Fate/kaleid liner プリズマ☆ぐだ子 作:普通の燃えないゴミ
本当は水曜日ぐらいには投稿するつもりだったんだ…!
どうしても書きたいことが多くて分割しようかとも思いましたが、切りどころがわからず、悩んでたらこの文字数ですよ
違う奴はこの倍あるんですけどね
ああ、そうです報告があります
FGOでイリヤが再臨3段階になりました。種火が足りません
あと他作品ネタがたまに出てきますが、わからなかったら無視して下さい。わかる人は、何言ってんだこいつ、って感じで笑って下さい
まぁそんなわけで、第3話、どうぞ
“正義の味方”になりたかった。
男は言った。
だったら。
少年は言った。オレが代わりに、その理想を叶えてやるよ、と。
そして男は、安心した、と永い永い眠りについた。
月が辺りを照らす、明るい夜だった。
― ― ― ― ―
(夢、か…。あれは…切嗣…だよな…)
士郎の知っている切嗣は、あんなに窶れてはいなかったし、和服でもなかった。でも年よりも疲れて見えるあの顔は、間違いなく切嗣だった。今の切嗣よりもずっと疲れてそうだったが。
士郎が瞑想の為に閉じていた目を開く。映るのは、床に寝転び、項垂れる立香。
「もーさー、何て言うか、もっとこう、実は秘めたる才能があって、ドデカイ雷とか大爆発とかをポンポン出せるようなのを思い描いてたんだけどなぁ…。しろーもそーだよねー?」
士郎と立香が衛宮となってから5年。士郎は12歳、立香は9歳、イリヤは6歳になっていた。
この5年間で士郎が使えるようになった魔術は、基礎の魔術である解析と強化、そして生成物が時間で魔力に還らない異端な投影の3つ。対して立香は、身体強化と地・水・火・風の4属性の攻撃用魔術と治癒。といっても、大した強化は見込めず、威力はそよ風程度で、治癒も今は気持ち傷の治りが早くなる程度。正直効果があるのかどうかイマイチわからない。はっきり言うとカスだった。
一応、士郎の魔術回路が27本なのに対し、立香は40本と、素養自体は立香の方が高いとされるが、現状そこまで違いがない。
「はは…。まぁそういうのを期待してたけど…。こればっかりは仕方ないさ。諦めて地道に努力しないと」
一応シロウの投影品は5年間で少し質が上がったが、5年前に立香を守る為に使った赤い華はやり方すら思い出せず、お気に入りの夫婦剣『干将・莫耶』はまだガワだけを何とか作れる程度。最近研いでない包丁程度の、凶器として使えるギリギリの切れ味はある。が、一昨日、試しに庭に自生した小さな木の枝を切ろうとしたら、パリンと硝子のように壊れてなくなった。まだ強度が足りなかったのだ。5年間の鍛錬の成果がただの木に負けるのだから、士郎もとても落ち込んだ。翌日の宿題を忘れてしまうぐらいには。今まで宿題を忘れていた事が無かった士郎が凄く心配されたのは言うまでもない。
「ぐぬぅ…仕方なし。筋トレする」
立香が徐に腕立て伏せを始める。治癒は勿論、4属性の魔術はろくな攻撃にはならない。だったらと辿り着いた立香の答え。それは―――
―――――
曰く、「相手が魔術師だからって、こっちも魔術で攻撃しなきゃいけない決まりは無い。魔術が攻撃のアテに出来ないなら、物理で殴ればいいじゃない」。立香が去年、格ゲー中に思い付いた戦法だ。身体強化を自分にかけて、相手を殴る。シンプルイズベスト。至って単純、ステゴロ作戦。
とは言えまだ年齢一桁の幼女。やり過ぎで成長を止めないように、あまり筋トレ出来ず、そもそもの筋肉量が少ないのであまり効果が無いが、それでも全身の筋肉を使える状態にはしておく。もう少し成長したら、筋トレも本気を出す。
「疲れたもう無理」
回数にして9回。震えながら頑張っていたが、べしゃっ、という音を立てて床に倒れ伏して動かなくなった。
「いや、もう少し頑張れよ。去年から何も変わってないぞ」
