ゼロが……
聞こえてきたのはチームを組んでいた飯田の声。その叫び声も、どこか虚しく聞こえる。天井の穴から見える青空を見上げながら、爆豪が唇を噛みしめる。
「そぉいうことかよ……テメェ……ハナっからそのつもりで……」
今の爆発的な威力。自分の最大火力並み、いやそんなものではない。明らかにそれを上回る出力の一撃。そんな切り札のようなものを、出久は自分に向けようとはしていなかったのだ。
最初から真っ向勝負と見せかけて、自分の意識を最後まで自分に引きつける。そしてその隙に、上にいるパートナーに勝利をつかませる。
初めから、今の攻撃は、自分のことなど見ていなかったのだ。
「やっぱ舐めてんじゃねぇか……てめぇはっ!」
「使わない……つもりだったんだ……」
聞こえて来るのはひどく弱々しく掠れている声。
「まだ……使えないっ、から……力が制御できなくて……もう、動けない、から……」
煙が晴れて現れた出久の姿は、酷いの一言だった。振り上げられた右腕は晴れ上がり、今は力無くだらんと彼の右側にぶら下がるだけ。爆豪の一撃が炸裂したのは彼の左腕。咄嗟のことながらも、彼はしっかりと防御の姿勢を取っていた。それでも、その腕もまた、酷い痣や火傷が見える。
耐え難い痛みに出そうになる叫びを必死に堪え、涙を流しながらも出久は語る。
「言われてたから……動けなくなるだけだって……それじゃあヒーローには、なれないって……でもっ、でも!これしか……この方法しか……思いつかなかった!」
勝ちへの執念なんかとはとても違う、恐ろしい程の何かに、爆豪が思わず息を呑む。
力無く両腕が垂れ下がり、出久の体が崩れ落ちる。その体が地面に着いたその瞬間に、
『ヒーローチーム……WIN!』
オールマイトによる結果の発表が行われる。
しばらくの間
(……勝った……のかな)
『まぁな。一応、あの子がしっかりやってくれたみたいだぜ』
(そっか……)
気を失った出久の意識の奥底に、ゼロが語りかけるのが聞こえる。かろうじて残されている意識が、勝利をもぎ取ったことを認識する。
『また無茶しやがって』
(こうでもしないと、勝てなかったから)
『かもな……で?勝ってみた感想はどうだ?』
(……やっぱり、かっちゃんは凄いって、改めて思わされたよ。今回のは、あくまでルールに救われた上での勝利だ。それに、麗日さんがいなかったら、無理だった)
『そうだな。お前が弱いわけじゃないが、あいつの方が上だったってことだな。で?その結果を踏まえてどうする?』
(勿論、挑み続けるよ。いつか超えられるその日まで……それが……僕の……)
『流石にこれ以上はきついみたいだな。今は寝てろ』
僅かに残っていた意識が遠のいていく。今度こそ完全に、緑谷出久は、気を失ったのだった。
『身体の方はともかく……無茶のしすぎで精神が疲れきったか……暫くは寝かせた方がいいな』
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倒れていた出久を動かすために、オールマイトが建物へとやって来る。二人の激突した部屋へと立ち入ると、目に入って来たのは呆然と出久を見つめ、立ち尽くしている爆豪。
爆豪に近づき、その肩にポンッと手を置く。
「爆豪少年……残念な気持ちはあるだろうが、君は戻りたまえ。ついでに麗日少女と飯田少年もすぐに戻るように伝えてくれるかい?」
「……ぁぁ」
唸るような返事を1つ。最後に出久のことを視線の端で見てから、爆豪は上の階に向かって天井の穴を使い、飛び上がって行く。
(後で彼とも話す必要があるかもしれないな……さて、)
爆豪を見送ってから、オールマイトが視線を出久に向ける。
(流石に無茶をしすぎたか……無理もない。ワンフォーオールのフルパワーに加え、爆豪少年の全力の爆発をその身に受けたのだから)
と、気を失っているはずの出久が身じろぎする。ゆっくりと身体を起こす出久。徐々に傷が治っていくのが見える。
(これはっ!?いや、これは緑谷少年ではない……)
「ゼロかい?」
『ああ。流石にもう見ただけで分かっちまうか』
「あまりにも雰囲気が違いすぎるからね」
『そりゃ仕方ねぇだろ。俺と出久じゃ、性格も育ちも、経験も違いすぎるからな』
経験のところが、ただ単に人生の経験ではないと思ったのは、おそらく間違っていないだろう。明言したわけではないが、ゼロは告げたのだ。
自分と出久では、くぐり抜けてきた修羅場の数が違うと。
彼の纏う時折陽気でありながらも、鋭く研ぎ澄まされた刃のような気迫は、その戦いの中で培われたものだろう。それくらいはわかる。プロヒーローの中には同じような人もいる。
(そんな彼がこの世界に来るとは……私が想像しているより悪いことが起こるというのか?)
