・波の国編は10話で締めたいと思います。
このタズナ抹殺任務さえ遂行すればもうガトーに従わなくて済む。任務完了後あの男から契約通り大量の報酬を払ってもらい、また桃地再不斬と共に息を潜めながらの逃亡生活に戻ることとなるだろう。
白にとって、逃亡生活はそれほど苦ではない。主たる再不斬が傍にいるのならどれだけの苦難があろうと苦痛になんてなりはしないのだから。
「さぁて、まずは邪魔者の排除からだ」
再不斬は冷徹無比な
既に再不斬と白はターゲットのタズナが働く仕事場に到着していた。まだタズナは訪れていないようだが、じきに現れるだろう。用心棒の木ノ葉隠れの忍も連れて。
彼らが現れる前に戦場と化すこの現場を綺麗にしなければならない。また、再不斬の言う邪魔者の排除とは橋で働く者を『皆殺し』にするという意味である。
「待ってください 再不斬さん。そんな雑用は僕がしますよ」
一般市民をあまり傷つけたくない白は自ら掃討を申し出た。彼の手には凶器など一切持っていない。素手で彼らを無力化する気なのだろう。
「無血制圧か。相変わらず欠伸が出るほど甘いな………まぁいい、好きにしろ」
「はい」
再不斬も惨殺にそこまで拘りがあるわけではない。無力な人間を相手に力を振るったところで何の達成感も満足感も得られないからだ。
了解を得た白は素早くタズナの部下達を鎮圧していく。そして数分も満たない内に制圧が完了した。流石に手際がいい。己の道具として実に誇らしいものである。
「奴らの墓標の準備は整った。では最後の仕上げといくか、白」
この橋に近づいてくる多数の気配に満面の笑みを浮けべて再不斬は言う。それに暗部の仮面を被っている白はただ無言で頷いた。
◆
「な、何事じゃコレは…………!!」
第七班と第一班(寝坊したナルトを除く)に護衛されて橋へと着いたタズナは辺りの惨状を見て絶句する。今までガトーの圧制を悉く凌いできた自慢の仲間達が、橋の上で力なく倒れ伏しているではないか。
「………落ち着け。気絶させられているだけだ」
綺礼は近くに倒れていた作業員の一人、二人を診て命に別状がないことを確認する。どうやら手刀を用いて一瞬のうちに意識を刈り取られたようだ。争った形跡も無し。抵抗することも敵わなかったのだろう。
これが敵襲だということは全員がすぐに理解できた。彼らは即座に離脱を試みようとしたが、チャクラが練られた濃い霧がそれを阻む。
「このチャクラは………あの鬼人、やっぱり生きていたか」
禍々しいとさえ言えるチャクラにこれほどの大規模な霧隠れの術。誰が術者なのかは容易に断定できる。カカシは溜息を吐いてクナイを取り出した。
「第一班、第七班 各員戦闘準備!」
カカシの号令で素早くタズナを護るように第一班と第七班は円の陣を取った。
『久しぶりだなカカシ』
何処からともなく桃地再不斬の声が聞こえてくる。相手が喋っているにも関わらず居場所の特定ができない。
『しっかし、まだそんな餓鬼共を連れ回しているのか』
微かに震えている白野とサスケに狂人の視線が飛ぶ。サスケは先ほどから俯いていて顔が見えず、白野は見るからに顔が青くなっていた。
『可愛そうに………震えているじゃないか』
その言葉を最後に、橋の上にできていた水溜りから10体もの再不斬の水分身が現れた。分身と言えどあの再不斬の姿をした実体のある敵だ。今までのサスケなら戦意を喪失し、為す術もなく殺されていただろう。そう、
「この震えは――――武者震いだよ」
クナイを片手に再不斬の水分身を一蹴するサスケ。スピード、反射速度 共にこれまでのサスケとは比にならない。一週間程度の月日でかなりの成長を遂げていた。
「ほぅ、これはまた随分と早い成長速度だな。水分身を見切るとはやるじゃないか」
霧の奥から現れた桃地再不斬は素直にサスケの成長に驚き、賞賛する。そして再不斬の隣に立っている仮面を被っている少年もサスケを興味深そうに見ていた。
「
「そうみたいですね」
◆
カカシと綺礼の憶測通り、あの仮面を被っている少年は再不斬の仲間だった。追い忍と名乗っていたというのに堂々と再不斬の隣に立っているのが何よりの証拠。
「………また会いましたね」
