いや、違うんですよ、サボってたんじゃないですから
まぁそんなこんなで、続きが一応できたので
「それじゃあデク君、行こっか」
「うん」
勝負始めの合図が鳴り、お茶子が出久の方を向く。
小さく頷く出久。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
大丈夫。
今の僕は、あの頃の僕じゃない。
ヒーローになるために、あれだけ研究して、オールマイトにゼロから沢山修行をつけてもらったんだ。
かっちゃんには、負けたくない……負けられない!
キッと視線を鋭くし、建物の中へと入って行く出久。マスクに隠された表情に怯えはなく、感じられるのは強い闘志。
そんな出久の様子に、お茶子も思わず気を引き締める。
「なぁ、どっちが勝つと思うよ?」
「俺は爆豪・飯田組だな。入試じゃ、ツートップだったし」
「爆豪の個性は戦闘向きの派手なやつだしね」
観客席、というよりはモニタールームと言うべきだろう、そこからクラス全員がこの勝負の行方を見守っている。
ヒーロー基礎学最初の授業、その最初の組み合わせということもあり、必然、注目と期待が高まる。
「爆豪さんは爆破、飯田さんは脚のエンジンによる高速移動能力、麗日さんは物体の無重力化、でしたわね」
「そういえば、緑谷の個性ってなんなんだろ?」
「この前の見たら、超パワーっぽかったと思うけど」
「この前飯田は肉体活性、とか言ってたぜ」
身体測定の時からわかりやすかった3人に比べ、出久が個性を使った回数は少ない。身体測定でもなかなか個性を見せなかった出久が果たしてどのような戦いを見せるのか。それもまた彼らの注目を集める。
そしてもちろん、彼のも……
(さて、いよいよ実戦形式だ……私の知らない君の修行の成果、見せてもらうよ、緑谷少年)
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周囲を警戒しながら、出久とお茶子は建物内部の入り組んだ通路を進む。
(かっちゃんの性格からして、待っているだけなんてことはない……だから、きっと!)
最初の曲がり角に差し掛かった瞬間、出久がお茶子を庇うように背中に隠しながら、上を向く。と、まさにその瞬間、角から現れた爆豪が出久めがけて手榴弾の形をした小手を振り下ろす。
「見つけたぞ、デクゥゥウ!」
(読み通りだよ……かっちゃん!)
振り下ろされる腕に怯えることなく、むしろ一歩踏み込む出久。予想外の行動に爆豪の目が驚きに見開かれる。
『いいか、近接戦闘になった時に重要なのは、相手の呼吸を読むことだ』
思い出すのは浜辺での修行。ただがむしゃらに腕を振るうのではなく、戦闘技術を叩き込むための修行。
『特にチャンスなのは、大振りの一撃だ。これは、攻撃も防御も同じことが言える』
『攻撃も、防御も?』
『そうだ。お前が攻撃する時に決まれば、流れを完全に自分に持っていくことができるからな。そして防御の時は、反撃しやすい』
『反撃?』
爆豪の懐に飛び込み、その腕を掴む。
『敵の大振りが来た時取るべき行動は2つ。大きく距離を取り態勢を整えるか———』
(———内側に潜り込んで、カウンター!)
相手の勢いを殺さぬまま、自分の体重をかけて相手の腕を引く。腕につられるように!爆豪の体が引っ張られ、地面に叩きつけられる。
「がはっ!?」
何が起きたかわからなかった。
先制攻撃を仕掛けるために、自分から接近したが、以前までのデクなら、自分の攻撃を恐れ、そこに隙が生じるはずだった。
けどどうだ?今の状況は?
なぜ自分が見下ろされている?
なぜ痛みを感じている?
投げられた?自分が?
……ありえねぇ!
「麗日さん、行って!」
「デクくん?」
「かっちゃんとは……僕が戦うから」
振り返りながら、左手の親指をお茶子に見えるように立てる出久。その決意を感じ取った彼女に、彼を止めることも、加勢することも出来るはずがなかった。
「わかった。兵器の回収は任せて」
お茶子が走り去るのを見て、出久が視線を前に戻す。丁度その瞬間、顔面めがけて、爆豪の掌が迫っている。
(やばっ!)