「うるしゃらっぱい。わたしにゃあ筋肉なんてありゃあせぇへんのやす」
「何処の方言だよ。せめてどっかに絞れよ」
というかもう少し女の子らしい口調で喋らないとセラに怒られるんじゃないか?そう言おうとした時だった。
「やっほ〜。お〜きてる〜?」
部屋のドアが勢いよく開き、リズが突撃してきた。
「あ、おはようリズ」
「ぐーてんもるげーん。朝ごはんのお時間ですよ〜」
「ああ、おはよう。呼びに来てくれるのはいいんだけどさ、ノックぐらいしろよ。びっくりするだろ」
「知らん。そんな事は俺の管轄外だ」
寝転がったまま挨拶する立香とは対照的に、呆れたように申し出る士郎。そしてリズはそれを一蹴する。
「怒るって事は見られて困る事してたの?」
「しねぇよ」
「まぁ魔術の鍛錬だからイリヤだと困るけど」
「あ、確かに」
「なるほど~。…大丈夫だよシロウ。シロウも思春期男子。安心するがよし。私、そういうのには理解ある方。セラ達には絶対言わないよ」
「こいつ何にも話聞いてねぇ!」
楽しそうに笑いながらリズは部屋から出ていってしまった。足音の方向的に、イリヤを起こしに行ったのだろう。士郎と立香も、着替えてから階段を下りてリビングへ向かう。居たのは士郎の部屋だった為、立香は一度自分の部屋に戻る必要があったが。
「おはよー。あれ?おとーさんは?」
士郎と立香が先に下りて朝食を食卓へ運んでいる時、イリヤが下りてくるなり、唯一姿の見えない切嗣を疑問に思って言った。
「おはよう」
「おっはよー」
「ぐーてんもるげーん」
「おはようございます」
「おはよう、イリヤ。それがねぇ、切嗣ったら、最近、もうすぐ帰れるからって、張り切っちゃってて。ちょっと体調崩しちゃったみたいなの」
「後で食べやすいものを持って行きますから、イリヤさんは顔を洗って来て朝ご飯を食べてしまってください」
「そーなんだ。うん。わかったー」
大丈夫そうなのだとわかり、トテトテ、とイリヤが顔を洗いに行き、再び全員が揃ってから朝食を摂る。
朝食を食べ終わり、片付けも済んだ頃だった。
「おにーちゃーん」
ぽすん。イリヤが士郎に抱き着いて、可愛らしい笑顔を浮かべる。
「いっしょにあそぼ!」
それを受けて士郎は困ったような顔になる。
「ごめんな、イリヤ。俺学校に行かなくちゃ」
「えー…」
「ごめんな。帰ってきたら一緒に遊んであげるから」
本当に申し訳なさそうに謝る士郎。
「やだ。いっしょがいい!」
「イリヤ…」
ぶんぶんと首を横に振って駄々をこねる。まだ6歳の、甘え盛りの女の子なので仕方ない事ではあるが、士郎が学校に行かなくてはならないのも仕方のない事である。
士郎はアイリに視線を投げて助けを求める。
「それじゃあ、一緒に行きましょっか」
アイリは今日も笑顔だった。とても楽しそうな。
その一言を聞くと、イリヤも、花が咲いたような明るい表情になる。
「いいのっ?」
「ええ、いいわよー。子供たちと一緒に登校するの、夢だったのよねー」
「なんでさ…」
心底嬉しそうに、子供っぽく言うアイリ。アイリと切嗣は、普段は海外で仕事をしている(事になっている)為、家には居ない。だから家事と子育ては全てメイドであるセラに任せれていて、たまに帰ってくると子供たちとの触れ合いをこれでもかと求めるのだ。
士郎としては、アイリがイリヤを説得してくれると思ったのだが、そうではなかったので肩を落としている。説得したところで結果は変わらなかったかもしれない事を考えれば、一緒に学校まで来て、イリヤを連れ帰ってもらった方が助かるのはそうだが、いかんせん見た目が見た目なので、凄く目立つ。アイリは流石ドイツ人、抜群のスタイルを誇り、親子揃って銀髪赤目、誰が見ても美人と言う他ない外見で、養子である士郎と立香とは当然、似ても似つかない。
「おにーちゃん、だめ?」
「えっと、駄目って言うか…」
「どったん、しろー」
イリヤに尋ねられて考えあぐねていると、トイレの為に席を外していた立香がリビングへ帰還する。