彼はメルトリリスを見て懐かしそうに呟く。
「その声、あの時の忍は貴方だったのね。まさか男だったなんて驚きだわ」
「よく言われます」
「―――ふふ」
メルトリリスは彼の思わぬ正体に笑みが零れる。
「もう逃げはしないわ。確実に貴方を仕留めてみせる」
いつぞやの屈辱を拭うべく闘志を燃やすメルトリリス。しかし、サスケがそれを阻んだ。
「まて。奴の相手はこの俺がする」
「はぁ!?」
「仮面野郎め………下手な芝居しやがって。俺はあんなスカした野郎が大嫌いなんだ」
この時、うちはサスケという男を知る者達はサクラ以外『お前が言うな』と心のなかで突っ込みを入れた。
「きゃー! サスケくんかっこいいいい!!」
「ちょっと待ちなさい! 先約は私――――」
目を輝かしているサクラを押しのけ異論を挟もうとしたメルトリリスは、硬直して息を呑んだ。首筋に刃が迫る音。先ほどまでまるで気づかなかった異質な存在感。そして明確な殺気。
“あ――――死んだわ私”
呆気なく背後を取られた自分に嫌気を差しながら、メルトリリスは冷静に迫り来る自分の死を受け入れてしまった。未熟すぎる。自分としたことが、こんなことで大きな隙を作るなんて。
「メルトリリス!」
「メルト!!」
綺礼とシロウは咄嗟にメルトリリスの背後に迫っていた者に勢いよく蹴りを入れる。
「―――ぬぅ」
危機一髪、暗殺者はメルトリリスを仕留める前に二人の強烈な蹴りによって胴体を貫かれた。
「この手応え………砂分身か」
人にしてはあまりにもモロ過ぎる。そしてこの蹴りが入った時に感じた感触は砂。ならば風隠れに伝わる砂分身と判断して妥当というもの。
綺礼の予想は正しかった。いとも容易く胴体を貫かれた者は物言わぬ砂となって消失した。
「………失態だわ」
メルトリリスは意識を切り替えた。口惜しいが、今は私怨に執着している場合ではない。仮面の男の命は諦め、目の前の脅威に全力で警戒しなければ己の命を刈られかねない。
「いや惜しい惜しい。あと少しだったのだが」
濁った霧にぽつりと浮かび上がる人の影。露出の少ない中東諸国の装束に浅黒い肌が目立つ傷だらけの手。髑髏の仮面を被っているため表情が読めない大柄の男だ。
歴戦の猛者と一目で分かる身のこなし。枯れた声から発せられるのは静かなる殺意。気を抜けば首を持っていかれるビジョンが容易にできてしまう。
「その純白の仮面………貴様、砂隠れ特殊暗殺部隊“ザバーニーヤ”の者だな?」
独特な匠が施されている髑髏を見た綺礼は確信を持って問うた。
「ほっほっほ。ここは左様……と答えたいところだが、残念。儂は“元”ザバーニーヤの忍よ。これでも一時期だけ
ハサンの名乗りを聞いて苦虫を噛み潰したような顔をする言峰綺礼。また相手がどれだけ拙い相手か理解したシロウは武具が大量に内包されている巻物を強く握り締める。
「………ザバーニーヤは人間のカタチを逸脱した者達ばかりが集められている。奇怪性だけに限れば他里の暗部など足元にも及ばないと言われるくらいだ」
「人間のカタチを逸脱した者達………どういう意味なの先生?」
「その言葉通りの意味だ、岸波白野。奴らは狂気に塗れた肉体改造の末に手に入れられる歪んだ禁術を扱う忍だ。ザバーニーヤに所属している者など、もはや一人たりとて人間と同じカラダの仕組みなどしていない。長となればソレも群を抜いているだろう」
「これはまた酷い言われようだ。まぁ、全て事実なのだから否定はできぬがな」
カタカタと笑う髑髏は薄気味悪いことこの上ない。
アレは相手にしたくないと本能的に警告が発せられる。
「………カカシ。そちらの鬼人と仮面の少年は第七班に任せる。私達はアレをやる」
「了解しました、綺礼先生。第一班の健闘を祈ります」
第七班は鬼人 桃地再不斬と仮面の少年。
第一班は多重人格者 ハサン・サッバーハを相手することとなった。
「岸波白野。お前は春野サクラと共にタズナさんの護衛を任せる」
感知タイプの白野と基礎がしっかりしているサクラの二人をタズナの護衛に綺礼は任せた。
二人はこくりと頷き、タズナの傍に待機する。
「―――準備はできましたかな?」
笑う髑髏はゆっくりと、流れるように近づいてくる。
ダンッ………!!