咄嗟に顔をそらすことでなんとか顔面直撃をかわすが、爆風と熱風が頬を襲う。暑さに思わず目を細めると、
「なめんなよ……デク!」
顔の左側面に衝撃が走る。空中で体勢を変えた爆豪の蹴りが、出久に炸裂する。廊下を滑るように弾かれる出久。
「はっ!テメェ一人で俺とやるってか?……ふざけてんのか、ゴルァ!?」
追撃せんと飛びかかる爆豪。出久は両手をバネのようにし、体を起こすことで攻撃をかわす。一旦距離を取り睨み合う両者。
「チッ……かわすんじゃねぇよ、クソが。大人しくやられやがれよ、なぁ、デク」
「……」
「おい、なんか答えろや」
「……いつまでも、やれっぱなしの僕じゃない」
「あぁ?」
「いつまでも出来損ないの『デク』じゃない」
『でもデクって……頑張れって感じがして、なんか好きだ、私』
あの言葉がどれだけの衝撃だったのか、きっと言った本人は知らないし、想像も出来ないだろう。でも、その言葉は、まるで魔法のように、自分の考えを変えてくれた。
今まで、この名前は僕を縛るものでもあった。
憧れるだけで追いつけない、それが僕の立場なんだって。
でも、今は違う!
「今の僕は、頑張れって感じの『デク』だ!」
そう叫び、出久は地面を蹴る。走る先はもう一人の憧れ。
壁は常に越えるためにあると言うのならば、自分はその壁に挑むしかないのだろう。
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爆音が響き、熱風が荒れる。
幼い頃からこの個性のおかげで、彼は周囲とは一線を画す存在だった。
派手さ、威力、応用性。
どれを取ってもヒーローとして活動するならば重宝される要素が、申し分なく彼にはあった。
実際、入試は文句なしの一位通過。体力測定でも、推薦組を除けば学年でもトップクラス。
一度も挫折らしい挫折なんて、彼はしたことがなかった。
それこそが彼の自信。彼の誇り。
何人たりとも、自分を揺るがすことなんてありえない。
そう思っていたというのに……
(どぉなってやがる……なんでこいつが……俺についてこれる!?)
両腕を弾かれ、がら空きの胴体を両の掌が叩き怯ませる。その隙に足が払われ、体勢を崩される。迫り来る拳をかわすため、咄嗟に爆破で相手の上へと飛ぶ。
腕を振りかぶり、小手の部分を叩きつける。相手の体が地面と小手に挟まれる。続いてかかとを振り下ろすも、転がるように避けられる。
同時に振り抜かれた拳がぶつかり合い、まるで鍔迫り合いのように動かない。
間近で見る相手の顔は、決して恐怖を無理やり押し殺した者のそれではない。あるのは強い決意。勝つつもりの瞳。それがたまらなく腹立たしい。
(なんで……お前が……まだ立ってるんだよ……デクゥ!?)
本当に自分の知る
あいつが格闘の技術なんて知るはずがない。緑谷出久は格闘技をしたことはないのだから。だが今目の前の敵の動きは素人のそれではない。
自分の知る限り、どんな拳法の型とも違う。どこか燃える獅子のような気迫まで覚えるこの拳法を、果たしてどこで習得したのか。
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モニタールームで戦いを見守る生徒たちも、思わず手に汗を握っている。楽しみにしていた授業だったのは間違いないし、かなりテンション上がっていたのも否めない。
けれども、こんな戦い……誰が予想しただろうか。
「おいおい、これ授業だろ?」
「まるで修羅の戦いだな」
「にしても爆豪はすげえけど、緑谷もなんだよ?」
「互角、でしょうか」
「ケロ。二人とも、激しい戦いね」
幼馴染同士の戦いは、とても授業の範囲内のそれとは思えないほどに、白熱していた。それに驚いているのは、クラスメートだけではなく、
(あの動き……そうか。ゼロとの特訓で身につけたものか……君には驚かされてばかりだよ、緑谷少年……私の想像以上の成長だ)
笑顔を一切崩すことなく、オールマイトは驚愕の言葉を心の中で呟いた。
うん、なんか今回はゼロの出番がなかったですね
じ、次回にはある、と思いたい