「今日は私とイリヤも一緒に学校へ行くのよ。ね、イリヤ~」
「うん!いくー!」
「って事になって…どうしよう、って…」
「OKわかったじゃあ行こう」
二つ返事で立香は了承する。椅子に置いてあった赤のランドセルを背負い、士郎達に出発を促す。
「やったー!」
「じゃあ行きましょう。リズ、セラによろしくね〜」
「お〜け〜」
「立香…」
「しろー。人間は数多の諦めによって成長するのですよ。byぐだ子」
「嫌だよそんな成長。っていうか誰だよぐだ子って」
「さぁ?知らんな」
そんなこんなで、ルンルン気分のアイリと、士郎の手を離さないイリヤが加わって登校。士郎達が注目を浴びたのも、イリヤとアイリが一緒に登校していた立香の友達から大人気だったのは、言うまでもない。
帰りにも早く士郎達と触れ合いたいアイリと、一緒に居たいイリヤが迎えに来たりしたが、割愛する。
― ― ― ― ―
「…足音?…誰だろ」
夜。
何となく眠れずにベッドでゴロゴロしていた立香だが、耳ざとく廊下を歩く小さな足音を聞きつける。気になったので、跡をつけてみる事にした。
「切嗣」
階段を下りる軽い足音に続いて、声がする。
「士郎。まだ起きていたのか。明日も学校なんだろう?寝なくていいのか?」
士郎と切嗣だった。足音は一人分で、軽かったので士郎のものだったのだろう。切嗣は、きっと元からリビングに居たのだと思った。
「切嗣…死ぬのか…?」
「えっ」
「ッ!?立香!?」
こっそりと尾行ごっこをしようとしていたのだが、士郎が突拍子も無い事を言うので、思わず声を出してしまい、気付かれてしまった。
だがそんな事はどうでもいいとばかりに階段を駆け下りて、士郎の肩を掴む。通常ならば見上げる身長差だが、段上に立っているおかげで、いつもより身長差は縮まっていた。
「しろー!今の本当?お父さん、死んじゃうの!?」
「えっと、それは…」
士郎は困惑していた。立香が着いてきている等と思っていなかったのだから当然だ。
「立香、士郎」
切嗣が穏やかな声で2人を呼ぶ。
「あまり大きな声を出すんじゃない。皆が起きてしまうだろう?とりあえず、こっちにおいで。座ってゆっくり話そう」
立香は士郎の肩から手を離し、2人で階段を下りると、リビングの切嗣が座っている席の向かいの椅子に座る。
「さて、士郎。どうして僕が死ぬなんて思ったのか、言ってくれるかな?」
「…」
士郎は俯いて口を閉ざしていた。
「しろー?」
「…夢で、見たんだ」
心配になって立香が顔を覗き込もうとすると、ぽつり、と言葉を漏らした。
「夢、かい?」
「…ああ。だから…心配になって」
違う。士郎は切嗣を心配しているのではない。正確に言えば、心配なだけではない。士郎は、切嗣を失うのが怖いのだ。
同じく両親を失い、共に引き取られた立香は、頭ではなく、心で理解していた。士郎も自分と同じで、この生活が壊れるのが恐ろしいのだと。
魔術の世界に身を置く切嗣とアイリは、ともすれば海外での仕事(聖杯戦争や、イリヤに辿り着く可能性のある情報の抹消)中に、命を落とすかもしれない。今は家に居るが、一週間後には発つと言っていた。立香と士郎も魔術使いとはいえ、魔術世界の人間だ。まだ実感は無いものの、危険である事は重々承知だ。だから、余計に怖くなる。
「そうか…。でも、安心していい。僕は死なない。そりゃ、人間だからいつか寿命は来るけど…。それは今じゃない」
切嗣はきっと、いや、確実に士郎の本当の気持ちをわかっている。勿論立香が同じく気持ちなのもだ。それでも切嗣は、ただまっすぐと向き合い、優しい声で、士郎の言葉を否定する。
「ほんと?」
「ああ、本当さ。今回のだって、軽い風邪みたいなものだよ。溜まってた疲れが、家に帰って安心したから一気に出ただけで、魔術とは直接の繋がりは無い。今だってただ、日中よく寝たから目が冴えてしまって、アイリを付き合わせるのも悪いから、一人でテレビを見ていただけさ」