シロウ、メルトリリス、綺礼は合図も無く同時に動いた。しかし髑髏の男は依然として落ち着きを払っている。よほど己の力に自信があるのだろう。
「先手を撃つ」
巻物内から一丁の回転式拳銃を取り出したシロウは即座に引き金を引いた。
ズガン、ズガンッと重くけたたましく鳴り響く銃声。発射された弾丸は計六発。音速の速度で獲物を殺さんと直進する。
しかし、それを何の問題もなさそうにクナイで迎撃する髑髏の男。弾丸目掛けてクナイを投擲するその正確さもさることながら、投げるまでの動きも流石の一言に尽きる。
「ほー、その年でこれほどまでに異様な射撃が行えようとはな。まるで“かわせぬ”と錯覚すら覚えさせる恐ろしき正確さよ」
「………余裕綽々で対処された後に言われても嬉しくはないのだがね」
「そう言うな若いの。相手が悪かっただけのことよ」
「余裕ぶってんじゃないわよ………ハサン・サッバーハ!」
「おお?」
ハサンの眼前まで近づいたメルトリリスは鋼鉄の具足が取り付けられている脚で首を狙う。
しかし――――
「小さいお譲ちゃんはまだまだ発展途上と言ったところか。腕は悪くないが、所詮 下忍になったばかりの青二才」
「ッぁ!?」
軽く蹴りをいなされ、頭を鷲掴みにされる。
小さな体躯は軽々と持ち上げられ、捕まえられたメルトリリスは必死にもがく。
「メルト!」
「だから言ったであろう? 相手が悪かった…と。いくら腕が立とうが下忍程度で儂の相手が務まるわけがない。そう、儂の相手が務まるのは、上忍くらいでなくてはな」
ハサンはそう言うや否や、密かに背後を取っていた綺礼に向かってメルトリリスを放り投げた。
「貴様………!」
飛んでくるメルトリリスを回避するわけにもいかず、綺礼は小さな体をキャッチするが―――大きな隙を生むのは明白。
「名も知らぬ上忍よ。お主がどれほどこの下忍達の力を信頼していたかは知らぬが、ちと儂のいる戦場に出すには早すぎたようじゃの」
メルトリリスを抱きかかえているため、両手が使えず無防備になった綺礼の前に立つハサン。手には黒光りしたナイフが握られている。
「すまぬが、まず敵チームの頭を叩かせてもらう」
ハサンは己のクナイを情け容赦なく綺礼の首筋に突き刺した。
◆
白は千本針を手にして黒髪の少年サスケの前まで一瞬で距離を詰めた。普通の下忍ならば反応すらできないスピードだが、
「チィッ!」
なんと彼は反応できたばかりかクナイを持って白の千本針を止めて見せた。再不斬の水分身を対処した手際といい、自分の速度に反応したことといい、敵ながら見事と思わざるおえない。
「君のような未来ある子供を殺したくはない。大人しく引き下ってくれませんか?」
「誰が引き下がるか、仮面野郎………!」
「………ふぅ。退かぬというのなら、致し方ありませんね」
主の障害になるのならば排除する。いつも通りに………冷徹になろう。
「僕は、二つの先手を用意しています」
「………二つの先手だと?」
「一つ目は再不斬の水分身によって辺りにまかれた多くの水。そして二つ目に僕が君の片手をふさいでいること」
チャクラを満遍なく周囲の水に与えた白は、彼だけにしかできない術を披露する。
「秘術―――」
なんと白は
「片手で“印”を結ぶだと!?」
予想外の攻撃手段にサスケは驚愕を露にする。しかし、驚くにはまだ早い。
―――ダダンッ!
印を結び終えた白は素早く片足で地面を二度足踏みする。これにより周囲の水は氷と化し、己の武具の一つと為る。
氷は千本針にカタチを変え、宙に浮かび上がり、サスケを囲むよう展開される。
「千殺水翔」
氷の千本針は白の詠唱に反応して勢いよくサスケに飛来する。千殺水翔とは多くの忍を抹殺してきた秘術の一つ。これはかわせる忍は稀である。ましてや下忍の少年がどうにかできるものではない。
「…………な!?」
しかし、その千殺水翔はサスケを仕留めることができなかった。彼は千殺水翔よりも早く、あの場を離脱してみせたのだ。そればかりか手裏剣を3発投擲され、暫し呆然としていた白は急ぎ回避する。
「意外とトロイんだな………アンタ」
“後ろを取られた………!?”
いつの間に背後を取っていたのか、サスケはクナイを持って攻撃態勢に移っていた。
“くぅっ!”
