これはほら、出久の考えをわかりやすい言葉で表しただけですから
下の戦いばかりに気を取られがちではあったが、ビルの最上階でも、別の戦いが行われている。
「なっ、自分を浮かすだと!?」
お茶子の無重力能力に対抗するために、浮かせられそうなものを全て前もって片付けていた飯田。これによって自身の優位を確信していたが、予想外の反撃に反応が遅れる。
「奥の手中の奥の手だよ!」
勝利条件の核の確保のために、能力を活用したお茶子。飯田の頭上を飛び越え、兵器に手を伸ばして———
突然、目の前から核が消える。勢い余って壁に激突するお茶子。少し離れた場所に、核を片手で抑えている飯田が立っている。
「ふっ、予想外ではあったが、君の速度では俺を出し抜けんさ。このまま時間一杯まで、逃げ切ってみせる!ふははははっ!」
(に、似合っとる……)
あまりの真面目さゆえに完全にヴィランになりきっている飯田の様子に、思わず苦笑してしまうお茶子。
(奥の手もダメやった……もう次のチャンスは……)
両者肩で息をしながら距離を取る。
ここまでの戦いは恐らく互角。
しかし二人には決定的な違いがあった。
(……っ、やっぱり……かっちゃんはすごいや)
既に汗まみれになり、肩が大きく上下している出久。対する爆豪は、呼吸こそ乱れがあるが、まだまだ余裕がある。加えて彼の個性は汗が出れば出るほど優位になる。
(長引くのはまずい……けど、全く攻めきれていない)
(このまま行きゃあ、俺の優位は決定的になる)
普段の言動からは想像もされないが、彼、爆豪もまた、相手をよく見て、冷静に思考を巡らせるタイプである。
出久の急激な成長、そしてあの時見せた爆発的な力。それらを考慮した上で、自分が優位であるという答えを出した。
もちろん、それは間違いではない。
いくら出久がオールマイトやゼロと特訓していたとはいえ、その期間はまだ短い。対する爆豪は、個性の制御のためにも、トップヒーローになるためにも、常にトレーニングを怠ることだけはしなかった。
時間というあまりにも残酷な土台の差が、二人にはあった。
加えて天性の戦闘センスに機転。
果たしてこれが一年生の実力なのか、そう思われても仕方がないほど、爆豪は恵まれている。
(だが……このまま勝つんじゃ意味がねぇ。あいつはまだ、本気の一撃を出しちゃいねぇ……!)
ニヤリ———と、爆豪の口の端が釣り上がる。
「なぁゴルァデクよぉ……なんで個性使わねぇんだ?」
「……」
「個性なんか使わなくても、俺に勝てるってか?……んだそれ……舐めプかよおい……」
ゆっくりと、爆豪が片腕をあげて出久に向ける。手榴弾の形をした小手には、本物のような安全ピン、そして照準を定めるためのスコープ……
(っ、まさか!)
「テメェは要望を出してねぇらしいからねぇだろうが、ヒーローのスーツは特殊なチューニングも依頼できるのは知ってるよなぁ?」
空いている方の手で安全ピンに手をかける爆豪。
あれはやばい。
本能的に出久の身がすくむ。
「こいつが俺の要望通りの作りになってるなら、時間が経てば経つほどこいつの中の爆発力が上がってるってわけだ……この意味、分かるよな?」
ゾクリ———
殺気にも似た視線をぶつけられ、背筋が凍る。
『待ちたまえ、爆豪少年!それは危険すぎる!殺す気か!?』
「当たんなきゃ死なねぇよ!なぁデクゥ!?」
オールマイトからの制止の声も聞かず、爆豪が安全ピンを抜き放つ。
咄嗟に出久が壁に体を寄せる。
瞬間、襲ったのは恐ろしいほどの熱と、凄まじい爆風だった。
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あまりの激しい揺れに、兵器を守る飯田も、それを確保しようとするお茶子も思わず動きを止めてしまう。
「な、なんだ?」
「今の……デクくんたちの方?」
「爆発音からして、爆豪くんの攻撃だろうが……」
爆豪たちがいるのは一回。こちらはビルの最上階。それなりに離れているにもかかわらず、その戦いの影響がこちらにまで来ている。
「一体……下ではどんな戦いが?」
(デクくん……)
立ち込める土煙に咳き込みながらも、なんとか体を起こす出久。目を開けると、信じられない光景が広がっている。
先程まで彼がいたはずの廊下、その一帯が綺麗に吹き飛ばされていた。背後の壁も大穴が空き、爆風に耐えられなかったのか、右半分のスーツはボロボロになっていた。
(これが……かっちゃんの……全力?)
