詰め寄る三人。

 

「いつまでやるんだよこれ!一問目から全く進まねえじゃねぇか!」

「いい加減にしないと変なキノコ食べた魔理沙のロンギヌス♂があんたにサードインパクトよ!」

「乱暴する気ですね魔理沙さん!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

「あんたにサードインパクトって何だ!?てか股からロンギヌス♂生やす薬なんてねぇよ!そんなもんあるなら香霖に~自粛~」

「やめろ!」

「あややややや」

 

 再度司会席に詰め寄る三人。その不満は以前より増していた。

 

(ふふふ…)

 

 そんな中、一人。

 寺子屋教師は笑っていた。

 

(勝った…計画通り)

 

 戦闘以外での決着

 自分に有利な勝負

 そして敵の潰しあい

 

 全ては慧音の思い通りに進行していた。

 

 寺子屋の休みはストーカー対策などてばなく霖之助の動向を探り、かつ来客の具合いを調べるため。大枚はたいて永遠亭で薬を手に入れ陰から霖之助を観察。

 正面から戦えば敗北は必須。天狗と結託し自らに利のある舞台へ誘導。

 

 綿密に練られた計画と入念な下準備。事は順調に進んでいた。

 

(霊夢が人里と答えた時はさすがに肝を冷やしたが、そこは天狗がうまくやったようだな)

 

 約束された勝利に慧音の表情が歪む。高笑いしそうなのをこらえるのに必死だった。

 

(何かしら慧音のあのキモい顔…)

 

 深く関わらないことをはたては決めた。

 

(もはや勝利は目前!あとは奴らが潰しあってくれるのを待つのみ!勝った!第三部完!)

 

 慧音が陰でガッツポーズをしたその時

 

「どんなに問いただされようと、慧音さんと実はグルこのクイズ大会は仕組まれたものだってことは決して言いません!」

 

「「「「え?」」」」

 

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