一撃目の打撃は捌き、二撃目の搦め手によるクナイの投擲もかわしたが、三撃目の蹴りには対処しきれなかった。
顔面に蹴りが直撃し、後方に吹っ飛ばされる白。なんとか空中で体勢を立て直して地面に着地するが、あまりにも想定外すぎるサスケの戦闘力に動揺を禁じえなかった。間違いなく彼は下忍の範疇を越えている。
「………白。分かるな。このままでは返り討ちに遭うぞ?」
笑い声を堪える様に言う再不斬。遊びはここまでだ、本気で殺しに行けと言っているのだろう。確かに力を抑えたままで彼を相手にしても返り討ちに遭うだけだ。
「分かりました。本気で行きます」
まさかあの術を下忍相手に使うとは思いもしなかった。そしてアレを出した時、これまで相対してきた忍は確実に殺してきている。
「秘術――――魔鏡氷晶」
千殺水翔よりも早く形成されるは宙に浮く無数の氷鏡。サスケを360度完璧に包囲し、囲むこの世界にあるたった一つだけの鳥篭。これを発動したからには彼は逃げられない。囚われたからには――――死、あるのみだ。
◆
「………ほぅ」
ハサンは物珍しそうに綺礼を見た。ハサンのナイフは確実に綺礼の首を捉えたものの、刃は彼の皮膚すらも傷付けられなかった。まるで鋼鉄以上の金属にナイフを突き刺したような手応え。どれほど鍛えられようが人の皮膚は刃には勝てぬという常識を覆す硬さだ。またナイフを受けた箇所のみ、人の肌とは思えぬほど黒くなっている。このような摩訶不思議な現象を起こすのは忍術しかない。そしてハサンは綺礼が使った術の正体を知っている。
「その術は土遁
ハサンは一旦距離を取り、さぁどう攻略するべきかと頭を捻る。
「その様子から察するに、貴様………雷の性質変化を持ち合わせていないな?」
気絶してしまったメルトリリスをそっと床に置き、綺礼はハサンの欠点を指摘した。
「…………むぅ」
「沈黙もまた答えだ。どうやら貴様と私は相性が良いらしい」
鋼鉄以上の強度を誇る綺礼に対して決定打となる攻撃手段がハサンにはなく、体術のレベルも綺礼が勝っている。そもそもハサンは暗殺を主にする忍である。そこいらの上忍ならまだしも、カカシと肩を並べる実力を持つ綺礼相手だと少々分が悪い。
「一対一ならば、お主が有利だったのは間違いない。しかし、この場には足手纏いの枷が二つある。ならばこの戦場では儂の方が有利な立場にあるということに変わりはない」
「足手纏いの枷か。さて、なんのことだか私には理解できないな」
「ぬかせ上忍。そこで伸びているお嬢さんと、先ほどの少年に決まって………な!?」
ハサンは回転式拳銃を連射してきた下忍に指をさそうとしたが、その下忍の姿が忽然と消えていた。いったいいつの間に………!?
「ハサン・サッバーハ。貴様は一つ思い違いをしている。
――――あの子共は、決して貴様が言うほど弱い忍ではない」
綺礼がそう言い終えた直後、ハサンの足元にある橋の床から二つの手が勢いよく姿を現した。そしてガッチリとハサンの両足を捕らえた。
「ぬゥッ!?」
「なにせ私が教師を勤めているのだ。戦力として使えないわけがないだろう?」
「この術は………心中斬首!」
「ご名答。岸波シロウは私と同じ土の性質変化を持っていた。そこで私の持つ土遁系の術を多く叩き込んでおいたのだ」
ハサンはシロウの手によって橋の裏柄まで体を引きづり込まれ、波の国の海に放り投げられた。
「ぬ、ぬかった…………!」
いくらハサンと言えど、空を飛ぶ忍術など持ち合わせていない。それこそ岩隠れの忍でなければ不可能だ。重力に従い大人しくこのまま落下せざるおえない。
「ぬ………あれは」
己の落下ポイントは橋の下。つまり波の国の海。忍ならばチャクラを足裏に纏い、着地すれば事なきを得るのだが、今回ばかりはそうもいかないらしい。
「あの少年め。なかなかやりおる。まったく粋な真似をしてくれるものよ」
落下ポイントとなる場所には大量の起爆札が用意されていた。これらはもしもの時の為にシロウが予め仕掛けていたものだ。
きちんと建設中の橋に爆破時の影響を与えたりしないよう計算された爆薬量。されど人間を爆殺するには十分足りる。
―――起爆大葬―――
尋常ではない爆炎と爆風がハサン・サッバーハを飲み込んだ。
◆
大橋の下から鳴り響く爆音が白の耳にも届いた。どうやらハサンと第一班の戦闘は苛烈を極めているようだ。対して白とサスケの戦いはどこまでも静かだ。強いて言えば、サスケの悲痛な叫び声と千本針で肉を裂く音だけはよく周囲に響いている。
彼の教師であるカカシは再不斬と殺し合っているため、教え子を助けに来ることさえもできない。もうこの少年に逃げ道はない。
「君は僕の本当のスピードにはついていけない。絶対にね」
自分だけがこの魔鏡氷晶の鏡に入ることができ、自分だけを写す。そして光の反射を利用した移動術は忍の移動速度を遥かに凌駕する。この秘術はたとえコピー忍者で知られるはたけカカシであろうと真似することはできない一子相伝の業なのだ。
「くそっ、落ち着け。どんな忍術にも欠点はあるはずだ………」
サスケは必死になって頭を回転させている。どうすればこの術を破れるのか? どうすれば脱出できるのか? この術の仕掛けはなんなのか?