今までに彼の個性は何度も見て来た。身体能力測定の時のデータだって、ちゃんと考慮していたはず。なのに、今の彼の攻撃は、そのデータなんかとは比較にならないほどだった。
「は、ははっ!スゲェな、こりゃあ」
ビクリと体が震える。声の主、爆豪がゆっくりと出久の方へと歩みを進める。
「個性も身体機能の一部、故に使える範囲にも限度がある。俺の爆破もそうだ。ノーリスクで打てる火力には限度がある。だから俺は、このスーツでそれを補った……最大火力を、リスクなしで打てるようになぁ!」
勝てない……少なくとも今は。
その瞬間、出久は思ってしまった。
ワン・フォー・オールを使えばなんとかなるかもしれない。いや、むしろ使わなければどうにもならないと言える。けれども今の自分がワン・フォー・オールを使えば、
(相澤先生が言ってたように……動けなくなる)
故に出久は個性を使わないと決めていた。爆豪に当ててしまえば下手をすれば殺してしまう。だが当てずに怯ませることができたとて、自分が動けなくなり、そうなれば上で戦っているお茶子が危なくなる。
(考えろ……どうすればいい……勝利条件を踏まえ、今の自分の取り得る方法は何だ?)
「なぁ……お前も個性使えよ、デク……しっかり、ケリつけようじゃねぇか!」
『爆豪少年!次にその大火力を使った場合は失格とみなす。兵器を守るための建物をヴィランが壊すなんて、悪手もいいところだからな。大幅減点だぞ』
今にも飛びかかりそうな爆豪を諌めるかのように、オールマイトの声が響く。チッ、と小さく舌打ちする爆豪。
(最大火力はもう使えないか……だが、今のでデクの野郎の危機感を煽ることには成功した……あとは、)
「止められない程度に、ぶっ飛ばしてやらぁ!」
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考えをまとめる暇も与えないかのように、爆豪が出久に飛びかかる。慌てて思考を中断する出久。
(かわせない……カウンター!)
タイミングを見極め、拳を繰り出す出久。先程の投げ同様、タイミングはぴったり。相手はなすすべもなく吹き飛ばされる……はずだった。
相手が、爆豪でなければ。
振りかぶった腕とは逆の腕で、小さな爆発を起こす。それによって起動を無理やり変え、出久の拳をかわす。
「馬鹿の一つ覚えかよ!んなもん、そう何度も通用するわけ、」
出久の背中に爆発を浴びせ怯ませる。その隙に腕を掴む。爆発の勢いを乗せながら、力任せに振り抜く。
「ねぇだろうがよぉ!」
お返しのつもりか、先程とは逆に出久が背中ながら地面に叩きつけられる。
『流石に強いな……オールマイトの個性も、俺の力も使っていないとはいえ、ここまでお前が苦戦するとはな』
(そうだ……かっちゃんがすごいなんて……昔から知ってたことじゃないか……くそっ……まだ、届かないのか……?)