「そっか…よかった…」
切嗣は死なない。居なくならない。もう顔も、名前も、声も、手の温もりも、腕に抱かれる安心も、かつての自分の苗字も、両親を失い、何も思い出せない悲しみさえ思い出せなくなっている立香達だが、それでも、親を失うのはもう二度と経験したくない。それは立香達2人の、心からの願いだ。
「それで、士郎。ただの夢でわざわざ夜中に聞きに来るような小さな子じゃあないだろう。どんな夢だったんだい?」
余程怖い夢だったんだろう。立香も、切嗣も、そう思っていた。
「…
「…?どういうこと?しろー、お父さん死んでないよ?昔のこと、思い出したの?」
立香が尋ねる。切嗣は、じっと士郎を見つめ、その答えを待っている。
「いや、衛宮になる前の記憶じゃない。俺じゃない、別の衛宮士郎の、記憶だ」
「別の…?しろーは1人しか居ないよ?」
何が言いたいのだろう。立香からしてみれば、士郎が訳の分からない事を喋っているようにしか聞こえない。
「…立香。これからの俺の話は、多分今のお前にはわからない。それでも聞くか?」
「うん。気になる」
即答。そんなもの、気になるに決まっている。途中まで聞いて、はいそうですか、と引き下がるような性格ではないのは、士郎もわかっていた。
「わかった。…切嗣。5年前の災害の時、俺が魔術を使えるようになったって話はしたよな」
「ああ。そういえば、理由を聞くのを忘れていたね。…別の士郎、っていうのと、関係があるのかい?」
「あるよ。長くなるけど…いきなり言ってもわからないし、順を追って説明する。あの時俺は―――世界と、契約を交わした」
「世界と…?士郎、それはまさか」
「そうだ」
そこで士郎は言葉を一度切る。
「俺は、今までの俺の全てと、死後の俺自身を世界に売り渡し、死後に霊長の守護者となる事を契約し、力を得た。あの災害の時の今までを売ったから、俺も立香も、あの災害以前の事を、何一つ思い出せないんだ。衛宮になる前の士郎は、死んだ。居るのは、生まれ変わって、守護者になる衛宮士郎だけなんだ」
死んだ。士郎は、死んだ。
立香には信じられなかった。だって、士郎は生きている。今ここに、自分の隣に座っている。
士郎を見ると、左のもみあげ付近の前髪の、少しだけ白くなっている部分がとても大きく見えた。
「なら、士郎の力は、抑止力によるものかい?」
「そうだけど、違う。俺の力は、ある英霊の力だ。俺は、俺が守護者として招かれる座の英霊の、可能性の1つになる代わりに、力を譲り受けた」
「待つんだ士郎。英霊の座は、1人の英霊につき1つだ。別の側面が多くある事はあっても、2つ以上の魂が同じ座に招かれるなんて事は…っ」
そこで気付いたのだろう。切嗣は口を閉ざした。
「その座の英霊が、別の士郎なんだね?」
「そうだ。英霊エミヤは一人じゃなくて、守護者となる契約を交わした衛宮士郎が辿り得る可能性の全てだ。英霊には別の側面があるってさっき切嗣が言っただろ?そんな感じさ。まぁ別人のような側面なんかじゃない、本当に別のエミヤシロウの生涯が記録されていたりするけど」
どれだけオレの両親は死ぬんだろうな。士郎はそんな風に呆れたように小さく乾いた笑いをこぼした。
「ともかく俺は、将来その1つのになる事を契約し、そんなどこか別の世界で守護者となったエミヤシロウの力の一端、その使い方を先取りした。だからあの日以来、エミヤシロウの記憶を夢に見る事があるんだ」
別の世界。別の士郎。守護者。英霊。抑止力。難しい単語が沢山出てきて、立香の頭はパンク寸前だった。
「じゃあ、別のしろーのところのお父さんは、死んじゃったの?」
そもそも切嗣が死ぬ夢を見たという話から入った事を思い出した立香が尋ねると、士郎の表情が沈んだ。
「…ああ。死んだ。オレが拾われてから5年。丁度今ぐらいの時期だった」