圧倒的な力の差を思い知らされても未だに彼の戦意は衰えず、起死回生の機会を狙っている。
諦めの悪い子供は嫌いではない。むしろ好ましいとさえ思う。ここで殺し合うことになってしまったことが非常に惜しまれるくらいだ。
「………む」
外から飛来する二本のクナイ。それらは真っ直ぐ自分のいる鏡に向かってきている。どうやらタズナを護衛していた忍二人がサスケを助けようと投げつけてきたようだ。白は何の脅威もないという風に下半身だけ鏡から出し、その二本のクナイを受け止めた。
「ッ…………!?」
しかし、クナイが投擲された別の方向から白の仮面に手裏剣が直撃した。そのまま彼は氷の鏡から抜け落ち地に手をつく。
――――いったい何者だ、と白は手裏剣が投げられた方向を見る。そして、投擲者の正体を知って白は絶句した。
「うずまきナルト! ただいま見参!!」
ドロンと大きな煙を出して現れたのはあの金髪の少年うずまきナルトだった。
自分に手裏剣を当て、仮面を傷つけたことには評価できるのだが、なんとまぁ派手な登場の仕方だ。
「オレが来たからにはもう大丈夫だってばよ! 大体物語の主人公はこういう登場をしてあっという間に敵をやっつけるのだァ!!」
この殺気が満ち合われている戦場のなかでナルトは
彼の肝はかなり据わっているのか。それとも単に天然気質なだけだからなのだろうか。どちらにしてもある意味大物である。
「………ふふ。本当に見てて楽しい子だ」
白はナルトを見て誰にも悟られぬよう小さく微笑んだ。
「よ、助けにきたぞサスケ!」
「なぁ!? おま、このうすらトンカチ!! なんで自分から敵の術中に嵌っちまってる俺のところに来るんだ!? 忍ならもう少し慎重に動け!!」
「なんだとぉ!? 助けにきてやったのになんだってばよその言い草は!!」
派手に登場したナルトは外からこの魔鏡氷晶を破壊しようとせず、なんと魔鏡氷晶のなかに自分から入ってきてしまった。これには白も苦笑い。サスケは本気で怒っているが、無理もないことだろう。
「……………」
彼も戦場に現れてしまったのなら仕方がない。心苦しいが彼も排除しなければいけないだろう。
また白は氷の鏡のなかへと入り、攻撃態勢を整える。
「上等だよ。この鏡が氷で出来てるってんなら、火遁で溶かしてやる…………!」
氷は火に弱い。確かにその考えは正しく、また魔鏡氷晶の対処としては決して間違っていない。火に当てられれば氷は溶けて水と為る。しかし白の魔鏡氷晶は唯の氷にあらず。天才的な能力を有する血継限界の少年が一から作り上げている秘術に、下忍程度の輩が扱う火遁如きに破られるはずがない。
事実、サスケの火遁業火球の術は白の魔鏡氷晶を破れなかった。一枚足りとも破壊できていない。
「まだまだ火力が足りません」
「クソッ………!」
苛立ちを露にするサスケだが、決して恥じることはない。
「その年でそれほどの火遁を扱えるとは大したものです。あと数年、修行をこなしていればあるいは………僕の魔鏡氷晶を破れるほどの火力を手に入れていたかもしれませんね」
そう、サスケはまさしく天才だ。成長速度も、スピードも、扱う術も才に満ちている。だがその才能も完全に開花する前に摘まなければならない。何故なら自分達は戦場で遭い、殺し合いを行っているのだから。
キラッ、と鏡が反射する光が微かに起こる。その瞬間、サスケとナルトは千本針の攻撃を受け膝をつく。
「ぐ………あ……」
「チクショウ、この鏡をどうにかすればいいんだろう!? それなら、全部まとめてぶっ壊せばいいだけだってばよ!!」
敵の脅威性を理解したナルトは独特な印を結び、大量の分身体を召喚した。見たところ唯の分身ではなく、質量の持った分身だろう。恐らく再不斬の水分身と同じ、オリジナルと比べて戦闘力が劣っているものの、列記とした物理的攻撃量がある。
「「「「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」
ナルトと同じ顔、同じ体格をした分身体は周りの魔鏡氷晶に向かって突撃した。たかだか分身体の攻撃如きでこの鏡が破られることは絶対にありえないが、見過ごすことも出来ない。
「遅い、遅すぎます」
「「ぐァッ!?」」