「ぶっ飛べ!」
地面に叩きつけられ、その衝撃で浮かび上がる出久の体。それに照準を定め、爆豪が手のひらをかざす。
「死ねぇ!」
強力な爆発が出久を襲う。大きく吹き飛ばされた体が、壁に叩きつけられる。崩れ落ちる出久。
(このままじゃ……負ける……)
意識が朦朧とし始める中、出久がなんとか顔を上げて爆豪を見る。
(……ここって……確か……)
「……麗日さん」
『デクくん?どうしたの?』
「ごめん……僕じゃまだ、かっちゃんを倒せそうにない……だけど……この勝負に勝つ方法を思いついた」
『えっ?』
「僕が合図を出す……だから、頼んだよ」
小声で作戦を告げ、通信を切る。痛む身体に鞭を打ち、なんとか立ち上がる出久。
「あぁ?まだ立つのかよ。いい加減ぶっ倒れろや」
「……かっちゃん……君は凄いよ」
「あ?」
「正直、何度君には敵わないと思ったことがあったかもわからないくらいだ」
ギュッと拳を握る。
「だけど、だからこそ、倒れられない。倒れたくない!」
顔を上げ、正面から爆豪を見据える。その表情を見た爆豪の顔が、忌々しげに歪む。
「お前、やっぱ舐めてんだろ……それ……俺に勝てるつもりかよ」
「勝てるつもりとか、そういうことはわからないけど……」
やるなら、今しかない!
「君が凄い人だから!勝って、超えたいんじゃないか!バカヤロー!」
「そのツラやめろや……クソナード!」
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同時に相手めがけて駆け出した二人の様子を、モニターから見ている他の生徒はハラハラしながら眺める。
「これ、やばいんじゃねぇか!?」
「このままでは、どちらも大怪我をしてしまいます!」
「止めた方がいいんじゃねぇのか、なぁ先生!」
切島の言うことは最もである、そう思いながらも、オールマイトはそれをすることができずにいた。彼の、緑谷出久のあの表情を、見てしまったから。
ヒーローになりたいと言ったあの時、爆豪を助けに飛び出したあの時、入試で少女を助けるために飛び出したあの時。その時の表情と同じ、激しい激情。
(ヒーローになりたい、誰かを助けたい。それ以外の時に見せる、初めての激情……きっとこれは、君の歩む未来にとっての、必然なのだろう)
オールマイトと同じように感じていたのはもう一人いる。
『越えるべき目標。立ち塞がる壁。誰よりも近くで見続けてきた幼馴染……出久、この戦いを経たら、お前はきっとさらに大きくなれる。それに……あいつもな』
「うぉぉぉぉおっ!」
「でぇぇぇぇあっ!」
拳を握る。
掌が燃える。
振りかぶられた両者の利き腕に、力が集約されていく。
『双方、そこま』
「行くぞ!麗日さん!」
オールマイトの声がしたような気がした。
でも、そんなことは今は関係ない。
集中しろ。
(タイマンでは、まだ到底敵わない……でも……勝つために、僕にできることを!)
「
燃えるように赤く発光する掌が眼前に迫る中、出久が腕を腰まで引き寄せ、構えを変える。そのままの勢いで踏み込む出久は、爆豪の腕が触れるまさにその瞬間に、腕を真上に振り上げる。
「
突然真上で巻き起こる爆風に、爆豪の瞳が見開かれる。
天井を突き破るように、激しい衝撃波が飛ぶ。一階、また一階と天井をぶち抜きながらも、その勢いは止まることがない。ついにビルの屋上さえもを突き破る。
当然、その衝撃は上の階で戦闘を行っていた飯田とお茶子の元にも影響を及ぼす。
「ぐおおっ!?」
突然の衝撃に、飯田の動きが止まる。一方、作戦を事前に聞いていたお茶子は、その止まった隙を見逃さない。
「作戦通り!おりゃあ!」
個性で浮かした柱を飯田目掛けてぶん投げる。咄嗟に高速移動でかわす飯田。しかし、柱が彼と核とを分断する。
「なっ、しまっ」
回り込もうにも既に床は完全に分断されてしまっている。普通なら超えられないこの床の穴も、彼女には関係ない。
「解除……回収!」
個性を解除し、核兵器を確保するお茶子。条件達成。試合終了である。
「あ〜!核兵器がぁぁっ!」
はい、そんなわけでひとまず二人の対決は終わりです
この辺りはあまり弄ることはしませんでしたが、その理由は後の展開のためというやつです
まぁ、今回もゼロが空気だったというね…… >うそーん