「うそ…」
今ここにいる切嗣ではない。別の世界の別のキリツグだとわかってはいるが、それでも、そのシロウは、2度も親を失った。
「そんな顔するなよ、立香。確かに悲しかったけど、でもオレはそんなのには負けなかった。キリツグの遺志を継ぐ事を決めたんだ」
「遺志?」
「ごめん立香、少し待ってくれるかな。士郎、聞かせてくれ。英霊エミヤという事は、そのシロウは…」
「全部キリツグに拾われたオレさ。どのエミヤシロウも、家族を失い、キリツグに救われて衛宮士郎になった。衛宮じゃない士郎は、守護者になる契約を世界とは結ばない。いや、結べないんだ。魔術使いじゃないから、そんな発想にも至らないし、何より、キリツグの理想を継いでいない」
一番大事なのは切嗣の理想を継いだ事。士郎は言外にそう語る。
「…いや、それなら士郎が結んだ契約はおかしいんじゃないか?今士郎も言っただろう、英霊エミヤだと。世界と契約した頃の士郎は、まだ衛宮じゃなかった筈だ」
士郎は今自分で、魔術の事を知らないなら不可能だと言った。矛盾しているのだ。今までの話と。立香には、言葉に出来なかったが、おかしいのはわかった。
「ああ、だから俺はエミヤシロウの中でも特に異端なんだ。でもそれは簡単な話だよ。あそこで生き延びて、切嗣に拾われれば、俺は衛宮になれる。いや、切嗣に救われるって、そういう運命が決まってたのかもしれない。だから、俺は世界と契約出来た。…ありがとう切嗣。あの場に切嗣が居てくれたから、俺達は今生きている」
世界との契約がどうの、英霊エミヤとか、運命だとか、立香の頭は限界を迎え、情報がごっそりと抜け落ちた。残ったのは、「切嗣が助けられるから士郎が凄い力を使えるようになった」ぐらいの認識。
あと、語る士郎の横顔と、感謝されている切嗣の暗い顔。
「…前置きが長くなったけど、これからが夢の話。キリツグはオレに自分の理想を―――いや、かつて思い描いていた、
―――僕はね、正義の味方に、なりたかったんだ。
噛み締めるように、士郎は切嗣が語ったらしい言葉を紡ぐ。
「っ!」
「ヒーローは子供の頃の、期間限定だって。だからオレは、オレが代わりになってやる、キリツグの理想は、オレがちゃんと叶えてやるからって、そう言った。そしたらキリツグは…安心した、って、そう言い残して…それ以降、目を覚ます事はなかった。その後、オレは生涯を賭して、死後の自分すら投げ売って、理想を叶える為に走り続けた。その最中で世界と契約して、死後は守護者、英霊エミヤとなったんだ」
士郎が息を吐く。語り終えた士郎の横顔は、切なく見えた。
「士郎…」
「だから、そんな顔しないでくれよ。確かに俺はオレの記憶を見た。けど、オレは俺じゃない。けど、もう1度言うよ、切嗣。キリツグのおかげでオレは救われた。オレが理想を継げたから、俺が英霊の力で立香を守れた。そして今、イリヤを守る為にも、戦える。だから、ありがとう」
士郎は頭を下げた。シロウも、シロウを救ったキリツグも、この世界の人間じゃない。それでも士郎は切嗣に頭を下げた。
きっと今言った事が全てではない。士郎が見たシロウの記憶は、もっと沢山あるだろう。5年間もあったのだ。どのぐらいのペースで、どのぐらいの量かはわからないが、それなりに多くの記憶を見た筈だ。
「いいや、士郎。僕に感謝されるような資格はない。僕は…あの災害の元凶なんだ…!」
「…へ?」
ボクタチガ…ゲンキョウ…?立香は意味がわからなかった。それもその筈、あんな大災害、それこそ魔法でも使わない限りは、起こせない。そう、魔法でも。
「知ってるよ。でも、こんな言い方は良くないかもしれないけど…仕方なかったんだよ、切嗣。あの災害は、第四次聖杯戦争は、誰にも止められなかった」
「…士郎。シロウの世界でも、アレは起こったんだね」