千本針を用いて向かってきた分身体を一体残らず殲滅する。また分身体の対処だけに留まらず、片手間でナルトとサスケにまでダメージを与えた。
「ま、だだ。オレは………ぜってぇに諦めねぇぞ」
ナルトは震える膝に喝を入れて立ち上がる。この絶望的な状況下で、未だ諦めない図太い精神力がその目に宿っていた。
「こんなところでくたばってられるか。オレには、叶えなきゃなんねぇ夢があるってのに!」
「……………」
白は思い出す。この子はこんなことで諦める子供ではなかったことを。またナルトの『夢』の大きさも知っている。だが、自分とて曲げられぬ思いがある。夢がある。
「…………僕にとって、忍になりきることは難しい。出来るのなら君達を殺したくないし………君達に僕を殺させたくも無い」
透き通った声で語る白。彼の言葉に偽りはなく、忍にあるまじき優しさがあった。
「けれど、君達が向かってくるのなら――――僕は己の刃で心を殺し、忍になりきる」
白は忍の苦悩をよく知っている。だからこそ、これほどまでに強いのだ。彼をここまで強者足らしめているのは、決して血継限界だけではない。天性の才能だけではない。忍になりきれる、屈強な精神力があってことそ。
「この橋はそれぞれの夢へと繋がる戦いの場所。僕は僕の夢の為に、君達は君達の夢の為に命を賭して殺し合っている」
千本針を構えて、白は高らかに公言する。
「恨まないで下さい。僕は大切な人を護りたい……その人の為に働きたい、その人の為に戦い、その人の夢を叶えたい。ソレが僕の夢」
感情の籠もった言葉だった。ナルトも、サスケも、殺意をぶつけ合い死闘を繰り広げていたカカシと再不斬も白の発言に耳を自然と傾けていた。
「そのためなら僕は忍になりきる。貴方達を殺します」
純粋な殺意。白の優しい心を捻じ伏せる強い精神力が溢れ出る。
ナルトとサスケは笑みを零した。自分達の相手にとって不足なし。そう、暗に語っている笑みだった。
◆
シロウ達は砂隠れの忍と、サスケ達は仮面の少年と、カカシは鬼人と戦闘を行っている。そのなかで白野とサクラはタズナの護衛を任され、気を抜かず周りを警戒していた。敵は三人だけとは限らない。万が一、まだ他に戦力を敵が隠し持っていた時、対処できるのはこの少女二人のみだ。
“霧が濃すぎる………チャクラも練られ過ぎていて感知が全く役に立たない”
以前なら霧隠れの術中でも感知できていたのだが、今回ばかりはそうもいかない。再不斬が発動した霧隠れの術の密度が前より数段上がっている。鬼人が本気を出したと言うことだろう。ならば半人前の白野の感知など受けつけるわけがない。
「はは………ほんと、怖いな」
気を抜けば場に充満している殺意の渦に意識を飲み込まれかねない。
自分はいつもシロウに護られていた。どんな時も、必ず彼は隣にいてくれた。だが、それはあくまで里のなかでの話である。今は命の奪い合いが行われている任務の真っ最中。シロウも命掛けで戦っている。ずっと自分の隣になどいられるはずがない。
怖い。確かに怖い。それは事実だ。嘘偽り無く、この殺し合いが恐ろしくて小さい体を震えさせている。だが、逃げはしない。逃げることだけはしない。自分が護衛しているのは一個の命だ。護るべき人間だ。タズナは波の国を救おうとしている立派な人で、彼が建設しているこの橋はこの国の希望であり勇気そのもの。それを見捨てて逃げを選ぶなど、誰よりも自分が許さない。
「………護ってみせる」
「ハッ、小娘が。ならばしてみせろ」
背後から聞こえた鈍重な声。突然現れた鬼の殺意。
「そんな――――!?」
再不斬はカカシとの戦闘を一時的に離脱して、タズナを消しに現れた。
サクラも白野と同じで彼が声を出すまで気づいていなかった。対処しようにも動くのが遅すぎる。このままではタズナがあの首切り包丁によって殺害されてしまう。
既に再不斬は刀を振り下ろす動作を始めていた。二秒も掛からぬ内にあの刃はタズナを断つだろう。白野は反射的にタズナの盾になるよう首切り包丁の前に出た。
「ほぅ、身を呈してタズナを護ろうとするか。その意気や良し………!」
白野の行動を褒める再不斬だが、だからといって斬撃の手を緩めるわけがない。首切り包丁の重量×人間離れした鬼人の腕力が生み出す人外の一撃。とても白野が対処できるものではなかった。そう、白野ならば――――。
ギィィンッ!