心に生じた不安を拭い去るように、オールマイトは出久、もといゼロへと歩み寄る。
「一先ず次の組へと移りたい。もう動けるのかい?」
『まぁな。ただ、出久の精神の方がくたびれちまってる。当分は起きねぇぞ。しっかり休めば問題はないから、心配もいらねぇ』
「むぅ、仕方がない。暫く君が代わりに授業に出てくれるか?」
『ああ。他の連中の個性をじっくりと見る、いい機会でもあるしな』
一先ず出久も無事らしいことを確認できたオールマイトは、ゼロの背中を押すようにしながら建物の外へと向かった。
しかし、先ほどとはまた別の不安が一つ。
「……ところでゼロ。君はちゃんと緑谷少年を演じきれるのかい?」
『あ?何言ってんだよ。俺に任せとけって』
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「デクくん!やったよ、見事な作戦勝ち!デクくん頭いいんだね」
先に出ていたらしいお茶子が、出久を見かけて駆け寄る。ハイタッチをしようとしているのか、手を挙げている。
『おっと、気をつけな。俺に触れると、火傷するぜ、って
「デクくん?」
「オールマイト先生!?いきなり緑谷くんを叩くなんて、何事ですか!?」
「あ、ごめん」
『っ〜……本気じゃないのは分かっても痛い……』
早速出久らしさのかけらもない言動に、思わずオールマイトがツッコんでしまったのは仕方がないといえよう。呆然としていた爆豪は、幸か不幸か、そんなやりとりには気づいていなかった。
「さて、気を取り直して反省タイムといこう。見学者の諸君、今回最も好成績をもらえるのは、誰だと思う?」
オールマイトの問いかけに対し、真っ先に手を挙げたのは、推薦組の1人、八百万百。個性あり体力テストでは、種目に合わせたものを個性で創造するなど、かなり応用性高さを見せた彼女はどう答えるか。オールマイトが期待を込めて指を指す。
「八百万少女」
「総合的に判断したところ、飯田さんだと思いますわ」
「ふむふむ、その理由は?」
「まず爆豪さんは緑谷さんへの執着から起こした単独行動、室内での大火力、そして飯田さんとの連携を怠ったことから、大きくマイナスでした。本来の目的を忘れ、熱くなりすぎた結果ですわ。次に緑谷さんも同じく大火力の使用。彼の場合、一応は作戦に織り込んでいたことや、それが逆転のきっかけを作ったという功績でもありますが、あまりにリスクが大きすぎます。最後に麗日さんですが、訓練ということに甘えていたが故のミスや行動、緊張感のなさから、いくつもチャンスを逃していました。実戦意識が足りなかったかと」
予想していたよりもはるかに詳しく分析してくれている彼女に、思わずオールマイトも苦笑してしまう。これでは自分が評価する必要があるかどうかさえわからなくなって来る……
「その点、飯田さんはしっかりと核の争奪戦を意識した故の下準備、ハリボテを核として扱った故の慎重さなど、どれも実戦をしっかりと想定した動きでした」
「う、うん。まさにその通りだね。ただ、一つだけ付け加えるなら、飯田少年に唯一足りなかったのは、柔軟性だな。ガチガチの頭じゃ、咄嗟のことに対応できなくなるし、視野が狭くなる。それさえ克服すれば、君は文句なしのヒーローになれるさ」
「恐縮です!」
先程までの敗北に対する落ち込みもどこかへ消え、嬉しそうな飯田。一方同じチームの爆豪はというと、
「…………」ギリィ
強く、強く歯を食いしばり、一言も発さなかった。
『流石は推薦組……よく見てやがる。個性もかなり便利なものだし……出久の為に、あれを頼むのもいいかもな』
八百万のことを見定めながらも、出久の特訓のことまで考えるゼロ。なんだかんだ言って、立派に師匠をやっていると言えるかもしれない。
『さてと……問題はもう1人の推薦組か……』
一目見たときから分かった。こいつの個性は別格だと。それこそ全力で振るわれるワン・フォー・オールとまではいかなくとも、並みの個性とは比較にならないものだと。
———そして、その確信は証明された。
画面に映った光景に、誰もが言葉を発せなかった。
一面の氷景色。
ほんの一瞬の出来事だった。
彼が壁に手を触れた直後、建物全てが氷に覆われたのだった。
ゆっくりと核に近づいた彼は、守りについていたヴィラン役に一言放つ。
「悪りぃな。レベルが違いすぎた」
『轟焦凍……氷と炎……この中では、最強かもしれないな……面白れぇ』
密かに闘志を燃やすゼロ。他の誰もが轟の圧倒的な力を見て勝てないと思う中、彼だけは瞳の奥に炎を灯していた。
轟がカメラの方に視線を向ける。
一瞬、まるで画面越しに2人の視線が交わったかのようだった。すぐに轟は視線を外し、戻り始める。
『体育祭だったか?その頃が楽しみだな』
その後の訓練においても、クラスの生徒全員が張り切っていたのは言うまでもないことである。
(最初の2人の戦いに刺激されたかな?それにしても、このクラスはいい感じの卵が揃っているじゃないか。彼にとっても、いい刺激になりそうだ)
クラスに手応えを感じ、初授業でなにやら自信をつけたオールマイトだった。
いやぁ、早くUSJ行きたいんですけどね〜
もうちょっとしたら行けるから、頑張るか〜