「ああ。だからオレはキリツグに拾われた。オレが経験した災害はもっと凄かったけど…でもキリツグは間違ってない。失敗はしたかもしれないけど、理想の為に頑張ったんだ。間違いの筈がない」
「…そうか」
否定されている訳じゃないのに、切嗣は嬉しくなさそうだった。
「だからなんでそんな顔するんだよ。切嗣は凄いって。もう聖杯戦争は起こらないんだろ?」
「…ああ。大聖杯は破壊した。小聖杯だけでは、聖杯戦争は起こらない」
「だったらもう、苦しまなくていいんだよ。確かに沢山の人が死んじゃったけど…さっきも言った通り俺と立香は切嗣のおかげで生きてるんだからさ」
「ああ…ありがとう…」
まただ。救われたのはこっちで、救ったのは切嗣達なのに、その切嗣が、救われたような顔をしている。
その姿が、どうしようもなく切なくて。
しかし、そんな事よりも。
「聖杯戦争って、何?」
立香は尋ねる。すると切嗣と士郎は、ああ、そうだよな、というような顔をして、立香に向き直る。
「7人の魔術師が、7騎のサーヴァントを用いて、どんな願いでも叶えるとされる聖杯を奪い合う、殺し合いの儀式だよ。厳密には、サーヴァント同士を戦わせ合うだけでいいんだけど、サーヴァントは魔術師よりも格段に強いから、どうしても魔術師を殺す方が楽で、殺し合いになってしまうんだ」
殺し合い。なら切嗣は、誰かを殺したのだろうか?無性に怖くなった。しかし、ここで引けない。
「サーヴァントって?」
「英霊の魂をクラスに当てはめて、魔力で身体を与える事で召喚できる最高位の使い魔だよ」
「クラスは、剣兵のセイバー、弓兵のアーチャー、槍兵のランサー、騎兵のライダー、魔術師のキャスター、暗殺者のアサシン、そして狂戦士のバーサーカーの7つ。英霊にあったクラスが、自動的に選ばれるんだ」
英霊…先程から士郎が言っていた単語だ。死後に英霊の座という場所に招かれるのだったか。話の流れ的に、普通の人間では無理そうだというのは理解出来た。
「士郎、聖杯戦争の事は、どこまで知ってるんだい?」
「?しろーが知ってるのおかしいの?」
「おかしいとまでは言わないけど…少し気になるんだ。もしかしてシロウの世界では、第五次以降の聖杯戦争が起こったのかい?」
「ああ。オレは第五次聖杯戦争の勝利者だった」
「そうだったのか…。それで知っていたんだね」
「ああ、でもオレも儀式の構造とかには興味無かったみたいで、そんなに詳しくなくて…あと知ってるのは、サーヴァントが1騎になるまで続く事と、大聖杯を呼ぶ為に小聖杯が必要な事と、第五次聖杯戦争の結末だけだ。オレも、切嗣と同じように、大聖杯破壊した」
「さっきも思ったけど、なんで壊しちゃうの?願いが叶うなら、使えばいいのに」
アレだろうか。漫画とかでよくある、こんなものがあるから争いが起こるんだ、的な。そんな事を立香は考えていた。
「大聖杯は汚れててさ、願いを歪んだ形で…人を殺す事で、悪意ある形で叶えてしまうんだ」
「?つまり?」
「そうだね、例えば…世界から争いを無くそうとすると、その争いの元である人間を滅ぼしてしまうような代物になってしまっていたんだ。誰も知らない内にね」
なんという事だろう。理不尽な方のよくあるタイプだった。
「じゃあ壊して正解?」
「そうなるね」
「そっか…。次、英霊って?普通の人じゃないのは何となくわかるけど」
「神話や伝説、歴史上の英雄や偉人と考えればいいかな。死んだ後に、英霊の座という場所に魂が招かれて、サーヴァントって形で呼び出せるんだ」
「えっと、偉人って、織田信長とか、そういう?」
「そうだよ。あと、実在するかどうかは関係ないんだ。色んな人が知ってさえいれば、実在しない英霊でも呼び出せるんだ」
有名な方が強いサーヴァントになるけどね、と切嗣は付け加える。
だったら織田信長なんて凄い強いのではないだろうか。実際戦国系のゲームでは超強いし。
「なるほど。しろーは誰を呼んだの?」