再不斬の首切り包丁が振り下ろされた。しかし、辺りに響いたのは白野という少女の肉を断つ音ではない。鉄と鉄が打ち合う音だった。
「な………」
必殺を約束された一撃を少女は細い刀で防いだのだ。これに再不斬は目を見開く。
再不斬は云わずと知れた歴戦の猛者。相手がどれほどの実力を持っているのかは一目でだいたい理解できる。そしてこの少女は紛れも無い雑魚である。膨大なチャクラも無ければ、身体能力が高いわけでもない。あの一撃を防ぐ技量も持ち合わせていないというのに。
すぐさま再不斬は自分の一撃を防げた原因を探る。そしてすぐに理解した。先ほどの一撃を防げた原因を。
“………なるほど、あの刀が防いだのか”
白野が手にしている外見上何の変哲も無い刀。しかしその実その刀に付随しているのは一級の呪い。所有者を必ず護るという概念がこびり付いている魔刀だ。
再不斬の一撃を防いだのは白野ではない。あの刀だ。白野に最も適した動きを自動的に行わせ、防がせた。どこの人間が鍛えた刀かは知らないが、見事は業物よ。
「だが二度目は無いぞ!!」
どれほど優れた魔刀であっても、この首切り包丁を上回る業物ではない。忍刀七人衆が代々受け継いできた刀と誰とも知らぬ輩が造った刀とでは格が大きく違いすぎている。それにもう白野はあの刀を動かすことはできない。全力で振るった斬撃を唯の少女が完全に防ぎきれるはずもなく、柄を握る手が先ほどの斬撃による衝撃によってズタズタになっていた。刀の刃も欠け、ヒビが入っている。仮に再不斬の斬撃を受け止めれたとしても、刀身が持たない。
無慈悲に振るわれる二撃目の斬撃。白野は尚も諦めずズタボロな両手で刀を握り締める。健気なものだと再不斬は思う。下忍風情がよく己の前に出たと関心する。だが――――無意味だ。
「ふんっ!!」
全体重が乗せられた二撃目が、白野を襲った。
――――ブシュッ。
今度こそ人肉が断たれた音がした。いつ聞いても悪くない音である。だがそれは女子の肉を斬った音ではない。よく鍛えられた男の肉を切った音だ。
「ふ―――餓鬼を救おうとする一心で、頭に血が上りすぎたようだな」
「ぐぅ………あ」
白野に首切り包丁が届く前にカカシが割って入った。おかげで白野に凶刃が届くことはなかったが、カカシの胴体に一文字の切り傷が刻まれた。
「か……カシ、先生」
「………大丈夫だ…白野。なんとか致命傷を避けれた」
「すぐに治療をしないと!」
「サクラ、あの男が目の前にいるんだ。応急処置もさせてくれないよ」
平然と話すカカシだが、明らかに弱ってきている。
「クク………次で決着をつけようぜ、カカシ」
また霧のなかへと姿を消した再不斬。
カカシは望むところだと呟き、再不斬を追う為に前へ出る。
「………白野。サクラ。引き続きタズナさんの護衛を」
カカシの命令に素直に頷く彼女らだが、最初より少しばかり自信がなさそうだった。
「自信を持て。お前達は、よくやってくれてるよ。もしタズナさんを守る忍がいてくれなかったら、俺はこれほど自由に戦えていない」
白野も、サクラも、決して無力ではないとカカシは言う。
「なにより白野。お前はさっき再不斬の凶刃からタズナさんを守った。それは事実であり、この上なく素晴らしい成果だ。後からシロウ君に胸を張って報告してあげなさい」
「………はい!」
元気な返事を聞いて少し笑顔になったカカシはすぐに気を引き締め直し、再不斬が待つ霧の奥へと踏み入った。
◆
計364枚の起爆札を惜し気もなく使った岸波シロウの対集団用トラップ。本来の威力ならば爆風の影響によってこの未完成の橋に致命的なダメージを与えてしまうので、今回はそれなりに威力を軽減した仕様となっている。だが言わずもがな、普通の起爆札一枚で人を殺せる殺傷力を持つ。いくら橋を配慮して威力を抑えたといっても、364枚の起爆札の威力は生半可なものではない。人がモロに喰らえば
「まさに木端微塵ってとこよね………これ」
死体を確認するために海へと降りたメルトリリスは口元を引き攣らせる。海に漂う大量の血。小指から耳まで人の部位が細々と散らばっている。
「爆殺は成功したようだな」
この惨状を作り出した少年も海の海面に着地し、疑いようのない手応えに満足………していなかった。彼は未だに警戒を解かず、解せないという顔をして周囲を見渡している。
「…………この程度で二つ名を有する忍が殺れるものだろうか」
「なに言ってるのよ。疑うもなにも、この死体の残骸を見れば分かるでしょう」
メルトリリスは呆れながらに言う。
確かに、この死体の残骸は本物だ。千切れた耳も、バラバラになった指も、内臓も全てハサンのもの。生死の疑問など持つべくもない。
「…………メルトリリス。警戒を弱めるな。むしろ強めろ。奴の脅威は去ってなどいない」
「は? 言峰までどうしたの?」
「もう忘れたのか? 奴は元ザバーニーヤ所属の忍。異形の禁術に手を染めし異端の人ならざる者だ。人の持つ常識など当てはまらない」
「だからって粉々になった奴がどうやって私達に危害を加えようっていうの。そのザバーニーヤがどれだけ奇怪な連中かは知らないけど、生物なら死んだらそこで………」
メルトリリスは呆れたように言葉を紡ごうとしたその時、
「終わり、ではないのだよお嬢さん」
ナニモノかがそれを遮った。
「………うそでしょ」
メルトリリスの言葉を遮ったのは、爆殺されたはずのハサン・サッバーハだった。彼はまったくの無傷で三人の前に姿を現した。まるで当然という風に。
「………本当に奇怪な奴だな。ここに散らばっている肉片は本物だというのに、貴様は無傷で俺達の前に姿を現した。いったいどんな禁術を使ったのやら、皆目検討もつかんな」
予想していたとはいえ、やはり手応えを感じていたシロウが一番驚いていた。
「少年。君は良い忍となるだろう。まさか、不意を突かれたとはいえ一回殺されようとは思わなんだ」
「死んだ、というのは間違いないようだな。ならば命のストックでもあるのか?」
「己の禁術のタネを自ら答えては忍失格だろうよ。だが儂もなかなかお喋りなニンゲンなのでね。興が乗っている時は歯止めが効かん」
心なしか活き活きとしている仮面の男。彼は近くにあった肉片を拾い上げ、自分達に見せ付ける。
「儂の使った禁術は人格分裂の術。己の内にある数多の人格の内一人をこの世に呼び寄せ、本来儂が負うべきダメージを全てその人格に肩代わりさせた。そしてこの肉片は正真正銘儂の血肉。身体を分裂させたものなのだから当然よ」
影分身でも、水分身でもない、分裂の術。この術を扱う忍は岩隠れにも存在したが、今の時代ではもうハサンしか扱う者はいなくなった。
「儂のなかにある人格分だけ変わり身は用意できる。そして、時間が経てば失った人格もじきに復活する。故にそう簡単には殺されはしない」
「………厄介だな。だが肉体を分裂させるなど、術者に何らかのデメリットが生じるはずだ」
「少年は鋭い………お主の指摘通り、無論デメリットはあるぞ。それは分裂すればするだけ本体の身体能力も落ちていくというもの。時間が経てば回復するが、それなりの日数を必要とする……まぁ、そのようなものは些細な問題でしかないがな」
「………なに?」
「身体能力が落ちるのならば、直接的な戦闘を避ければいいだけのこと。お主達の相手は、別の人格とこの子達が引き受けようぞ」
ハサンが懐から取り出したモノは五つの巻物だった。
「儂以外の人格はなにぶん芸が達者な輩ばかりでの。格闘が得意な者もいれば、射撃を得意とする者もいる。そしてそのなかで最も使える人格が、傀儡の使いに長けている者だ」
取り出した巻物を天高く放り投げ、ハサンは素早く印を結ぶ。
ボボボボボン、と連続して巻物から飛び出してきたのは五体の傀儡。シロウの目はソレらがかなり完成度の高い、それこそ一級品の代物だと瞬時に判断した。
「傀儡:五騎演舞。儂の………否、
・白の主人公度が上がっていく、上がっていきますよー。