「セイバーとしてアーサー王を呼んだ。王様になる為に男装した女の子だったけどな」
「アーサー王が女の子…!」
ちょっとびっくりしたが、よくよく考えれば今時別に珍しい事でもない。ネロ・クラディウスや諸葛孔明、戦艦やニャルラトホテプだって美少女になってるぐらいだ。諸葛孔明は妖艶な美女で、ニャルラトホテプはそもそも見た目なんて変幻自在だが。
「そういえば、しろーも英霊なんだよね?」
「俺はまだただの人間だぞ。英霊になったのは別のエミヤシロウだ」
「あ、そっか。ってそうじゃなくて。エミヤシロウも英霊なら、サーヴァントとして呼び出せるんだよね?どのクラスなの?剣作れるし、セイバー?」
当然といえば当然の疑問。切嗣も気になるのか、士郎の答えを待っている。
「いや、エミヤシロウはアーチャーだった」
「だった?」
何故に過去形?立香は首を傾げる。
「オレがセイバー…アルトリアを呼んだ第五次聖杯戦争のアーチャーが、英霊エミヤだったんだ」
「マジに?」
口調がいつもより変なので、相当驚いているのがよくわかる。切嗣も驚いているようだった。
「ああ。オレは驚かなかったけど…よくそんな低い可能性を引けたよな」
「うん。シロウが聖杯戦争に勝ったって事は、アーサー王が勝ったんだよね?」
それはつまり、英霊エミヤが負けたという事。相手があのアーサー王なら仕方ないかもしれないが、それでも兄が負けるのは残念だった。
「いや、勝ったのは魔術師の方のオレだ。セイバーは手を出さないでくれた」
「英霊に…サーヴァントに勝ったのかい?」
「ああ。エミヤはマスターの居ない状態だったけど…改めて考えると、凄いな、向こうのオレは」
「凄過ぎるよ。ねぇおとーさん」
「ああ…」
未来の自分との対決。立香は、胸が熱くなるのを感じた。
「…うん。事情とかそういうのは、だいたいわかった」
まだ完璧に理解出来た訳では無いけど、今はこれ以上考えてもどうせわからない。
「それじゃあ士郎。一ついいかな」
「なんだ?」
立香の疑問を解消できたなら、今度は自分の番というように、切嗣は口を開いた。士郎は至って真面目に視線を受ける。
「士郎の、今ここに居る士郎の、理想ってなんだい?」
「…それは、切嗣の理想を先に聞かなくちゃいけない」
士郎は首を横に振る。
「切嗣の理想は、“正義の味方”なのか?」
まっすぐに切嗣を見据える。
正義の味方。子供である立香には馴染みの深い言葉だ。日曜日の朝は必ずその姿を目にする。
「いいや、違う。僕はね、“家族の味方”だよ」
切嗣は優しい、しかし強い意志を感じさせる声色で、士郎の問いに否定で返した。
「そうか、よかった。…俺もだよ、切嗣。俺も“家族の味方”として、イリヤを、立香を、皆を守るよ」
士郎は笑う。それは、決意の証。
「わたしも!わたしもみんなを守る!“家族の味方”、する!」
思わず立ち上がって、そう宣言する。士郎が自分達を守るなら、自分が士郎達を守る。5年前、魔術師になる事を望んだ時と同じように、意志を固める。
「ありがとう、立香、士郎。これからも、イリヤを頼むよ」
切嗣は立ち上がり、立香と士郎の頭を撫でると、優しく微笑んで、小さな体2つを抱き締める。
「ああ」
「うん!」
2人は、とびきりの笑顔で応えた。
長ったらしく書いてすまない…
士郎はエミヤと同じように世界と契約しました
美遊兄の方が近いかもしれませんが、細かいことは考えてはいけない
だってこれ二次創作だし!
上手く描写出来てませんが、士郎が見てる夢は、UBWルートの衛宮士郎の記憶です。この小説では、彼にはあの後、凛と決別すること無く英霊になってもらいました
2話目で無限の剣製の詠唱があったのはその為です。意味不明な演出をしてすまない…
原作設定を無視する気はあんまりないんですが、ご都合主義は入っちゃいます
だから先に謝るぜ。すまない…
では、誤字脱字、感想質問等など、FGOとかスプラトゥーンしながら待ってます